伝説の始まり
あのバットマン編を経て名和は純粋にゲームを作ると言うことになれたのだろう。本人も製品版を作ったとしてバットマンは多分入れないと行っていたし、あれは彼にとっても練習だったのだろう。
進化はすぐに感じられた。ゲーム開始のエフェクトからかなりこっていた。まるで時代が巻き戻っているように逆再生されていく風景が加速していき、最終的に暗い牢屋のような場所に居た。
そこは地面が掘られて生まれた空間のようで、刺すような冷たさに包まれていた。周りを見るとボロボロになった兵隊の格好をした人間が座り込んでいて、よく見ると近くにクラインやアスナも座っていた。
よく見ると全員の格好が周りの人間と同じ兵士の格好になっていることから考えても今回の俺たちの立場はどこか、いや胸にある国旗から考えてアメリカの兵隊なんだろう。
クラインもこちらのことを認識したのか座り込んでいる奴らをかき分けて進んできた。
「何だここ?どういう状況かわかるか?」
いきなりのこの状況に、前回から格段の進化を感じるグラフィックにクラインも少し興奮気味だった。
「俺もよくわかんねぇよ、でもあの演出にこの状況だから俺たちはアメリカの兵士で時代は第二次世界大戦ぐらいじゃないか」
「間抜けども、自分が置かれてる状況に絶望して記憶喪失でもしたか。自分をしっかりと保て、言い聞かせろ俺たちは絶対に助かる」
一見口悪く罵ったようで、その実励ましていたその男はこの集団の中で唯一諦めていなかった。彼の瞳はしっかりと前を捉えており、そこからは固い決意が感じられた。
「あなたの名前は……」
「バッキー、バッキー・バーンズ軍曹だ。バッキーで良い、お前らの名前は?」
「俺がキリトで、こっちがクライン。あの子がアスナで、右にシノンとリーファ、リズベットだ。それでバッキーどうしてこんな状況に?」
この質問が予想外だったのかバッキーが顔をしかめて考えた様子を見せたが、自分の中で何か合点がいったのかゆっくりと話し始めた。
「俺たちはヒドラの襲撃を受けたんだ。完全な夜襲だったからな……お前らみたいに何が起こっているのかわからないまま捕まったやつは意外と多いのかもな。今は何とか脱出できないか考えてるところだ」
「それで、何か糸口は見えてるのか?」
その言葉に痛いところを突かれたとばかりにバッキーは顔をしかめた。
「ほぼ0だ」
「……どこが問題なんですか」
「まず見張りだ。常に二人組が見張ってて、さらに見回りをしてる兵隊がいる。そいつらが一週にかかってる時間が大体6分、しかもこの牢屋は井戸のように掘られている上に出入り口には鉄格子がはめられている」
「つまり俺たちはその時間で鉄格子を何とかした上で見張りを何とかしないといけないのか……」
現状を理解し、全員が何か無いかと考え沈黙が空間を支配した。
「今の俺たちではどうにもならない、ただそう肩を落とすばかりじゃない。ここに運ばれる途中でヒドラの指揮官の持っていた地図をくすねた。これにはヒドラの様々な情報が乗ってた、これ一つでこの状況をひっくり返せるぞ」
ニヤリ、そう音が聞こえてくるような笑みを浮かべたバッキーは突然表情を消した。話しかけようとしたキリトを片手で制して音を聞いていた。よく耳を澄ませば地上から戦闘音が聞こえていた。
数分後、戦闘音が消えた。ゆっくりとこちらに近づいてくる足音に緊張感が高まっている。
誰の手かもわからない手が出入り口の鉄格子を外した。
さびたモノを動かす音がやんだとき蒼いヘルメットをかぶった頭が出てきた。
「助けに来たぞ」
たった一言、しかしそのたった一言でその場に居た人間全てに希望を与えた。その様こそがヒーロー、彼こそがその言葉にふさわしいのだろう。
彼はこう呼ばれる『キャプテン・アメリカ』
出入り口からはまだまだ這い出ようとしている連中が多い。そんな中先に出ることに成功したモノたちは後から出てくる連中のための戦闘を開始した。
特に目立っていたのは銃を使わずに盾を使って敵兵を殴り飛ばしていたキャプテンアメリカ、次に敵兵から奪ったマシンガンを使ってキャプテンアメリカを援護していたバッキー・バーンズだった。
徐々に増えていく敵兵、キャプテンたちが彼らを片っ端から倒していくため脱出に成功した兵士たちが気を失っている敵から奪い取った武器を使って時間を稼ぎ出す。
そんな中、キリトたちプレイヤーはというと彼らも無限湧する敵兵と戦っていた。しかし彼らの手の中にあった武器は敵から奪い取ったものではなく、黒い輝きを放つコウモリの形をもした手裏剣だった。
「クリア報酬のこれを使うか、敵兵から武器を奪えってことね!!」
シノンの叫び声が響き、戦場を滑るようにかけながら倒れている敵兵から武器を奪い、そのまま周辺の敵に銃弾を撃ち込む。通常の銃弾とは違うメカニズムで打ち出されているのかほとんど音は出ず、当たった相手は消し飛んだように吹き飛ばされていた。
「しかし、これ以外と使い心地が良いな」
彼らが使う手裏剣はバットマンをクリアした人間にだけ与えられる代物で、ダメージ量こそ低く設定されているが、取り回しやすく、少し相手にダメージを与えて動きを止めればバッキーやキャプテンからの援護で倒れていくため、ここではこの程度のダメージで十分だった。
その上シノンが武器を手に入れた結果、完全にダメージ量が湧いてくる敵の体力を超えてしまっていた。
意外と余裕で逃げ出すことに成功した。
そんな彼らは駐屯所に戻るとそこで一日を過ごした。第二次世界大戦での米兵が過ごす夜というのをある種忠実に再現しており、その世界観はとてもリアルでその上でどことなくSAOの世界観を感じられた。
ほかのメンバーはすでにログアウトしていたがキリトとアスナの二人はせっかくなのでデートとして散歩をしていた。
「これ、どっかで見たことある景色じゃないか?」
「あれでしょ、名和君のホームがあった階層。古城をテーマに作られてたとこの庭がこんな感じだったよ」
「ああ、あの家買う時大変だったよな。あいつがここにするって決めてすぐに買ったもんだから突然行方不明みたいになるし」
「メッセージはまともに帰ってこないんだもんね」
二人して声を上げて笑う。そして笑いが収まったときあいつの変化を思い出していた。
「あの辺からだもんな、あいつが素で話すようになったの」
二人の脳裏には最初、第一階層で初めて会ったときの名和を思い返していた。
あれは第一層で行われたボス攻略会議でのことだった。ほとんどのプレイヤーがパーティを組んでおり、キリトもアスナと一緒に向かった会場で本当にソロプレイヤーとしてきていたのが名和だった。
非常に特徴的な装備をしていたのを覚えている。装備重量ギリギリを攻めながらも組まれた装備は皮とチェーン装備が入り乱れており、その上頭に装備していたバケツヘルムがとても周囲からの注目を集めていた。
背中には大きな盾と槍を装備した彼はビーター騒ぎを起こしたキバオウの襟元をつかむと無理矢理に座らせてこう言った。
「無駄に場をかき回すのはやめておけ、ここに居るのは全員が自分の命を預ける存在だ。何よりお前の発言には全く意味を感じない、少しは頭を使って建設的な話をしろ」
その一連の動きから俺はかなり警戒した、キバオウは当時では攻略最前線で戦っていて、そこに居た連中と比べても全く遜色しないはず、そんなキバオウをあそこまで簡単に座らせるということはかなり筋力値に降っているはず、しかしそんなプレイヤーがソロでやっているという事実に警戒の度合いを高めていた。
「なんやその態度!!おまえもしかしてベータテスターやないんけ、せやからそうやって適当なこというてはぐらかそうとしとるんちゃうんか!!」
未だなお球団を続けるキバオウを彼は鼻で笑った。
「なんや、お前!!喧嘩うっとるんか!!」
「いや、俺はテスターじゃないが、もしテスターだとしてお前らは俺の言うことに従うのか?始まりの街で俺は経験者だ、全員俺の言うことを聞けといってお前らは少しでも俺の話を聞いたか?聞かないだろう、お前なんて特に聞かないタイプだ。そしてその上何かミスが起こればこれ幸いと指摘してくる。そういうタイプだ、なんでわざわざリスクをとらなくちゃいけない。お前の言う話は正論でも、この世界じゃ間違ってるんだよ」
キバオウとは対照的に声を荒げることすらせず淡々と言い切った彼に注目が集まった。その後すぐにディアベルがまとめて話の続きを始めたが正直それどころではなかった。俺の意識は黙って座り込んだ名和に向けられていた。その後チーム決めをするに当たり名和に声をかける人間はおらず、なし崩し的に俺たちとチームを組んだのは想定外だった。
続きの内容
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キャプテンアメリカ
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sao第一層