高垣さんにフられました。   作:バナハロ

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新たな伏兵。

 風邪を引いた。昨日の出張最終日と残り時間での楓との観光は気合で乗り切ったが、とにかく風邪をひいた。

 で、今は自宅。よかったよ、今日休みで。こうしてベッドの中で休んでいると、俺の頭の中はただ一つの事しか考えられない。

 

「……やっぱスカルが強過ぎるんだよな……。個人的にはあいつが一番使いやすい……」

 

 ゲームの事である。最近はペ○ソナ5のアクションゲームにハマっている。その中でも、クイーンとスカルとフォックスの楽しさに夢中だった。

 スカルは単純に好きだから使っていたが、クイーンとフォックスは本当に強い。バイクで跳ねるかカウンターバカなだけあって、雑魚狩には適している。

 しかし、なんだかんだ一番強いのは一発が重たいキャラである。相手の攻撃をよければ回復は不要だし、早く殺せれば相手の攻撃を避ける回数は減らせる。

 

「……ちょっとやりたくなってきたな」

 

 なので、身体を起こしてゲームを始めた。風邪で頭が回らないが、まぁそれなら感覚に切り替えれば良いだろう。

 プレ4の電源を入れて、コントローラを持ってソファーに座る。

 

「やっぱ風邪にはゲームだよな」

 

 そう思って、ゲームを始めた。

 

 ×××

 

 おかしい……なんかドンドン具合悪くなっていくんだけど……ゲーム療法は間違ってるってのか? ‥……でもゲームの調子は良い。

 

「うーん……頭痛い」

 

 そう言いつつも、視界に入る敵を片っ端から片付けていく。明日も休みとはいえ、そろそろやめた方が良いのかな。でもせっかくの休みにゲームをしないっていうのは……。

 そんな事を考えている時だった。スマホが鳴り響いた。

 

 高垣楓『今日も飲みに行きませんかー?』

 

 ……いや、ダメでしょ。うつしちゃうから。

 

 加賀山樹『風邪引いてるから無理』

 高垣楓『あら、大丈夫ですか?』

 

 大丈夫ですか? じゃないよ。お前が裸で寝かしたから風邪引いたんだろが。これだからむっつりスケベは困るってんだよ。

 その点、オープンな俺は隠し事は一切ない。最近はそうでもないけど、昔はエロ本を堂々と本棚に突き刺していたくらいだ。その度に捨てられたが。

 

 高垣楓『では、お見舞いに伺いますね』

 加賀山樹『いいよ、来なくて。うつすと悪いし』

 

 そんな大した風邪じゃねえし、ゲームやってりゃ治る。さっき体調が悪化したのは、多分何かの間違いだ。

 すると、返事がなくなった。こうやって返事が途絶えた時、あいつ大抵、ろくなことしないからなぁ。

 

「……ま、ゲームしていればそれで良いか」

 

 どうせ鍵かかってるし、入って来れない。本当は看病してもらいたい、と思ってはいるけど……やっぱ風邪うつすのは嫌だし、うん。

 よし、ゲームやろう。次は何のゲームやろうかなー……。

 

 ピンポーン

 

 ……嫌な予感がするんですけど。え、早過ぎない? あいつ何処にいたの。いやいやいや、気の所為だって。いくらなんでも早過ぎるもの。

 

「……いや、落ち着け俺」

 

 大丈夫、来られたって困ることなんかない。だってほら、今は部屋も綺麗にしてるし、エロ本もない。楓グッズはしつこく集めてるけど、ちゃんと隠してある。

 

「そう、平気。ゲームやるだけなんだから……」

 

 深呼吸して、まずはインターホンから誰が来たかを見た。やっぱ楓だったわ。や、ホントここに来るの早過ぎない? マジで化け物かよ。

 とりあえずー……自動ドアを開けないと。流石に家まで来られて居留守は出来ないです。

 で、楓が上に来るまでの間は、とりあえずゲームでもしていれば良い。

 そんなわけで、シーズン4になったAP○Xをする。ていうか、レヴナント使いづらいな。俺はやっぱりレイスだな。最近はブラッドハウンドも熱い。

 すると、ピンポーンと再びインターホンの音がした。だから早いって。なんなのあいつ。オクタンなの? 

 

「ふぁい……」

「来ちゃいました」

「じゃないよ。来なくて良いって言ったじゃん」

「来て欲しいって意味かと」

「……」

 

 ……まぁ良いや。来て欲しくないわけじゃないし。せっかくだし、遊んでた方が良いよね。

 

「じゃ、楓。ゲームやろう」

「バカなんですか? 寝てて下さいよ」

「せっかくの休みに寝て過ごすわけないだろ。遊ぼうよ」

「……」

 

 あれ、なんか楓がバカを見る目に……え、楓にそんな目で見られるととてもショックなんだけど。具体的には、バカにバカと言われたような気がして。

 

「……樹くんって、もしかして学生時代よりバカになりました?」

「急な失礼すぎる発言にドン引き」

「風邪を引いてゲームなんてしたら熱は上がるに決まっています。良いから安静にしていてください」

「でも、楓は暇でしょ?」

「そんなことありませんよ。樹くんと一緒にいられれば、退屈なはずがありません……」

 

 ……クッ、なんだ今の。楓の癖に……! いつからお前はそんな乙女な発言が出来るようになったんだ……! 

 

「ふふ、照れました?」

「喧しい。じゃあゲームは良いのね?」

「……あの、照れた癖に、ゲームに未練を持つのやめてもらえます?」

「電源切っとくわ」

「いえ。私がやるので早くベッドで安静にしていて下さい」

 

 くっ……か、楓の癖に気遣いができるようになって……! 

 もはや親目線になって泣きそうになりながら、寝室のベッドで寝転がった。その後に続いて、楓が部屋に入ってくる。

 

「樹くんのために、たくさん食べ物や飲み物を買ってきたんですよ」

 

 そう言って、楓がベッドの傍に置いてある机の上にそれらを並べた。左から順に、スーパー○ライ、金○、麦と○ップ、グリ○ンラベル、麒○、のど○し、カルパス、柿ピーである。

 

「お前何しに来たんだよ……」

「お見舞いですよ?」

 

 少しでもこいつを見直した俺がバカだったよ。

 

「どう見ても酒盛りじゃねぇか。しかもお前全部ビールって……なんて品揃えの良さだ」

「分かります?」

「皮肉だよ。てか、おつまみも何これ? せめて栄養あるもん買ってきてよ。りんごとかあったでしょ」

「なんですか、せっかく買ってきてあげたのにグチグチと……文句あるんですか?」

「……ないよ。正直、最高」

 

 もうどうにでもなれ、といった感じだった。仮に風邪うつしても、俺知らネって感じ。

 

「では、お見舞いパーティーを始めましょうか」

「いえーい!」

「いえーい!」

 

 勿論、熱は上がった。

 

 ×××

 

「大丈夫ですか? 加賀山さん。楓ちゃんはしばらく出禁にしましたから」

「ありがとうございます」

 

 それから3日後、川島さんが来てくださった。病人にとどめを刺そうとした楓は勿論、出禁。なーはー姉妹が遊びに来なかったら毎日殺されていた所だ。

 

「いっくん生きてる?」

「はーちゃん、おそらく死んでいます」

「お前らは死体を看病してるのかよ」

 

 本当に酷い双子だ。ファンが聞いたら泣いてるぞお前ら。

 

「……まったく、それにしても、加賀山さんも加賀山さんですよ? 相手が楓ちゃんでもキチンと断らないと」

「甘やかしてるつもりはないんすけどね……。ただ、あいつが『ごねれば俺は言うこと聞く』って思ってるみたいなんで、もうお断りするのも面倒いんすよ。それなら、最初から聞いておいた方が楽じゃないすか」

「……あのねぇ。どの道、これからお付き合いしていくなら、わがままばかり聞いていちゃダメだ思いますよ。特に、楓ちゃんはつけ上がるタイプですから」

 

 なんか、この人も楓の事で苦労してるんだなぁってしみじみ思うわ。今度、お酒でも飲んで語りたいくらいだ。

 

「いーくんはアレですか? かーちゃんが嫌いなのですか?」

「なわけないだろ。好きって気持ちと、たまにくたばれって思う気持ちは紙一重だ」

「え、それ真逆じゃないの……?」

「颯ちゃんも大人になれば分かるわ。人は好き嫌いではわけられないのよ」

「そ、それって、はーがなーに対して『こんな姉でも可愛い』と思うのと『どういう感性してるのこのバカ姉』って思うのと一緒?」

「そうそう」

「そういうこと」

「……ふむ、つまりなぎがはーちゃんを『発育良過ぎて腹立つ』『こいつ絶対、なぎから栄養掠奪した』と思ってるのと一緒ですか?」

「それは違う」

「紙一重っつーか全く一緒だな」

「なー、はーのことそんな風に思ってたの⁉︎」

「こっちのセリフです」

 

 あ、やばい。このままでは姉妹喧嘩が始まらん勢いだ。颯は発育の割にいじられやすいガキだし、凪は見た目通りガキだ。

 俺と川島さんは無言で目を合わせる。すぐに頷き合い、行動に移した。

 

「そう怒るな、凪。お前は姉だろ? 発育の良さが全てじゃないってのは、楓を見れば分かるだろ?」

「むっ、確かに……」

「颯ちゃんも。相手の悪口が多く見つかるってことは、それだけたくさん相手のことを見ていたってことよ」

「そ、そうなの? ……なーってば」

「だから、喧嘩なんて非生産的な事はするな。俺の熱が上がる」

 

 喧嘩に発展する前に止めることが出来た。……そっか、これが普通の大人か。あれ? じゃあ楓ってなんだろう。

 

「……それにしても、いっくんと川島さんって息ぴったりだね」

「え、そ、そう?」

「はい。かーちゃんといーくんより、川島さんといーくんの方が息はあっていますね」

「……そう見える?」

「はい」

 

 ふーむ……マジか。まぁ、一緒にいて疲れないのは川島さんの方だよな。楓と一緒だとツッコミ兼お守り兼親代わり兼介抱役だし。

 今の喧嘩だって、楓なら酒飲んだままぼんやりして終わりだもんなぁ。

 

「というより、かーちゃんより母ちゃんみたいですよね」

「それ! かーちゃんはなんていうか……母ちゃんというより歳の離れた姉みたいだし」

 

 なんか勝手に盛り上がる二人をよそに、川島さんは俺に耳打ちした。

 

「……かーちゃんって誰?」

「楓の事です。なんか楓がそう呼べって強要したらしくて」

「……あの子、やっぱバカね」

 

 そんな風にヒソヒソ話している俺達を見て、颯と凪は顔を見合わせた。すると、頷き合って何やらスマホをいじり始める。

 ……いやな予感がするぜ。今のうちに止めておいた方が……。

 

「さ、二人とも。そろそろ帰るわよ。あまり長居すると治るものも治らないわ」

「あ、そうですね」

「帰ろ帰ろ」

「……」

 

 聞き分けの良さが尚更、不安を煽るが……とりあえず、川島さんにはお礼を言っておかないと。

 

「わざわざありがとうございました。川島さん」

「いえいえ。お大事に」

 

 それだけ話して、3人は帰っていった。

 

 


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