自由を求めて   作:おべ

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オーバーロードSS初めてですがよろしくお願いします。


初日

 

 

 

 

 

 

────1日目────

 

 

 

 

 

 

 

 山岳地帯。アゼルリシア山脈。

 

 上空で3つの影が飛び回る。

 

 そのうち1体は汚い絵の具のような色をした海坊主。

 移動するたびに大量の黄金の粉末や白いスモッグ、ドス黒い液体を撒き散らす。

 黄金色の粉末のようなものは一見綺麗に輝いており、見る者がいれば魅了するかもしれないがその正体は"硫酸ミスト"。Level60未満の人間種や亜人種は即死し、Level60未満のアンデットを除く異業種は即死はしないが残存HPとMPの8割を削る効果を持つ。アンデットには効果はない。

 白いスモッグは硫酸ミストほど凶悪ではないが一般的な回復魔法では治療不可能の状態異常効果を持っている。

ドス黒い液体は一見この3つの中で一番危険のように思えるがただのエフェクトであり強力なデバフ効果を持っているわけではない。

 

 本当かさなかではないが一昔前この化け物を"空飛ぶ殺人飛行体"と言われていたらしい。

 

 他の2体はそれぞれ狂乱な竜(マドネスドラゴン)屈強な竜(ストロングドラゴン)でありどちらもユグドラシルで下位に位置する竜種だ。名前は派手で強そうなイメージを持つかもしれないが攻撃力はLevel60相当しかなく雑魚モンスターにすぎない。ただこの2種の竜のコンビの場合は侮れない。知識がないくせに互いの長所短所を理解しておりコンビネーションが抜群だ。コンビの場合攻撃力は脅威のLevel90まで跳ね上がりブレスの命中率も10%上がる。コンビネーションが上がるだけなら良いのだが"糞運営"の働きにより基礎ステータスも上がり弱点を突いて戦わないと討伐できないというおまけ付き。苦情の絶えない竜のコンビである。

 

 汚い色をした海坊主と苦情の絶えない竜のコンビは現在進行形で戦闘中だ。竜の本能なのかは知らないが海坊主が撒き散らしている黄金の粉末や白いスモッグ、ドス黒い液体は器用に避けている。なるべく距離を開けて海坊主を観察し互いの連携でブレスや風圧攻撃をしている。

 

(なんでここにこいつらがおるの?)

 

 海坊主は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらこの2体の竜について考えている。この2体の竜のコンビはウザいがこの海坊主にとっては雑魚でしかなくいつでも瞬殺が可能であり、五分五分に思えるこの戦闘も所詮お遊びにしかすぎない。真面目に取り組めば直ぐに静かになるだろう。

 

 この者が今考えているのはこの竜の生殖地に関することだ。この2種の竜の生殖地はさほど広くはないがどこでもいるモンスターだ。基本的に亜熱帯気候以上の場所を好み、極稀に生殖しているが温帯や冷帯以下の場所は嫌っている。ただそれだけではこの者はここまで考えたりはしない。それは2種が同時に出現する場所は限られているからだ。

 

 この2種の竜が同時に出現する場所は主に3つ。

 

1つ目はムスペルヘイムにある"先が見えない火山列島(イターナル・ゾーン)"。

2つ目はムスペルヘイムにある"最期の海(ラストマリーン)"。

3つ目はスヴァルトアールヴヘイムにある"不思議な砂漠(ミステリ・ザ・デザト)"。

 

 この2種の竜が同時に出現するのはほんの極一部でありこんな山岳地帯には同時に出現しない。つまり異常事態なのだ。

 

 この者がそんなことを考えていると頭に声が響く。〈伝言(メッセージ)〉だ。

 

『ヘトル様』

 

 そう呼ばれた「ヘトル」という名。この名はこの海坊主のプレイヤー名である。

 

「イズーナか?」

 

『はい』

 

 〈伝言〉の相手は"3人の管理者(ティエルス)"の1人であるイズーナ・ル・ド。2人の姉を持ち、いつもリーダーであるイズンを支えている真面目な女の子。

 

「何か分かったか?」

 

『はい』

 

 ヘトルがイズーナに出した命令は周辺1kmの情報収集だ。東◯ドーム67個分に匹敵する規模だが守護者クラスである彼女は難なくとこなす。

 

『周辺1キロですが全て山岳地帯であり所々に竜の住処と思しき洞窟を発見しました。洞窟には竜はおらず痕跡からしてここ1週間は外出してると推測されます。』

 

「ご苦労。周辺に竜を含む知的生物は何体いる?」

 

『はい。周辺1キロに確認できる知的生物は現在ヘトル様が戦われおります竜2体だけでございます。また北東へ5キロの方向に竜と思しき飛行体が1体、北西へ3キロの方向に人型生物が6体確認されております。調査した方が宜しいでしょうか?』

 

 リズーナの報告によりヘトルは満足する。ヘトルはリズーナの情報収集能力の高さや自分への忠義心に感心する。また報告、連絡、相談である"報・連・相(ホウレンソウ)"がしっかりしており情報共有を円滑に進める点も評価した。

 

「調査はしなくいい。拠点へ速やかに戻りイズンと共に周辺の監視をして下さい。指揮権は全て貴女に一任します。また戻り次第イドゥンには私の元へ来るように連絡して下さい。」

 

『かしこまりました』

 

 イズーナの了承の挨拶と共に〈伝言〉も切れる。

 

(さてとイドゥンが来る前に片付けましょうか)

 

 イズーナとの〈伝言〉を終えるとこの戦闘のけりをつけるために直ぐ様に2体の竜に攻撃を仕掛ける。今まではヘトルの種族的特殊能力である常時発動型スキル(パッシブスキル)による牽制程度だったが、今仕掛けるのは竜を殺すための魔法。

 

「楽にしてやろう。〈硫酸が行き着く先(ヴィトリオル・キテ)〉!」

 

 魔法発動後、2体の竜は瞬時に消滅した。体の内部から順に爪先へ向かうように消えて行く。消える直前、音の無い空気が揺れるような断末魔が聞こえたような気はした。

 

 第10位階魔力系魔法〈硫酸が行き着く先(ヴィトリオル・キテ)〉。パッシブスキルにより蔓延した硫酸ミストの分子に特殊な信号を送り分子自体を死亡させる魔法。分子が死亡する時に周りのものも一緒に道連れにするため一回でも吸い込むと死亡率が比較的に上がる。10分以上接触していると皮膚からも少しずつ侵入し細胞レベルで硫酸ミストに侵食されるため魔法発動後確定で死亡する。

 

 硫酸ミストには黄金色の他にも透明なものがあるため気づかれることなく体内に侵入することができる。またオンオフも可能なため効果を発揮させないことも可能である。

 

 ゲーム時代はフレンドリファイアは発生しなかったがこの世界では解禁されており常時発動型スキル(パッシブスキル)を慎重に使用しなければいけない。

 

(練習しないとな)

 

 今回の戦闘を通してヘトルは頭の中でスキルのコントロールの練習を今後の課題として考えた。力があっても"使える"と"使いこなす"は違う。

 

 ヘトルは手と呼べるかは分からないがドス黒い手らしきものを合わせ先程までにいたとされている竜の場所に向けて合掌する。

 今回の戦闘を通じて今後やるべきことを導き出せたことにヘトルは感謝しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして1人の女性がヘトルの元へ訪れる。銀色の髪と蒼い瞳が印象的だ。

 

「ヘトル様」

 

 鈴のように涼しい小さい声。

 

「イドゥンか。早速で悪いが痕跡を消してくれ。」

 

 ヘトルはイドゥンに上空の痕跡を消せと命令する。その命令にイドゥンは一瞬疑問符を浮かべるが直ぐにその意味を理解して作業に取り掛かろうとする。

 

 ヘトルの命令は上空の痕跡を消すことだがそもそも普通の者にその意味を理解することは難しいだろう。陸地と違って上空は主に空気で構成されているため、剣で切り裂いたとしても空気という存在が壊れたり傷ついたりはしない。せいぜい雲の形や空気の流れが変わるくらいだろう。

 

 だがどんなに小さいことにも変化は発生する。剣を振れば微々たるものだが風が生まれる。音が生まれる。魔法を使えば漏れたエネルギーで熱が発生し空気が温められる。小さい出来事でも何かしら空気というものに干渉する。

 

 今回の竜との戦闘でここ一帯の飽和水蒸気量や気圧を変化させてしまった。物理攻撃だけならそこまで変化しないのだが先ほどの魔法により空気の分子も巻き添いを食らった。その結果"死の灰"のような物は生まれなかったのだが一時的に空気の流れが大きく変動してしまい、気圧が少し下がってしまったのだ。これで空を飛ぶ生物なら違和感を感じるはずだ。そしてここに来る可能性を高めてしまう要因にもなってしまう。

 

 

 パッシブスキルを上手くコントロール出来なかった結果がこれだ。まだゲームが現実になってしまってから数時間ではあるが早めに使いこなせるようにならなければならない。その他にも情報収集もあるためやるべきことが沢山である。ヘトルはワクワクと興奮している気持ちの反面、今後の不安も比例するように増していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘトル様、終わりました」

 

「ご苦労」

 

 数分後、イドゥンは作業を終了したことについてヘトルに報告する。命令を果たせたことによりイドゥンの顔には安堵の表情が見て取れた。少しして達成感により生き生きとした表情に変化する。

 

 イドゥンが行ったのはここ一帯の痕跡を消すというよりは元の形に再現した方に近い。そもそもの話、失った元の空気なしに痕跡を消すなど不可能に近いのだ。それよりなら元の状態に戻した方が手っ取り早い。

 

 時間を戻すのはヘトルでも難しい。時間を戻すということは時間のことわりから外れることを意味する。確かに蘇生魔法というものはあるがそれは死体という情報源があるからこそできること。

 

 この際、"魂魄理論(スピリットセオリー)"について少し説明する。

 肉体である"魄"と記憶のかけらである"魂"を無理やり逆算的に引き寄せることにより蘇生されるがその代償として経験値ペナルティが発生する。なぜなら逆算して無理やり復活させるとしても全ての情報体を戻すことが不可能だからだ。それに術者のエネルギー又はマジックアイテムの効果があってやっと復活できる。

 

 情報源があるにもかかわらずペナルティが発生する。つまり無からそれを作り出す作業とはその比ではないのは明らかだ。

 

 そこでヘトルは保険としてイドゥンを自分の元へ来させたのだ。イドゥンなら自分には出来ないその業を可能とさせるため。

 

 ヘトルは竜との戦闘中の間、竜のことの他に戦闘後の痕跡を消すことについて考えいた。自分の技術の低さに舌を巻いており、痕跡の隠蔽が自分1人の力では不可能と予測していた。その弱点を補うためイドゥンを急遽呼んだのだ。イズーナの報告も丁度いいタイミングで来たため、結果功を制した。

 

「イドゥンは直ちに拠点に戻ってください。そして警備に当たってください」

 

「かしこまりました」

 

 ヘトルはイドゥンに命令して先に帰らせた。イドゥンの働きは転移後みんなの中で一番の働きだろう。自分の失敗の後始末なのだからヘトルは笑えないのだが。イドゥンの働きに些事を述べたかったがそんな悠長なこと言ってられない。先程から視線を感じるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(嫌な視線だな)

 

 視線を感じるのだがどこからなのかを掴めてない。見られているのは分かっているのだが場所を突き止める所まで出来ていない。魔法的干渉ではないこと分かっていたのでヘトルは少し鎌をかける。その者はヘトルのそれに知ったかは否めないが近づいて行く。近づいて来てやっとヘトルはその者の方向を掴めたが表に出さないように努力する。それに異形なのだから表情は読み取れられないと高を括っている。

 

「そんなに頑張らなくてもいいよ」

 

 その者はヘトルの行動に気づいている様子。見破られるとは思っていなかったのかヘトルは少し動揺する。ヘトルが動揺したのを見てその者は笑い出す。

 

「やっぱりか」

 

 どうやらヘトルはその者に鎌をかけられたようだ。

 

(タチ悪〜、でも・・・)

 

 ヘトルは心の中で愚痴を溢す。自分よりも上位の相手に鎌をかけられたのだ。当然苛立ちもするが同時に関心もする。上位者特有の慢心さがなく常に慎重に行動している様子は自分の憧れた者と重なったのだ。自分の手の内を明かさない者は負けることがないのだから。

 

「そんなに褒めないでくれよ」

 

 この者は心を読んでいるのだろうか。前者ならただの馬鹿だろう。どちらに対して応えたものなのかはわからないが注視するように心がける。意味を持たないとは分かっているのだが。

 

「それで何の用かな、ドラゴンさん?」

 

 ヘトルはその者、ドラゴンに向けて質問する。そのドラゴンは透き通った白金の鱗を持ち、猜疑心(さいぎしん)(みなぎ)るような鋭い瞳をしている。自分よりも上位者であるのにも関わらず、ヘトルに騙されないとしている様子は臆病者にも思えてくる。それが逆に油断という罠に嵌るという疑心暗鬼になってしまうのだからその様子はヘトルにとって苦手なものとさせていた。

 

「僕かい?ちょっと面白いと思ってね。どんな者なのか会いに来たんだ」

 

 ヘトルの質問にそのドラゴンはそう答える。このドラゴンは警戒して来たのではなく興味があって来たと答えた。ただその解答を鵜呑みにするつもりは毛頭ない。興味ならあんな真似はしないのだから。ヘトルがそれに気づいたためこのドラゴンはヘトルの前に現れた。

 

 ここで肝心なのはこのドラゴンさんがヘトルにとって未知の術で自分を監視していたということよりも、術を解除して自分の前に態々顔を出したことだ。このドラゴンの力量ならあのまま隠れることもできるのだからこのような真似はしないとヘトルは考える。

 

(俺を殺せると判断したのか?)

 

 ここで一番しっくりする答えはヘトルを殺せると判断したために出てきたことだ。先程の警戒といいヘトルのことを一種の化け物とするその視線はまるで野猫(のねこ)のように鋭く、次第に自分を麻痺させるような感覚に襲われたのだから。殺せると判断しても警戒を緩めないあたりこのドラゴンは間違いなく強者に分類されるだろう。

 

「そうなの?それで会ってみた感想は?」

 

 ヘトルはそのドラゴンの目的に関して返事を返す。このドラゴンは建前ではあるがヘトルに興味があってここに来ている。ここで相手の目的に便乗しない理由がない。ヘトルはあまり敵対したくはない。なるべく友好的に接したいのだから。

 

「君は脅威になると思ったよ」

 

 友好的に接したいと思うヘトルだったが既にヘトルを脅威になり得る存在として認定している様子。その解答にヘトルは身構えりこのドラゴンがどのように仕掛けてくるのかシミュレーションするように観察し始める。

 

(攻撃は仕掛けないのか?)

 

 ただここでヘトルは違和感を覚える。それは直ぐに排除をしようとする意思を感じられないためだ。普通、脅威と思うなら、危険と判断するならその原因を突き止め排除するのが建設的だろう。だがこのドラゴンはそれをしない。そのようにヘトルが考えいるとそのドラゴンは次のように口にする。

 

「そんなに警戒しなくていいよ。僕はただ面倒ごとが嫌いなだけなんだ。この世界に干渉しないなら君を倒そうとは思わないよ」

 

 どうやらこのドラゴンはヘトルを脅威とは思っているが敵対するつもりはないらしい。嘘と真実を混ぜたような発言だったが、面倒ごとが嫌いなのは本当のように思える。腕が長ければ頭をかいているのだろう。

 

「そう、わかった。この世界に余計なことはしないよ」

 

 ヘトルは安心するように言う。元々ヘトルはこの世界で何かしようとは思っていない。確かに野望のようなものはあるかもしれないが世界征服のような面倒ごとには最初から興味を示さないだろう。それにこの世界に大きく干渉すればこのドラゴン以上の脅威な者に排除されると本能的に思っているのだから。

 

「安心したよ。それじゃ僕は帰るね」

 

 目的を達成したのかこのドラゴンは帰ろうとする。ヘトルの前に現れたのも品定めの意味合いを持ち合わせていたのだろう。

 

「あぁ、そうそう」

 

 ヘトルも帰ろうとすると向こうのドラゴンは立ち止まり思い出したかのように口にする。

 

「自己紹介がまだだったね。僕の名前は"ツァインドルクス=ヴァイシオン。ここから西の方角に見える山脈で暮らしてる。よかったら遊びに来てね」

 

「俺の名前はヘトル・ディプロ・マティックだ、よろしく。今後世話になるかもしれない」

 

 このドラゴンが自己紹介したことによりヘトルもそれに続く。それは互いに友好的に接したいと思っているようだ。自己紹介という名の友好よりの停戦条約を結んでいるように思えた。互いに線引きをして干渉しないとする様子は互いに利点を生むのだろう。

 

「あぁ、よろしく。では僕は帰るとするよ」

 

 このドラゴン、ツァインドルクスはそう口にして帰って行った。

 

(はぁ〜、疲れた)

 

 ヘトルはそれを見送るとこっそり溜息をつく。そしてやることを思い出し拠点に帰って行く。

 

 ツァインドルクス=ヴァイシオン。白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)でありのちにアーグランド評議国の永久評議員になる者だ。そして次会う時にはツアーと呼ぶ仲になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拠点。

 

 ヘトルは拠点に戻る。幻術が展開されており現地人に見破るのは難しいだろう。そもそもここはアゼルリシア山脈の北の先端付近に位置し、のちのリ・エスティーぜ王国のリ・ウロヴァールから東へ10kmの地点にあるため現地人と会う事は考えられないが念には念だ。

 

 拠点は現在、幻術だけだがこの後に、大規模な隠蔽をかけるつもりだ。幻術だけではなく物理的に施す予定であり、実行するのは今夜で闇に乗じて大地を変動させる。そのためにイドゥンやイズン、召喚した部下に準備を進めてもらっている。

 

 拠点は貝紫をしたピラミッド型の建造物だ。一辺20mほどの大きさで高さは10mで一般的なピラミッドより小さい。機能は良いため大きさなどは二の次だ。

 

 拠点の前に降りると入り口にイズーナが出迎えてくれていた。

 

「お帰りなさいませ」

 

 出迎えた部下のうち先頭にいるイズーナが代表して挨拶を述べる。イズーナは10代中盤くらいの女の子の見た目をしており、身長は152cm、体重はシークレットという設定だ。創造主はヘトルだが設定が多いせいなのかあまり創造主の影響を受けていない。だが想定外にめっぽう弱い所は創造主と似ておりそのたびに姉達に迷惑をかける。

 

 実年齢は750歳のお婆さんであるが見た目は可愛い女の子をしているため本人が真実を言わない限り多くの者を騙すだろう。ミルクベージュなショートヘアの柔らかな雰囲気と銀朱(ぎんしゅ)なキラキラした瞳が印象的である。

 

「ただいま」

 

 ヘトルがイズーナに挨拶を返すとイズーナの目が生き生きし始める。ヘトルから返された挨拶と仕事をやっているという満足感により今後に向けての期待感が増していく。次にどのような命令をされるのか、餌を欲しがる犬のようにワクワクしている様子はヘトルにとって忠義という嬉しい反面、自分が孤立していくという不安も一緒に増していく感覚に襲われる。

 

「準備はどうなっている?」

 

「既に整っております」

 

 ヘトルは今後の隠蔽作業について首尾を確認する。まだ日は浅いが想定外に備えることは成功率を高めることに繋がる。ヘトルは超能力者ではないのだ。そのため、失敗に備える準備が必要であると、ギルドの全盛期にぷにっと萌えさんにあれほどご教授されたのだから。

 

 イズーナから返されたのは完了の報告だった。既に準備が完了しているのなら始めても良いと思えるが、このような大きな事は計画通りに進めた方が上手く行く場合が多い。確かに早めに始めれば途中に支障が起きた場合、その分の遅れを取り戻すことができるが、チーム内での連絡で情報トラブルが発生するおそれがある。早く始めたことにより起きる計画内での大幅変更は通常の業務に大きな影響を生み出しかねない。それを防ぐために計画通りに進めることが物事を達成するために必要不可欠なのだ。

 

「わかった。実行はナザリック時間22時とする。それまで全員待機」

 

「かしこまりました」

 

 隠蔽作業は夜の10時に設定した。ヘトルにとって隠蔽作業はいつでも良いのだが今回は準備時間というもの存在する。今回、この建造物を物理的に隠蔽させるために大規模な魔法を発動するわけではない。なぜなら建造物自らがそれを実行するため。この建造物はデータクリスタルをふんだんに使ったマジックアイテムなのだから。ただオートモードでやると起動時間や実行時間がマニュアルと比べて大幅に増えるため、ヘトルはスムーズに進めさせるためにヘトルの部下に準備を進めさせていた。

 

(はぁ〜これで大事な拠点も隠せるなぁ〜)

 

 順調に計画が進んでいることに対して安堵する。1人になったことにより周りの目を気にせず砕けた体制になる。そもそもスライム系の異業種なのだから一々周りの目を気にしなくても良いのだが、まだ人間としての心があるのかどうしても周りを気にしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘトル様。どうなされました?」

 

「イズンか。大丈夫だ」

 

 ぐったりしているとヘトルを心配するかのようにイズンが話しかけてくる。後ろから突然話しかけられたことにより一瞬背筋が真っ直ぐになるような感覚を覚える。1人だと思いこんでしまいついつい周りの気配を確認してなかったためイズンの存在に気づかなかったようだ。

 

「それで何か用があって、来たんじゃないのか?」

 

「はい。クッキーを作ったので持って来ました」

 

 どうやらイズンはやるべき事が終わったのかあまり時間でクッキーを作っていたようだ。イズンを見るとクッキーを入れたバスケットを後ろに隠すように持っていた。この様子だとヘトルのために作っきたのだろう。それを理解したヘトルはイズンが持って来たクッキーを受け取り、口と思わしき部分に入れ頬張り始める。その様子をイズンはじっと観察しており少し気まずかったヘトルはパクパククッキーに手を伸ばしていく。食べ終わるとイズンはうずうずとした様子をしておりクッキーの感想が今か今かと気になるようだった。

 

「美味しいよ。もう少し甘さ控え目が良いかな。次も頑張ってね」

 

 食べてすぐにヘトルは感想を述べる。ヘトルは女心があまり得意なわけではないが中途半端が一番マズイことくらいは分かるようで、嘘偽りなく思ったことを述べたようだ。その感想によりぱーっと笑顔になるイズンの表情はいつもよりりんりんとしていた。ヘトルに自分が作ったクッキーを食べて貰えたことよりも、ヘトルからクッキーの感想を貰えたことに喜んでいるように思える。それに励ましの言葉を貰ったことで次も作ろうとする意欲でも芽生えたのか、背中から羽が生えたかのような身軽さだ。

 

(思ったことを口にしただけなんだが)

 

 所詮は男。女心なんか一生分からないで死んでいくのだろう。スライムに寿命があるかは不明だがそれを理解しないまま生涯終わるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クッキーを食べ終わり拠点前でのんびり過ごしているとイズーナが拠点から出て来てヘトルの元へ訪れる。

 

「ヘトル様。少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 

「どうした?」

 

 何かと思えばヘトルに訊きたいことがあるようだ。イズーナの方を見ると右手の親指を顎に当てて上の空を見ながら何かについて考えている様子。そんなイズーナにヘトルは用件を訊いてみる。

 

「先程の白銀の竜は何者だったのでしょうか」

 

 イズーナは先程ヘトルに接触して来た竜が気になるようだ。先程のやりとりをスキルで見ていたようであの竜の目的について考察しているように思える。

 

「俺にもさっぱりだ。おそらくはこの世界の管理者なのだろう」

 

 ヘトルは少し誤魔化すようにその問いに対して応える。ヘトルはあの竜の正体と目的を理解しているつもりだが、決定的な証拠があるわけではないためそのように解答したのだろう。ただ、分からないというのも(あなが)ち間違いではない。先の竜が何故あのような行動をとったのかヘトル本人にも分からないためだ。互いに自己紹介をしているものの、目に見える関係ではおらず、あやふやな状態であるためヘトルは少し苦い顔をする。それに気づいたのかイズーナは訊いてしまったことについて頭を下げようとしたがヘトルに制止される。

 

「まだ情報が足りないだけだ。まずは情報収集だな」

 

 情報もない中で竜に関する情報精査をやみくもにやっても仕方ないのだから、それよりもこの世界の情報収集を進めることに指摘する。イズーナも分かっていることだが口にすることで、今やるべきことを明確にさせる狙いがあるのだろう。

 

「イズーナに命ずる。この世界で情報収集の任務に就かせる。先程召喚した部下もいるが、あとで再度部下を召喚しておく」

 

「かしこまりました」

 

 ヘトルはイズーナに情報収集するように命ずる。

 

 ツァインドルクスに訊いてみる方法もあるが余計な面倒ごとに巻き込まれる可能性が高くなるため、最初から頼るという選択肢はヘトルにないようだ。それに世界の情勢や文化といった詳しいことはあの蜥蜴に分かるはずがないと決めつけているようにも思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱ、あの2体気になるよなぁ〜)

 

 イズーナが拠点の中に戻るの確認すると、ヘトルは先程ほど倒した2体の竜について考えていた。普段ならあのようなフィールドゾーンに同時出没しないというのもあるが、通常より強く感じたことが気になるようだ。厳密にいうとバフや特典スキルのようなものが付与されているように見えており、それをするには第三者なる人物が必要不可欠。

 

(やっぱ、プレイヤーだよなぁ〜)

 

 プレイヤーの仕業という答えが1番しっかりくるとヘトルは考えている。自分が2体の竜を倒したことにより、相手にこちらの存在を知られてしまったことはヘトルの落ち度だろう。あの2体のコンボはウザイことには変わりないが他の方法で対処も可能だっただけにヘトルは少し頭を抱える。

 

(面倒ごとは嫌いなんだよねぇ〜)

 

 ヘトルは面倒ごとは嫌い。先程のツァインドルクスも同じだが必然的に面倒ごとに巻き込まれる奴は必ずいる。この世界では極力関わりたくないだけに余計なことに首を突っ込んでしまっている現段階で打開策がないかとヘトルは考えているようだ。といっても所詮ヘトルは一般人であり、このような場合は参謀であるイズーナに頼むのが基本。しかし先程命令をしたばかりに申し訳なさを感じてしまっているところはヘトルの優しさも感じるが、一周回って呆れるといっても良いだろう。いつもまでもいじけてしまっていても仕方ないためイズーナを呼ぶことに決める。モモンガギルドマスターのように中途半端のようなことはしないと決めているためでもあるが。

 

「イズーナ、悪いが緊急でLevel70以上の6人パーティーを編成してください。召喚の際はイドゥンとスユに協力を要請するように」

 

 ヘトルは〈伝言〉でイズーナに緊急パーティーの編成を要請する。このパーティーは基本的に先程の2体を倒したという記憶を植え付けさせこの世界に放流する予定だ。囮にできれば良いのだがそこまで期待はしてないだろう。何故ならLevel70の6体であの竜コンボに勝てないためだ。それに瞬殺したわけなのだから向こうもヘトル達のことをプレイヤーとあたりをつけているだろう。

 

 今回の狙いは''雑''をメインにしている。敵に"ヘトル達が無能な指揮官である"ということをアピールできればと考えている。脳筋まで行かなくても考えが筒抜けだという印象を与えられれば良い。少し雑な考え方であるが庶民出身のヘトルにとっては策も雑の方がこちらの考えを読みにくいと思っている。情報がない中では危険ではあるが、下手に策を構築するよりも建設的だろう。それに牽制程度に働いてもらえれば向こうも反応するだろう。その時に備えてヘトルは今後部下達と協議すれば良いとも思っている。

 

「かしこまりました。異業種よりにした方がよろしいでしょうか?」

 

「いや全種族だ。人間、亜人、悪魔、天使のパーティーで頼む」

 

 イズーナはヘトルの命令を了承した後、パーティーの種族に関して質問する。異業種よりにするか、亜人種よりにするか、迷いどころであるが、今回は人間種、亜人種、異業種の複合パーティーが理想だろう。因みに異業種はそれぞれ悪魔と天使のセットである。今回の趣旨から外れる所もあるが、種族を超えた友好をアピールすることも取り入れるようだ。これがどのような結果を生むかはわからないが、プレイヤーの他に現地人の反応も見たいというヘトルの希望でもある。どうせバレるなら別の目的を含んでもいても良い。

 

「かしこまりました。後はスユ達の裁量によりますが」

 

 スユ・ペルブ。このピラミッド型建造物''ヘトルの墓''に住んでいるNPCだ。Level1の非戦闘員であるが一般メイドとは異なる。やることはナザリックに対する奉仕活動ではなく、自室で祈りを捧げたり、稽古をする、主人の世話をするというものだ。服装はメイド姿ではなく着物であり立場的に'' 禿(かむろ)"を少し自由にさせたような形だ。スユの能力は運気を上げるもの。日々の努力が実るという設定で望んだものを叶えられる。効力はそこまで強いものではないが無理がない範囲で叶えることができ今回に1番適した人材だろう。

 

「スユなら大丈夫だ。あとで褒美を与えなければな」

 

「お声をかけるだけで十分ですよ」

 

 イズーナは声をかけるだけというがヘトルはそう思わない。働きに対してそれに相当する褒美を与えるのは上位者の義務であり、成果を上げた者はそれを貰う権利がある。褒美まで行かなくてもそれに準ずる給料を与えるべきだろう。そのシステムがなければ組織は崩壊するとヘトルは思う。

 

「それでは頼んだ。準備でき次第俺の元まで来てくれ」

 

「かしこまりました」

 

 〈伝言〉が終わると肩の力が抜けたかのようにヘトルは崩れる。今後に向けての対策ができたことによる安堵感が強くなったのだろう。といってもダラダラする時間はないとヘトルは地面からにょきにょきと伸びていく植物のように復活する。竜の件もあるが拠点の隠蔽もあるためいつまでも休んでいる暇はない。自分に喝を入れ今後の計画に向けて一度拠点に戻ることを決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、拠点の隠蔽は無事に完了する。やることはまだ多く残っているがこれから順調に進めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────自由を求めて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、2話-ユグドラシル最終日-。
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