アメコミ×SAO   作:鈴見悠晴

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負い目と後悔

ヒドラ、この世界では第二次世界大戦中のドイツで活躍していた秘密機関。様々な研究を行い、ここから作られる凶悪な兵器の数々が世界を相手にした大立ち回りを支えていた。

彼らの武器や兵器がそこまで強力な理由、それは基本技術の体系が全く別物であるから、ということと兵器製造を前提として作り上げたかどうかが大きく関わっていた。彼らの手元にあったのは数十年前に地球に偶然墜落した宇宙船の残骸だった。それはまともに使えるものではなかった。宇宙船としての基本的な機能でアル飛ぶと言うことも不可能になって居るただのゴミだった。しかし、彼らはそこから様々な情報を得た。例えば形状、地球の飛行機というのは地球の重力や大気を前提とした、空気力学やその他様々な技術の集大成だ。それに対して宇宙船の形状は当時の地球の代物とは大きく違っていた。まるでその鳥のような形状は彼らの星の生物の形を模しながら、彼らの星の重力、彼らの星の大気に併せた技術の進化が込められていた。これらの情報は彼らの使用する飛行機や戦車を開発するときに使用された。その結果彼らの戦闘機はアメリカが使用するモノよりも遙かに優れた旋回性などを有していた。

この成功体験は当時ドイツの上層部をお軽と信者に帰るのには十分すぎた。しかしその大半が眉唾物やガセネタばかり、そんな中今回彼らが手に入れたモノはその宇宙船以来の革新的な代物で戦場には確実に被害が出ていた。

 

「第127部隊が襲撃を受けた。生き残ったのは二人だけ、それ以外の連中は一瞬で灰のようになってしまったらしい……認めたくないが実際に死体どころか服すら見つからない。連中が開発した兵器というのは一体どういう代物なんだ?」

そこは軍の中でも限られた人間だけが入ることを許された会議室。そこに居たのはキリトたちプレイヤーにキャプテンアメリカ、バッキー・バーンズのチームストライカーといわれる特別部隊、そしてそんな彼らの前に座って居る一人の若い男がアメリカ一の天才ハワード・スタークだった。

「こいつはすごいぞ、はっきり言って再現不能だ。人間を一瞬で灰に帰るだけの出力をここまで小さくするのは現時点の科学力では不可能だといわざるをえない」

科学者としての性か未知の技術に興奮した様子のハワードをいらついた表情を見せながらバッキーが声をかけた

「何か対策はないのか?」

「対策…そうだな、おそらくこの出力ではキャプテンの盾は貫けないだろうな。それと連射も不可能、装填可能数も限りなく一に近いだろうね。実際の戦場で使うためには一発限りのこけおどしのようなモノだよ」

鹵獲した兵器を完全にばらしたハワードはその武器の欠陥を見抜いていた。

「本当に警戒が必要なのはバッキー君が奪い取っていたハイブリット型だよ、ただまぁそっちはこれまでと同じように防弾チョッキである程度は対処可能だ」

「つまり対策は必要ないと?」

キャプテンの質問にハワードは肩をすくめた。

「この技術が完成しない限りは、その証拠にこの武器が使われているのは奇襲でだけだ。最初の一発で派手に見せて心をおろうとしているのさ」

ここまでは一歩引いたところで話を聞いていたアスナが一度うなずいて声を上げた。

「じゃあこの技術を完成させないようにしないといけないのね」

「その通りよ」

「ペギー」

「どうもキャプテン。バーンズ軍曹のもたらした情報でヒドラの基地の半数を壊滅させることに成功している、でも彼らを完全に打ちのめすにはまだ足りないわ。本部が動く、この人物を捕獲してちょうだい」

ドアを開けて入ってきた女性はペギーと呼ばれているこのチームの直接の上官だ。

彼女が差し出したファイルには個人のプロフィールと一枚の写真がついていた。めがねが印象に残るその人物の名前欄にはドクターゾラと書かれていた。

 

『ドクターゾラ捕獲計画』

 

キリトたちはキャプテンたちとは別行動を行っていた。彼らが行っていたのは潜入、雪降る北部を敵部隊と合わないように迂回しながら目的地に向かってただひたすらに足を進める。もちろん迂回したとしてもここは敵陣、もちろん敵と出会うこともアル。そうなるとこうなる。

「スイッチ!!」

戦場に過去越えが響く。

SAO攻略組はあり得ない反応速度で距離を詰めサイレンサー付きの拳銃とナイフで制圧する。何とか反応したモノたちもすぐさまほかから飛んでくるナイフや銃弾にそのHPを減らしていく。何とか逃走しようとしても狙撃がそれを許さない。それはもはや戦闘と呼べるものではなかった。

「こういうプレイなんか殺し屋とかスパイみたいで興奮するな」

という会話が行われたほどなので彼らは彼らでこの状況を楽しんでいた。彼らの現在地は合流地点付近の森の中、なぜ彼らがここに潜んでいるのかというとこの作戦がまるで追い込み漁のようにゾラを追い詰めていたからだ。派手にキャプテンが暴れ回り、そのすきにキリトたちが敵陣に潜入していた。

「そろそろバッキーが到着する頃だな。」

ここは合流地点、ゾラの移動の情報を手に入れたため、作戦道理に捉えるのだが時間に大きな余裕があったため念には念をいれ合流しようとしていた。なぜここまでゾラの逃走が遅れたのか、その理由はいくつかあったがその最も大きな理由としてはもうヒドラ、何よりヒドラのボス“レッドスカル”にとって彼の存在価値は大きく下がっていた。もはやわざわざ助ける必要が無かったのだ。その結果ゾラは鉄道の中最低限の人員で移送されていた。ただし史実と唯一違ったのは研究の進み具合、その最低限の人員の装備は最新の試作兵器だったことぐらいだろう。

 

「あいつは間に合わなかったか……仕方ない。時間だ、行くぞ」

時計をしまい込みストライカーを指揮していたのはキャプテンではなくバッキーだった。

ストライカーは眼下を通過しようとしている列車に飛び乗ろうと長距離ジップラインを使用した。

「おおお、すげぇ!!」

すさまじい疾走感に誰かが大声を上げ、それすら吹雪の中に飲み込まれていく。

 

屋根の上に飛び乗った彼らの眼前に砲身が向いていた。

「避けろ!!」

キリトの声に反応して全員が回避行動をとった。

屋根の部分が吹き飛び床の部分に落とされる。そこに立っていたのは特殊なパワースーツを着た巨漢が待ち構えた。

「やべぇ!!」

完全に尻餅をついていたクラインの頭蓋を殴り砕こうと振りかぶった拳が振り下ろされた。

クラインの体をバッキーが引っ張り何とか助け、さらに援護射撃が行われる。

銃声が響き、爆音が響いた。しかしそれが収まったときそこに立っている男には傷一つ無かった。

敵の動きに合わせて駆動音が響く、握りしめられた拳が振るわれた。

その間も絶えず銃撃が行われていたが全く意に介することなく、その拳が壁を吹き飛ばした。

狭い列車内の空間で暴れ回る男の拳を何とか間一髪で躱していく。前進をアーマーで包んだ男にはこちらの攻撃が全く通じていなかった。しかし次第にその形成が逆転していく。徐々に動きが鈍くなっていた。

「こいつは攻撃を行うのにかなりのエネルギーを使用するんだ!!」

しっかりと攻略法を見つけ出したキリトたちは自分たちの身軽さを利用して回避に専念した。数分もすれば敵はまともに動くこともできなくなっており、キリトたちは人数の利を生かしてゾラ博士も捕まえていた。

しかし、そんな状況で気が緩んだというのもあったのか最後の反撃を甘んじて受けることになった。

その攻撃は遅く、回避は容易かった。……訓練をしっかりと積んだものや、実戦を経験しているモノには。

キリトたちが攻撃を回避した差の先に居たのはドクターゾラだった。

とっさに動いたのはバッキーだった。彼はこの中で唯一軍人だったと言えるだろう。国のためにとっさにその命を差し出せたのだから……

ゾラを突き飛ばしたバッキーは最後の抵抗、命がけのタックルを甘んじて受け止めた。

最後の命がけのタックルは自身の体と一緒にバッキーの体を列車の外に吹き飛ばした。キリトたちが急いで壁に大きく開いた穴から身を乗り出して確認するもそこは崖になって居てもうすでにバッキーの姿は見えなかった。列車内を沈黙が支配した。

 

 

バッキー死亡の事実は一部の兵士たちの間でまことしやかにささやかれていたが、そういった噂話はすぐに上層部からの圧力で消えていった。

そしてそういった意見が消えていった理由としてキャプテンの態度が全く瓦買ったからと言うことが挙げられた。このキャプテンの態度から多くの人間はバッキーは無事なんだと、そして彼は噂を気にしていないんだろうと推測していた。

しかし事実は違う。今回のことで最も気を病んだのも、落ち込んだのも、自分を責めたのも彼だった。特にキャプテンは本来ならば合流できていたはずだった。しかし自分の訓練不足や、スニーキング技術などの不足が合流に失敗させ、結果唯一無二の親友を失った。彼が普段道理を装えていたのは、自分の立場を自覚していたから、そしてマスクをかぶっていたからだろう。マスクは自分を隠す。良くも悪くも、感情を覆い隠し時には自らもだます。

そこにはゲーム制作者である名和自身の体験がしっかりと還元されていた。

 

そんなキャプテンにそしてキリトたちに次の任務が下される。任務の内容はヒドラの本拠地を強襲する。これまでどうしてもわからなかった。見つからなかった情報がゾラの手によってもたらされた。

しかし、その情報とともにわかったことが一つ、的の首魁レッドスカルの凶悪さ。そしてゾラの研究が動かした一隻の飛行船。ドイツ、ヒドラの秘宝たる一隻の宇宙船を元に生み出された完全ステルス爆撃機。もしこれが実際に使用されれば船橋はひっくり返る。勝負所は今。それが両者の出した結論だった。

 

 

レッドスカルは四次元キューブをただじっと見つめる。魅入られたかのように、その先にアルモノを探して。自らの野望が、欲望が曇らせた瞳はその蒼い輝きから離れなかった。

 

続きの内容

  • キャプテンアメリカ
  • sao第一層

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