東方剣舞   作:kuroto xanadu

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OP6 遊戯王 OVERLAP



さよなら ザナドゥ王国

 8月15日 午後4時40分 四季黒刀の完全消滅まで残り20分。

影の攻撃が通用しない敵に苦戦していた映姫は息を整える。

 

「やむを得ません。」

 

影を全て引っ込める。

 

「何のつもりだ?」

 

ぬえが訝しむ。

 

「いきます!モードチェンジ!」

 

映姫の体を白い風が渦巻いていく。

足先からだんだん白い風が晴れていくと全身には純白の鎧が装着されていた。

右手に持つのは黒い影の剣ではなく白く輝く剣だった。

 

「ロイヤルナイト!」

 

映姫が声を発する。

 

「なるほど…竜を倒すには騎士ときたか…。」

 

ぬえは映姫の姿を見て少し感嘆する。

 

「私の覚悟…この剣に全て込める!」

 

映姫は気合いを入れた。

 

「はああっ!」

 

映姫は地を蹴って飛び上がりぬえに斬りかかった。

 

「勇敢と蛮勇は違うぞ!ファントムウイングソード!」

 

ぬえが翼から100枚の羽をヒラヒラと舞い落ちらせるとその羽が一瞬で剣に変わり映姫に向けて放たれた。

映姫はそれを前にしても下がることなく空中で両足に気力を集束させるとそれを一気に放出してぬえに向かって突き進んでいく。

剣先をぬえに向けて黒刀が『剣舞祭』でフラン戦にやったように突進突き攻撃を仕掛けた。

剣先が空気を切り裂き放たれる羽を弾き飛ばしていき確実にぬえに迫っていく。

 

「負けられない!僕の友の為に!ファントムブレス!」

 

ぬえは口から紫色のブレスを吐いた。

ブレスと白き剣の剣先がぶつかり合う。

その衝撃で映姫の鎧が少しずつ剥がれていく。

 

「くっ!はああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

映姫は声を振り絞り白き剣に気力を注ぎ込む。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

ぬえもブレスの威力をさらに上げる。

映姫の鎧はほとんど剥がれてしまっていた。

それでも映姫は力を緩めない。

その時だった。

映姫の背中から黒い影の翼が展開されたのだ。

『ロイヤルナイトモード』である映姫からそれは本来あり得ない現象だった。

しかし映姫の勝ちたい思いと黒刀を助けたいという想いが奇跡を起こしたのだ。

影の翼が推進力となってブレスを徐々に押し始めていく。

 

「何!」

 

ぬえが驚いた声を出す。

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

映姫は己の全力を剣に込めてさらに押し込む。

そして、ついに白き剣がブレスを貫通するように突破してそのまま竜の鱗を突き刺した。

 

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

ぬえは痛みで悲鳴を上げた。

竜の体は光の粒子となって消滅してぬえの体が残って地面に落下していく。

映姫は落下するぬえに近づいて空中で抱きかかえて少しずつ高度を落としていく。

そこで映姫はぬえの体が少し透けていることに気づいた。

 

「あはは…限界が近づいてきたのかな…そんな不安そうな顔をしなくていいよ。これは君のせいじゃないから。」

 

ぬえは先程の戦闘中の厳しい表情が嘘であるかのように優しい笑顔だった。

映姫がぬえを抱きかかえたまま地面に着地する。

 

「あなた…まさか…霊力だけで延命していたというのですか?」

 

「ああ…そうだよ。本当のことを言えばザナドゥ卿が復活した時点で僕は消えるはずだった…でも…僕はまだこうして…生きている…きっとどこか…まだ見たいと思っていたんだろうね…クロトの成長を…。」

 

ぬえの声は消え入りそうなものだった。

映姫はぬえに肩を貸して立ち上がった。

 

「何を…。」

 

「まだ…間に合います…。あるはずです…黒刀に言いたいことがたくさん。」

 

映姫は歩き出して玉座の間へ向かう。

 

「…そうだね…あったね…あの2()()に言うべきことが…。」

 

ぬえはそう呟いた。

 

 

 

 玉座の間 午後4時50分 四季黒刀の完全消滅まで残り10分。

玉座の間へ最も早く辿り着いたのはこいしだった。

階段から今にも倒れそうな足取りで歩いている。

しかし精神喪失状態であるこいしは言葉を発することが出来ずザナドゥ卿にまるで何かを伝えるかのように手を伸ばす。

ザナドゥ卿は何をする訳でもなくただこいしの目を見つめていた。

こいしが一体何を伝えたいのかその真意を見極める為に。

だがその試みは空から接近してくる2人の存在によって中断させられる。

その2人とはレミリアとさとりだった。

玉座の間の床に着地するとさとりが急いでこいしの元へ走って行った。

 

「こいし!」

 

さとりはこいしの体を抱きしめた。

こいしもさとりの体を抱きしめ返す。

姉妹の感動シーンをよそにレミリアは目の前のザナドゥ卿を見た。

それだけでレミリアは今の黒刀が普通の黒刀ではないことと先程から強い威圧感を放っているのが目の前の男だということを理解した。

またザナドゥ卿もレミリアが只者ではないことに気づいた。

 

なるほど…現代の『王』か…。

 

ザナドゥ卿が呟く。

それだけでレミリアはザナドゥ卿の圧倒的な存在感を感じ取った。

レミリアは深呼吸してから名乗る。

 

「『未来王』のレミリア・スカーレットよ。」

 

『未来王』か。…余は旧ザナドゥ王国第一国王クロト・ザナドゥ。『覇王』とも呼ばれている。

 

「『覇王』…。」

 

黒刀が『破壊王』であることを考えて僅かな違和感を抱きながらもすぐに思考を切り替えてザナドゥ卿と戦闘開始しようとしたその時。

 

そう焦るな。まもなく集う。

 

「集う?」

 

レミリアが疑問に思った直後、玉座の間へ近づいてくる気配に気づいた。

レミリアの後方から急上昇して現れたのは妖夢とフランだった。

さらに遠くから2つの砲撃が放たれた。

それは『白霊砲』と『マスタースパーク』だった。

ザナドゥ卿は右手で受け止めて軽く握り潰す。

現れた霊夢と魔理沙の近くにはお空がいてその後方からはチルノ、大妖精と2人の手に掴まって運ばれている幽香がいた。

 

11人か…これで準備は整った。

 

「準備ってどういうことですか?」

 

玉座の間の床に着地した妖夢が訊いた。

霊夢、魔理沙、お空、フラン、チルノ、大妖精、幽香も次々と着地していく。

 

古明地こいしの心を取り戻す。

 

ザナドゥ卿はようやく抱擁を終えたこいしを指差す。

 

「そんなことが出来るんですか?」

 

さとりが訊く。

 

人の魂というのは己だけで存在している訳ではない。他者の中にもその人物の記憶がある。それらを集めて構成し直せば壊れた心を元に戻すことが出来る。

 

「どうして…そこまで…。」

 

妖夢はザナドゥ卿がやろうとしていることに戸惑う。

 

余はただザナドゥの民であるそやつを放っておけないだけだ。たとえ1000年経とうとも民は見捨てない。それが『王』というものだ。

 

その言葉を聞いた妖夢は気づいた。

 

「(そうか。この人も先輩と同じ。本当はとても優しい人なんだ。)」

 

ザナドゥ卿が右手をゆっくり挙げると床に巨大な術式が展開された。

 

霊烏路空を呼び戻したのもうぬらを待ったのもこの為だ。

 

術式の輝きが強まるとさとり、お空、幽香の体が光り出しその光が3人からスーッと抜けていってこいしの体に吸い込まれていく。

するとこいしの目が徐々に光を取り戻していく。

術式が完全に消える。

 

「お姉ちゃん?」

 

こいしがさとりに顔を向けて言葉を発した。

 

「こいし…あなた…心が戻って…っ!」

 

さとりは涙を溢れさせてもう一度こいしの体を抱きしめた。

 

「うわああああん!よかった~!」

 

お空も2人を抱きしめて泣きながら喜んだ。

 

「奇跡は…起きるんだな…。」

 

幽香も3人を抱きしめて涙を流した。

ザナドゥ卿は抱きしめ合う4人を見て少し微笑んだがすぐに妖夢達に顔を向ける。

 

さて…うぬらにはもう時間が無いのだったな。あと10分で四季黒刀の魂は完全消滅する。さあ、かかって来るがいい!うぬらの全てを懸けて!

 

そう言い放ってさらにオーラを高めた。

四季黒刀の魂が完全消滅するという事実に驚いている暇もないと悟ったレミリア達は武器を構える。

 

「私達も参加する。」

 

するとさとりが信じられない言葉を発した。

 

「うん。私もクロトに会いたい!」

 

こいしも前に出る。

 

「いいだろう。余の相手となるならそれも一興!」

 

ザナドゥ卿は怒るどころか笑った。

 

「「魔力解放!」」

 

「「「「「「霊力解放!」」」」」」

 

レミリア、魔理沙と霊夢、大妖精の治療を終えたチルノ、それにさとり、こいし、お空、幽香がオーラを解放した。

8つの光の柱が天から降り注いで闇に覆われた空が一気に晴れる。

 

おお…これはなかなか壮観だな。

 

ザナドゥ卿は感嘆の声を漏らす。

 

「パーソナルフィールド展開!ソメイヨシノ!」

 

妖夢が詠唱した。

玉座の間が…いや旧ザナドゥ王国全体が一瞬で綺麗な花畑に変わる。

妖夢は二本の剣を重ね合わせると周囲の桜の花びらを集束させる。

 

「桜花剣 夜桜!」

 

妖夢は上段から振り下ろした。

 

これ程美しい桜…散らせるのはもったいないという思いもあるがしかし!桜は散り際も美しいものだ!

 

ザナドゥ卿は『八咫烏』に下段に構える。

 

はあっ!

 

そのまま振り上げた。

その風圧だけで妖夢と二本の剣に集束していた桜の花びらを吹き飛ばしてしまった。

吹き飛ばされた妖夢をフランが空中で受け止めた。

 

「妖夢、気力の攻撃だけじゃ届かない。だから私の魔力を分けてあげる。」

 

フランはそう囁く。

 

「どうやって?」

 

妖夢が聞き返すとフランは『楼観剣』の刀身に指先で触れて魔力を流した。

すると『楼観剣』の刀身が炎に包まれた。

 

「凄い…。」

 

妖夢が声を漏らす。

 

「チャンスは1回だけ。それを私達が作るから妖夢はその時を狙って。」

 

フランは妖夢から離れて急降下した。

妖夢は桜の花びらで魔法の絨毯みたいに乗ってその時を上から待つ。

下では魔理沙が放った『マスタースパーク』とレミリアが放った『スピア・ザ・グングニル』の

後方から霊夢の『白霊砲』、フランの『インフェルノブレイカー』、

チルノの『アイスニードル』、それにさとり、こいし、幽香が砲撃霊術を放ってブーストをかけていた。大妖精は9人の後ろから回復魔法と強化魔法をかけてアシストに回っている。

 

フッ…面白い!現代の力も侮れないものだな!

 

ザナドゥ卿はそれを右手で受け止めて笑った。

 

『はああああああああああああああああああああああああああああああああ!』

 

10人の少女は気合いの声を上げた。

 

っ!

 

ザナドゥ卿が目を見開いた直後、砲撃とザナドゥ卿の右手の間が爆発した。

 

よもやこの余が10㎝も下がらせられるとはな…っ!

 

ザナドゥ卿は背後から迫る気配に気づいた。

右足を軸に半回転して、クロスステップで迫っていた妖夢を迎え撃つ。

妖夢は炎を纏った『楼観剣』を下段から斬り上げる。

 

「桜花剣 爆炎桜!」

 

燃える桜か!これもまた面白い!

 

ザナドゥ卿は笑みを浮かべて『八咫烏』を振り下ろした。

『楼観剣』と『八咫烏』の刃がぶつかり合い火花を散らす。

だが片手で『楼観剣』を持っている妖夢は徐々に押されていく。

しかし妖夢の狙いは別にあった。

それは左手に持つ『白楼剣』の隠された能力だった。

 

「霊剣化!」

 

妖夢が詠唱すると『白楼剣』の刀身が透けていく。

 

「(気力も霊力も届かない…でも!想いは届く!帰ってきて下さい!先輩!)」

 

妖夢は強い想いを込めて霊剣化した『白楼剣』をザナドゥ卿の胸に突き刺した。

 

やればできるではないか。

 

ザナドゥ卿の言葉が妖夢にはそれが黒刀が、やればできるじゃねえか、と言っているように聞こえた。

直後、ザナドゥ卿の体が光り出す。

 

「「うあああああああああああああああああああ!」」

 

1人の体から2人の叫びが聞こえた後、1つの体が分離して黒刀とルーミアが弾き出された。

ザナドゥ卿の姿は見えない。

 

「先輩!」

 

妖夢は倒れている黒刀の元へ駆け寄る。

 

「くっ!」

 

黒刀が右手で頭を押さえながら立ち上がって呻き声を出す。

 

「先輩…戻ったんですね!さ、早く帰りましょう。」

 

「いや…まだだ…。」

 

黒刀はそう言いだした。

 

「え?」

 

妖夢がそう声に出した直後、すぐ近くから巨大なオーラが放たれた。

そちらへ顔を向けるとルーミアが呻き声を上げてうずくまっていた。

ルーミアからはとてつもなく巨大なオーラが溢れ出ていた。

 

「あいつを…助けないと…今あいつは融合した時のオーラをそのまま取り込んだ。早く…助けないと…。」

 

黒刀はようやく分離のショックによる頭痛から解放されたようで一歩踏み出した。

その瞬間、ルーミアから溢れるオーラから強烈な波動が放たれた。

妖夢と黒刀は後方へ吹っ飛ばされる。

黒刀は『八咫烏』を床に突き刺して耐える。

妖夢も黒刀と同じようにして耐える。

魔理沙達が駆け寄ろうとする。

 

「来るな!これは…俺がやらなきゃいけないことなんだ…。」

 

黒刀が魔理沙達を制止する。

 

「ダメ…だよ…。」

 

その時、ルーミアの姿勢がだんだん上を向いて声を出した。

黒刀がバッとルーミアに振り返る。

ルーミアは続ける。

 

「…もう…いい…。もう…誰かが辛そうにしているのは…もう…見たくない!だから…来ないで…私のことは…もういいから…」

 

「いいわけないだろ!」

 

ルーミアの言葉を遮って黒刀が叫んだ。

 

「お前は俺の大切な家族だ!だから言え!お前の一番の願いを!」

 

黒刀は深く息を吸い込む。

 

「ルーミア!」

 

そして力いっぱい叫んだ。

それを聞いたルーミアは涙を溢れさせた。

 

「助けて…助けて!くろにい!」

 

ルーミアも力いっぱい叫び返した。

 

「ああ!今助ける!」

 

黒刀は『八咫烏』を杖代わりに前へ一歩踏みしめる。

オーラの波動が暴風のように襲ってくるが構わず一歩ずつルーミアのいる場所へ歩く。

その時、オーラの波動…いや風が形を変えてルーミアを囲む竜巻と化した。

中の様子は外から見えない。

黒刀は竜巻の前まで辿り着くとその中へ両手を伸ばした。

しかし竜巻は黒刀の両手を弾いた。

 

「くっ!」

 

黒刀が歯ぎしりした直後、風の勢いが強まり黒刀を吹き飛ばそうとしていた。

 

「しまった!」

 

黒刀が声を上げて両足が風で床を離れそうになったその時。

2つの誰かの手が黒刀の背中を支えていた。

黒刀が首だけ振り向かせると黒刀を支えていたのは…

 

「…姫姉…ぬえ…。」

 

黒刀は自分を支えてくれた2人の名を呼ぶ。

振り向いた黒刀の顔を見た2人は微笑む。

 

「ほら…頑張って。」

 

「お前なら出来る。」

 

映姫とぬえはそれぞれ応援の言葉をかける。

 

「ありがとう…。」

 

その言葉を受け取った黒刀は感謝の言葉を返すと両手にオーラの膜を張ってもう一度竜巻の中へ両手を伸ばした。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

そして黒刀はついに竜巻の中への侵入に成功する。

竜巻の中心ではルーミアが苦しそうにしながらも黒刀を見つめていた。

 

「…ルーミア。助けに来たぜ。」

 

黒刀は優しく微笑んだ。

 

「くろにい…。」

 

ルーミアは嬉しさのあまり涙を流す。

黒刀はルーミアに近づいて膝をつき抱きしめる。

 

「ルーミア…。」

 

「くろにい…。」

 

10年ぶりの再会に温かい抱擁を交わし合う2人だったがルーミアがオーラを抑えられる時間がもう少ないことを黒刀は感じた。

 

「ルーミア…俺を信じられるか?」

 

「当たり前なのだ。」

 

ルーミアは微笑んでそう返した。

 

「分かった。」

 

黒刀はルーミアとの抱擁を解いてルーミアの肩を掴むとその可愛らしい唇に自分の唇を重ねた。

ルーミアは抵抗する様子もなくしっかりと受け止めていた。

オーラがどんどん黒刀に流れているのを感じた。

黒刀は『エナジードレイン』でルーミアからオーラを吸い取っているのだ。

周囲の竜巻が徐々に弱まっていく。

ルーミアからオーラを吸い切った黒刀が唇を離すとその3秒後に竜巻が完全に消えた。

ルーミアの手を取って立ち上がる。

 

「先輩!」

 

妖夢達が駆け寄ってくる。

 

「妖夢…心配かけてすまなかったな。姫姉も…ごめん…。」

 

黒刀は妖夢と映姫に謝罪の言葉をかける。

映姫に支えられているぬえに視線を移す。

 

「ぬえ…。」

 

黒刀はルーミアと手を繋ぎながらぬえに歩み寄る。

幽香、お空、さとり、こいしも同様にぬえに歩み寄る。

ぬえにはもう自力で立つだけの力はなく今は映姫の腕に支えながら横になっている。

 

「幽香…お空…さとり…こいし…ルーミア……黒刀。」

 

ぬえは1人ずつ顔を見て名を呼ぶ。

6人はぬえに対して膝をつく。

黒刀が映姫にアイコンタクトするとそれだけで映姫は察してぬえの体を黒刀に預けた。

黒刀はぬえの体を抱き支える。

皆、分かっているのだ。

ぬえの命はもう長くないということを。

 

「…黒刀…ザナドゥ卿は…まだ…お前の中に…いるか?」

 

ぬえは今にも消え入りそうな声で訊く。

 

「…ああ。…いるよ。」

 

「そう…それじゃ…最初は…彼と…話したいな…いいかい?」

 

ぬえは黒刀にお願いする。

 

「ああ…構わないよ。」

 

黒刀は答えてからルーミア達を見る。

ルーミア達が無言で頷いたのを了承と解釈した黒刀はスッと目を閉じ打。

次に目を開けた時には黒刀ではなくザナドゥ卿に人格が入れ替わっていた。

 

「ぬえ。」

 

その声は先程まで妖夢達と戦っていた時のような威圧感のある声とは違って優しい声だった。

ザナドゥ卿の声を聞いたぬえは安心したように微笑む。

 

「ザナドゥ卿…いや…昔のように…クロト。やっぱり…彼の中に残っていたんだね…。」

 

「ああ。本当なら余は消えるはずだった。だが…」

 

ザナドゥ卿は自身の胸の中心を見る。

 

「こいつは余を消さなかった。消せたはずなのに…。」

 

そう言ってぬえに視線を戻す。

 

「それが…あの子の優しさだよ…。」

 

ぬえは嬉しそうだった。

 

「そう…君と同じようにね。」

 

ぬえはクロトに向けてそう口にした。

 

 

 

 1192年 ぬえ(12歳)。

ぬえは人間の母と竜人族の父との間に生まれた子だった。

ぬえが生まれた国はザナドゥ王国ではなくその隣国だった。

その国はモンゴル帝国の支配下にある国だった。

ある日、街の人々にぬえの父が竜人族だということがバレてしまった。

人外が国内にいれば処刑されることを分かっていたぬえの父はずっと隠し通してきたのだ。

もちろんぬえのことも。

正体が知られた以上、ぬえも危険であると考えたぬえの父はぬえと妻を国外へ逃がすと決断した。

ぬえの父は自らの身を挺してぬえと妻を国外へ逃亡させた。

最後は衛兵に斬り殺されて。

国外の森へ逃げたぬえとぬえの母だったが追っ手の衛兵によってぬえの母は矢で射殺されてしまった。ぬえをかばって。そして残されたぬえも矢で全身を射抜かれる。

 

「よっしゃ~!殺したぜ!」

 

「いやまだだ!まだ息してるぜ!」

 

「殺せ!」

 

少し遠くから追っ手の衛兵達の声が聞こえる。

 

「(…僕…死ぬのかな…パパ…ママ…。)」

 

ぬえは薄れゆく意識の中、全身に矢が刺さったままうつ伏せに倒れて死を静かに待った。

剣を抜いた衛兵達がこちらに走ってくるのが微かに見える。

ぬえがゆっくり目を閉じようとしたその時だった。

ぬえの頭上を黒い斬撃が通り過ぎていき衛兵達に飛んでいくのが見えた。

黒い斬撃は衛兵達の目の前の地面に直撃して衛兵達を吹っ飛ばした。

そして…

 

「誰の許しを得て余の領土に穢れた身で侵入している。」

 

威圧感のある声が響いた。

衛兵達が立ち上がる。

 

「誰だお前!」

 

「用があるのはそっちのガキなんだよ!」

 

「そこをどけ!」

 

衛兵達は怒鳴り散らした。

その直後だった。

ぬえが後方から大きな怒りを感じたのは。

 

「…余を知らぬ無知さ。それだけならまだ許したものを…余に指図するとは愚かな!」

 

怒りを露わにしてぬえの前に出る。

その時、初めてみたその男の背中はとても大きく安心感を与えるものだった。

 

「…その子を頼む。」

 

男は振り向きもせず言った。

ぬえの体を誰かが抱き上げた。

ぬえが抱き上げた人物の顔を確認するとその人は長い銀髪でシャツとスカートのカジュアルな服装をした10代後半くらの女性だった。

 

「そうね。とりあえずうちで治療しましょう。私はこの子をうちの医務室に連れていきますからあなたも早く帰ってきてくださいね…クロト。」

 

そう。

この男こそがザナドゥ王国の国王クロト・ザナドゥである。

 

「ああ。すぐに片づける。」

 

ザナドゥ卿は前を向いたまま返事した。

銀髪のお姉さんは微笑み体の向きを180度変える。

 

「ごめんね。今すぐ矢を抜くと血が出ちゃうかもしれないからもう少しだけ…我慢してね!」

 

右足のつま先でコツンと地面を叩いた。

すると前方に氷の一本道が出来た。

 

「大丈夫。すぐに着くから。」

 

銀髪のお姉さんは氷の上に乗りそのまま滑って進んで行った。

 

「さて…こちらも片づけるとするか。」

 

ザナドゥ卿は1人呟いた。

 

 

 

 ぬえが銀髪のお姉さんに連れて来られたのはとても豊かな国。

ザナドゥ王国だった。

ぬえは自分の姿が見られて大丈夫かと不安で会ったがザナドゥ王国の国民はぬえの姿を見ても全く嫌悪感を出さず手を振ったりして歓迎してくれた。

銀髪のお姉さんは街の大通りを歩いてそのまま王宮の中に入って行く。

とある部屋の前に立つとノックをする。

 

聖夢(せいむ)!いいかしら?治療して欲しい子がいるの!」

 

ドアが開いて出てきたのは紅白の巫女服を着た少女だった。

 

「分かった。すぐに始める。ザナドゥ卿は?」

 

「すぐに戻ってくるわ。」

 

「分かった。」

 

聖夢はそう応えてぬえを預かってベッドに寝かせた。

 

 

 

 1時間後。

治療中に眠ってしまっていたぬえが目を覚ます。

ぬえの左手を包み込む温かく大きな両手の感触があった。

その人物の顔を見る。

 

「あなたは…」

 

「クロト・ザナドゥだ。ようやく目を覚ましたようだな。」

 

ザナドゥ卿は温かい目を向けてきた。

 

「…あなたは…僕が怖くないんですか?」

 

ぬえは思わず訊いてしまった。

 

「怖い?うぬを怖がる理由などどこにでもないであろう。」

 

だがザナドゥ卿はそう返してきた。

 

「でも…僕は…」

 

ぬえは自身の翼を見る。

 

「この国の人々はどんな種族が住んでいようと怖れることはない。何故なら共存することを受け入れているからだ。」

 

「共存…。」

 

それはぬえの考えには無かったことだった。

生まれてから今日までいつ人間達に正体がバレて殺される恐怖しかなかったからだ。

ぬえがそう考えているとザナドゥ卿がぬえから手を離して立ち上がる。

 

「さて…うぬを助けた対価として余の願いを聞いてもらうとするか。」

 

ぬえは一体何を要求されるのかと思っているとザナドゥ卿が優しく笑った。

 

「余の友になってはくれぬか?」

 

「え?」

 

ぬえは一瞬、何を言っているのか分からなかった。

5秒程かけてやっと言葉の意味を理解した。

 

「えっと…僕なんかでいいの?」

 

ぬえは聞き返した。

その問いにザナドゥ卿は頷いた。

 

「うむ!余はうぬがいい。初めて会った時からそう心に決めておったのだ。」

 

その言葉にぬえは笑顔になって左手を伸ばした。

 

「うん。それじゃ…よろしく。」

 

ザナドゥ卿も左手を伸ばそうとした時に何かに気づいた。

 

「…そういえばうぬの名を聞いていなかったな。」

 

今更のことを言い出した。

ぬえは呆れた様子もなく微笑んだ。

 

「封獣ぬえだよ。」

 

「うむ。よろしくだ…ぬえ。」

 

ザナドゥ卿はぬえと握手を交わす。

 

「うん…よろしく。クロト。」

 

ぬえは最高の笑顔を見せた。

 

 

 

 現在 午後5時30分。

 

「君の優しさが…僕の心を照らしてくれた…君は…僕にとって…最高の王で親友だ…。」

 

「ああ。余も…ぬえ、うぬを最高の親友だと思っている。昔も今も…そしてこれからも永遠に余とうぬは親友だ。」

 

ザナドゥ卿は涙を流しながら語ってくれた。

 

「ああ…永遠だ…。」

 

「…もう少しうぬと話していたかったがあまり時間が無い。彼に変わるぞ。」

 

「ああ…いつか…またどこかで会おう…クロト。」

 

「ああ…では…。」

 

ザナドゥ卿が目を閉じて次に目を開けた時には黒刀に戻っていた。

 

「ぬえ…。」

 

黒刀は泣きそうな顔でぬえを呼んだ。

 

「黒刀…ごめんね…僕は大きな過ちを犯した…どんな理由があったって…お前を犠牲にしていい訳があるはずがない…黒刀…僕を憎んでいるかい?」

 

「憎めるわけないよ!だって…ぬえは俺達の()()()()なんだから!」

 

黒刀は涙を流して言い返した。

 

「だから…今まで…守ってくれて…ありがとう…お母さん…。」

 

黒刀がぬえに感謝の言葉を伝えたその時、黒刀の涙の雫がぬえの頬に落ちて来て伝っていく。

同時に今まで沈黙を貫きながら涙を我慢していた幽香、お空、さとり、こいし、ルーミアが一斉にぬえに抱きついてきた。

 

「…僕の方こそ…ありがとう…。嬉しいよ…まさか…僕がお母さんって呼ばれる日が来るなんて…思いもしなかったよ…。」

 

ぬえの体が光に包まれ始める。

 

「「「「「「お母さん!」」」」」」

 

「…本当に…ありがとう…この世界に…生まれてくれて…ありがとう…君達は…僕の自慢の子供だ…。」

 

その言葉を最後にぬえの体が光の粒子となって天に昇っていった。

 

 

 

 旧ザナドゥ王国国王直属騎士団団長 封獣ぬえ 永眠(享年1030歳)

 

 

 

 ぬえの最期を見届けた黒刀が静かに立ち上がると空から何かキラキラした物体が落ちてくるのが見えた。それは黒刀の元へ舞い落ちてきた。

黒刀がそれを手のひらで受け止めた。

落ちてきたのは赤と青の翼をモチーフにしたペンダントだった。

ルーミアが立ち上がり黒刀の手のひらに乗っているペンダントを覗き込む。

 

「くろにい…これって…」

 

思い当たることがあるようだ。

それは黒刀も気づいていた。

 

「ああ…これはぬえが生きた証だ。」

 

黒刀はペンダントを首にかけた。

 

「ぬえ…俺強くなるから天国から見ていてくれ。」

 

ペンダントの翼を撫でながら誓う。

 

 

 

 

「(何故余を消さなかった?)」

 

ザナドゥ卿が念話で黒刀に話しかけてきた。

 

「(…一緒に見て欲しかったからさ。今のこの世界を。それと呼び方に迷っているなら俺のことは黒刀でいいよ。俺はあなたのことを王様って呼ぶから。)」

 

黒刀は念話で答えた。

 

「(いいだろう。)」

 

ザナドゥ卿は短く返して黙った。

ザナドゥ卿との念話を終えた黒刀は床に突き刺さった『八咫烏』を抜いて納刀した後、さとりとこいしを片手ずつ抱きかかえて妖夢達に向き直る。

 

「皆!色々聞きたいこともあるだろうが今はこの場をすぐに離れよう!ぬえの保護霊術が解けてこのザナドゥ王国は消滅する!」

 

「先輩、それって…」

 

妖夢が聞き出そうとする。

 

「急げ!」

 

黒刀が声を張り上げた。

黒刀はさとりとこいしを抱きかかえルーミアは黒刀におんぶしてお空が幽香を抱える。

霊夢、チルノ、大妖精、レミリア、フラン、映姫は自力で飛べるため玉座の間から飛び立つ。

妖夢は飛べないのでハイジャンプで移動しようかと考えていたその時。

箒に跨っている魔理沙が近づいてきた。

 

「乗れ!」

 

妖夢は頷いて魔理沙の後ろに跨った。

妖夢が乗ったことを確認した魔理沙は飛び上がった。

黒刀も翼を展開して飛び立っている。

全員、咲夜が待つヘリコプターのある方角へ向かった直後だった。

玉座の間の中心から巨大な闇の柱が現れそれはどんどん広がっていく。

妖夢が振り向いて見ると闇の柱に飲み込まれた家が消滅していた。

 

「っ!魔理沙!もっとスピード出して!」

 

妖夢は慌てて叫んだ。

 

「スピードを上げろってそんなこと言われても…」

 

魔理沙が振り向いて妖夢が見た現象と同じ現象を見た。

 

「なんじゃありゃ~!」

 

前に向き直ってスピードを最大限まで上げて黒刀達を抜いて一番前に出た。

 

 

 

 黒刀達は旧ザナドゥ王国の領域から脱出して地上に降り立ち振り返って消滅していく旧ザナドゥ王国を眺めていた。

黒刀、ルーミア、さとり、こいし、お空、幽香は胸に手を当てて目を閉じる。

自分達の祖国に感謝の念を込めて。

 

 

 

 ありがとう…そしてさよなら…ザナドゥ王国…

 

 

 

そして旧ザナドゥ王国の領域の一番外側が消滅すると闇の柱がどんどん細くなっていきやがて消え去った。

そこはもうただの荒野となっていた。

黒刀達は目を開けて荒野を見る。

既に覚悟を決めていた6人は涙を流すことなく現実を受け止めた。

 

 

 

 

 

 少し経って最初に口を開いたのはこいしだった。

 

「ねえ黒刀、どうやってルーミアを助けたの?」

 

皆が聞きそびれていたことを代弁した。

 

 

「ああ、『エナジードレイン』でルーミアのオーラを吸収した。」

 

黒刀は真顔で答えた。

 

『え?』

 

ルーミア以外の全員が驚いた。

 

「「引くわ~。」」

 

霊夢と魔理沙が同時に後ずさった。

 

「妹なんだから何の問題もないだろ。」

 

黒刀は首を傾げた。

 

「「いやいや!そっちの方が問題あるし!」」

 

霊夢と魔理沙は声を揃えてツッコんだ。

 

「ロリコン…。」

 

レミリアが顔を逸らして呟いた。

 

「誰がロリコンだ!いいか…よく聞いとけ!俺は…シスコンだ!」

 

黒刀は高らかに宣言した。

フランがショックを受けたのかフラフラと黒刀に近づいていく。

 

「そんな!お義兄様の妹は私だけのはずなのに!」

 

黒刀の右腕に抱きついた。

するとルーミアも頬を可愛らしく膨らましてフランに対抗するように黒刀の左腕に抱きつく。

 

「くろにいは渡さないもん!」

 

当の黒刀は満更でもない顔をしている。

 

「ちょっと!フランを誑かしてんじゃないわよ!この変態!」

 

レミリアはそれが気に食わないのか罵声を浴びせてきた。

 

「そうです!黒刀!兄妹でも節度をわきまえるべきです!」

 

さらに映姫も説教してきた。

 

「は?別に誑かしてないし。っていうか姫姉まで何でそんな怒ってんの?」

 

「「この分からず屋!」」

 

映姫とレミリアは強い口調で言い放った。

 

「え~。」

 

黒刀が困惑しているとその隙を突くように背後からさとりが抱きついてきた。

 

「なら私は黒刀のお嫁さんになる。」

 

さとりの突然の爆弾発言に映姫とレミリアは強烈な危機感を感じた。

ライバルの登場だと。

 

「え~と…さとり?」

 

黒刀が抱きつかれたまま声を発する。

 

「黒刀…約束した。結婚してくれるって。」

 

「それって…4歳の時だろ?」

 

「でも大きくなって私の気持ちが変わらなかったらしてくれるって。…胸はあまり大きくならなかったけど…そこは目を瞑って。」

 

「お互いの気持ちがって言ったはずなんだけど…それにそんなに悲観するほど大きくなっていないわけでもないっていうか…」

 

黒刀は背中に感じる柔らかい感触に動揺していた。

 

「「黒刀!」」

 

それを察した映姫とレミリアが突き刺すような視線と声を放つ。

ルーミアとフランが火花を散らし睨み合って、幽香がやれやれと苦笑して、霊夢と魔理沙がドン引きして、チルノとこいしとお空が爆笑して、大妖精と妖夢がオロオロして、遠くで咲夜がどうしたものかと笑顔を崩さず見守っていた。

そのやり取りはヘリにの乗った後の飛行中も続いていた。

そんなドタバタもあったが最後は皆も疲労で眠り旧ザナドゥ王国とお別れした。




ザナドゥ編完。

ED6 魔法科高校の劣等生 ミレナリオ

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