高垣さんにフられました。   作:バナハロ

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何もかもを叩き壊される時は唐突にくる。

「加賀山さん、大丈夫ですか?」

「え、あ、はい。平気です」

 

 職場でボーッとし過ぎていたからか、同僚に声をかけられてしまった。いや、仕事はちゃんとやってるんだけどね? 定時で帰りたいし、怒られたくないし。

 しかし、やはり悩みの種はあのエメラルドボブだ。なんだよ、あいつ。最後のなんだったのあれ。「いつでも待ってる」って……え、そういう意味なの? 

 いやいやいや、落ち着けよ俺。この女は男を誤解させるプロだ。もしかしたら「告白してくれても良いんですよ? 私は断りますが」って意味かも……いや、流石にそれはないな。そこまで歪んでないわ、あいつ。

 でも、その言葉通りに受け取るのも違う気がする。だって、あいつそんな素直なタマじゃないし。いや、裏を考えてみよう。そう、割と遠回しに物事を……いや、でも大事な話はあいつ絶対に変な言い回しをしないし……。

 

「……はぁ」

 

 悩みが尽きない……ゲームのドロップとガチャ以外で悩んだのは本当に久しぶりだ。

 しかし、悩まないわけにいかない。何せ、未練がある女の人が意味深なことを抜かしたのだから。

 どうすれば良いのか分からんわ。いやーマジでマジで。相談しようにも相手がいない。いや、いるにはいるが……川島さんとか三船さんとかだし、あんまり迷惑かけたくないんだよなぁ。

 

「……仕方ない」

 

 あの手でいくか、と、心に決めると、とりあえず楓に電話を掛けた。

 

 ×××

 

 終業後、居酒屋でしばらく待っていると、楓がやって来た。俺と向かいの席に座る。その良いタイミングで、ビールと塩揉みキャベツと枝豆と梅きゅうりが運ばれてきた。

 

「あら、ベストタイミングですね」

「お疲れ」

「お疲れ様です」

 

 軽く挨拶だけして、乾杯した。今日は「相談がある」と言って呼び出した。

 だというのに、何故か楓は少しワクワクしたような、それでいて気恥ずかしそうな、そんなソワソワしたような表情だ。

 ま、なんであれこっちのやる事は変わらない。学生時代に喧嘩したとき、よく仲直りに使っていた手だが、何とかなるだろう。

 

「ご相談とは?」

「ん、あ、ああ。そうだな。これは、同僚の友達の話なんだが」

「はい?」

「学生時代の元カノと仕事の忙しさから喧嘩になって別れてしまったんだが、最近、再会したらしくて、なんか良い感じらしいんだけどどう思う?」

「……」

 

 そう、これは同僚の友達の話だ。俺の話ではない。しかし、何故か楓は半眼になる。

 

「……相談って、それですか?」

「そうだよ?」

 

 あ、少し不機嫌になった。しかし、楓がどういうつもりなのか知るにはこの手しかない。なんだかんだ思い出とか大事にする奴だし、ワンチャン乗ってくるか……! 

 しばらく俺をゴミを見る目で見た後、楓がしかたなさそうにため息をついて言った。

 

「どう思う、とは?」

 

 乗ってきた! やったぜコラ! いや、気は抜けない。ここから先は俺の一言一言に全てが掛かってくるのだから。

 

「あ、ああ、えーっと……まぁ、なんだろうな。男の方はもう一回付き合っても良いと思ってるんだけど……」

「……付き合っても良い?」

「あ、いえ……付き合いたいと思っているそうなのですが……」

 

 流石にそこはバレているので話しても問題ないだろう。……とはいえ、言葉の綾にすごい食いついてくるなこいつ……。

 

「それで、向こうの女性はどう思っているのかな、と。なんか最近、やたらと距離が近くて呼吸するのも大変らしいんだよね」

「そ、そうですか……」

「で、どうしたら良いと思う?」

「……まず、恋愛沙汰を他人に相談している時点でどうかと思いますが……」

 

 他人じゃねぇ、本人だ。……いや、尚更悪いよねそれ。あー……なんか、楓怒ってる? 怒ってるよねこれ? 

 

「そうですね。彼女さんは告白されたらOKすると思いますよ」

「え、そ、そうなの?」

「大体、男性を弄ぼうとか、アホ過ぎて恋愛ごとに鈍感とか、そんな女性はごく少数です。大多数の女性はそんな事考えていませんよ」

「え、そうなの?」

「男の人だって、みんながみんな人混みに紛れて痴漢したり盗撮したりするわけではないでしょう? そういう事です」

 

 や、それはまた違う気がするが‥‥まぁ良いか。とりあえず、楓はOKだということだな? それなら今度、デートでも組んで……! 

 

「というか、それまでに『早く告白して』とアプローチをたくさんしているわけですし、なんなら女性の方も気持ちを戻しているわけですし、さっさとくっついた方がお互いの為なのでは?」

「……」

 

 ……いや、待て。今なんつった? 女性の方も気持ちを戻している? 『早く告白して』とアプローチしている? じゃあなんでそっちから告白してこないの? 

 え、何これ。何この感じ。なんか納得いかない。ていうかさ、このまま俺が楓のためにデートプランを組んで、告白して、付き合ったら……これ、これはこれで完全に楓の手の上で弄ばれてない? 男を弄ぶ女なんていないとか言っておきながら。

 

「……よし、よく分かった」

「? 何がですか?」

「何でもない。……とりあえず飲むぞ」

「は、はあ……」

 

 この後の記憶はない。

 

 ×××

 

 あれから、一週間が経過した。俺も楓も、ほとんど毎日遊んでいた。顔を合わせない日はオンゲをやり、休日は二人でデートに行ったりした。

 ……が、お互いに絶対、告白になるような話はしなかった。や、正確には告白直前の話までにはなったが、告白だけは絶対にしなかった。

 

「……え、何してるんですか?」

「ここから先は自分と楓との戦いだ」

「は、はぁ……」

 

 今日は三船さんと二人で飲んでいる。と、いうのも、楓が最近、やたらと疲れていると聞いたので「どうせお前が原因でしょ? 話聞かせてや」と言った具合に飲みに誘われた。

 

「……え、そんなことで意地になってどうするんですか?」

「喧嘩ってのは、意地で最後まで通すもんでしょう」

「……」

 

 そんなヤンキー漫画のようなことを社会人に言われても困るんだろう。三船さんは困惑していた。

 困惑するのも分かるが、俺ばっかり変人扱いされるのは納得いかない。

 

「待て待て待て。冷静に考えて下さいよ。じゃあなんであいつは俺に告白して来ないの? ……こう言っちゃなんだけど、俺の事を振ったのは向こうですからね?」

「そう言われればそうかもしれませんけど……でも、ほら。そこは男性ですし」

「……まぁ、や、そう言われればそうですけど……」

 

 うーん……やっぱ客観的に見ても告白は男からするべきなのか? 男女平等主義者、なんて高二病染みた事を言うつもりではないが、俺と楓の関係は別にそういうところにないと思うし……。

 

「……でも、加賀山さんは楓さんとどうなりたいんですか?」

「付き合いたい」

「なら告白して下さいよ……」

「いや、だからそれやったら負けな気がしましてね……」

「私の身にもなって下さいよ!」

 

 うお、急に大声を……え、ちょっ、急にビール一気に飲んでどしたのこの人。

 

「あの、大丈夫……」

「この前なんてねぇ……『聞いて下さい、美優さん。今日は樹くんとお祭りに行きました!』なんて言われましてね……」

 

 ああ、あの時の話したのか、あいつ。友達の同期の話をした次の日の事だ。あれ? 同期の友達だっけ? どっちでも良いけど。

 

「そのお祭りで、浴衣を褒めてあげたそうじゃないですか」

「はい。褒めましたね」

「その後、二人で射的をやって勝ったのに勝ちを譲ってあげてビールを奢ったとか」

「しましたね」

 

 まぁ、たまにはそういうのもありだろう。

 

「で、花火を見ながらたこ焼きの食べさせ合い、と」

「したね」

「最後に『楓はさ、学生時代から好きな男のタイプとか変わってないの?』『変わってませんよ? ですから、樹くんのような方が好きです』なんで会話をしたと?」

「したね」

「したね、じゃないです! なんでそこまでの会話をして付き合わないんですか⁉︎」

「ですから、先程も述べたように……」

「お口チャック! 大人が説教してる!」

 

 え、見たのスパイディ、意外。てか、俺も大人なんですけど……。

 

「その次の日はゲームをしたそうですね?」

「ああ、はい。AP○X」

「あなたがクリプトで楓さんがレイスで、離れた敵にEMPとポータルのコンビで特攻かましてチャンピオンになったそうですね」

 

 詳しいね、AP○X。もしかして、楓に付き合わされて練習してた? 道理であいつ上手くなってたこった。

 

「その時のセリフがなんですか? 『()()()()()()()()()()』『まさに哀戦士』」

「酒入ってましたからね」

「じゃないですよ! こんなイチゴ牛乳より甘いセリフ吐いておいてなんで付き合わないんですか!」

「いやゲームやってて気持ち良くコンビネーション決まったからって告白は出来ないでしょ……」

 

 や、まぁ俺と楓ならそれもあり得るかも。

 

「で、さらにその次の日ですか?」

「や、もう抜粋しなくて良いですよ。……なんか恥ずかしくなってきたし」

 

 何これ、なんで俺こんな羞恥プレイを居酒屋で受けてんの? ……ていうか、俺の知らない間に俺の焼酎が空なんだけど。勝手に飲んだ? 

 

「分かりますか⁉︎ 私より歳下の女性から、バカみたいに甘ったるい惚気を聞かされる気分は!」

「いや、知らないですよ。それに、楓は楓、三船さんは三船さんでしょう。別に比較する事ないと思いますけど」

 

 俺の思春期は周りより遅かったからなぁ。お陰で中学の時とか、銀魂のギャグがイマイチ理解できなくて、周りがハマってる理由がわからなかった。

 しかし、俺のその台詞は端的に言って地雷だった。ジト目になった三船さんは、まるでキレると一周回って静かになる人のように言った。

 

「……ふーん、そうですか。そういう事を言いますか。なら、私にも考えがありまふ」

 

 ああ、とうとう呂律が回らなくなって……。

 

「あなた方の惚気なんて、私はこれ以上、耐えられません!」

「うん、分かったから少し落ち着いて下さい。俺の焼酎返せ」

「あなた方が少しでも早くくっ付くように、強引な手を打たせてもらいます!」

「え、あ、そう。まぁ何やっても俺からは告白しませんよ。俺はそんな尻軽男じゃな……」

 

 と、言いかけた時だ。俺のネクタイを引っ張った。何をし出すのかと思った直後だ。俺と肩を組んで、頬をくっ付けて自撮りしやがった。

 

「……え」

 

 ちょっ、何してんのこの人……てか、ほっぺ柔らかっ。じゃなくて、良かったわ。個室で。じゃなくて。

 

「……え、今、撮った……?」

「そーしん」

「……は?」

 

 そーしん……? 痩身かな? そうだよねー。俺も楓も痩せ形だし、そういう事だよねー。

 ……あ、なんかL○NEきた。

 

 高垣楓『今、美優さんからこんな写真が届いたのですが』

『 高垣楓 が 写真 を送信しました。 』

 高垣楓『どういう事なんですか?』

 

 やっぱり送信かよ! ちょっ、あんた酔ってるからって何してくれてんの⁉︎

 

「どうです? もう付き合うしかありませんね?」

「真逆でしょこれ! ど突き合いになるわ! 大体、こんな事したらあんただってタダじゃ済まな……!」

「じゃんねんでした。私は明日から大阪でお仕事です」

「なんて周到な計画! 酔ってるとは思えない!」

 

 いや、てかそういう問題じゃない。え、どうしよう。謝って許してもらえるのかな。え、俺が謝るの? 

 

「では、がんばってくだふぁいね、加賀山さん」

 

 他人事のように抜かす三船さんだった。なんかこの人と楓がうまく友人になれてる理由がよく分かった気がした。

 ……ふぅ、さて、それよりも、だ。明日からの大阪出張、楓になんて説明しようかな……。

 

 ×××

 

 ちなみに翌日、三船さんから謝り倒されたが、それはまた別の話。

 

 

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