幻想郷の空を飛び、博麗神社へと向かう霧人と魔理沙、そして上海人形。そこで出会ったのは妖怪退治をする巫女「博麗 霊夢」であった。
霊夢と霧人が話をしていると、人間の子供が霊夢に助けを求める。
その少年は、母が熱を出していたため魔法の森の中の薬草を取るために穂紀(ほのり)という少女と森の中へ入るも、妖怪が現れ、その場から逃げたもの、途中ではぐれてしまったという。そして、霊夢が霧人への反対の言葉を魔理沙が押し切り、森へと入っていく………
魔法の森………
「……魔理沙」
「んー?」
穂紀という少女を捜索している中、突然霧人が魔理沙を呼び止める。
「…なんというか…よかったのか…?」
「あぁ、あいつは結構慎重な時もあってさ、まぁこんなもんでいいのさ。」
随分と雑にも見えるが、そんなフォローでも霧人の心の支えとなる。
というより、今は難しいことより大雑把なフォローをもらったほうが楽になれるのだろう。
「そう…か…ありがとう、魔理沙。」
「へへっ、礼を言うのは穂紀って子を探して無事に帰ってきた時だせ!」
だが、よく発言を聞いていると密かに恐れていることがなんとなくだが霧人は把握する。
おそらく、霧人を守れたとしても自分一人と人形一個で穂紀という子まで守れるか、それとも逆か、あるいはどちらも守れないか、少し不安なところもあるのだろう。
だが、それでも霧人の前ではそんな不安は出さないようにと気をつけている感じもする。
「…あまり無理もしないようにな?」
「?なんのことだぜ?」
「…あー…まぁいいや。頑張って探そっか。」
「??」
そんな会話をしていると、
「だ……だれ?」
近くから何かに怯え切った少女の声がする。もしかしたら、穂紀という子かもしれない。
「?今のは声か?」
「だね…どこだい?教えて!」
「…ここ……」
すると、霧人の願いに応じて近くの木の影から一人の少女が出てくる。和服に身を包み、白いセミロングの髪の少女が出てくる。その表情は今にでも泣きそうである。
「…まさか…この子のことか…?どう思う?」
「…さぁ……君が穂紀ちゃん?」
魔理沙の疑問に答えながらも霧人は和服の少女に問う。
すると少女はコクリと小さくうなづく。
「よかった…君と一緒にいた子から探すように言われたんだ。怪我とかない?」
「…お兄ちゃん達…助けてくれるの…?」
「まぁな、私は霧雨 魔理沙。こいつは月神 霧人で、私たちはお前を助けるために来たんだぜ。」
すると、魔理沙の発言により安心したのか、少女の目から涙が落ち始める。
「ほら、一緒にここを出よっか。」
霧人は紳士的な感じに少女と同じ目線になり、手を差し伸べる。
「…うぅ…うわぁぁぁぁん!!!」
大きな声を出し、そのまま霧人に思い切り抱きつく。それももう離さんとばかりにしがみつく。
「おー。」
その横で魔理沙は赤の他人かのように少女と霧人を見ている
「怖かったよぉ…!食べられるかと思ったぁ……!」
「よく頑張ったね…もう大丈夫だ。」
ずっと感情が溢れるのを抑えていたようだ。それが霧人と魔理沙が現れたことで安心感が溢れ、感情を思い切り溢れさせながら霧人の胸に飛び込み声をあげて泣いている。
そんな中、霧人は少女をなだめるようにそっと腕を回し、頭を撫でている。
「もう一度聞くけど、君が穂紀でいいんだよね?」
穂紀「うん…私が穂紀だよ…」
どうやら早い内に当たりを引いたようだ。この子で間違いない。この子が穂紀という少女だ。
「どうやら当たりのようだぜ。これで一件落着ってやつだな。」
「怪我はない?」
「うん…気づかれるまえに逃げれたから……」
現れたとは言え、妖怪自体が気づいていなかったようだ。それだけでもかなりの幸運だ。妖怪に気づかれたら恐らく、最低でも怪我はして、最悪死ぬことになるだろうからだ。
そんな状況に陥りかけた穂紀自身が何事もなかったことに霧人はかなりホッとする。
「まぁ、とりあえず無事でよかった。よし、早めに出ようか。」
「うっし!妖怪が来る前にはやく出ちまおうぜ。」
すると、近くで物音がする。
ガサゴソとまるで近くの草木を掻き分けるような音だ。
「…?なんだ…この音…」
「どうした霧人…早く博麗神社へ戻ろうぜ?」
「待て白黒、何かいるぞ…」
白黒とは魔理沙のことだろう。
服の色などからしておそらくだが。
「白黒って…この人形は…」
「まぁまぁ……」
揉め事に発展しそうと感じたのかすかさず霧人は止めにかかる。
人形と魔法使いの揉め事とはまたシュールな光景(幻想郷だとよくあるかもしれないが。)だが、今はそれよりも、今の物音が霧人には気になるようだ。
「…(どこから来る?もしかしたら本当に妖怪かもしれない……俺に何ができる?とりあえず、穂紀ちゃんを背負って逃げることはできるが…魔理沙だけを一人にすることなんて…)」
と、悩んでいると
「霧人、もしかしたら妖怪かもしれないぜ。そういう時は…この子を連れて逃げてくれ。」
「!魔理沙…お前…」
まるで心でも読まれたかのような回答である。魔理沙が霧人に言った言葉はまさに今霧人自身が考えていたことである。
「だが…危なくないか?」
「なーに言ってんだ。能力も魔法も使えない普通の人間のお前がいても逆に危なくなるだけだぜ。それなら私が妖怪を引き付ける方が百倍マシだぜ。」
「………」
少し心にくるような発言であるが、霧人は言わば普通の人間、できること言えば穂紀の手を引き逃げること。今この場において能力などの力を持つのは上海と魔理沙だけ。霧人と穂紀は普通の人間。その上霧人は幻想郷の人間ではないため、幻想郷の人間なら倒せるような低級妖怪相手にも命を落とす可能性だってある。
そうなれば、ただ魔理沙と上海の手を煩わせるだけであって言ってしまえば「邪魔」でもあるのだ。
「…分かった。そうなったら頼むぞ、上海に魔理沙…」
「おう!任されたぜ!」
「ま、心配なんかする必要はないがな。」
霧人にとってはイマイチ腑に落ちないことではあるが、この場では魔理沙の発言を鵜呑みにすることにした。
そして、草木を掻き分ける音は次第に近づき、やがてその姿を現す。
「あら?霧人に魔理沙…そしてその子は?」
「………」
そこに出てきたのは頭に大きな紅白のリボンに巫女を思わせるような服装の女性。
そう、博麗 霊夢であった。
「なんだ霊夢かよ…脅かすんじゃあないぜ……」
「…え?なに?霧人…どういうこと?」
「……俺に説明を求められても困る…とりあえず察してくれ……」
「……??」
そのあと、特に妖怪も現れるような様子はなく、霧人に魔理沙、霊夢に上海、そして穂紀は無事に博麗神社へと戻ることができたのだった。
博麗神社 境内……………
「まぁ…なにがともあれ何事もなく無事で終わってよかった…」
あの後、博麗神社に穂紀を連れて行くと少年は泣きじゃくるように穂紀に抱きついて「ごめんなさい…ごめんなさい…!」とずっと謝っていた。そして穂紀は抱きつく少年を優しく抱き、撫でてなだめていた。
その様子は少年の実の姉を思わせるようであった。
「本当に兄弟みたいよね。あの二人。」
「うん、俺もそう思った。」
しみじみと思いながら境内でお茶を飲む霊夢と霧人。
この日は朝に博麗神社に向かったというのに今じゃもう夕方である。夜に向けての涼しい風に橙色に輝いた夕日が影を作る。
「今日はどうするの?」
「どうしようかな…今日はもうこんな時間だしな……」
前日、魔理沙の家でアリスと魔理沙と共に紅魔館に行こうと決めたのはあの時も夕方であった。あの時アリスに今の時間に紅魔館に向かうのはとても危険というからあの日は魔理沙の家で夕飯を食べ、アリスの家へと帰り一日を終えたが、今日の時間はあの時と同じ夕方。あの時のアリスの警告通りこの日は紅魔館に向かうのはやめにする。霧人はそう決めたのだった。
「そうね。今日は泊まって行きなさいな。布団もあるから。」
「いいのか?」
「いいから言っているんだろ?紅白は。」
「紅白……」
上海は霧人以外は名前で呼ばないのか、魔理沙は白黒、霊夢は紅白と見た目の色で呼び名を決めているように見える。
「…あのねぇ…私にはちゃんと博麗 霊夢って名前が…」
「べつに私がなんて呼ぼうといいだろ?細かいことを気にしてると禿げるぞ?紅白。」
「……」
完全に上海のターン。霊夢は手出しできない。
「そ…それだったら霧人のことは[白髪頭]と呼びなさいよね…」
「霧人は別だ。ご主人から守るように頼まれてる。言わば護衛対象だし、まだ会ったばかりだから名前を覚えておきたいのもあるしな。霧人は霧人だ。それに幻想郷になもう一人、白髪頭と呼ばれていい奴はいるしな。」
「……むぅ……」
そして論破。
上海はこういう時の会話ではかなり強いのかもしれない。
「……好きで白髪頭になっているわけじゃあないわい…」
生まれた時からか、霧人は白髪であった。そのため好き好んで霧人は白髪頭になったわけじゃないという。
「まぁそんなことはもういいわ。で?泊まっていくの?霧人」
「…そうだね。ここならまた魔理沙と合流できるから今日は泊まらせてもらおうかな。」
穂紀を探し終えたあと、その時はすでに夕日が差し込むような時間帯で、霧人はこの日に紅魔館へ向かうことを断念した為、魔理沙はすぐに家へと帰ったようだ。
「わかったわ。ご飯とか作ってくるから待っててね。」
「うん、ありがとう。」
そして、この日は夕飯を終え、風呂へ入り、そして布団へ入り、静かに眠りについたのだった………
翌日………
「…Zzzz…」
この日は曇り。
分厚く、また少し色の悪い雲が空を覆っている。あまり日の光が刺さないせいか若干風が肌寒く感じる。
「起きろ」
その横で西洋人形のように座りながら寝ていた上海人形が霧人の腹部へ突進する。
「がっ……!?」
小さい頭は綺麗に鳩尾にはいる。
一瞬呼吸が止まり、そのせいで霧人はまた目覚めの悪い朝を迎えてしまう。
「……(今年の俺は厄年なのか…?)」
博麗神社 食卓内……
「ごちそうさま。」
「お粗末様でした。」
この日の朝食は霊夢による手作りの和食の定食的な物である。
洋食は目を冷めさせるような濃い味であるのに対し、和食はその朝を穏やかに目覚めさせるかのような濃くもなく、若干薄目の優しい味である。
和食と洋食、どっちが好きかと聞かれたら洋食と答えるような霧人であるが、こういう時に至っては断然に和食派らしく、見事に平らげる。
「お茶はいるかしら?」
「あぁ。頼むよ。」
こんな朝でも巫女服に身を包む霊夢は霧人のぶんの食器を持ち、台所へと向かっていく。こうして見ると夫婦にも見えなくないが、あくまで霧人は泊まらせてもらっている身である。
「………」
「どうした?霧人。」
「いや…妖怪がいるとかアリスから聞いたからどれくらい修羅場なのかなと思ったんだけど…思っていたより平和だなって思ってさ。」
そんな風に会話を交えていると、
「…たまに修羅場になるぞ。」
「え?」
先ほどまで平和に浸かっていた霧人の目を覚まさせるかのような一言が返ってくる。
「…たまにってどういうこと?」
「そのまんまの意味だ。この幻想郷にはお前の言うような修羅場がたまにやってくる。それを幻想郷では[異変]と呼ばれてるんだ。」
「…異変…」
まるで霧人が思っていた幻想郷が少し実現したかのように思える。人間と妖怪の住む幻想郷。だからこそお互いの生存をかけての争い、または虐殺などがあるのではと霧人は思っていたようだ。
だが、今のところそういった雰囲気には思えない。曇り空であるため、気持ち良くは無い物、いつも通りの風が吹いており、昨日の穂紀のようなことがないところを見れば、今のところその異変と呼ばれる修羅場はないようである。
「その異変っていうのはどんなのがあるんだ?」
「小さい物から幻想郷全体を揺るがす物かな。ご主人曰く、中には春なのに雪が降り続けるというものもあったらしい。」
「…それは幻想郷全体を揺るがす類のものか?」
「そういうことになるな。」
少し聞いてみたが、実際はかなり凄まじいものであった。
春なのに雪が降る。普通なら考えらないことだ。だが、幻想郷だからこそそんな常識からかなり離れたことも起こりうる。
幻想郷では常識に囚われてはならないのだろうか。
「うわ…それはまた恐ろしいというかなんというか…」
とか話していると
「春雪異変よ。」
その横から霊夢が割って入ってくる。春雪異変とは先ほど上海が言った異変のことだろう。
「春雪異変?」
「そう、あの異変はそう呼ばれているわ。はい、お茶。」
どうやらお茶を入れ終えた時に異変のことが聞こえたようだ。
その証拠にお盆には霧人と霊夢の物であろう湯のみが二つ並んで運ばれていた。
「なぁ霊夢?詳しく聞かせてくれないかな?その…春雪異変だっけ?」
「いいわよ…と言ってもただ春なのに幻想郷中では雪が降っていただけよ。そんな詳しく話すことなんてないわ。」
詳しく聞きたかった霧人の期待と相反するかのようなとても簡素で単純な答えが返ってきた。
「そういえば、あなたのご主人もその時はなんかわけの分からないことを言っていたわね。ね?お人形さん。」
「ご主人が…?なんて言っていたんだ?」
上海(自立思考型上海人形)は最近作られたのか、その当時のことを知らない様子である。
「なんか出てきたと思えば「久しぶりね。」とか私のことを「旧友」とか言って来てね、本当にあの時は訳が分からなかったわ…初対面の相手に「久しぶり」なんて言うなんて、名前の通りに不思議の国にでもいるのかしらね。」
不思議の国のアリスか。
上手いのか皮肉なのかよくは分からないが、霧人はそんなことがあったんだな程度に頷く。
「不思議の国のアリス…か…それは実際にそうなのか?」
「さぁね、私が知るわけないじゃい。」
ふてくされているような返しだが、上海も知らない以上、霊夢が知るわけでもないのはなんとなく頷ける。
そんな話を進めていると。
「おーい!霧人ー!霊夢ー!」
神社の境内からいつでもフルパワーがモットーそうな声が聞こえる。
そして、なぜか上海だけは呼ばれないのだ。
「来たようね。霧人、準備はできた?」
「あぁ、いつでも。」
「………私は?」
忘れられでもしたのだろうか、上海の名前はいつまで経っても呼ばれない。白黒と呼ばれたのがそこまで気に食わなかったのだろうか。
博麗神社 境内……
「よう!幸運の魔法使い、霧雨 魔理沙の登場だぜ!!!」
案の定、かなり前向きである。
その上、昨日のお茶に茶柱が立ったのがそれほど嬉しかったのか、まだ自分のことを[幸運の魔法使い]と呼んでいる。
「は…はは…おはよう…魔理沙…」
「んだよー、やけに元気がないじゃないか。これから紅魔館に向かうんだぜ?少しモチベーションでも上げたらどうだ?」
「そ…それもそうだな…」
霧人は元気がないわけでもなければ、これから紅魔館に向かうからと言って緊張しているわけでもない。
魔理沙のテンションについていけないだけである。
「ま、さっさと言ってさっさと帰ってこようぜ!あんま危なっかしいところにいていいものもねぇしな!」
「そうね、あなたのその相変わらずとも言えるテンションが下がる前にさっさと行きましょうか。」
ようやく…といってもいいのだろうか。紅魔館へ向かうと言って2日にてやっと本格的に向かうことになりそうだ。本来は博麗神社で霊夢を迎えて紅魔館に向かうという計画が、まさかの人助けの依頼が来て、それにより一日が過ぎてしまったのだ。
これは計画的…と言ってもいいのだろうかはまた正直微妙な所だ。
「…今度は夕暮れ前に行けるといいがな…」
「そうだな、行くと決めた日も夕方で断念して…昨日に至っては人助けで一日が過ぎたもんな。なーんか計画的じゃないが…まぁ今日は大丈夫だろ!」
「…だと…いいがな…」
正直またそうはならなそうな気がするが(俗にいうフラグである。)今回ばかりはそうはならないように祈るしかないだろう…と霧人は祈るばかりであった。
博麗神社→霧の湖にて……
博麗神社から紅魔館へ向かうにあたってその中間地点のような湖がある。それは幻想郷では「霧の湖」と呼ばれている。その名の通り薄い霧が出ており、その上少し肌寒く感じる。
今の季節は秋。霧の湖では少し早めな冬を迎えているような気分になれる。
「はー…こんなでかい湖があるのか……」
「ここは霧の湖。紅魔館へつづく中間地点みたいなもんさ。」
魔理沙は箒で飛び、霧人はその箒に乗るため霊夢はどうやって向かうかと気になってはいた…だが実際は…
「気を抜かないことね。ここではたまに妖精が絡んでくる時があるから。」
「…飛んでる…」
まさかの浮遊して飛んでいる。
ヒーローアニメなどではかなり鉄板(といってもアメコミのスーパーヒーロー)なものであるが、それと同じように霊夢は飛んでいるのだ。しかも、鳥のような翼やロボットのようなジェットエンジン、ヒーローのマントのような小道具など一切なしに飛んでいるのだ。
「霊夢がどうやって飛ぶかは気になっていたんだが…まさかそのまま飛ぶなんてな…かなり予想の斜め45°どころか270°に言った気分だよ…」
「…?」
霊夢と魔理沙には霧人が何を言っているのかはよくは分からないようだ。それに、270°は真下である。斜めどころか下に落ちているようなものである。というか、そんなジョークかボケかは分かりにくいが気づけない人のほうが多いだろう。
「まぁ、何を言っているかはよくは分からんけど、とりあえずそのくらい予想外ってことでいいよな?」
「…まぁ、それでいいや。」
それにしてもまたこの湖は肌寒い。飛んで、風をまともに浴びているせいか、かなり寒く感じる。長くにでもいたら風邪を引いてしまいそうなほどだ。
「…寒いな…ここは…」
「そうね。まぁ、この湖に至ってはいつものことよ。」
「…?いつもなのか?」
「まぁな、この湖にいる妖精がそうしているようなものさ。夏はありがたいが、冬は迷惑だぜ…」
魔理沙の口からは妖精という単語が出てくる。これも幻想郷ではいることが普通で、妖怪と同じような存在なのだろうか。と、ふと考えていると。
「…霧人…ちゃんと捕まっとけよっと!!」
「え……のわっ!?」
魔理沙は突然箒を下へと急旋回する。すると、先ほどまで魔理沙のいたところに大きな氷塊のような物が飛んでくる。
あまりにも唐突であったため、霧人は魔理沙にしがみつくくらいしなかできなかった。
「…氷?一体何なんだ?」
「前を見な。霧人。」
「……?」
魔理沙の言うとおりに前を見る。
すると、そこには水色の髪に可愛らしい水色のリボンをつけ、そこに白と水色の服装の少女がいた。背中には横長のひし形の氷の羽のような物が六つあり、少女の周りには白い冷気のような物をまとっていた。
「……あれは?」
「あれがさっき言っていた妖精よ。」
魔理沙とは逆方向に避けた霊夢が魔理沙達の箒へと降りてくる。
見たところ無傷でちゃんと避けれたようだ。
「あれが?」
「あぁ、あれは氷の妖精[チルノ]だ。」
「氷の…?」
チルノと呼ばれる氷の妖精の周りは先程の霧の湖を飛んでいた時よりも冷えており、もはや冬の風を浴びている気分になってゆく。氷の妖精はその名の通りで冷気を操るような感じである。その証拠に、先程の氷の塊がチルノの飛ばしてきた物と言われれば頷けるところもあるのだ。
チルノ「ふっふーん…幻想郷最強の妖精であるこのあたいの奇襲攻撃を破るとはね…褒めてあげる!」
「…えーと…なんなんだ?自分のことを最強って……」
「あー、あれはチルノの口癖のようなもんだぜ。何かしら自分のことを最強と言ってな、妖精の分際でよく言えたもんだぜ。」
今の魔理沙の発言から察するに、妖精は力のない種族と分かる。妖怪とくらべどちらが力があるかは分からないが、そこまで力があるわけでもなさそうだ。その中でチルノは最強らしい。
「あー!今あたいのことを馬鹿にしたな!この…あー……白黒泥棒!」
チルノの口調は育ち盛りの子供で、その上男の子のような口ぶりだ。その上、なんて言おうかと思いつかないあたり、頭はそんなに良くはなさそうな気がする。
「とーにーかーく!あたいのことを馬鹿にするなんて…万死に値することを後悔しなさい!!」
「…?今なんて…」
おそらく、とりあえずかっこいいことを言ってビビらそうと思ったのだろう。使い方は間違っているあたり、かなり、残念な頭だと思えるだろう。
「…魔理沙…あの妖精って…」
「あぁ、馬鹿の一言だ。まぁ基本的に妖精の中で頭のいい奴なんでそうそうにないな。」
「まぁ…ずる賢さに至ってとても優秀だったりするのだけれども…なんでそんな賢さを頭脳とかに活かせないのかしら…」
魔理沙の言っていることはなんとなく理解できるが、霊夢に至っては皮肉のように思える。それほど妖精がいじられやすいのか、それとも残念なのか。
「もー!あたいは怒ったからね!覚悟しろぉ!!」
ズビシと人差し指を霧人達へと突きつける。まるで撃退予告のように思える。
「魔理沙…少しまずいんじゃないか?」
「んー?何がだ?」
霧人はチルノを観察し始める。見た感じはやはり少女ではあるが、その体の周りから何か白い空気、それもとてもひんやりとしているため冷気だろうと予測できる。あまり迂闊に近づくことはできないだろう。
「接近戦は少し部が悪い…近距離であの氷塊を出されるとなると…」
「仕方ないわね…私がやるわ。」
何かめんどくさそうに霊夢がチルノの前に出る。何故あそこまで近づけるか霧人は不思議に思うだろう。
「お前が相手か!紅白巫女!!」
「…まったく…外来人の面倒を見る羽目になるわ、妖怪に襲われている子供を助けなきゃ行けないやら…最近まで暇だったのに暇じゃない時はどうして忙しい時なのかしらねぇ…」
「?何言ってんだ?お前。」
怒っているのだろうか、やけに不機嫌オーラを出してチルノと話している。最近のことでイライラしているのだろう。
「ま、いーや。勝負だ!脇巫女!!」
「……脇?」
霧人にとっては意味が分からないだろう。何故霊夢が脇巫女と呼ばれているのか。というより、ここにいるチルノの以外の人でほぼ全員理解ができないだろう。
「…まぁ、そこは特に気にしなくていいぜ…行こうぜ。」
「あ、うん。」
そのまま魔理沙達は紅魔館へと向かっていく。だが、当然チルノは見逃すことはなかった。
「あ!待てー!!」
「はい、余所見しないの。」
チルノが魔理沙達を追い掛けようとするところを霊夢はお祓い棒でチルノの頭をコツンと叩く。それよりもあれで本気で殴るのかは分からないが。
「何すんだ!バカになったらどうするんだー!!!」
「…もともとでしょ?」
やけに霊夢は毒を突いていくる。端から見れば単なる八つ当たりのように見えてくる。
「ぐぬぬ…もう怒ったぞー!!紅白!今日こそあんたをぎゃふんと言わせてやるー!!」
「あなたなんかにぎゃふんと言わせられたら、異変解決の仕事なんてやっていられないわよ。」
霊夢は何か符のようなものを手に持ち、臨戦態勢へと変わる。
一方……魔理沙側では………
紅魔館、門前……
「…そろそろ…か…」
「あぁ、こっからはお前も気を付けろよ。いざとなったら私も守れないかもしれないからな。」
魔理沙は自身の腕に相当の自信を持っているようだが、お荷物状態とも言えよう普通の人間の霧人がいるからか守り切れるかはさほど自信はない様子だ。
「白黒、私を忘れてもらってはこまる。」
「あ、あぁそうだな。お前もいるんだっけな…なら少しは安全かな…」
霧人のパーカーのフードからニョキっと上海が顔を出す。どうやら上海も魔理沙と同様、実力には自信があるのだろう。いや、自信がなければやっていけないのも事実だか。
そんな話をしながら魔理沙は空から意図もたやすく紅魔館の門を越えて行く。
「…あれ?なんかかなーり簡単に入れたな…魔理沙、門番はいないのか?」
「いや、ちゃんといるぜ。あそこにな。」
紅魔館は大きめで、その館自体が赤色に染まっているためとても目立つ上、内装は知らなくても外観から豪邸となんとなく分かる。そんな場所には当然門番というものはいるが、何故簡単に入れるかが疑問に思ったが、魔理沙が指を門へと指すとすぐにその疑問は解決される。
「……寝てる…?」
「そう、寝てるぜ。」
門には門を背中に寄りかかり、前を向いているように見えるが、それは霧人達から見れば、寝ているようにしか見えない。
門番は中華専門店で見られるようなスリットに星マークが付いた帽子をかぶる目立つ長い赤髪の女性がいる。見た感じで動きやすい服装故か、接近戦にはとても特化しているように見えるが、寝ている。
「…門番…って言っていいのか?あれ……?」
「それは……かなり難しい質問だぜ…なんで紅魔館の連中もあんなのを 門番にするか、正直最大の疑問とも言えるようなもんだな…」
魔理沙もその辺りはかなりの疑問のようだ。無理もない。接近戦が優れている上に、これでもし、遠距離にも優れているとなるとかなりの強者だ。それだけで門番に優れていると判断されるなら霧人も納得は行く。
だが、寝ているのだ。
「ま、あんなのを気にしていても無駄な時間を過ごすことになるだけだし、さっさと行くぜ?」
「…あー…うん…そうだな…(門番の存在価値……)」
紅魔館…玄関口……
「よっしゃ!侵入成功だぜ!」
「お…おう…」
大きな玄関を開けると、そこに広がっているのは赤い広間。外観が赤いだけではなく、中身も赤のようだ。
広間から正面、左右と道が別れている。正面には二つの階段、左右には廊下が続いている。
「それにしても…目にあまりよくない色ばかりだな…」
「だな。どこへ行っても赤ばっか。この館の主人の趣味が問われるもんだぜ。」
と、正論らしき文句を述べていると左の廊下から一人の女性が現れる。吸血鬼の館というのに外見が人間そのものだ。
「あらあら、館に不法侵入する割には文句を言うなんて、礼儀知らずの泥棒ね…でしょう?魔理沙。」
「うっわ…早速めんどくさいのに会っちまったぜ……」
女性は縛った銀髪にミニスカートのメイド服を着ている。口調はとても威厳のある雰囲気だが、ミニスカートのメイド服とはまるでコスプレのようである。
「魔理沙、このメイドみたいな人は?」
「あら、「メイドみたいな」とは心外ね。この通り私はこの館のメイド、もといメイド長であるのにねぇ…みたいななんて言われると傷つくわ。」
「…すいませんでした…」
思わず自分から謝ってしまう。失礼なのは事実だからだろう。
「申し遅れましたわ。私はこの紅魔館のメイド長を勤めております、十六夜 咲夜(いざよい さくや)と申します。」
メイド長だからなのか、礼儀があり、そして瀟洒な雰囲気が漂っている。その礼儀正しさはまるで女性本来の美しさを持つようであった。
「あ、親切にどうも…」
「で?あなた達はなんの用なのかしら?」
切り替えが早い。自己紹介から数秒も立たずに余韻に浸らせる間も無く、すぐに話を切り替える。
「とりあえずレミリアを出してくれ。あいつに用があるんだ。」
「お嬢様に?一体なんの用なの?」
「私に用があるんじゃなく、こいつになんだ。」
魔理沙は霧人に指をさす。すると、何を思ったのか、咲夜は不敵な笑みを浮かべる。
「…ふふ…そこにいる人間が?なんの変哲もなさそうな人間がお嬢様に何の用と言うのかしら?」
「ま、話すのはめんどくせぇし、とりあえずレミリアを出してくれないか?」
何故説明を省くかは分からないが、魔理沙には魔理沙なりの考えがあるのだろうと霧人は思う。
「…そう、なら迂闊に出すわけには行かないわね。」
すると突然、咲夜の右手からナイフが出現する。パフォーマンスショーで人の頭の上に乗ったリンゴを貫く用に使う用なナイフだ。
「ちょ!?おま…なんの真似だよ!?」
「忘れた?ここは紅魔館、そしてあなた達は無断侵入者。侵入者を排除するのは今に始まったことじゃないでしょう?」
「それも…そうだがなぁ…」
普段魔理沙は紅魔館に侵入する度に咲夜に追われているのだろうか。だが、魔理沙にとって今回は状況は違う。いつも忍び込む時は一人だが、今回はなんの能力もなければなんの力もないような普通でなんの変哲もない人間、霧人がいるのだ。
「え、えーと魔理沙…これはつまり…危ない状況…なのか…?」
「………」
帰って来るのは無言。それも魔理沙の表情はいつもの明るさが露わになったような表情ではなく、厳しい状況下でどうするかと考えているからか、苦虫を噛み潰したような表情になっている。
「……」
瞬時に咲夜は手を動かすと、霧人の右耳元でヒュンと風を切る音が聞こえる。
「……え?」
ふと後ろ見ると、霧人の近くの壁に冷たい銀色を放つ刃のナイフが刺さっていた。
「咲夜…!てめ…!」
「……」
霧人の右頬にジワリと痛みが出て行く。それとともに何か生暖かい液体がその右頬から出ている感覚が現れていた。
「…?こんな状況下であなたは何故恐れないの?白髪の人間…」
「…霧人?」
普通、こんな状況下であるなら無力な人間は恐怖に足がすくわれる。が、霧人は違った。ナイフで頬を浅く切られたせいかまるでスイッチが入ったかのように臨戦態勢に入ったような真剣な表情を浮かべている。
「(あの精度…投げナイフの腕はピカイチだな…でも、ナイフはボールと違って弾道が曲がることなんてことはないんだ…言ってしまえば弾道は直線状…距離を離して動きを見れば……ってなに俺こんな冷静に観察してんだ…こんな状況で…)」
「霧人……」
霧人はこんな状況にも関わらず冷静であった。だが、霧人にはどうしてここまで冷静に相手の出方を伺える上、観察をできるのかは霧人自身もよくわかってはいなかった。
「さて、こんなんじゃ家に帰してくれなさそうだな。仕方ない…やるか…」
霧人のパーカーのフードから円盤形の盾と銀色の筒状に先端が鋭利な槍、ランスを片手に臨戦態勢にはいる。
「…(白黒魔法使いはある程度の脅威であるけど…まさか、その仲間が人形とただの人間…いや…あの白髪…こんな状況なのにここまで冷静でいられるなんて…なにかの実践の経歴のある人間?でも…そうは見えないけど…少し警戒はしておく必要があるかしらね…)」
第八話へ続く……
チルノ
能力、冷気を操る程度の能力
主に霧の湖におり、寒冷な気候を好む氷の妖精。妖精の中でも力の強い部類に入るためか、自分自身を[最強]と誇っているが、妖精が故に頭が残念でもある。能力の通り、チルノのまわりはほのかに冷えるという。
十六夜 咲夜(いざよい さくや)
能力、時を操る程度の能力
吸血鬼の住まう赤い館、紅魔館に住む妖精メイドを指揮するメイド長。能力とは別にナイフ投げを得意としている。その腕は二十間離れた場所に居る頭上に林檎を乗せた妖精メイドの額に当てることができるほど。
一説では、紅魔館に住まう前にはヴァンパイアハンターをしていたとか。