日本vsインド。
ダブルス1は真冬の大活躍によって圧勝という結果となった。
後がなくなったインド代表は焦りを抑えきれなくなった。
「こんな…まさか…我らインド代表が全く歯が立たないなんて…こんなことがあり得るというのか!」
声を荒げるインド代表控えメンバーの1人。
その一言が他のメンバーにも伝染し始める。
しかし、ただ1人だけ平静を保っている男がいた。
「次は私です。ここで流れを変えにいきます。でなければ私達に勝利はありません。私達は心のどこかで日本という国を侮っていたのかもしれません。だとするならそれは私達の修行が足りなかっただけの話です。」
ガンジーは立ち上がる。
彼はそのまま控室を出た。
日本代表控室。
早苗と真冬が試合を終えて控室に戻って来る。
「おかえり。真冬。」
光が声をかける。
「手応えの無い相手だったわ。」
真冬は涼しい顔で応えた。
「それじゃ…行ってくる。」
優が立ち上がって控室を出る。
「頑張ってね。」
優の去り際に花蓮がそう声をかけた。
優は背を向けたまま手を振ってゲートに向かって歩く。
「ちょっと来い。」
黒刀が真冬の腕を取る。
「え、何?」
「話がある。」
そう言って黒刀は真冬を強引に引っ張って控室を出る。
「ちょ…ちょっと!」
真冬は反論する暇もなく連れて行かれる。
黒刀が真冬を連れてやってきたのは人気のない選手用ロビー。
黒刀はそこでやっと真冬から手を離す。
「真冬。俺がザナドゥの力を使って正体がバレることは問題ない。だがお前は違う。」
黒刀はそう言って真冬に言い聞かせようとする。
だが、真冬は優しく微笑みを返した。
「大丈夫だよ。私はもうあの時の私じゃない。黒刀君に守られるだけの私はもういない。今の私は黒刀君と共に戦えるよ。」
黒刀がなおも説得しようとしたその時。
「無駄だ。」
別の声が聞こえた。
黒刀と真冬が窓ガラスに視線を移すと、そこには黒刀の代わりにザナドゥ卿が映っていた。
「王様…」
黒刀が呟く。
「真冬は一度決めたことは絶対に曲げない。それはうぬも良く知っている筈だ。」
ザナドゥ卿が話を続ける。
黒刀は視線をザナドゥ卿から真冬に移す。
真冬の瞳を真っ直ぐ見つめる。
その瞳には揺るぎない覚悟が込められていた。
黒刀は観念したようにため息を吐く。
「はあ…分かったよ。俺の負けだ。」
そう言って両手を上げた。
それに対して真冬は天子の微笑みで応えた。
窓ガラスに映っていたザナドゥ卿の姿が黒刀の姿に戻る。
「さあ、皆のところへ戻ろう。」
真冬が黒刀に声をかける。
「…悪い。先に戻っててくれ。」
黒刀はそう返した。
「うん…分かった。」
真冬は首を傾げたがすぐに控室へ歩いた。
真冬が去ったところで黒刀が口を開く。
「…ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ…咲夜さん。」
数秒後。
黒刀の背後に突然、十六夜咲夜が現れる。
黒刀がゆっくり振り返って咲夜を見る。
「『抜き足』を習得したんですね。」
咲夜が選手用ロビーに立ち入ったことについてはそれ程追及しない。
咲夜は軽くお辞儀する。
「試合は観戦させて頂きました。それともう1つお嬢様から伝言を預かっています。」
「伝言?」
黒刀が目を細める。
「『私と闘うまで負けたら許さない』とのことです。」
咲夜がポーカーフェイスで伝言をそのまま伝える。
それを聞いた黒刀が一瞬不敵な笑みを浮かべる。
「咲夜さん。レミリアに言っておいて下さい。当たり前だ。そしてお前にも勝つって。」
「承知致しました。」
咲夜がそう言って最後にお辞儀すると次の瞬間、その場から姿を消した。
黒刀は控室に向かって歩き出す。
その時に一瞬だけ気が高ぶったせいか『覇王の眼』が発動する。
待っていろレミリア…お前は俺が倒す!
ガンジー・コウはゲートで合掌した状態で立っていた。
「(リーグ戦とはいえここで私が負ければ明日以降の試合に響く。ここが正念場ですね。)」
閉じていた目をゆっくりと開けてフィールドに入場する。
反対側のゲートから優も入場してくる。
ガンジーが優と対面する。
「あなたが私の相手ですか。なるほど…オーラの強さからしてかなりの強敵のようですね。」
ガンジーが合掌を崩さずそう口にする。
「ハッ…どうせ俺達のことは研究済みなんだろう?それにお前のオーラもかなりのものじゃねえか。」
優は髪をかき上げて言葉を返す。
ガンジーのオーラの強さは優に引けを取らない。
「そんなことよりとっとと試合を始めようぜ。さっきから見てるだけで退屈だったんだからよ。」
優からオーラが突風のように吹き荒れる。
「(仏様の救いがあらんことを。)」
ガンジーは全く動じることなく目を閉じて念じた。
それからゆっくりと目を開けるとガンジーのオーラが高まった。
「仲間の為!負けられません!」
「勝つのはこの俺だ!」
《3…2…1…0.デュエルスタート》
優は右手首に取り付けられている腕輪の形をした汎用型MADを起動して即座に『ディメンションレーザー』を発動した。
ガンジーの周囲に10個の魔法陣が展開される。
ガンジーは腰を落として古流武術の構えを取った。
優はまずガンジーの正面の魔法陣から光線魔法を放った。
「『ディメンションレーザー』は生身で受けられる魔法じゃないわ。これは速攻で勝利ね!」
日本代表控室にいる花蓮が優の勝利を確信する。
だがそれは一瞬で砕かれる。
ガンジーは左足を踏み込むと右手の掌底を『ディメンションレーザー』に打ち込んだ。
「何?」
優が眉を顰める。
「はあっ!」
ガンジーはそのまま『ディメンションレーザー』を弾いた。
優は続けて待機状態だった残り9個の魔法陣から『ディメンションレーザー』を0.1秒おきに放った、
ガンジーは全ての光線を体術だけで弾き切った。
掌底、正拳、裏拳、回し蹴り。
ガンジーはステップを踏んで優に接近する。
その時間は1秒。
「閃光拳!」
ガンジーは通常の正拳の倍のスピードで正拳を繰り出した。
優は寸前で『イージスの盾』を発動する。
ガンジーの『閃光拳』と優の『イージスの盾』がぶつかり合う。
「魔法障壁ですか…しかし絶対的防御力を持つ壁など存在しません!」
ガンジーが拳を押し込むと『イージスの盾』に亀裂が入った。
「チッ。」
優が舌打ちして後退するのと『イージスの盾』が『閃光拳』によって砕かれるのはほぼ同時だった。
牽制に『ディメンションレーザー』を放つ。
「無駄です。」
ガンジーは優が後退するスピードより速く優の懐に入って腹に掌底を打ち込んだ。
「閃光掌!」
優が直前に『イージスの盾』を発動するがそれは1秒と持たなかった。
「ぐっ!」
優は腹に掌底を打ち込まれ吹っ飛ばされる瞬間に衝撃緩和の魔法を発動してなんとか壁に激突する前に着地した。
インド代表控室。
ガンジーの優勢にインド代表は息を吹き返した。
「よし!」
「うちが押してる!」
「ここから巻き返しだ!」
優は吐き捨てるように血を吐く。
「あまり甘く見るなよ…この俺を!魔力解放!」
優を中心に光の柱が立つ。
「これが…今の俺の最大数ディメンションレーザーだ~!」
ガンジーの周囲に200個の魔法陣が展開される。
「これは少し骨が折れそうですね。」
「散れ。」
ガンジーの呟きに優は200発の『ディメンションレーザー』を同時に放つ。
轟音と共に爆発が発生する。
爆発の煙の範囲が広くガンジーの姿が見えない。
それを見たインド代表控室にいる控えメンバー達が『師範代!』と叫ぶ。
「やりましたわ!優の勝ちですわ!」
日本代表控室では花蓮が喜んでいた。
他の皆も勝利ムードの中で妖夢だけは違った。
「(何だろう…まだ何か起きそうな感じがする。)」
妖夢は奇妙な予感を抱いていた。
優が爆発の煙の中心に目を凝らした瞬間。
煙の中から黄色い閃光が放たれた。
「いやはや…私もまだまだ修行不足ですね。よもや奥の手を出す羽目になるとは。」
ガンジーの声が響く。
「あいつ…一体何を?」
優がそう口にその時。
黄色い閃光が徐々に形を取っていく。
それは人であって人ではない存在。
「モードチェンジ!」
ガンジーがそう詠唱した。
優が顔を顰める。
「あいつ…モードチェンジの瞬間のエネルギーで『ディメンションレーザー』を凌いだっていうのか。」
ついに黄色い閃光は完全に形成した。
「千手観音!」
現れたのは全長20mの千手観音像。
優が周囲を見渡す。
「あいつがいない…まさか!あれがあいつなのか!」
千手観音像を見上げる優。
「左様。この姿こそ厳しい修行の末、手に入れた私のもう1つの姿!」
『千手観音』は目を開いておらず口も動かないのでスピーカーのように声が響いている。
「人を超えて仏になったってか?ふざけたことを!」
優は200発の『ディメンションレーザー』を同時に放つ。
ガンジーは1000本の手の内200本の手で『ディメンションレーザー』をいとも簡単に弾いた。
さらに残り800本の手で優に連続張り手を繰り出した。
優は『イージスの盾』の盾を展開する。
「薄い壁です。」
ガンジーは『イージスの盾』を破壊する。
優も『イージスの盾』を破壊されると同時に再展開を繰り返した。
「いつまで続けられますかね?」
ガンジーは張り手を続ける。
さらに2本の手で優の左右両側から挟み込むようにはたく。
優は両手を左右に広げてそこにも『イージスの盾』の盾を展開した。
「なるほど。手動ならば強度は高まるという訳ですか。しかしそれも時間の問題。」
ガンジーは左右から押し込んでいく。
優はこれ以上『イージスの盾』が持たないと判断して跳躍魔法を発動してその場から真上に跳び上がる。
「残念ながらそれは愚策です。」
ガンジーは跳び上がった優をハエ叩きのように手ではたき落とした。
あまりにも速すぎた為『イージスの盾』を展開する隙もなかった。
日本代表控室。
「優!」
花蓮が叫ぶ。
「これがインドNo1の男…ガンジー・コウの実力…」
妖夢がその強さに呟きを漏らす。
優の体は瓦礫に埋もれたまま動かない。
《1…2…3…》
観客の視線が優に釘付けになる。
《4…5…6…》
だからこそ気づかなかったのかもしれない。
観客席の最前列に立っていた男に。
《7…》
その男の存在に唯一気づいたルーミアの表情がパアッと明るくなる。
《8…》
その声は突如、会場に響いた。
「その程度か?」
声を発したのはルーミアの頭にポンと手を置いた黒刀だった。
《9…》
その声が優に届いたのかカウント終える寸前に優は移動魔法を発動して自身の体を無理やり起き上がらせた。
優は観客席にいる黒刀を見る。
「いつまでそんなデカブツに手間取っている。俺はとっとと次に行きたいんだ。」
日本代表控室。
「先輩、何であんなところに…」
妖夢が不思議そうに疑問を口にした。
「全く団体行動が出来んのかあいつは…」
にとりは黒刀の自分勝手な行動にため息を吐いた。
黒刀は観客席に腰かけると太ももの上にルーミアを座らせる。
黒刀の試合を観た周囲の観客は彼から少し距離を取り始める。
黒刀は特に気にせず試合を観る。
優はガンジーに向き直る。
「ったく…あそこまで言われちゃ負ける訳にはいかねえよな!」
優は言い放つ。
「無駄です。あなたの魔法は私に通用しません。それが現実です。」
ガンジーの宣告に優は黒刀のようにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「悪いが俺は諦めの悪い男だ。いくぜ!モードチェンジ!エンペラー!」
優の周囲に金色の竜巻が発生する。
竜巻が晴れて現れたのは『エンペラーモード』の優。
「鎧1枚では私の攻撃は防げませんよ。」
「防ぐ?その必要はない。今度はお前が攻撃を喰らう番だ!」
優はそう言い放って100個の魔法陣を重ね合わせて『ハンドレッドディメンションレーザー』を放った。
ガンジーは掌底で弾こうとするが威力は『ハンドレッドディメンションレーザー』の方が勝っていた。
ガンジーの体が後方に倒れる。
優は飛行魔法で上空に飛んで200個の魔法陣を足元に展開した。
千手観音像は胡坐をかいている為、普通に起き上がることが出来ない。
ガンジーは気力を使って自身の体を起き上がらせた。
「遅い!」
優は200個の魔法陣から光線魔法を放った。
「無駄と言ったはずです!その程度の数では…」
「そうか。なら防ぎ切って見せろよ。」
優がそう口にした瞬間、光線が枝分かれし始めた。
「スターゲイザー。」
優は魔法名を口にした。
枝分かれした光線の数はガンジーの対処できる数を超えていた。
1000本の手で止めきれなかった光線がガンジーに降り注ぐ。
「『スターゲイザー』は1本の光線を6本に分裂させる魔法だ。200x6…1200本の光線はお前の腕の本数を超えている。そしてこれが!」
優は200個の魔法陣を100個ずつ重ね合わせた。
「ハンドレッドディメンションレーザーW!」
2本の『ハンドレッドディメンションレーザー』がガンジーの頭上から降り注ぐ。
「私は…こんなところで負けられない!」
ガンジーは『ハンドレッドディメンションレーザーW』を1000本の手で受けた。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ガンジーが雄叫びを上げる。
だがその雄叫びも空しく『千手観音』の手は打ち砕かれていく。
そして、ついに『ハンドレッドディメンションレーザーW』がガンジーの体に直撃した。
2本の巨大な光線が地上に降り注ぎ大爆発を引き起こす。
優は減速魔法で床に着地する。
《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 二宮優》
機械音声が鳴り響く。
大爆発の煙が晴れてガンジーの姿を確認すると『千手観音モード』は解除されて既に気を失っていた。
優は無言で右手の拳を高く掲げた。
それに呼応するように会場から歓声が沸き上がる。
日本代表控室も喜びに満ちていた。
だが黒刀は興味なさそうな反応だった。
「さて…ルーミア行くぞ。」
黒刀はルーミアを抱きかかえて立ち上がる。
「くろにい、もう行くの?」
「まだ見ていたいのか?」
黒刀の問いにルーミアは可愛らしく唸った後、こう答えた。
「う~ん…いいや。くろにいの試合を観てる方が面白いから♪」
「なら行こう♪」
黒刀はルーミアを肩車する。
2人は笑顔でその場を去った。
ガンジーは医務室で目を覚ました。
それに気づいてインド代表メンバーが寄ってきた。
『師範代!』
ガンジーはゆっくりと上半身を起こす。
「…完敗です。皆さん、申し訳ありません。」
ガンジーが頭を下げる。
「師範代、頭を上げてください。」
声を発したのはアルファ。
「そうです。まだWDCは終わっていません。残りの2戦を勝てばチャンスはあります。」
オメガも続く。
「アルファ…オメガ…(私はなんと良き仲間を持った者なのでしょう…)」
ガンジーは安心したように笑った。
日本代表控室。
「そういえば先輩はどうしたんですか?」
帰り支度をしていた妖夢が口を開いた。
「こんなメッセージが届きました。」
映姫がため息を吐きながら携帯端末を操作してメッセージを見せた。
そこにはこう書かれていた。
《ルーミアと買い物に行ってくる。夕方にはホテルに戻る》
「アハハ、先輩らしいですね。」
妖夢は苦笑い。
「全くです。どうして私も一緒に連れて行かないのですか。」
映姫が携帯端末をしまうと不機嫌な口調で文句を言った。
「「「「「(え、そっち?)」」」」」
妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精が心の中でツッコんだ。
黒刀はルーミアを肩車で乗せて街へショッピングに出かけていた。
「やっぱフィリピンって言ったらバナナかな。」
「チョコバナナは?」
「いやさすがに溶けるだろ。」
「え~!食べたい食べたい~!」
ルーミアが黒刀の肩の上で左右に揺れる。
「あ~分かった分かった!あった買ってやるよ!」
「やった!くろにい大好き♪」
「…まあこんな暑いところにチョコバナナなんかある訳…」
黒刀が出店を回っているとちょうどチョコバナナが売っていた。
「くろにい、チョコバナナあるよ!」
「このチョコバナナすぐ溶けたりしないんですか?」
黒刀は店員に訊いた。
「大丈夫ですよ。時限式の保存魔法がかけられているんです。」
「…2本下さい。」
「まいどあり!」
黒刀はチョコバナナを2本購入して1本を肩車中のルーミアに渡した。
「落とすなよ。髪にチョコかかると洒落にならないからな。」
「うん。分かった♪」
ルーミアはチョコバナナを頬張った。
黒刀もチョコバナナを口に咥える。
「…美味い。」
同じ頃。
韓国代表のイ・サンとチャン・スウも街を歩いていた。
「明日の日本戦、楽しみですね。」
「ああ。戦士の血が滾るというものだ。」
2人は会話を交わす。
「だが四季黒刀…彼は強敵だな。」
チャン・スウが黒刀の話題を切り出す。
「心配ありません!どんな相手でも私は勝ちますよ!」
イ・サンは前方を指差す。
この行為は彼にとって癖みたいなものだったのだが偶然にも彼の指差した先には黒刀とルーミアがチョコバナナを頬張っていた。
「うお!四季黒刀!」
イ・サンが驚く。
「何でこんなところに…」
チャン・スウが呟く。
「このチョコバナナ…今度作ってみようかな…」
黒刀はチョコバナナを食べ終えるとそう口にした。
「(これが四季黒刀…何かイメージと違う!)」
2人がそう思ったその時。
25m先でナンパをしている男がいた。
女性の方は明らかに嫌がっている。
イ・サンとチャン・スウはお互いの顔を見て頷くと駆け出した。
黒刀はというと果物屋に寄ると、
「おばあちゃん、これ貰うね。」
店主の老婆に代金を渡してからパイナップルを持つとそれを25m先のナンパ男の脇腹に向けて投げた。
パイナップルはアメフトボールのように回転してイ・サンとチャン・スウのちょうど真ん中を通過してナンパ男の脇腹に見事ヒットした。
「ぐえっ!」
ナンパ男は蛙が潰れたような声を上げて倒れると気を失った。
「くろにい、食べ物を粗末に扱っちゃダメだよ。」
ルーミアはジト目を黒刀に向ける。
黒刀は倒れているナンパ男の近くに寄ってパイナップルを拾う。
「いや近くに鈍器があったもんだから。あと身に傷が無ければ使えるし。」
そのままパイナップルをビニール袋に入れる。
イ・サンはナンパ男を見下ろしてから黒刀に視線を移す。
「私達が向かっていることに気づいていましたよね?」
「ん?ああ。」
イ・サンの問いに黒刀は答えた。
そこで2人が何を言いたいか気づいた。
「あ~なるほど。つまり自分達に任せておけってことか。正義感があるのは構わないけど世の中には正義だけじゃ守れないこともあるんだよね~。」
「どういう意味だ?」
チャン・スウが問う。
黒刀は倒れているナンパ男を見下ろす。
「そいつのズボンの右ポケットにナイフ、左胸ポケットに拳銃が入っている。」
「「!」」
イ・サンとチャン・スウはその言葉に驚いた。
「危なくなったらそれを使うつもりだったんだろう。」
黒刀がその場を去ろうとしたその時。
「待て。」
イ・サンが呼び止めた。
黒刀は振り返る。
「何だ?警察の事情聴取に付き合いたくないから手短に。」
「お前はさっき正義だけじゃ守れないこともあると言ったな?」
「ああ。言った。」
「それは正義を否定しているということか?だとしたらお前は…」
「俺は守りたいものの為なら悪でいい。要は覚悟の違いだろ?じゃあな。」
黒刀とルーミアはその場を去った。
イ・サンは拳を握り締める。
「四季黒刀…証明してやるよ。正義は必ず勝つってことをな。」
そう決意を固めた。
その後、2人は警察の事情聴取に対応した。
黒刀は買ったパイナップルを見る。
「これ何に使おうか?」
「やっぱりパイナップルと言ったらデザートだよ♪」
ルーミアがそう提案する。
「それもいいけど酢豚っていう手もあるんだよな~。」
「じゃあ半分はパフェでもう半分は酢豚に使おうよ!」
「お、いいなそれ!さすが俺の妹♪」
「えへへ♪」
2人は兄妹仲良く笑顔でホテルに戻った。
午後5時 日本代表宿泊ホテル。
黒刀が夕食を作ると聞いて妖夢、霊夢、魔理沙、チルノ、大妖精、映姫、ルーミアが黒刀の部屋に集まっていた。
ちなみに優は体を心配している花蓮に連れられて行った。
部屋のキッチンで料理している黒刀をチルノが見て言った。
「ねえ。大ちゃん、酢豚って何の肉を使うのかな?」
「………」
大妖精は絶句した。
午後6時。
『ごちそうさまでした!』
黒刀の作った料理を全員完食した。
「ホテルに来て手料理を食べるっていうのも変な感じだぜ。」
「でも先輩の料理って凄く美味しいのでつい食べたくなっちゃいます。」
魔理沙と妖夢がそんな会話をしていると黒刀の携帯端末ににとりからモニター通信が入った。
《黒刀、そこに妖夢達もいるな?》
「ええ。いますよ。」
《ならちょうど良かった。これからミーティングをするところだからすぐに集合してくれ》
「分かりました。」
黒刀の了解を確認したにとりは通信を切った。
「ということだ。行くぞ。」
『は~い!』
黒刀の声に1年生5人は元気良く返事した。
午後6時30分 にとりの部屋。
「で…何でそいつがここにいるんだよ!」
仁が指差すのは胡坐をかいて座っている黒刀の太ももの上に座っているルーミアだった。
「ルーミアは勝利の女神…いや天使だから何の問題もない。」
「何だその理屈⁉」
黒刀の言葉に仁が噛みついたその瞬間、その喉元に映姫の剣が突き付けられた。
「私の妹を邪魔者扱いとは良い度胸ですね。」
「(こいつらシスコン度ヤバすぎだろ!)」
「アハハ…」
妖夢はその状況を苦笑いで見守るしかなかった。
「はいはい。揉め事はそこまで。ミーティングを始めるよ。」
にとりは手を叩いて本題に入る。
「明日の相手は韓国代表だ。拳闘術を重視したインドとは違って近接系武器を用いた武術を重視した国だ。剣術、槍術、棒術など様々。その中でも特に注意すべき選手が棒術のイ・サンと剣術のユンスクだ。」
「あ、昼間の人だ。」
ルーミアがモニターウインドウに映るイ・サンを指差す。
「先輩、韓国代表の選手と会ったんですか?」
「ん~まあな。」
妖夢の問いに黒刀は興味無さげに答えた。
「まあなってそんな気楽な…」
妖夢は困った顔をする。
にとりがミーティングを続ける。
「明日のメンバーだがダブルス2を黒刀と映姫、ダブルス1を比那名居とチルノ、シングルス3を妖夢、シングルス2を越山、シングルス1を白金。以上のメンバーでいく。」
「(真冬が選ばれたってことは今日の試合で安定性があったからか。)」
メンバーの発表に光はそう考えた。
「(天子とチルノ…この組み合わせはなかなか面白そうだね。)」
諏訪子も考え込む仕草をする。
「また姫姉とか~」
黒刀は満更でもない顔。
「それだけ期待されているということです。頑張りましょう。」
映姫は隣の黒刀にそう言葉をかける。
「お前と組むのは初めてね。よろしく。」
天子がチルノに手を差し出す。
「おうよ!」
チルノがその手を取って握手を交わす。
妖夢はオロオロし出した。
「あれ…ちょっと待ってください!私がシングルス3ということは…」
「あ~そういえば今日の韓国とカタールの試合では韓国のシングルス3はユンスクだったわね。」
霊夢が思い出したように言った。
妖夢はの額から冷や汗は流れ始める。
魔理沙が妖夢の背中をバンッと叩く。
「大丈夫だって妖夢なら絶対に勝てるって!」
「でも…」
妖夢がまだ自信をつけられていないので魔理沙が妖夢に耳打ちする。
「黒刀も見てるぞ。」
「絶対に勝ちます!」
突然、妖夢に気合いが入った。
そんなことは露知らず黒刀は欠伸していた。
「(早く風呂入って寝たい…)」
午後7時 韓国代表宿泊ホテル。
韓国代表の監督がモニターウインドウを展開してミーティングを行っていた。
「やはり「問題はこの2人だな。」
モニターウインドウに映し出されたのは黒刀と映姫の試合録画映像だった。
「確実にいくならこっちは捨て試合とするのが定石だろう。」
監督のその一言にイ・サンが立ち上がった。
「それは出来ません!韓国代表は誰が相手であっても背を向けたりなどあってはならない!」
「落ち着け。まだこの2人が出ると決まった訳じゃない。」
興奮するイ・サンをユンスクが冷静に諫める。
そこにチャン・スウが口を出す。
「しかしインド戦であれだけの闘いをしてしかも全くの疲労の気配を見せない彼らなら次の試合も出てくる可能性は十分考えられます。」
その推測にユンスクが数秒考え込む。
「イ・サン、チャン・スウ。お前達にはダブルス2を任せる!全力を尽くせ!」
「「はい!」」
イ・サンとチャン・スウは強く応えた。
ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back
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