ハーメルンバンドリ作家合同企画(テーマ交換・オリキャラ無し)   作:大里野上

13 / 24
3話目になります!


Fade from ③

ㅤ日曜なのに制服なんて着てどうしたの? という母の言葉に学校の用事があると言って私は家を出た、春の陽気を過分に残す道を進む。母の声にはやはり、()()がいないことに違和感のようなものはないようで、部屋のことを話そうと思ったけれどやめておいた。あまり混乱させるのも申し訳ない。

 

「すみません、遅くなりました!」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 そんな消えてしまった私の妹を探すため、そのヒントになるであろう暗号解読のために私は羽丘へと足を運んだ。生徒会の仕事をしている羽沢さんと一度別れて今井さんに案内を頼んだ。部室棟にあるその部屋の前に立ち、私はその鍵をそっと開けた。

 

「……これは、やはり」

「全然、去年から廃部になってるにしては……」

「ええ、モノが多すぎるわ」

 

 まるでおもちゃ箱をひっくり返したような部屋だった。天文部らしいのはキレイにされた天体望遠鏡、そして星座早見表くらいか。変人の巣窟と呼ばれたらしいその噂に違わぬ内装だった。

 しかしそこには最近までヒトがいたことがわかるような感覚が残っていた。丸一年以上放置されたにしては埃も少ないし私物と思われるものが多い。

 

「今井さんは数字とアルファベットの組み合わせのものがないか探してみて」

「りょーかい」

 

 モノが多すぎることもあり、そこには天文部らしくないほどに乱雑な雑貨の山を漁っていく。謎の仮面、UFOを呼び寄せる方法、と書かれた紙、ギターの楽譜、頭が痛くなってくるようなものばかりだった。

 

「真面目に活動していたのかしら、この子……」

「確かに疑問だね~、あはは……」

 

 きっとまともに活動してはいないでしょう、私としては驚愕するものばかりだわ。けれど、逆を返せば天文部らしいものを調べればいいのではと考えを改める。そうすれば探すモノを絞れるし、見つけてもらいやすくなる。私ならそうするだろう。

 

「今井さん、天文部の活動としてマトモなもので、特に書き込めるようなものを探してください」

「りょーかい探偵さん?」

「からかわないでください」

 

 この括りなら探す目的のモノ自体が限られたものになる。

 その予想通り、それは時間をかけることなく見つかった。今井さんが棚から見つけた活動日誌、その最新版を開いた。日付は今年の四月からとなっている。つまり本当に最近まで彼女は普通に生活していた事になる。何ヶ月も、ではなくてほっとしていたところで、すぐ裏表紙にあったメモにあった文字列を私は書き写した。

 

「……1La」

「どーゆー意味なんだろう?」

「そうですね……」

 

 まだあるかもしれないけれど、これで4つめなのだからそろそろ法則を見つけたいところではあるわね。

 今井さんと二人で頭を突き合わせていたが、まだヒントがないかと探しながら考えているうちに昼を過ぎてしまい、私は一旦食堂で羽沢さんと合流することになった。

 

「暗号……ですか」

「はい、ちょっと私たちでは解けなくて」

「私も、こういうのは苦手です……」

 

 食堂で弁当を食べながら苦笑いをする羽沢さん。確かに羽沢さんもまっすぐなところがある。今井さんもそうだ。私も推論していくことはそれほど苦手なことではないけれど、捻られるとこの有様だ。三人で頭を突き合わせているところで、お悩みですか~? と間延びした声がした。

 

「蘭ちゃん、モカちゃん、来てくれたんだ」

「つぐみが困ってるって言うから」

「来たよ~」

 

 羽沢さんの幼馴染でもある美竹さんと青葉さんが制服姿で現れた。どうやら羽沢さんが呼んだ助っ人らしい。手伝えないから二人を代わりに呼びました、と説明される。

 私としてはあまり関わりがなかった彼女たちではあるのだけれど、今井さんは二人とも仲が良いため、話が進んでいく。

 

「ふむふむ、暗号解読ですか~」

「なんですか……謎解きでもやってたんですか?」

「うーん、説明するとややこしくなるんだけどさ、とにかくこれが解きたいんだけど」

 

 その会話で納得したようで美竹さんも青葉さんも了承してくれた。

 再び食堂から天文部の部室へと移動して、改めて四つの文字列を見せた。美竹さんはどうやら私や今井さんと同じタイプのようで、考え込んだまま言葉を失ってしまった。こういうのは苦手なようね。

 

「……パス、モカ、こういうの得意でしょ」

「なにをこんきょに~」

「脳トレとか得意じゃん」

「まぁモカはそうだよねぇ」

「だからって~、まだあるかも知れない暗号を解けってさ~、むりげーってヤツですよ~」

 

 そう言いながら私のメモを太陽に透かすようにして眺めた。これって、書いてあったまんまですよね~、と問いかけられ頷く。

 青葉さんは少しだけ眠そうな目を開いて、んんと唸った。そしておーと何かを閃いたリアクションを取った。

 

「……コレ~、たぶんアルファベットですね~」

「え?」

「アルファベットって……ここにある?」

「違うよ~」

 

 そう言って青葉さんは壁に貼ってあるアルファベットの表を指さした。あれですよ~という言葉に従ってみると、そこにはAからZの上に数字が割り振られていた。

 Aの上には1、Bなら2……といった具合に順番に。それがヒントだと青葉さんは解説をした。

 

「じゃあ紗夜が最初に見つけたコレは、14だから……Nってこと?」

「そーゆーこと~」

「じゃあこの天文部にあったのはAってことだね」

「蘭もせーかーい」

 

 それに当てはめると日記の写真の裏にあったのは8だからHで、ピックには9と書かれていたからIということになる。

 だけど、これじゃあまだ半分しか解けてない。14Thだけなら14番目のアルファベット、という意味ともとれるけれど、それ以外に別々のアルファベットが書かれていた。

 

「じゃあ違うんじゃない、モカ?」

「ん……あ、待って蘭、コレさ……順番じゃない?」

「順番?」

「紗夜の14番目でピンときたよ! ほら、時々書かれることあるじゃん?」

 

 そう言って今井さんはホワイトボードに英単語を書き始めた。First……Second……Third、という風に。確かにこれはよく頭文字3文字で訳される。それを更に2文字に縮めると、確かに写真がFiで一番目、ピックがSeで二番目、短冊がThで三番目となる。

 ──でも、と美竹さんが日誌の文字列を私と今井さんに見せた。

 

「これは、違うと思いますよ」

「そーなんだよねぇ」

「そうですね、Laで始まる数冠詞は見たことがありません」

 

 昨日見つけた三つだけなら当てはまったかもしれないけれど、これが四つ目とかならばFoと書かれるはず。そもそも五つあるなら写真のアルファベットと被ってしまう。だからこれは……と考えたところで青葉さんが、おおーそれだ~と口許を緩ませた。

 

「それですよ~」

「え……?」

「いやいや、紗夜さんはとってもいーヒントを出しますな~」

「わかったの?」

「もち」

 

 青葉さんは美竹に向かってにやりと笑ってみせた。自信ありということらしく私はその解説を待った。

 彼女はゆったりとホワイトボードの前に立ち、これで完成なんですよ~と四つの暗号を並べた。

 

「リサさんのゆーとーり、8Fiが()()なんですよ~」

「どういうこと?」

「写真、もしかしてめっちゃ幼いとかありませんか~?」

「え、ええ……子どもの頃の写真でした」

 

 つまり、と並び変えた暗号の下に書かれたモノを書いた。昔の写真、パスパレ結成時に注文したギターのピック、七夕の短冊、そして去年度の引継ぎで始まる日誌。それは時系列になっていた。

 

「それを気付かせるためにこうやって暗号みたいにしたってこと?」

「そーゆーことですね~」

「じゃあこの最後のヤツは?」

「そ、最後なんだよ、意味通りさ~」

 

 その言葉に私も流石に理解できた。

 ──言葉の通り、それは最後(Last)を意味しているとしたら、説明がつく。一番目、二番目、三番目、最後、それらの数字をアルファベットに置き換えてみたものを青葉さんが記入する。最初がHで、そしてIと続き、NAと記されたそれは……名前だ。

 

「……ひ、な?」

「名前、みたいですね」

「……ええ、そうね」

 

 ひな、ヒナ……それが私の妹の名前、それを認識した途端に黒く塗りつぶされていたはずの名前が読めるようになっていたことに気づいた。

 まるで最初からそこには黒く滲んだものなんてなかったかのように、氷川日菜という名前が私の目に飛び込んでくる。

 

「日菜……氷川日菜」

「……どう?」

 

 口に馴染む名前だった。きっと忘れてしまうまでいつも呼んでいた名前なのだろう。その言葉に今井さんも確かに呼び慣れてる感じあるよと微笑んでくれた。日菜とまっすぐ話せますように……それが、私の短冊に書かれ、天の川に届けられたはずの願いだとやっと思い出せることができた。

 

「……あ」

「紗夜?」

 

 突然のフラッシュバック。世界にとって消えてしまった日菜の存在に辻褄が合わなくなった願い事から、私の記憶があふれ出してくる。

 買い物を頼まれた私が偶然出会った、私そっくりに見える彼女、彼女は明るい笑顔で来てくれたんだと笑った。私はそれを振り払おうとした。

 ──彼女は、ああそうだ全部思い出した。日菜の顔、日菜のこと、日菜がいた世界を、私は全て思い出した。

 

「……もしかして、思い出せたの?」

「……いえ」

 

 だから私は……嘘をついた。全て思い出した。氷川日菜という子のことを。彼女がどういう子だったのかを。

 日菜は、日菜は……ああそうだ。本当に()()思い出すことができた。それを一番の成果として私は家に帰ることにした。本当のことは黙ったまま、協力した二人にありがとうと頭を下げ私は帰路についた。

 

「──おねーちゃん」

「……日菜」

 

 そして、予想通り家に帰ったその玄関で私は日菜を見つけた。きっと最初からずっとここにいたのだろう。最初に日菜の部屋を見つけた時もそこにいて彼女は日記を私に渡した。次の日には日記を始めとした各所に暗号を仕掛けた。そのくらいはやってのける子だ。

 

「思い……出したんだね」

「思い出したから……私は日菜が見えるのでしょう?」

「……うん」

 

 ──日菜は悲しそうな顔をした。私もその理由には心当たりがある。この怪奇現象を引き起こしたのは……私なのだから。

 ずっと日菜にあると思っていた。日菜が消えたいと願い、記憶から消え去った。そう思っていた。だけど、それは半分しか正解できていない。

 もう半分は、それは私のせいだ。私の願いを受けて、日菜は消えたいと思った。だから今のような状況になってしまった。

 

「……ごめんなさい日菜」

「ううん、この部屋を見つけた時、あたしはおねーちゃんに見つけてもらいたくなっちゃったもん……あたしこそ、ごめんね」

「そうね……本当に我儘で身勝手だわ……私は」

 

 けれどその身勝手な願いが、もたらしたものは私には手放しがたいものだった。それすら忘れてしまったのだから、無邪気に追いかけてもおかしくはなかったのだろうけれど。けれど私は……彼女を認識したことに後悔をしてしまった。

 

「……寝てて、おねーちゃん。寝たらまた元通りだからさ」

「日菜……」

「あたしは、いつだっておねーちゃんの味方だもん」

「どうして……?」

 

 こんな姉をどうして日菜は、まだ姉と呼んでくれるの? 

 ──日菜をこの世から消したのは、私なのに。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その悲しみのまま私は眠りについた。日菜の膝枕で、日菜の温もりで、日菜のベッドで自己愛が強すぎる私は眠りについた。眠りについて、そしてその間に世界は塗り替えられていく。氷川日菜という存在を薄めて、私の前から奪っていく。

 

「……ここは?」

 

 ──そうして私は、()()()()()()()()()()()()()。ぞっとして部屋を飛び出すとその部屋は私の隣にあって、それが恐怖を呼び起こした。

 ──どういうこと? なんで私の部屋の隣にまた部屋が? ()()()()()()()()()()()()()()にいつの間にか入って眠っていた。

 

「私……どうして?」

 

 目は腫れぼったく、涙の跡があった。何で泣いていたかも思い出せない。けれど初めて見たはずの部屋で安心と悲しみと何かを感じて眠ったことはわかった。

 けれど何を考えて眠っていたのか、わからない。夢が覚えていられないように、記憶からすっぽりと抜け落ちているような気分になった。

 

「紗夜、起きなさい」

「起きてるわ」

「けれどひどい顔よ、先に顔洗ってきなさい」

 

 娘に対してなんてひどい言葉を掛けるのかと鈍い思考を回しながら呻いた。朝はどうしても弱い。特にまだ春になり立てのこの涼やかというには少々寒すぎる空気感もそれを助長しているように感じる。

 ──とにかく、眠い。寝ぼけ半分の頭をすっきりさせるために、顔に冷たい水を浴びせる。痛みに似たような感覚が、やがて温もりに似た眠気を振り払った。

 

「朝ご飯はパンでよかった?」

「大丈夫」

 

 数分待ち、バターを塗られてこんがりとした匂いを放つパンを齧る。サラダを咀嚼しながらふと私は母の顔を見上げた。よく似ていると言われる顔をじっと見てほんの少しだけ首を傾げた。

 

「どうしたの?」

「……なんでもないわ」

 

 部屋のことを話そうかと思ったけれど、やめておくことにした。そんなことを話されても正直信じられないだろう。それは夢と混同した結果で、二階へ上がれば隣に部屋なんて存在しない、今はそうとすら思えるのだから。

 

「そうそう、この間の模試の話を近所のお母さんとしてね、とっても褒められたのよ、紗夜ちゃんは優秀ですねって」

「そんな……私より上のヒトは全国にはいるわ」

「けど、花咲川じゃ一位じゃない、ホントに、自慢の娘だわ」

 

 そうお母さんに褒められるのはむず痒いけれど、素直に嬉しい。いつだって突出しすぎていた昔の私の唯一の支えが両親だったのだから。色々な習い事で優秀な成績を取っては褒められた。絵は少しだけ苦手だったけれど、私は天才少女として名を馳せていたくらい多才に恵まれた。

 友人はできなかったけれど、それだけで幸せだった。両親が認めてくれることが唯一の救いだった。

 

「ありがとう、お母さん……それじゃあ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

 

 私は、あなたの()()()()()()()()()()()()。そんな幸せを今更ながら実感しながら私は朝練へと向かった。

 ギターと弓道、今は自分との闘いをすることが、好きだから。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。