東方剣舞   作:kuroto xanadu

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OP4 学戦都市アスタリスク2期  The Asterisk War



レミリアの過去

 8月6日 午後7時 紅魔学園代表ベンチ。

フランは団体戦初勝利にご機嫌だった。

ベンチに座って足をプラプラさせている。

レミリアは大将戦が始まるまでの間、紅茶を飲みながら自身の過去を思い出していた。

 

 

 

 10年前。

もしも、好きな人が出来てそれが叶わない恋と知った時、人はどうするのだろう…

 

イギリスではいまだに吸血鬼という種族に対して嫌悪感を抱いている者がいた。

しかし、それも当然のことである。

かつて人間達は吸血鬼に襲われ死んだ人間もいるのだから。

強すぎる力は恐怖を抱かせる。

恐怖を抱いた者は偏見や差別をする。

それは親から子へ受け継がれていく。

吸血鬼の一族でもあるスカーレット家も差別の対象となることは必然だった。

 

「化け物!」

 

罵声が響く。

ロンドンのとある公園に12歳の男子3人組とうずくまっているフラン(当時6歳)がいた。

公園の外で歩いていた大人達がいるが騒ぎに関わりたくないのかそれとも吸血鬼に関わりたくないのか見て見ぬふりで通り過ぎていく。

国から国民に対して平等性を唱えているがそれを守る者はごく僅かだった。

 

「化け物はこの国から出て行け!」

 

「そうだ!出て行け!」

 

男子3人組は手拍子を叩きながら、出て行け、と繰り返し罵り続ける。

 

「あなた達!やめなさい!」

 

その時、間に入ってきたのはレミリア(当時7歳)だった。

どうやらフランとはぐれてしまっている時に先程の罵声を聞いて探し出したようだ。

しかし、当時のレミリアとフランは吸血鬼であっても幼い為、闘う力も勇気もなかった。

 

「お姉様…。」

 

フランはレミリアの背中に隠れると涙目でレミリアを見た。

 

「大丈夫よ。」

 

レミリアはフランを安心させるように言葉をかけると男子3人組に視線を戻す。

 

「こんなことをして恥ずかしくないの!」

 

レミリアは大声で言い放った。

 

「う、うるさい!化け物!パパが言ってたぞ!吸血鬼は凶暴で人間を襲う化け物だって!」

 

「そんな奴がこの国にいたら迷惑だ!出て行け!」

 

「何百年も前の話でしょ!そんなの今の私達には関係ない!」

 

レミリアは強く言い返した。

だがレミリアの体は震えていた。

それもそうだろう。

力のない女の子が5歳年上の男子3人に見下ろされているのだから。

むしろここまで強く言い返せたのが不思議なくらいだ。

レミリアの正論に一瞬、固まった男子3人組だが、レミリアが震えていたことに気づくと、

 

「おい、こいつ震えてるぜ!」

 

「ほんとだ!」

 

「今のうちにボコそうぜ!吸血鬼なら簡単に死なないしどうせ誰も怒らねえし!」

 

「ナイスアイディアだ!」

 

レミリアの目が涙で潤う。

自分達はただ普通に暮らしていたいだけなのになぜこんな仕打ちを受け入れなければいけないのか分からなかった。

 

「(誰か…誰でもいい…私はどうなってもいい…せめてフランだけは助けて!)」

 

振り下ろされる拳にレミリアは目を瞑って心の中で願った。

だが振り下ろされる拳の音は聞こえず、代わりにその拳を止める音が聞こえた。

レミリアが恐る恐る目を開ける。

そこにはレミリアと同じくらいの歳で黒い服を着た少年が拳を右手で止めていた。

 

「あのさ…イギリス人って飯だけじゃなく性格までまずいの?」

 

少年は口を開いた。

レミリアから顔は見えない。

拳を止められた男子が拳を引っ込める。

 

「誰だお前!」

 

その男子が吠える。

 

「俺の名前は四季黒刀!最強になる男で全世界の可愛い女の子の味方だよ!」

 

そう宣言して黒刀(当時7歳)は男子3人組の内の1人の顔を殴る。

 

「ぐっ!お、お前!そいつは吸血鬼だぞ!化け物だぞ!そんな奴の味方をするなんてお前も同罪だ!」

 

「お前の記憶力は鳥以下だね。さっきも言ったはずだ。全世界の可愛い女の子の味方だ…と!」

 

「この…年下のくせに調子に乗るな!」

 

男子3人組の内の1人が吠えながら殴りかかってきた。

黒刀はヒョイっと躱して殴りかかってきた男子の手首を掴んで投げる。

 

「うわ!」

 

先程、殴られた男子のところの近くまで投げ飛ばされる。

 

「俺は吸血鬼だろうが悪魔だろうが可愛い女の子なら守る!お前らのように力もないくせにただ吠えることしかできない奴らは絶対に許さない!」

 

黒刀は強く言い放った。

レミリアはドキッと強い鼓動を感じた。

 

「…かっこいい…。」

 

レミリアの口から思わずそう漏れる。

 

「うるさい!うるさい!うるさい!」

 

黒刀の言葉に残った1人の大柄な男子が叫び、タックルをしかけてくる。

 

「危ない!」

 

レミリアが黒刀に向かって叫ぶ。

黒刀はレミリアに顔を向ける。

この時、レミリアは黒刀の顔を初めて見た。

好奇心旺盛そうな少年だが、その眼には優しさと強い意志を感じる。

黒刀はにっこり笑った。

 

「大丈夫!俺が守る!」

 

その言葉にレミリアはまたもドキッとして顔が赤くなる。

黒刀は視線を前に戻すとタックルを両手で止めて、懐に潜り込んで腰を掴んで自身より大きい体を投げ飛ばす。

投げ飛ばされた男子は後ろの2人のところまで投げ飛ばされて下敷きにしてしまう。

 

「どけ!このデブ!」

 

「どけよ!」

 

下敷きになっている2人が乗っかっている男子をどかそうとする。

隙間が出来たのでそこから抜け出す。

 

「お前!パパに言いつけてやるからな!」

 

「はいはい好きにすれば?雑魚共、お前らこそとっとと立ち去らないと病院送りになるよ?」

 

黒刀はちょうど目の前に落ちてある空き缶を手に取ると7歳と思えない握力で握りつぶした。

 

「く、くそ~!覚えてろよ~!」

 

男子3人組は捨て台詞を吐きながら逃げていく。

 

「まだいるんだ…あんな捨て台詞吐く奴。」

 

黒刀は呆れ顔で握りつぶした空き缶をゴミ箱に投げ入れる。

レミリア達に優しい目を向ける。

 

「怪我はない?」

 

「う…うん…おかげさまで…。」

 

「そうか…よかった。」

 

黒刀はニコッと笑った。

その時、フランがレミリアの背中から顔を少し出す。

 

「こんにちは。」

 

黒刀が笑顔で挨拶するが、フランは恥ずかしがって顔を引っ込めてしまう。

 

「あはは…。」

 

黒刀は苦笑する。

 

「あ、あの…。」

 

フランが顔を少し出して声を出す。

 

「ん?」

 

黒刀がフランの目線に合わせる。

 

「あ、ありがとう…。」

 

フランは顔を赤くしながら言葉を絞り出した。

 

「どういたしまして。」

 

黒刀は笑顔で返した。

フランはまたもや顔を引っ込めてしまう。

 

「ごめんなさい。この子、人見知りだから…。」

 

「別に気にしてないよ。え~と…」

 

「レミリア・スカーレットです。」

 

「じゃあレミリア、俺は7歳だけどレミリアは?」

 

「同じ。」

 

「だったら敬語なんていいよ。俺はレミリアって呼ぶから俺のことは黒刀って呼んでよ。」

 

「うん…黒刀。」

 

「で、後ろの子が…。」

 

「フラン。フランドール・スカーレット、私の妹よ。」

 

「よろしく、フラン。」

 

黒刀は顔を出さないフランに話しかける。

 

「うん…。」

 

フランは顔を出さないが頑張ってそう返した。

 

「さっきのレミリア、凄くかっこよかったよ。」

 

「そ、そんなことない…凄く怖かったし…。」

 

「それでも闘おうとしてた。フランのことを守ろうとしてた。それはレミリアが強いからだよ。」

 

「私が強い?それってどういう…」

 

「あ、ごめん!そろそろ電車が来ちゃう!それじゃまたね!」

 

黒刀は叫んで走り出す。

レミリアは何かを言おうとするが言葉がまとまらない。

黒刀は最後にレミリア達に顔を向ける。

 

「大丈夫!レミリアはきっと強くなる!それに俺、レミリアのこと結構好きだよ!」

 

この時の黒刀の言葉は少年らしさのこもった純粋な言葉だったが、

 

「え?」

 

レミリアは一瞬、キョトンとした後、頬を赤く染める。

 

「また会おうなレミリア!フラン!」

 

黒刀は最後にそう言って駅に向かって走って行った。

 

「ええ…きっと…また…。」

 

レミリアは胸に手を当てて祈るようにつぶやく。

これが黒刀とレミリアの出会い。

そして、レミリアが生まれて初めて恋を知った日だった。

 

 

 

 それから3年後。

イギリスの小さな決闘大会にレミリア(当時10歳)は出場していた。

レミリアは槍術と魔法の修行を重ねて、街ではかなり強い小学生として有名になっていた。

フラン(当時9歳)は今では明るく元気な性格になっていた。

まだ闘うことはできないので今日はレミリアの応援に来ていた。

 

 

 

 難なく1回戦を突破したレミリアは他の試合を見回っていた。

その時…

 

「なんだ!あの子は…」

 

「本当に小学生か?」

 

「強すぎるだろ!」

 

ギャラリーの声が聞こえた。

 

「何かしら?」

 

レミリアは首を傾げる。

 

「見てみよう!」

 

「そうね。」

 

フランとレミリアは翼を広げて、人の頭を超える高さまで浮遊する。

 

 

 

 3年前とは違って今やスカーレット家は王位に近いと言われているので吸血鬼に対する偏見や差別は大幅に減少している。だからこうして人前で翼を広げて浮遊していても人々は特に気にすることはない。

 大会のデュエルフィールドは屋外で正方形の面積100㎡のステージの上となっている。

レミリアとフランはステージの中央を見る。

そこにいたのは対戦相手と楽しそうに闘っている黒刀(当時10歳)だった。

 

「黒刀だ!」

 

レミリアとフランは同時に名前を呼んだ。

 

 

 

 黒刀の対戦相手は防御するのに精一杯で剣撃のラッシュに翻弄されていた。

 

「(なんだよこいつ…攻撃が速すぎる!)」

 

当時の黒刀はまだ四季流剣術は使えないもののそれでも四季流の素早い剣速の攻撃は既に会得していた。

黒刀は下段斬りで相手の剣を弾き飛ばした。

 

《勝者 四季黒刀》

 

中学生以下が参加できるジュニアクラスの大会では寸止めか相手の武器を弾き飛ばした時点で勝敗が決定される。

 

「へへ…結構楽しかったぜ!」

 

黒刀は対戦相手の少年にそう言ってからステージを降りる。

 

「黒刀~!」

 

すると、フランが黒刀の胸に飛びついてきた。

 

「うわ!」

 

黒刀は慌てて受け止める。

 

「お~フランか!久しぶり!随分と変わったな!」

 

「えへへ♪」

 

フランは喜んで黒刀の胸に頬ずりする。

 

「その…久しぶり…黒刀…。」

 

レミリアが再会の挨拶をする。

 

「ああ、久しぶり…レミリア。」

 

「黒刀も出てたんだ…大会。」

 

「ああ、剣の修行の成果を試したくてな…それにレミリア達に会えるかもって思ったけどほんとに会えるとは…。」

 

「黒刀ってイギリスに住んでいるんじゃないの?」

 

「ああ、俺はスウェーデンに住んでるからな。でも、たまに1人でヨーロッパのどこかの大会に出て修行の成果を確かめるんだ。」

 

「それじゃ黒刀は1人で来たの?」

 

頬ずりしていたフランが黒刀に訊ねる。

 

「そうだよ。」

 

黒刀がフランの頭を撫でる。

フランはくすぐったそうなでも嬉しそうな顔をする。

 

「私もこの大会に出てるの…。」

 

レミリアがモジモジしながら言った。

 

「へえ、じゃあ当たったら全力で闘おうぜ!」

 

「ええ…それで黒刀。その…1つ提案があるのだけれど…。」

 

「何だ?」

 

「その…負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くってのはどうかな?」

 

レミリアは照れながらそう言った。

 

「いいよ!」

 

レミリアの真意に気づいていない黒刀はそう返事した。

黒刀は負けてもちょっとしたお願いをされる程度に思っているがレミリアにとっては一世一代の恋の勝負だった。

レミリアは心の中でガッツポーズする。

 

「それじゃ…。」

 

黒刀がトーナメント表を見る。

 

「当たるとしたら決勝戦だね。」

 

「楽しみにしてるからその前に負けないでね。」

 

「そっちこそ。」

 

そうして黒刀とレミリアはそれぞれの試合のステージに向かった。

フランはレミリアについていく。

 

 

 

 その後、黒刀とレミリアは順調に勝ち進んでついに決勝戦に上がった。

2人がステージに立つ。

黒刀は黒い刀を抜き、レミリアはその刀と同じくらいのリーチの槍を持っている。

言葉を交わすことはなかったがそれでもお互いに今すぐに闘いたくてワクワクした顔をしていた。

 フランはステージ外の最前列で観戦していた。

だが、その背後に黒いフードを被った身長180㎝くらいの男が忍び寄っていた。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始直後、黒刀とレミリアは同時に踏み込んだ。

刀と槍がぶつかり合うかと思ったその瞬間。

 

「そこまでだ!」

 

ステージ外の最前列から男の声が響いた。

黒刀とレミリアが視線を移すとその男はフランを右手で抑えていた。

男がフードを取るとその顔は明らかに狂気に満ちていた。

その男は数年前までイギリス代表のデュエルプレイヤーだったが薬物使用容疑で逮捕され選手資格を失った。

しかし、つい最近、刑期を終えて出所したのだ。

さらにこの男は吸血鬼に対して殺意を抱いていた。

 

「今すぐ試合を中断しろ!」

 

男の指示に黒刀とレミリアはフランを人質にされていることを理解して同時に棄権する。

ステージに展開されていた保護結界が解除される。

男はフランを人質に取りながらステージの上に上がる。

観客達はパニックになって逃げていく。

 

「お姉様!」

 

フランが今にも泣きそうな声で叫ぶ。

 

「フラン!」

 

レミリアが駆け寄ろうとする。

 

「おい!動くんじゃねえぞ!そこから1歩でも動いたらてめえはこいつとおさらばすることになるぞ!」

 

男がそう言って右手に持ったのは鎖をつないだ鉄球だった。

 

「久々にシャバに出てきたら吸血鬼を認めるだ?ふざけるな!あんな化け物、この国に…いやこの世に生きている資格なんてないんだよ!」

 

男の目は完全にイカれていた。

恐らく出所後また薬物に手を染めたのだろう。

レミリアとフランの肩がビクッと震える。

ようやく生きる場所を得られたのにそれがまた奪われようとしている。

そんな恐怖を感じる。

その時…

 

「黙れ。」

 

声が聞こえた。

 

「あ?」

 

男が声のした方に視線を移すがそこには誰もいなかった。

その直後だった。

男の肩に激痛が走った。

黒刀が『抜き足』で男の背後に回り込み肩を斬ったのだ。

 

「ぐあああああああああああああああああああああ!」

 

男はあまりの激痛にフランを離してしまう。

黒刀はその隙を逃さずフランを抱き寄せる。

 

「このガキ!」

 

男は鉄球を飛ばすには距離が短すぎるので鎖を握った右手で黒刀に殴りかかる。

 

「(下手に避けたらフランが…くっ!)」

 

黒刀は歯を食いしばって男の拳を左頬で受けて殴り飛ばされる。

黒刀は自身がフランの下敷きになるように受け身を取る。

 

「黒刀!」

 

レミリアが駆け寄ってくる。

 

「俺は大丈夫だ。フラン、怪我はないか?」

 

「うん…大丈夫。」

 

フランは涙声で答える。

 

「そうか…フラン、ちょっとここで待っててくれるか?」

 

「何をする気なの?」

 

「あいつを倒す。」

 

「そんなダメだよ!危ないよ!警察が来るまで待とうよ!」

 

「その前にあいつが逃げるか周りの人間を殺す。心配すんな。俺はあんな奴に負けないから。」

 

黒刀はそうフランに声をかけて立ち上がる。

するとレミリアが黒刀の隣に並び立った。

 

「レミリア…。」

 

「私も戦う。フランをこんな目に遭わせた奴は許せない。」

 

「これは試合でも決闘でもない…殺し合いだ…命がかかってる!」

 

「…ならどうしてあなたは戦うの?」

 

黒刀は少し黙ってから口を開く。

 

「守りたいからだ。」

 

「私もよ。」

 

「…分かった。俺が前に出るからレミリアはバックアップを頼む!」

 

「分かった!」

 

 

 

 男の左肩は黒刀に斬られて使い物にならなくなっていた。

 

「くそ!あのガキ!殺してやる!」

 

男は鉄球を振り回す。

 

「いくぞ!」

 

「うん!」

 

黒刀が叫び、レミリアが応える。

男の鉄球が黒刀達に飛んできた。

2人は同時に左右にサイドステップして躱す。

 

「黒刀、伏せて!」

 

レミリアが指示を飛ばした。

当時のレミリアは既に『未来王の眼』のスキルを持っていた。

黒刀はレミリアの指示通りに伏せる。

一瞬遅れて鉄球の薙ぎ払いが黒刀の真上を通り過ぎる。

レミリアの未来予知は自発的に出来るのが5割、突然に来るのが5割だった。

男は鎖を引いて鉄球を戻すとレミリアに飛ばす。

躱せる距離ではなかった。

黒刀はレミリアの前に出ると刀で受ける。

強い衝撃が全身に伝わってくる。

 

「ぐっ!」

 

黒刀は必死に堪える。

 

「チッ、しぶてえな!」

 

男は鎖を引いて鉄球を戻し次の攻撃の準備をする。

 

「黒刀!」

 

「レミリア…時間がないから手短に言う。俺達はあいつの懐に入らないといけない…だから頼む…俺を信じてくれ。」

 

「黒刀、何を…っ!」

 

レミリアがいきなり倒れる。

 

「そいつを助けたつもりか。お前1人に何が出来る?」

 

「お前を斬れる!ここから先は俺が相手だ!」

 

黒刀が踏み込む。

 

「死ねクソガキ!」

 

男が鉄球を飛ばす。

 

「(何でか知らないけどあいつの呼吸は乱れまくりだ。)」

 

その理由は薬物で精神が不安定だからだろう。

黒刀はサイドステップして鉄球を躱すと『抜き足』を使って男の背後に回り込む。

 

「同じ手を食うかよ!俺の勝ちだ!」

 

男は体を反転させ遠心力で鉄球を振り回し黒刀を吹っ飛ばそうとする。

 

「同じじゃねえよ!」

 

黒刀が言い放ったその時、倒れていたレミリアが勢いよく起き上がった。

黒刀とレミリアは同時に突進突き攻撃をしかけた。

 

「(しまった!挟み撃ちだと1人をやってももう1人にやられる!)」

 

男が迷ったその一瞬が勝負を決めた。

レミリアの突進は予想以上に速かった。

まるで槍のリーチが伸びたのではないかと錯覚するほど。

 

「「はああああああああああああああああああああああ!」」

 

黒刀とレミリアは前後両側から男の右肩を貫いた。

 

「ぐあああああああああああああああああああああ!」

 

男が悲鳴を上げる。

黒刀とレミリアは同時に男の肩から思いっきり刃を抜く。

 

「終わりだ。その両腕じゃもう武器は使えない。そして…」

 

黒刀が言いかけたところでロンドン市警がぞろぞろと駆けつける。

駆けつけた警察官達は小学生2人が凶悪犯を倒しているという現状に驚いていたがすぐに切り替えて男の確保を始める。

意外にも男は抵抗しなかった。

武器を使えなくなり戦意が失せたか小学生に敗北したというショックが原因だろう。

警察官が黒刀達に事情聴取を行おうとしたが黒刀が後で自分が話すと言ってレミリアとフランの元へ駆け寄る。

フランが黒刀に抱きついた。

 

「私…怖かった…とっても…怖かった!」

 

フランは涙を流す。

 

「ああ、ごめんな。怖い思いをさせて。」

 

黒刀はフランの涙を指で拭う。

 

「ううん…それよりも凄かったよ!お姉様と黒刀、息ピッタリだった!」

 

「全くいきなり手刀された時は驚いたわよ!」

 

「ごめんごめん。でも気絶しない程度の強さだったろ?」

 

「まあ…。」

 

「2人とも…夫婦みたいだね!」

 

黒刀とレミリアの言い合いを見ていたフランが笑顔でそう口にした。

 

「「へ?」」

 

2人は呆気に取られた顔をする。

 

「それなら黒刀は私のお義兄様だね!」

 

フランは黒刀の胸に頬ずりする。

 

「なんだよそれ…。」

 

黒刀はそう言いながらもまんざらでもない顔をする。

 

 だがその時、レミリアは見てしまった。

 

今までで最も不幸で残酷な未来を。

それは未来の黒刀が自分とは別の誰かと結ばれる未来だった。

未来の黒刀の隣にいる人物は影になっていて誰かは分からないがそれが自分でないことだけは分かる。

意識が現実に戻る。

 

「レミリア?」

 

黒刀が心配そうにレミリアの顔を見ていた。

その時、レミリアの目から涙が零れた。

 

「こんなの…こんなのって…ないよ…。」

 

レミリアがそう口にした後、その場を走り去った。

 

「レミリア!」「お姉様!」

 

黒刀とフランが急いで追いかける。

 

 

 

 レミリアはとある丘まで走ってきた。

追いついた黒刀が歩み寄ってくる。

 

「来ないで!」

 

レミリアが強い口調で拒絶した。

 

「もう…ダメよ…黒刀とは一緒にいられない…。」

 

「どういうことだよ!なんで!」

 

黒刀も叫んで問い詰める。

当時の黒刀はレミリアが未来予知できることを知らなかった。

レミリアは言葉の代わりに翼を広げて飛び去っていく。

その時、僅かに振り向いたレミリアの目を見た黒刀は動けなかった。

レミリアの目は悲しみに満ちていた。

 

 

 

 フランがようやく追いつく。

 

「お姉様は?」

 

黒刀に訊くが黒刀は首を横に振った。

 

「お姉様…。」

 

フランが下を向く。

黒刀は来た道を戻ろうとフランの横を通り過ぎる。

 

「フラン…お前があいつを支えてやってくれ。」

 

「うん…。」

 

フランはうなずいた。

 

 

 

 レミリアは自宅に戻ってからベッドの上で泣き続けていた。

これまで見てきた未来は全て外れたことがない。

だからこそ辛いのだ。

 

 自分は幸せに生きる資格はないのか

 

 好きな人と結ばれてはいけないのか

 

そして、レミリアは確信した。

 

 未来は絶対に変えられない…誰にも




ED4 咲 全国編 TRUE GATE

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