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帰ってきた男
残暑が続く9月4日。
空港の出口から出てくる黒いTシャツ、黒いハーフパンツ、腰には漆黒の日本刀をぶら下げた1人の男子高校生がいた。
男が歩いていると前方からクラクションの音が聞こえてきた。
自動車が1台停まっている。
「遅いぞ。」
運転席から文句が聞こえる。
「ああ、悪い。」
男は一応謝る。
それから雲1つ無い晴れた青空を仰ぎ見る。
「いい天気だ。」
男の前髪は目の上半分を隠すくらい伸びている。
男は右手で前髪をかき上げた。
「帰ってきたな…この国に。」
この男こそ神光学園校内ランキング元1位にして『剣舞祭』全国制覇を成し遂げた
『破壊王』四季黒刀である。
彼は昨日までのロサンゼルスの大会を終えてこの新大日本帝国に帰ってきたのである。
黒刀が乗った白いアンチグラビティカーのドライバーは彼の担任の河城にとり。
「迎えは教頭じゃなかったけ?」
黒刀が後部座席から訊ねる。
「教頭は尻尾が邪魔でこの車に乗れなかった。」
にとりは呆れ顔。
「ああ…。」
黒刀もどこか冷めた顔をする。
にとりはアクセルを踏んで車を走らせる。
「それで大会はどうだった?」
にとりは黒刀が参加したロサンゼルスの大会について訊いた。
黒刀は頬杖をついて窓ガラスから外の景色を眺める。
「死ぬほど退屈な試合だったよ。」
「優勝者のセリフとは思えないな。」
にとりの言葉に黒刀は不機嫌な顔をする。
「サイトを見てから言え。」
黒刀は空間ウインドウを展開して慣れた手つきで操作すると大会サイト情報をにとりの携帯端末に送信した。
にとりは右手でハンドルを握りながら左手でサイト情報を開いた。
「…全試合秒殺の圧勝か。なるほどな…そりゃお前の機嫌も悪くなるな。」
にとりはフッと笑う。
黒刀は後部座席で横になる。
「手ごたえが無さすぎる。せいぜいサンドバッグ程度だな。」
そう口にしてあくびをかく。
にとりはこれ以上掘り返すと機嫌が悪くなる一方だと悟って話題を変える。
「そういえば神光学園が色々変わったことは聞いたか?」
「カリキュラムの変更、学校設備のリニューアル、土曜授業の追加、『乱戦』も廃止…だろ?」
黒刀は寝転がりながら答えた。
「まあ、学生の本分は勉強だからな。週末の度に医務室が満員じゃ永琳先生も大変だろ。誰かさんが暴れ回るせいで。」
にとりはバックミラー越しに黒刀の顔を見た。
「怪我したくなきゃ避けろってんだ。」
黒刀は顔を背けて毒づいた。
「無茶言うなよ…。」
にとりは呆れ顔でため息を吐いて気のないツッコミを入れた。
その頃。
神光学園の生徒は黒刀の帰国を迎える暇などなく勉学に謹んでいた。
だが黒刀と親しい関係を持つ友人、先輩、後輩は授業どころではなかった。
事前に黒刀から連絡を受けている映姫と紫は落ち着いている。
その他の生徒は授業に集中で来ていない者が多かった。
その原因は黒刀が帰国したと独自に情報を収集し発進した射命丸文にあった。
そのせいで1時限目だけで妖夢とチルノが担任の慧音に3回頭を小突かれた。
正午 昼休み。
文の最新情報により黒刀が神光学園に到着したと全校生徒に知れ渡った。
文の余計なおせっかいのせいで黒刀は着いて早々2,3年生からの決闘の連戦をする羽目になった。
これも神光学園らしい歓迎と言えるだろう。
妖夢達が黒刀を取り囲む人だかりに辿り着いたのは騒ぎが起きてだいぶ後のことだった。
霊夢はこういう人混みは嫌いで教室に留まり、大妖精は人混みに入っていく勇気はなく霊夢と共にし、結局妖夢、チルノ、魔理沙の3人が人混みをなんとかかき分けて中心に進んで行く。
「先輩…やっと会えるんだ…。」
《勝者 四季黒刀》
その時、決闘の勝敗を告げる機械音声が鳴り響いた。
5か月前の春に全く同じ場所でチルノが負けた時に全く同じ機械音声を聞いたことがある。
しかし、その人物に会いたい気持ちはあの時とは比べ物にならない。
「先輩!」
妖夢が人混みの中から飛び出してついに中心に辿り着いた時、その目が捉えたのは若干、髪が伸びた黒髪の剣士の後ろ姿だった。
その剣士はデュエルジャケットではなく黒シャツ、黒いハーフパンツの私服姿のまま決闘していたようだ。
「ん?」
その剣士が声に反応してこちらに振り返り顔を見せた。
ついに2人の剣士が12日ぶりの再会を果たす。
「先輩…。」
妖夢が声を漏らす。
魔理沙とチルノも妖夢に追いついて黒刀と対面する。
そして驚く。
黒刀の雰囲気が以前と違って僅かに大人びていたからだ。
「ただいま。」
黒刀は3人の顔を見て一瞬だけ微笑んだ。
「「黒刀~!」」「先輩~!」
妖夢達は我慢できず黒刀に駆け寄る。
「話がある。」
だが大勢が見ている中でハグする訳にもいかず黒刀は中庭へ移動をすすめた。
にとりには昼休みが終わってから学園長室に行くと伝えておく。
中庭に移動したからといって外野が気にならないはずはなく黒刀と妖夢達がベンチに座っている様子を木陰や物陰からこっそり見るという行為を行う者が多かった。
少なくとも20人はいるだろう。
黒刀は気づいていたが追い払うのも面倒なので放っておいた。
妖夢達も当然これだけ視線を向ける者が多ければいやでも気がつくが黒刀が何もしない気配を察して同じように無視する。
黒刀は校外で昼食を済ませている為、妖夢達は各々の弁当を広げて食事している。
ちなみにチルノの弁当は大妖精の手作りである。
話を切り出したのは黒刀。
「魔理沙、お前に渡したいものがある。」
そう言ってアタッシュケースを取り出した。
「私に?」
魔理沙が意外そうな声を出す。
「まあ、お前にピッタリの土産だ。」
黒刀が苦笑してケースを開けた。
その中に入っていたのは…
「これって…ミニ八卦炉ですか?」
妖夢が実物を見て首を傾げた。
「どういうことだ?ミニ八卦炉なら私は持ってるし、いやそれ以前に何で黒刀がミニ八卦炉を持っているんだ?」
魔理沙が疑問を口にする。
「これはミニ八卦炉じゃない。」
黒刀はそれを待っていたかのように答えた。
「「「え?」」」
3人が同時に声を上げる。
黒刀はこう続けた。
「これは…MADだ。」
MAD。
MajicAssistantDeviceの略で魔法補助装置。
SDが剣士等の武器ならMADは魔法師の為の武器。
謎の研究者『ブラッククロウ』によって開発されたのがこのMADである。
MADは魔法の発動速度、多様性、威力を補助するという画期的な装置である。
形は様々で端末型、腕輪型、装着型、銃などの武装型。
そして黒刀が魔理沙に見せたような特化型。
この開発は世界にとって大きな衝撃を与えることとなった、
それも当然であろう。
いわば兵器が開発されたのだから。
各国政府はそれぞれ対応し始めた。
だがこの開発について本来知っているのは新大日本帝国だけのはずだった。
謎の研究者『ブラッククロウ』はこの開発のフォーマットデータを帝国軍情報部に送信した。
しかし情報を管理している情報が海外のフリーハッカーに情報を漏洩されてしまってMADのフォーマットデータは世界中に流出してしまった。
幸い流れてしまったのは開発の基礎設計となるフォーマットデータだけなのでそこからどのようにアレンジできるかは製作者の腕にかかっている。
もしかしたら『ブラッククロウ』はそこまで読んでフォーマットデータのみを送信したのかもしれない。
オリジナルデータを漏洩されてしまったら混乱はこんなものでは済まなかっただろう。
そういうことでいまやMADの存在は世界中で特に魔法師の間では一般常識となっている。
そして、何を隠そうその開発者『ブラッククロウ』が妖夢達の目の前で面白そうに微笑んでいる四季黒刀なのである。
「俺はこういったデバイス調整が得意だからちょうどいいし帰国土産に魔理沙にMADをプレゼントしようと考えたんだ。」
黒刀はもっともらしい理由をつける。
「魔理沙の魔法はほとんど放出系魔法だから特化型MADにしてみた。それに手に馴染むようにミニ八卦炉と同じデザインにしておいたよ。とりあえず手に持ってみろ。」
黒刀は魔理沙にそう促した。
魔理沙は言われた通りケースからMADを取り出していつものように握った。
「違和感はないか?」
「怖いくらいに無いよ。」
黒刀の問いに魔理沙は即答した。
妖夢が魔理沙の横顔を覗き込む。
「魔理沙、ミニ八卦炉はどうするの?さすがにMADと同時に使うっていうのは…」
「これからは…このMADを使わせてもらうよ。」
「それはテストしてから決めた方がいいと思うぞ。」
黒刀が苦笑する。
「それもそうだな。」
魔理沙も笑ってMADを前に突き出して魔法弾を1発放った。
その発動速度は以前より遥かに速かった。
魔法弾が木の幹に直撃して木を揺らす。
手加減して撃ったのでこれは当然の結果である。
気にすべきはそこではなく魔法術式の構築から発動まで速度である。
今までに比べて半分の時間しかかかっていない。
「うん。やっぱり問題なし!」
魔理沙は満面の笑みを黒刀に向ける。
「決めたのか?」
魔理沙にとってこれは愚問だった。
「ああ!確かにミニ八卦炉にはこれまで何度も助けられた。けど魔法師にとって魔法は道具。デバイスも道具なんだ。細かいことにいちいちこだわっていたらいつまで経っても進歩しないぜ!」
魔理沙の言葉は開発者の黒刀にとっては素直に嬉しい言葉だった。
午後1時 学園長室。
昼休みが終わって黒刀は妖夢達と別れて学園長室に来ていた。
紫が学園長の椅子に座り、藍がその背後で立ったまま控えて、にとりがソファに座っている。
黒刀が学園長のデスクの前に立っている。
「まずはロサンゼルスのオープンクラストーナメント優勝おめでとう。」
紫が話を切り出した。
学園長室のショーケースには既に優勝トロフィーが飾られている。
これは黒刀が神光学園に航空便で送ったためである。
「ありがとうございます。」
黒刀は形式上の挨拶を返す。
紫も理解した上なのでそこに関しては特に何も言わない。
「学校側としては祝勝会でもやりたいところなのだけれど…」
「別にいらないです。」
紫の提案を黒刀はあっけなく断った。
「それより俺の端末に校内ランキングのデータを更新したいのですが…」
黒刀は遠回しに退室を願った。
休学状態であった為、校内ランキングデータが停止状態となっている。
再起動するためには学園の事務室で手続きを済ませなければならない。
「何故そんなに急ぐのかしら?」
紫の問いに黒刀が答えたようとしたその時。
代わりに答えたのはにとりだった。
「1位を知りたいんだろ?」
「…はい。」
黒刀は素直に答えた。
これが軍の任務中ならはいではなくああと返しただろう。
今は教師と生徒。
紫と藍も黒刀とにとりが軍に所属していることは知っているが誰が聞いてるかもしれない学園内では迂闊に正体を悟らせるような発言は避けるべきだと心構えている。
「今の俺は1位じゃありません。なので今日中に1位を取り戻しておこうと思います。」
黒刀はなんと大胆な発言をしたが3人は特に驚きもしない。
彼ならこれくらいのことは言うだろうと思っていたからだ。
「今の1位は…1年A組チルノだ。」
にとりが立ち上がって黒刀の知りたい情報を開示した。
「へえ~あいつが。」
黒刀は不敵な笑みを浮かべる。
「午後の授業は?」
「1年以外ないよ。」
黒刀とにとりの簡潔な質疑応答が行われた。
「分かった。それでは俺はこれで失礼します。」
黒刀は頭を下げてから踵を返して退室した。
「どう?彼の調子は。」
黒刀が退室したところで紫がにとりに問う。
「退屈そうにしてます。」
「退屈?」
紫が訝しげな目をする。
「周囲に比べて黒刀は強くなり過ぎた。そのせいで対等に闘える相手がいないのでしょう。」
「確かに以前の彼も強かったですがそれは周囲に比べて1つか2つ程度のレベル。今の彼は周囲との実力差をさらに広げたということでしょう。」
藍が教師らしい見解を述べる。
「今の黒刀と国内で張り合える高校生は四季映姫かレミリア・スカーレットくらいでしょう。」
にとりがため息を吐く。
「レミリア・スカーレットは今イギリスに帰国しているわ。」
紫がそう口にする。
「四季映姫の方は?」
にとりが問う。
「当人同士が言うにはまだ闘うべき時ではない…だそうよ。まあ姉弟の問題に他人が口出しする権利はないわね。」
紫もため息を吐く。
学園長室に重苦しい空気が流れたその時。
にとりがハッと思い出したように口を開いた。
「レミリア・スカーレットが帰国した…ってことはそろそろあの時期では?」
「…ああ。そういえばそうね。」
藍は言葉足らずの2人の会話についていけるはずもなく邪魔だけはしまいと無言で立ち尽くしていた。
事務室で端末の更新手続きを済ませた黒刀はお気に入りの昼寝スポットの桜の木の下に向かった。
もちろん今は9月なので桜は咲いていない。
桜の木の下で寝転がると空間ウインドウを展開して校内ランキングを閲覧する。
1位 チルノ
2位 魂魄妖夢
10位 霧雨魔理沙
20位 博麗霊夢
「霊夢は適度に抜いているな…魔理沙は苦手な近接系に苦戦しているってところか…」
黒刀はランキングを見てさも驚きもせず軽い分析を始める。
現在の黒刀の順位は294位。
295位が無いのは春に大平が退学になったので1人分減ったからである。
「1位に挑むのは1年の入学式の日以来か…」
黒刀は独り言を呟いた後、眠った。
午後3時 6時限目終了。
「こんなところで寝ていると風邪をひきますよ。」
黒刀の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
目を開けると黒刀の姉の四季映姫が上から黒刀の顔を覗き込んでいた。
左手で前髪を押さえながら覗き込む無意識の仕草に加えて顔の距離が思ったより近い。
黒刀は少し顔を赤くして逸らす。
「…ただいま。」
「ちゃんと私の顔を見て言いなさい。」
映姫はジト目で軽く叱った。
黒刀は観念して上半身を起こした。
そよ風が吹いて黒刀の目の上半分を隠している前髪がかき上げられてその顔がはっきり見える。
「…ただいま…姫姉。」
黒刀は映姫に微笑んで優しい声で帰国の挨拶をした。
映姫は眩しく温かな笑顔を黒刀に向ける。
「おかえり…黒刀。」
もう少し姉弟の時間に浸っていたかったがそうもいかないようだ。
黒刀がこちらに走って来る人影に気づいた。
その人物とは…チルノだった。
「呼ぶ手間が省けたな。」
黒刀は立ち上がる。
「黒刀、勝負だ!」
猛スピードで桜の木の下に滑り込んだチルノは黒刀を指差して決闘を持ち掛けた。
「いいぜ。1位から引きずり落としてやる。」
黒刀は内心で、チルノらしいな、と思いながら決闘を受けた。
その時。
「チルノちゃ~ん…ちょっと…速いよ~。」
大妖精が息を切らせながら走ってきた。
一緒に妖夢、霊夢、魔理沙も走って来ている。
4人が黒刀の元へ辿り着く。
「先輩と闘うんですか?」
「チルノちゃん、まだ早いと思うよ。」
「春にあれだけやられたっていうのに懲りないわね。」
「でもチルノらしいぜ。」
それぞれが違う反応をする。
「今のあたいは1位!つまり最強…いや超最強!」
チルノは拳を突き出して宣言した。
「それじゃ久しぶりにあそこでやるか。」
黒刀はチルノの宣言を当たり前のようにスルーする。
「「「「「あそこ?」」」」」
妖夢達が首を傾げる。
だがすぐに思い当たって同時に声を出す。
「「「「「あ、体育館!」」」」」
黒刀達が第2体育館に入って行くと噂を嗅ぎつけた野次馬が次々と入ってきて観客席に座る。
妖夢達は最前列に座っている。
黒刀とチルノはフィールドで向かい合っている。
まるで春の決闘の再現のようだ。
チルノは黒刀がデュエルジャケットを装着していないことに気づいた。
「それでいいの?」
チルノは笑みを浮かべる。
「ああ。これでいい。」
黒刀はそう返した。
その時、チルノだけでなく野次馬も違和感に気づいた。
黒刀の左手に『八咫烏』はなく代わりに右手に汎用型SDが握られていることに。
チルノは一瞬舐められていると思ったがすぐに考え直した。
黒刀が考えもなしにこんなことはしないと。
黒刀が汎用型SDのトリガーを押すと先端からビームブレードが伸びる。
両者が腰を落として構える。
《3…2…1…0.デュエルスタート》
「ソードフリーザー!」
開始の合図と同時にチルノが氷の剣を造形した。
だがその一瞬で黒刀が目の前に接近していた。
「速い!」
観客席にいる妖夢が声を上げる。
「でもスピードだったらチルノちゃんだって!」
大妖精も無意識に張り合うような発言をする。
黒刀はSDを水平に振って斬る。
チルノはしゃがんで斬り上げようとしたその時。
チルノが反撃するよりも速く黒刀の2撃目のの振り下ろしが迫っていた。
チルノはバックステップして距離を取る。
しかし黒刀は簡単に逃さない。
一歩で間合いを詰めるとすかさず連続攻撃をしかける。
「くっ!」
チルノが声を上げる。
「妖夢、気づきましたか?」
映姫が決闘を観戦しながら隣の妖夢に訊ねた。
「あ、はい。先輩は重い日本刀を使用していたのでほとんど重量が無いSDを使用したことによってスピードが際立ったということでしょうか。」
妖夢は師匠の問いにそう答えた。
「正解です。『八咫烏』を使用している時でさえ高速で斬っているのですからSDを使用すれば剣速が速くなるのは当然と言えます。」
「つまりこれが先輩の最高速度の剣速…」
妖夢はそう言葉を漏らす。
チルノはこのまま攻め崩されると思ったか翼を広げてある程度のダメージを覚悟して飛翔した。
『破壊王の鎧』で遠距離攻撃は通用しないことは春に散々思い知らされているチルノは加速して黒刀の頭上から斬りかかった。
「はああああ!」
チルノが雄叫びを上げる。
黒刀はチルノの剣をSDで弾くと斜め下から斬り上げた。
だがチルノの体は水蒸気となって消えた。
次の瞬間、チルノが現れたのは黒刀の背後だった。
これはチルノの霊術『ドライジェット』だ。
「グレートクラッシャー!」
チルノは氷のハンマーを造形して黒刀に叩きつける。
黒刀は振り向くと同時にSDを水平に振る。
氷のハンマーはあっけなく斬り砕かれてしまった。
だがチルノにとってはこれは布石だった。
「霊力解放!」
チルノを中心に光の柱が立ち天に伸びていく。
チルノの霊力が80%から90%に上昇する。
「見せてやる!あたいの新技を!」
チルノが駆け出したその瞬間、3人に増えた。
「「「イリュージョンアクセル!」」」
観戦している野次馬は思わず声を上げた。
だが黒刀は大して驚きもしていなかった。
ただ冷静に目の前の状況を分析している。
「仕方ない…少し遊びに付き合ってやるか。」
黒刀は自ら3人のチルノに接近する。
1人目のチルノが斬りかかってきたのでSDで受け止めてから右足で蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたチルノは残像となって消える。
2人目のチルノが走りながら『アイスニードル』を放ってきたのであえて『破壊王の鎧』を発動せずSDで薙ぎ払った。
「トルネードグレートクラッシャー!」
3人目のチルノがその隙に叩き込んできた。
黒刀は腰を落とす。
「四季流剣術 弐の段 一閃!」
一瞬で氷のハンマーを切り裂いた。
「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」
2人のチルノを同時に斬った。
片方のチルノは残像となって消えてもう一方のチルノは水蒸気となって消えた。
続けざまに氷を破壊した上に『ドライジェット』を発動したことにより周りは霧だらけだった。
「(理科の勉強は続けているようだな。)」
黒刀はこの状況にも関わらず感心していた。
ここで大声を出して攻撃するほどチルノは愚かではない。
チルノは黒刀の背後から静かに斬りかかった。
「(この霧なら黒刀の『眼』でも見えない。あたいの勝ちだ!)」
チルノは勝利を確信した。
だがその確信はすぐに裏切られる。
黒刀は背を向けたまま体を横に揺らして攻撃を躱した。
「(何で…見えてないはずなのに!)」
チルノは驚きを隠せない。
黒刀が空振りとなった剣を握っているチルノの右手首を右手で掴む。
SDは既にしまっている。
そのままチルノの体を片手の腕力だけで持ち上げて床に叩きつけた。
「がはっ!」
チルノは声を上げた直後、脳震盪で気絶する。
体育館にはチルノを中心に亀裂が入っている。
《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 四季黒刀》
この瞬間、黒刀は神光学園校内ランキング1位に返り咲いた。
黒刀は無言でチルノを抱きかかえると医務室に連れて行く為その場を去った。
大妖精は観客席の出口から廊下に出てチルノの元へ走りながらある疑問が頭に浮かぶ。
「(さっきチルノちゃんは確かに黒刀先輩の死角を突いた。それなのに黒刀先輩は避けた。黒刀先輩の『眼』は確かに全方位を視れるけど霧とか視界の悪い場所では視えないはず…それなのに…何で…)」
大妖精がいくら考えたところで答えが分かるはずもなかった。
黒刀がチルノを医務室に運ぶ途中でその瞳の奥に一瞬だけ紫色の五芒星が浮かび上がる。
それは『千里眼』ではなく『覇王の眼』。
全方位を視るだけでなく不可視を視通すことが出来る眼である。
いわば『千里眼』の上位スキル。
黒刀が廊下の角を曲がったところで大妖精とバッタリ会った。
「黒刀先輩…」
大妖精が心配した口調で声をかける。
無論チルノを気遣ってのことだ。
黒刀は大妖精を安心させるように微笑む。
「さすがに少しやり過ぎた。心配すんな。少しすればすぐに目を覚ます。」
その言葉に大妖精は安心して胸を撫で下ろす。
「とりあえず医務室で寝かしておこう。」
「はい。」
医務室に向かって歩き出す黒刀に大妖精がついていく。
医務室でチルノを寝かせた黒刀は大妖精に付き添わせて医務室を後にした。
黒刀は窓から空を見上げる。
時刻は午後4時。
日もだんだん落ちかけている。
「(やっぱり今の俺を滾らせられるのは…)」
イギリス。イギリス時間午前1時。
レミリアも偶然ながら黒刀と同じように空を見上げて何やら考え込んでいた。
「どうかなさいましたか?お嬢様。」
咲夜が声をかける。
「別に大したことじゃないわ。」
そう返して夜空を見上げながら紅茶を飲む。
「(そろそろ決着をつけるべきなのかもしれないわね…)」
日本。午後4時。
黒刀はにとりの車で登校してきたので帰りも送ってもらおうとしたのだがにとりに、私はお前のドライバーじゃない、と断られてしまったので徒歩で帰ることとなった。
そういう訳で妖夢達と途中まで下校を共にすることにした。
チルノは軽い脳震盪だけで済んで特に後遺症も無かった。
ただ目を覚ましてから度々黒刀に悔しそうな目を向けている。
黒刀はチルノのプライドを刺激しない為、あえてそこには触れていない。
「あ、そうだ。」
黒刀が思い出したように声を出した。
妖夢達が首を傾げていると黒刀は手に持っている袋から何かを取り出した。
「これ大妖精にやるよ。空港で買ったやつだけど。」
大妖精に差し出したのはハリセンだった。
「チルノにツッコミを入れる時に使えよ。」
大妖精は予想外のプレゼントに苦笑するしかなかった。
「女の子にプレゼントするものじゃないわね。」
霊夢は呆れ顔。
「黒刀!それはどういうことだ!」
黒刀は発言にチルノは黙っていられなくなった。
大妖精は真顔でチルノの脳天をハリセンで叩く。
「あ、痛っ!」
チルノが悲鳴を上げる。
大妖精は手に持つハリセンを見下ろす。
「うん。悪くないかも。」
「え…何?何であたい叩かれたの?」
チルノは両手で叩かれた頭を押さえてパニック状態になっていた。
黒刀はそんな2人のコント(?)を見て少しだけ微笑む。
「じゃ、俺はここで。」
妖夢達に手を振って別れた。
黒刀が商店街に建っている自宅の玄関のドアを開ける。
「ただいま~。」
その時。
リビングから走って来る足音が聞こえた。
姿を現したのは映姫ではなくなんと…
「おかえり~!」
満面の笑みで黒刀に胸に抱きついてきたルーミアだった。
さすがにこれには黒刀も驚いた。
「ルーミア…何でここに?」
その疑問に答えたのはリビングから姿を現したエプロン姿の映姫だった。
「今日から私達と一緒に暮らすことになったのよ。」
「そうなのだ~♪」
「詳しい話は後で。夕飯はもう作ってあるから食べましょう。」
映姫はリビングに戻る。
「さあ、早く早く♪」
ルーミアは黒刀の手を引いてリビングに連れて行く。
並べられている料理は豪華と言う訳ではなく一般的な料理ばかりだが黒刀はテーブルの中心に置いてある唐揚げを見た。
「お、姫姉の唐揚げだ。」
するとルーミアがムッとした顔をする。
「くろにい、私も作ったんだよ~。」
「ごめんごめん。ルーミアの唐揚げも楽しみにしてるよ。」
黒刀はルーミアの頭を優しく撫でた。
ルーミアは嬉しそうに黒刀の撫でる手を受ける。
映姫がキッチンでエプロンを外してリビングに来る。
リビングのテーブルは縦横1mの正方形で映姫の向かい側に黒刀が座りその隣にルーミアが座る。
映姫がジュースの入ったコップを持つ。
「それじゃ黒刀、大会お疲れ様。そして優勝おめでとう!」
「おめでとう~!」
3人は乾杯した。
夕飯を食べ終えた黒刀は映姫からルーミアがこの家に住む経緯を聞いていた。
「つまりルーミアは四季家の養子になったってことか。」
黒刀は映姫の説明を簡潔にまとめた。
「ええ。戸籍上の名前は四季瑠美亜。」
映姫がルーミアのプロフィールデータを空間ウインドウを展開して黒刀に見せる。
「いい名前だ。」
黒刀は素直に感心した。
一通りルーミアの説明を終えたところで映姫は両手を腰に当てた。
「それより黒刀、そのだらしなく伸びた髪は何ですか!」
映姫は軽く怒っていた。
「いや~自分で切るのは…」
「自分で切るのは…何ですか?」
黒刀が黙り込むが映姫は逃さない。
「めんどくさいな~って。」
黒刀がそう答えた瞬間、映姫のこめかみがピクッと震えた。
映姫は黒刀の両頬を左右から引っ張る。
「全く!あなたはよくもそんな短期間で堕落できるものですね~!」
「いや…だって姫姉に切ってもらうのが一番いいんだもん。」
黒刀がそう言った瞬間、映姫の動きが止まった。
直後、両頬を掴む手を離す。
その反動で黒刀の頬がパンッと音を立てた。
「あ、いって!」
黒刀が悲鳴を上げる。
映姫は顔を赤くしてそっぽを向く。
「全くしょうがないですね黒刀は。そこまで言うなら切ってあげます。」
ちなみにルーミアは終始爆笑していた。
庭に出て黒刀を木製の椅子に座らせると映姫は散髪用のハサミを持って来て黒刀の髪を上手に切っていく。
「全く男の子だからといって髪の毛をぞんざいに扱っていいというものではないのですよ。」
映姫は小言を言いながら髪を切っていく。
「うん。ごめん。」
黒刀は静止したまま謝る。
時刻は既に7時を回っている。
ルーミアは夜空を見上げながら縁側に腰かけて足をプラプラと揺らしている。
「くろにい、それ終わったら一緒にお風呂入ろうよ。」
「いいよ~。」
映姫が髪を切っている為、黒刀は目を閉じて応えた。
兄妹で入浴することは特に何の問題もない。
だから映姫も特に口を出さず黒刀の前髪を切っていたのだが…
「ねえ。姫姉も一緒に入ろうよ?」
ルーミアが爆弾を投下した。
「ふぇ?」
映姫は変な声を上げて顔を赤くする。
「私は一緒に入りません!」
「え~何で?」
「何でもです!」
映姫は断固拒否した。
「(ルーミア、姫姉の手が滑って変な髪型になったらどうするんだよ。)」
黒刀だけは違うことを考えていた。
「はい。終わりましたよ。」
映姫は調子を取り戻して散髪を終えた。
黒刀が立ち上がるとルーミアが手鏡を出してくれたのでそれを受け取って鏡の自分を見る。
黒刀の髪は以前と同じになっていて髪の長さは邪魔にならない絶妙の長さになっている。
「わあ~!くろにい、カッコイイ!」
ルーミアが素直に褒める。
「ありがとう。」
黒刀は微笑んでお礼を返す。
「くろにい、お風呂♪お風呂♪」
後片付けを終えるとルーミアが黒刀との入浴を待ちきれないようだった。
「分かった分かった。」
黒刀は苦笑しながら家の中に戻る。
「~♪~~♪」
ルーミアはお風呂で黒刀に髪を洗ってもらってご機嫌だった。
「流すぞ~目つぶれ。」
黒刀がシャワーでルーミアの髪につく泡を洗い流す。
ルーミアは子犬のようにプルプルと首を振る。
黒刀はスポンジを持つ。
「じゃ次は背中洗うな。」
「え~全身洗ってよ~くろにい~。」
ルーミアがおねだりする。
「ダメだ。自分で洗え。」
黒刀がジト目で断る。
「え~ケチ~!」
ルーミアが唇を尖らせる。
だが黒刀が背中を洗い出すと途端に気持ちよさそうな顔になった。
ルーミアの背中も洗い終わって黒刀が自分で体を洗おうとする。
「次は私が洗ってあげる♪」
「じゃ、頼む。」
黒刀は優しく微笑んでお願いする。
「任せて!」
ルーミアは笑顔で応える。
黒刀の髪を丁寧に洗って次に背中を洗うところで黒刀のお腹に手を回して抱きつく。
「どうした?」
黒刀の声に動揺はない。
「くろにい…私達ってほんとの兄妹って言えるのかな…」
ルーミアが弱音を吐く。
「ルーミア。」
黒刀はため息を吐いて名を呼ぶ。
ルーミアが顔を上げると黒刀はその額にコツンと軽くデコピン。
「あうっ!」
「大事なのは血の繋がりなんかじゃない。心の繋がりだ。それはぬえが教えてくれたことだろう?」
黒刀はルーミアを軽く叱った。
「うん…ごめんなさい。」
ルーミアは黒刀が首にぶら下げているペンダントに視線を移して謝る。
「ルーミア、背中を洗ってくれるか?」
黒刀はそれ以上叱ることなく再開を促した。
ルーミアは黒刀の背中から体を離す。
「うん♪」
そして、とびっきりの笑顔で応えた。
午後9時。
映姫も入浴を終えてそろそろ寝ようと寝室に入ろうとした時に気づいた。
寝る時はどうするのかと。
その疑問は寝室に入った瞬間に解決されていた。
1つのベッドに黒刀が窓側、ルーミアがその隣、そして映姫の分のスペースは入り口側となっていた。
つまり川の字で寝るということである。
黒刀もルーミアも既に眠っている。
「全くこっちの気も知らないで。」
映姫は苦笑して布団の中に入る。
黒刀とルーミアは幸せそうに寝ている。
黒刀はルーミアは後ろからギュッと抱きしめて眠っている。
映姫もルーミアを正面から抱きしめる。
目を閉じて眠りに落ちていく。
9月6日 月曜日 午前6時。
神光学園午前7時50分には教室で自分の席に座っていなければならない為、普通科高校より時間が早い。
だからといって遅刻は許されない。
生徒会長は朝早くから正門前で挨拶しているので遅刻をした者は厳罰が下されるだろう。
その生徒会長を姉に持つ黒刀は特に時間に注意しなければならない。
なので毎朝、早起きしている。
習慣にしてしまえばそれほど苦労はない。
ルーミアはまだ眠っている。
7時頃には映姫は学校に登校していた。
黒刀は朝食と朝練を済ませるとまだ家を出るには余裕があるのでプログラムを立ち上げてMADの調整を行っていた。
現代の学校では紙類の教科書はなく全てデータテキストで授業を行っている。
その為、デバイスと携帯端末以外はそれほど荷物が無い。
ルーミアの分の朝食と昼食を作ってから冷蔵庫に保存してメモを冷蔵庫に貼った。
戸締りをしてから愛用の黒いカラーリングのアンチグラビティバイクに乗って登校した。
その日の神光学園はいつも学校全体の空気が違った。
黒刀は何事かと思ったがその疑問は教室に入って解かれた。
アリスは仕事がオフだったらしく登校していた。
「聞いた?編入生が来るんだって。」
「へえ。」
黒刀はアリスの言葉に軽く返した。
「反応薄いですね。この私が必死に集めた情報だというのに。」
文が誇らしげに胸を張る。
黒刀は呆れた目で席に座る。
「しかも1年に1人、2年に2人と計3人ですよ!凄い偶然と思いませんか?」
「はいはい。」
黒刀は適当に流す。
「で、編入生は見たの?」
「いえ。女子ということ以外は何も。」
アリスの質問に文はそう返す。
「使えねえ。」
「何を~!」
黒刀の一言に文がムキになったところでタイミング良く本鈴が鳴る。
文はまだ言いたいことがあったがこのクラスの担任はにとりなので大人しく席に座る。
同じ頃。
1年A組には既に編入生が教室に入っていた。
その編入生とは…
「霊烏路空です!お空って呼んで下さい!」
自己紹介したのは黒刀と同じザナドゥ出身のお空だった。
妖夢達は驚いて固まっている。
「あ、久しぶり~!」
お空は妖夢達を見つけると手を振った。
戦闘時では右手に装着型デバイスを着けているが今は着けていない。
「あら知り合い?」
慧音が訊く。
「はい!」
お空は笑顔で応える。
「大妖精さんと妖夢さん。後でお空さんに学校を案内してあげて下さい。」
慧音が2人にお願いする。
「「はい!」」
このクラスの委員長的な立場である大妖精は断ることが出来ず、人が良い妖夢は元気よく応えた。
ちなみに大妖精は保健委員である。
「お空さんは霊夢さんの後ろの席に座って下さい。」
慧音が霊夢の後ろの席を指差す。
後ろの席でニコニコ笑っているお空の存在に霊夢は居心地の悪さを感じていた。
一方、2年A組では…
「古明地さとりです。」
「…犬走椛です。」
2人の編入生が自己紹介していた。
黒刀はルーミアが引っ越してきたのでさとりが編入生として来る可能性は考慮していた。
だが椛が神光学園に来たことはさすがに予想外だった。
黒刀が起こした反応は口を開けて驚くではなく…
「椛~!久しぶりだな~!」
いつの間にか『抜き足』で椛の背後に回って抱きついて頭を撫で回す。
性格には耳に。
椛は肩をプルプルと震わせる。
「だから人の頭を勝手に撫でるなって言ってんだ狼牙!」
黒刀の手を振り払って掌底を叩き込む。
だが既に黒刀は椛から距離を取っていた。
「何だよ~少しぐらいモフらせてくれたっていいじゃんか。」
黒刀は不満を漏らす。
椛は黒刀を睨む。
「冗談じゃない!あんな屈辱二度とごめんよ!」
「その割には喜んでいたよう…」
「そ、そんなわけないでしょ!」
椛は黒刀が言い切る前に否定した。
そんな感じに言い合っていたその時。
黒刀の右腕にさとりが抱きついてきた。
「黒刀、私もいるよ。」
相変わらず気のない声で話しかけるさとり。
「さとり…今の『抜き足』だろ。誰に教わった?」
「洩矢諏訪子って人。」
さとりは当然のように答えた。
「(あのロリババア…余計なことを。)」
クラスメートはあの『蝦蟇王』洩矢諏訪子と知り合っていることに驚いていたが黒刀は心の中で毒を吐いていた。
さらにこの場でもう1人別の反応をする者がいた。
「ちょっと!いつまで黒刀に抱きついてるのよ!」
アリスが席から立ち上がってビシッとさとりを指差した。
「何か問題ある?」
さとりは首を傾げる。
「大ありよ!」
アリスは大声で返して電子黒板の前まで歩いてきた。
「だいたい、あなた黒刀と一体どんな関係でそんなことしてるのよ!」
アリスは怒りながらさとりに訊く。
「黒刀は私の婚約者。故にこの行為は許されるもの。」
さとりはポーカーフェイスで答える。
「げっ!」
黒刀が声を上げる。
『え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!』
クラスメートが全員が驚く。
「だからそれは5歳の時の話だろ。」
黒刀は抱きつかれた姿勢のまま遠回しに否定した。
さとりは首を横に振る。
「諏訪子が言ってた。男が一度交わした約束は絶対に守るべきだって。」
「(あのロリババア…ほんとロクなことしねえな!)」
黒刀はまた心の中で毒を吐く。
「婚約者…5歳…どういうこと?」
アリスは状況を理解できていなかった。
「あ~さとりは俺が生まれた時からの幼馴染なんだ。」
「なっ!」
アリスはショックを受けた。
今まで黒刀の幼馴染ポジションは自分だと思っていたらである。
しかし、さすがはトップアイドルというべきか立ち直りは早い。
「でもそれとこれとは話が別よ!」
アリスは黒刀に抱きついているさとりの腕を指差した。
すると、さとりがムッとした顔になった。
「そんなことあなたに指図される義理はない。」
「あるわよ!わたしだってこいつの幼馴染だもの!」
アリスは次に黒刀を指差した。
クラスメートは全員一斉にこう思った。
『(何この修羅場?)』
逆に黒刀はこう思っていた。
『(こんなところを姫姉に見られたら…殺される…)』
冷や汗が出始める。
考えた結果、取った判断は…
「とりあえずさとりはいい加減離れろ。アリス、さとりはただの幼馴染だ。」
ひとまず停戦状態にさせようとする。
「信じていいのね?」
アリスが疑いの目を向けてくる。
「ああ。」
黒刀が応えてようやく事態は収まったと思ったその時。
「ふ~ん。それなら証拠を見せてあげる。」
さとりが黒刀の頬にキスをした。
クラスメートの男性陣は嘆き、女性陣は、きゃ~!、と興奮した歓喜の悲鳴を上げる。
文はカメラにおさめ、にとりと椛は呆れている。
アリスは当然激怒していた。
黒刀の波乱の日々はまだまだ続きそうだ。
ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back
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