評価、お気に入り、感想ありがとうございます!
「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、きも~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん」
ハジメが始業チャイム直前で教室に入ると檜山達からからかいの声が飛んでくる。それに続くようにしてその周辺からバカ笑いが聞こえるがその直後に顔を真っ青にし、おとなしく各々の席に戻り始めた。その原因は女の子と見紛うほど可憐な顔立ちをした男子生徒、萌樹が本を読む手をとめ、彼らを睨みつけているからである。萌樹は彼の授業態度、光輝が早とちりをし、彼を大声で糾弾したことにより最初こそクラスの腫物のような扱いを受けていたがその誤解が解けると、他の女子生徒達よりも整った顔立ちと話しかけてにべもなく話すこと自体を断る点がクールで良いという理由で男であるにもかかわらず学校の三大女神に数えられているからである。しかも檜山達は誤解が解ける前に彼を目立たない場所で“なんで男のくせに女みたいな顔してんだよ。本当は女かもしれないから服を脱がしてみようぜ”“インチキのやり方が分からないから教えてくれよ~インチキの大先生?”などといじめの対象にしていたので、彼らはクラスから浮いてしまっているのである。ハジメは檜山達をおとなしくさせてくれた萌樹に心の中で感謝の言葉を述べながら席についたのだった。
―*―*―*―*―*―*―*―
「ねえ、萌樹君。今週の土曜日って空いているかしら?剣道の練習に付き合ってもらいたいの」
昼休みが始まってすぐ、萌樹の席には雫が訪れていた。
「もうそろそろ大会だから自分の弱点を補強したいの。萌樹君ならそういう弱点をつくのが上手だし、アドバイスも的確じゃない?お父さんたちは他の子のことも見ないといけないから頼めるのは萌樹君だけなの。頼めるかしら?」
「分かった、引き受けるよ。何時ぐらいに行けばいいかな?」
「そうね……それを決める前に光輝を止め来ないといけないわね。南雲君にまた迷惑をかけているようだし…行きましょ?」
雫にそう言われ、萌樹は席を立つ。ハジメの席につくとハジメが助けを求めるような目で萌樹たちを見る。
「…ごめんなさいね?二人とも悪気はないのだけど…」
雫がハジメにそう謝った。そしてその後もなんやかんや会話が続き、萌樹がトイレに行くためにそこから離れた少しあと教室は魔法陣が発する白銀の光に飲み込まれ、光が消えた後には誰も残っていなかった。
―*―*―*―*―*―*―*―
光が収まるとそこは教室ではなく大きな広間だった。雫はこの異常事態に先程離れていった萌樹が巻き込まれているかどうかを確認した。雫たちからは少し離れているものの萌樹は特にけがした様子もなく、このような異常事態に巻き込まれているにもかかわらずのんびりとあたりを見回している。そのことに雫がほっとしていると煌びやかな法衣を来た集団の中からその中でも特に装飾が多く派手な法衣を着た老人が前へと進み出た。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教協会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後宜しくお願い致しますぞ」
そして雫はイシュタルに促されるまま別の広間へと移動した。しかしイシュタルの話の途中にふと萌樹のことを探すと部屋のどこにも彼はいなかった。召喚される直前にトイレに行きたがっていたからトイレに行っているだけよね、きっと。だけどこの流れだと光輝が暴走しかねないから早く帰ってきて萌樹君!光輝に口で言ってものを聞かせられる可能性があるのはあなただけなのよっ!そんな雫の願いとは裏腹に萌樹は案の定光輝が暴走し始めたときになっても姿を見せなかった。
―*―*―*―*―*―*―*―
「ねえ南雲君。このおじさんの話の内容とそのあとどうなったかをあとで教えてくれないかな?」
大理石でできた巨大な広間から他の部屋へと移動し、飲み物を給仕してくれたメイドさんを凝視しそうになっているととなりの席にいる萌樹から小さな声でそう話しかけられた。
「それは別にいいけど何をするつもりなの?ここから抜け出そうにも人がたくさんいて気付かれちゃうよ?」
ハジメは笑いながら小さくそう返そうとしたタイミングでイシュタルが話を始めた。
「さて、あなた方におかれましてはさぞ混乱されていることでしょう。一から説明させて頂きますので、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう切り出したイシュタルに目を向けた一瞬のうちにハジメの隣からは萌樹のドリンクと萌樹自身が消え、そこに萌樹がいたという痕跡ごとなくなっていたのだった。
―*―*―*―*―*―*―*―
翌日からは訓練が始まった。メルド団長からステータスプレートの説明が終わり全員で魔法陣に血を垂らす作業が始まった。
「ず、ずいぶん個性的な色だね。保科君」
萌樹の魔力の色を見て言葉を濁しながら話しかけるハジメ。まあ萌樹の魔力が静脈血のような暗褐色だったので無理もないだろう。
「あはは、無理に気を使わなくてもいいよ、南雲君。自分でもこの色は無いな~って思ってるから」
「ステータスはどうだった?確認してなかったらせーの、で見ない?」
「じゃあそうする?」
そして萌樹によるせーのの掛け声で同時にステータスを確認する。
===============================
保科萌樹 17歳 男 レベル:10
天職:忍者
筋力:100
体力:120
耐性:240
敏捷:500
魔力:120
魔耐:120
技能:幻術・忍術[+遁術:攻性][+薬学][+心理学]・剣術[+大切断]・言語理解
===============================
===============================
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
===============================
「どうだった?」
「周りがどうか分からないけど多分良いとは思うよ。南雲君は?」
ひょいと萌樹のステータスプレートをのぞき込み顔を曇らせるハジメ。萌樹もハジメのステータスを見てどう声をかけるべきか迷う。
「あー、なんかごめんね。」
「ま、まあ大丈夫だよ。きっと他にもいるから…」
目に見えて沈んでいるハジメに萌樹はあたふたし、なんとか慰めようとするも結局一日中ハジメは落ち込んだままだった。
―*―*―*―*―*―*―*―
それから二週間後、ハジメが図書館をでて訓練施設に向かうと後ろから衝撃を受けた。
「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」
「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」
「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」
「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」
ニヤニヤと笑いながら絡んでくる檜山達。稽古という名のいじめをハジメは断るものの、無理やり目立たない場所に連れていかれ魔法や剣の鞘での暴行が行われる。
「何やってるの!?」
そこに香織の声が響く。檜山達は必死に弁明するものの誤魔化しきれず立ち去ろうとした瞬間。
「なんだこれ!?」
檜山達を逃がさないとでもいうかのように地面から生えた蔦が檜山達の体を縛り上げる。
「南雲君に稽古をつけてあげる余裕があるほど自分達の稽古は完璧なんだね?じゃあ僕にその完璧な練習の成果を見せてよ。他人に指導できるほど努力してたならきっとこの程度の拘束ならすぐに抜けられるよね?」
そう萌樹が告げていると光輝が南雲を叱っている声が聞こえてきた。
「檜山達も悪いけど訓練をしっかりしていない南雲だって悪いよ。聞くところによると図書館で読書ばかりしているらしいじゃないか。」
萌樹はため息をつくと光輝に言った。
「南雲君が読書をしていることだって立派な努力だよ。天之河君が知らないであろうことも南雲君は本からきちんと学んでいるよ。例えば魔人族との戦争のこととか…ある程度は聞いてるとは思うけどその詳細までは知らないでしょ?今回の戦争は領土拡大と魔人族を捕虜にするために人間側が仕掛けて劣勢になったとかさ。あとは捕虜になった魔人族の扱いとか。捕虜の魔人族がどうしているか知っている?男は寒冷地での強制労働、女は慰み者として扱われてるんだよ?しかも使えなくなったら民衆に投石させて処刑する…人間側の方がよっぽど悪者なんじゃないかな?魔人族だって人間と同じように国を作って同じように文化的な暮らしを送っているんだよ?細かい事情を知ろうとせず一方的な意見だけを聞いて大量殺人宣言をした天之河君?これでも読書が無意味だと思うのかな?」
「…でもあの場にいたってことは保科も戦争に参加すると言ったのだろう?同罪じゃないか」
「残念だったね。僕はあの場にはいなかったよ。南雲君と八重樫さんから話を聞いただけだからね。」
「じゃあなんで訓練をしているんだ?戦争に参加しないのなら鍛える必要もないだろう?鍛えているってことは魔人族を殺す覚悟をしてるってことなんだな?ならそれを見せてくれよ、口先だけじゃないのか?」
「はあ…誰もそんなことは言ってないじゃん…でもまあ戦争になったら生きる為に殺すとは思うよ。自分の命が惜しいからね。覚悟を証明するのは簡単だけど…本当にする?」
「ほらやっぱり誤魔化そうとしてるじゃないか。」
萌樹はため息を大きくつき、叫んだ。
「メルド団長~!気づいたらここまで魔人族の捕虜を2人ほど連れてきて下さ~い。…これで証明すればいいかな?ついでに天之河君も見せてよね、その覚悟を」
萌樹の言葉で何をするつもりなのか理解した光輝は顔を青くしながら慌てる。暫くすると騎士が魔人族の女二人を連れてきた。
「じゃあ始めるからちゃんと見ててね。今日は剣は持ってきてないからこれでいいか…」
萌樹はそういうと手に持っていた錫杖で首の骨を折るようにぶん殴る。しかし流石魔人族というべきかそれでも首が折れず生きていたため、萌樹は容赦なく追撃を頭にも叩き込む。
「や、やめろって、保科。これ以上は本当に彼女が死んでしまうぞ…」
「死んでしまうって言ったって…天之河君が見せろって言ったんでしょ?あともう終わったよ?次はそっちの番だよ?」
そう言い、萌樹はもう一人の魔人族を光輝の方へと蹴り飛ばす。
「さあ見せてよ、その覚悟を。そんなにビビってちゃ虫だって殺せないよ?それとも戦場でも棒立ちして殺されるつもりなのかな?」
「黙れ!この人殺しめ!殺す必要は無かっただろ!」
「覚悟を見せろっていった天之河君がそれを言う?第一、天之河君が余計なことを言わなかったら彼女は死ぬことはなかったよ。やったね、殺人教唆の罪がついたよ、良かったね!」
「うるさい、うるさい!黙れ殺人犯!」
「本当にこんな調子で戦争なんか出来るのかな…?そうだ!そこでいまだに拘束から抜けられてない檜山君!人に暴行をするのが好きならいまここでしてみない?」
萌樹がそう言い拘束を解いた瞬間に檜山達は逃げ出した。
「これじゃあ戦争は確実に出来ないね…勇者、勇者って持て囃されるだけ持て囃されて、結局は国の期待を裏切って何も出来ずに死ぬのか…なんか可哀そうだね」
萌樹はそういうと呆然としたままの光輝達をおいて、訓練施設に戻っていった。
―*―*―*―*―*―*―*―
次の日、萌樹は昨日のことがなかったかのように光輝達に近づいてきた。
「ゆうべはおたのしみでしたね。光輝君!相手は誰だったのかな?声の感じ的に中村さんかな?廊下にまで声が響いていたよ!幻術で再現してあげようか?」
昨日のことも気にせず平然としている萌樹を光輝は気味悪がり、その場から離れていく。龍太郎はその話に興味があったのか光輝にどんな感じだったのか聞きながら光輝についていった。そして萌樹は残った雫と香織とハジメの前で辛そうな顔をする。
「昨日のことは本当にごめんね…売り言葉に買い言葉で反応しちゃって途中から後戻り出来なくなっちゃった…天之河君にあんなこと言った手前、平然としているしかないけど…もうちょっと限界かも…本当に酷い場面を見せてごめんなさい…」
辛そうに語る萌樹に雫達は必死で慰める。
「わ、私達だって動物とか殺したし萌樹君がそこまで気に病む必要はないわよ」
「雫ちゃんの言う通りだよ!いつかは私達も魔人族を殺さないといけないんだし…」
そんな言葉で少しは楽になったのか萌樹は少しぎこちなくはあったが無理に小さく笑って言った。
「そう言ってくれてありがとう。でもやったことはやったことだから…これを忘れないようにするよ…あとこんな話の後で申し訳ないけど昨日凄く変な夢を見たんだ。妙に現実味があって気持ち悪くて不吉な夢を。」
「私も昨日見たわ。もしかして…南雲君が穴に落ちる夢?」
そう雫が言うと萌樹だけでなく香織やハジメも驚いた。
「そうそれだよ。もしかして白崎さん達も見たの?」
「僕は見てないけど白崎さんが見たって昨日言ってたよ…本当に何かあるのかもね…」
ハジメが青ざめていると萌樹が言った。
「なら八重樫さんと僕で南雲君の護衛をしない?それで南雲君を危険から何があっても守るの。白崎さんは南雲君に何かあったらすぐに治療してもらえるかな?」
「分かったわ。私もあの夢は気になっていたから協力するわ。」
「私もするよ!もう昨日南雲君に守ってあげるって約束してたからね!」
「じゃあそうしようか!」
「なんか僕のことでごめんね…もう少し僕が強かったらなぁ…」
その後もどのように対策をするかと話合っている間に気がつけば萌樹達は迷宮の入り口前にたどり着いていた。
文字数が足りなそうとか散々言っておきながら前回よりも長く書けました…何でだろ?
次も早めの投稿を心がけます。
…前回萌樹のステータスに言語理解が入っていなかった…どうやって異世界の言葉を理解してたんだ?この主人公は…