ペ・ギョンとグ・ヨンはまだ敗北していなかった。
直撃の際にオーラで防御したことでかろうじて耐えることが出来たのである。
「(ここらが…潮時でしょう…)」
控え室のモニターウインドウで試合を見ていたユンスクは目を閉じて事前に話していた降参のタイミングを見極めた。
しかし、それは裏切られる結果となる。
ペ・ギョンとグ・ヨンはなんとか立ち上がる。
「ユンスクさんは恐らくここで降参しろって言うだろうな…」
「しかし…それでは俺達にとって意味が無い。」
2人の様子がおかしいことに感づいたユンスクが顔を顰める。
「どうした…何故降参しない?」
チルノは完全に勝った気でいるのか観客に向かってピースしまくっていた。
「チルノ、まだ試合は終わっていないよ。」
さすがに天子も呆れて注意した。
「おっと。」
チルノが向き直った視線の先にはペ・ギョンとグ・ヨンがいた。
「もう躊躇う必要は無い。」
「ああ…証明してやる。俺達は強いってことをな!」
2人は胸ポケットからそれぞれ1枚のカードを取り出した。
それはトランプカードだった。
ペ・ギョンが持っているのがクローバーの3、グ・ヨンが持っているのがハートの3。
「何をする気だ?」
天子が呟く。
彼らはトランプカードを天に掲げてこう詠唱した。
「「モードチェンジ!!」」
トランプカードから禍々しいオーラが解き放たれた。
「バカな!2人がモードチェンジだと!」
モニターウインドウで見ていたユンスクが驚く。
禍々しいオーラが2人を包み込む。
チルノはこれによく似た現象を知っていた。
そう。旧ザナドゥ王国で風見幽香が見せた『ダークネスモード』である。
「あれがモードチェンジ?あまり変化は見られないけど…」
天子は彼らの装備が特に変わっていないことに首を傾げる。
「…違う。」
その疑問にチルノが言葉を絞り出した。
「え?」
「…変わったのは見た目じゃなくて中身の方だ。」
「あれを見たことがあるの?」
「え…う~ん。あたいが見たものとは少し違う気がする…何ていうか…」
「濁っている?」
妖夢が小さい声で黒刀の答えを復唱して聞き返した。
「ああ。『ダークネスモード』はもっと純粋な闇だ。あんな濁った闇じゃない。」
妖夢の疑問に黒刀がそう答えた。
韓国代表控室。
「あれがモードチェンジ…」
韓国代表の控えメンバーの1人が声を発したその時。
「違う。」
別の声が聞こえた。
一同が声のした方に振り向くとチャン・スウに肩を貸してもらっているイ・サンがいた。
イ・サンは医務室で眠っている筈だった。
「イ・サン。もう大丈夫…では無さそうだな。それよりあなたも気づいていたのですか?あれがモードチェンジではないことに。」
ユンスクがイ・サンに問いかける。
イ・サンはチャン・スウに肩を貸してもらいながら説明する。
「モードチェンジは本来なりたい自分をイメージして具現化したものです。例えば孫悟空のような神話の存在だったり四季映姫や二宮優のような神話上でなくとも具体的なイメージのあるものだったりですね。もちろん習得は簡単ではありませんが…。しかしあの2人は違う。恐らくさっきのトランプカードによってモードチェンジさせられていると考えるのが妥当でしょう。モードチェンジは魂を通してやるものですから。」
イ・サンは気が抜けたように膝から崩れ落ちる。
それをチャン・スウはなんとか支える。
「無理するな。まだ試合のダメージが残っているんだ。」
「イ・サン。今のあなたのすべきことは休息を取ることだ。」
「はい。」
ユンスクの言葉にイ・サンはそう返事してチャン・スウに支えられながらもベンチに腰かける。
「試合を中止すべきです!こんな悪しき力を持っていることを晒すことなどありません!」
控えメンバーの1人が主張する。
「大会規定により試合中止に関しては当人同士で決められる。」
ユンスクはそう答えた。
「デビルコード001!」
「デビルコード002!」
ペ・ギョンとグ・ヨンがそれぞれ言い放つ。
「構えろチルノ!」
天子は瞬時に戦闘態勢に切り替えてチルノに呼びかけた。
しかし…
「遅い!」
グ・ヨンが既にチルノの正面に移動していて蹴りを入れる瞬間だった。
「アイスシールド 改!」
チルノは即座に氷の盾を展開したがグ・ヨンの蹴りにより一瞬で破壊されそのまま腹に蹴りが入る。
「がはっ!」
チルノは20m後方に吹っ飛ばされる。
「この!」
天子がグ・ヨンに攻撃しようとしたのその時。
「お前の相手はこっちだ!」
ペ・ギョンが割り込んできた。
ペ・ギョンが水を纏った剣で斬りかかる。
天子は炎の壁を展開して防御しようとする。
だがその壁はすぐにペ・ギョンの剣に纏う水によってかき消された。
「(さっきと戦闘力が違い過ぎる!)」
「オラオラ!さっきまでの勢いはどうした?」
ペ・ギョンが縦、横、斜めに剣を振って連続攻撃を仕掛ける。
完全に力負けしている天子は『緋想の剣』で受ける度に体勢を崩される。
「くっ!」
「おいおい。忘れたのか?これがダブルスだということを!」
ペ・ギョンが歪んだ笑みを浮かべて言い放つ。
その言葉がまるで合図かのように天子の真横からグ・ヨンが天子を下段斬りで斬り上げた。
「ぐあっ!」
「ほら!おまけだ!」
天子の体が浮き上がったところでペ・ギョンが水の斬撃を放った。
天子は空中で『緋想の剣』で受けるが力負けしている上に空中であった為さらに吹っ飛ばされ床を転がる。
すぐに立ち上がろうとしたその時。
「水牢!」
そう詠唱する声が聞こえて天子は三角錐の水の牢獄に閉じ込められた。
ただし水の牢獄と言っても中に水は入っておらず天子を閉じ込めている三角錐の膜が水で出来ている。
ダメージから復活したチルノが立ち上がる。
天子がチルノへ駆け寄ろうと『水牢』の膜に触れた瞬間、内部で爆発が起きた。
「ぐあっ!」
天子が床を転がる。
「ああ。言い忘れたけど『水牢』に触れると水蒸気爆発が発生するから気をつけろよ。」
ペ・ギョンが天子を見下ろして忠告する。
天子は床に手をついて立ち上がろうとする。
「こんなもの…すぐに壊して」
「そうはさせない。」
ペ・ギョンがそう口にした瞬間。
天子の背中から重い衝撃がのしかかった。
「ぐっ!」
天子は四つん這いの姿勢で上を見ると背中に直径1mの水の球体がのしかかっているのが見えた。
「『水鉛』。質量の小さい水でも積み重ねれば重くなる。そうだな…バケツの中に水を入れたようなものだ。そこで大人しくしてろ。面白いものを見せてやる。」
ペ・ギョンはその場を去って行く。
「待て!ぐっ!」
天子は『水牢』と『水鉛』によって完全に動きを封じられてしまった。
チルノは天子が拘束状態であることに気づくと突っ込む。
「天子!くそ~お前ら~!」
だがそれよりも速くグ・ヨンが風のようなスピードでチルノに接近していた。
「だから遅いって…言ってんだろうが!」
グ・ヨンが風の斬撃を放つ。
チルノは『ドライジェット』で躱してグ・ヨンの背後に回り込む。
「もうそれは知ってんだよ!」
しかし、グ・ヨンが回し蹴りでチルノの横顔を蹴り飛ばした。
「やれやれ体が小さいから吹っ飛びすぎて困るぜ。」
グ・ヨンは床に転がっているチルノに歩いて近づいていく。
「グ・ヨン。」
ペ・ギョンが合流してグ・ヨンの横に並ぶ。
「おう。あっちは抑えられたみたいだな。『水牢』と『水鉛』…ついに完成したんだな。」
「ああ。以前はどんなに練習しても出来なかったが今なら出来る!力がみなぎってくる!」
「ああ。力があり余ってるくらいだ!」
「パワーとスピードだけじゃなく技の精度と威力も上がっている。」
ペ・ギョンが自身の拳を握り締める。
「そうだ!これが力!これが強さだ!」
グ・ヨンが力に酔いしれて高笑いした。
その時。
「…ふざけるな。」
声が聞こえた。
「あ?」
グ・ヨンが声を出す。
視線を向けた先でチルノがゆっくりと立ち上がっていた。
「そんなものは偽物だ!本当の強さじゃない!強くならなきゃいけないのは力じゃない!」
ぼろぼろになりながらも立ち上がった。
「じゃくぁ何だって言うんだ?」
グ・ヨンがニヤニヤ笑いながら返答を待つ。
「心だ!」
チルノは即座に言い放った。
「ハハハ!心だって?あ~くだらねえ!」
グ・ヨンは嘲笑した。
「…知った風な口を。」
ペ・ギョンは苛立ちを露わにした。
「あら…ペ・ギョンが怒っちゃったよ。」
グ・ヨンが面白そうに笑う。
ペ・ギョンが剣を振って水の斬撃を放つ。
チルノは氷の剣を造形して防御するが、防戦一方になってしまう。
「力が無ければ誰も認めない!何も手に入らない!そういう風に出来ているんだよこの世界は!」
怒りを爆発させながら水の斬撃を連続で放つ。
「お前の言っていることは弱者の言い分だ!」
「違う!あたいは知ってる!力が弱くても強い奴はいる!」
チルノは攻撃を受ける中で脳裏に大妖精の顔を思い浮かべる。
「もういい。結局正しいのがどちらかなど勝者が決めることだ。お前はここで負ける。」
ペ・ギョンがそう口にすると、グ・ヨンが前進する。
「それじゃとどめといこうか!」
「氷精一閃!」
チルノが居合い斬りで斬りかかった。
だがそれをグ・ヨンが剣で受け止めた。
「どうした?1人前なのは口だけか?」
グ・ヨンが不敵な笑みを浮かべてチルノの首を掴んで持ち上げる。
「ぐっ…」
「ほら弱え!」
日本代表控室。
「チルノちゃん!」
大妖精が悲痛の叫びを上げる。
あまりに惨い闘いに何人かが目を背ける。
だが黒刀は全く目を背けずモニターウインドウを真剣な目で見続けていた。
妖夢が目を背けようとすると、
「妖夢、目を背けるな。」
それを声で制止する。
「でも…」
「あいつの闘いはここからだ。」
「…はい!」
妖夢は強く応えてモニターウインドウに視線を戻す。
「(天子は動けず、お前は満身創痍…さあ、お前の可能性を見せてみろ…チルノ。)」
誰もがチルノの敗北を予期する中で黒刀だけはチルノの可能性を信じていた。
「あたいは…こんなところで負けられない…あたいはいつか黒刀に勝つんだ…」
チルノは首を絞められながら言葉を絞り出した。
「あ~四季黒刀か…安心しろよ!機会があればお前の代わりに俺が倒してやるよ!」
チルノの言葉を聞いたグ・ヨンが高笑いした。
だがその言葉はチルノの神経を刺激するものだった。
「…笑わせないで。」
チルノの口から冷たい声が出た。
「あ?…っ!」
グ・ヨンが聞き返した直後、チルノの首を掴んでいた左手に強い冷気を感じた。
チルノが彼の左手首を掴んでいたのである。
グ・ヨンは咄嗟にチルノから手を離して距離を取った。
「ハッ!粋がったところでもうお前の負けは確定してんだよ!」
「黒刀を倒すのはあたいだけだ!誰にも譲るつもりは無い!」
チルノはそう言い放った。
「うるせえんだよ!ガキが!」
グ・ヨンが斬りかかる。
チルノは氷の剣を造形して同じように斬りかかる。
「またそれか!無駄なんだよ!」
両者の剣が激突する。
「あたいは負けない…絶対に負けない!」
チルノが叫んだその時。
彼女が握っている氷の剣が青白く輝いた。
そのオーラの波動でグ・ヨンが吹っ飛ばされる。
「何だ?一体何が起きている!お前のその力は一体何なんだ!」
着地したグ・ヨンが叫ぶ。
チルノの体が浮遊していくと背中の氷の翼が徐々に大きくなっていく。
さらに氷の剣の鍔の部分に氷で出来た青い薔薇の飾りがつく。
それだけでなくチルノの全身を纏うオーラが無色から水色に変色した。
「これがあたいの最強だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
(挿入歌 限界突破G-beat 戦姫絶唱シンフォギアGXより)
チルノが喉の奥から力いっぱい叫んだ。
「『青薔薇の剣』…フッ…あいつにピッタリだな。」
拘束状態である天子は四つん這いになりながらそう口にした。
日本代表控室。
「青薔薇の花言葉は奇跡。チルノの諦めない心が奇跡を起こしたってことだな。」
黒刀がフッと笑った。
「チルノちゃんの翼…綺麗…まるでクリスタルみたい…」
大妖精がうっとりした目で見惚れる。
「名付けて『クリスタルウイング』なんてどうでしょう。」
雪村が眼鏡を吊り上げて命名する。
「まんまじゃん。」
霊夢が呆れる。
「いいじゃん!あいつが聞いたら『うお~かっけ~!』って言うと思うぜ!」
魔理沙のノッテきた言葉で次第に皆の表情に笑顔が戻っていく。
「『ゾーン』…やはり…いつも俺達に立ちはだかるのは天才という存在か!」
ペ・ギョンがチルノを見上げて声を荒げる。
「怖気づく必要はねえよ!こっちは2人いるんだ!『ゾーン』にはタイムリミットがある!俺達の勝利は揺るがねえ!」
グ・ヨンがハイジャンプでチルノに接近する。
チルノも飛行してグ・ヨンに迫る。
チルノの『青薔薇の剣』とグ・ヨンの風を纏った剣が激突する。
「へっ!また押し切って…」
グ・ヨンが押し込もうとしたその時。
背中に痛みが走った。
「なっ!…誰だ?…!」
後ろに視線を移すとそこにいたのはチルノだった。
「どういうこと…っ!」
グ・ヨンが答えを求める隙も無く前後のチルノから高速連続攻撃を仕掛けられる。
1人…また1人…さらに1人と増えてチルノの姿が5人となった。
「『イリュージョンアクセル』!凄いこの前より多い!」
控室にいる大妖精のテンションが上がる。
ただ多いだけでなく尋常ではないスピードで移動しているチルノにグ・ヨンは翻弄されるばかりだった。
見かねたペ・ギョンが水の斬撃を放つがその水はチルノが放つ冷気によって凍らされ落下してしまった。
「バカな!この俺がスピードで負けているだと!」
グ・ヨンは現実を受け止め切れていない。
チルノの動きは到底常人には捉えきれないスピードだったが黒刀はモニターウインドウでそれを肉眼で追っていた。
「(まだ『ゾーン』は使いこなし切れていない。早く決着をつけないとまずいぞ…チルノ。)」
タイムリミットが短いことはチルノも承知だった。
「もっと…もっと速く!」
5人のチルノのスピードがさらに上がる。
「これがあたいの…『氷精連斬』だ~!」
チルノがグ・ヨンを空中停止させる程、連続で斬りかかっていく。
「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
チルノがフィニッシュを斬りつける。
グ・ヨンは声も出ず失神して床に落下していく。
さすがにこの高さで頭から落ちたら大事故になってしまうので大会スタッフが移動魔法で一旦浮かせてからゆっくり床に下ろす。
「はあ…はあ…」
披露したチルノは『ゾーン』が解けて翼も元のサイズに戻る。
その時だった。
チルノは自身の背後に大きな水の球体があることに気づいた。
「はっ!」
チルノは急いで距離を取る。
「水風船。」
詠唱する声がした直後、その球体が爆発した。
「うわあ!」
巻き込まれたチルノは吹っ飛ばされる。
なんとか空中で体勢を立て直すが周囲にはさっきと同じ水の球体が10個浮いていた。
「『水風船』。効果は今体感した通りだ。お前の冷気が弱まったことでこれを使えるようになった。頑張ったようだが所詮お前はここまでということだ。」
左手で『水風船』を作り出すとチルノに向かって放った。
チルノはフィールドを飛び回る。
「無駄だ!その『水風船』は遠隔操作できる。逃げ場はない!」
ペ・ギョンが言い放つとチルノを包囲するように操作する。
「だったら凍らせて…!(霊力が…もう…)」
『ゾーン』は強力だが使いこなさなければ消耗が激しい。
チルノの霊力が底を尽きかけているのだ。
チルノは『水風船』に完全包囲されてしまった。
「弾けろ!」
11個の『水風船』は一斉に爆発する。
「うああああああああああああああ!」
悲鳴を上げたチルノが落下するところをペ・ギョンは『水風船』の中にチルノを入れる。
「さあ、これで終わりだ!」「ダメ~!」
ペ・ギョンの宣告と大妖精の叫びが重なる。
水風船は破裂し爆発した。
「さて…次は炎剣使いを…」
ペ・ギョンが『水牢』のある方に視線を移すと、ある異変に気付いた。
『水牢』は無くなっていたのだ。
「どういうことだ……まさか!」
ペ・ギョンが振り返って上空を見上げる。
『水風船』が爆発したことによって発生した霧から姿を現したのはチルノを抱きかかえる
ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back
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