高垣さんにフられました。   作:バナハロ

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残念ながら、樹に達成感はなかった。

 風邪も回復し、何とか出勤日に空きを作らずにいられるこの頃、俺のメンタルは風邪をひいていた頃よりも鈍っていた。何故なら。

 

 高垣楓『ふふ、浮気者』

 高垣楓『お元気ですか?』

 高垣楓『まぁ元気なんでしょうね』

 高垣楓『私以外の女性と仲良く出来るくらいですから』

 高垣楓『もうその方と付き合ったら良いんじゃないですか?』

 高垣楓『バカ』

 高垣楓『廃人ゲーマー』

 

 なんかすごい怒られているからである。なんだろ、俺なんかしたっけ? こいつがこんなに怒るようなことをした覚えがないんだが……。

 しかし、なんであれ、今の関係でこいつにちくちく言われると心がちくちくする。勿論、興奮してるんじゃなくて針でちくちくの痛みである。

 

「……はぁ、何をキレてんだか……」

 

 謝った方が良いのかな……いや、でもなんでキレてるのか分かんないし……仕方ない、誰かに聞いてみるか。

 誰か、と言えば前まで三船さんだった。でも、この前、三船さんは盛大にやらかしてくれたし、もう一度あの人とコンタクトを取ると、それだけで楓はブチギレそうだ。

 そういう時のための新たなアドバイザーがこの前、看病してくれた事がきっかけで増えた。早速、その人に電話をかける。ちょうど昼休みだし。

 1コール、2コール、3コール……あ、出た。

 

「もしもし、川島さんですか? 突然で申し訳ないのですが、今夜、食事でもどうです?」

『バカ……』

「え」

『ふふ、相変わらずのナンパ性ですね。その生殖器を一度、切り落としてみたらどうですか?』

 

 あれ、なんか別の声が……何この鉄拳制裁系聖女にそっくりな声……。

 

「えーっと……か、川島さん?」

『高垣ですよ?』

「え、お前何してんの?」

『そのセリフ、そっくりそのままピッチャー返ししますね。あなたが何してるんですか?』

「や、単純に相談しようと思っただけなんだけど……」

 

 あ、ダメだこれ。今のハッキリしない返事をすると高垣さん怒るんだよなぁ。

 

『なんのご相談ですか? 告白ですか? もしかして、颯ちゃんや凪ちゃんに「息ピッタリ」と言われて舞い上がってます? これだから勘違いしやすいボッチは嫌なんですよ』

「え、い、嫌なの……?」

()()()()()

「……」

 

 これだよ。こいつと話してるとマジなのか冗談なのかわからなくなる。ていうか、どうなの? ボッチが嫌なら俺とのお付き合いも嫌ってことになっちゃうんだけど……。

 こう言う時の楓は強い言葉を使いやすいので、十中八九、本気で言っているわけじゃ無いと思うけど……え、でもやっぱ不安になるんだけど。一回、振られてるし。

 

「……え、じゃあやっぱ嫌なの?」

『あ……い、いえ……そういう事ではなくてですね……』

「えーっと……嫌なら夏の終わりに付き合うみたいな約束やめとくけど……どうする?」

『ま、待って下さい。そうではなくてですね……』

 

 この焦りよう……やっぱつい強い言葉が出ちゃったってだけか。なら、とりあえず悲観的になるのはやめよう。

 

「悪かったよ。冗談だ」

『え……?』

「気にしちゃいないから。……で、お前なんで怒ってんの?」

『……』

 

 あれ、黙ったな。自身の怒りを思い出したのか? なんかアニメの名言っぽいな今の。

 まぁ、怒ってるなら早めに謝って、付き合ってからの摩擦を消した方が良いかもしんないな。理由に関しては……さっき楓から飛んできた暴言から推測するしか無い……。

 

『樹くん』

「なーにー?」

『今晩、飲みに行きませんか?』

「毎晩付き合うよ」

『いえ、そういうのではなく……今晩で、お願いします』

 

 ……ふーむ。まぁ、何か話があると言うのなら聞こうじゃないか。

 

「良いよ。明日も仕事だからあんまり遅くは無理だよ」

『はい。では、今晩』

「あ、待った。その前になんで怒ってたか教え」

 

 切られた。……え、あいつ今までで途中で電話切るような事あったっけ? あ、ヤバいどうしよう。これマジで付き合う約束無しになるパターンか? 

 ……そう思うとなんか気持ち悪くなってきた……。もうフラれたときみたいな思いをするのはごめんなんだけど……。

 

「……胃薬でも買おうかな」

 

 そうしよう。買おう。

 

 ×××

 

 終業後、とりあえず楓に言われた住所に向かった。なんか今日の飲みは楓が住所を送って来たんだよね。どうしたんだろ、一体。普通、店の名前じゃね? 

 さらに、来てみて思ったんだが……その住所ってどういうわけか、公園なんだよね。ブランコとか滑り台と砂場とシーソーしかない、なんか普通の公園。え、何これ。俺、闇討ちでもされるの? 

 

「……あ、ようやく来ましたね。()()()()()()()()のか不安になりました」

「分かりにくいギャグはやめろよ。一瞬、どういう意味か考えちゃったじゃねえか」

 

 あんまり仕事とゲーム以外で頭使いたくないんだけど。なるべく何も考えずにぬぼーっと生きたい人種なんで。

 

「で、なんで公園? 飲みに行くんじゃないの?」

「お酒は買っておきましたよ。昔はよく、公園でコンビニで買ったお酒飲んでたじゃないですか」

「あー……まぁ、そんなこともあったか」

 

 あれはあれで楽しいもんだ。ポイ捨てするわけにいかんからゴミ持って帰るのが非常に面倒だったが。

 でも、外で飲む開放感と、公園の街灯と月光だけの明かりの中、男女二人だけでお酒を飲むのは中々、風情があって良いものだ。ただし、冬は無理。風情があっても寒いもんは寒い。実際、楓に付き合って雪の中飲んだら、次の日風邪引いた。

 

「とりあえず、座って飲もうよ」

「では、こちらで飲みましょう」

 

 こちらって……ベンチかブランコ? ……あ、まさかシーソー? 昔、シーソーの平行を保ちながら飲んだっけ。

 なんて思い出に浸りながら楓を見ると、向かった先は滑り台だった。

 

「……え、まさか」

 

 こう言うとき、自分の勘の良さが嫌になる。これってもしかして、学生バカップルがよくやるアレか? 

 予想通りというかなんというか、楓は滑り台の階段を上がり、降り口に座った。微妙に人一人入る分を背後に空けて。

 

「どうぞ?」

「……あの、俺スーツなんだけど。そこに座るの?」

「そうですよ」

「……」

 

 滑り台の上とか汚れてそうで嫌なんだが……まぁ良いか。早めに俺も階段を上がり、楓の後ろに座った。滑り台の上で、楓を足の間に入れているわけだが……ハッキリ言ってこの座り方考えた人天才だよね。肌は密着するし、女性の方は自分を背もたれ代わりにするから確実に甘えられているような錯覚に陥る。実際の所? 知らね。まぁ、楓の事だし甘えてくることもあったかな。

 

「……こういうのってさ、学生がやるから尊く見えるのであって、社会人の俺らがやっても痛いだけじゃね?」

「年齢も職業も関係ありませんよ。したいからする、それだけです」

 

 ……名言っぽいけど、年相応って言葉もあるから。まぁ、いい歳してゲームに人間性を捧げた俺の言える台詞ではないが。

 

「ではどうぞ、お酒です」

「あ、このまま飲むんだ」

 

 珍しく楓にしてはアルコール度数の低いほ○よいを買ったようだ。まぁ、酒ならなんでも飲むしな、こいつ。

 俺の胸に頭を乗せた楓から酒をもらい、軽くコツンと乾杯した。

 

「……ていうか、後部座席かなり飲みづらいんだけど。楓、頭横に傾けて」

「ふふ、嫌です」

「なんでさ」

「このままでいたいからです」

 

 ……なんだ? なんかいつになく甘えて来るな。素面でここまで甘えるのは付き合ってる時でもあんまり無かったけど。

 まぁ、そんな話はさておき、だ。そろそろ本題に入りたい。一体、何を企んでいるのか。

 

「……どうしたよ。本当に」

「好きです。勝手に振っておいた身ですが付き合って下さい」

「はいはい、それは分かったから本当の本題にえ、本気で言ってんの?」

 

 え、こいつ今なんつった? 聞き間違いか? 俺も歳かな。

 

「本気ですよ? 本気と書いてモトケと読みます」

「ああ、やっぱギャグ? 今日はキレが悪いな」

「すみません、少し照れてしまいました。でも、とにかく本気です。信じてもらえないなら何度でも言いましょう。好意を抱いているので、寄りを戻していただけると……」

「待て待て待て待て分かったから待って」

 

 理解が追いつかない。どういうことなの? 大体、いまのいままでそんな雰囲気じゃなかったじゃん。冷静に思い出してみよう。

 今日、なんかキレられてると思ったら、突然、住所指定の飲みの誘いが来た。立ち寄ってみたら、そこは公園で身体を密着させるように楓と今、滑り台に座って酒を飲んでいる。で、告白された。

 ……うん、確かに普通じゃない態度が続いてたわ。予兆はあったね。

 

「でもなんで急に? 夏が終わるまで待つんじゃ……」

「……別に深い意図はありません。ただ、久川さん姉妹が、瑞樹さんと樹くんが割と趣味も息も合うんじゃないか、と仰っていて、何となく不安になって……」

「え、お前が不安になるの?」

「茶化さないで下さい。共通の趣味がある人は意気投合しやすい、というのは常識です」

「大体、俺と川島さんの合う趣味って何よ」

「私のお世話です」

 

 誰の趣味が子供の介護なんだよ。俺もあの人も趣味でやってねえよ。……あ、いやこういうところか? 意気投合するの。確かに楓の目線からしたら不安になるのかも……。

 

「だから、まだ私のことが好きでいてくれるうちに、首に輪をかけておこうと思ったんです」

「表現が怖過ぎてビビるな……」

 

 首に輪をかけるって……お前、彼氏をなんだと思ってるわけ? それとも、そういうプレイの意味で言ってる? 別の意味で付き合いを考え出しそうなんだが……。

 まぁ、なんであれこいつは勘違いしている。俺が他の女性になびく、という事は無い。この先、楓以外の女の人と付き合わないだろうし、付き合ってもすぐに別れると思う。楓の言い方をするなら、もう既に首に輪をかけられてんだよ。

 むしろ、飽きられるとしたら俺の方の立場だ。

 

「それは願ってもない話だけどな……」

「……けど?」

 

 ……告られたい、と思ってたけど、いざ告られると、こう……なんか後悔してるな……。だってほら、やっぱそういうのは男から行くものじゃん。なんでだろ……こう、すごいわがままな事に……俺から告白したい。

 

「俺から告白させてくれない?」

「……」

 

 つい口が滑った。言ってから後悔したわ。こういう風情が無いのは流石にやらかしたか……と、思った直後だ。前から、ほんの僅かにだが「ほっ……」という小さなため息が聞こえた。まるで、安堵したような。

 その後は、いつものまるでダメな楓の顔になり、ニヤリとほくそ笑んで身体ごと向きを変え、俺に抱きついてきた。

 

「ダメでーす。付き合ってくださーい」

「あ、お前連続で言うなよ」

「うんって言うまで離れませんよー?」

「明日、仕事なんだけど」

「じゃあ早く許可して下さいよ」

「……わかった、わかったよ。付き合おうか」

「ふふ、よろしくお願いしますね? 樹くん」

 

 そんなわけで、なんか付き合うことになった。

 

 

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