高垣さんにフられました。   作:バナハロ

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どういう関係だよお前ら。

 日常とは、それまでの生活の繰り返しが反映されて来るものだ。筋トレを始めたからって急にマッチョになるわけではないし、体力が付くわけでもない。1日頑張っただけでキツいレッスンに慣れるわけでもないのだ。

 まぁ、要するに今日も凪と颯のお迎えだ。二人をおんぶし、楓との待ち合わせ場所に向かう。どうせ事務所まで来るならここで待ち合わせて片方、楓に持たせりゃ良かったわ……。

 

「相変わらず力持ちだねぇ、いっくん」

「惚れ惚れする力技……これがバスターゴリラか」

「お前らホント黙ってろよ……」

 

 本当なら、家に晩飯作り置きしてそれ食ってもらう予定だったが、こうなってしまった以上は連れていくしかない。遅刻するし、その上、家で飯作る暇もないのだから。

 一応、親御さんから預かっている以上はきちんと世話をしなければならない。それが子供の面倒を見るってことだ。

 

「ていうか、お前ら元気いっぱいアンポンタンじゃねえか。自分で歩け」

「それは無理だよ。疲れたもん。はーはともかくなーが」

「足がガクガクと震えている。疲労の所為ですね」

「武者震いじゃね?」

 

 ……はぁ、まぁ良いか。楓も二人きりより誰かいた方が良いだろうし。

 待ち合わせ場所に到着すると、楓はまだ来ていなかった。珍しいな。待ち合わせには必ずあいつの方が早く着いてたのに。もしかしたら、あいつもあまり来たくなかったのかもしれない。

 

「おら、降りろ」

「かーちゃんは?」

「まだ来てない。待ってる間ずっとはお前らをおんぶは出来ないから。あと母ちゃんはやめろ」

 

 こんな事を毎日、続けていたら一週間後にはマッチョになってるかもしれないな。

 さて、そんな事よりも、だ。合コンの事について楓に話さなければならない。というのも「合コンで一言も喋らずに帰りたい」という内容の相談を三船さんにしたら、すべてを察したような声で「その前に楓さんに合コンに行く事を話しなさい」と怒られてしまった。「どうせバレるし、自分から話した方が楓さんも怒らないから」とか何とか。

 や、まぁ確かに元カノからしたら元カレが合コンに行くのはあまり良い気がしないんだろうけど。

 

「……なんであんなに怒られたんかね……」

 

 そんなに合コン行くのが良くなかったのかな。まぁ、俺もあまりコンパに良いイメージはないが。そこまでして彼女欲しい? っていう。いや、楓が参加してるなら俺も参加するが‥‥正直、今は他の女の人とどうこうなろうとは思えない。

 

「いっくんいっくん! 今日は何食べても良いの?」

「良いよ。居酒屋だけど」

 

 楓に知らせておいた場所が居酒屋だったからなぁ。まぁ、保護者がいれば入店拒否はされないだろうし問題ない。

 

「では、凪はたこわさを食べたいです」

「えらく渋いなオイ」

 

 本当に未成年? 年ごまかしてない? 

 

「えー。もっとガッツリ行こうよー。てか、たこわさって何?」

「問題です、いーくん。たこわさとなんでしょうか?」

「お前も知らねえのかよ。たことわさびだよ。ゲロクソ美味いよ」

「それ美味しい表現なの……? 尚更食べたくなくなったんだけど……」

 

 眉間にシワを寄せる颯に、凪は「ちっちっちっ……」と言わんばかりに人差し指を振った。

 

「甘いですね、はーちゃん。甘々です」

「たこわさって甘いの?」

「甘いのははーちゃんです。たこわさは居酒屋にしかない食べ物です。凪達は未成年ゆえに2人だけでは居酒屋に入れません。しかし、今日はかーさんといーくんがいます。つまり、居酒屋にしかない食べ物が食べられるのです」

 

 ……なるほど。中々、冷静な意見だ。そういう事なら分からなくもない。

 

「なるほど! なー、やるじゃん!」

「でも、たこわさはいりません。たこだけなら食べますが」

「わさび食えないのかよ……」

 

 少し可愛いな、と思わないでもなかった。ロリコンではないが。……そういえば、楓も大学一年の時はわさび食えなかったな。俺がたこわさ好きだって言ったら食べるようになったけど。

 

「他に居酒屋にしかないメニューはありますか? たこわさ以外で」

「はーはわさび有りでもいけるよ!」

「そういうのは楓の方が詳しいから。……てかお前、わさび食えんの?」

「どういう意味それ⁉︎」

「凪よりも子供っぽいって意味」

「な、何をー! はーの方が発育良いんだぞー!」

 

 俺に立ち向かってくる颯。後ろから飛びついてヘッドロックしてきた。確かになーよりも柔らかい胸が後頭部に当たるが、俺は童貞ではない。中学生の胸で興奮するほど純粋でもない。

 それ以上に問題がある。

 

「おい、通報される。やめろ」

「今こそ、魔王を打倒すべき時。喰らえ、なースラッシュ」

「おまっ……す、スネはダメだろ……!」

「はークラッチ!」

「テメッ……ま、マジで絞まって……!」

 

 し、死んじゃう……死んじゃうって……! ていうか、駅前でこんなこと人の目につくのは……! 

 そんな時だった。更にキンっとするような冷えきった声が聞こえて来た。

 

「ふふ、元カノと約束の場でロリコンハーレムですか?」

「あ、かーちゃん」

「はい、かーちゃんです」

 

 アホな挨拶をするのは、やはり楓だった。挨拶の時は冷え切った空気を消すとか器用な奴だな。

 楓が現れたことにより、アホ姉妹は俺から離れて楓に挨拶しに行く。楓は軽く二人の頭を撫でて挨拶すると、俺の方を睨みつけた。

 楓の服装は、わざわざ一度帰ったようでとても綺麗なものだった。白いノースリーブのワンピースで、その下にジーンズ生地の短パンを履いていて、ラフなのにラフに見えない格好だ。

 ‥……その格好から氷の女王のような怒り浸透な笑顔を浮かべているんだからすごいわ。

 

「楓、遅かったな、珍しく。それなのにキレてるのってどうなの?」

「元カノと夕食を共にするのに他の女の子を連れてくるのもどうかと思いますけどね」

「仕方ねえだろ。迎えに来ないとダダこねるってそこのバカ姉妹が聞かねえんだから。……お前との約束に遅れるわけにもいかねーし」

「っ……」

「どっかの誰かは遅れて来たんだけどな」

「……誰に会うためにお洒落してきたかも分からないんですね」

「っ……」

 

 ‥‥お互いに納得いかない表情を浮かべたまま、頬を赤らめて目を逸らす。おい、俺のためみたいに言うな。フッておいて俺のためじゃないだろ。多分、男性に会うためにはとりあえずおしゃれしておこうみたいな嗜みが女性にはあるんだろう。

 

「ねーいっくーん。お腹減ったー」

「凪のお腹もぐーしか出さないジャンケンを始めてしまいました」

 

 が、そこで颯と凪のセリフが割り込んできて、俺も楓も意識を戻す。

 

「っ、そ、そうだな。行くぞ、飯食いに」

「っ、そ、そうですね。ご飯食べましょうか」

 

 とりあえず、居酒屋に向かった。

 

 ×××

 

 子供達を連れて居酒屋に入った。席に案内してもらい、椅子に座る。周りから見たらハーレムに見えるかもしれないが、従姉妹と元カノなので実際にここに座ってみれば気まずさしかない。

 俺と楓は生、アホ姉妹はコーラとジンジャーと飲み物を手早く決める。食べ物は凪と颯に任せる事にした。

 

「良いですか? 居酒屋では自分だけでなく一つのお皿をみんなで摘みます。ですから、他の人のことも考えて注文しなければなりません」

 

 楓が居酒屋のイロハを教えながら。こうして見てると本当に母さんみたいだな。

 

「ですが、勿論、自分が食べたいものを注文しても問題ありませんよ。要は、他の方も食べるということを頭に入れておく、という事です」

「なるほど……つまり、自分だけでデスボックスを漁らず、周りのチームメイトのためにアイテムも残しておけ、という事ですね」

「あー分かる。この前、はーが漁ってる時、R-99とR-301横から持っていかれてマジ頭にきた」

 

 あ、お前らたまにA○EXやってるんだ。別に良いけど許可くらい取ろうな。別に良いけど。

 

「では、凪は梅水晶が食べたいです」

「はーは塩キャベツ!」

「あの……お肉を頼んでも問題ありませんよ? もしかして私、太ったように見えてます?」

「……胸の成長は見えないけどな」

 

 直後、鼻と口の間にメニューの背表紙が飛んで来た。お前それ死ぬ奴じゃん‥‥。完全に殺しに来てたな今……。

 一人、顔を押さえて悶えている間に、三人は一緒に食べ物を注文した。

 

「かーさん、居酒屋の食べ物は美味しいんですか?」

「それ。ファミレスとかとやっぱ違うの?」

「美味しいですよ? やはりファミレスや他の食べ物屋さんとは違いますね。お店によって味付けやこだわりが全然、違いますし、基本的にお酒を飲むところなので、ちゃんとお酒に合うように作られているんです」

「えー、じゃあはー達はお酒飲まないからイマイチな感じ?」

「そんな事ありませんよ? ……ですが、()()()()()()()()()()()もっと楽しめるかもしれませんね?」

 

 ……クソ、今のは少しウマいと思ってしまった。オイ、そのドヤ顔やめろ。腹立つ。

 

「颯は飲んだら弱そうだけどな」

「え、そ、そう?」

「そうですね。颯ちゃんは大学生になって19歳で飲んであっさり潰されてお持ち帰りされそうです」

「ふえっ⁉︎ お、お持ち帰りって……!」

「あ、お持ち帰りの意味はわかるんだ」

 

 俺が言うと、無言で頬を真っ赤にする颯。身体とすけべ度は比例的に上がっていくのかもしれない。

 そんな中、唯一、何の話か分かっていなさそうな凪が口を挟んだ。

 

「凪はどうでしょうか?」

「凪はー……そうだな。大人になったら酒超強そうだよな」

「そうですか? 凪は強いですか?」

 

 真顔だが、少し嬉しそうな声音で確認してくる。それに対し、楓が頷きながら答えた。

 

「確かにそんな感じしますね。仮に酔ったとしてもあまり顔に出なさそうです」

「お前はすぐに顔に出るけどな。酔うと美人がアホっぽくなる」

「そういうあなたはもっと顔に出したらどうですか? 飲みの席に限らず、日常でも」

 

 それを聞いて、思わず楓と再会した日を思い出してしまった。酔い潰れた楓の寝言だ。確か……「……きらいです……その冷めた目も……冷たい態度も……」だったか。俺ってそんなに無表情かな……。

 微妙にショックを受けていると、凪が真顔で口を挟んだ。

 

「確かに、いーくんは顔に全く出ませんね。かーさんと一緒にいる時くらいでしょうか?」

「「え」」

 

 思わず声がハモる。

 

「そ、そう?」

「あーそれあるかも。他の人といる時に比べて、かーちゃんと一緒にいると若干、表情が変わるよね」

「……」

 

 あれ、なんか恥ずかしい。おい、楓。ニヤニヤすんなコラ。

 

「ふふ、アレで顔に出てたんですね♪」

「うるせーよ」

「照れなくて良いんですよ?」

 

 急に元気になりやがって……。昔から俺をいじる時だけ生き生きするんだよな……。

 すると、良いタイミングで飲み物が運ばれてきた。

 

「お待たせしました。ビール二つと、コーラとジンジャエールですね。それと、お先に枝豆をお持ち致しました」

「あざっす」

 

 挨拶し、グラスを手に持ち、乾杯した。

 ……何とか、楓が怒り心頭で来た割には空気は重くなくて済んだな。案外、目の前のアホ姉妹のおかげかもしれない。次からはもう少し、楓を怒らせないようにしないといけない。毎回、それを思っている気がするが。

 さて、そろそろ本題に入るか。三船さんに言われた通り、自分から話し始めようとした時だ。

 

「そういえば、いーくんは来週、合コンに参加するんですよね?」

 

 隣から凪が原爆を投下した事により全てがおじゃんになった。

 直後、楓は何かを思い出したかのようにキレてる時の笑みを浮かべ、その日は久々に喧嘩別れした。

 

 


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