9月12日 午後0時30分。
黒刀と映姫はインド戦に続いて韓国戦もダブルス2で勝利した。
黒刀が控室に戻ってすぐに妖夢が駆け寄ってきた。
「おかえりなさい先輩!」
「ああ。ただいま。」
黒刀は妖夢の頭を撫でようとして一瞬、躊躇った。
先程の試合で過去のトラウマを思い出してしまった為だ。
血で汚れた手で純粋な妖夢に触れる資格などあるのかと迷った。
「先輩?」
頭上で黒刀の右手が止まったので妖夢が不思議そうに首を傾げる。
それに気づいた黒刀は異変を察知されないように優しく微笑んで妖夢の頭を撫でた。
妖夢は嬉しそうにはにかむ。
「あ~お2人さん?スキンシップは後にしてもらえない?」
そんなことをしていると天子が口を出してきた。
そこでようやく妖夢は皆に見られていることに気づいて顔を真っ赤にして後ろに飛び上がった。
「す…すみませんでした!」
妖夢は皆に向かってペコペコと頭を下げる。
「別に構わないわ。見ていて何だか和みますから。」
妖夢の態度を見て花蓮が笑う。
それにつられて皆も笑顔になる。
チルノが黒刀の前に立ち、ビシッと指を差す。
「黒刀、見てろ!あたいの進化を!」
「ほら行くわよ。」
天子がため息を吐いてチルノの二の腕を掴んで控室を出て行った。
「あたいが最強!」
「うるさい!」
2人の大声は廊下に響き渡っていた。
韓国代表控室。
ユンスクがモニターウインドウを凝視する。
「イ・サンとチャン・スウは敗れましたか。まあこれも想定内。ペ・ギョン、グ・ヨン。」
ユンスクは後方で控えている17歳の少年2人を呼ぶ。
「「はい!」」
はっきりした声で返事する2人。
ユンスクは冷静な姿勢を崩さす毅然とした態度のまま指示を出す。
「次の試合、無理に勝つ必要はありません。引き際を見極めてわざと負けなさい。」
「「え?」」
予想外の指示に2人は呆けた声を出す。
「あなた達は確かに韓国代表に選ばれましたが実力的にはまだまだ未熟。WDCでは重傷で再起不能になる者もいます。我々は選手であると同時に未来の国家戦力でもある。あなた達を失う訳に行きません。世界最大の大会とはいえ所詮は遊びにすぎません。いいですね?」
ユンスクは2人に言い聞かせた。
「「…はい。」」
ユンスクの正論に2人は頷くしかなかった。
そのまま2人は控室を出た。
ゲートへ向かう途中の廊下で2人の士気は下がっていた。
「…俺達の実力不足…か。確かに序列1位のユンスクさんから見ればそうなんだろうが…」
ペ・ギョンが言葉を漏らす。
「それじゃ俺達は一体何の為にここまで来たって言うんだ!」
グ・ヨンが声を荒げた。
ペ・ギョンは俯く。
「俺達にもっと力あれば…」
「そうだ…力さえあれば…」
グ・ヨンが拳を握り締めたその時。
…力が欲しいか?
どこからともなく声が聞こえた。
「誰だ!」
「どこにいる?」
2人が周囲を見渡すが彼ら以外誰もいない。
力をくれてやる…
再度、謎の声が聞こえた直後。
2人の頭上から1枚ずつあるカードが舞い降りてきた。
カードが2人の胸の高さで空中停止する。
するとカードが黒い輝きを放った。
「強くなれる…」
「これさえあれば…」
「「勝てる!!」」
黒い輝きに魅入られた2人は謎の声を気にもせず目の前にある正体不明の力を手にしたことで狂喜のあまり口元を緩ませた。
チルノと天子はゲートで待機していた。
天子が正面を向いたまま口を開く。
「まさかあなたと組む日が来るなんてね。剣舞祭で闘った時から考えれば想像もつかなかったわ。」
「あたいは最強だからね!」
チルノが自信たっぷりに胸を張る。
「何よそれ…」
天子が半分呆れた口調で呟く。
だが同時に天子もチルノのことを認めていた。
「(この子の絶対に諦めない気持ちとその気持ちがもたらす力には驚かされるわ。ほんと…)」
入場のブザーが鳴り響いた。
天子がチルノに向けて拳を突き出す。
「勝ちましょう!」
「当然!」
チルノと天子はグータッチを交わしてフィールドに入場する。
韓国代表の2人もフィールドに入場する。
天子が『緋想の剣』を抜剣する。その剣に赤い炎が宿る。
韓国代表の2人の武器はSD。
ペ・ギョンの剣には水が纏い、グ・ヨンの剣には風が纏う。
「ソードフリーザー!」
チルノが詠唱して氷の剣を造形する。
この時の韓国代表の2人の様子は平常だった。
…この時はまだ。
《3…2…1…0.デュエルスタート》
試合開始の機械音声が鳴り響く。
最初に攻撃を仕掛けたのはチルノ。
「アイスニードル 改!」
チルノが強化版『アイスニードル』を放つ。
氷の棘はペ・ギョンとグ・ヨンに襲いかかる。
グ・ヨンが前に出て剣を振る。
剣に纏っていた風が氷の棘を砕く。
グ・ヨンが剣を振った後を狙って天子がグ・ヨンに斬りかかる。
「烈火!」
だが今度はペ・ギョンが前に出て来て水を纏った剣を振って『緋想の剣』とぶつかり合う。
「くっ!」
「そう簡単にはやらせませんよ!あなたの炎と私の水。どちらが強いでしょうかね!」
ペ・ギョンが鍔迫り合い状態の中で語り掛けてくる。
それに対して天子はフッと笑った。
「余所見していいのか?」
「何?」
ペ・ギョンが眉を顰めたその時。
「グレートクラッシャー!」
大声で氷のハンマーをペ・ギョンの真横から振りかぶるチルノがいた。
「これは躱せない…でも…甘い。」
ペ・ギョンがそう口にしたその時、チルノの真横から風の斬撃が飛んできて空中で直撃してチルノは吹っ飛ばされる。
「チルノ!」
振り向く天子。
「余所見していいんですか?」
ペ・ギョンが鍔迫り合い状態から上に弾いて下段斬りに入る。
天子は半歩下がって炎の壁を展開。
ペ・ギョンがそのまま斬ると炎の壁に当たった水がジュ~と音を立てて蒸発していく。
「チッ。」
ペ・ギョンは舌打ちして距離を取る。
天子も後退してチルノに駆け寄る。
「チルノ、大丈夫か?」
天子が声を変えると、チルノが跳ね起きる。
「大丈夫!」
チルノは頬に付いた汚れを手の甲で拭う。
「くそ~。」
悔しそうに言葉を吐く。
天子はチルノの肩に手を置く。
「チルノ、1人の力では勝てない。彼らに勝つにはもっと力を合わせるしかない。」
天子の言葉にチルノは若干嫌そうな顔をする。
「具体的にどうするの?」
天子は企んだように笑みを浮かべる。
「炎と氷。相容れない2つの属性は合わさる瞬間をこの会場にいる全員に見せつけるんだ!」
そう宣言して両手を大きく広げた。
「いいじゃんそれ!」
天子の言葉にチルノは心を打たれたのかやる気になった。
チルノと天子が打ち合わせしている間にペ・ギョンとグ・ヨンも軽く打ち合わせをしていた。
「あの炎剣使い、思ったより厄介だぞ。」
「ああ。攻撃と防御の切り替えが上手い。」
ペ・ギョンがゴクッと唾を飲み込む。
「…あれを使うか?」
そう言い出したペ・ギョンにグ・ヨンは少し驚いた顔をしたがすぐに落ち着きを取り戻す。
「いや…まだそこまあで追い詰められている状況じゃない。使うのは…勝機が無くなった時だ。」
「分かった。」
ペ・ギョンが頷いて打ち合わせが終わった。
「待たせたね。」
天子が2人に向かって口を開く。
「いやいや…こちらこそ!」
ペ・ギョンは言葉を返すと同時に水の斬撃を放つ。
天子は炎の壁を展開して水を蒸発させる。
さらに炎の壁をブラインドにしてチルノがジャンプして『アイスニードル 改』を放つ。
「何度も同じ手を!」
グ・ヨンが風を纏った剣で斬り砕く。
チルノは攻撃を緩めることなく氷のハンマーを造形してそれを投擲した。
「うおっ!」
グ・ヨンが驚いた声を上げる。
ペ・ギョンとグ・ヨンは左右に跳んで避ける。
そこで天子がグ・ヨンに向かって駆ける。
「こっちか!」
グ・ヨンが声を上げる。
天子は回避直後を狙ったのだ。
「舐めるな!」
グ・ヨンは自身の正面を扇状に剣を振って風の盾を作り出す。
「向かい風上等!」
天子は足を止めることなくそのまま斬りかかる。
風の盾と『緋想の剣』の炎が激突する。
「グ・ヨン!」
ペ・ギョンが叫んで水の斬撃を天子に向けて放つ。
しかし、その水はチルノは上空から放った氷の棘によって凍らされ砕かれる。
「邪魔を…するな~!」
ペ・ギョンが左手で印を結ぶと水が巻き上げて彼の体を持ち上げていく。
こういう状況のチルノはかなり冷静で迎え撃つのではなく氷の翼を羽ばたかせて上昇する。
一方。
天子とグ・ヨンの押し合いはまだ続いていた。
天子が押し切るかグ・ヨンが押し返すかという状況で観客もかなり盛り上がっていた。
グ・ヨンの額に汗が流れる。
「(こいつ…こんな小さな体のどこにこんな力が…)」
その攻防にもついに決着がついた。
「負けない!烈火!」
天子が詠唱すると炎の勢いがさらに増していく。
「何っ!まだ威力が上がるだと!」
グ・ヨンが驚く。
ついに風の盾が破られる。
天子はそのまま『緋想の剣』でグ・ヨンの体を斬りつける。
グ・ヨンはその瞬間に自分から後方に跳ぶことによって大ダメージを避けられたが動きがやや鈍った。
「チルノ!」
その瞬間を狙って天子が上を向いて合図をかけた。
それを聞いたチルノが反転して急降下し始める。
「グ・ヨンの次は俺という訳か…来い!」
接近するチルノにペ・ギョンが突っ込む。
水の竜巻に乗ったペ・ギョンがチルノに横一閃で斬りつける。
だが斬りつけられたチルノの体は水蒸気となって消えた。
「何っ!」
ペ・ギョンが驚いて慌てて死を見た。
『ドライジェット』でペ・ギョンを突破してチルノがグ・ヨンに向かって上空から迫る。
「本命はそっちか!くそ!」
ペ・ギョンは急いで水の竜巻を消すとスカイダイビングのように降下する。
チルノが氷のハンマーを造形して両手で持つ。
すると、今度は天子が『緋想の剣』を円を描くように振り回して火の輪を作った。
「チルノ!受け取れ!」
天子は火の輪を『緋想の剣』の剣先に引っ掛けてチルノ目掛けて投げた。
チルノが自身を軸に回転する。
すると火の輪が氷のハンマーに巻き付いた。
グ・ヨンは先程の天子の攻撃のダメージで回避できる状態ではなかった。
「いくぞ~!ファイアトルネードグレートクラッシャーァァァァァァァ!」
チルノが火の輪が巻き付いた氷のハンマーを持って回転しながらグ・ヨンに迫る。
「くっ!」
グ・ヨンは風の斬撃で迎撃しようとする。
だが風の斬撃は氷のハンマーに巻き付いている天子の炎によってかき消された。
「炎と氷の融合だと!そんなのあり得ない!」
グ・ヨンが驚愕したその時、ペ・ギョンが着地してきて水の壁を展開する。
グ・ヨンも一拍遅れて風の壁を展開する。
「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
チルノが叫びながら、2つの重なった壁に氷のハンマーを叩きつける。
接触箇所で温度の急上昇と急低下を繰り返す。
予想以上の威力にペ・ギョンとグ・ヨンが押されていく。
天子は下手に手出しをせず後方から見ている。
「(チルノの長所は武器を高速で造形出来ること…そして何より諦めない心がある!)」
「ぐっ…まだまだ!霊力解放!」
ぶつかり合いの中でチルノの霊力が上昇して氷のハンマーがさらに巨大化していく。
予想以上の事態にペ・ギョンとグ・ヨンは戦慄を感じた。
「あたいは絶対に勝つんだ!」
チルノが気合いの声を上げた瞬間と同時にペ・ギョンとグ・ヨンの防御が破られた。
無論2人に回避する余裕もなくトラックに衝突したかのような衝撃を全身に受けてフィールドの端まで吹っ飛ばされた。
チルノは人差し指を天に向かって掲げた。
自分がNo1だという証明である。
日本代表控室。
「チルノちゃん…カッコイイ!」
大妖精が喜びの声を上げた。
「今日のあいつ何か決まってるぜ!」
その隣で魔理沙が同じような反応をしている。
妖夢も大喜びして拍手している。
「チルノ、大活躍ですね!このまま勝てますよね!」
隣に立つ黒刀に声をかけた。
だが黒刀はここではしゃぐような男ではなかった。
「確かにこのままいけば勝てるかもな…」
「まだ何かあるということですか?」
黒刀の含みある言い方に妖夢が訊く。
「いや…油断は出来ないというだけだ。」
黒刀の答えに妖夢は嫌な予感を感じた。
ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back
ご感想お待ちしております。
OPとEDは必要だと思うか?
-
はい
-
いいえ