ニューヨーク時間午前9時30分。
選手達にとって退屈な開会式がようやく終わった。
30分後には日本vsエジプトの試合が始まる。
本選の第1試合である上にこの時間は他のチームの試合も大会のスケジュールの都合上無い為、他のチームも観戦する注目の一戦となっている。
日本代表控室。
さすがは本選会場というべきか予選の控室より一回り広い。
「さて、本選に来て初めての試合だがお前らは気負わずいつも通り自分の闘い方を貫け!それが一番お前達らしい!」
喝を入れるにとり。
『はい!』
それに応える選手一同。
「まずは俺が先陣を切ってやるぜ!」
シングルス3の六道仁が気合いの一言。
「気を付けて下さい。対戦相手のストゥム・ルー、予選のデータが全くありません。恐らく今回初出場初試合の選手です。どんな闘い方をしてくるか…」
雪村が仁に声をかける。
「心配すんな!どんな相手だろうが俺は俺のやり方で勝つ!それだけだ!」
仁は背を向けたままそう言い放って控室を出た。
エジプト代表控室。
控室の中心にはどこから持ってきたのかアヌビスが高級ソファに腰掛けている。
両サイドからは控えメンバーが大きな扇子で扇いでいる。
「相手がよもやあのような小国とは拍子抜けだな」
アヌビスが偉そうに頬杖を突く。
「ストゥム、最初はお前だ。行け」
アヌビスは傍で美味しそうにパンを頬張っているストゥムに命令する。
呼ばれたストゥムはビクッと体を震わせて慌ててビシッと敬礼する。
「ふぁい!いっききまふ!(はい!いってきます!)」
コッペパンを咥えたまま応えた。
「貴様!アヌビス様に対してその態度は何だ!」
ストゥムの態度が気に食わなかったのか黒いローブを纏ったメンバーの1人が怒鳴る。
「スクス、下がれ」
しかし、アヌビスは静止する。
「しかし、アヌビス様!こいつは…」
「いいから黙って引っ込んでいろ!」
アヌビスは静かに低い声で怒っていた。
「も、申し訳ございません…」
その威圧感に圧倒されたスクスと呼ばれた男は引き下がる。
アヌビスはストゥムに視線を戻す。
「ストゥム、分かっていると思うがエジプト王国に敗北は許されない」
アヌビスの言葉にストゥムはコッペパンを咥えたままコクコクと首を縦に振る。
「ならば行け」
アヌビスが命令するとストゥムはまだ半分残っているコッペパンを一気に飲み込んだ。
「はい!必ず勝利をお届けして見せます!」
ストゥムは胸の前で両手の拳を握る。
「それではいってきます!」
最後にそう言って控室を出た。
一方。
仁はゲートの通路を歩いている。
「(そういやこれが俺のWDCデビュー戦か。初戦は試合の流れに影響してくる。負ける訳にはいかない)」
拳を握り締める仁。
ゲートを通り抜けると大きな歓声と拍手が沸き上がる。
剣舞祭で観客の反応に慣れている仁は澄ました顔で歩き進む。
フィールド中央近くで止まる。
対戦相手の姿はいまだ見えない。
1分程、待っているとゲートからストゥムが走ってきた。
ただ小柄、童顔である彼の容姿が走っている様子は女子と遜色ない。
可愛らしいその容姿に観客の女性陣は大盛り上がり。
ストゥムが仁の近くまで走ってきたと思ったその時。
何も無いところで躓いて前のめりにこけて倒れた。
「ぎゃふっ!」
日本代表控室。
「妖夢、お前と同じ奴がいるぞ」
黒刀が妖夢の顔を見る。
「わ、私こけたことなんて一度もありません!///」
妖夢は頬を赤く染めながら必死に否定した。
「(どの口が言ってんだ…)」
黒刀は呆れた目で妖夢を見て思った。
それから目を閉じて今まで妖夢がこけたシーンを思い出した。
「(うん…ドジっ娘確定!)」
黒刀は心の中で納得して頷く。
「ちょっと先輩!なんか勝手に納得していませんか⁉」
妖夢が抗議の声を上げるが黒刀は全く聞いていなかった。
ストゥムが立ち上がって仁の10m手前に立つ。
仁がストゥムを見て思ったことはただ1つ。
「(なんだこの男らしくねぇ奴は)」
「あの…僕、ストゥム・ルーと言います…よろしくお願いします!」
ストゥムが直角に頭を下げて名乗った。
「…六道仁だ」
仁はぶっきらぼうに名乗り返した。
仁はストゥムの女々しい態度と容姿にイライラしていた。
ストゥムが頭を上げて笑顔を浮かべると観客の女性陣から黄色い声援が上がる。
その空気に仁のフラストレーションが溜まっていき、こめかみに青筋を立てる。
だからといってここで大声を張り上げる程、仁は幼稚ではない。
仁は空手家のような構えを取る。
「デュエルジャケットセットアップ!」
仁が光に包まれた次の瞬間、光がバアッと弾けると全身に空手家のような道着、額に赤いハチマキ、右腕にはナックル型SDが装着されていた。
これが新しく生まれ変わった六道仁である。
対してストゥムは女性のような細い上半身裸で下半身はボロボロの半ズボンのみだった。
「おい。さっさとデュエルジャケットを装着しろ」
「あ、いえ…僕、これしか服ないです…」
ストゥムが怯えた声で答えた。
「何?」
仁は目を細めて改めてストゥムの格好を見る。
ほぼ裸で筋肉もそれ程ついていない下手したら一撃で骨折してしまいそうな見た目だった。
「ふざけやがって」
仁は小声で呟く。
ストゥムも半歩引いて構える。
どうやら近接格闘型のようだ。
その時。
《リアルARシステム起動。ステージ『砂漠』》
機械音声が鳴り響いた。
すると、フィールドの床が光に包まれてコンクリートの床の上に砂が現れ徐々に盛り上げていく。
急に足場が変わったことに仁はよろめく。
「くっ!」
「うわっ!」
砂漠に慣れている筈のストゥムも後ろに転倒する。
そして、フィールド全体が完全な『砂漠』ステージと化した。
元の床から1m程盛り上がっている。
仁は足元の砂を右手で掬い取る。
掬い取った砂は指の隙間から流れ落ちた。
「これが最新技術の、質量をもった仮想ステージ。まるで本物だ」
WDC本選では予選とは別に追加ルールとしてこのリアルARシステムが適用される。
魔法の最新技術により仮想ステージを作り出す。
ただの平面ではなく環境を変えることによって闘い方も変わってくる上に観客も見応えがある。
そして、日本vsエジプトの試合で用意されたのがこの『砂漠』ステージである。
「関係ねぇ!どこで闘おうと俺は俺の闘いをするだけだ!」
仁は右手の拳を左手に叩きつける。
ストゥムも立ち上がって構える。
「僕も負けません!アヌビス様の為に!」
《3…2…1…0.デュエルスタート》
試合開始と同時にストゥムが砂地を蹴って突撃してきた。
仁も砂地を蹴って前に出ようとするが足場の悪さにバランスを崩して左によろめく。
その間にストゥムが右足で飛び蹴りを仕掛けた。
仁は右手の甲で受けて右に払った。
ストゥムは払われた反動を活かして全身を左回転させて逆回し蹴り。
仁は屈んで回避してストゥムの顎に右アッパー。
見事ストゥムの顎にヒットして吹っ飛ばした。
ストゥムの顔が殴られたことにより観客の女性陣から悲鳴が上がる。
中には仁に対してブーイングを飛ばす人もいる。
ストゥムは砂地を三度転がった後、足を着いて立ち直った。
「チッ、浅かったか。砂に足を取られて力を入れづらいな」
悪態をつく仁。
「まだまだ…いきます!」
ストゥムはもう一度砂地を蹴って突撃して仁の正面から左フック。
仁はそれを左手でいなして頬に右ストレート。
これもヒット。
そこで仁は違和感を抱く。
「(どういうことだ?確かにスピードもあって攻撃のキレも悪くない。だがこれが世界レベルかと言われればあまりにも弱すぎる)」
仁は次々と繰り出されるストゥムの攻撃をいなしてカウンターを繰り出した。
「(くそ!足場のハンデさえ無ければこっちからも攻撃出来るのによ!……いや違う。今考えるべきはどうやってこの環境に適応するかだ)」
仁はストゥムの攻撃をいなしながら彼の足元を観察した。
「(重要なのは重心。ただ思いっきり踏み込んでも砂に足を取られるだけ。だったら重心を少し浮かせて砂にかかる圧力を最小限に…踏み込むのではなく踏み上げる!)」
仁は砂地を蹴ってストゥムの懐に潜り込む。
「六道流体術 天道!」
ストゥムの顎に掌底を叩き込んだ。
「ぐあっ!」
ストゥムの体が浮き上がる。
仁はストゥムの真上に跳び上がる。
「六道流体術 地獄道!」
ストゥムのうなじに向けてエルボーを叩き込む。
「っ!」
ストゥムは強烈な痛みで声も出せないまま砂地に叩き落とされる。
砂が舞い上がる。
仁は着地してすぐに砂地を蹴った。
その先には叩き落とされたストゥムがゆっくり立ち上がっていた。
だが、首筋に受けたダメージでまだ意識がはっきりしていない。
「いくぜ!」
仁が吠えるとナックル型SDの手首部の歯車状の機構が高速回転する。
「リボルバーナックル!」
仁の右ボディブローがストゥムの腹に叩き込まれる。
「う…がはっ!」
ストゥムは血を吐いて吹っ飛ばされる。
砂地を転げ回りやがてうつ伏せに倒れる。
仁のナックル型SDがガシャンと音を立てて蒸気を上げてクールダウンさせる。
エジプト代表控室。
「アヌビス様!このままでは負けてしまいますよあいつ!」
「騒ぐな。スクス」
アヌビスは冷静に返す。
「しかし!」
スクスはなおも食い下がろうとする。
「案ずるな。…そろそろだ」
アヌビスは頬杖を突いたまま返す。
「そろそろ?…まさかあれをここでやる気ですか!」
スクスは思い当たったのか声を上げる。
「でなければあいつを連れてきた意味が無い」
アヌビスはそう言ってドリンクを飲む。
「危険過ぎます!」
「だから?」
「なっ!」
「そんなことは余が止める理由にはならない。力は行使する為にある。宝の持ち腐れなど愚の骨頂だ。そして、あいつにはその力がある。戦場でそれを行使せずいつ行使する?それと…
貴様ごときが余に口出しするな!」
アヌビスが鞭を取り出してスクスに振り下ろそうとする。
「ひっ!」
スクスは悲鳴を上げて尻餅をつく。
しかし、鞭が振り下ろされることはなかった。
恐怖で目を閉じていたスクスが目を開けると、鞭を振り下ろそうとするアヌビスの肘をアヌビスが止めていた。
「ヤハラ…」
「アヌビス様、出過ぎた真似をお許し下さい。しかし、今ストゥム殿がアヌビス様の為に闘っています。どうか見届けて上げて下さい」
しばらくヤハラの目を見ていたアヌビスは腕を下ろして座り直す。
「許そう」
ただ一言。
ヤハラは再びアヌビスの斜め後ろに待機した。
スクスは立ち上がってアヌビスから距離を取ってモニターウインドウに視線を戻した。
ニューヨーク時間午前9時40分。
ストゥムが起き上がる気配は無い。
《1…2…3…》
「これで終いかよ。男ならもっとガッツのある闘いを見せろよ!」
仁が吠えた。
《4…5…6…》
ストゥムが次に口にした言葉は予想外のものだった。
「…お腹……減った…」
「は?」
仁は思わず呆けた声を出してしまった。
《7…》
ストゥムがゆっくりと体を起こした。
そして、次の瞬間。
「お腹減ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!
まるで獣のような雄叫びを上げた。
「何だ!こいつ急に…」
仁は腕を前に出して構える。
ストゥムはこう詠唱した。
「モードチェンジ!」
ストゥムの周囲に竜巻…いや砂嵐が吹き荒れる。
彼の姿が徐々に変わっていく。
細身だった前進は急激に筋肉が発達して盛り上がり、口からは2本の牙が生え、ショートだった髪は腰まで伸びていき、目の色は赤く染まり、尻からは彼の背丈と同じ長さの恐竜のようなオーラの尻尾が生え、そして彼の両手からは黄緑色のオーラの爪が生えた。
その大きさは彼の手の3倍。
砂嵐がおさまり、変身を遂げた彼の姿はまさに獰猛な獣だった。
「グラモール!」
『グラモール』。
直訳すると暴食モグラ。
エジプト代表控室。
「ストゥムは食欲が増せば増すほど強くなる。そして、食欲が限界に達した時、あいつの真の力が発揮される」
アヌビスがそう口にした。
先程の童顔少年から獰猛な獣に変わったストゥムを見た観客の女性陣からは大きな悲鳴が上がる。
まるで幻想が打ち砕かれたかのように。
「がうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ストゥムが雄叫びを上げて砂地を蹴った直後、その姿が消えた。
「クロスステップか!その程度の攻撃が効くと…ぐっ!」
背後を振り返ろうとした仁は呻き声を上げる。
何故ならストゥムのオーラの爪が
日本代表控室。
「何だ…今何が?」
魔理沙は状況が飲み込めなかった。
それに黒刀が答えた。
「あのストゥムって奴は右足クロスステップを使った時、仁が背後を警戒したことを察知して左足で踏み込み直して正面からの攻撃に切り替えた」
「で、でも六道さんが背後を警戒したのなんてほんの一瞬なのでは…」
大妖精が口を挟む。
「先輩みたいに並外れた動体視力と洞察力があるなら別ですが普通の人間にそんなことが出来る訳が…」
妖夢も考え込む。
「いや。恐らくあいつはそれが出来る。何故なら…」
「『野生』…ですね」
黒刀に代わって映姫が答えた。
「ああ。『野生』のスキルを持っている者は並外れた反射神経と直感力がある」
黒刀が補足する。
「仁先輩…」
仁の後輩である流星はモニターウインドウを見つめる。
腹に一撃を入れられた仁は痛みを堪えながらも左足を蹴り上げる。
だが、ストゥムが高速で移動して目の前から消える。
「何っ!…うぐっ!」
次の瞬間には背中をオーラの爪で切り裂かれていた。
「この!」
仁は左手で裏拳を繰り出すがこれも空振り。
ストゥムの圧倒的なスピードについていけていない。
砂地とフィールドの結界を蹴って高速移動しているストゥムの動きは読みにくい。
「(このままじゃ…やられる!)」
エジプト代表控室。
「ストゥムの『グラモールモード』は強力だが半暴走状態を引き起こす。故に日常では食欲をコントロールする為に適度に食べさせている。だが、『グラモールモード』となったあいつに勝つ者などそうはいない」
アヌビスは雄弁に語った。
「(イカれている。それでは俺達はまるで道具扱いじゃないか)」
スクスは静かに拳を握り締めた。
「はあ…はあ…」
全身を切り刻まれた仁は肩で息をしていた。
ストゥムがフィールドの結界を蹴って背後から飛び掛かる。
すると、仁は両腕をダラーンとぶら下げて腰を落とした。
「もういいや…」
誰もが諦めたかに思えた。
ストゥムのオーラの爪が仁に振り下ろされる。
だが、その攻撃を仁は背後を見ず、左に上半身を傾けて避けた。
振り向き際にこう叫んだ。
「もう考えるのは…やめる!」
仁の裏拳がストゥムの顔に直撃して吹っ飛ばす。
ストゥムはバク宙し着地してすぐに砂地を蹴って前に踏み出そうとしたその瞬間。
仁の右手の拳がストゥムの顔の前に迫っていた。
仁はストゥムの頬を思いっきり殴った。
エジプト代表控室。
「どういうこと?あいつ何でストゥムの動きに反応できるの?」
ローブの女が驚く。
アヌビスはため息を吐く。
「愚か者が。そんなことは決まっている。」
「それは一体?」
「奴も『野生』を持っている。それだけだ」
アヌビスは頬杖を突いてそう口にした。
ストゥムは今の仁に同じ方法で攻撃するのは危険だと本能的に察知して後方に跳んでフィールドの結界を蹴って高速で仁の背後に回り込むと全身を高速回転させながらまるでドリルのように襲い掛かった。
「ビーストスピナー!」
今までより遥かにスピードと攻撃範囲が広い。
仁が振り返った瞬間、『ビーストスピナー』によって吹っ飛ばされる。
仁は空中で体勢を立て直して着地するが、周囲を見渡すとストゥムの姿が見えない。
「どこだ?」
さらに周囲を見渡してもやはりどこにもいない。
その時、足元から何かを突き破る音が聞こえた。
仁が視線を落とすと『ビーストスピナー』で高速回転したストゥムが迫っていた。
気づいた頃には既に遅く、腹に直撃を喰らった。
「がはっ!」
吐血した仁が吹っ飛ばされると、ストゥムは高速回転を続けてままフィールドの結界にぶつかって方向転換して仁に迫る。
仁は砂地に着地すると『ビーストスピナー』が迫っていることに気づき、右に跳んで回避した。
ストゥムは高速回転したまま砂の中に潜った。
その後、仁の足元から高速回転したまま飛び出てきた。
仁はそれをバク転で回避。
そこから1分弱ストゥムが『ビーストスピナー』で砂の中を出たり潜ったりして、仁がそれを何とか回避する展開が繰り返された。
「(くそ!このままじゃ埒が明かねぇ。そろそろ腹括るか…)」
仁は何かを決心した顔つきになる。
背後から『ビーストスピナー』が迫る。
仁はバッと振り返ると両手を広げて待ち構えた。
「何やってるんですか!仁先輩、避けて!」
控室の流星は届かないと知りながら叫んだ。
両手を広げて待ち構えている仁の腹に『ビーストスピナー』が直撃。
「ぐっ!」
回避することなく受けた仁はうめき声を上げるが次の瞬間、『ビーストスピナー』を受けながら両手でストゥムの脇腹を掴み回転を無理やり止めた。
無論、両手にかかる痛みはかなりのものだが。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
仁は雄叫びを上げながらプロレス技のパワーボムのようにストゥムを砂地に叩きつけた。
叩きつけられたことにより直径5mのクレーターが出来上がった。
「うがっ!」
ストゥムは痛みで声を上げる。
「やる~!」
イギリス代表のチャーリーが口笛を吹いて感心する。
仁が砂地に叩きつけたストゥムに拳を叩き込むが、ストゥムは直前で跳ね起き横回転して回避する。
着地してから大きく息を吸い込むと口を大きく開けて空気の衝撃波を吐き出した。
「ビーストロウ!」
追撃しようとした仁は吹っ飛ばされて砂地を転がされる。
ストゥムが砂地を蹴って突撃し、仁が体勢を立て直し遅れて砂地を蹴ると同時に手首部の歯車機構を高速回転させる。
2人の距離が徐々に縮まっていく。
2人も観客も予感している。
この一撃で決まると。
お互いの距離が目の前に狭まった時。
「があああ!」
「リボルバーナックル!」
ストゥムはオーラの爪を突き出し、仁は拳を突き出す。
拳とオーラの爪が交差する。
そして、ついに互いの腕を伸ばし切ったところで2人の動きが止まる。
その結果は…
ストゥムのオーラの爪が仁の胸に突き刺さり、仁の拳はあと1㎜届かなかった。
仁が前のめりに倒れる。
《1…2…3…4…5…6…7…8…9…10.勝者 ストゥム・ルー》
会場から雄叫びに等しい盛大な歓声が沸き上がる。
観客達は熱い激闘に大いに盛り上がった。
試合が終了してストゥムは『グラモールモード』を解いて元の姿に戻る。
「あわわ!すみません!大丈夫ですか!」
ストゥムは敗者の仁に慌てて近づいた。
仁は意識が残っていたようでうつ伏せから仰向けになる。
「ったく何、敵の心配してんだか…っていうかお前さっきの様子じゃ暴走してたように見えたんだが?」
仁はストゥムの顔を見る。
ストゥムはキョトンとした顔をして可愛らしく首を傾げる。
「ふぇ?僕、暴走なんてしてませんよ」
「は?」
「見た目から勘違いされることが多いんですけど『グラモールモード』は確かに
「マジかよ…」
仁はそれしか言えなかった。
その時、グ~とストゥムの腹が鳴った。
「す、すみません。お腹が減って…///」
ストゥムが恥ずかしそうに言った。
「(そういやモードチェンジを使う前にそんなこと叫んでたな)」
仁は体を起こしてポケットに手を突っ込むと中から包装されたクッキーを取り出した。
「ほらやるよ」
それをストゥムに差し出した。
「え、いいんですか?」
「お前の男気を認めた証だ」
「男気?よく分かりませんがいただきます!」
ストゥムはクッキーを取ると袋を破って美味しそうに頬張った。
クッキーを頬張る顔は幸せそうで若干にやけている。
「ったく変な奴だ」
仁は砂地に手をついて立ち上がる。
「じゃあな。楽しかったぜ」
そう言って立ち去ろうとしたその時。
「あの!」
ストゥムに呼び止められる。
仁は首だけ振り向く。
「ありがとう!」
ストゥムは女の子座りと満面の笑みでお礼を言った。
もし、彼が女の子だったら一体何人の男が惚れていただろうと言える程の笑顔だった。
仁は無言で前を向いて右手を挙げて軽く振った。
こうして日本vsエジプトのシングルス3の試合はストゥム・ルーの勝利で終わった。
ED9 鋼の錬金術師 扉の向こうへ
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