「と、いうわけなんだけど……三船さんと最近どうなの?」
昨日の夜の出来事を楓に話すと、心当たりがあったように「あ〜……」と声を漏らした。
「確かに、最近……美優さんとあまり話せていませんね……」
「やっぱりかー」
……てか、今更どうでも良いけど、こいつ今日仕事休みだったんだろうな……。なんか朝は俺の方が早く出て、夜は帰ったらこいついたぞ。
「なんか大分、気にしちゃってるみたいなんだよねー。確かに柔らかいほっぺだったけど、アレのおかげで付き合えたんだし別に気にしなくて良いのに」
「私の頬も柔らかいですよ?」
「張り合わなくて良いから」
別に柔らかい方が好みってわけじゃ無いから。胸以外。
「とりあえず、あんま気にしないでって話をしておきたいんだけど……でも、どうしたら良いかね」
「そうですね……私もまた美優さんを潰して一緒に半裸で寝たいですし……」
「お前、やめてやれよ……」
なんか関係修復しない方が三船さんのために思えた来たんですけど……。
話す相手を間違えた気もするけど、こればっかりは俺と楓の問題だからなぁ。川島さんとかに相談するわけにもいかない。
「……とりあえず、飲みとか誘ってみるか」
「私も行って良いですか?」
「お前は来るな」
「なんでですか?」
「絶対に潰しそうだから」
「だからって彼氏が異性と二人きりで飲みなんて……」
……これは、社会人は割と上司と二人飲みがあるなんて知ったら発狂しそうだな。その上司や先輩が当然、異性の場合もあるわけで。ま、俺は安定して連れて行ってもらった事ないけど。
「まぁ、楓がやめろって言うならやめとくよ」
「……うーん」
俺だって楓が他の男と飲みに行ったら、内心、良い気はしない。仕事の付き合いとかそういうのは分かるし「行くな」とは言わないけど。
「……分かりました。では、3人で飲みませんか?」
「楓以外の誰かなら良いよ」
「なんで?」
「そりゃお前が来るとただの飲み会になるから」
それはほんとに無理。それで無事に仲直りした上で三船さんを無事に潰したら台無しだ。
「まぁ、来るだけなら来ても良いけど混ざるなよ?」
「うう〜……信用の無さが浮き彫りになっていて辛いです……」
「身から出たサビだと思えよ」
絶対に真面目な話が進まないもの。酒の勢いでなんとかなる事もあるけど、その酒が原因なとこもあったからね。
「分かりましたよーだ。私はおうちで待機してます」
「いや、別に家にいることなくね? どうせなら、近くの席で川島さん辺りと飲んでれば良いじゃん」
「え……」
「その代わり、こっちには来るなよ。それから、呉々も三船さんに接触するな。良いな?」
「そ、そこまで……」
「出来なかったら、うちの冷蔵庫にビール入れるの禁止な」
「そんな水から魚を奪うようなこと!」
「逆だよ」
ダメなキャラ、ではなく本当にダメな所がこいつの面白い所だ。まぁ、それと同時に面倒な所でもあるんだけど。
「……ま、とにかくお前は大人しくしてろよ」
「うう……少しはちゃんとした方が良いのかしら……」
「よせよ、楓にちゃんとした姿なんて似合わないぜ」
「バカにしてるんですか?」
してます。だってバカにするまでもなくバカじゃん。ウマとシカじゃん。
「むぅ……私の評価って……樹くんの中ではすこぶる低いのですね……」
よよよ、とわざとらしく泣き真似をする楓。いやいや、あなた何言ってんの?
「楓は出来そうな見た目とそういう所のギャップが可愛いんだから。評価が低いわけじゃないよ」
「……ふふ、そうですか」
余裕な返事をした割に、耳は少し赤くなっている。そういう所も可愛いんだが……まぁ、それを言ったら多分、楓は恥ずかしさから逆ギレするな。言わない方が良い。
……でも言っちゃう。
「照れてる所を隠してる今も良いと思うよ」
「ーっ……!」
あれ、怒らない? と思って片眉を上げると、楓は頬を膨らませたまま言った。
「……ここで怒れば、樹くんの思う壺な気がして」
「よく分かってらっしゃる」
「むー……!」
少し前までは喧嘩するだけでも冷や汗ものだったのになぁ。付き合ってからのこの余裕よ。俺って割と性格悪いんだったな……いや、ゲームのプレイスタイル的に悪いのはわかってたことか。
なんであれ、とりあえずからかうのはこの辺で良いだろう。
「まぁ……とにかくそういうわけだから。ちょっと誘ってみるからな」
「……あ、では、こうしませんか?」
「おい、大人しくしてることを理解しろや」
「みんなで、海に行きましょうよ。美優さんも、瑞樹さんも誘って、みんなで。遊んでいるうちに、もしかしたらって事もありません?」
「……」
……まぁ、楓がそう言うならやってみても良いかもなぁ。川島さんも誘う、って言うなら、その時点でバックアップにもなるし。
「良いよ。行こうか」
「ふふ……はい♪ ……あ、そうだ。せっかくの機会ですし、水着を新調しましょう」
……やっぱこいつ何も考えてねえんじゃねえかな。
×××
さて、海に行くにあたって、俺も準備をしないといけない。そもそも俺は楓と二人きり以外で出掛けた事がない。
従って、何が必要かを考え始めた。まずは水着、学生以来買った事がない。他にも、もしかしたら何か必要なものがあるかもしれない……てなわけで、貴重な休日をゲームに使わず買い物に出て来た。
「……さて、どうしようかな」
何を買えば良いのやら……とりあえず、夏っぽいゲーム代表としてSwi○chとスプラだろ? 後は……。
「あれ、加賀山さん?」
「あ……渋谷さん」
ゲーム好きの女の子だった。たまにアレ以来、一緒にゲームやるけど、なかなか楽しいものだよ。下手に動いて敵を連れて来て勝手に死ぬから、いるだけで難易度が上がる。
で、何度もチャンピオン取らせてあげたから本人もご機嫌だし。
「どうしたんですか? こんな所で」
「いや、今度みんなで海行くからさ」
「え、海? 楓さんと?」
「そう。水着とー……あと何が必要かなって」
「ふーん……実は、私も今から奈緒達……あ、友達と海に行くのに持っていくもの買いに行くんです」
なるほど……仲良い友達がいて羨ましいね。まぁ俺には仲良い彼女がいるわけだが。
「じゃあさ、何が必要かとか教えてくんない?」
「どういうことですか?」
「や、今度行く海って、楓だけじゃなくて他にもいろんな人達が一緒なんだよ。……で、俺って楓と二人きり以外で海とか行ったことないから、何か必要なものあんのかなって」
「あ、なるほど……」
考え過ぎなら良いんだけど、今回は三船さんと楓の関係修復も兼ねてるし、盛り下げるわけにはいかない。
「……じゃあ、これから私達とお昼食べます?」
「え、お、俺が? 一緒に?」
「そう。それで何があったら盛り上がるか、とか一緒に考えましょう」
「……」
えー、JK三人と昼飯を食う社会人かぁ……いや、これも楓と三船さんのためだし、引き受けておいた方が良いか……。
「ちなみに、その子達は急に知らない俺が来て平気なの?」
「平気ですよ。二人とも人見知りってわけでもないですし、楓さんの彼氏って知ったら二人とも飛び付きますよ」
「……」
まぁ、良いって言うなら良いか……。俺としても悪い話ではないし、女の子の意見は願ってもない話だし。
そんなわけで、お邪魔する事にした。
×××
さて、そんなわけでJKに囲まれたファミレスで、まずは自己紹介タイムが始まった。
「どうも、楓の彼氏の加賀山樹です」
「か、楓さんの彼氏⁉︎ ……あ、いえ、はじめまして……北条加蓮です……」
「神谷奈緒です……?」
……そんなに意外かね、あいつに彼氏がいるの。……まぁ意外だろうな。あいつの中身を知っていれば知っているほど意外に感じるだろう。
あれ? ってことは、あいつほとんど事務所の人にダメ人間なのバレてんじゃん。哀れな……。
「なんか、悪いね。三人とも。今日はおごるよ」
「お、ラッキー。じゃあ山盛りフライドポテト追加で」
……ちゃっかりしてんなぁ、別に良いけどね。
「で、なんだっけ? 海にあったら盛り上がるもの?」
「そうそう」
「楓さんならビールとかお酒じゃないか?」
「その辺は俺が買うまでもないから……」
ふっと目を逸らすと、三人とも何かを察したように苦笑いを浮かべた。
「うーん……ちなみに、加賀山さんは何を持っていくつもりなの?」
「俺?」
「現状、考えてるもの」
「ああ、それならまとめてあるよ」
一応、考えてはあったんだよな。自分一人じゃ絶対買わないもんだし、多分、ゲーセンに寄り道して白熱してる間に全部、忘れるから持って行く物と買う物をリストアップしてある。
スマホのメモ帳を開いて、三人の前に置いた。
『持っていくもの
・Swi○ch
・スプラ
・カップ麺
・ヘッドホン
・スマホ充電器
買うもの
・水着
・ゴーグル
・グラサン
・あたりめ』
「「「いやいやいやいや」」」
あれ、なんだ声をそろえて。まず声を出したのは神谷さんだった。
「持っていくもの、の時点でおかしいから。何でゲームやらヘッドホンやらを持っていくんだよ」
「いやいや、Swi○chは外でもみんなで遊べる万能機器だぞ。マリカーとか持っていけば盛り上がるだろうが」
「なんで海に来てまでゲームで盛り上がるんだよ!」
……あ、そういうことか。確かにゲームやってちゃいつもと同じだもんな。
続いて、北条さんがリストを指差す。
「あとカップ麺もいらないよね」
「え? じゃあ飯は……」
「海だと、海の家で食べるから楽しいの。カップ麺だとゴミの処理もしないといけないし、お湯も持って行かないといけないしで大変だよ」
「なるほど……」
確かに荷物が増えるのは勘弁だ。その点、海の家ならお店が処理してくれるってことね……。
で、最後に渋谷さんから。
「ていうか、まだ水着も買ってないの? その癖、ちゃっかりサングラスとかキザなものつけようとしてるの? ゴーグルと被ってるし」
「す、すみません……」
……うーん、なんかみんなから揃ってダメ出し食らってるなぁ……。JKになじられる俺って一体……。
「とにかく、この辺は全部、必要なし。お酒を飲むならおつまみとかは私達、アドバイス出来ないから、本当に持っていったら楽しそうなものだけ教えるね」
「ああ、さんきゅ」
「待った!」
そこで、北条さんが止めに入った。何? と、視線で尋ねると、北条さんは爛々と目を輝かせて言った。
「こうしようよ。私達は海での情報を教えるから……その代わり、楓さんとどんな事してるのか、とか教えてよ」
「おい、加蓮……奢ってもらうのに交換条件は……」
「良いよ別に」
「良いのかよ⁉︎」
そんなわけで、学生時代の楓の話を生贄に捧げて、海に持っていくものをアドバンス召喚した。
後日、楓から抗議の飲み会が来た。