蝶の影 作:木材
「お待ちしてました」
月が出ていない夜、珠世は自らの家を訪れた男にそう言った。
この家は愈史郎の血鬼術により隠されているため、人が訪れることはそうない。産屋敷のように一部その存在を認知する者はいるが、拠点を転々とする珠世の居場所を把握している者は側近の愈史郎を除けば誰もいない。
現在の拠点もつい先日に移したばかり。それを訪れることができる者は卓越した索敵能力を持つ者、または移動してからこの場所に来たことのある者に限られる。
「…チッ」
「こちらとしても来たくはなかったんだがな。贅沢は言ってられん」
「貴様!珠世様を目の前に来たくは無かっただと⁈ならば帰れ!こちらは貴様なんぞに…」
「愈史郎」
珠世の言葉に遮られ愈史郎は口を閉じる。しかし依然として鋭い視線は男に向けられている。
「あまり長く滞在すると側近の苛立ちが臨界点突破しそうなんで、手早く済ませましょう」
「検査結果は出てます。すぐにご説明しますね」
「ありがたい、お願いします」
男……無道遠夜は目隠しを取ると、珠世と愈史郎に続き屋敷へと足を踏み入れた。
ーーー
「とりあえずこれで検査結果を書物に纏めました」
封筒を遠夜に手渡しながら珠世はそう言った。
「すんません、俺自身の私情にも付き合ってもらってるのにこんなことまで」
目隠し外し、遠夜は頭を下げる。
「全くだ!お前のような馬の骨に珠世様の貴重な時間を割かせるな!」
「申し訳ない」
普段の私情だけでなく、余計なことにまで珠世を巻き込んでいることを少なからず申し訳ないと思っていた。故に愈史郎が喚き立てる言葉も否定することができず甘んじて受け入れた。
しおらしい態度をする遠夜に愈史郎は訝しげだが、それ以上なにも言うことはなかった。
「愈史郎、そのあたりに。ではその眼球についてですが」
遠夜は封筒から書類を取り出しながら珠世の話に耳を傾けた。
「貴方の眼球は鬼のものと同等です。聞いたお話では血鬼術を扱えるようなので、それは間違いありません」
「でしょうね」
「しかし眼球としての機能は通常の人間と大差ないでしょう。多少動体視力が良くなったりはするかも知れませんが、基本は人間のものと変わりません」
遠夜は現在の日常生活において、日中は目隠しを外すことが無い。故に不便は感じないが、視覚から太陽を感じることができなくなるのは少し寂しく思えた。
「ここからが問題です」
珠世の空気が変わった。
「その鬼の眼球ですが、少しずつ無道さんのことを侵食しています」
「侵食?」
「はい。鬼の肉体の一部は徐々に無道さんの肉体を人ではなく鬼のそれにしようと侵食をしています。しかし鬼を増やすことは無惨にしかできないことなので、完全に侵食されても恐らく鬼になることはありません」
「でも問題があるんですよね」
「…はい。予想ではありますが、日光を浴びることができない肉体になります。鬼のように灰になるかはわかりませんが、少なからず害はあるかと」
「…なるほど、ね」
なんとなくそんな気はしていた。目覚めた時に左目周辺に現れていた青白い痣のようなものは鬼の肌と色が似ている。今はその部分が日光に触れてもなにも起こらないが、今後もその状態が続くとは断言できない。
そしてこの痣が恐らく侵食の度合いを示すものなのだろう。この痣が広がるほど、侵食が進行していることを示すと考えていいだろうと遠夜は考えた。
「侵食は眼球を起点に起こっています。侵食の速度自体は非常に遅いですが、それでも同じ速度で侵食が進むとは限りません」
「侵食を止めることは?」
「現状では止める術は無いです。血鬼止めがもしかしたら多少効果があるかもしれませんが、確証は…」
現状では侵食を止める術は無いらしい。とりあえずは問題無いからこれでいいかと遠夜は納得した。
「あと、血鬼術についてです」
「ん」
「血鬼術はその名の通り鬼の血を媒介として発動する術です。ですが無道さんは当然鬼ではありません。故に血鬼術を使う媒介が本来なら無い」
「でもこの目があるから使えた」
「はい。無道さん自身がお話してくださった血を吸われる感覚。血鬼術を行う時に代償として無道さんの血液をその眼球が吸収しているのだと考えられます」
「……だよねぇ」
正確には吸収されるのは氣も含まれるが、これについては氣の使い手しかわからないだろうと言わなかった。
だがやはり鬼の血の代替として遠夜の血が吸われているのは間違いなかった。
「あまり使い過ぎると、失血死しかねんな」
「それだけではないです」
「ん」
「わかっているのではないですか?本来人間では扱えないものを扱っているのです。相応の代償が必要だと」
「……多用すれば、死ぬか」
「血鬼術は人の身で行うにはあまりにも過ぎたものです。恐らく、使うたびに命を削ります」
血鬼術を使ったのは以前カナヲに見られた時の他に数回。片手で事足りる程度の回数だが、連続で使ったことはなかった。肉体に負荷がかかるため連続使用は余程のことが無い限りやらないようにするとは決めていた。それに命を削ることもあり得ることだと思っていたため、さほど驚かなかった。むしろ当然だろう。
「…あんま使わないようにする」
「…本来なら、絶対に使わないようにしていただきたいのですが、そう言っても使うのでしょう?」
「必要にかられれば、ね」
数回使用したおかげでなんとか戦闘中でも扱えそうな程度には慣れたため、必要なら使う。遠夜はそう決めていた。
尤も、血鬼術を使わねばならぬほどの強さを持つ鬼は恐らく上弦の鬼程の力を持つ鬼を相手にした時だけだろう。それほどの相手を前にして使い慣れない血鬼術を使っても勝てるとは思えない。せいぜい不意打ちが限界だろう。
「……使う使わないの判断は私ではできません。なので無道さん自身で判断してください」
「言われずとも勝手にやりますよ」
「あともう一つ」
「おっと、まだあるんすか」
「これは推測の域はでませんが、それでも良ければ」
「お願いします」
「恐らく、血鬼術を使うたびにその左目の視力は低下します」
「あー…」
合点はいく。
血鬼術を使用するのは凄まじく目に負担がかかる。鬼の肉体ならば即座に再生するため結果的に負担にはならないかもしれないが、人の身ではそうもいかない。負担は蓄積され、肉体にいずれ致命的な欠陥を齎すだろう。
「…最終的には」
「失明、か」
「そう考えられます」
しのぶも言っていたが、能力値のみで見れば月慈の目は鬼のそれだが、今の基礎となっているのは人間。故に鬼のように再生はできない。
つまり負荷をかけ続け、その先に待つものは負荷に耐えきれず失明ということだ。
「…面倒なもの植え付けられたもんだ」
「こうして人として活動できること自体かなり異例かと。鬼の肉体を植え付けられたら普通は生きていられません」
(…そういえば、兄貴も成功例は無いとか言ってたっけか)
遠夜が今こうして普通に生きていられるのは柱として鍛え上げた肉体と精神があり、なにより幸運だったことに尽きるのだろう。
「…なんにしても、あんま使わないようにしますわ」
「そうしてください。効果があるかはわかりませんが、血鬼止めを使って調合した薬を処方します。定期的に飲んでください。侵食が遅れると思います」
「…何から何まですいません」
「いえ、日永さんには大変お世話になったので」
「お前には世話になってないがな!日永に感謝しろ!」
「…そうします」
遠夜が目を伏せると珠世は遠夜の肩に手を置いた。
「仮に日永さんがいなくても、私は貴方に力を貸していました。なのでお兄さんと自分を比較して、卑下するようなことはしないでくださいね」
「お気遣い、痛み入ります」
遠夜は立ち上がり、頭を下げる。
その後、血鬼止めを使った薬の注意事項を幾つか伝えると遠夜は帰っていった。珠世の拠点の敷地から出ると遠夜は姿を消し、気配もすぐに感じられ無くなった。
「珠世様」
「どうしました」
愈史郎の血鬼術の効果範囲内に入ると愈史郎は珠世に問いかけた。
「無道遠夜にあそこまで肩入れするのは何故ですか」
「肩入れ…そうね」
産屋敷の使いである影柱であることを加味しても、珠世は遠夜に対して大きく肩入れしていると言える。珠世自身その自覚はあったため驚くようなことはしないが、暫し目を伏せ、考える。
「…我々は一度、日永さんに助けられている。それなのに私たちは彼になにも返せなかった」
「…そう、ですね」
「代わりに遠夜さんの力になろうとしている節はあります。でもそれ以上に、彼のような人は誰かが『見ていなくては』いつか消えてしまうのです」
「………」
「鬼殺隊でも彼のことを気にかける人はいるでしょう。しかし彼はそれを自覚していない……いや、彼の気質的に遠ざけようとしてしまう。それ故か、彼はいつも孤独と闘っている」
「…天邪鬼め」
「そういう悲しい人。だから私はせめて、彼に消えてほしくないから彼に肩入れするのでしょう」
「………」
愈史郎はそれ以上なにも言うことなく、自分の作業へと戻っていった。
残された珠世は、一人月の出ていない空を見上げた。
*
数日後
御影山
無道亭道場で遠夜と夕霧が組み手をしていた。
「うわ!」
遠夜の掌底により夕霧が体勢を崩し倒れる。
遠夜は追撃することなく、倒れた夕霧に手を貸して立たせると言った。
「…よし、ここまで」
「あ、ありがとう…ございました」
息も絶え絶えになっている夕霧を前に遠夜はそう告げる。
夕霧は着実に力をつけ、とうとう円と識をモノにしたと言っていたのでそれを確かめるべく組み手を行った。夕霧は木刀、遠夜は素手で行ったが、結果は夕霧が一方的に攻撃を受けることになり手も足も出なかった。
だが以前とは異なり、完全では無いにしろ夕霧は確実に遠夜の攻撃に反応できるようになっており、防げた攻撃も多々あった。加えて夕霧は敢えて途中から自らの視界を封じる縛りも設けたが、その縛りを設けた後の方がより攻撃に反応できるようになっていた。
「確かに円と識をモノにしているな」
「どうにかですけどね」
「現時点でそこまで円と識ができれば上出来だ。今なら最終選抜にも通るだろうよ」
「でもまだなんですよね」
「ああ。これから型の修行に入る。壱ノ型『無間舞踊』ができるようになったら最終選抜に向かうことを許可する」
影の呼吸において壱ノ型『無間舞踊』は真髄にして奥義。敵のあらゆる攻撃を見切り、舞うように回避しながら確実に返し技で相手の呼吸を乱し、呼吸も体幹も崩れたところでトドメを刺す型である。型と言ってはいるが、実質型らしい型ではなく、敵の攻撃次第では身体の動きは大きく異なる。故に、円の範囲外の対象にも識を行えるようになる必要があるが、夕霧は円を非常に得意としているため円の範囲が広い。この広さならば円の外の対象に識が使える必要はないと判断した遠夜は、円と識をモノにし次第呼吸の指導に入るようにした。
「じゃ、とりあえずこれ」
そう言って渡されたのは目隠し。遠夜がつけているのと似ているため、鳴海お手製のものだろう。
「修行の時は必ずつけろ。視界に頼る必要がなくなるくらい識を使いこなせ」
「識の修行でこれ付けてましたけど」
「それは四六時中だろ。これからは修行の時以外は外せ」
「どうしてですか?」
「見れるものは見れるうちに見とけ」
それだけ言って遠夜は道場から去っていった。
「どういう意味だろう」
夕霧がその真意を知ることはない。
ーーー
退院した後、しばらくは担当地域の警備のみだったため遠夜は一度御影山に戻り、夕霧の指導を行っていた。
本格的に呼吸の指導に入ると、基礎をしっかりと身につけていた夕霧は瞬く間に実力を伸ばしていった。型そのものはまだ壱ノ型を学んでいる最中だが、それも既に形になりつつある。
「相手の気配をより強く読め!必ず攻撃には意思がある!」
「はい!」
夕霧は木刀で遠夜の攻撃を必死に防ぐ。舞うように回避と防御を繰り返す夕霧に対して遠夜は掌底や蹴りを繰り出し防御と回避の合間に出来る僅かな隙に的確に攻撃を与えていく。
遠夜の攻撃に対して返し技で対応しようと夕霧が突き出した突き攻撃は、身体の軸をずらすことで遠夜は回避し、体幹が崩れたところを蹴りで木刀を弾き飛ばす。
「しまっ」
突き出された遠夜の拳は夕霧の顔の前で止まる。
「……!」
「一本」
「…はぁ、また負けた」
袖で汗を拭いながら夕霧は立ち上がる。
遠夜は木刀を拾い上げて夕霧に投げて寄越す。
「飲み込みが随分早い。この分なら次の最終選抜には余裕で間に合うだろうな」
「ありがとうございます。師匠の教えのおかけです」
「真面目だな」
夕霧の指導を始めて約2年。夕霧の成長は目覚ましいものだった。
元より本能的に絶を習得していたため、氣の修行はそこまで大変ではなかったが、体力作りがなかなかうまくいかず全集中の呼吸の習得に少々時間がかかった。だがそれも習得できたため、型の指導を始めた。
既に識を習得した夕霧は壱ノ型をモノにしつつあり、遠夜の攻撃に対しても的確に防御と回避を行なってきた。まだ甘い部分も多数あるが、それでも習い始めたばかりにしては非常に高い熟練度に達していた。
「あとは円の外の対象に識が使えるようになれば完璧だな。それ以外はひたすら組み手だ」
「わかりました」
「んじゃ、ちと休憩…」
休憩しようと言おうとしたところで、遠夜の鎹烏が道場の外で騒ぎ始める。
「……どうした」
道場外に出て烏を腕に留まらせる。
『カァー!宇髄天元カラ救援依頼ダァー!』
「天元さんが?状況は」
『宇髄天元ノ嫁ガ行方不明ー!竈門炭治郎達モ同行シテイルガ敵ノ情報ガ得ラレズ苦戦ー!』
「…へぇ、元忍のあの人が情報収集に苦戦するとは珍しい。わかった、すぐ向かうと伝えろ。場所はどこだ」
『カァー!案内スルカラ早ク準備シロー!』
「へいへい」
相変わらず口うるさい烏に少々うんざりしながらも道場に戻ると夕霧が瞑想をしていた。
「あ、師匠。どうしましたか」
「出陣。しばらく識と壱ノ型、あとは常中の修行に費やせ。俺はすぐに出る」
「はい!お気をつけて!」
部屋に戻り身支度を整え、刀を手に取る。
そして部屋から出たところには雲海がいた。
「雲海さん…」
「出陣だね」
「はい」
「……気をつけて行ってくるんだよ。君も、私からすれば大事な息子なんだ」
「…お心遣い、痛み入ります」
頭を下げると遠夜は雲海の隣を通り抜けていった。
「……皆、どうして行ってしまうんだろうね」
雲海は遠夜が通り過ぎていった廊下を見つめる。
そこに遠夜の姿は既に無い。
*
烏の案内の元、天元がいる遊郭まで走る。
御影山からさほど距離のない場所にある遊郭だったため、半日程度でたどり着けた。烏から状況を聞きならがの移動を行うことで、到着から行動までの時間を短縮させることにした。
烏から聞いた状況はあまり芳しくなかった。
現場には宇髄の他に炭治郎、善逸、伊之助の三人が潜伏しているらしい。なんでも鬼がいるという疑惑がある遊郭に宇髄の嫁達を潜入させたところ、連絡が途絶えたとか。そこで炭治郎達にも手伝って嫁達の捜索をしていたとか。
(天元さんの嫁も、確か元忍だったな。一般人と比較すりゃかなり戦える方だと思うが…)
それでもダメだったということは、相手は鬼である可能性は大いにあるだろう。そしてその後の足取りを天元ですら辿れないほど残さないところを見ると、十二鬼月だと考えるのが妥当だ。
遠夜に救援依頼が来た理由は、十二鬼月の上弦である可能性があったからだという理由と、相手の尻尾が全く掴めないため索敵と情報収集が得意である遠夜が最適だと考えたからだという。
(兄貴から受けた傷で暫く安静にさせられてたし、左目の様子見とか試運転で結構任務と離れてたしな。鈍っちゃいないがさて、どこまで力になれるかねぇ)
目的地が近づいてきたことが烏から伝えられ、腰に挿していた鍔のない刀を竹刀袋に入れて担ぐと共に遠夜は神経を整えて遊郭へと潜入した。
ーーー
「派手に早かったな、無道」
「貴方が俺を頼るなんて珍しいんでね。嬉しくて舞い上がっちまったのよ」
「面白くもねぇ地味な冗談は止めろ。後で何を請求されるか考えただけでゾッとする」
「俺、あんたに何か請求したりしたこと無いんですけど?」
「お前の性格の悪さは知ってる。どうせロクなことにならん事くらいわかる」
音もなく背後から現れた遠夜に天元は平然と皮肉で返した。
遊郭の無数に建ち並ぶ通りの路地裏で遠夜は天元と合流する。
一通り皮肉を言い合ったところで遠夜は天元に向き直り状況を確認する。
「で?状況は?」
「地味に良くねえ。俺の嫁が潜入していた店に炭治郎達を潜入させたが、一向に足取りが掴めん」
「あらら」
「鬼の気配はするが、場所が地味にはっきりしない。こんだけ派手に気配はするのに、だ。近いようで、遠くに感じる。そんなのが四六時中だ」
「気配は確かに強いですねぇ。遊郭全体を覆ってる感じだ」
「そこでお前だ。索敵と情報収集はお手の物だろう。俺も情報収集はしてるが、監視しながらだとそれも中途半端でな。隠に頼むことも考えたが、戦闘になった時のことを考えると戦える奴がいた方がいい」
「この前下弦相手に死にかけた俺を呼びますか」
「お前の戦い方が相性の良し悪しが大きく寄与することくらい把握している。でもお前が柱に任命されるくらい強いことも俺は派手に知っている。卑下するのは自由だが、現時点でそれ以下の奴のことも考えて発言しろ」
それ以下の奴、というのは恐らく炭治郎達の事だろう。現時点ではまだ遠夜の方が戦闘能力は高いだろうが、炭治郎達は将来遠夜を超える存在になる。天元も遠夜もそれを理解しているが、三人はまだ経験値が不足しているため柱と並べるほど強くは無い。無論大いに戦力にはなるが、それでも劣ることは本人達も理解している。故に先程の遠夜の発言は遠夜本人だけでなく炭治郎達をも卑下した言葉になる。だから天元は現時点でそれ以下の奴のことも考えろと発言した。
「悪かった。さすがに無神経すぎた」
「本人達は聞いてねえし、あいつらはそんなこと気にするタマじゃないだろうがな。だがその日永と比べて己を卑下する癖はそろそろやめた方がいい。自分の価値も落としかねんぞ」
「…呪いみたいなものでね。簡単には治りませんわ」
「気持ちはわからんでもないがな。日永は、才能としては強すぎた」
遠夜はその言葉を肯定も否定もしなかった。
「さて、俺はそろそろ行きますわ。情報は得られ次第共有しますんで」
「随分早い動き出しだな。最初は索敵するかと思ったが」
「索敵は軽くしてみましたが、上手く気配を隠してる。流石に多少は場所を絞らないと探せるものも探さなくなるんでね」
「アテはあんのか」
「表で噂すら出てないなら、裏を知る人に聞きます」
それじゃ、とだけ言って遠夜は姿を消した。
残された天元は己が出来ることを、と考えて捜索に乗り出した。
ーーー
「どーも」
遊郭の街の入り口の門に小さく存在する小屋に遠夜は訪れた。
「どうした兄ちゃん、ここには男しかいねぇぞ。花街に来てんだ、男と絡みに来たんでもあるめぇ」
屈強な男達が小屋の中でちょっとした賭博のようなものをしている中、最奥にいた比較的細身で小柄な男が煙草を吹かしながら遠夜に鋭い目つきで問いかける。
「そりゃもちろん。俺だって相手にすんなら別嬪の方がいいんでね」
「目が見えないようだが、その様子だと道に迷ったってわけでも無さそうじゃねぇか。なんだぁ、どっかで諍いでもあったか」
「諍い、ね。まぁでかい視点で見りゃそうかもしれん。いやなに、ちょいとこの街について知りたくてね」
「おいあんちゃん、この街のこと知りたいなら尋ねる場所間違ってんぞ?わざわざ番屋のとこに来てなにを知ろうってんだ」
入り口の傍らにいた顔に傷がある男が嘲笑混じりにそう言う。
そんな男の態度に気分を害する様子もなく、遠夜はなおも飄々と続ける。
「ここ最近、不可解なことが起こってんじゃない?足抜けがやたら多かったり、不可解な死人が出たりとか」
奥にいる男の眉が動く。
「兄ちゃん、何者だ。この街の人間ならともかく、余所者のお前さんがそれを知ってるのはちと変じゃねぇか」
「なに、その原因排除が俺の仕事でね。表の連中が知ってるのは事故死があったという事実程度だ。そこでそういう事件の類を処理してるあんたらに話を聞けたらなって」
「………兄ちゃん、何者だ」
「んー?んー…ただの盲目の小僧だよ」
「舐めてんのか小僧」
入り口の傍らにいた男が短刀を遠夜の首元に向ける。
それでも遠夜は態度を崩さず顔を男に向ける。
「おいおい勘弁してくれよ。そんなもん向けられたら怖くて動けねえよ」
「小僧……」
「よせ、そこまでにしておけ」
奥の男がそう言うと、遠夜に短刀を向けていた男は下がり、短刀をしまった。
「さて……落ち着いたとこで話をしようじゃないか、兄ちゃん」
「話が早くて助かるよ」
「まずは、名前だな。俺はこの花街の番屋を取り仕切ってる源信ってんだ。お前さん、名前は」
「無道遠夜」
「無道か。さて無道、お前さんはなにが知りたくてここに来た」
「さっきも言ったが、この街で不可解なことが起こってんだろう。それの原因となるものの排除だ」
「へえ……確かにお前さんの言う通り、今この街では色々とやべえことが起きてる。その原因がわからないうちに、うちの若え連中が消された。何人もだ」
源信は憂うように目を伏せて拳を握った。
「現場を見たが、ありゃ人ができる所業じゃねえ。なんだ、怪異かなんかいんのかこの街は」
「強ち間違ってはいないかな」
「ほう……」
「源信さん、ここは取引といきませんか」
「取引?」
「ええ。俺はこの一件を終わらせる、あんたはこの一件を終わらせるための情報を俺に寄越す。どうだい、悪い話じゃないだろう」
源信の雰囲気が変わる。
先程までの張り詰めた雰囲気から更に厳しい気配となり、刺すような殺気が感じられる。
「あまり調子に乗るな、小僧」
源信は懐から取り出した小刀を投げる。小刀は遠夜の頬を掠め、壁に突き刺さる。
「お前がこの事態を解決できるってのなら、こちらとしても歓迎だ。俺らじゃどうしよもないからな。だがな、何事にも筋を通さなきゃならん。お前が何を知り、何ができるかは知らねえが、取引だってんならまず持ちかけたお前さんがこちらを交渉の要となる事前知識を寄越しな。お前がどう解決するのかはわからんがな、その結果この街が壊滅しましたじゃ話にならねえんだ。だからまず俺達に誠意と手段を提示しろ」
「なるほど、そいつは道理だ。あんたらにとってこの街全体が仕事場になってんだ。事態を解決して街が無くなるくらいなら騙し騙しでも街が存続してくれた方がいいわな」
羽織に隠された刀を鞘ごと腰から抜き、床に置くと同時に遠夜は地面に腰を下ろす。
「じゃあまず、件の原因について」
ーーー
「……なるほど、その鬼ってのがこの街にいて、そいつが色々とやんちゃしてやがんのか」
源信は煙管を弄びながら遠夜に目を向ける。
「そういうこと」
「その鬼をさっさと見つけて殺せばいいと」
「この街にいるってことしかわかってないから、そう簡単にはいかないけど」
「……そんで、居場所を探るために俺らの情報が欲しいと」
遠夜は肩を竦めるだけして肯定も否定もしなかった。
源信は顎を撫でながら遠夜に目を向けて言う。
「その鬼を探して殺す手段はどうする」
「探す手段についてはある程度の場所が絞れれば相手に悟られずに特定できる」
「ならばしらみ潰しに探せばいいんじゃねぇのか」
「この街広いでしょ?下手に探し回ればそれを悟られて不意打ちを喰らいかねないんでね」
「…ふん、探した後はどうする」
「できれば穏便に暗殺でもしたいが、相手はかなりの手練れだ。こちらも街も無傷とはいかんだろう」
「お前さん、かなり強いだろう。さっき刀を向けられても微動だにしなかった。ただ者じゃねぇことくらいわかる。そんなあんたですら、命懸けになると」
「なるね。むしろ事態が解決した時に生きてる確率の方が低いだろうよ」
その言葉に源信はため息を吐く。
周囲の男達もわずかに騒めきだし、事態の深刻さを理解し始めた。
「チッ、やべぇ案件だとは思っちゃいたがここまでたぁ思ってなかった」
「どう?力を貸してくれるかい?」
「……一つ条件がある」
「なんなりと」
「その鬼の場所がわかったら俺らにも知らせろ。鬼殺しには加われんが周辺の人間の避難くらいは俺らが呼びかけりゃできる」
「願ってもない。こちらとしても一般人は巻き込みたくないんでね。それに周囲に下手に人がいない方がこちらもやりやすい」
「交渉成立だ」
源信が差し出した手を遠夜はしっかりと握る。
手を離すと源信は煙管を遠夜に向けて、不敵な笑みを浮かべた。
「さて、今度はこちらが筋を通す番だな。なにが知りたい」
「ここ最近で死人が出た事件、あとはあんたらから見て不可解だと思える事件全部の詳細」
「はっ!全部ときたか!いいぜ、そのかわり俺に喋らせんだ。しっかり活用しやがれ!」
「情報次第だな」
「ケッ、食えねえ奴だ。まぁいい。死人に関しては、ほんの数日前にあったな。ありゃあ、京極屋だったな。そこの女将が2階から落ちて死んじまった」
「それだけだと別段変な話には思えないなぁ」
「まぁな。だが、俺が妙だと思ったのは死体の損傷具体よ。お前さんも街を見たならわかるだろうが、ここいらの建物は大した高くねぇ。2階から落ちたとしても死ぬことはそうねぇ。ま、打ちどころが悪けりゃ話は別だがな」
実際花街の建物は全体的に標高が低い。故に落ちたとしても骨折程度で済むのが大半だろう。無論源信が言ったように打ちどころが悪ければ亡くなる事例もあるが、それは稀だ。
「亡くなった女将の遺体はひでえもんでな。かなりの高さから落とされたようにしか見えん」
「そんな高い建物、この辺りには無いはずだが」
「そ。だから不可解だってんだ。それに京極屋はその女将の葬儀すらロクなできず今も平常にやってんだ。どう考えてもおかしいだろうよ」
「なるほど、ね」
葬儀すら行われないのは流石に違和感が大きい。女将ということはその店の中でも立場は上の方だろう。店を運営していくためには必要な存在を葬儀すら行わないのはどう考えてもおかしい。
「聞いたたけじゃその京極屋ってのが真っ黒って印象だな」
「そう考えても仕方ないが、こういう異変は他の店でもあってな。最近はやたら足抜けが多い。本来なら足抜けなんぞ短期間で何回もあるもんじゃねぇ。なのに最近はこの様だ」
「……死人は、ここ最近では京極屋だけか?」
「いや、表沙汰にはなってねぇが他にも何人か死んでる。うちの下っ端から遊女までな。だがそんな数は多くねぇ。こいつに纏めて……っと、すまねぇ。お前さんは目が…」
「いや、見えないわけじゃない。見せてくれ」
目が見えないわけではないのに目隠しをしている遠夜を訝しむ様子はあったが、源信が寄越した紙の束には死人の名前と現場の状況が書かれていた。目隠しをずらしてそれに目を通していく。
「…死んだ人間にあんま共通点は無いな」
「だからこっちも困ってんだ。ったく、こんな面倒にゃ関わらないが一番なんだがなぁ」
番屋という立場上放置もできないが、下手に藪を突けば全滅しかねない。相手が鬼ならば、鬼殺隊でない彼らが下手に動けばそうなることは自明だろう。
(たしか京極屋は…天元さんの嫁さんが潜入してるとこだったな。ってことは、誰かしら今も潜入してるんだろう)
天元の話と源信の話を纏めると限りなく京極屋が黒い。だが天元が詳しいことがわかっていない時点で京極屋には深く探りを入れられない状況であることがわかる。
「うん、早めに動いた方が良さそうだ」
「なんかわかったかい」
「予測の域は出ないけどな。最後に京極屋についてもう少し教えてくれるかい」
「やっぱ京極屋か」
「本命じゃなくとも、本命に近づく何かはあるだろうよ」
「…そうかい。京極屋についてだったな。あそこにはこの花街で二人いる花魁の一人がいる。名を蕨姫花魁。数回、遠目に見ただけだがありゃあ別嬪だ。花魁になるだけある」
「へえ」
「ちっとは興味あるような返事しろや小僧が。で、この蕨姫だが……どうやら癇癪持ちらしくてな。恐ろしく別嬪だが、色々と黒い噂は絶えねえ。いじめ、嫌がらせ、果てには暴力と」
「俺は遊郭の事情には詳しくないが、そんなんで花魁が務まるのか?とても客が寄り付くような噂じゃないが」
「そんな噂があってもなお会いたいと思えるほど別嬪なのさ。それにあの花魁が稼いだ額は計り知れねぇ。京極屋はあの花魁のおかげで成り立っていると言っても過言じゃねえのさ。あんまこういう事言いたかねぇが、あの花魁以外にまともに逆取れる遊女もいないんでな」
「ふむ……なら黒い噂があっても解雇できんわな」
「あーでもあれだな、最近ちょいといい女が入ってたな。名前は忘れたが、ありゃなかなか上等だった」
最近というと、それはやはり天元の嫁の一人だろう。連絡が取れない以上どういう状況かはわからないが、無事ではない。
それがわかっているから天元は遠夜を呼びつけた。
「いい話が聞けたよ」
名前のでた全ての店の位置と名前を記録し、懐から銭袋を取り出してある程度まとまった額を置いた。
「おいおい、金を要求した覚えはねぇぞ」
「まーそう言いなさんな。だいぶ助かったんでね、それで新しく人でも雇ったらどうだい」
「……けっ、本当に食えない小僧だな」
「んじゃ、そちらも『頼んだ』よ」
それだけ言って遠夜は去っていった。
「頭、あんな小僧にいいように言われてていいんですかい」
男の一人が源信にそう告げる。
遠夜は男達から見ても明らかに歳下かつ余所者。なのにあそこまで大きな態度をされると例え彼らが番屋じゃなくともあまり良い気はしないだろう。
「いいんだよ。あのテの奴は言動こそふざけちゃいるが仕事はする。俺らだけでどうすることもできないなら、多少ふざけた野郎でも喜んで手ェ貸してやらぁ」
「……しかし」
「それに、あいつの方が余程危険な目に遭うんだ。態度くらい、大目に見てやるさ」
源信は立ち上がると控えていた男達に向き直る。
「今から京極屋周辺の話付けにいくぞ。避難はまだだが、せめて話だけでも通しておかにゃいざ避難する時に混乱するだけだ。手分けしていくぞ、いいな」
『承知』
「行け」
源信の言葉と共に男達は小屋から出ていき、各々店に向かっていった。
「やれることはやる。あとは頼んだぜ、無道遠夜」
煙草を吹かしながら源信は源信で仕事へと向かった。
*
「首尾はどうだ」
夜になり遊郭が賑わいだしたところで、遠夜は天元と合流した。
「だいぶ絞り込めたかな。天元さんの嫁さんが潜入してる店は色々と噂が絶えん。嫁さんそのものがどうなったかまではまだなんとも言えないが、なんにしてもは無事では無さそうだ」
「……そうだな」
顔を顰める天元を横目に目隠しを外す遠夜。
「ここ最近、足抜けが増えてるみたいでね。それだけ聞いたら何とも思わんが、どうやら足抜けってのはそうそうあることじゃないらしい。だから番屋の連中もよく覚えてるみたいだ」
「続けろ」
「一番変なのは足抜けした遊女のことを店側が把握してないことだな。店側としても遊女がどれくらい稼いでいるかは把握してる。なにせ遊女は大体借金の返済を目的としてるからな。下手に足抜けして逃げ出してみろ。残された家族が取り立てられて不幸になることくらい目に見えてる。そもそも遊女ってのは借金を返すために身を売る覚悟があって初めてなるものだ。例外はいるだろうがな」
「だろうな」
「だが変なのが、『足抜けする必要のないくらい稼いでいる遊女』の方が多く失踪している事だ。もう少しで借金返し終わるくらいの奴も消えているらしい」
「…それは、派手におかしなことだな」
「そ。だから今起きてるのは足抜けに見せかけた何かってことがわかったくらいですかね」
その後も遠夜は続ける。
消えている遊女は皆この遊郭で才覚や美貌を認められた遊女ばかりなのだという。そしてその遊女達は消える直前まで普通に仕事をしていたのに、次の日の朝には消えていたのだという。
遊郭である程度話に上がるような遊女が足抜けの必要など無いのにもかかわらず、このような失踪が続いているため番屋もお手上げ状態。足抜けだとして身元を追っているが全く掴めず、挙げ句の果てには下っ端がバラバラにされた。
「結構なやり手だね。これは上弦がいると見ていいんじゃない?」
「気配のぼかし方が派手に上手い。これは下弦でできるようなものじゃねぇ。俺は初めから上弦だと睨んでたよ」
「さっすが。元忍は違いますな」
「で?居場所の目星はついてるのか?」
普段見せない目を細めながら遠夜は告げる。
「ときと屋か京極屋のどちらかだろう。そこにはこの街の花魁がいる。有名かつ美人な人から消えてるのにこの街屈指の美人が消えてないならそれは疑われるでしょ」
「どちらも俺の嫁が潜入したとこ、か」
「ま、多分京極屋だろうけどね」
「根拠は?」
「あそこの花魁、黒い噂しかない。叩けば叩くほど埃が出てくる。周囲の人間に対して散々な当たり方してるみたいだから。
対してときと屋は人格者だの優しいだのそういう話しか無い。基本人間を見下してる鬼がそんな人間に優しいとも思えん。超絶演技派って可能性もあるけど、もう片方が埃まみれならほぼ決まりですよ」
「そこは調べたのか」
「調べたいのは山々ですけど、下手に探りを入れてこちらの存在に気づかれるのも良くないかなって。一度軽く探りを入れたかったけど、なんの準備もないうちに動くのは悪手かなって。ちゃんと連携した上で行動しないと二度手間になるうえに犠牲が増える」
天元は遠夜の話を聞きながら頭の中で情報を整理し、今後の方針を組み立てる。
現在潜入してる炭治郎、善逸、伊之助の三人の話を聞く限り鬼らしい情報は得られていない。潜入したてで仕事をこなす事で手一杯な部分もあるだろうが、それを抜きにしても鬼は姿を隠すのが上手い。
色々と噂に出る京極屋とときと屋に潜入させていた嫁から連絡は途絶えた以上、この二つの店に何かがあるとは思ったが、内部事情は街の人からは聞けず、店の人間は口を閉ざしてしまったため探れなかったが、遠夜が色々と情報を集めてきたおかげで京極屋にほぼ当たりをつけていいことが確定した。
だが仮に京極屋に乗り込むとして、あの三人を連れて行くかどうかで天元は悩む。あの三人は才能があり、このまま経験を積めば柱に至れるほどの才覚を秘めていると天元は考えている。だがまだ上弦と戦えるほどの実力は無い。それほどの才能を持つ者をこのままみすみす死地に連れて行っていいのだろうか、と。
「…とりあえず、あの三人は帰らせる」
数瞬間悩んだ後、天元はそう判断した。
「へえ」
「俺らでも危ねえ相手だ。あいつらをみすみす死なせるわけにはいかねえ」
元々天元の任務であり、あの三人は半ば巻き込まれる形でこの任務に参加している。わざわざ危険な目に遭わせる必要はないと天元は考えた。
そんな天元の言葉に遠夜は皮肉げに笑う。
「…なんだ、地味に腹立つなその笑い。なんか文句あんのか」
「いや、あんたの判断に従うさ。別段文句も無いしね。でもわざわざ気ぃ使うなんて、案外優しいよね天元さん」
「お前に言われても嬉しくねぇよ」
「いやさ、返す事には反対しないけど、それを素直に聞く連中だと思う?伊之助は猪突猛進馬鹿だし、善逸は女性が危険なら怖がりながらでも戦う。加えて炭治郎は超絶お人好し。絶対ごねると思うけど」
「む……」
そう言われるとそう思える。実際あの三人は形は違うが皆お人好しだ。故に人が危険な時に見捨てられるような心は持っていない。それがわかるため天元は遠夜の言葉に口をつぐむ。
「ま、次に連絡きた時に言ってみたらどうですかい。どーせ、反発するだろうけど」
「だが危険だ」
「そんなのあいつらもわかってて来てるでしょうに。ま、好きにしてください。俺はどちらでもいい」
天元がどう返すかを悩んでいると、遠夜は天元に向き直り言った。
「一応言っておきますが、俺としてはあいつらにはいて欲しい。きっと助けになるから」
「………」
「んじゃ、もうちょい調べてきますわ」
そう言って遠夜は姿を消す。
一人になった天元は空を見上げた。半月が空で輝いており、遊郭の光が星の光を見えなくさせる。
「お前、そんな目をしてたんだな。無道」
ずっと目隠しをしていたため、天元は遠夜の目を見るのが初めてだった。正直もっと濁った目をしているのかと思いきや、思いの外澄んだ瞳をしており、少しだけ驚いた。
だがそれ以上に抉られた痕が残る左目の紅い瞳に目が行った。鬼と同じ色だったが、それが人の目であることはわかった。
「…チッ」
何故かはわからないが、遠夜のあの目が異様に腹立たしく思えて天元は一人舌打ちをした。
あけましておめでとうございます。
分岐ルートどちらから?(最終的にはどちらもやります)
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鬼化ルート(2〜3話で完結)
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通常ルート