東方剣舞   作:kuroto xanadu

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OP8 遊戯王GX 99%


魔法少女

 9月13日 午後0時30分 フィリピンのとあるビーチ。

インドvsカタールの試合が終わった同刻。

黒刀と韓国代表キャプテン、ユンスクは木製の武器をぶつけ合っていた。

黒刀は高速で上下左右に木刀を振る。

それをユンスクは同じ速度でいなしている。

ユンスクが持つ槍の方がリーチが長いので懐に入られたら一気に不利となってしまう。

それを理解しているからこそユンスクは黒刀から一定の距離を保っている。

黒刀はバックステップで距離を取ると即座にクロスステップでユンスクの背後に回り込んだ。

 

「(この足場でこの動きか!)」

 

ユンスクは驚きながらも冷静に左足を軸に右回転して背後の黒刀い向けて槍を振り回した。

だが、その攻撃は空を切った。

 

「(…上か!)」

 

ユンスクは頭上に顔を向けたが太陽の逆光で黒刀の姿が直視出来ない。

 

「くっ!」

 

ユンスクがその場からバックステップする。

直後、彼がいた場所に黒刀の上段斬りが振り下ろされる。

黒刀の一撃は砂浜に直径5mのクレーターを作り出した。

ユンスクは改めて黒刀の実力に感心する。

 

「この足場でクロスステップからのハイジャンプ。逆光を使った攻撃に加えてこのパワー…強いの一言に尽きる!」

 

気づけばビーチには黒刀とユンスクの手合わせを見ようとギャラリーが集まっていた。

妖夢達もようやく現場に到着する。

 

「って先輩⁉ユンスクさんと何やっているんですか?」

 

妖夢が疑問を抱くのも当然である。

 

「他国の代表選手との場外決闘は禁止されていませんでしたと思いますけど…」

 

大妖精が口を出す。

 

「真剣やSD、MADを使用していなければ原則禁止ではないな。」

 

にとりが補足する。

 

「って言っても普通やらないだろ。他国の代表選手と場外決闘なんて。」

 

魔理沙は呆れる。

 

「あ、あたいも混ぜて欲しい!」

 

「あんたが入ったらややこしくなるでしょ。怪我も完治してないし。」

 

霊夢が冷静にツッコむ。

 

「はあ~ちょっと止めてきます。」

 

映姫がため息を吐いて足を踏み出した。

 

「あ、師匠…!」

 

妖夢が映姫を呼び止めようとしたその時。

映姫より先にその場に割り込む人間を見つけた。

 

 

 

 

 

 2人が鍔迫り合い状態から弾き合って距離を取る。

 

「確かにお前は強い。だが気に入らんな。何故私の…槍の間合いで闘う?」

 

わざわざ槍の間合いで闘う黒刀にユンスクが問う。

 

「気にすんな。俺が必要だと思ったからやっているだけだ。」

 

「敵に合わせる闘い方がか?」

 

「クソ生意気な槍使いを倒しに行かないといけないんでね。」

 

「?」

 

ユンスクは黒刀が指す槍使いが誰か分からず首を傾げる。

 

「まあいい。だったら私の力でお前の力をこじ開けるまでだ!」

 

「やってみろ!」

 

黒刀とユンスクは吠えて砂地を蹴る。

2人の距離が狭まっていくその時だった。

 

「これ、借りるよ。」

 

1人の人間が韓国代表メンバーの1人から木刀を掠め取った。

驚くことに木刀を取られた男は直前までその人物が横にいることに気づかなかった。

 

「あ、ちょっと!」

 

声を上げるが止める間もなくその人物は次の瞬間、黒刀とユンスクの間に割り込んだ。

決闘を止めようとした映姫も思わず足を止めてしまった。

 

「四季流剣術 壱の段 一騎当千!」

 

謎の剣士は両側にいる2人に向けて剣技を放った。

剣速が速すぎるせいで風圧まで発生する。

 

「「っ!」」

 

黒刀とユンスクは最初の一太刀で吹っ飛ばされた反動を上手く利用して後ろに着地する。

 

「おやおや上手いもんじゃないかお2人さん。」

 

剣技を放った本人は称賛する。

 

「全く…邪魔しないで下さいよ…師匠。」

 

黒刀は呆れ顔でそう口にした。

そう。

2人を止めたのはかつて映姫と黒刀に剣術を教え込んだ豊聡耳神子であった。

 

「こらこら。あまり他人様に迷惑をかけてはいけないと教えたはずだよ…黒ちゃん。」

 

神子は黒刀をやんわりと叱る。

 

「あんまり怒らないんですね。」

 

「まあね。私よりもっと怒っている子がいるからね。」

 

神子がそう返すと黒刀は直後気づいた。

背後で怒気を放っている映姫の存在に。

慌てて振り返った瞬間、映姫から強烈なアッパーが繰り出された。

 

この愚弟がぁ!

 

「ぐはっ!」

 

黒刀は5m程、吹っ飛ばされた。

周囲の人間が呆気に取られた顔をする。

妖夢達と神子は割と見慣れている光景なので呆れてジト目になっている。

黒刀はすぐに跳ね起きた。

 

「あ~痛かった。」

 

『(絶対に嘘だ。)』

 

妖夢達はそう思った。

 

「ほら。帰ってミーティングしましょう。」

 

一発喝を入れてスッキリしたのか映姫は黒刀の手を引こうとする。

 

「あ、待って姫姉。」

 

黒刀は映姫から離れてチャン・スウの元へ行って木刀を返す。

 

「ありがとう。」

 

「いえ。なかなかいいものを見させてもらいました。」

 

黒刀の感謝に対しチャン・スウはお礼を返す。

 

「ルーミア、行くぞ!」

 

黒刀は少し離れた場所で決闘を観ていたルーミアを呼んだ。

ルーミアは黒刀が脱ぎ捨てたビーチサンダルを持って黒刀に駆け寄る。

 

「くろにい、これ!」

 

ルーミアは黒刀にビーチサンダルを手渡す。

 

「ありがとう。」

 

黒刀はお礼を言ってビーチサンダルを履く。

 

「さあ、そろそろホテルへ」

 

映姫が行こうとした時、

 

「いや。腹減ったからハンバーガーでも食おう。」

 

「は?」

 

黒刀の言葉に映姫が呆けた反応をする。

 

「師匠とユンスクも一緒にどうだ?」

 

「うん。せっかくだからご一緒させてもらおうかな。」

 

神子は了承する。

 

「ご馳走になっていいのかい?」

 

「ああ。」

 

ユンスクの問いに黒刀はそう返す。

 

「それじゃ私も。」

 

ユンスクは黒刀の元へ一歩踏み出す。

歩いている途中でユンスクは神子を見て考える。

 

「(この人が四季黒刀の師匠…彼があれ程の実力者なら一体この人はどれだけの強いのだろうか。手合わせしてみたい気持ちはあるが…何故かこの人とは闘ってはいけない。そんな気がしてしまう。)」

 

 

 

 

 

 午後1時30分 ハンバーガー屋。

とあるハンバーガー屋のテラス席で1つのテーブルを囲んで黒刀、映姫、ルーミア、神子、ユンスクそれと合流した妖夢が座っていた。

黒刀はチーズバーガー、映姫は野菜多めのハンバーガー、ルーミアは通常の倍の大きさのハンバーガー、神子はシンプルなハンバーガー、ユンスクはフィッシュバーガー、妖夢はハンバーガーではなくサイドメニュー系を注文した。

 

「黒刀、明日はカタール戦を控えているのですよ。」

 

映姫が釘を刺す。

 

「ん?分析なら昨日終わらせてデータを氷牙に渡した。」

 

黒刀はしれっとそう口にした。

 

「だとしてもチームワークは重要です。」

 

映姫はそれでも黒刀を説得しようとする。

 

「姫姉も分かっているだろ?俺が()()()()ことに一番向いていないこと。」

 

黒刀は苦笑して返す。

その言葉の真意を分かっている映姫はそれ以上説得することが出来なかった。

 

「そういえばあんたらもうカタールと闘ったんだったな。」

 

黒刀が話題を変える。

ユンスクは完食してから口元をナプキンで拭き取る。

 

「ああ。1日目で負けている。と言ってもこちらはベストメンバーではなかったがな。」

 

「ユンスクさん達は試合に出なかったんですか?」

 

妖夢が疑問を口にする。

 

「日本に勝ちを絞っていたということもあるが…いやこれはただの負け惜しみだな。結局逃げていただけなのかもしれません。」

 

「カタールと俺らは互いに2勝。つまり明日の試合でどちらがアジア代表としてWDC本選に出場できるか分かるってことだ。」

 

黒刀もチーズバーガーを完食する。

 

「勝ちましょう!そして絶対に優勝しましょう!ね?先輩。」

 

妖夢が立ち上がって宣言した。

 

「妖夢…わざわざ立って言わなくていい。」

 

黒刀が冷静に指摘した。

 

「あうっ!///」

 

妖夢は恥ずかしくなって椅子に座って縮こまってします。

その時。

 

「ヒャハハハ!言ってくれるじゃん!」

 

「叶わねぇ夢をあまり語らねぇ方がいいぜ!後で後悔することになるんだからな!」

 

挑発気味に高笑いしてこちらに近づいてくるのは試合後のミーティングを終えたばかりのフランクとイヴォだった。

 

「お前ら、何の用だ!」

 

黒刀達の近くのテーブルで食事していたイ・サンとチャン・スウが立ち上がって2人の進路を阻む。

 

「あ?負け犬に用はねぇし!」

 

「どけ。」

 

2人はイ・サンとチャン・スウを押しのける。

 

「ほらルーミア、口元にソースが付いてるぞ。」

 

しかし、黒刀はフランクとイヴォに興味を示さずナプキンでルーミアの口元に付いているソースを拭き取っていた。

 

「ご馳走様♪」

 

思う存分食べたルーミアは両手を合わせて昼食を終えた。

 

「どんだけ食べてるんですか…ルーミアちゃん。」

 

妖夢が驚く。

それもそのはずルーミアは通常の倍の大きさのハンバーガーを2,30個は平らげてしまったのである。

 

「それじゃ次はどこへ行こうか?」

 

黒刀が席から立ち上がる。

 

「おいおい。無視すんじゃねぇよ!俺達はお前に用があるんだよ!四季黒刀!」

 

フランクが名指しする。

すると、黒刀の雰囲気が一気に冷たくなった。

 

有象無象が俺とルーミアの時間に入ってくんじゃねぇよ。

 

ただ一言発した。

たったそれだけでフランクとイヴォ、イ・サンとチャン・スウ、ユンスクまでも動けなくなってしまう。

 

「くろにい…」

 

その時、ルーミアが黒刀の左手を握って声をかけた。

 

「行こうか?」

 

黒刀の雰囲気が元に戻って笑顔をルーミアに向けた。

 

「うん♪」

 

ルーミアは元気な笑顔で返した。

黒刀と一緒にレジで支払いを済ませて店を後にする。

 

「あ、私も。」

 

映姫もちょうど完食して立ち上がる。

 

「それでは師匠、私はこれで失礼します。」

 

神子に頭を下げる映姫。

 

「ああ。明日は私も観戦させてもらうよ。」

 

神子は笑顔で返した。

映姫は頭を上げると店を後にする。

ちなみに全員分の支払いは黒刀が既に済ませている。

 

「チッ。白けた。」

 

フランクとイヴォは帰っていく。

ユンスクはまだ席に座りながら黒刀が行った先を見ていた。

 

「(さっきの彼の雰囲気は凄まじかった。だがあのルーミアという少女は全く臆していなかった。あの兄妹には言葉では表せない程の絆があるということか。)」

 

 

 

 

 

 それから黒刀、ルーミア。映姫の3人は色々な露店を回った。

ホテルに戻って夜になるとミーティングの時間になった。

しかし、その場に黒刀の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 午後8時。

黒刀がミーティングに参加していない理由はカタール代表の映像研究を昨夜ぶっ通しでしていたので疲労回復の為ということだった。

だが黒刀は休んでなどいなかった。

ホテルの自室である試合映像を繰り返し見ていた。

それはレミリアの試合映像だった。

ヨーロッパ予選の試合映像を録画して研究しているのである。

その集中力は並外れていた。

黒刀はWDCに出場した目的。

それは今も変わっていなかった。

 

 

 

 

 

 9月14日 午前6時。

黒刀が1人で朝のランニングをしようとホテルの外に出ると先客が待っていた。

 

「おはようございます!先輩!」

 

妖夢は元気に挨拶してきた。

 

「おはよう。どうした?こんな朝早くに。」

 

「朝練ご一緒させてもらおうと思って待っていたんです。」

 

「ああ。いいよ。」

 

妖夢は黒刀の了承に小さくガッツポーズ。

2人は軽く準備運動してから走り出す。

 

「そういえば妖夢とこんな風に2人きりになるのは久しぶりな気がする。」

 

黒刀は走りながら話しかける。

 

「そうですね。確かにここ最近色々ありましたから。」

 

妖夢も黒刀のペースについていきながら会話する。

 

「姫姉の特訓はきついか?」

 

「まあ正直…でもそのおかげで強くなれてますから。先輩はレミリアさんを倒す為にWDCに出たんですよね?」

 

「ああ。一応ヨーロッパ予選のデータも見てるけどやっぱそれだけじゃ分かりにくい部分もあるからこっちの予選が終わったらあっちの予選会場があるパリに行こうかと考えてる。あっちの最終日はこっちより遅いし…」

 

そこまで言ってから黒刀が隣の妖夢を見ると黒刀がロサンゼルスに行った時のように寂しそうな顔をしていた。

 

「いやパリに行くって言っても2日ぐらいで帰って来るから。」

 

黒刀は必死に妖夢を宥める。

 

「べ、別に泣いてませんから!」

 

「いやそんなこと聞いてないけど。」

 

「はうっ!///先輩は意地悪です…」

 

妖夢は恥ずかしくなって顔を赤くして俯いてしまう。

それから2時間走り続けて午前8時にホテルに戻って来る。

妖夢も立ち直っていた。

シャワーを浴びて、着替えて、朝食を食べて、最終確認のミーティングを終えてから日本代表一同は試合会場に向かっていく。

カタール戦開始まであと3時間。

午前中はインドvs韓国の試合だった。

昨日のカタール戦が響いたのかインド代表は思ったように闘えず結果は韓国代表の勝利となった。

 

 

 

 

 

 午前11時。

ついにアジア代表が決定するということもあってか会場の観客席は満席だった。

ルーミアと神子は最前列で隣り合わせに座っている。

 

「楽しみだね。ルーミアちゃん。」

 

「うん♪」

 

インド代表と韓国代表も重傷者以外は観客席の後ろからフィールドを見下ろしている。

偶然に2チームが同じ場所から見ていた。

 

「怪我はもう平気なのかい?ガンジー。」

 

「問題ない。お前の方こそどうなんだ?ユンスク。」

 

「さすがに2日も経てば平気だ。」

 

両キャプテンは軽口を叩き合っていた。

カタール戦開始まであと2時間。

現在、デュエルフィールドは試合の為、準備中。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

 

「それじゃダブルス2九条と七瀬。頼んだぞ。」

 

にとりが花蓮と愛美を呼ぶ。

 

「「はい!」」

 

2人が強く応える。

花蓮は和装のデュエルジャケットだったが、愛美は私服のままだった。

 

「愛美、何で私服のままなんだ?」

 

妹紅が訊く。

『魅了』のスキルを発動させない為、眼鏡をかけている愛美が微笑む。

 

「まあ後のお楽しみってことで♪」

 

愛美はウインクして意味深なことを言った。

妹紅は訳が分からず首を傾げる。

 

「花蓮、油断はするなよ。」

 

優は婚約者の花蓮に声をかける。

 

「うん。分かってる。」

 

花蓮は笑顔で応える。

 

「まだ試合まで2時間ありますね。どうします?」

 

雪村が時計を確認して訊く。

 

「じゃあその間、一緒に散歩しましょう♪」

 

花蓮が優の右腕に自身の左腕を絡めて甘える。

 

「花蓮、試合前だぞ。」

 

「だからこそですわ。最近2人きりになる時間が無かったではありませんか。」

 

花蓮が頬を膨らまして拗ねる。

 

「はあ…分かったよ。」

 

優がため息を吐いて観念したようだ。

 

「それじゃあね♪」

 

2人は控室を出て行く。

 

「さすが婚約者。」

 

魔理沙がそう口にした。

 

「それじゃセンパイ♪私達もイチャイチャしましょ…ってあれいない!」

 

早苗が騒ぎ出した。

 

「(またあいつは…)」

 

にとりは呆れ顔で心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 午前11時10分 予選会場テラス。

黒刀は誰もいないテラス席で1人、手すりに肘を置いて体重をかけていた。

そこへ…

 

「やっぱりここにいましたか。」

 

映姫がやってきた。

 

「ダメですよ。皆と一緒に行動しないと。最近の黒刀は単独行動が多いです。」

 

映姫は黒刀を軽く叱る。

黒刀は手すりから体を離す。

 

「いや、考え事をしていただけだ。」

 

「…レミリアさんのことですか?」

 

そう口を挟んだ映姫に黒刀は一瞬、驚いた顔をしたがすぐに飄々とした表情に戻った。

 

「やっぱり姫姉に隠し事は出来ないか…」

 

「当たり前です。何年一緒にいると思っているんですか。」

 

胸を張る映姫。

 

「そうだな…。今考えていたのはいっそ俺が全試合やったらレミリアと早く闘えるんじゃないかと思ってさ。」

 

「調子に乗らない!」

 

映姫はジト目で黒刀の脳天に軽くチョップ。

 

「あ、いてっ。」

 

わざとらしく声を上げる黒刀。

映姫はスッと右手を差し出してやや頬を赤く染める。

 

「ほら早く皆のところに戻りますよ///」

 

「ああ。分かったよ。」

 

黒刀は映姫の手を握り返した。

そうして2人は一緒に控室へ戻って行く。

 

 

 

 

 

 午前11時15分。

花蓮は優との散歩にかなりご満悦のようだ。

優も澄まし顔だが愛する人と一緒にいられることに悪い気はしていない。

 

「花蓮。」

 

「何ですか?」

 

「お前は確かに親同士が決めた婚約者だ。だけどそんなことは俺には関係ない。改めて言っておく。俺はお前を心から愛している。俺が闘う理由は2つ…自分の為かお前の為だ。」

 

優は真剣な表情で言った。

辺りに人気は無い。

 

「優…嬉しいです!」

 

花蓮は優の腰に手を回して抱きついた。

 

「私…次の試合、必ず勝ちます!あなたの妻になる女として恥ずかしくないように。」

 

花蓮はそう誓った。

優は無言で花蓮を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 午前11時30分 日本代表控室。

黒刀と映姫が控室に戻ってきた。

電動ドアが開いて黒刀の姿を見た早苗が寄って来る。

 

「あ!どこ行ってたんですかセンパイ!さあ、私達も二宮さんと九条さんみたいにイチャイチャしましょう!」

 

「何の話?」

 

黒刀は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 午後0時50分。

愛美は既にゲートで壁に背中をもたれかけさせて携帯端末を弄りながら待っていた。

『魅了』防止の眼鏡をかけているので知性的に見える。

数分後、花蓮がゲートに来た。

花蓮の表情は引き締めた真剣なものになっていた。

 

「遅かったですね。花蓮さん。」

 

愛美は壁から背中を離すと少しからかい気味に声をかける。

 

「言いたいことは分かりますが今は試合に集中しましょう。」

 

花蓮は愛美の茶化しを回避する。

 

「ええ。そうね。」

 

愛美は気を取り直して右手のMADを握り締める。

入場ブザーが鳴り響く。

 

「さあ、行きましょう!」

 

「はい!」

 

花蓮にとって3回目、愛美にとって初めての世界戦だ。

 

 

 

 

 

 一方。

カタール代表のユセフとエメルソンはフィールドに入場する。

 

「エメルソン、カタール代表として恥の無い闘いをするぞ。」

 

「ああ。」

 

2人は今回で2年目のWDC出場。

そんな2人は初出場のフランクとイヴォの卑怯な戦闘スタイルと傲慢な態度に不満を立てていた。

 

「あいつらは国を背負っているということがどういうことなのかまるで分かっていない。」

 

「ああ。俺達が見せてやる。国を代表する者の闘いを!」

 

2人は気合いを入れる。

 

「あの~」

 

そこで声が聞こえてきた。

愛美が控えめに手を挙げていた。

 

「何だ?」

 

ユセフが聞き返す。

 

「盛り上がっているところ悪いんですけど勝つのは私達ですから♪」

 

愛美はこの状況で場違いな笑顔で返す。

 

「何?」

 

「お前、初出場か?」

 

エメルソンが怪訝な顔をして、ユセフが問う。

 

「ええ。」

 

「世界のレベルを体験したことないのによくもそんな大口が叩けるな。」

 

「だって私、強いですから♪」

 

愛美は再度笑顔で返した。

その言葉を聞いたユセフはさらに敵意を強めた。

 

「どいつもこいつも舐めやがって!」

 

ユセフは腕輪状の汎用型MADを起動する。

エメルソンもそれに続く。

 

「愛美、挑発も程々にね。」

 

「は~い。それじゃあこっちも!」

 

愛美はハート型のMADを取り出す。

 

「『マジカルハート』!セットアップ!」

 

MADが輝いて愛美の体も光り出した。

まるで魔法少女のように。

 

「「?」」

 

そのような文化を知らないユセフとエメルソンは愛美が何をやっているのか理解できない。

観客も何が起きたのか盛り上がっていた。

愛美を知る花蓮や控室の皆も以前に剣舞祭で装着したメルヘンチックな装備だと思って呆れた目をしていた。

…ただ1人を除いて。

変身を終えて現れたのは胸にピンクのリボン、全体的に白い装備に青いカラーラインが入っていて、髪はピンクのリボンで結んでポニーテールになっていて、ロングスカートで、右手には長さ1mのMADが握られている。

このMADこそが七瀬愛美の新たなデバイス『マジカルハート』である。

白い棒にある赤い先端は一見槍にも見えるがこれは砲撃魔法を撃つ為の砲口である。

今の愛美は以前のメルヘンチックな魔法少女ではなくバリバリ戦闘系魔法少女。

さらに、驚くべきはそこだけはなかった。

 

「…浮いている…」

 

ユセフが言葉を漏らす。

そう。

彼女は10m上空で滞空していた。

 

「反重力飛行魔法だと!バカな!アンチグラビティシューズも無しで出来る筈がない!」

 

エメルソンが叫ぶ。

だが、現に七瀬愛美は浮いていた。

 

 

 

 

 

 日本代表控室。

皆が驚く中で黒刀だけは違った。

 

「やっぱりか。」

 

その呟きに全員が振り返った。

 

「黒刀の仕業なのか?」

 

魔理沙が訊く。

黒刀は怪訝な顔をする。

 

「何か俺が悪いことしたような訊き方だな。」

 

「で、やっぱりって何だよ?」

 

「…恐らく奴らは魔法理論を知らない。あるものをただ技術として使っているだけに過ぎない。」

 

「どういうことだ?」

 

「例えて言うなら奴らは教科書にある数式を途中式飛ばして答えだけを出している。しかし、それだけでは何故そうなるかという説明が出来ない。」

 

「つまり方法を知らないってことか。」

 

魔理沙の返答に黒刀は頷く。

 

「カタールは魔法後進国だと言われている。奴らが魔法を使えるのは道具と技術を他国から提供されているからだろう。だから飛行魔法のような新しい魔法を理解出来ないのさ。反重力飛行を実現させたアンチグラビティシューズは存在が公開されているとはいえ技術と理論はロシアが独占しているからね。」

 

「何かあたいこんがらがってきたぞ。」

 

チルノが参ったような声を上げる。

黒刀はチルノの頭にポンと手を置くと微笑む。

 

「空が青いことと一緒だ。」

 

人間は空が青いことを知っていても何故青いかまで深く考えない。

ちなみに空が青い理由は太陽光の波長が短い青い光が大気中の粒子にぶつかって屈折し乱反射して広がって行くからである。

それと黒刀は1つ嘘を吐いている。

反重力飛行はロシアだけだと説明したが実際は新大日本帝国とロシア連邦が技術と理論を保有していて反重力飛行は最初に帝国が実現させた。

しかし、ブレイドアーマーの情報は軍事機密である為、当然口外出来ない。

 

「昨夜、2人でコソコソ話し合っていたのはこの為だったのですね。」

 

映姫が黒刀をジト目で見つめる。

 

「アハハ…何のことな?」

 

黒刀は苦笑いして目を逸らす。

 

『(こいつ、とぼけやがった。)』

 

 

 

 

 

 愛美は滞空状態のままMADを構える。

 

「黒刀の手を借りたって言うのは何だか癪だけど…さあそろそろ始めましょうか!」

 

「「望むところだ!!」」

 

カタール代表の2人は声を揃えた。

 

《3…2…1…0.デュエルスタート》

 

試合開始の機械音声が鳴り響いた。

ユセフとエメルソンは距離を取ってMADに魔力を注入した。

花蓮は扇子を水平に振って『風壁』を展開して防御態勢を整える。

一方。

愛美は滞空したまま何もしない。

ユセフが火球を、エメルソンが水属性の放出系魔法を花蓮に向けて放った。

『風壁』によってエメルソンの魔法は防げたが相性の悪いユセフの火属性魔法は威力を殺しきれず花蓮はやや後方に飛ばされる。

 

「なるほど。あの2人の属性は火と水ね。だったら…」

 

それを見て愛美が分析する。

 

「追い打ちをかけるぞ!」

 

「ああ!」

 

ユセフとエメルソンは息を合わせて花蓮に追撃を仕掛ける。

愛美にも攻撃を仕掛けたいが上を取られてしまっては魔法も当たりにくい。

だからこそ2人はまず確実に1人落としにきたのである。

先程と同じ魔法を花蓮に向けて放つ。

花蓮は『風壁』ではなく『かまいたち』で迎撃しようとしたのその時。

上空から水球が火球をかき消し、床から土の壁が出現してエメルソンの水属性魔法を弾いた。

ユセフとエメルソンが上空を見上げると愛美が『魔女』の如くそこにいた。

 

「九条花蓮は風属性しか使えない筈。ということはまさかあっちの女が…だとしたらあり得ない!2つの属性を同時に発動させるなんて!」

 

ユセフが驚愕した顔で叫ぶ。

 

「私を無視するなんていい度胸してるじゃない!」

 

愛美がそう吐き捨ててMADを水平に振った。

それだけで水球をユセフへ、岩の槍をエメルソンへ放った。

 

「ユセフ、スイッチ!」

 

「分かった!」

 

ユセフとエメルソンは位置を入れ替えて、ユセフが岩の槍を、エメルソンが水球を相殺した。

その隙を突いて花蓮が『かまいたち』を放った。

 

「エメルソン!」

 

「任せろ!」

 

エメルソンは魔表で岩の壁を展開して『かまいたち』を弾いた。

さらに魔法で岩の壁を粉々に分解して砂を空気中に散布させた。

 

「見えないなら見えるようにすればいい!」

 

「くっ…これでは『かまいたち』を使っても読まれる。」

 

花蓮が悔しそうに唇を噛み締める。

その時。

 

「花蓮さん、『突風』です!」

 

上空から愛美の声が響く。

 

「え、でも…」

 

「早く!」

 

「分かりましたわ!突風!」

 

花蓮は扇子を振って『突風』を放った。

砂が吹き飛ばされるが同時に風も丸見えになってしまう。

 

「無駄なことを!」

 

エメルソンが魔法で岩の壁を展開する。

 

「それはどうかしら?」

 

愛美の声が響く。

MADを構えて砲口から熱線を放った。

 

「火属性も使えるのか!」

 

ユセフが驚く。

熱線は花蓮の『突風』と混じって威力を増して、岩の壁を粉砕して貫通する。

ユセフとエメルソンも諸共倒したと思ったが2人は10m左右にそれぞれ移動していた。

 

「『自己加速術式』…」

 

花蓮が呟く。

 

「花蓮さん!」

 

愛美の声に花蓮は我に返った。

花蓮は扇子を、愛美はMADを振る。

 

「「竜巻!」」

 

直径5mの竜巻を合計3つ発生させた。

背後には壁、前方と左右から竜巻が迫っているユセフとエメルソンだが彼らはまだ冷静だった。

 

「あの女、一体いくつ属性を使えるんだ?」

 

「考えても仕方ない。俺が合図したら動くぞ。」

 

 

 

 

 

 午後1時20分 日本代表控室。

 

「七瀬さんは『エレメンタルマスター』だったんですね。」

 

雪村が口を開く。

 

「『エレメンタルマスター』?」

 

魔理沙が疑問をぶつける。

 

「魔理沙、属性魔法の基本属性は?」

 

黒刀が問う。

 

「何だよ藪から棒に…火、水、風、土だろ。」

 

魔理沙は即答した。

 

「『エレメンタルマスター』って言うのはその四属性魔法を完全習得した国家資格のことだ。」

 

黒刀は控室のソファに腰かけながら頬杖を突く。

 

「ですが属性魔法は適性が無いといけないのではないですか?」

 

優等生の大妖精が黒刀に問う。

 

「だからあいつはその適性があるんだよ。四属性全部。」

 

黒刀の答えに一同は絶句。

個人の属性は努力でどうなるものではない。

それは生まれ持った才能だ。

それが七瀬愛美にはあるということだ。

 

「…僕が説明しようと思っていたのに。」

 

雪村は自分が説明しようした内容を黒刀に横取りされてしまった為、肩を落とす。

 

「ドンマイ!」

 

光が笑顔で雪村の肩に手を置く。

 

「咲夜、愛美さんと一緒にやっていたのはMADの調整ですか?」

 

映姫が黒刀に問う。

 

「…まあな。」

 

黒刀は短く答えた。

 

 

 

 

 

 迫りくる竜巻に対してユセフがついに動いた。

 

「今だ!」

 

ユセフとエメルソンは『自己加速術式』を発動して竜巻と竜巻の僅かな隙間を突破した。

ユセフは花蓮に向かって突撃する。

花蓮が『風壁』を展開してさらに『かまいたち』を放つが、ユセフは移動魔法で上に跳んで『かまいたち』を回避して床に着地した後、一気に距離を詰めた。

 

「(大丈夫。『風壁』を張っていればこれ以上距離を詰められることは無い。)」

 

花蓮は安心し切っていた。

しかし、相手の方が一枚上手だった。

ユセフはMADに魔力を注入して炎の壁を展開する魔法を発動した。

 

「(ここで防御魔法?)」

 

花蓮が疑問を抱いた。

次の瞬間、その行動の意味が分かった。

ユセフが炎の壁を魔法で前方に突撃させて『風壁』にぶつけて相殺させたのだ。

 

「しまった!」

 

花蓮が気づいた時にはもう遅かった。

ユセフは壁が無くなったところで『自己加速術式』を発動して花蓮の懐に入った。

右手から火属性魔法の火球が放たれようとしていた。

 

「(私はナンバーズの九条花蓮…ただで負ける訳にいかない!)」

 

花蓮は左手に手のひらサイズの風の球体を作り出した。

それをユセフに向ける。

ユセフが目を見開く。

だが、その球体が花蓮の手を離れることは無い。

何故ならこの魔法は放出系魔法ではないからだ。

 

「風爆!」

 

花蓮が詠唱したその瞬間、圧縮された空気の球体が解き放たれ大爆発を引き起こした。

そう。

この魔法は相打ち覚悟の自爆術式。

爆発の煙から後方へ吹っ飛ばされたユセフとエメルソンが倒れて気を失った。

 

 

 

 

 

 午後1時25分 日本代表控室。

 

「花蓮!」

 

普段の優からは考えられない程の叫びが響く。

 

 

 

 

 

 

「花蓮さん!」「ユセフ!」

 

愛美とエメルソンが互いにパーティーの身を案じる。

だが、試合中ということもあり2人は相手に意識を集中させた。

 

「「一撃で終わらせる!!」」

 

エメルソンは魔法で岩を浮遊させて足場を作り、次々と跳び移って愛美との距離を詰める。

水属性の巨大な槍を造形してそれを放った。

 

「これで終わりだ!『魔女』!」

 

エメルソンが叫ぶ。

水の槍が愛美に当たり、爆裂。

周囲に水蒸気の霧が立ち込める。

 

「魔法を発動させる隙も無かったようだな。」

 

エメルソンが床に着地して、倒れているユセフの元へ向かおうとしたその時。

上空から膨大な魔力を感じた。

水蒸気の霧が晴れ、その反応の先に目を凝らすと、そこにいたのは左手を前にかざして魔力障壁を展開している無傷の愛美だった。

 

「バカな!あれだけの威力の魔法を魔力障壁だけで防ぎ切っただと!」

 

エメルソンが驚愕する。

 

「今度はこっちの番!」

 

「何…っ!」

 

エメルソンの両手首と両足首にピンク色の光のリングがはめられて拘束する。

 

「これは…バインド⁉」

 

もがくエメルソンに対して、愛美はMADを両手で構えて砲口をエメルソンに向けると砲口の先端にピンク色のオーラを集束させる。

 

ストライク~バスターァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!

 

愛美の『マジカルハート』から放たれたピンク色の極太の光線が『バインド』で拘束されているエメルソンに降り注ぐ。

 

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

エメルソンの断末魔が響く。

彼の体が後方に押し込まれてフィールドの壁に背中を激突させて壁に亀裂を入れた。

砲撃を撃ち尽くした後、エメルソンは前のめりに倒れる。

 

《勝者 七瀬愛美&九条花蓮》

 

愛美達の勝利が決まった。

手に汗握る激闘に観客の歓声が沸き上がる。

だが愛美には勝利に浸っている時間は無い。

 

「花蓮さん!」

 

愛美は床に舞い降りて変身を解くと倒れている花蓮の元へ駆け寄る。

花蓮の肩に手を回して支えたその時。

 

「花蓮!」

 

フィールドに別の声が響く。

愛美が視線を向けるとその先にいたのはゲートに姿を現した優だった。

 

「二宮さん…」

 

「花蓮!」

 

優は慌てて花蓮の元へ駆け寄る。

愛美は花蓮を優に預ける。

 

「花蓮…」

 

優は花蓮の体を支えてもう一度名前を呼ぶ。

すると、花蓮の瞼がうっすら開き始める。

 

「……優…」

 

花蓮はホッとした顔になる。

 

「私…何とか…1人倒せたよ…」

 

花蓮はボロボロにも関わらず声を絞り出す。

 

「ああ…十分だ。」

 

優は優しく言葉をかける。

その言葉に満足したのか花蓮は目を閉じて眠った。

その時だった。

この場に不似合いな拍手がカタール代表側のゲートから聞こえてきた。

そこから姿を現したのはフランクとイヴォだった。

 

「いやいや…とんだ()()()だったよ!」

 

フランクが大きな声量で言い放った。

 

「何ですって!」

 

愛美が突っかかる。

 

「女2人にやられるこいつらも情けねぇが…何より…弱い癖にこのWDCに出場しその上、相打ちでしか討ち取れねぇその女は見てて無様としか言いようがねぇな!ハハハハハ!!!!

 

フランクとイヴォが嘲笑する。

その時、空気が変わった。

 

…俺の女を侮辱してんじゃねぇ!

 

低く怒気がこもった声で優が吐き捨てた。

 

「ハッ!」

 

フランクは鼻で笑い飛ばした。

 

「だったらてめぇも仲良く医務室行きにしてやるよ!」

 

イヴォが続く。

 

「上等だ!」

 

頭に血が上った優が言い放った。

そこへ、次の試合に出場する最後の1人が到着した。

 

「いくぞ…黒刀!」

 

優が名を呼ぶ。

 

「ああ。」

 

黒刀はそう応えた。




ED8 ヴァンガードG ギアーズクライシス編 Don't Look Back

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