ハーメルンバンドリ作家合同企画(テーマ交換・オリキャラ無し)   作:大里野上

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 引き続きFade fromをお楽しみ下さい‼️


Fade from ②

 翌朝になり、私はさっそくこの問題を解決するために今井さんを呼び出した。羽沢珈琲店で待ち合わせをして、私は昨日あった夢とも思われるだろう出来事を話した。私の部屋の隣に別の部屋があったこと、そしてそこの部屋の主は、私の双子の妹であること。それらを話した今井さんは、困ったような反応をした。

 

「いや……え、なにそれ……紗夜なりのジョーク?」

「ジョークだとしたら練習の合間にでもするわ……これが証拠よ」

「……え?」

 

 そこで私が見せたのは隣に部屋があるという写真、部屋の内装の写真、そしてそこにあった日記の現物。

 中身を確認し始めた今井さんも、やがて信じ始めたように口をぽっかりと開いてみせた。無理もない反応だと思う。私だって、まだ全然信じられていないのだから。

 

「つ、つまり……紗夜には妹がいて、アタシとも知り合いってこと?」

「ええ、たびたびショッピングや学校での出来事が記されてるわ……それにしても物凄く正確な日記でびっくりしてるのよね」

「確かに……たぶんこんな内容なんて他の友達としてても覚えてないよ」

 

 どうやらこの子は物凄く記憶力がいいらしい。少し前の日記には台本は見ただけで覚えちゃうから──といった内容の記述があった。才能に溢れる天才が、実はすごく身近にいたってことね。

 

「やっぱり……思い出せませんか」

「うん……ダメだ」

「私も日記を全て読破したわけではありませんから……」

 

 ちなみに日記には去年の三月頃から()()()までの記録が毎日欠かすことなく事細かに記されているため、とてつもない情報量だった。おかげで去年の夏休みにすら入ってない。まずはこれを読み解くことが先決なのかしら。

 

「リサちー……か」

「どうかしましたか?」

「ううん、誰にも呼ばれたことないのに妙にしっくりくるなぁって」

 

 書いてあるその名前について今井さんはそうつぶやいた。やはり、忘れているだけで、消えてしまっているだけで、確かに私や今井さんとその子は繋がりがあった。どうやって消えたのかなんて見当もつかないことだけれど、今井さんの反応は私だけがおかしくなってしまったのでは、という不安を拭うには十分すぎる結果だった。

 

「──にしても、確かにコレ全部内容を精査するのはしんどいな~」

「そうですね、速読でもできたら良いのですが……」

 

 私はじっくり読んでしまうタイプなのでどうしても速くは読めない。これを私が読み解くときっとあと二日三日は掛かってしまう。その前にまたすっかり忘れてしまったらと思うとそれはそれでぞっとする。

 なにより誰かにとって忘れられてしまったままなんて、ましてやそれが家族だなんて、私は許したくない。

 

「あ、速読なら、たぶん……いたいた、燐子~!」

「……はい」

 

 丁度、白金さんと松原さんが一緒にお茶をしていた。確かに、白金さんは本を読むスピードがとても速い。彼女なら私よりも断然読み解けるだろうと期待をし、また一度今井さんと同じ信じられないというようなリアクションを挟んでから、日記を手渡した。

 

「……この量だと、数時間は……かかるので、明日でも、いいですか……?」

「ええ、何か思い出す手がかりになりそうなものを見つけたらメモしていただけますか?」

「……わかり、ました……」

 

 今日はそれ以上、その妹の話をすることはなかった。羽沢さんも参加してくれてそんな不思議なことがあるんですね、と少し怯えたような表情で笑った。きっと羽沢さんとも関わりがあったのに、言葉はどこか他人事だった。

 無理もない。私だって心のどこかで何かの間違いだと思っているくらいなのだから。

 

「でも、そのヒトはなんで……いなくなってしまったんでしょうか」

「それすら思い出せませんから、なんとも」

「ですよね、すみません」

 

 羽沢さんは苦笑いをしてしまう。どうしていなくなってしまったのだろう。どうして皆の記憶から消えてしまったのだろう。あまりにも、ファンタジーというよりはいっそホラーである気がして背中に寒気が走った。

 

「……消えてしまいたかった何かが、あったんじゃないでしょうか……」

「白金さん?」

「あ……すみません」

「いえ、続けて」

 

 ここで、眼鏡をかけて日記を物凄い速さで読んでいた白金さんがふと口を開いた。去年は図書委員として花咲川にある本の約八割を読破したらしい彼女は、そんな不思議な現象について仮説を立てていたようだった。

 

「で、でもさ~、消えたい、って思ったからってフツーはヒトが記憶からも姿も消えたりする~?」

「いえ、この際そのフツーというのは忘れた方がいいかもしれませんね」

 

 実際に起きているのだから、今井さんの困惑ももっともだけど……今はあまり常識とか普通というものにしがみついている場合ではないわ。

 白金さんは静かになったタイミングでまた話始めた。

 

「小説……ですと、原因は色々あります……」

「色々……あるんだ」

「はい、妖魔や怪異の仕業であるとか……また過度の精神的負荷が、周囲に影響を及ぼした結果であるとか……でも、共通点はあるんです」

「共通点……ですか」

 

 白金さんはその共通点として、本人が強く願った結果だと述べた。消えたい、皆の前からいなくなってしまいたい。そんな願いがその子を本当に透明人間にしてしまった。記憶から存在を奪い去った。

 けれど、私には途轍もない恐怖を感じることだった。姿は見えず、皆の記憶からも失われたその子は……果たして生きていると言えるのだろうか。ヒトが死ぬ時は忘れられた時だと詩にしているけれど、生きたまま記憶から失われたら、それは生きているのだろうか。

 

「この日記の子は……どんな子だったのかな?」

「おそらく……日記の性格が、そのままだとすると……明るくて、好奇心の強いヒトだと……思います」

 

 松原さんはそっか、こころちゃんと仲良くできそうな子だねと微笑んだ。弦巻さんは確かに明るくて、元気で好奇心が非常に強い。そして日記にもこころちゃんと星を見に行った、という言葉が書かれていたようにどうやら交流はあったことはわかっている。

 

「現時点では……このヒトは、羽丘に在籍していて、どうやら天文部員だったみたいです……天文部は、彼女一人……みたいです」

「え、つぐ、天文部ってもう廃部になってなかったっけ?」

「はい。去年の時点で部員がいなくなってしまったので……」

「──やっぱり……」

 

 そこで、白金さんは気付いたことがあるらしい。彼女のことではなくて彼女が忘れ去られた後の話に、おかしなところがあると白金さんは眼鏡を外してケースに収めながら、話を始めた。

 

「また、小説の話に……なってしまうんですが、存在を奪われたり、消えたりした場合……どこかで齟齬が出ます……」

「齟齬?」

「はい……彼女で例えるなら、氷川さんは毎日顔を合わせていたはずです……するとどこかで、その誰かがいないと辻褄が合わない記憶が出てくるはずです……また、天文部がヒトがいないのに、廃部になっていないだとか、そういう痕跡が残ります……」

「……でも、天文部は」

「廃部になってます」

 

 それこそがおかしなところ。事実と小説を混合したような考え方だけれど、記憶の消失と補完ではまるで意味が違ってくると白金さんは説明した。

 消すだけなら、自分たちはいつでもしている。でも完璧……とまではいかなくてもこうして誰かがいないことへの違和感がなくなるように記憶が差し替えられているということは、単純な消失ではない、という理論らしい。

 

「今のところ誰かがいたという確信は、モノです……きっと、モノがヒントになるはずです」

「モノ……ですか」

 

 モノは確かに消えない。昨日まで認識することすらできなかったけれど、その部屋は()()()()()()()()ということになる。すると次のヒントが隠された場所は決まったわね。白金さんも同じ結論に至ったようで、頷いた。

 

「天文部の部室ですね。そこに何かがあるはずです」

「な、なんだか大きな話になっちゃいましたね……」

「明日は日曜ですが、羽沢さん、先生に話を通してもらえますか?」

「はい、わかりました」

「じゃ、明日はアタシが案内するね」

「お願いします」

 

 日記の読み解きは白金さんに任せ、松原さんはアルバイトの間に丸山さんにも話をしておいてほしいことを話した。写真は確かに彼女がいないけれどおそらく、白金さんの言葉が正しければ他に誰かがギターをやっているはず。その確認をお願いした。

 

「紗夜の妹を見つけよう作戦、ってとこだね」

「……今井さん」

「リサちゃん……」

「ん~?」

 

 作戦名のセンスに私と松原さんが苦笑いをした。まぁいいわ、良い作戦名が考え付いたらそっちを定着させようと心に決めて、私は羽沢珈琲店を後にした。

 ──ここからは私にしかできないことだ。妹の部屋にあるものを探すこと。記憶にないけれど、こんなことをして彼女は許してくれるかしら。そう思いつつも、部屋にその子の痕跡がないか探していく。

 

「……あ」

 

 引き出しの中に、丁寧にラミネート加工された短冊が仕舞われていた。名前が読めなくなっているけれど、そこには確かに私の妹が存在していたという証拠が残っていた。

 ──おねーちゃんと仲良く過ごせますように。という願い。日記にはもう叶っちゃったから飾らなかったことは書いてあった。けれど、その字はその日記以上に彼女の気持ちを反映させたものだった。

 

「愛されていたのね……私は」

 

 まるで満天の星空を見た気分だ。優しい光で私を照らしてくれる、星のような一行の文字。それを手に取って実感していると、その下に数字が書かれていた。14Th……14番目? 

 何かはわからないけれど、これが重要なヒントなら、と白金さんにメッセージを送ると、返事はすぐに返ってきた。

 

『確かに表紙のすぐ裏に氷川さんの隣に誰もいない写真がありました。その写真の裏には8Fiと書かれています』

 

 写真の裏にあるという文字列、そしてここには14Thという文字列が書かれていた。やはり何か意味があるものらしい。文字は彼女のものと同じなのだから。

 同時にこれは、自分のことに気づいてほしいという意思の表れであると考えられる。彼女は誰かに、私に見つけてほしいのだ。自分を思い出してほしいのだ。

 

「ええ、わかったわ……思い出してみせるわ。あなたを、必ず」

 

 まずはこの文字列が他にもないかを調べなければ。そうなればヒントの一つはここと同じく彼女の痕跡が多数残されているであろう天文部の部室、後は、私との共通点であるギター。ひとまずギターを調べようと手に持ってみる。よく手入れをされたギターは、何日も持ち主が触っていないわけではないということがわかる。アンプに繋がずに、私は気まぐれにDetermination Symphony(決意の調べ)を奏でていく。私の決意を表明するという意味で。

 

「……あったわ」

 

 演奏が終わり、ふとピックを見る。私とお揃いの青色、水色に近く花はバラではなくかわいらしい花だったけれど、その裏には彼女の文字で9Seと書かれていた。これで三つ目、一体いくつあるのかわからないけれど、確実にその子に近づいている気がした。

 

「これが意味するものは……なんなのかしら」

 

 紙に書いてみるけれど、それがなんなのかはわからない。数字とアルファベットの組み合わせの三つ、こういう謎解きのようなものは苦手だわ。良くも悪くもまっすぐにしか進めない私に頭を捻ったような暗号解読は無理だとわかった。

 ひとまず、明日考えることにしよう。天文部の部室にもきっと彼女が残したものがあるに違いない。

 

「けれど……これは」

 

 これは見つけてほしいという合図、それは感じる。ならばどうして彼女は消えたの? 白金さんの仮説では辻褄が合わせられない。私なら、自分が消えたかったのならこんな存在した証拠を残すことはない。部屋を消すことはできないにしても、こんな暗号をわざわざ記す必要がないはずなのに。

「私は何かを見落としている? このきっかけの何かを」

 

 考えがまとまらない。ひとまずは白金さんと今井さんにその見つけた三つの文字を送信し、私は日常に戻ることにした。お風呂に入って、ご飯を食べて……私は眠りについた。

 ──空が落ちてくる夢を見た。その空を遠ざけると私はとても満たされた気分になった。満たされて、けれどやはり空が落ちてきた時の輝きがほしくなって、手を伸ばす。なんて身勝手なんだろう。なんて我儘なんだろう。

 

「ごめんなさい──」

 

 最後に誰かの名前を呼んだ気がした。けれど、それは思い出すことはできなかった。

 ──私は何かを見落としていた。彼女が消えた意味を、それは仕方のないことでもあった。その何かを私は忘れている。その何かは私の人生そのものだったのだから。

 

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