映姫達が入浴を終えて宴会場に入ると既に皆、食事を始めていた。
妖夢が映姫に気づいた。
「あ、会長!こっちに来て一緒に食べましょう!先輩と咲夜さんのコラボ料理ですよ!」
妖夢は嬉しそうに手を振る。
「ええ。そうですね…黒刀は?」
「先輩なら厨房にいますよ。食べ盛りがいるからって。」
妖夢は指差した先には光とチルノが大食い対決していた。
角の方では諏訪子とにとりが酒を飲んでいる。
見た目のせいか見ず知らずの人が見たら未成年飲酒しているように見える。
2人とも酒に強いのか全く酔っていない。
それからはまさに宴会だった。
魔理沙と愛美が魔法を使ったマジックショーをしたり、
カラオケでチルノと大妖精、妖夢と霊夢と魔理沙、妹紅と輝夜、光と愛美、優と花蓮、黒刀と優、さらにアリスのソロなど大盛り上がりした。
午後8時。
夕食が済んでから黒刀は椛を卓球に誘った。
卓球台の端末を操作してスコアウインドウを展開した。
「また何か賭ける?」
椛が卓球台に置かれたピンポン玉を手のひらで転がしながら訊く。
「ん~今回は別にいい。そっちからサーブでいいよ。」
「それじゃ遠慮なく!」
椛は常人には視認出来ない高速サーブを打つ。
黒刀はそれをあっさり返す。
それを椛が打ち返すラリーが続く。
「あ~!お義兄様と椛さんが卓球してる~!」
するとフランが黒刀と椛が卓球しているところを見つけた。
「お姉様も一緒にやろうよ!」
後からついてきたレミリアを誘う。
黒刀はウインドウを展開して試合中止ボタンを押して椛との試合を中止する。
「ちょうどいいからダブルスでやろうか。」
そう提案する。
「いいわ!ボッコボコにしてあげるわよ!」
レミリアがラケットを手に取る。
組み合わせは黒刀&椛vsレミリア&フランとなった。
レミリアのサーブから始まり黒刀と椛は『覇王の眼』と『千里眼』でお互いの動きを把握し合っているし、レミリアとフランはさすが姉妹と言えるほどのコンビネーションを魅せている。
「ねえ?お義兄様。」
ラリー中にフランが黒刀に話しかける。
「何だ?」
黒刀も聞き返す。
2人とも余裕の表情だ。
もちろんレミリアと椛もだが。
「もし私が勝ったら…お義兄様にちゅーしてあげる♪」
フランは小悪魔的笑顔で口にした。
「「なっ!」」
その発言にレミリアと椛が驚いた。
ちょうど椛が返す順番だった為、動揺してしまった椛は空振りして肘を卓球台の角にぶつけてしまった。
「何してんだ…お前。」
黒刀は呆れ顔で椛を見る。
「あとフラン、俺を動揺させたいのは分かるが隣の奴まで動揺させてどうすんだ?」
「ど、動揺なんてしてないわよ!」
黒刀の指摘にレミリアが声を荒げる。
「全くいくら妹を取られたくないからって過保護すぎるのも問題だぞ。シスコンもここまでくると重症だな。」
黒刀が腕を組んで的外れなことを言い出した。
レミリアは肩を震わせて顔を赤くすると、
「あんたに言われたくないわよ!このバカァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
怒りのサーブを放った。
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
黒刀の叫びが響き渡った。
午後9時。
レミリア達の卓球を終えた黒刀はなんとなく湖まで散歩に来ていた。
綺麗な月が水面に映し出されている。
黒刀が足元の水面を見下ろしているとそこいザナドゥ卿の姿が映し出された。
「あれが今のうぬの仲間か?」
「そうだな…。」
黒刀は苦笑交じりに答えた。
「なあ王様。何で俺のザナドゥ王国の時代の記憶は断片的なものなんだ?」
「恐らく転生するまで1000年かかった影響だろう。余も転生術式を発動するのは初めてであったからな。余も知らないことが多い。」
現在、黒刀がザナドゥ卿の記憶は統一化されている。
黒刀が知らないことをザナドゥ卿は知らないしその逆もまた然り。
そうして物思いに耽っていると背後の茂みから物音がした。
水面に映っていたザナドゥ卿の姿が消えて元の黒刀の姿が水面に映る。
黒刀は特に慌てることなく自然に振り返った。
この島には黒刀達以外いないし仮に侵入者がいたなら黒刀が把握出来ないはずはない。
茂みを見ているとそこからガサガサと音を立てて現れたのは旅館で貸し出されている浴衣を着た真冬だった。
浴衣の色は様々ある中で真冬は雪のように白い浴衣を着ている。
「真冬?どうしたんだ。こんなところで。」
黒刀は特に驚くことなく訊いた。
真冬は浴衣についた葉っぱを手で払ってから黒刀の目を見つめる。
「散歩をしていたら話し声が聞こえたから。…誰かと話してたの?」
真冬が周囲を見渡すがここには黒刀と真冬以外誰もいない。
「ただの独り言だよ。」
黒刀は当たり障りない答えを返した。
ザナドゥについてのことは必要な時を除いて他人に話さないと決めている。
妖夢達にも一応口止めしている。
理由は念の為である。
「黒刀君が独り言?」
真冬は訝しむ目をする。
「俺だって独り言を言いたい時だってあるさ…。」
黒刀はこれ以上の追求から逃れる為、湖へ向き直った。
真冬もそれ以上は聞かずゆっくりと黒刀の隣に並んだ。
しばらく湖を眺めていた2人だったが真冬が体を横に向ける。
「あのね…黒刀君。今日ずっと気になってたんだけど…そのペンダント…。」
真冬はとても言いづらそうに訊く。
「ん?…ああ、これか…。これは…お守りみたいなものかな。」
黒刀は首だけ真冬に向けてぬえの翼がモチーフになったペンダントに左手で触れる。
「ううん…そういうことを聞きたい訳じゃなくて何か…そのペンダントの赤と青の翼…どこかで見たことがあるような気がして…。」
真冬は首を横に振った。
「え?」
黒刀は驚いてペンダントに触れていた左手をそっと下した。
真冬は右手を胸に当てる。
「黒刀君。その…こんなことを頼むのはとても失礼だと思うのだけれど…黒刀君にとってそのペンダントはとても大事なものだということはなんとなく分かっているつもり…それでも…お願い…黒刀君のそのペンダント…私に触らせてもらえないかな?」
真冬は頭を下げてお願いした。
黒刀は迷っていた。
このお願いを聞いてしまったら彼女に知られてしまうのではないかという不安感と断片的になっている記憶が1つでも分かるのではないかという思いが交錯している。
「…分かった。いいよ。」
黒刀は迷った末に首からペンダントを外してひもを握って真冬に差し出した。
真冬が手のひらを上にしてペンダントを受け取ろうとしてペンダントのの翼が真冬の手のひらに触れたその瞬間。
ペンダントが白く光り輝き出した。
「「っ!」」
黒刀と真冬が同時に驚く。
だがそうしていられたのはほんの僅かな時間だった。
黒刀と真冬の頭の中に1つの記憶が流れ込んでいく。
それはザナドゥ王国時代にクロトの隣で優しく微笑む女性。
クロトと一緒にぬえを救った女性。
クロト・ザナドゥが唯一愛した女性。
美しい銀髪を揺らせるその女性こそが旧ザナドゥ王国第一国王クロト・ザナドゥの妻。
白雪真冬である。
髪の色、顔立ち、声はまさに今の真冬と遜色ない。
ペンダントのの輝きが徐々に消えていく。
幸い、湖は森に囲まれていた為この現象を外から認識することは出来ない。
ペンダントの輝きが完全に消えた時、黒刀と真冬の意識も現実に引き戻される。
真冬はペンダントに触れていた手をパッと離した。
「黒刀君…。」
真冬は黒刀の名を呼ぶ。
「真冬…。」
黒刀も呼び返す。
黒刀はペンダントを首にかけ直す。
「そうか…あの銀髪の女は…お前だったのか…真冬。…お前も転生していたのか?」
「…多分違うと思う。」
真冬は首を横に振った。
「容姿が似ているのは本当に偶然で白雪真冬の魂が白金真冬の中に入って生まれたんだと思う。」
蘇った記憶を頼りに説明する。
「そうか…。」
黒刀は地面に腰を下ろした。
真冬も浴衣を汚さないように膝を曲げて腰を下ろす。
「…それじゃ白雪高校っていうのは…」
「うん。多分、白雪家が建てたんだと思う。ただ宗家の白雪真冬はアイヌから逃げた人間だから分家の誰かの子孫が建てたってことになるね。」
真冬はやや罪悪感のこもった声を出す。
ちなみにアイヌとは現在の北海道がまだ日本列島の中に含まれていない時代の地名である。
黒刀は真冬の頭にポンッと手を置いて撫でる。
「お前は悪くない。貴族のしがらみに囚われるのが嫌だったから家を出たんだろう?」
優しい言葉をかける。
真冬は頬を赤くして懐かしむように微笑む。
「うん…ザナドゥ王国の皆は本当に温かくて本当の家族に思えた。…黒刀君。やっぱりそのペンダントって…」
「ぬえの…形見だ。」
「そう…。」
真冬は哀しげな顔をする。
黒刀は綺麗な満天の星空を見上げる。
「あの人は最後まであの人だった。泣き虫なのに誰よりも優しくて誰よりもザナドゥ王国を愛していた凄い人だ。」
黒刀は懐かしむように話す。
「黒刀君にそっくりだね。」
真冬は微笑む。
「そうか?」
黒刀が問い返せば、
「そうだよ。」
真冬が微笑んで応える。
そのやり取りは長年連れ添った夫婦のようだった。
ED7 DOG DAYS′ 夏の約束
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