社畜の軌跡   作:あさまえいじ

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いつも感想、高評価、誤字報告頂きありがとうございます。
クロスベル編に入る前に入れておきたい話がありましたので、予定より早く投稿します。
次回から新章に入ります。


第九話 トールズ士官学院第二分校の様子

―――七耀暦1206年4月24日 トールズ士官学院第二分校 会議室

side リィン・シュバルツァー

 

 トールズ士官学院第二分校にて、先の報告会議がおこなわれた。内容はサザーランド州での活動報告、そして結社との交戦記録についてだ。

 活動報告は終了し、現在は結社との交戦記録の報告を行っている。ミハエル少佐が映像を映しながら説明を行っている。

 

「まずは先の演習地襲撃の際に現れた三人についてです。一人目は《神速》のデュバリィ。武器は剣と盾。戦闘方法はオーソドックスなスタイルの剣士と言ったところでした。他に何か情報はあるか?」

 

 俺は挙手し、発言を求めた。

 

「シュバルツァー、発言を許可する」

「俺は以前の内戦で彼女と戦いました。《神速》の異名の通り、圧倒的スピードを誇り、そのスピードから繰り出される剣技は脅威です。後は分け身という技を使います。その分け身との連携からの剣技で前回の内戦時には苦戦させられました。その力は執行者に決して劣りはしないと思います。‥‥‥‥後、真っ直ぐな性格をしていました」

「ああ、俺も前の職場で戦ったことがある。確かに真っ直ぐ、いや可愛らしい性格してたな」

「か、可愛らしい。ま、まあ、取り敢えず、神速については、これくらいにしておこう。宜しいですか、分校長」

「うむ、了解した」

 

 ミハエル少佐が映像を切り替え、次の映像を写し出した。

 

「二人目は執行者No.ⅩⅦ《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランド。‥‥‥‥彼女についてはオルランドの方が詳しいな。説明を頼む」

「あいよ。シャーリィは赤い星座の大隊長をやっている。得物はチェーンソー付ライフルの《テスタ=ロッサ》、見て分かる通り高速回転する刃で敵に斬りかかる。その威力は警備隊の装甲車を両断できる程だ。更に火炎放射器も内蔵しているから、接近戦では対処するのは止めた方がいい。性格は一言でいえば『人喰い虎』みたいなもんだ。本質は戦闘狂で交渉や説得など使用せず暴力で相手を屈服させようとしたり、戦うことと相手を殺すことの両方に享楽を覚える危険な性格だ。後、特筆すべき点は叔父貴が認める程の鋭い観察眼を持っている。こんなところか」

「うむ、では次に移りますが宜しいですか、分校長」

「ああ、構わない」 

「では最後に・・・」

 

 ミハエル少佐が映像を切り替え、最後の映像が写し出された。

 

「執行者No.ⅩⅩⅠ《社畜》です。私見ながら戦闘力は先の二人よりも上と見ます。複数の武器を取り出し、戦っていました。出した武器はシュバルツァーの太刀、オルランドのスタンハルバード、現地で協力してくれたラウラ・S・アルゼイドの大剣でした」

「ミハエル少佐、その情報に追加します。A級遊撃士、アガット・クロスナーの大剣も出しました」

「‥‥了解した追記する」

 

 ミハエル少佐が困惑げに資料に追記している。俺も目の前で見ていないと、信じることはできない。だが、目の前で見ていた。奴がローブの中から大剣を出したのを。

 その情報から分校長は口を開いた。

 

「ふむ、多数の武器を取り出し戦うか。‥‥‥‥まず多数の武器、という点について、これはどう考える」

「おそらく結社の技術だと思われます。どういう原理かは分かりませんが‥‥‥‥」

「ならば、武装について考えるのを一旦止めよ。分かることから報告せよ」

「報告宜しいですか、分校長?」

「シュバルツァーか。うむ、報告せよ」

「まず、体格からですが、着ているローブで正確なところは分かりませんでしたが、かなり大柄だと推測できます。ローブから伸ばされた腕、俺と同じ太刀で戦った時に体との距離を感じました。だとすると、俺よりも長い腕だと思いました。それに打ち合った時に、上からの圧力をかなり感じました。およそ体格は‥‥‥‥ランドルフ教官以上の大柄だと思います。それに動き方も女性という印象はありませんでしたので、性別は男だと思います」

「‥‥‥‥お前、あの一瞬でそんなことまで分かったのかよ。まあ、俺もデカイと思ったな。ありゃ2アージュ近くあるな。後、性別はお前の言った通り、男だと思うな」

「ほう、その根拠は?」

「勘だ!」

「‥‥‥‥まあ、そんなところだろうな」

 

 呆れ顔の分校長を尻目に報告を続けることにした。

 

「‥‥‥‥他に分かったことですが、おそらくこの執行者は相手を真似ることが出来ると考えます」

「ほう、その根拠は?」

「‥‥‥‥俺の八葉一刀流は使い手がかなり少ない流派だと思います。帝国の二大流派である、ヴァンダール流、アルゼイド流の剣士よりもずっと少ないと思います」

「まあ、俺も色んなところに行ったが、八葉一刀流なんて、アリオス・マクレイン以外で見たのはお前だけだしな。後はリベールに何人かいるってのは聞いたな。だが、帝国の二大流派みたいに道場を構えて門下生を募る、てわけじゃないんだろ」

「ええ、八葉一刀流は剣聖の名を持つ者が指導し、繋いできました。リベールのカシウス・ブライト、クロスベルのアリオス・マクレイン、この二人が剣聖を名乗っています。リベールにいるのは殆どがカシウス・ブライトが指導したと思われます。俺は《剣仙》ユン・カーファイに学びました。だから、《社畜》と戦った時に八葉一刀流弐の型『疾風』を使われたとき、最初は八葉一刀流の使い手かと思いました。ですが‥‥‥‥」

「あの槍か‥‥‥‥」

「ええ、先にランドルフ教官の技を使いましたが、量産品のスタンハルバードを予備で持っていて、事前情報からランドルフ教官の技を知っていて使用したと無理矢理考えましたが、あの槍から繰り出された技は次元が違いました」

「確かに、まさかあんな槍がもう一本あったなんて思いたくなかったが‥‥‥」

「オルランド教官、あの槍についてご存じなんですか?」

「‥‥‥‥昔の職場、特務支援課時代にあの槍の持ち主と戦ったんだ。その持ち主は‥‥‥‥『鋼の聖女』。結社の使徒第七柱と名乗ってやがったし、まさか当人が出張ってきたのかと思ったが‥‥‥‥まさかその技まで真似たってのか?」

「‥‥‥‥おそらく。‥‥‥‥俺はあの槍を見かけたことがある、気がします。ただ‥‥‥‥いえ、忘れてください」

「何だよ、歯切れが悪いな」

「いえ、二年前に『槍の聖女』の居城で幽霊騒動が起こったときに、魔物に不覚を取ったときに槍が飛んできて、助けてもらった、と思います。宝玉を貫いた槍を直接見た訳ではなく、ちらっとだけ見えただけだったんで、確信はありません」

「‥‥‥‥話が若干逸れてきたな。一旦、能力が真似ると仮定したとき、他にどんなことが出来た?」

「アルゼイド流皆伝の奥義を真似たこと、後は、A級遊撃士のアガットさんの技を真似ていました」

「事前に練習してきた、という線は? それに『鋼の聖女』当人が出張ってきた可能性は?」

「‥‥‥‥まだその方が異質さはないのでマシだと思います。ただ現状最悪を考えると、相手の技を見ただけで真似すると言うのが、最悪だと考えます。それにもし『鋼の聖女』当人が出てきたとするなら、執行者を名乗る必要はないと思います、使徒第七柱を名乗るかと。」

「‥‥‥‥だな。ハッキリ言って、戦士としてみれば最悪な気分だろ。今まで培ってきた技を目の前で真似されて、それを超えた力で叩き潰されるとかよ」

「‥‥‥‥ええ、最悪ですよ。あの槍の衝撃よりもずっと精神にきました」

 

 俺は思い出しても、気分が沈む思いだった。八葉一刀流の剣士として、鍛錬を重ねてきた技を相手に使われた。その上で‥‥‥‥負けた。技の完成度は俺の技の方が上だと思う、いや上だ。だが、力負けした。相手の技に上乗せされた力が俺の技を上回った。悔しい、ただひたすらに悔しかった。その後に、槍で完膚なきまで倒され、挙句の果てに相手に回復までされる始末だ。まるで相手に成らなかった。そのことを思い出し、更に落ち込んでいった。

 そんな状況を見かねて、一人が挙手した。

 

「あ、あの!」

 

 トワ教官だった。

 

「どうした、ハーシェル。何か意見があるか?」

「いえ、一旦休憩を取りませんか? さっきから話通しで喉が渇きませんか?」

「そうだな。一旦小休止を挟もう。すまないがハーシェル頼めるか?」

「はい、分かりました」

 

 そう言って、トワ教官が会議室を出て行った。

 俺も座りっぱなしで硬直した体をほぐすために席を立ち、伸びをした。

 そして、改めて今回のサザーランド州のことを思い出した。

 旧Ⅶ組のフィー、ラウラ、エリオットと出会えたことが嬉しかった。みんなが卒業した後も俺を気にかけていてくれたことは嬉しかった。それに、卒業生した同級生達にも会えたのは嬉しかったな。みんなもそれぞれの道で頑張っているんだな。残念ながら会えなかったのが、パトリックとハードだったな。

 パトリックは海都オルディスにいるから会えないのは分かっていたが、ハードはタイミングが悪かったみたいだ。

 ハードはフィーが言うには、最近初めたコロッケ屋が好調で忙しい、と言うことだったな。俺も帰る前に買ってみたが、美味しかった。学生時代には調理部で見かけたことがあったな。それに料理ノートを見せて欲しいと言われて、見せたことがあったが、レシピにあったものは全部作れたな。上手い物から、まずいものまで、全部作れたな。そういえば、去年の学院祭の時には模擬店で一人で、百種類くらいのメニューを作ってたな。アタリからハズレまで含めて大人気だったな。

 久しぶりに会いたかったな、そう思っていると、目の前に紅茶が置かれた。

 

「はい、リィン教官」

「ありがとうございます、トワ教官」

 

 俺はトワ教官に入れてもらった紅茶を一飲みして、喉を潤した。

 思いの外、一息で飲んでしまった。どうやら喉が渇いていたんだな。

 

「おかわりどうかな、リィン教官」

「頂きます」

 

 もう一杯注いでもらって、今度はゆっくりと落ち着いて飲んだ。

 

「そういえば、リィン教官。なんだか、楽しそうな顔だったけど、どうしたの?」

「そんな顔してましたか? まあ、その‥‥ハードの事を思い出してたんです。サザーランド州にいたそうなので、久しぶりに会いたかったなと思いまして」

「そっか、そうだよね。私も会いたかったな、ハード君。卒業前に就職が決まりました、って教えに来てくれて以来会っていないからな」

 

 俺とトワ教官が話していると意外な人物が話しかけてきた。

 

「シュバルツァー、ハーシェル。そのハード、というのは昨年のトールズ士官学院生徒会長の『ハード・ワーク』の事か?」

 

 分校長だった。

 

「え、ええ。そうです、そのハード・ワークです」

「そうか、是非とも欲しい人材だったな」

「分校長、ご存じなんですか?」

「当然だろう。トールズ士官学院は私の母校でもある。ましてや主席卒業の人材はどこも喉から手が出る程欲しいに決まっている。そこのTMP少佐殿も誘ったんではないか?」

「当然です。トールズ士官学院時代の成績は主席でした。その上、品行方正で生徒会長まで務めた人材です。ならば組織としてリクルートするのは当然です」

「だが、断られただろう」

「‥‥‥‥その通りです」

「まあ、私も断られたからな。軍人にはならない、と言われたからな」

 

 そうだった、ハードが俺の代の学年主席だったからな。俺も頑張ったが、流石に勝てなかったからな、全教科満点だったし。卒業前まで就職活動を行い、じっくりと吟味して就職先を決めたようだし、やっぱりアイツには勝てないな。

 

「だが、私がハード・ワークが欲しいのはそれだけではなかったな」

「そうなんですか?」

「ああ、あの男は‥‥‥‥私に敗北を教えた記念すべき男だ」

「ええ!!」

 

 ハードがまた何かしたのか?

 分校長が話し始めた内容はサザーランド州で会ったフィー、ラウラ、エリオットが話したのとは違う、また俺の知らないハードの話だな。

 

「私は二年前の内戦の折、貴族連合側で参戦していた。時は内戦の終盤、帝都にて機甲兵を駆り、戦場を駆け巡っていた時だった。一本の連絡が届いた。‥‥‥‥我が城、ジュノー海上要塞が陥落したという知らせだった。最初は理解できなかった。何故我が居城が落ちたのか、と。帝都を囮とした奇襲だったのか、と思った。だが真実は違った。そんなものではなかった。ただ一人の男に落とされた。その男はトールズ士官学院の男だった。知らせを聞き、急ぎ戻ったときにはあり得ない状況だった。ジュノー海上要塞と陸を繋ぐ橋が中央部が無くなっていた。そう爆破されていたんだ。それにより、ジュノー海上要塞は完全にライフラインが切れてしまっていた。何とか、橋の復旧を急ぎ、それと同じく海路を使い要塞内に物資を運び込んだ。要塞に入った際には更に驚いた。内部はもっとボロボロだった。機甲兵で暴れまわり、内部施設、インフラ設備がズタズタにされていた。奇跡的に死者はいなかったが、それでも兵士たちの士気は底辺だった。聞けば、士官学院の緑の制服を着た大男が暴れまわり、挙句の果てには機甲兵を操り、残存兵力をたった一人で制圧しきった。その上、オルディスの領邦軍も引き入れ、一網打尽にされたんだ。領邦軍の機甲兵とジュノー海上要塞に残された機甲兵を相手取り、圧倒していったそうだ。だが数の差は如何ともし難い、徐々に劣勢に陥り、橋の中央部で領邦軍とジュノー海上要塞の残存兵に取り囲まれた。‥‥‥‥だが、それこそが狙いだった。両軍に囲まれた状態で、どちらが手柄を勝ち取るのか、質問したらしい。その結果、その場で両軍が手柄の奪い合いをし始めた。それと同時に機甲兵の動力部をオーバーロードさせ、他の機甲兵の前で宣言した。『この機体をオーバーロードさせ、自爆させる。巻き込まれたくなければ、機体を降りて、離れろ』と言ったそうだ。だが、残念ながら、機体を降りずに離れるにも、手柄の奪い合いから来る乱戦で、機甲兵がまともに身動きできない程の、酷い状況だったらしく、その上まともな判断まで下せる状況でもなく、言いなりになってしまい、全員が機甲兵を降り、退避した。その状況で愚かにも、コックピットをロックもせずに、出たため、丸裸にしてしまった。そのコックピットに飛び移り、他の機体も次々とオーバーロードさせた。両軍ともその状況を指をくわえてみているしか出来ず、宣言通りに自身が乗っていた機甲兵を爆破させ、その爆破に連鎖させ領邦軍、ジュノー海上要塞の機甲兵を巻き込み大きな爆発となり、橋を破壊した。その上、仕掛けた張本人は海に飛び込み、ブルーマリーナと共に、去っていったそうだ。その後私が戻った後に橋の復旧を行ったが、内部施設までは復旧が間に合わず、政府からの降伏勧告を受けざるを得ない状況だった。まあ、そのことに気付かれず帝国政府と取引出来たのは僥倖だと言わざるを得ないがな。まあ、そんな訳でな直接対峙したわけではないが、将として己が居城を落とされた、というのは初めてでな、これほどの敗北感を味わったのは初めてだった」

 

 分校長の話を聞いて、何と反応していいのか分からなかった。

 だが、ラウラが言っていた話を何故か思い出していた。『要塞を攻略した』という噂があったと言うことを。ラウラ‥‥‥‥本当だったよ。

 

「‥‥‥‥なんだそりゃ、単騎で要塞落とすとか、いくら主戦力がいないとしても、そんなの誰にもできないぞ。親父や《猟兵王》でも、出来るかどうか‥‥」

「‥‥‥‥‥」

「あ、あの分校長。ハード君は悪い子ではなく、その‥‥‥‥頑張り屋さんでした!」

 

 話を聞いて、開いた口が塞がらない、ランドルフ教官とミハエル少佐、そして何とかハードを弁護しようとしているトワ先輩。だけど、分校長は笑っている。

 

「ふふっ、ハーシェル。私は怒っているのではない。ただそんな男がいるならば是非とも会ってみたいと思っていた。私は直に会ったことがないのでな。私の居城を守る兵士が弱卒なわけがない。当然練度の高い者達ばかりだ。確かに主力は帝都に駆り出したが、それでも残ったものも十分、一級品の兵士たちばかりだ。その者たちをただ一人で、翻弄し、戦略目的を達成させ、一人の死者も出さず、颯爽と去っていった。素晴らしい、ただそう思った。‥‥‥‥ああ、何だろうな。この胸の高鳴りは。今まで生涯ここまで私が思い焦がれた男はいない。是非とも欲しい、そう思った。だから私は決めたのだ。‥‥‥‥我が婿に欲しい! そう思った。もとより婿探しもせねばなかったからな、是非とも欲しいと思い、誘いをかけたが、フラれてしまった。だが、それでこそだ! 簡単に手に入っては面白くない。だからこそ、手に入れる価値がある」

 

 見惚れるような、いや、肉食獣な笑顔を浮かべた分校長に誰もが恐怖した。だが一つ言えることは、ハードがロックオンされた、ということを理解した。

 相手は帝国最強の女傑だ。頑張れ、ハード。お前の傍に危険が迫っている。

 俺は遠くにいるであろう、友人の事を思い、心の中で涙した。

 

side out

 

「ハックション!」

 

 何故か寒気がして、くしゃみが出てしまった。風邪でも引いたか、いかんな。

 

「『神なる焔』」

 

 よし、これで体調は万全だ。私に病気で寝込んでいる暇はない。

 


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