社畜の軌跡   作:あさまえいじ

11 / 54
いつも誤字報告、感想頂きありがとうございます。


第二章 クロスベル編
第十話 クロスベルへの旅路と人生相談


―――七耀暦1206年5月9日 結社演習場 AM5:00

 

「ハアアアアアッ!!『鬼炎斬ッ!』」

 

 今日も朝から剣技の修練に励んでいる。いつもの日課である、『鬼炎斬』一万回使用をこなしている。この技はまだ、《剣帝》の技の基本とも言うべき技だ。これから上位の『絶技・冥皇剣』を使用できるようになるにはもっと技を磨かないといけない。

 だが、やはり私に《剣帝》程の才能は無いようだ。着実に成長している、らしい。アリアンロード様が仰るんだから、成長しているんだ。‥‥‥‥あまり実感を得れていないが‥‥‥‥

 いかん、いかん、《剣帝》殿には剣の才能も努力もされたんだ。私が一朝一夕で成長できる筈がない。今の私にできることは努力のみだ。雑念を消さねば。

 私はそれから三時間、懸命に振り続けた。

 

 

―――七耀暦1206年5月9日 結社演習場 AM8:00

「ふうー、自己鍛練終了。次は‥‥‥‥」

 

 自己鍛練を終え、私は次に何をやるべきか考えた。

 基本執行者は自由だ。何をしていても自由だ。なので私は‥‥‥‥クロスベルに行こう。次の実験の舞台であるクロスベルに前乗りして行こう。

 前回は前乗りして拠点作りをしていたが、今回はそんな事はしなくても良い。ならなぜ私は前乗りするのか、理由は簡単だ。落ち着かないからだ。なんか、落ち着かない、どうやら私は落ち着きのない性格のようだ。仕事がないと不安になる。

 なので、私にできることを探しに行こう。仕事は自分で探すものだ。

 そうだ、折角だからギルバート先輩を連れて行こうかな。これから一緒に仕事をするんだから交流を深めよう。

 私は喜び勇んで、ギルバート先輩を探した。

 

◽️

 

 私は演習場を出てギルバート先輩を探した。でも施設内には居ないようだ。何処に行ったんだ? 知ってそうなのはカンパネルラさんだけど、カンパネルラさんも見つからない。何処に行ったんだ?

 

「ん? 何やってんだ、ハード」

 

 私は呼ばれて振り返ると、そこにいたのは《劫炎》の先輩だった。

 

「お疲れ様です、《劫炎》の先輩。カンパネルラさんを探しているんですが、ご存知ありませんか?」

「カンパネルラならやる事があるとか言って出てったぞ」

「どちらに行かれたか、ご存知ですか?」

「知らね」

「そうですか、なら仕方ありません。ギルバート先輩を自力で探します。では失礼します」

 

 私がそう言って去ろうとすると、

 

「ギルバート? ああ、カンパネルラのオモチャか。それなら向こうで見たぞ」

「なんと、そうでしたか。それならなお良しです。ありがとうございます、《劫炎》の先輩」

「おう、んじゃな」

 

 そう言って去ろうとして、ある事に気づいた。そういえば、これからクロスベルに行く事をお伝えしていなかった。手紙かなんかで伝えておくことにしようとしたが、折角会ったのでこの場で伝えておこう。

 

「《劫炎》の先輩、私はこれから次の実験のために先行してクロスベルに行きます」

「まだ早えーだろ。どうしたんだ?」

「落ち着きませんので」

「‥‥‥‥まあ、いいんじゃね。まあ行って来いや。俺もそのうち行くわ」

「はい。では行って参ります」

 

 そう言って私は《劫炎》の先輩の下を後にした。

 

 

side ギルバート・スタイン

 

 僕、ギルバート・スタインはあるピンチに直面していた。

 

「これからクロスベルに向かいます。一緒に行きませんか?」

 

 次の実験の舞台、クロスベルに誘っているのは執行者《社畜》のハード・ワークだ。

 僕の新しい肩書きを付けるきっかけになった男であり、今結社でも話題の男だ。

 執行者の中で最も新しく、あの鋼の聖女様に指導されている‥‥‥‥自殺志願者だと言われている。

 だってあの鋼の聖女様だ。結社最強の呼び声高い人物だ。僕のような人間がお目にかかれるわけがなく、ましてや、会ってしまったら威圧感だけで死んでしまうんじゃないかと思う程だ。

 それに結社には鋼の聖女様に並ぶ方がいる。《劫炎》のマクバーン様だ。執行者No.Ⅰだ。

 そのNo.Ⅰの事を《劫炎》の先輩とか、気安く呼んでいる自殺志願者だと言われている。

 そんなダブルで自殺志願している男が一緒にクロスベルに行こうと言っている。え、なに、僕も一緒に心中に誘われているの?

 僕は考えた、自分の脳をフル回転させて考えた。もし断ったら、この男に殺される。もし受け入れたら、鋼の聖女様とNo.Ⅰに殺されるんじゃないのか?

 僕はまさに人生を賭けた選択を迫られている。僕が選んだ選択は

 

「是非お供させていただきます」

 

 僕は今を生き残る事を選択した。今を乗り切れなくては未来は無い。頑張れ、僕。

 僕は自分自身を奮い立たせた。

 

「そうですか。では参りましょう、ギルバート先輩」

「い、いいえ、あ、あの私のことはギルバートと呼び捨てで結構です」

「何を仰る、私はまだ入って3ヶ月目の新人です。ですので、先輩とお呼びするのは当然ですよ」

 

 やめてくれーー!僕は心の中で叫んだ。

 この結社では年功序列よりも肩書きが重視される。その肩書きは力の象徴だ。僕は『強化猟兵連隊長』兼『財政対策班班長』だ。

 気づいたらそうなっていた。ここ一、二週間程前の記憶がない。カンパネルラ様にお仕置きだ、と言われてからの記憶が無くなっていた。

 気づけば僕も結構な地位にいた。だからと言って、僕が目の前の自殺志願者に意見できる程強いかと問われると、否、断じて否である。

 だって、そうだろう。執行者とか、とんでもなく強いんだ。リベールで酷い目に会わせてくれたヨシュア・ブライトだって、元執行者だ。だけど、鋼の聖女様とかNo.Ⅰより強いわけがなく、そんなとやり合える目の前の奴に僕が勝てる訳ないだろう。

 それに目の前の男は僕を地獄に叩き込んだ男だ。出来れば断りたい。というよりも、関わりたくない。

 新しい肩書き、『財政対策班班長』なんて僕に押し付けやがって、アレのせいで僕の給料は非常にピンチだ。

 サザーランド州で展開している、コロッケ屋は元はこの男が始めたことだ。それ自体には問題ない。だけど、この男が無計画に規模を拡大したせいで、現在は人手不足だ。

 僕は非常に疑問だった。何故この男は利益が出せていたのか、理由が分かって僕は絶望した。

 この男一人で10店舗を切り盛りしていたんだ。なんと『分け身』で全部切り盛りしていたせいで、人を雇ったら、その瞬間利益が減る。

 その上、この男やたらと有能だった。営業許可を取ることに貴族のツテを使うとか、新店舗の準備とか、店舗の運営まで全部一人でやりやがった。人脈も豊富で、セントアークを治めるハイアームズ侯爵とかアルトハイム伯爵とか、そんな貴族とツテがあるとか‥‥‥‥僕が欲しいわ!

 おかげでさっきまで仕事漬けで漸く、休憩が取れたんだぞ。それも五分だけだ。この上クロスベルに行くとか、何なの! 僕に恨みでもあるのか。

 でも、そんなことは口に出すことは出来ない。年下でも上役に当たるんだ。

 僕は縦社会の厳しさを噛みしめながら、顔で笑って、心で泣きながら、これから先の事を考えて頭が痛くなりつつ、一緒にクロスベルに行くための準備をし始めた。

 報告書と帳簿と他にも資料を持っていかないと、仕事が終わらないな。

 

side out

 

―――七耀暦1206年5月9日 結社前駅 AM10:00

 

「さあ、列車が来ましたよ。行きましょう、ギルバート先輩」

「‥‥‥‥はい」

 

 結社前駅に列車が止まった。これからクロスベルに向かうなら、列車で行くのがいい。グロリアスを使うのも出来なくはないけど、流石に予算がかかり過ぎる。だから、列車にした。

 それに列車での旅は好きだ。景色が変わって行くのを見るのも、風情があっていいものだ。

 以前の内戦の時には、列車の上にしがみついて移動していたので、景色を楽しむことが出来なかった。

 だから就職して、漸く列車での移動を楽しめることが出来て、とても嬉しかった。

 前回はセントアークで今回はクロスベルだ。今度はどんな旅になるだろう、とてもワクワクしている。

 私たちは列車に乗りこみ、座席に座った。私は窓側の席をお願いしたら、ギルバート先輩は喜んで譲ってくれた。いや~、良い先輩だ。

 

―――七耀暦1206年5月9日 クロスベル行き列車内 PM0:00

 

 列車で移動し始めて、二時間程経った。色々な駅に止まり、人の出入りも頻繁に行われた。それに道中はまだまだ先は長そうだ。列車から見る景色も堪能出来て非常に楽しいものだ。

 景色に夢中になっていた私は、あることに気付いた。そろそろ昼食の時間だ。

 腹も減ってきたし、何か食べようか。

 

「ギルバート先輩、次の駅で‥‥‥‥」

 

 私はギルバート先輩に話しかけようとしたが‥‥‥‥寝ていた。

 どうやらお疲れのようだ。無理言って申し訳ない。

 私は周りに気付かれないように‥‥

 

「『神なる焔』」

 

 これで疲れも取ることが出来るはずだ。目が覚めたら、またバリバリと働けるはずだ。

 折角クロスベルに仕事を探しに行くんだ。体調は万全にしておかなくては。

 そうだ、ギルバート先輩が起きた時の事も考えて、駅の売店で昼食を買ってこよう。

 私は次の駅で一度降りて、昼食を購入してくることを考えた。

 

 

 駅に停車したようだ。さて、買ってくるか。

 私は列車を降りて、売店に足を運んだ。

 

「サンドイッチを二人分持ち帰りで、後は紅茶を頼みます」

「はい、畏まりました」

 

 私は待っている間、周りを見てみた。

 どうやら、私と同じく昼食を買い求める人が大勢いるようだ。

 それに子供連れの家庭も多いみたいだ。子供が列車を見て、驚きと興奮しているようだ。何とも、のどかな光景だな。笑顔に溢れている。実に良いことだ。

 私はその光景に温かい気持ちになっていると、子供が落ちそうになっている。

 

「危ない!!」

 

 私はそれに気づき、急ぎ駆けつけた。

 私は人を避けながら、駆けていく。『ハード・ワーク』を変形させてワイヤーにして、子供に巻き付けることを考えたが‥‥‥‥その必要は無くなった。

 

「ホホホッ、こんなところで遊ぶと危険じゃぞ」

「う、うん。ありがとう」

 

 御老人が子供を助けた。

 だが驚いた。先程まで、全く気配を感じなかった。いや、今も自然に溶け込んでいるような感じで気配を感じ取りにくい。認識して、集中して見ているので、その気配を感じ取れているに過ぎない。もし、一度でも視界から外せば、気配を感じ取れないだろう。

 子供が親元に駆け寄っていき、御老人にお礼を申し上げている。それから御老人は去っていった。

 私はそれを見続けたが、人込みに紛れてしまって視界から見失った。そして、気配も感じ取れなくなった。

 なるほど、アレは私では手に負えないな。アリアンロード様や《劫炎》の先輩の様な圧倒する存在感ではなく、ごく自然な存在感、まるで自然そのものの様な存在だった。おそらく私が戦えば、何をされたか気づくこともなく、敗れるだろうな。

 私は上には上がいることを思い知りながら、頼んでいた昼食を受け取り、列車に戻った。

 

 

 私が列車に戻ると、先程の御老人が私の向かいの席に座っていた。

 あちらも気付いたようで、話をされた。

 

「おお、先程声を上げた青年ではないか」

「私の事に気付かれていたんですか」

「うむ、青年が声を上げたのでな、何かと思って見てみると、子供が落ちそうになっておった。そちらさんが先に動かれたが、儂の方が近かったのでな、手を出させてもらった。まあ、儂が手を出さずともそちらさんが間に合っておったであろう」

 

 なるほど、やはり私では手に負えない。こちらの手札を見透かされたようだ。私には認識出来なかったというのに‥‥‥‥

 

「いえ、私が声を上げずとも、御老人がお助けされていたでしょう」

「いやいや、何分列車というモノは珍しくてな、思わず見惚れていたのよ。だから、気付くのが遅れてしまったのでな」

 

 なんとも、飄々とした御老人だ。だが、どこか愛嬌のある人だ。

 

「ところでそちらさんは、何処まで行かれるんだ?」

「クロスベルです。これから仕事を探しに」

 

 格上だと、脅威だと感じていながら、何故だか話していた。

 

「そちらはこれからどちらまで行かれるんですか?」

「儂は東の方までじゃな、クロスベルの先の共和国の更に先まで、な」

「そうですか。列車もクロスベルが東の終点ですから、それまでは一緒ですね」

「そうじゃな。旅は道ずれと言うし、よろしく頼むぞ。青年よ」

「ええ、よろしくお願いします。御老人」

 

 互いに名を話さずに、話をしていた。私は御老人と、御老人は私を青年と呼び合った。

 

「なるほど、青年は就職活動というものに苦労したんじゃな」

「ええ、非常に苦労しまして、あのときはこの世の全てを憎みました」

「ハハハッ、そんなことが言えるのは、終わったからじゃぞ。無事に終わってみて、今振り返ってみると、案外どうと言うことじゃなかったから、そう言えるんじゃ。其方はまだ若い、じゃから人生に達観はしておらん。それは今だけの特権じゃ。もっと人生を楽しむとええ」

「人生を楽、しむ? ‥‥‥‥どういうものなんでしょうか?」

「ふむ、そうじゃな。う~む‥‥‥‥‥わからん!」

「はあ~」

「ハハハッ、そんなことは分からんな。儂が楽しんでおる人生と青年の人生とは全く違うものじゃ。じゃからそんなことは儂には分からん。青年は真面目に色々考え過ぎじゃ。もう少ししたいことに正直になるといいじゃろうな」

「正直に‥‥ですか」

「うむ、青年がしたいこと、しなければならないこと、青年にはそれらの境界がない。おそらく、すること全てが、しなければならないことになっているんじゃないかの? しなければならないこと、即ち強制されることに他ならない。本来それは人間には苦行なのじゃ。誰にでも出来ることではない。もう少し、自由に生きなされ。青年にはそれを成せる力がある」

「じ、ゆ、う?」

 

 自由、か。‥‥‥‥私は私なりにそうしてきたつもりなんだが、な。どうやら年長者から見ると不自由な生き方に見えるようだ。だが一つ言い返したいことがある。

 

「御老人、世の中は自由には生きれません。人が築いたこの世の中、誰もが自由には生きれず、不自由さはあるものです。時と共に移り変わり、今の世があります。ならば私もこの世と共に生きるしかありません。それは御老人から見れば、不自由なのかもしれません。ですが、それもまた私の人生です。どうにもならないと思って、諦めています」

 

 これは偽らざる本音だ。この世を生きるには『ミラ』が、文明が生み出した代価を支払わねば、何も生活できない。確かに不自由だ、ミラがなければ物は買えず、暮らせず、服もない。だが、この世に生まれて、自由に振舞えば、それが外的として排除される。まさに魔獣がそれだ。

 魔獣は腹が減れば、ものを食べる。それは生きる上で当然の事だ。だが、それは人に迷惑をかけることもある、人を喰らうこともある。だがそれ故に排除される。自由の対価に命を支払っているんだ。故に自由であれる。

 もし私がそんなことをすれば、私も同じく排除されるだろう。人の世は魔獣よりもずっと陰湿で恐ろしいものだ。私はそれが身に染みている。

 

「ふむ。青年は本当に真面目じゃな。どうにもその真面目さが儂の弟子を思い出させるわい。真面目で頭が固い、最近の若者はみんなこうなのかのぉ。一番弟子くらいがちょうど良かったんじゃが、最後の弟子並みに真面目過ぎるわい。儂が言いたいのは、腹一杯メシを食って、目一杯体を使って、がーがー寝るのが、生きてると言えるんじゃ。青年は寝ておるか、見たところ睡眠時間2時間くらいじゃろ。いやもっと少ないかの」

「ええ、一時間半くらいの睡眠です。でもそれくらいでも、問題ありません。体に不調はありませんし、不調であれば、術で回復出来ますので問題ありません。それにやることも多いですので、寝ている時間が惜しい程です」

「‥‥‥‥導力技術が広まった弊害かの。人間らしい生活を送れなくなったのは」

 

 御老人がそんな呟きと共に、視線を宙に向けて、もう一度私を見据えた。御老人が私をジッと見ている。私は視線を逸らさずにその視線を受け止めた。そして、ゆっくりと目を閉じ、それからしばらくして、私に言った。

 

「青年、お前さんにはいくつもの道が出来る。それは誰かと歩む道、多くのものと歩む道、独りで歩む道、いくつもの道がある。そのとき、青年の前に立つのは、いつも同じ者だ。そのものは青年にとって、人生を変える者だ。きっとそう遠くないときに再び出会う。その時は、頭で考えるよりも心の赴くままに答えを出すといい。それが儂が言える、人生の先輩から青年への唯一できる助言じゃ」

 

 御老人はそう言って、笑った。

 そのことについて聞こうとすると、クロスベル駅に着いた。

 

「おお、着いたようじゃな。では、これでな。道中楽しかったぞ。またの青年」

「お、お待ちを‥‥」

 

 そう言って、御老人は去っていった。私は呼び止めることも出来ず、伸ばした手は虚空を掴んだ。

 あの御老人が語った言葉は、まるで私のこれからを予言しているような言葉だった。

 心の赴くままに答えを出す、か。今までもそうしてきたつもりだったし、これからもそうするつもりだ。だからきっとこれまで通りに、結社に、盟主様に忠誠を尽くせばいいだけだ。

 私は御老人の言葉に多少の引っ掛かりを覚えたが、とりあえず列車を降りることを優先して、これ以上考えることを止めた。

 

 

side 御老人

 

 ふむ、大陸の東側に向かう際にこのような出会いがあるとは、これだから旅は面白い。

 しかし、あの青年は‥‥‥‥非常に危うい。まるで壊れる寸前の様な、最後の残り火の様な、一瞬の輝きを見せているような男じゃった。

 鍛えれば《剣聖》に至れるほどの素質を、最後の弟子の様な、素質を持っておる。

 だが、惜しい。あの青年はそこまで自分を高めることは出来ん。あの精神性では、な。あの青年には楽しむことが雑念だと思っておるような精神性じゃ。それでは高みには至れん。苦しみの果ての達成感、それを味わうことを雑念だと感じている、ようではな。

 儂の目には、青年と最後の弟子が一騎打ちをする姿が見えた。だがその先は、独り、二人、大勢、どれも違う未来じゃった。だが、儂に言えるのはそれまでじゃった。

 青年の闇はおそらく最後の弟子との戦いで晴れる。その先は進みたい道を行くがいい。

 まあ、青年の人生じゃ、年寄りがあんまり世話を焼きすぎるというのも、煩わしいものじゃろうな。

 

「リィンよ。青年の闇を晴らせるのは、お前だけじゃ」

 

side out

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。