東方剣舞   作:kuroto xanadu

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OP4 学戦都市アスタリスク2期 The Asterisk War



師匠

 8月5日 午後9時。

黒刀はホテルの部屋で1人チェスをしている。

同じ時間にレミリアもホテルの薄暗い部屋で1人チェスをしていた。

驚く事に2人共、相手側の動かす駒が全く同じだった。

まるで2人が1つの場所でチェスをしているかのように。

そして…

 

 

 

「チェックメイト。」

 

レミリアが宣言する。

 

「やはり…今のままじゃ勝てないか。」

 

黒刀は空間ウインドウを操作して、ある試合の記録映像を見る。

 

「十六夜咲夜。ここまでの全試合を1秒で勝利している。

この人を抑えれば0%の勝率を1%に上げることが出来る。」

 

黒刀は咲夜のたった1秒の記録映像をループ再生して、ところどころで一時停止したり、コンマ送りにしたりしていた。

その時の黒刀は集中力は凄まじいもので、試合の記録映像を瞬きせずに見ていた。

 

 

 

 8月6日 午前10時 羽田空港。

空港前で停まっているタクシーに1人の女性が乗車してきた。

 

「すみません。このホテルまで行ってもらえないでしょうか?」

 

女性が地図が書かれたメモを運転手に見える。

 

「(今時メモ書き…アナログな人だな。)」

 

運転手がアクセルを踏む。

 

「海外から来たんですか?」

 

「ええ、元々は日本人なのですけど長いこと海外で暮らしていたもので。でもこの国に2人の弟子がいるので久しぶりに会ってみようかと。」

 

「へえ、どんなお弟子さんで?」

 

「この子達です。」

 

女性が写真を出す。

運転手がバックミラー越しに写真を見る。

 

「へえ、可愛らしいお弟子さん達ですね。(あれ?この子達どこかで見たような。)」

 

「元気にしているかな…黒ちゃんと姫ちゃん。」

 

女性はそうつぶやいて窓の外の景色を眺めた。

 

 

 

 神光学園代表宿泊ホテル 正午。

黒刀は部屋のキッチンを使ってサンドイッチを作ると妖夢達を呼んで昼食を食べる。

 

「決勝は午後6時から始まる。それまで自由時間として…。」

 

黒刀が話し始めたその時、部屋にノックがかかる。

 

「俺が出るよ。」

 

黒刀はドアを開けるがドアの外には誰もいなかった。

 

「悪戯はその辺にして下さい…師匠。」

 

「おや、よく気がついたね。」

 

その人物はいつの間にか黒刀の背後に立っていた。

 

「え、いつの間に。」

 

妖夢が立ち上がって驚く。

 

「『抜き足』を使ったんですね。」

 

映姫が冷静に口にする。

 

「まあね。」

 

「先輩、その方は?」

 

「ああ、俺と姫姉の師匠…豊聡耳神子さんだ。」

 

豊聡耳神子。

獣耳のような2つに尖った薄い茶色の髪に和の文字が入った耳当てをしている。

薄紫色のノースリーブ、紫色のスカート、腰には太陽を象った剣を携えている。

 

「師匠ってことは黒刀先輩と会長に剣術を教えたのって…」

 

大妖精が神子から黒刀に視線を移す。

 

「ああ、この人だ。」

 

黒刀が答える。

 

「よろしく。」

 

「ちょうど昼食を食べていたので一緒に食べましょう。」

 

「ああ、腹ペコだ。」

 

神子はホテルの床に正座してサンドイッチを頬張っていた。

 

「いつ、日本に?」

 

黒刀が神子に問う。

 

「今日だよ。」

 

「先に連絡しれくれればもっとマシな料理作れたんですけどね。」

 

「サプライズと思ったのだけれどそんなに驚いたように見えないね。」

 

「それはまあ、師匠のことですから。」

 

「あの…先輩の師匠は海外におられたのですか?」

 

妖夢が黒刀と神子の会話に介入する。

 

「神子で構わないよ。え~と…」

 

「魂魄妖夢です!神子さん!」

 

「呼び捨てでも構わないのだがまあいいだろう。私は世界中を旅していてね。つまりは…」

 

「「暇人です。」」

 

黒刀と映姫が同時に言った。

 

「ひどいな~。しかも息ピッタリだし。」

 

「だってあてもなくフラフラしているんでしょ?」

 

黒刀が神子にジト目を向ける。

 

「まあ、そうだね。」

 

神子がバツの悪い顔をする。

 

「暇人じゃないですか。」

 

映姫がバッサリと言葉で斬る。

 

「はあ、もうそれでいい。全く2人とも昔はもう少し可愛げがあったのだけれどね。」

 

「先輩の子供時代!どんな子だったんですか?」

 

妖夢が目をキラキラさせて身を乗り出して神子に訊く。

 

「そうだね…私が黒ちゃんと姫ちゃんに会ったのはこの子達がまだ7歳の頃だったかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10年前 スウェーデン。

当時、四季家はスウェーデンのとある丘の上にある花畑に囲まれた自然豊かなごく普通の一軒家で暮らしていた。

黒刀と映姫は森の中へ山菜を採りに行くためカゴを背負って森の中に入って行った。

だがこの日、2人の運命を大きく変える出来事が起きる。

 

黒刀(当時7歳)が山菜を採ってカゴの中に放り込む。

 

「?…姫姉、今何か音しなかった?」

 

「何も聞こえないけど。」

 

映姫(当時8歳)はそう返す。

 

「曇ってきたし帰ろう。」

 

「そうですね。山菜もこれだけ採れれば十分ですしね。」

 

その時、茂みの方からガサガサと音がした。

 

「何?」

 

映姫がそちらに向くと、茂みから勢いよく現れたのは大きな熊だった。

 

「グオオォォォォォォォォ!」

 

熊は猛々しく吠えた。

実は数日前に街の動物園の熊が脱走していたのだ。

黒刀達はその熊に不幸にも遭遇してしまった。

当時の2人は戦う術を知らなかった。

 

「ウゥゥッ…。」

 

熊は唸り声を上げながら映姫に近づいていく。

 

「姫姉!」

 

黒刀は叫び、両手を広げて熊の前に立ち塞がる。

 

「ガァァッ!」

 

熊は左前足の甲で黒刀を薙ぎ払って吹っ飛ばす。

吹っ飛ばされた黒刀は木の幹に後頭部を直撃しうつ伏せに倒れる。

 

「黒刀!」

 

熊は今にも襲いかかろうと映姫に近づいていく。

 

「やめろ…その人は大事な人なんだ。」

 

黒刀は倒れながらも左手を伸ばす。

映姫は恐怖しながらも黒刀の元へ走ろうとした時、熊が飛び掛かってきた。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

黒刀が喉の奥から叫んだその時。

熊の頭上から誰かが現れ、剣を振り下ろし熊の右目を斬った。

 

「グオオオオ!」

 

熊は悲鳴を上げて走り去って行った。

 

「ふう…君達、大丈夫…ではないようだね。とにかくそっちの男の子は。」

 

黒刀は先程、後頭部を直撃したせいで頭から血を流していた。

黒刀は薄れゆく意識の中で必死にその人物の顔を見ようとしたが気を失う寸前で見えたのは顔ではなく…剣だった。

 

「俺が…守るんだ…。」

 

「早く手当てしないと。」

 

「それならうちに。お母様は治癒魔法を使えます。」

 

「分かった。」

 

その人物は黒刀を抱き上げて黒刀の家に向かう。

 

 

 

 桜が夕食の下準備をしていると玄関のドアが勢いよく開く。

 

「お母様!黒刀が…。」

 

「どうしたの映姫…黒刀!その傷は…。」

 

「早く手当てを!」

 

「分かったわ。部屋へ運びましょう。あなたがここまで運んでくれたのですね?」

 

「はい。それよりこの子。部屋はどこですか?私が運びます。」

 

「こっちです。」

 

桜が部屋に案内する。

それから長い治療が続いた。

 

 

 

 3日後。

黒刀は自室でゆっくり目を覚ました。

 

「俺は…。」

 

周囲を見渡していると傍で映姫が眠りながら黒刀の手を握っていた。

 

「姫姉…そうか…俺はたしか熊にやられて…それから…」

 

黒刀は今の自分の状態を見ると頭と肩に包帯が巻かれていた。

 

「そうだ…さっきの人に会わないと…。」

 

黒刀は自分の手を握っている映姫の手をそっと離してベッドから立ち上がるとリビングの方から話し声が聞こえた。

その中には知らない人の声もあった。

黒刀はドアを開けてリビングに顔を出す。

そこにいたのは桜、大和と1人の女剣士だった。

 

「黒刀!やっと目を覚ました…。」

 

桜が黒刀に抱きつく。

 

「母さん…ちょっと痛い。」

 

「あ、ごめんね…でもまだ動いちゃダメよ。3日も目を覚まさなかったんだから。」

 

「黒刀、すまなかった。お前が大変な時に傍にいてやれなくて。」

 

大和が黒刀に近寄り謝罪する。

 

「…父さんは何も悪くないよ。それよりそっちの人は?」

 

「あなたを助けてくれた恩人よ。」

 

桜が優しい口調で言った。

女剣士は黒刀に近寄って膝を曲げて黒刀の視線を高さに合わせる。

 

「初めまして。私の名は豊聡耳神子。君が四季黒刀君だね?」

 

「はい…あのお願いがあります…俺を鍛えて下さい!強くなりたいんです!」

 

「………君は何の為に強くなりたい?」

 

神子は少し考えた後、そう問いかけた。

 

「守りたいものを守るため。」

 

黒刀は真剣な眼差しで神子の目を見る。

 

「どうして私に?」

 

「あなたのように強くなりたいから。」

 

「…私はそんな立派な人間じゃないよ。あと私に言う前に話すべき人がいるんじゃないかな?」

 

「話すべき人…。」

 

その時、黒刀は背後から映姫に抱きつかれた。

 

「黒刀!やっと目を覚ました!ほんと心配したんだからね!」

 

映姫は涙を流していた。

 

「姫姉…ごめん。心配かけて…。」

 

「ううん…いいの。黒刀が無事ならそれでいい…。」

 

映姫は指で涙を拭う。

 

「………神子さん、さっきの話…。」

 

「うん。そうだね…桜さん、大和さん。もし良かったら私をここに泊めてもらえないだろうか。宿探しに困っていてね。」

 

「ええ。それは構いませんが…まさかこの子に闘い方を?」

 

「自分や誰かを守るだけの力を与えてあげたいですから。」

 

「なら…私も強くなりたい!」

 

映姫がそう言い放った。

 

「姫姉…。」

 

そうつぶやく黒刀を映姫は見つめる。

 

「黒刀が私を守るなら私は黒刀を守る。2人なら無敵だよ!」

 

そんな映姫を黒刀は見つめ返す。

 

「うん…そうだね。」

 

黒刀は優しい目でそう応えた。

そんな2人を神子は微笑ましそうに見ていた。

 

「強い絆を持った姉弟ですね。」

 

「ええ、いつ見ても微笑ましいです。」

 

神子の言葉に桜が同意する。

神子は黒刀と映姫に近づく。

 

「分かった。君も一緒に鍛えてあげよう。」

 

「よろしくお願いします!」

 

「ただし、始めるのは黒刀君の怪我が完治してからだ。いいね?」

 

「「はい!」」

 

「よい返事です。」

 

「もう遅いから寝なさい。」

 

「「うん。」」

 

桜の言葉に2人は素直に従って部屋に戻っていく。

2人が部屋に戻ったことを確認した神子。

 

「大和さん、桜さん。あなたたちは世界的に実力のある御方だと聞いています。

その気になれば彼らに技術を教えることもできたのでは?」

 

神子の問いに大和が答える。

 

「私達からあの子達に技術を教えることは出来ない。

何故なら技術を教えればいずれはこちら側の世界に引き込むことになります。

私は進んで我が子を戦地に送りたくはない。

しかし、あの子達が自分の意思で力を欲した場合は教えるつもりでした。

だが今日までそんなことは言ってきませんでした。

その結果、黒刀があんな怪我を負ってしまったことは本当に後悔しています。」

 

「そうですね。神子さん。改めてお願いします。あの子達に守る力を教えてあげてください。」

 

桜が神子に頭を下げる。

 

「…頭を上げて下さい。桜さん。」

 

神子にそう言われて桜が頭を上げる。

 

「承りました。」

 

神子はそう口にした。

 

「「ありがとうございます。」」

 

「あの子達は幸せですね。こんなに優しい親に育てられて。」

 

 

 

 数日後。

黒刀の怪我が完治して修行が開始される。

 

「まずこれからは君達を黒ちゃんと姫ちゃんと呼ぼうと思う。」

 

「なんか女の子みたいでやだ。」

 

「ただの愛称だ。そこまで気にすることはない。それに君はどっちかっていうと女顔だ。」

 

「女の子の服とか着せたら似合いそう。」

 

映姫が笑顔で言った。

 

「やだよ。そんなの。」

 

黒刀が嫌そうな顔をする。

 

「じゃあ黒ちゃんと呼ばせてくれなければ修行はなし。どうかな?」

 

「…分かった。修行やる。」

 

「よろしい。ではこれを持って。」

 

神子は2人に竹刀を投げ渡す。

 

「まずは素振り1万回。」

 

「「1万回⁉」」

 

「ほら、早くしないと日が暮れちゃうよ♪」

 

神子は笑顔で言った。

黒刀と映姫は慌てて素振りを始める。

 

「(1秒に1回振ったとしたらかかる時間は2.7時間。もっと速く振らないと。)」

 

その時、黒刀は気づく。

同時に始めたはずの映姫が自分より多く振っていたことに。

 

「(へえ、もう掴み始めたのか。)」

 

「(負けない!)」

 

黒刀は追いつこうとするが映姫はその先をいく。

黒刀は素振りを終えたのは映姫の5分後だった。

 

「(思ったより早かった。特に姫ちゃんはたった数分でコツを掴み始めた。この子は間違いなく天才だ。黒ちゃんも並の子供に比べれば上達は早い方だ。だが目の前でこの差を思い知るとショックだろう。)」

 

「はあ…はあ…師匠…まだ時間ありますけど…まだ何かないんですか?」

 

「(この子!)…あるよ。ちょっと遠出になるけどいいかな。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 神子は黒刀達は隣町の草原地帯に連れて行った。

そこには木はなく草と岩が1つあるだけだった。

 

「ここの気流は特殊でね。あの岩の向こうは無風なんだけどそこにいくまではこちら側に突風が吹いてくる。黒ちゃんと姫ちゃんにはあの岩にタッチして向こう側に行ってもらう。2人ともちょっとこっちに…。」

 

神子に言われて2人が近づくと額にコツンと軽く指でつつかれる。

 

「「師匠!なにを…。」」

 

2人が言葉を続ける前に気づく。神子の体から無色の蒸気のようなものが流れていることに。

 

「師匠…これは?」

 

映姫が問う。

 

「それはオーラ。誰もが持つもの。そして、無限の可能性を秘めた力だ。」

 

「無限の…可能性。」

 

黒刀は自身のオーラを見てつぶやく。

 

「まあ、細かい説明は置いといて、このオーラを使ってさっきも言ったようにあの岩の向こうに行ってもらう。」

 

「でも師匠、ここはまだ風が弱いですけどこれ以上近づいたら飛ばされます。」

 

映姫がそう指摘する。

 

「まあ、見てて。」

 

神子はそう言って走り出すと突風が吹く中で不規則に曲がって風の抵抗を全く受けず岩にタッチして向こう側にたどり着いた。

 

「風は一定じゃない!弱いところもあれば強いところもある!それを見極めるんだ!大丈夫!オーラの使い方は君達は自ずと分かることだ!」

 

「「(師匠…何か必死に伝えようとしてるのは分かりますが風が強くて全然聞こえません。)」」

 

2人は深呼吸してから集中すると一気に駆け出した。

だが進んで行くと突風が吹き2人の体は後方に吹っ飛ばされる。

 

「「うあああ!」」

 

スタート地点まで吹っ飛ばされた2人は策を考える。

 

「(とりあえず…師匠がやった動きと同じように。)」

 

考えた後、駆け出した映姫は風の隙間をかいくぐるように進んで行く。

 

「(俺は姫姉のようにはできない。だから俺は俺のやり方でやる!)」

 

黒刀は駆け出し、全く曲がらず直進する。

 

「(そんなことしても吹っ飛ばされるだけ…!)」

 

神子は黒刀の目を見た瞬間、何かを予感する。

 

「(何かしてくる!)」

 

「(この風…邪魔だ!)」

 

黒刀は全身に纏っているオーラで風の抵抗を受けながらもスピードを落とすことなく直進する。

 

「(まさか黒ちゃんのオーラがこれほどのものとは驚いた。)」

 

「うおおおお!」

 

黒刀が吠えて岩にタッチしたその瞬間。黒刀より一歩早く映姫が岩にタッチしてきた。

 

「(かなりの回り道をしたはずなのにスピードとオーラのコントロールで黒ちゃんを上回った。

ほんと子供とは思えない。これは育てがいがある。)」

 

「はあ…はあ…。」

 

黒刀は膝に手をつき肩で息をする。

 

「とりあえずこの岩のタッチの修行を1日1回やること。素振りを毎日1万回。あと1週間毎に2人で模擬戦をやって実力を確認する。基本的にはこの3つだけ。少ないけど確実に強くなれるよ。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 6日後。

黒刀と映姫は竹刀を持って模擬戦を行っていた。

映姫はスピードで黒刀を翻弄する。

 

「(ここだ!)」

 

黒刀の竹刀が映姫の竹刀とぶつかりそうになった時、映姫は竹刀をピタッと止めて黒刀の竹刀を避けて下段斬りで黒刀の竹刀を弾き飛ばした。

 

「そこまで!」

 

神子が模擬戦を止める。

黒刀は弾き飛ばされた竹刀を拾いに行く。

そんな黒刀を見た神子は、

 

「(努力家にとって最も悔しいことは怠ける天才に負けることじゃない。努力する天才に負けることだ。努力一筋で生きた人間が努力で負けること。それは自分に唯一あったものが奪われていく感覚。これ以上は黒ちゃんの精神にも響いてくる。そろそろ…)」

 

その時。

 

「…へへ…やっぱ姫姉はすげえや。」

 

黒刀はワクワクした笑顔で言った。

神子はそんな黒刀に驚いた。

 

「(あれだけやられてまだ…黒ちゃんの精神力は私の予想を遥かに超えている。)」

 

「よし!あと10本はやるぞ!」

 

 

 

 

 

 それから5年後。

黒刀、映姫、大和は日本へ。桜はスウェーデンに残り、神子はまた旅に出た。

 

 

 

 

 

 現在。

 

「ということがあったわけだ。」

 

神子が思い出話を語り終えた。

 

「凄い!凄すぎます!」

 

妖夢がキラキラした目で言った。

 

「あの時の2人は本当に可愛かったよ。食べる時や寝る時の動き、あとボーっとしてる時の表情まで一緒だったからね。」

 

神子は懐かしむように話した。

 

 

 

 昼食を食べ終えた頃。

 

「あの…神子さん、お願いがあります!」

 

妖夢が口を開いた。

 

「なんだい?」

 

「私と…お手合わせしてもらえませんか?」

 

妖夢がそう言った瞬間、黒刀と映姫が固まった。

 

「妖夢…それ本気で言っているのか?」

 

「はい!」

 

「そうか…まあ、お前がやる気ならそれでいいんだが…正直に言うと師匠と闘うのはあまりおすすめできない。」

 

「?」

 

妖夢が可愛らしく首を傾げる。

 

「黒刀、本人がやりたいと言っているのですから止めてはいけませんよ。」

 

映姫が横から口を出す。

 

「ああ、分かった。」

 

「いいよ。受けよう。」

 

神子が妖夢の懇願を受けて立ち上がる。

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 妖夢達はホテルの庭まで移動した。

そこで妖夢は気づく。

 

「あの…端末をお持ちでないんですか?」

 

「あ~すまない。機械類は苦手でね。」

 

神子は頭をかく。

 

「(相変わらずのアナログか。)」

 

黒刀と映姫は心の中で思った。

 

「良かったら未設定の端末を差し上げますけど…。」

 

にとりが端末を取り出した。

 

「いいのかい?」

 

「はい。あ、軽く設定しますので少々お待ちください。」

 

「すまないね。」

 

にとりは十数秒で設定を済ませた。

 

「出来ました。どうぞ。妖夢が申請ウインドウを送信してくるのでそれにOKのボタンを押せば決闘できます。」

 

「ありがとうございます。」

 

 妖夢が空間ウインドウを操作して神子に決闘の申請ウインドウを送信する。

神子はそれを見てOKのボタンを押す。

デュエルフィールドが展開され、妖夢がデュエルジャケットを装備した状態に変わる。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

先に動いたのは妖夢だった。

妖夢はクロスステップで神子の背後に回り込み剣を斜め上から振り下ろす。

神子はそれを袖から取り出した笏で止めた。

 

「止められた!」

 

「知っているかい?こういう普通の道具でもオーラを通すことである程度戦闘でも使えるのさ。

悪いが私が剣を抜くかどうかは君がそれに値するか見極めてからだ。」

 

妖夢はバックステップして距離を取る。

 

「(様子見している余裕はない。)」

 

妖夢は二刀流で構える。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

高速の突進攻撃に神子は笏でまず1本目の剣を止めた。

 

「(まだだ!もう1本ある!)」

 

だが、その剣は神子が抜いた剣によって止められた。

 

「やれやれ…随分と早くこの『七星剣』を抜かせてくれたものだよ。」

 

 

 

 決闘を見ていた黒刀が口を開く。

 

「師匠は四季流の創始者なんだ。」

 

「え、四季流って四季家が始めたから四季流じゃないの?」

 

魔理沙が当然の疑問を口にする。

 

「いや、俺も師匠の名前を入れるようにすすめたんだけど師匠は四季流の方がいいって。

剣速を重点においた流派。それを編み出した師匠は誰よりも四季流を使いこなしている。

それに支障には剣士にとってもっと恐ろしいものを持っている。」

 

「恐ろしいもの…あの剣のことですか?」

 

大妖精が神子が持っている剣を指し示す。

 

「まあ、見てれば分かる。」

 

それに対して黒刀は明確に応えなかった。

 

 

 

 

「『七星剣』を抜かせた褒美にいいものを見せてあげよう。」

 

神子はSDを取り出してブレードを出す。

 

「二刀流?」

 

一瞬、戸惑う妖夢に対し、神子は腰を低くして構える。

 

「妄執剣 修羅の血 弐式!」

 

「っ!」

 

妖夢は咄嗟に二本の剣で受けたが勢いに圧倒されバランスを崩す。

神子が追いうちをかける。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

神子の剣速は50だった。

妖夢は急所のみガードして他は受けながらもバックステップする。

 

「速い…いや、それよりもさっきの剣技は私の剣技…どうしてあなたがそれを…。」

 

「私は一度見た剣技を瞬時にコピーできる。と言っても型だけだが。」

 

「剣技を…コピー…それが神子さんのスキル。」

 

「いや、これはスキルではない。ただの技術だよ。長い経験の積み重ねによって到達できるものだ。」

 

「技術…。」

 

その凄さに妖夢は驚く。

 

「これがさっき言っていた恐ろしいものですか?」

 

霊夢が黒刀に訊く。

 

「ああ、瞬時にコピーできるってことは剣士が血反吐を吐いてまで会得した剣技も目の前で見せられることになる。」

 

「(一瞬、自分が目の前にいると錯覚してしまった。凄い完成度だ。)」

 

警戒する妖夢に対し、神子はSDのスイッチを切るとポケットにしまう。

 

「さて、君は私に剣技を見せてくれたんだ。私だけ隠すのはフェアじゃない。せっかく日本に帰ってきたんだ。土産に黒ちゃんも姫ちゃんも知らない新しい四季流の剣技を見せてあげよう。」

 

「「新しい四季流…。」」

 

黒刀と映姫は同時につぶやく。

 

「(『空観剣 六根清浄斬』で決める!)」

 

妖夢はカウンターの構えを取る。

神子は脇構えに構えを変える。

 

「四季流剣術 零の段…」

 

「「零の段⁉」」

 

黒刀と映姫が同時に驚く。

 

「無月。」

 

神子がそう口にした直後、妖夢の体が前のめりに倒れていく。

 

「(あれ…斬られた…何も見えなかった…何も…聞こえなかった…。)」

 

そのまま地面に倒れた。

神子はいつの間にか妖夢の前ではなく後ろに背を向けて立っていた。

 

「え、なに?何が起きたんだ?あの神子って人の姿が消えたと思ったら妖夢が倒れてその後ろにあの人が立っていたぞ!」

 

チルノが騒ぎ出す。

神子は七星剣を腰に納める。

 

「この剣技は相手に姿を見せず、音を消し斬る技。たとえ相手が構えていてもいつ来るか分からない。それはつまり相手の体感時間を奪い特定の音を聞こえないようにしていることと同じこと。まあ、簡単に言えば見ることも聞くこともできない剣技かな。」

 

 

 

 数分後。

妖夢がようやく目を覚ます。

 

「あれ…私…そうかたしか神子さんに…。」

 

「妖夢…いや妖夢ちゃんと呼ばせてもらっていいかな?」

 

「あ、はい。」

 

「君の剣技は実に美しいものだった。それに二刀流を見たのはこれで2人目だ。」

 

「1人目はたしか…君と同じ銀髪で首にマフラーを巻いた…ああ…雰囲気もなんとなく君に似ているね。」

 

神子の言葉を聞いた妖夢が目を見開いた。

 

「妖夢?」

 

黒刀が心配そうな目で見る。

 

「その人…私の兄さんです…。」

 

『え?』

 

妖夢の一言に一同が驚く。

 

「10年前に火事で両親が亡くなった同時期に兄さんが行方不明になりました。

私が剣士になった理由の1つには兄さんを探すことも含まれているんです。

少しでも強くなれば兄さんに近づけるんじゃないかって。」

 

「妖夢にそんな過去が…。」

 

霊夢が口を開く。

 

「お前…今までそんなこと一言も言ってなかったじゃねえか!」

 

魔理沙が声を荒げる。

 

「ごめんなさい…でもこれは私の問題だから。」

 

妖夢はうつむいてそう口にした。

 

「だからって…」

 

魔理沙が口を挟もうとしたその時、霊夢に肩を掴まれて首を横に振って制止させられる。

魔理沙はそれ以上、言えなかった。

 

「私の両親の死亡と兄さんの失踪の日は第3次世界大戦終戦の日…つまり9月6日でした。」

 

「なんだよそれ…偶然にしちゃ出来過ぎてるだろ!」

 

「あるいは運命…。」

 

チルノの言葉に黒刀はそう付け足す。

 

「そういえば先輩の誕生日も9月6日でした!」

 

「さすがにそれは偶然だと思いますよ。」

 

大妖精が苦笑する。

 

「ですよね。」

 

妖夢がそう返す。

 

「…妖夢ちゃん、君にいいことを教えてあげよう。四季流には『剣魂』と呼ぶ信念がある。意味は己の剣に誓った守りたい大切なもののことだ。これは己が何の為に闘っているかを忘れない為だ。」

 

「守りたい大切なもの…何の為に闘うか…。」

 

「すぐに答えを出す必要はない。時間をかけてじっくり考えればいい。黒ちゃん、君の『剣魂』は何だい?」

 

突然、神子が黒刀に問う。

 

「………2年前までの俺なら『家族』と答えていた。でも…それだけじゃダメだと思った。

俺が守りたいのは『大好きな人達』だ。自分でもはっきりしない答えだということは承知している。だけだ誰かを守って誰かの悲しむ顔を見るのはもう嫌なんだ。(そう…俺と早苗が分かれた()()()のように。)」

 

「…この5年で色々なことがあったようだね。」

 

「…部屋に戻る。」

 

黒刀はそう返してホテルの中に戻って行く。

それを見たにとりが呼び止めようとする。

 

「おい…はあ…しょうがない奴だな。そうだ!あいつから伝言を預かっていたんだ。」

 

「自分で言えばいいじゃないか。」

 

魔理沙が唇を尖らせる。

 

「黒刀は俺が言うと同意を得づらいからだって。で、黒刀からは…」

 

 

 

 午後5時30分。

東京デュエルアリーナ中央会場。

妖夢達が中央会場に到着した。

 

「今までの会場より大きいですね!」

 

妖夢が興奮したテンションで言った。

 

「中央会場というだけのことはあるだろ!」

 

にとりが何故か自慢げに言った。

 

「俺は去年、見たけどな。」

 

「そういう人の感動を奪うような発言をしない。」

 

映姫が黒刀を軽く叱る。

 

「それじゃとっととベンチに行こうぜ!」

 

魔理沙が走り出す。

 

「早く試合してえ!」

 

チルノもそれに続く。

 

「もうすぐだから。」

 

大妖精が呆れながらもついていく。

 

 

 

 ベンチに向かう途中で最後尾を歩いている黒刀と妖夢。

 

「妖夢、何で俺が団体戦に拘っているか知っているか?」

 

「へ?い、いいえ…。」

 

「去年、俺は個人戦で優勝した。でも団体戦で優勝した紅魔学園を見て知りたくなった。

信頼できる仲間と一緒に見る頂の景色はどうなっているんだろうって。」

 

「…先輩。」

 

「ん?」

 

「一緒に見ましょう。その頂の景色。」

 

「ああ。」

 

黒刀は優しく微笑んだ。

 

「…先輩、昼に私が剣士になった理由の1つは兄さんを探す為って言いましたよね。」

 

「ああ。」

 

「実は先輩の他にもう1人憧れている人がいるんです。その人が私の剣士になったもう1つの理由です。」

 

 

 

 

 

 5年前。

妖夢(当時11歳)は剣道場に通っていたが気弱で自分がどういう剣士になりたいのかイメージがなかった。

道場でも最弱でいつも同門の1つ年上の男子にいじめられていた。

 

 

 

 ある日。

公園で同門男子3人組に竹刀を取られてしまった。

 

「か…返して…。」

 

竹刀を持った3人組は妖夢をいじめる。

 

「弱い奴はうちの道場にいらない!」

 

「そうそう!弱虫はいなくなれ!」

 

妖夢の目から涙がこぼれる。

 

「うわ、泣いたよ!」

 

「泣き虫はもっといらないな!」

 

「泣き虫は道場から出て行け!」

 

その時だった。

 

「じゃあ、お前らが泣けば道場から出て行くんだな?」

 

誰かの声がした。

 

「誰だ!」

 

「出てこい!」

 

「はいはい。」

 

木の上から小学生の1人の少年が飛び降りてきて妖夢と3人組の間に着地する。

その少年は左手に竹刀を握っていた。

 

「何だよお前!」

 

「邪魔すんなよ!」

 

「お前には関係ないだろ!」

 

「そうはいかないな。俺にとって可愛い女の子は皆、守るべきものだからな。」

 

「はあ?ふざけたこと言ってんじゃねえよ!」

 

「なら力ずくでどかせてみろ。」

 

少年はそう返す。

 

「この!やっちまえ!」

 

「「「うおおお!」」」

 

「…おせえ。」

 

少年がそう口にした直後、3人組の手から竹刀が弾き飛ばされる。

3人組は呆気に取られて固まる。

少年はリーダー格の男子に向かって突きを放つ。

 

「ちょっと待て!分かった!俺達が悪かった!」

 

リーダー格の男子がそう言うと少年は首元で寸止めする。

 

「ならこの子に二度と手を出すな。そして、ここから去れ。」

 

「「「ひいぃぃぃぃぃぃ!」」」

 

3人組は泣きながら逃げていく。

妖夢は衝撃的な出来事の連続で尻餅をついていた。

 

「立てるか?」

 

少年は妖夢に振り向いて右手を差し伸べる。

夕日が少年を神々しく見せた。

妖夢がゆっくり差し伸ばされた手を握ると少年は妖夢を立ち上がらせる。

その時、妖夢は思った。

自分もこんな風に誰かを守れるようになりたいと…。

 

 

 

 現在。

 

「そうか…いつか会えるといいな。」

 

「はい!」

 

黒刀と妖夢は笑い合ってからすぐに気を引き締め直してベンチのドアを開ける。

 

 

 

 剣舞祭団体戦決勝戦開始まであと10分。




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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