高垣さんにフられました。   作:バナハロ

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クリアしました。でも周回するのでまた遅れます。


泊まるな。

 私服を購入し終え、とりあえず下着とTシャツと俺の上着を着た楓と、追い剥ぎに遭った俺は、二人で服屋の並ぶアウトレットを抜けた。

 その途中、サングラスとか売ってる店で星型メガネをかけさせられたり、鼻眼鏡をかけてやったり、小物が売ってる店で猫耳のついた帽子被らされたり、真夏なのに耳当てをつけてやったり、お互いにお揃いのピアスを選んだり、楓のゲーミングヘッドホンを購入させたりと、割と満喫した。

 で、晩飯。JC二人が家から出た事により、早く帰らなければならないわけでもなくなったわけで。つまり、居酒屋である。

 

「かんぱーい♪」

「乾杯」

 

 両極のテンションで乾杯した。いや、疲れました……。スタミナ無い俺に半日デートは死ねる。

 ヘロヘロになりながら乾杯を終えると、楓は一切、それに触れることなく話し始めた。

 

「ふふ、今日は楽しかったですね?」

「そうだな……」

 

 まぁ、それは事実だ。未だに楓が俺の上着を手放さない必要があるかは分からんが、とにかく楽しかった。良い歳してお揃いのピアスまで買ってしまったし。本当はお揃いのTシャツを買わされるとこだったが、ペアルックは流石に無理です。学生時代でも無理。

 

「お疲れですね?」

「誰の所為だよ誰の……」

「体力がない樹くんが悪いんですよ? プロデューサーさんなら平気な顔でついて来てくれますから」

「……あそう」

 

 なんでそこで他の奴が出てくんだよ。プロデューサーが男か女かは知らんが、男なら不愉快だ。……まぁ、だからって口に出すほどガキじゃないが。

 

「ふふ、そんなに拗ねないでください」

「拗ねてねーし」

「それ、拗ねてる子が一番言う奴ですよ?」

「誰が子だよ」

 

 ‥……ダメだ。疲れでまともな喧嘩する気にもならん。まぁ、喧嘩したいわけじゃないし、案外、悪くないのかもしれないが。

 

「てか、プロデューサーって男?」

「はい。……あ、安心して下さい。私の事務所のプロデューサーさんはロリコンさんですから」

 

 お前相手なら合法ロリだろ。中身と胸的に。まぁ、口にはしないが……。

 

「痛っ⁉︎ なんで急に弁慶の泣き所?」

「誰が合法ロリですか、誰が」

「え、口に出てた?」

「樹くんの考えてることなんてお見通しです」

 

 え、じゃあよりを戻したいとか考えてるのもバレてる? まさかそんなはずないよね? それならとっくにフラれてるだろうし。いやフラれるのか、俺。持って自信を待て。せめて、ごめんなさいとか……や、だからフラれてるって。

 とにかく、いくら読めるとしても流石にそこまでの精度はないはずだ。昔から大事なことは必ず見落とす奴だったし。

 

「……ぷっ、ふふ……」

 

 ……ほらな? なんか一人で笑ってるし、ばれてない。つか、急に笑い出すな、ホラー映画より怖いわ。

 

「樹くんは、本当に分かりやすいですね」

「何の話だよ」

「いえ、なんでもないですよ?」

 

 一度、はぐらかしたら絶対に続きを話してくれない。いや、たまにだけど、しつこく聞いて欲しくてわざとはぐらかしたりはするな。そういう時は大体「じゃあもう良いわ」って言えば白状する。

 

「そういえば、樹くん。ピアス空けてなかったんですね」

「そりゃ、そういうのに興味無かったからな」

「痛かったですか? さっき空けた時」

「痛くはなかったよ」

 

 正直、そういうアタッチメント的なワンポイントオシャレは好きではない。特に人の身体に穴を開けようという精神がわからん。人なんて元々、穴だらけじゃん。なんでまた穴空けんの? ……や、まぁ楓とお揃いなら穴を空けるのもやぶさかではないが。

 

「楓はピアスとか空けてたんだな」

「はい。仕事でアクセサリーを付けることもありましたから。一般企業と違って禁止されてるどころか推奨されますし」

「ふーん……学生時代は空けてなかったよな?」

「はい。痛いの嫌だったので」

 

 うわあい、素直。ここまでストレートなのはすごいわ。まぁ、思ったよりは痛くないんだけどな。

 

「そういえば、この前は樹くんの私のグッズを持っていましたよね?」

「ブフッ!」

 

 いきなり人の黒歴史にハサミギロチンされ、思わず吹き出してしまった。

 

「テメェ……あれは全部どっかの誰かが持って行ったろ」

「ああ、あの中のグッズ、全部見たんですよ」

「見んなよ」

「そしたら、モデル時代のものもありましてね?」

「お願いだから追撃やめて。俺に死んで欲しいの?」

 

 ……なんなの? え、怒ってんの? いやでもそんな感じの雰囲気じゃないしな……。

 

「違います。……ただ、まだ隠し持っていそうだなと思いましてね?」

「……」

 

 おっと、そっちか。しかも本当に持っていますね。

 

「探しに行って没収しても良いですか?」

「なんでだよ……」

「なんででもです」

 

 なんでもってな……。そんなうちの母親みたいなはぐらかし方はやめてほしい。あれ言われるとホント腹立つよな。

 

「……まぁ、来る事は構わないけど」

「では、二次会は樹くんの部屋ですね」

「はいはい……つーか、この後も飲むのか?」

「飲みますよ?」

「ベロンベロンになるなよ」

「なりませんよ。私、お酒強い方なんですから」

「俺より弱いじゃん」

「……あなたが異常なんです」

 

 そうか? まぁ、そうだな。自分でも強い自覚がある。アスガルドの酒も飲める気がする。

 とにかく、今はそんなことどうでも良い。うちに来られてあの辺のグッズまで没収されるのはごめんだ。ここに来られなくすれば良いし、来られても問題ない方法がある。

 酔いつぶせば良い……! 

 

「とりあえず、飲むだろ? 次何飲むよ?」

「では……獺祭で」

 

 空になった楓のガラスを視認してから声を掛けると、楓は日本酒を頼んだ。相変わらず、酒の話になればちょろいな、こいつ。

 

 ×××

 

「うへへへ、まだ飲めまーす……」

 

 だから潰してどうすんだよ俺……。バカなのかな。これからどうすんだよ……。

 

「……加賀山号、出動!」

「そういう名前のブルートレインみたいだな」

「ブルートレイン?」

 

 知らないのかよ。小学生の頃は俺好きだったんだよな、電車が。まぁ、スペックとか興味なくて外見と名前しか調べてなかったが。

 

「ね、樹くん」

「何?」

「なんでもありませーん」

「……あのさ、そういうのは良いとこ大学生までだろ。社会に出た人がやって良いチョッカイじゃないでしょ」

「女性はいくつになっても女の子なんですー」

 

 ……へいへい。そーっすね。

 呆れた顔を背中の上から見られたのか、唐突に静かになる楓。こいつ、本気で拗ねると急に静かになるんだよな……。

 と思ったら、不意に……。

 

「……すみませんねー、いつまでも可愛いままではいられなくて……」

 

 ……こう、こっちが発言を後悔するようなこと言うんだもんなぁ……。ったく、分かってない奴め……。

 

「……可愛くないとは一言も言ってねーだろ」

「ふあ……?」

「だから困ってんだよ」

「……」

 

 ‥……手足をジタバタさせ始めたな。珍しく照れたか……。

 

「……ぃ」

「え?」

「……ぉ……て……さぃ……!」

「やだよ、下ろさない。どうせまともに歩けないだろ今は」

 

 ……ったく、おんぶされてる時くらいは大人しくしてて欲しいもんだ。

 とりあえず俺の家に向かっているが……大丈夫だよね。今更、こいつに「セクハラ?」だの「お持ち帰り?」だのと勘違いされる要素はないし。

 

「……あんま肩甲骨叩かないでくんない」

「うるさいでーす。女の子に恥をかかせる人の言うことは聞きませーん」

「勝手に恥ずかしくなってるだけじゃ……あ、嘘ごめん。抓らないで抓らないで」

 

 というか、一々、制裁がガキっぽいんだよ。そういう意味では女の子って言っても間違いではないかもしれない。

 そうこうしているうちに、自宅に到着した。楓をソファーに寝かせ、俺はとりあえずシャワーを浴びた。暖かいお湯が身体をポツポツと暖める。シャワーを浴びていると、1日の考え事が捗るんだよな。だから、たまに長風呂になっちまう。

 今日は、楓がいい加減、俺の事をどう思っているのかを考えていた。

 だってほら、明らかに嫌ってる態度じゃないでしょアレ。流石にデート行って飲みまでして俺の家に持ち帰られて、それでも何一つ抵抗しないのに嫌われてるとは思えない。

 じゃあ、どういう気なのか? まさか、俺に気が……いや、早計か? なんにしても、もっと考えないと。今までのあいつの態度、言動から俺をどう思っているのかを割り出せ。

 

「……はぁ」

 

 ……なんか考えるの面倒くさくなって来た。だってあいつの考えを読むのなんてニュータイプでも出来ないし。

 ぬぼーっとした顔でお湯を頭からかぶっていると、後ろからギィッ……と音が聞こえ、ビクッと肩を震わせる。え、まさか、そんな事本当にあるの? いや、確かにあいつ酔ってたしうちでシャワー浴びることもあるしあり得ない話でもないが、あり得て良いのかこんなお約束的展開! 

 いや、落ち着け。悪くない展開だ。これなら事故だしむしろ楓の不注意による産物だし、いつでもバッチ来いやクソボケェッ‼︎

 ガバッと振り返ると、普通に自然に開いてるだけだった。ドアノブ、直さなきゃな……。

 

「はぁ……クソッタレめ……」

 

 まぁ良いや。それよりも、さっさと上がって楓にシャワー開けてやるか。そう思ってシャワーを止め、風呂場を出た時だ。楓がそのタイミングで脱衣所の扉を開けた。

 

「「あっ」」

 

 ラッキースケベは楓に起こっていた。これ誰得なんですかね一体……や、まぁ今更、気にはしないが……向こうはどうだろうか? 

 

「あえぇえ? す、すみません……!」

 

 ボッと火がついたように頬を赤らめ、慌てて扉を閉めた。一方、俺は気にせずに身体を拭くことにした。今更、楓に裸を見られた所で何も思わない。……逆だと少し照れると思うけど。

 身体を拭き終え、寝巻きのジャージに着替えて脱衣所を出た。すると、いまだに頬を赤らめてソファーに座っている楓と目が合った。

 

「あっ……」

「いやん、エッチ♡」

「っ……!」

 

 無言で投げられたクッションが顔面に直撃する。痛くないけど、楓の怒りがしっかりと伝わりました。

 

「……ごめん、冗談」

「お風呂借ります」

「シャワーだけど良い?」

「はい」

 

 もう酔いは覚めたようだ。それなら帰るっていう選択肢もありそうなもんだが……まぁ良いか。帰って欲しいわけではないし。それより、楓の歯ブラシと寝巻きの準備をしてやらんと。

 洗面所からシャワーの音が聞こえたのを確認すると、中に入ってジャージと歯ブラシを置いておいた。

 

「……さて、ゲームでもやるか」

 

 自分の歯ブラシを口に突っ込み、プレ4の電源を入れた。

 

 


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