日本代表控室。
黒刀と映姫が勝利したことで日本代表のメンバーでは歓声を上げる者、安堵する者など反応は様々だ。
妖夢はただ先程の試合のリプレイに目を奪われていた。
黒刀と映姫のコンビネーション、何よりも単純な2人の強さに言葉が出なかった。
「(凄い…お互いに心の底まで信頼し合っているのが伝わって来る…)」
妖夢は心の中で感嘆する。
「さて、次は私達の番ですね!」
「ええ!」
早苗と真冬がベンチから立ち上がって気合いを入れる。
「頑張って来なよ!」
諏訪子が早苗にエールを送る。
「はい!」
早苗は元気に返事する。
「お前らしく闘ってこい!」
光も真冬にエールを送る。
「はい!勝ってきます!」
真冬は澄んだ顔で応える。
2人は控室を出てフィールドへ向かう。
ゲートへ到着したところでちょうど黒刀達と鉢合わせになる。
「センパイ、お疲れ様です!」
早苗が黒刀を労う。
「そんなに疲れてないけどな。」
黒刀が真顔で返す。
「クールなセンパイ…大好きです!」
早苗が黒刀に抱きつこうとする。
黒刀は右手で早苗の額を押さえつける。
「暑苦しいからやめろ。」
黒刀は冷たく返す。
軽く早苗にデコピンしてから真冬の横を通り過ぎていく。
「私も…もう逃げないから…」
その際に真冬が黒刀にしか聞こえない声量でそう口にした。
黒刀と黒刀の中のザナドゥ卿がその言葉に反応する。
「(真冬…)」
ザナドゥ卿が黒刀の心の中で哀しげに呟くのだった。
インド代表控室。
「まさか…アルファとオメガが負けるなんて。」
インド代表の控えメンバーが信じられないという感情を込めて呟く。
それを聞いた他のメンバーも気が落ち、チーム全体の士気も下がっている。
そんな中…
「まだ1敗です。焦ることはありません。」
口を開いたのはキャプテンのガンジー・コウ。
「はい。」
それに呼応するかのようにプロトンが頷く。
「それに四季黒刀…彼は別格と考えるべきです。恐らく私でも勝てないでしょう。」
ガンジーが補足する。
その言葉にシン・ルゥが目を見開く。
「師範代がそこまで言う程の実力者なのですか?」
「これは私の勘なのですが彼はまだ何か力を隠している。」
「あれだけ強いのにその上があるなんて…彼は一体何者なんですか…」
プロトンが重い言葉を漏らす。
さすがにこのままで士気がまた下がってしまうと考えたガンジーは切り替える。
「とにかく四季黒刀の試合はもう終わったのです。今は目の前の試合に集中しましょう。」
「「はい!!」」
ガンジーの言葉にプロトンとシン・ルゥが応えた。
試合前になって早苗と真冬、プロトンとシン・ルゥがゲートで待機する。
その4人の中でも最も集中しているのは真冬だった。
「…早苗。1つ頼みがあるの。」
真冬が正面を見据えたまま口を開く。
早苗は少し意外そうな顔をする。
「何ですか?唐突に。」
そして、次に真冬が口にした言葉に早苗が目を見開いて驚いた。
選手入場のブザーが鳴り響く。
両チーム2人ずつフィールドに入場していく。
プロトンとシン・ルゥはある異変に気付いた。
真冬が前に出ていて、早苗が後方に下がっていた。
これだけなら陣形のように見えるかもしれないが早苗が参戦する気配が全く見えない。
つまりこれは…
「あの白い女が1人で我々を相手にするってことか。」
「油断は出来ない。しかし侮られている感じはあるな。」
プロトンとシン・ルゥがそれぞれ意見を述べる。
早苗は後方で待機したまま先程ゲートで真冬が口にした言葉を思い返す。
「この試合、私に任せて欲しい。」
「それって1人でやるってこと?」
「うん。」
「…絶対に勝てる?」
「ええ。」
「分かった。あなたに任せる。」
「…随分あっさりね。」
「…紅魔学園では勝利至上主義なの。だから勝つなら何も問題はないんですよ。」
「…ありがとう。」
現在。
早苗は真冬の背中を見つめたまま考えていた。
「(彼女があの提案をしたことは恐らく2つ理由がある。1つ目は自分の実力に相当自信がある。2つ目は私の力を温存して情報を与えないこと。)」
観客達は真冬の美貌に目を奪われていた。
プロトンとシン・ルゥも精神鍛錬を怠っていれば同じ反応をしていただろう。
日本代表控室。
黒刀と映姫が戻ってきた。
「先輩、おかえりなさい!」
妖夢が喜んで駆け寄って来る。
続いて大妖精が寄って来る。
「黒刀先輩!右手、お怪我はありませんか?」
大妖精は慌てて黒刀の右手を見る。
「大丈夫、大丈夫♪ちゃんとガードしたから。試合見てたろ?」
黒刀は右手をブラブラと振って陽気に返す。
だが大妖精はなおも訝しむような目をする。
今の大妖精は
大妖精はようやく納得してホッと息をつく。
「それより今は早苗達を応援しようぜ。」
黒刀はモニターウインドウに視線を移す。
「(真冬…)」
「本当にあなた1人で勝てると思っているのですか?」
プロトンが真冬に訊ねる。
「ええ。もちろんです。」
真冬は当然のように答えた。
シン・ルゥが拳闘術の構えを取る。
「そうですか…では遠慮なくいかせてもらうとしましょう。」
プロトンも同じように拳闘術の構えを取る。
真冬は素手。
「武器を持たない?…ということは魔法師か。」
プロトンがそう分析したところで…
《3…2…1…0.デュエルスタート》
試合開始の機械音声が鳴り響く。
先に動いたのはインド代表。
真冬は全く動く気配がない。
「「一気に決める!!」」
2人は同時に正拳を繰り出した。
だがその拳が真冬に届くことはなかった。
何故なら彼らと真冬の間に厚さ30㎝の氷の壁が立ち塞がっていたからだ。
しかもその展開速度は異常で術式構築から氷の壁の展開までたった0.1秒しかかかっていない。
周囲から見れば氷の壁が突如出現したようにしか見えない。
「くっ…硬い。」
プロトンが苦々しく呟いた。
2人は同時にバックステップして距離を取る。
「悪いですけど少し早めに終わらせます。」
真冬が口を開く。
そして、大きく息を吸って呼吸を整えると、
「いきます!モードチェンジ!」
そう詠唱した。
すると吹雪が発生して竜巻となって真冬の体を覆い隠す。
その現象にほとんどの人間が驚いた。
日本代表控室。
「真冬さんが…モードチェンジを…」
妖夢は目を見開いてそう呟いた。
やがて吹雪の竜巻が徐々に消えていく。
その中心から現れたのは頭に銀色のティアラ、首に五芒星の氷のネックレス、全身を纏っているのは水色と純白を織り交ぜたドレス。
そして彼女の右手には純白の刀身、柄に百合の花が飾り付けられた剣『白百合の剣』が握られていた。
「白雪姫!」
真冬はそう言い放った。
元々の美貌をさらに超えた言葉を失う程の圧倒的な美貌に観客全員が息を呑んだ。
プロトンとシン・ルゥも一瞬見とれて体が動かなかった。
「あなた…一体何者なんですか?」
真冬の後ろ姿を見ていた早苗はそう問わずにいられなかった。
真冬がゆっくり振り返る。
「私は…黒刀君の初恋の人だよ。」
柔らかな笑みでそう答えた。
その答えに早苗は呆気に取られた顔をした後、騒ぎ出した。
「なっ…調子に乗らないで下さい!センパイのハートは私がゲットするんですから!」
「負けないよ。恋も…闘いも。」
真冬は正面に向き直る。
真冬の姿は『白雪姫モード』になったことで背が少し伸びて雰囲気も大人びている。
「(この感じ…懐かしい。ザナドゥ王国にいた頃を思い出す。)」
ザナドゥ王国時代の記憶を取りもどしたことによって真冬の実力は格段に上がっている。
当時の魔法や戦闘技術が全て今に活かされている。
真冬が左手を横に振る。
氷の壁の表面に無数の氷の棘が生えた。
プロトンとシン・ルゥは瞬時に戦闘態勢に切り替えた。
真冬は左手を押し出すように前へ突き出す。
氷の壁がプロトンとシン・ルゥに向かって前進し始める。
「嘘だろ⁉」
シン・ルゥが声を上げる。
2人は急いで後退を始めるがやがてフィールドの壁まで追い詰められる。
「くっ…何て魔法だ。」
「これが実戦なら我々は串刺し…それを躊躇なく実行するなんてとんでもない精神力だぞ。それにこのままじゃ…」
シン・ルゥが唇を噛みしめる。
プロトンが意を決した顔をする。
シン・ルゥを抱え込んで氷の壁の向こう側まで投げ込んだ。
「プロトン~!」
シン・ルゥが叫ぶ。
プロトンは氷の壁に押し潰された。
真冬は氷の壁を解いた。
気絶したプロトンが前のめりに倒れる。
シン・ルゥはフィールドの床に着地すると真冬を睨みつける。
だがそうしていられるのも一瞬だった。
真冬が床を蹴ってシン・ルゥの懐まで迫っていたからだ。
「魔法師が剣士の真似事など!」
シン・ルゥが声を荒げて素早い正拳を繰り出す。
真冬はそれを重心を少しずらすだけで躱した後、高速連続突きを放った。
シン・ルゥは防御と回避を繰り返して凌いでいる。
真冬が左手人差し指をくるっと回す。
シン・ルゥの背後に氷の壁が展開されて、バックステップしたシン・ルゥは氷の壁に背中から激突する。
その隙に真冬は『白百合の剣』でシン・ルゥを肩から斜めに斬り下ろす。
「ぐあっ!」
シン・ルゥが痛みのあまり声を上げる。
しかし、真冬の攻撃はまだ終わっていない。
真冬は軽く息を吸うと、
「覇王流剣術 アブソリュートゼロ!」
『白百合の剣』を振り下ろすと剣先から氷の奔流が放たれシン・ルゥを飲み込む。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
正面から直撃を喰らったシン・ルゥは氷の壁を突き破って吹っ飛ばされる。
そのままフィールドの壁に激突した直後、氷漬けにされていく。
真冬が花を摘み取るように左手を握りしめるとシン・ルゥの全身を覆っていた氷がパリンッと音を立てて砕かれていく。
シン・ルゥはそのまま気を失った。
《勝者 白金真冬&東風谷早苗》
日本代表の2勝目を告げる機械音声が鳴り響く。
日本vsインド 2vs0。
真冬は『白雪姫モード』を解除して元の姿に戻る。
「約束通り勝ったわよ。」
真冬はポカーンとしている早苗に歩み寄って微笑む。
「まあ…あなたのこと…少しは認めてあげなくもないですよ!」
早苗に我に返るとプイッとそっぽを向きながら手を差し出す。
真冬は少しだけ驚いた顔をしたがすぐに微笑んで早苗の手を握る。
「それはどうも。あなたとはライバルで友達でありたいと思っているわ。」
真冬の言葉に早苗は真冬の方へ向くと笑う。
「ライバルで友達…いいですねそれ。」
会場が歓声に包まれる中で1人だけフィールドにいる真冬を捉えて口の端を吊り上げる者がいた。
やはりまだ存在していたか…ザナドゥ王国の女王…白雪真冬…
後にこの者をきっかけに黒刀達は覇王の因縁の戦いに身を置くことになるのである。
ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back
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