アドルフ、入ってる?   作:王子の犬

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20.zwanzig. ――回答――秘密――休養――重要――

 

 

 黛がぎこちなく微笑んでいる。

 総統を前にして驚きと緊張を隠しきれないのだろうか? 今でこそ、この身は一介の学生に過ぎない。だが、常々人生の先達としてふさわしい言動をするよう心がけている。

 彼女の警戒心を解くべく、朗らかな顔をつくった。

 

「さて、何から始める?」

 

 黛が肩をふるわせる。その隣から言葉をノートに淡々と書き留める音が響いた。

 

「では、ボーデヴィッヒ少佐。お名前をお願いします」

 

 黛が指さしたのは、質問用紙の一番上に記された回答だった。確かめるまでもないが、軽く一瞥してみせる。

 『Adolf(アドルフ) Hitler(ヒトラー)』とあった。

 

「のっけから違うじゃないですか」黛が言った。

「用紙に書いたほうが真の名前だ。私の口は諸事情があって、何をどうやっても本当の名を言葉にすることができないのだ」

「すみません。もう一度、書いてあるように言ってもらえますか?」

 

 すかさず自分の名前を読み上げる。

 

ラウラ(アドルフ)ボーデヴィッヒ(ヒトラー)だ」

 

 覚悟はしていたのだ。本当の名前はあまりに畏れ多く、口にするのも危険だとされている。路上でドイツ式敬礼をしようものなら警察官に職務質問されるだろう。

 片名がじっとこちらを見つめてきた。

 黛が続ける。

 

「じゃあ、次の質問。生年月日……」

 

 彼女は手の甲で目元をこする。

 

「生年月日を仰っていただけますか」

「一八八九年四月二〇日だ」

 

 質問用紙にも同じ数字を記載している。

 

「少佐は今、一五歳のはずでは?」

「時空を跳躍してきたからだ」

 

 黛は絶句のあまり口をだらしなく開けている。

 隣の片名は額に手を当てながら顔をしかめている。何かをこらえているようだ。

 

「………………で、では、年齢を」

「今年で五六になる」自信満々に答えた。

 

 これも質問用紙に書いたとおりだ。『歳』をつけなければ言葉として口にできることは寝る前に確認済だ。

 

「計算を間違えてますよ」

 

 片名が我慢しきれないといった面持ちで告げた。

 

「もし仮に一八八九年生まれだとしたら一三〇歳を超えています。生物の限界を超えているのですが……」

時空を跳躍したのだ! 時系列としてはこうだ」

 

質問用紙の余白に簡単な図を書き入れた。

 

1945 ----(魂)----> 現在

 

「つ、つまり、精神だけが一九四五年から現在へとワープしたのですね」

「その通り」

 

 片名に目を移すと、持参していた扇子で口を隠して震えていた。

 

「次、性別! この質問くらいは真面目に答えてくださいね!」

 

 黛は自分に言い聞かせるように声を張ったが、どうやらドイツ文字を読み取れていないようだ。

 すかさず、涙目になっている片名を小突いた。

 

「これ。なんて書いてあんの」

「こっちに振らないでよ……」

「読めないから呼んだんじゃないっ」

「………………(mann)

「え!?」

 

 一分ほど沈黙が流れた。

 ふたりの視線が徐々に下がっていき、ちょうど股間のあたりで止まる。

 黛が驚くべき仮定をつぶやいた。

 

「ハッ………………まさか、()()()

「残念ながらこの身体には男性のシンボルたる器官がついていない。

 今の私は、確かに、見た目こそ女性であるが、しかし、私の心は男性のままだ。男性だったからこそ、伴侶もいた。

 そう、昨日のことのように覚えている。一九四五年のあの日、私は結婚した。

 男は女と結婚する。しかし、男と男、あるいは、女と女は結婚できない。つまり、女性と結婚した私は男なのだ」

「お相手は三次元ですか?」

 

 先ほどから頭が追いつかない様子の黛を差し置いて、片名が口をはさむ。

 幾何学的質問を受け、意図するところを確かめる。

 

「三次元とはどういう意味だ?」

「あなたがご結婚された女性は二次元の嫁ですか。それとも三次元の嫁ですか?」

 

 首をかしげると、黛が言い換えた。

 

「ええと。少佐の頭の中にだけ存在するお嫁さんか、現実のお嫁さんか、そういう話ですよ」

「まったく理解しかねるが、エヴァは現実の女性だ。諸事情により彼女を紹介できないのが残念だ」

 

 心底残念に思い、肩をすくめてみせた。

 黛と片名は互いに見つめ合って、奇妙な目配せをした。

 

「か・の・じょ??? 彼氏ではなく?」

 

 片名だ。興味津々といった風情を醸し出している。

 

「私はレームとは違う。恋愛対象は女性だ」

 

 エルンスト・レーム。同性愛趣味の突撃隊長であり、わが党に汚名を残し、そのために粛正された。

 

「ちなみに、私たちは恋愛対象になりますか?」

 

 黛の質問に困惑した。

 結婚して間もないにも拘わらず、他の女性に……それも、将来のある少女にたいして懸想するなどと言った趣味はない。しかし、彼女たちにとっては重要なことなのかも知れない。少し考えてから口を開いた。

 

「かつての私は奔放な少女に恋慕し、執着した。そして苦い思い出だけが残った。ひとりの人間として、熱に浮かされ、何もかもが溶け堕ちてしまうような、そういった恋愛への興味がないかと言えば嘘になる。

 しかし、愛情は、ひとりの伴侶に捧げ、捧げられるものだ。

 君たちはいずれ、素敵な女性として巣立つだろう。そして伴侶となるべき男性を見つけるだろう。

 私は一途なのだ。君たちはとても素敵だ。しかし、恋愛対象としては見てはいないし、見てはならないのだ」

 

 片名が扇子をパチリと閉じ、身を乗り出す。

 

「簪ちゃん……更識簪嬢に対してはどのように見ているのですか? よもや遊びではないでしょうね」

「まさか。将来有望な学生と打ち解けて懇意になることは、私の望むところであるが、それを恋愛感情と繋げるのは、いささか無理があるまいか」

「ありがとうございます。次の質問に移ります」

 

 次の質問事項は出身地に関するものだ。

 同じ民族が暮らすドイツとオーストリアの統一は自分の使命だった。両国の国境にあるイン河畔のブラウナウが、まさしく誕生の地である。この小さな町で生を受けたのは、その後の人生において天啓であった。

 

「出身地ですね。もう、何が来ても驚きませんよ!」

 

 気合を入れなおす黛を一瞥してから質問用紙に目を走らせる。

 『ブラウナウ』と記してあった。

 地名ならば大丈夫だろうと思い、深く息を吸ってから書いてあるとおりに言葉を発した。

 

 

 

ひみちゅ(ブラウナウ)

 

 

 

「はい?」「ひみつ?」ふたりが互いに顔を見合わせる。

 

……。

…………おかしい。

 

 ふたりの反応はもっともだ。自分でさえ今しがた発した言葉を理解できないでいたのだ。

 

「すまない。もう一度言い直そう」

 

………………今度こそ!

 

 

「ひみちゅ!!!」

 

 

 わが生誕の地は――――と言っても、ブラウナウの記憶はほとんどないのだが――――またしてもラウラ・ボーデヴィッヒの言ってはいけない言葉に含まれていたのだ。

 ブラウナウ・ブラウナウ・ブラウナウ・ブラウナウ・ブラウナウ…………と口ずさんでみたのだが、実際は……。

 

「ひみちゅ・ひみちゅ・ひみちゅ・ひみちゅ・ひみちゅ…………ドイツ」

 

 わが生誕の地が、どういうわけか、口にするのも恥ずかしい言葉になってしまう。恥辱をこらえながらも感情を抑えきれずに赤面し、涙目になっていく。

 次の質問を――――と思い、顔をあげたとき、片名の扇子が目に入った。どのような仕組みなのか想像もつかなかったが、扇子に描かれた模様が変化する。

 

お可愛いでちゅね

「……ッ!!」

 

 総統が赤ちゃん言葉を発するなどと誰が想像できようか。おそらく頑迷に国家社会主義への抵抗を試みているラウラ・ボーデヴィッヒですら、そうは思わなかったに違いない。

 怒りで両肩を震わせ、机に置いた両拳を固く握りしめていると、黛が見かねてポケットをまさぐった。

 

「どうぞ」

 

 黛から小さな包みを受け取った。

 

「これは……」

 

 アメ玉の袋だった。端部の山谷に沿って袋を破る。

 

「アメでも舐めてもう一度、出身地をおっしゃってみてください。力むと予想もしない失敗をしちゃいますから」

 

 言われたとおりにアメ玉を口へ放り込み、カラコロと音を立てる。小さくなったアメ玉を頬の裏へと転がし、最後の抵抗を試みた。

 

「…………ひみちゅ(ブラウナウ)

 

 扇子の言葉が目に入ったが、無視して黛たちをにらみつける。口の中のアメ玉をかみ砕いて飲み込んだ。

 沈黙したまま次の質問に移った。

 用紙に記入した内容は本来あるべき姿を示している。

 身体をぴんとまっすぐ伸ばした。

 黛が隣に向けて肘で小突く。

 

「これ。なんて書いてあんの」

「だからさ。こっちに振らないで……」

「ドイツ語は読めないんだって。どうせ、少佐の公開プロフィールと全然違うことが書いてあるんでしょ」

「仕方ないなぁ……」

 

 黛がわからないところを指さし、片名が困惑顔で読み取っていく。

 

「驚くのは無理もない。私はただ、真実を口にしたいのだ。そして、人々から、この人間は真実を言っているのだと思ってもらいたい」

 

 その証拠に片名が口を何度も開閉させている。彼女はようやく気づいたのだ。今、誰を前にしているか、を。

 片名は不安げな面持ちを隠さなかった。

 

「あのぉ……国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP)指導者、兼、大ドイツ帝国首相……ってありますよ? つまり総統(Führer)……って書いてあるのですが……いいんですか? ドイツ軍的に言うと、軍事裁判にかけられて良くて懲戒免職処分じゃ」

「国家社会主義ドイツ労働者党? そんな政党あったっけ?」

「記者志望なら覚えときなさいよ……」

 

 彼女は黛のためにメモ用紙を一枚はぎとってからペンを走らせた。

 

「こういうの。言っておくけど、お寺のマークじゃないんだからねっ」

 

 鉤十字を描いてみせる。

 

「ナチス……? 今どき?

 

 片名が背筋を真っ直ぐ伸ばし、まるで油断のならぬ雌オオカミのような雰囲気を漂わせる。ラウラ・ボーデヴィッヒとは一学年しか違わないはずだが、恐れ入ったものだ。

 

「ご存じですか? あなたの祖国、ドイツでは国家社会主義という極右思想、つまりナチズムは禁止されています。アドルフ・ヒトラーは、当時の国民を扇動し、最も忌むべき思想で汚染し、第二次世界大戦という、凄まじい破壊と殺戮を生み出した原因のひとつでもあるのですよ。

 失礼ながら、あなたの行為は、自身をテロリストだと標榜しているようにしか見えません」

「私は――」

 

 言いかけて口をつぐむ。片名のなかでは、アドルフ・ヒトラーは歴史上の人物である。不本意ではあったが、言い直した。

 

「――――彼は、合法的に、民主的に、ヒンデンブルク大統領に任命されて首相となった。

 民衆もまた熱狂をもって迎えいれた。勝者によって形成された論理で、彼をテロリストと断ずるのは早計と言わざるを得ない。

 国家が国民と一体になって目標へ向かい、目標達成の手段として戦争を選び、様々な要因が重なり、結果として敗北したのだ。

 国家が国民の集合体であるならば、国民の意思を汲み、国民の望みを叶えることこそが指導者のあるべき姿である。

 もちろん、指導者とて人間だ。目指すべき方向が間違っていることもあるだろう。

 よろしいかね?

 この国もまた、つまり、かつての大日本帝国もまた、国民が、熱狂的に、戦争を支持したのではなかったか? 誰もが勝利に熱狂し、心を躍らせたのではなかったか?」

 

 戦争責任を誰かが負うべきとすれば、その可能性は、国家の頂点にある指導者か、あるいは、その指導者を選び、罷免しなかった人々にあるだろう。特定の悪者を仕立て、後者に矛先を向けぬため、ニュルンベルク国際軍事裁判という茶番劇をこしらえたのだ。

 

「くっ……」

 

 片名は押し黙った。大日本帝国の責任が、市井の人々あるいは国家の頂点に向くのを恐れたのだ。真理から目を背けるほど自己矛盾に陥る。歴史書によれば、この国もまた極東国際軍事裁判(東京裁判)という茶番劇を経験している。

 にらみ合いを続け、険悪な雰囲気が漂うなか、先ほどから黙っていた黛が口を開いた。

 

「じゃ、じゃあ、趣味にいきましょう。色々書いてありますよねー」

「絵画や映画、散歩など色々ある」

「へー。絵を描くんですね」

 

 失礼と、黛が席を立つ。彼女はスチール棚から一冊の本を選んだ。

 席に戻ってきて、中央に本を置いた。

 

「この表紙の絵。ささっと模写したりとか?」

 

 表紙は大浴場の隣の休憩室で見かけた、漫画雑誌のものと似ていた。風刺画など書こうとも思わなかったが、一度は画家を志した身である。まして、取材の場だ。うっとうしくは思わなかった。

 

「スケッチでよいか?」

「どうぞどうぞ。これ、鉛筆です」

 

 受け取り、メモ用紙に描き入れる。緻密に描きこむほうが性にあっているのだが、時間が限られている。構造的に重要な線だけを選んだ。

 一分ほど集中し、鉛筆を置く。

 できあがったスケッチを彼女たちに見えるように置いた。片名が手に取って眺めている。

 

「普通に上手いですね」「本当だ。普通に上手」

 

 なにげない感想だ。

 残念ながら美術学校の入試結果は「才能、貧弱。入試絵画、不可」という惨憺たるものであった。それでも一応は、ちっぽけな図工兼水彩画家として活躍した時代もあったのだ。

 

「ありがとうございます。次の質問は特技ですね」

「強いてあげるなら演説だ。両手では数えきれぬほどやった」

「そうなんですね。なりきってますねー」

 

 黛だ。ラウラ・ボーデヴィッヒ=アドルフ・ヒトラーだとは信じていないようだった。

 

「どうしてIS学園に入学したのですか?」

「……む。次の質問だな?」

「そうです」 

 

 なぜこの軍事研究施設に来たのか。

 この問いについて明確な答えを持ちあわせていない。昨晩、質問用紙を前にして散々悩み抜いたのだ。事象を説明するだけなら意識だけ時空を飛び越えてきた、で済むのだが、ふたりの微妙な顔つきを目にするにいたって、再三繰り返すのはよくないと察していた。

 

Wer bist du(Who are you)?」

 

 自分自身に対してそう問いかけるしかない。科学的説明は不可能。宗教的説明も、西欧とは全く異なる背景で生きてきた人々を理解させられるとは到底思えない。輪廻転生なる概念は存在するこそすれ、実際に転生した者など見たことも聞いたこともない。私は転生した! などという者は、信仰にすり寄って銭を稼ごうとするペテン師である。

 ふたりの少女を納得させられない。あいまいな言葉を濁しては、彼女たちの信頼を得ることはできないだろう。

 無から有を生み出すのは並大抵の努力ではない。

 純粋に誠意をもって『わからない』と言ってしまうのが良いか。しかし、ひとたび体に割れ目を作ったとき、特別大きな出来事によって重圧が生じたとき、この小さな問題が、決定的に重大な意味をもって、不幸にも崩壊を招くのではないだろうか。

 

Wer bist du(Who are you)?」

 

 もはや祈りであった。正直に答えてしまおう、そう思ったとき、奇跡のような、とても不可解な現象が生じた。

 自分の口が、自分の意思に反して、まったく知らないはずの単語を並べ立てていたのである。

 

「なぜIS学園に来たのか。理由はこうだ。

 試験配備されたIS、すなわちシュヴァルツェア・レーゲンの稼働データ収集、ならびに、IS運用協定、通称アラスカ条約に則り、各国と情報共有するためだ。

 もちろん、これは表向きの理由だ。

 実際のところ、上官や、そのもっと上から、たまりにたまった休暇を取って欲しいと、威厳もへったくれもない形相で懇願されたのだ。

 曰く、法律を遵守してくれ、と。

 働きすぎで顔色や肌艶が悪い。銃とナイフを携帯したまま、夜間に武装して徘徊する姿が危なっかしい。両隣の隣人からは、毎晩奇妙な呪文が聞こえてくるので眠れない、言いたくないが悪魔召喚しているに違いないといった苦情があったのだ。……まったく失敬な苦情だ! 織斑教官から教えていただいた、ありがたい般若波羅蜜多心経だぞ!!

 ほかにも、()()()を殺す! と夜な夜な叫んでいたらしいのだが、まったく記憶にない。調べても記録になかったから、妄言の類いなのだろう。

 三月から四月中旬にかけての、私に関する生活記録が消えていたのだが、お前たち、織斑教官から何か聞いていないか?」

 

 恐ろしかった。自分の声とは到底思えなかったからだ。自分に舌を噛みそうな呪文を朗読する習慣などなかった。

 すがるように二人を見た。顔面の筋肉が思うように動かず、不可思議な表情になっていたのだが、黛たちも一緒だった。

 

「…………こころの御病気のおそれがあるかと」失礼なことを口にしながらも、黛の声は優しかった。

「祖国で十分すぎるほど激務に就かれたのです。今度は遊びを覚えましょう」

 

 片名の扇子の模様が変わった。

 

大人の遊びはダメだぞっ!!

 

「私は酒もタバコもやらん。娼婦と寝るなんてまっぴらごめんだ。賭け事もやらないぞ」

 

 今のは自分の意思だ。

 

「……ご学友とわいわい騒ぐといいですよ」

 

 黛の声はやはり優しい。

 

「……そうです。高校生らしく羽目を外すくらいがちょうどいいですよ。それと、今いちばんやるべきことは、休養です。休養をとってください」

 

 片名も続いた。

 不意を突いて発生したラウラ・ボーデヴィッヒの独白は、致命的に誤った認識を与えてしまったようだ。内面的な混濁を、優しさをもって理解されてしまったのは、不本意な結果である。

 やはり中途半端は、ぞっとするような破滅的な害悪をもたらす。真剣に、断固たる手段をとらなければ、不要な刺激のみを与えてしまう。

 

「在校生にひと言ってありますか?」

 

 黛が促す。

 質問用紙に色々記入したが、同じ事を言うつもりはなかった。

 

「では、ひとつだけ」

「どうぞ」

 

 呼吸を整える。

 

「私は思う。

 ここにいる人々もみな、心の中ではきっと、この世界が何を必要としているのか、わかっているはずだ」

 

 言い終えて、質問用紙の余白に文字を書き入れた。

 

『ところで、織斑先生の誕生日をご存じか?』

 

 すかさず片名が応じた。

 そこに描かれた四桁の数字を見て、満足げに笑みを浮かべる。

 

「ありがとう」

「これにてインタビューは終了です。少し時間が押してしまいましたが、こちらこそありがとうございました」

 

 照明が消え、壁掛け時計の針が目に入った。

 確かに、予定時間を過ぎている。黛と片名がせわしない様子で設備を片付けていく。

 黛が部屋を出ようとしたこちらを追いかける。

 

「質問用紙とメモは回収します。来週の水曜日には発行する予定です。新聞部部室前と職員室前、学生寮にも貼り出します」

「了解した。こちらこそ、有意義な時間だった。私はこれで失礼する」

 

 新聞部の部室を後にした。

 

 

 




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