高垣さんにフられました。   作:バナハロ

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楓さんの休日(2)

「ふーん……楓ちゃんにそんなお相手が」

「そうなのよ」

 

 スタバにて。川島瑞樹は片桐早苗と一緒にコーヒーを飲んでいた。

 

「あの楓ちゃんがやたらと悪酔するものだから驚いちゃって……」

「にしても……楓ちゃんの元カレかぁ……。瑞樹ちゃん、話が合うんじゃない?」

「そうね。主に苦労話で……いや、でも確か美優ちゃんから聞いた話だと、その彼氏くんの方も大変そうなのよ」

「まぁ、楓ちゃんと長く付き合える子って時点で、その子も変わってそうなものよね」

 

 むしろ、変わり者じゃないと楓とは付き合えない自信があった。まともな子が楓に近付けば、あまりの幼児性と酒癖の悪さから距離を置く未来が見える。

 

「でも、それだとしばらくは大変そうね」

「実際、大変なのよ。美優ちゃんが楓ちゃんとその元カレくんの喧嘩に巻き込まれまくってて、ここ最近は毎日、涙目になってたんだから」

 

 それを聞いて、早苗はうへっと同情を隠しきれないような表情になる。

 

「でも……楓ちゃんの元カレくんかぁ……。どんな子だったの?」

「そうねぇ……。外見はそれなりにイケメンだったわ。目付きが冷たく見えたけど、クールの一言で収まるし‥‥お洒落もそれなりに気を使ってるみたいだったし」

「ふーん……」

「でも、あの子の前だと楓ちゃんが毒舌になるから、あまり会いたくはないのよね。絶対、空気が重いだろうし」

 

 毒舌な楓、の時点で早苗からすれば意外でしかない。普段、あまり悪口も強い言葉も使わない‥……どちらかと言えば丁寧な言葉遣いをする楓が毒舌、と言うのはどうにも想像つかない。

 興味を持つ早苗に対し、さらに瑞樹は続けた。

 

「でも、多分だけど……見た目の割に人間味がある気がするのよね……」

「どういうこと?」

「要は、割と可愛い子って事」

 

 かわいい? と、早苗は小首を傾げる。

 

「ああ、中身のこと?」

「そ。外見はクールで楓ちゃんよりも背が高くて、スーツが似合う細身の男の子なんだけど……どうにも負けず嫌いっぽくて、感情的なタイプに見えるのよね。まぁ、この前にチラッと見えただけだからなんとも言えないんだけど」

 

 しかし、前までアナウンサーをやっていた瑞樹の人に対するレビューは当たる。実際、美優からの話を聞いた感じだとまさにそんな感じの子だった。楓とはまた別のベクトルで子供っぽい人だった気がする。

 そんな説明を聞きながら、早苗が瑞樹に繰り返して聞いた。

 

「えーっと……その人、背が高くてスーツが似合いそうなのよね?」

「そうよ。170後半はあるんじゃないかしら」

「目つきが鋭くて?」

「何考えてるか分からない感じに見えたわね」

「髪型は黒髪のミディアムヘア?」

「そうね。確かそうだったわ……って、私そこまで言ってたっけ?」

 

 思わず聞き返しながら早苗の視線の先を見ると、加賀山樹その人が同じスタバにいた。しかも、楓ではない女の子を連れて。

 

「なんであの子がいんの? なんであの子がいるの⁉︎」

「やっぱりあの子なの?」

「あの子よ、間違い無いわ。正直、見た目は私のストライクゾーンからボールひとつ分はずれたニアピンなんだもの」

「微妙な評価ね……。にしても……」

 

 となると、一緒にいる女の子は誰なんだろうか? 身長はかなり低く、親子に見えてもおかしくないくらいの差がある。帽子被っている上に後ろ姿なので一緒にいる子の顔は見えないが、明らかに未成年だ。

 

「……ロリコン?」

「かもしれないわね」

「身長は早苗ちゃんと同じくらいだけどね」

「うるさいわよ。でも、どうするの? こんな現場にのうのうと顔を出しに来るのが楓ちゃんじゃない。良くも悪くも子供っぽいあの子は子供にも容赦ないかもしれないわよ?」

「いやー流石に大丈夫でしょう。あれで一応、大人なんだし……それに、楓ちゃん、昨日飲み過ぎて家でダウンしてるらしいわよ。美優ちゃんが涙目で介抱しているわ」

 

 なんて話をしながらも、早苗はその加賀山とか言う男の子の方を見る。実際の所、どうなんだろうか? 一緒にいるってだけでベタベタくっついているわけでもない。

 お話はしている様子だが、少なくとも樹は真顔だ。ていうか、かなり眠そうにしている。少し心配になる程度には。

 

「……まぁ、でもあの様子なら大丈夫そう……」

 

 と、思った直後だ。店の奥から新たな女の子が現れ、同じ席に座った。元々いた女の子の隣に座ったため、顔こそ見えないものの、多分修羅場だ。

 

「ちょっ……なんか増えたわよ⁉︎」

「あらー……何かしらね?」

「何かしらねって……ていうか、さっきから何スマホいじってるのよ」

「こんにちは、お二人とも」

「こんにちは、楓ちゃんって……楓ちゃん⁉︎」

 

 後ろには顔色が悪いのにしっかりと二本足で立っている楓と、その看病をしていた美優が両膝に手をつけて息を荒くしていた。

 

「こ、こんにちは……瑞樹さん、早苗さん……」

「美優ちゃんまで……大丈夫?」

「か、楓さん‥……こういう時だけ、足早い……」

「はい、私ので良ければコーヒー。……というか、なんでここに?」

 

 その問いには、楓が答えた。スマホの画面を無言で見せてくる。

 

 川島瑞樹『今、私と早苗ちゃんで加賀山さんと同じカフェにいるわよ』

 高垣楓『直ちに向かいます』

 

「なんで教えたのなんで教えたのなんで教えたの⁉︎」

「嫉妬する楓ちゃんが見てみたくて! あと普段、楓ちゃんの尻拭いさせられてる腹いせに!」

「アホかー!」

 

 なんてやってる二人の間に、美優が口を挟んだ。

 

「あの……お二人とも?」

「「何?」」

「楓さんなら既に……」

 

 いつのまにか、4人のまるでダメな女(略してマダオ)のエースがいなくなっていた。

 まだ居場所も教えていないのに、樹の方にゆっくりと歩いている。センサーでもついているのだろうか? 

 

「か、楓ちゃん……!」

「ちょっ、行ってどうするのよ。当人同士の問題でしょ?」

「あなたが引き起こしたんだけどね⁉︎」

「私、行きましょうか? 大丈夫です、今朝から楓さんに呼び出されて『樹くんが泊まって行くって言ったのにいなくなってました!』と泣きつかれ、朝ご飯を作らされ、朝からお酒を飲もうとする楓さんを何とか止めた私にとって、この程度はなんでもないです」

「美優ちゃんは少し休んで……」

 

 流石に同情せざるを得なかった。今度、楓にはまたお説教しないといけないが……今はとりあえず、あそこの修羅場を見学することにした。

 

 ×××

 

 楓は氷のような笑顔を浮かべて、樹と女の子2人の席に向かった。

 

「ねぇ、お願いだから帰らせてくれない? クーラーの修理の人が来ちゃうんだけど」

「了解しました。あと抹茶を5杯飲んだら次の場所に向かう」

「あ、はーも飲みたい! キャラメルマキアート10杯!」

「勘弁してくれませんかね……」

「ふふ、ロリコンハーレムですか?」

 

 堂々と正面から声を掛けた。それにより、樹だけでなく女の子2人も後ろを振り返る。

 

「あ? ……うわ。か、楓……?」

「……『うわ』?」

 

 樹としては、元とは言え彼女の存在を目の前の2人の少女に知られたくなかった。逆もまた然りだ。何を言われるかわかったものではないから。

 しかし、その反応は端的に言って地雷だった。そんな事情を知らない人間からすれば「他の女の子と会ってる時に元カノが来た時の反応」にしか見えない。当人からすれば尚更だ。

 

「‥‥お邪魔でしたか? ロリ山くん」

「捻りがねえな。てかなんでいんの?」

「ダメですか? 私がどこで何を()()()()()()()()()()()()()でしょう? それともあなたの許可が必要なんですか?」

「そこまで言ってないんだけど……てか、なんでキレてんの?」

「キレてません。……いや、キレてます」

「認めちゃうんだ」

 

 徐々にまたヒートアップしていくバカ達。その中に、全く空気を読まない女の子二人が割り込んだ。

 

「ねぇ、いっくん。キャラメルマキアート買ってきて良い?」

「凪も抹茶フロート飲みたいです」

「ダメだっつーの、マジで帰るからホントに」

「そうですよね? 元カノと今カノに挟まれたらいづらいですもんね?」

「あーもう面倒臭ぇなお前ら! 大体、こいつら今カノじゃなくて従姉妹だからな⁉︎」

「……はえ?」

 

 間抜けな声が口から漏れる楓。今なんて? と言わんばかりの表情になる楓に、樹は畳みかけた。

 

「俺は巨乳好きだっつってんだろ! 貧乳が俺の彼女になることは……あ、あるけど……」

「今のはフォローのつもりですか? 私を貧乳だと貶めたことに気付けないのはこの空っぽの頭ですか?」

「いだだだだ! 悪かったごめんなさいすみませんでした申し訳ない!」

 

 頭を両手アイアンクローされ、慌てて樹は謝り倒すとようやく話してくれた。「いだだ……」と頭を人差し指で押さえて落ち着いていると、その樹の手に隣にいた眠たげな瞳の女の子が手を添えた。

 心配してくれてるのか? と思ったのもつかの間だった。

 

「元カノ? 詳しく聞きたいです。なるべく詳細に」

「それ! いっくん、彼女できた事あったの⁉︎ 聞いてないんだけど!」

「‥……興味を持つなよ……」

 

 収集が付かなくなってきた。状況を把握していない二人の従姉妹は、改めて楓を見上げると驚いたような声を漏らした。

 

「え? ていうか……元カノって、高垣楓さんじゃん」

「わーお……これはエモいな……。まさか、いーくんがアイドルに手を出すほどプレイボーイだったなんて……!」

「うるせーよ。つーか、ホントもうこの際、楓もついてきて良いから帰らせてくんない? エアコンの修理が……」

「『ついて来ても良い』? まるで私があなたと一緒にいたくて仕方ないみたいな言い方ですね」

「ひねくれ過ぎだろ。なんでお前俺の時だけそんなに斜に構えるんだよ」

 

 中々、話が拗れていく。誰1人、樹の話を聞くつもりがないのが痛恨だった。

 

「まぁ、とりあえず紹介だけしとくわ。こっちが従姉妹の久川凪と久川颯。で、こっちが元カノの高垣楓」

「知ってますよ? 今度、うちの事務所でアイドルになる子ですよね?」

「凪も知っています」

「はーも知ってるよー。ていうか、楓さんを知らない人なんていなくない?」

 

 尚更、樹の頭痛は増した。お前ら知り合いなのかよ、と。いや、楓の言い方だと名前だけ知っているという感じがするが。

 まぁ、それでも自分との関係性は把握してもらえただろうし、知り合いなら新たな突破口を開ける。何も問題はない。

 

「なら楓、この2人東京に来たばっかで観光したいらしいんだ。付き合ってあげてくんない? 俺、今日はうちにエアコンの修理が来るから」

 

 言われて、楓は樹と久川姉妹を見比べる。まぁ、従姉妹同士のようだし、樹の巨乳属性は本物だし、あまり危険は無いだろう。

 それに、クーラーを直してもらえなかったら、今後、樹の部屋でまたゲームやる事が出来なくなってしまうし……。

 

「すみません、私は美優さん達と一緒にいるので、案内は出来ません」

「あ、そう」

「凪ちゃん、颯ちゃん。今度、私がお付き合いしていた時の話を聞かせてあげますから。特に樹くんの話を。今日の所はクーラーの修理に立ち会ってあげてもらえませんか?」

「おい待った、その話す内容について詳しく」

「そういう事なら……」

「仕方ないね」

 

 ふふん、と、ドヤ顔を浮かべて、楓は樹を見る。要するに「ちゃんとしようと思えば出来るんですよ?」「見直しました?」「今度、ゲームしに行きますから空けといてくださいね?」という事だ。実に分かりやすい。

 

「それに、なーとはーは寮の準備が整うまでいっくんのおうちに居候だからね」

「お風呂とか覗かないで下さいね」

「妹よりロードローラーが何言ってんの?」

「よろしいならば戦争だ」

 

 しかし、その一言で楓の綺麗な笑顔に影が差した。せっかくの楓の良心とドヤ顔が崩壊し、黒い炎が燃え上がった。

 早速、帰宅しようとした樹の手を楓は掴み、微笑みながら言った。

 

「私も行きます」

 

 




美優さんはちゃんと、川島さんと早苗さん達がフォローし、
楓さんはちゃんと、後日に川島さんと早苗さんに怒られました。

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