高垣さんにフられました。   作:バナハロ

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助力するからには全力を尽くせ。

「え、合コンってスーツじゃダメなの?」

 

 仕事の昼休み。代理で合コンに参加することになったことにより一緒に飯を食う仲になった2人に指摘され、衝撃の事実を知った。

 

「当たり前だろ。結婚式じゃねえんだぞ」

「結婚式はコンパじゃないんだけどな」

「似たようなもんだから」

「全然違うわ」

 

 どう解釈したら似たようなもんになるんだよ。出会いの場は全部コンパかお前ら。

 

「ちゃんとマシな服着て来いよ。最低でもモデルに見える程度の服だからな」

「最低のハードルが高いわ」

「それくらいの心意気で来いって言ってんだよ」

 

 ええ〜……面倒臭い……。うちにある服は一応、問題ないと思うけど、ほとんど付き合ってた時に楓が選んでくれた奴だからなぁ。俺はそういうのわからんし。

 そんな俺の「面倒くさい」という空気を察してか、名前は忘れたけど同期の人がゲンドウポーズを取って告げた。

 

「なぁ、加賀山。これは遊びじゃないんだぞ?」

「は?」

「コンパではお前の単独行動は許されない。全員が全員、チームで動く。お互いの長所と短所をさりげなく紹介し、そいつと友達関係と言っても恥ずかしくない装備で身を固める……それがお互いの成功のためなんだ」

 

 俺と君たちはいつから友達になったの? というか、俺は成功し無いんだけどな。楓がいるし。

 ……そういや、この前、楓と喧嘩してから全然、連絡来ないや……。死にたい……。

 

「ど、どうした? 急に遠い目をして」

「遠くを見てるんだよ……」

「と、とにかくな?」

 

 よく分からんと思ってから、すぐに脳内を切り替えて話を進めた。流石、社会人、分からない話には触れないことをよく理解している。

 

「三人で三人の女の子を口説くんだ。お前にその気は無くともそれは変わらない。協力してもらうぞ」

「足手まといにはなるなよ。その日のお前の費用、俺たちが持ってやるんだから」

 

 ふむ……どうやら2人は本気のようだ。ならば、俺も少しは協力してやらなければならないな。やる気のないパーティーメンバーがいるA○EXほどイラつくことはないから。

 とにかく、誰かに相談してみるかぁ……。モデルに見えるのを目指す、かぁ……。

 ……そういや、楓って元モデルだっけ……。

 

「……」

 

 ダメだろ。一昨日、怒らせたばかりだし、その上「合コンに着ていく服を選んで下さい」はナメくさっている。

 となると、俺の知り合いではなーはー姉妹、三船さん、川島さんだけか。なーはーは論外として、三船さんも最近、負担をかけ過ぎているし‥……となると、川島さんか……。

 うーん……あまり交流がある訳ではないんだが……まぁでも、ついでに楓の事も相談出来るし、これ以上ない相手ではあるな。

 時刻は12時45分。昼休みはあと15分あるな。

 

「悪い、ちょっと電話してくる」

「ん、おお」

「何、彼女?」

「そう」

「嘘つけバカ」

 

 軽口を叩き合いながらその場を立った。この前、交換した連絡から、まずはメッセージを送る。いきなり電話するのは失礼だから。

 許可を得たので、電話してみた。

 

「もしもし?」

『もしもし、加賀山さんですか?』

「はい。すみません、急にお電話して」

『いえいえ、いつも楓ちゃんがお世話になっていますから。‥……今日はなんだか不機嫌みたいですけど』

 

 やはりか……。まぁ、そうだろうな。良くも悪くも25歳児は割と気分屋なとこあるし。

 

「はい。実はその件で少しご相談したいことが……」

『あー……なるほど。今晩ですか?』

「あ、いえ。その……差し出がましいようですが、他の件でも相談したいことがありまして……」

『他?』

 

 怪訝な声が聞こえる。まぁ、そうだよな。楓関連以外で俺と川島さんの間には何もないし。

 ……うーん、やめておいた方が良いかな。いや、大丈夫か。その日の晩飯はご一緒するのであれば俺が出させてもらおう。

 

「その……合コンに着ていく服を……」

『あ〜……(頭良いから全てを察した)』

「前向きにご検討いただければと……」

『そんな下手に出なくても引き受けさせていただきますよ?』

「マジすか。ありがとうございます」

 

 よっしゃ。これでなんとか勝つる。いや、だから勝っちゃいけないんだってば。あくまで協力してやるだけだって。

 

「今週の土日はどちらか空いてます?」

『少々お待ち下さい……あ、はい。両方とも空いていますよ?』

「了解です。じゃあ、土曜日に駅前で大丈夫ですか?」

『良いですよ。では、土曜日に』

「はい。失礼します」

『はーい、失礼しまーす』

 

 そこで電話は切れた。やっぱこれだよなぁ……大人って。丁寧な人だよ、川島さんは本当に。

 さて、とりあえず戻って昼飯の続きにすっか。

 

 ×××

 

 時早くして、土曜日。この私服は社会人になったばかりの時のデートで楓に買ってもらったものだ。俺は疲れでほとんどその日に何をしたか覚えていないが、それでも楓は俺のことを楽しませようとしてくれていたのは覚えている。

 ……ほんと、ダメな奴だったよなぁ、俺は。いや、今も大して変わらないか。せっかく楓と再会できたってのに会う度に怒らせてばかりだ。情けない奴だよ、俺は本当に。

 小さくため息をついていると、後ろから声が掛かった。

 

「加賀山さん、お待たせしました」

「あ、川島さ……は?」

 

 ……なんか楓がいるんだけど。

 

「すみません……この前の電話、聞かれてしまっていたみたいで……」

 

 まぁ、そういうとこ目敏いからなそいつ。

 

「冗談でデートと言ったら本気にされてしまいました」

 

 お前の所為じゃねえか。や、まぁ付き合ってもらっているわけだし文句が言える立場ではないが。

 ……でも、少し気まずいわ。楓が俺をどう思っているのかは知らないが……。

 

「ふふふ、美優さんの次はコンパ、コンパの次は瑞樹さんですか。いつから女性に対して見境ないお猿さんになったのですか?」

 

 うん、マジギレしてますね。ホント、こっちの気も知らないでこの野郎……。俺だってコンパなんかにゃ行きたくねーんだよ。

 

「手を出したわけじゃねえっつの。相談相手がいなかったんだから仕方ねえだろ」

「仕方ない? そもそもまともな交友関係を築けなかったあなたが悪いんでしょう? それに、合コン用の勝負服を買うために呼んでおいて、まさか合コンするつもりが無かったとは言わせませんよ?」

「本気なのは俺じゃなくて同僚だっつの。合コンってのはチームプレーなんだよ。例えその気が無くてもチームワークを意識しないわけにいかないだろ」

「A○EXですらスタンドプレーが過ぎる方が何を仰っているんですか? 学生時代だってそうでしたよね? 協調性なんてまるでありませんでしたから」

「学生時代の俺と今の俺を一緒にされても困るんだけどな。人は日々、変わり続ける生き物なんだよ」

「倫理の授業を鼻で笑っていた方がよくそんな哲学的な事を抜かせますね?」

「はいはい、そこまで」

 

 ヒートアップしてきた俺と楓の間に川島さんが入る。

 

「子供じゃないんだから、そこまでにしておきなさい。今日の目的を忘れたわけじゃないでしょう?」

「……」

「……はーい」

 

 まぁ、俺としては楓の相談もあるんだが……てか、こいつなんで来たの? 

 なんか色々と腑に落ちない。これじゃ楓のこと相談できないじゃん。どちらかというとそっちの方がメインなんだが……。

 そんな考えが顔に出ていたのか、川島さんが俺の耳元で呟いた。

 

「……大丈夫ですよ? ちゃんと、楓ちゃんと仲直りさせてあげますから」

「……そうすか」

 

 ……やっぱ出来る人は表情を読むのも上手いなぁ。まぁ、そんな俺と川島さんを見て、楓がすごくジト目になっているわけだが。

 

「瑞樹さん、そこの下心しかない人と仲良くするのはやめた方が良いですよ? イライラすることも多いですから」

「25歳児の言うことかよ」

「あなたこそ大人では無いでしょう?」

「良いから喧嘩はやめなさい」

 

 ……むぅ、まずいな。川島さんに気を遣わせるのは避けなければならないのに。

 小さくため息をついてから、とりあえず楓を無視して声を掛けた。

 

「じゃあ、行きます?」

「あ、すみません。実は、私と楓ちゃんはお昼がまだでして……良かったら、お付き合いいただいてもよろしいですか?」

「了解です」

 

 そんなわけで、まずは飯を食うことにした。お店は近くのイタリア料理。高い所でもないが、手軽にパスタとか、そういう軽いものが食えるから悪くない場所だ。

 店員にかなり羨ましそうな目で見られたが、楓のニコニコしたキレ顔に押されてか真顔に戻った。

 席につき、三人でメニューを開く。

 

「俺は昼、食ったんでコーヒーだけで大丈夫ですよ」

「あら、そう?」

「お砂糖たっぷり入った奴ですよね? お子様」

「砂糖入ってないもん飲めれば大人だと思ってんのか。タバコ吸えれば大人だと勘違いするイキッた高校生と同じだな」

「二人とも」

 

 止められたので、俺も楓も黙る事にした。

 料理を注文し、待機している間、俺も楓も川島さんも何も言わない。ただ沈黙しているだけだ。

 が、やがて楓が席を立った。

 

「すみません、お手洗いに行って来ます」

「うんこか?」

「死んで下さい」

 

 俺の後ろを通ってトイレに行った。そのため、残ったのは俺と川島さんだけ。うーん、気を使わせてしまってるよなぁ……。

 

「……なんか、すみません」

「いえ、気にしないで下さい。私が楓ちゃんが来るのを止められなかったのが悪いんですから。……それよりも」

 

 謝られるのが面倒だったのか、次の話にさっさと移動してしまった。

 

「楓ちゃんのこと、どう思ってるんですか?」

「あー……」

 

 なるほど、この機会に話だけしておくつもりだったか。

 

「まぁ……そうですね。前みたいな関係に戻れれば、とは思っていますよ」

「それって……やっぱり付き合ってた頃?」

「はい。前は俺がちゃんと気を回してやれなくて別れてしまいましたから。後悔しかないっすね」

 

 俺も中々、恋人としてという意味でなくても付き合うには気難しい人だって言われるし、あいつ以外に仲良くしてくれそうな人はいない。

 

「……まぁ、それでもあいつが嫌がってるなら、無理して付き合うことないとも思ってます。お互い、もう住んでる世界も環境も違いますから」

 

 アイドルとサラリーマン。一般男性と結婚するアイドルの話もよく聞くが、あれは本当に稀な例だろう。何より、あいつの気持ちは俺からは離れている。

 ‥……でも、最近はよくわからないんだけどな。うちに遊びに来たり、他の女と仲良くしてると怒ったりするし。とてもフッた側とは思えない行動ばかりだ。

 

「なるほどねぇ。色々と複雑ですね」

「はい。……だから正直、戸惑ってます。あいつが今、どういうつもりなのかさっぱり分からないんすよね」

 

 前から何考えてるか分かんない女だったが、今は尚更だ。

 割と真剣に悩んでいる俺の表情を見てか、川島さんは微笑みながら答えた。

 

「でも、楓ちゃんと仲直りしたいんでしょう?」

「そりゃまぁ。そもそも、喧嘩だってしたいわけじゃないですし」

「それなら大丈夫よ。多分、楓ちゃんも同じ気持ちだから」

「……」

 

 楓はー……どうだろうな。あいつの考えてることはイマイチ分からんから。

 

「まぁ、でも最近は少し変わってきたんすよね」

「何がですか?」

「なんか、こうやって本音を楓と言い合う事なんて学生時代ではなかったから、少し楽しくもあるんすよ」

「え、喧嘩が……?」

 

 あ、少し引かれた。や、そういうんじゃないから。ドMじゃないヨ。別に楽しくて喧嘩してるわけじゃないし、基本的にはしたくないから。

 

「まぁ、はい。あんな風に毒を吐く楓、珍しいじゃないすか」

「そうですね。事務所でもおっさんみたいなダジャレと割とどうしようもない所以外は、優しいお姉さんって雰囲気で年下のアイドル達と接しているもの」

 

 あいつ事務所でも自分を偽ってないんだな……。まぁ、それも良い所ではあるんだが。

 

「だから、あんな風に言いたいこと言ってる楓も、あれはあれで可愛いもんですよ。なんか生意気な妹みたいな感じで」

「…………あっ」

「あ? R-301すか? あれ個人的にはR-99より強いすね」

「違うわよ。なんで急にそんな話になるんですか。……ていうか、その……後ろ……」

「志村?」

「違います! 良いから後ろを……!」

 

 あまりにも言われるので振り向いてみると、楓が立っていた。なんかまた冷酷とも言える笑み浮かべて。

 これはー……ヤバいな。流石に。どこから聞かれたか分からないが、こういう時は大体、聞かれたくないとこから聞かれてるもんだ。

 つまり、少しとはいえ喧嘩を楽しんでるって所からだろう。こんな事を喧嘩相手に知られたら、また喧嘩が始まる。

 あの綺麗な罵詈雑言の嵐に身構えていたら、徐々に冷酷な笑みが小刻みに震えて崩れ出した。なんかニヤけているのか怒っているのかわからない表情になったと思ったら、無理矢理、捻り出したような静かな怒声で言った。

 

「な、なんぇ……なんで私が、妹なんですか……!」

「そりゃ歳下だからだが……」

 

 え、ていうかそこなの……? 微妙に困惑している間に、なんか余計に読めなくなった楓はプリプリと怒りながら席に着いた。その日、楓は「喧嘩もしてやらない」と言わんばかりに口を聞いてくれなかった。

 

 

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