社畜の軌跡   作:あさまえいじ

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第十三話 御家族は大切に

―――七耀暦1206年5月20日 AM10:00 ジオフロント

 

 このジオフロントに籠って三日目、今日で此処ともさよならか。名残惜しい気分だ。

 三日前にこのジオフロントに入ろうとしたら、鍵が掛かっていて入れなかった。ジオフロントの鍵など、当然持っていなかった。なのでこじ開けた。今の私に扉など障害にならない。無論、こんなところ見られたら今度こそ警察に捕まるので、ちゃんと変装はしてある。執行者《社畜》としての仮面とローブを着てから犯行に及んだ。なので、私とは分からないので問題はない。それに壊れていることが簡単には分からない様に偽装してある。完全な修復は無理だが、表面的な修復は出来た。これで犯行を偽装できる。

 

 それから三日間、ひたすらに出てくる魔獣を駆除していた。練習相手にも成らないから、色々試すことにした。マスタークォーツの使用感覚を確かめることや、普段は使わないアーツを試してみたり、試行錯誤をしながら戦い続けた。

 

【『クロノバースト』『クロノバースト』『神なる焔』『クロノバースト』『クロノバースト』『神なる焔』‥‥‥‥】

 

 マスタークォーツを使うようになり、『クロノバースト』というアーツを使い始めた。今まではあまりアーツは使用してこなかった。威力も低かったので、向いてないと思っていた。『劫炎』の先輩を真似た炎のアーツは威力よりも射程に重きを置いていたが、『ハード・ワーク』を盟主様から頂いてからは、遠距離でも対応可能に成り、アーツの使用頻度が更に減ってきた。

 だが、時間が有ったので色々なアーツを試してみた。試して見ると今までは攻撃用アーツにばかり意識が向いていたので、補助アーツは使用してこなかった。

 だが、見つけた。私に最も必要で、最も最適なアーツを見つけた。それこそが『クロノバースト』だ。これのおかげで連続行動が可能になった。実に良いアーツだ。これで労働力は二倍だ。ただ私の場合は連続で二回までしか使用できない。なので間に『神なる焔』を挟むことで更に連続で発動している。さてこれで下準備は十分だ。

 

 私の現在の状況は‥‥‥‥魔獣に囲まれている。

 ジオフロント内を走り回り、魔獣に出くわし、それを躱しながら、更に走り回った。

 何故そんなことをしていたかというと、纏めて駆除した方が手間が省けるからだ。5,60体程の魔獣が集まり、私の周囲を囲んでいる。

 私は『ハード・ワーク』で《剣帝》殿の『ケルンバイター』を形作り、左手に持ち、構えた。

 私が構えたことで周囲の魔獣は怯えだした。どうやら力関係が漸く理解できたようだ。

 魔獣たちは自分たちを『狩る者』だと思っていたが、真実は逆だ。私が『狩る者』だ。

 

【いざ、参る。ハアッ――――『鬼炎斬!!』】

 

 周囲の魔獣を切り刻んでいく。すると、あっという間に周囲の魔獣を倒しきってしまった。

 ふむ、この程度の魔獣ではもう相手にはならんな。3日前の段階でも相手には不足していたが、ぬしの様な強力な個体がいたりもしたが、それも倒しきってしまったのか、見かけなくなった。

 

 それにジオフロント内に私以外にも誰かいるみたいだ。

 ジオフロント内には端末が置かれている部屋がいくつかあった。その中に一つ、人がいた形跡があった。それも食べかけのピザがあった。その匂いを辿っていくと、また別の端末が置かれている部屋があった。それを繰り返してたどり着いた部屋には、近くに誰かがいる気配があった。だが見逃した。あまりにも怯えていたので、その場を去ることにした。まあ、私の事を話さないで欲しいことと記録も消しておいて欲しい、と言っておいた。たまに本当に消してあるか不安になったので様子を見に行ったけど、何処にもいない。いやいるにはいるけど、酷く怯えているので、見逃してきた。凄くピザ臭いので、居場所はすぐにわかるけど、隠れているので、そのままにしておいた。

 さて、最後に出て行く前にご挨拶だけして出て行こう。

 

 

side ヨナ・セイクリッド

 

【我はここから去る。この3日、邪魔をしたな。我の事は喋らぬ方が身のためだ。ああ、我がいた痕跡も消しておけ、やらぬ場合は分かっているな。ではな】

 

 僕がいる端末室に入ってきてそれだけ言って出て行った。

 僕は端末室に隠れて息を殺しながら、その一方的な申し出を聞いて、必死で頷いた。あちらからは見えていない‥‥‥‥と信じたいし、居場所がバレていない‥‥‥‥と一縷の望みを抱いて、頷いた。

 出て行った後に、僕は大きく息を吐き、意識が飛びそうになりながら、這いつくばりながら、端末の前に座った。 

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ‥‥‥‥アレは本当にヤバイ。

 僕は三日前にこの端末室にいたことを悔やんだ。こんなところに居たから、あんなバケモノを見てしまったことを呪った。

 

 三日前の朝、突然ジオフロントの扉が破られた。何かと思って調べてみると‥‥‥‥良く分からない仮面とローブを着た『何か』がいた。そのよく分からない『何か』は、剣を使い周囲の魔獣を蹴散らしていった。そのあまりの強さにボクは恐怖した。あんなの《風の剣聖》並みじゃないか、そう思った。そんなのが一体どうしてクロスベルのジオフロントなんかにやって来たのか、理由は分からなかった。だがその『何か』は嬉々として、周囲の魔獣を殺し続けていた。一時間、二時間、延々と戦っていた。

 僕はその『何か』が人形兵器か何かだと思った。何しろ一度として休まず、機械的に戦っていた。『鬼炎斬』という剣技で周囲の魔獣を一蹴する。移動して、また『鬼炎斬』という技で一蹴。それを延々と繰り返していた。たまに『神なる焔』という声が聞こえたけど、それ以外は移動と『鬼炎斬』の二つの行動しかとっていなかった。

 僕は気になってカメラを拡大して、その姿を良く見ようとすると‥‥‥‥目が合った、ような気がした。仮面の向きがカメラを見た。その後に聞こえた声が今でも耳に残っている。

 

【我以外にも何者かがこの場所にいるようだな、目撃者の口を塞がなくてはな。貴様、見ているな!!】

「ヒッ!!」

 

 こちらからは見えている、だけどあちらからは見えないはず、だと言うのに、あの『何か』は突然走り出した。一体何処に行くのか、分からなかった。だけど、すぐに分かった。‥‥‥‥僕を探している。

 このジオフロントをくまなく探して僕を見つける事などそう簡単には出来ない。この入り組んだ複雑なジオフロントを‥‥‥‥そう考えていた。愚かにも、過信していた。

 でもあの『何か』は一目散に僕のいる場所に迫っていた。最初はただ正解を引いただけ、だと思っていた。でも、いくつもの分岐を間違うことなく、僕がいる方へと最短ルートを通ってきた。その時、僕は漸く気づいた、危険だと。

 僕は逃げようとした。どういう理屈か分からないけど、違う端末室に逃げれば僕を見失うだろうと、思った。僕は違う端末室に移動して、モニターを起動して映像を確認した。驚いたことに、僕が前までいた端末室に到着していた。そこで『何か』は僕を探していた、バカめ、もう逃げたよ。そう思っていると、『何か』が声を発した。

 

【匂いがする。こっちか】

 

 匂い? 匂いで僕を追ってきているのか!

 ど、どうしよう、今更匂いなんて消せない。僕は必死で違う端末室に逃げ込んだ。でも、『何か』もしつこく追ってきた。僕はもうあきらめて、端末室の中に隠れた。せめてもの悪あがきとして、口を押さえて息を殺し、体を小さくして、女神に願った。お願いです、ここには来ないで、と願った。

 

【匂いがここで途切れているな。ここいるのか】

 

 女神は僕の願いを聞き届けなかった。

 コイツもしかして、グノーシスとかで強化された怪物なのか!

 僕にはもう考えることしかできない。顔を見ることも、体を見ることもできない。動けば、いや見つかれば殺される、そう思った。

 

【もう逃げることは止めたのか‥‥‥‥返事はしない、か。まあいい、我は今日より3日、ここで厄介になる。邪魔をするな、見たことも忘れろ、記録も消せ、いいな】

 

 一方的にそれだけ言って、端末室を出ていった。

 僕はその場で動くことが出来ない、もし今戻ってきたら‥‥‥‥そう思うとこの場所で三日間を過ごすほうがいいんじゃないかと思った。だけど、記録を消さないと僕が消される、そんな恐怖が襲い、何とか端末を操作して、記録を消した。

 その後、僕はやり遂げた達成感と恐怖で精神的に消耗した結果、気を失ってしまった。気づくと『何か』はまた戦っていた。いや、ただ魔獣を相手に虐殺を楽しんでいるようだった。

 

 それから『何か』は宣言通り3日間居座った。その間も不定期に走り出し、僕を探したりしていた。僕が言われた通りにしているか、確認しているんだ、そう思った。

 だから僕は『何か』が出て行くまで、言うことを聞くことにした。情報も外に流さなかった。シュリが来ない様にするだけで精一杯だった。

 

 今まで、こんな恐怖を感じたことはなかった。

 もう特務支援課はない。助けに来てくれる存在はもういない。あの『何か』を倒してくれる存在はもういない。希望はもうない。

 

 僕はこの3日で疲弊した体を引き摺って、端末を操作して記録を消した。

 そして、願った。もう二度と来ないで欲しい、それだけを願い、シュリに連絡した。『たべものをください』それだけを伝えて、意識を失った。

 あの『何か』が現れてから、まともに食べてもいないし、寝れてもいない。見つかったら、という恐怖で怯え続けた。でもこれで漸く‥‥‥‥眠れる。

 

side out

 

 私はここから帰ります。三日間お邪魔しました。私の事は喋らないでください。あと、出来れば私が居た痕跡も消してください、やってもらわないと私が困ります。では、さようなら。

 それを見ているであろうカメラに向かって、話しかけた。これでいいだろう。出来れば直接会ってお願いしたかったが、あまり人に会いたくないようだった。こんな場所に引き籠っているから人に慣れていないんだろうと思った。折角の同居人なので、共に食事をするなどして打ち解ければ、何時か日の当たるところに出られると思ったんだが、どうやら根は深そうだった。まあ彼の事だ、自分で殻を破るしかない。頑張れよ、同居人。

 

 さて、今日が予定の日だな。カンパネルラさんからは特に何も聞いていないから、一度ここから出て拠点に戻ろうかな。そういえばギルバート先輩、大丈夫かな、一人で家事とか大丈夫だろうか。心配だ。

 私がジオフロントを出ようとしていると、

 

『ドォォォーーーーン!!!』

 

 ものすごい音がした。どうやら何かがいるようだ。もしかしたら‥‥‥‥ぬし、か。まだ生き残りがいたのか。ちょうどいい、朝からランニングと素振りくらいしかしていなかったので、少々物足りなかった。待ってろよ、ぬし。今行くぞ!!

 私は音がする方に走って向かった。

 

side リィン・シュバルツァー

 

 ジオフロント内部、F区画の端末室で魔煌兵が現れ、撃退した。だがすぐにもう一体が現れた。

 この場を切り抜けるには、今のままでは心もとない。もしかしたら、この距離ならヴァリマールを呼べるかもしれない。過去に一度ジオフロント内部でヴァリマールを呼んだことがあった。なら今回もいけるかもしれない。

 

「こい、《灰の騎神》‥‥」

「その必要はないわ」

 

 声が聞こえた。懐かしい女性の声が聞こえた。

 魔煌兵の足元に矢が撃ち込まれた。あれは導力弓の矢だ。

 打ち込まれた方向を見ると、そこには二人の女性が立っていた。

 メイド服の女性、シャロンさんと金髪で一年以上前から比べてとても美しく変わっていたアリサだった。

 

「シャロン! 一気に仕留めましょう!」

「ふふ、お任せください」

 

 シャロンさんが魔煌兵を鋼糸で縛り、動きを止めた。そこにすかさずアリサが矢を放った。

 

「ジブリール・アロー!」

「秘技―――死縛葬送!」

 

 アリサの矢は炎を纏い、魔煌兵を焼き、シャロンさんの鋼糸は縛り上げ、

 

『ドォォォーーーーン!!!』

 

 という大きな音と共に魔煌兵が消滅した。

 もう周囲には再度出現する気配はない。どうやらこれで大丈夫なようだ。

 二人がこちらに向かって歩いてくる。

 今日ここに来るまでにマキアスにも会っていたし、前回の演習でのエリオット達の事もある。

 

「やっぱり、マキアスとグルになって狙っていただろう?」

 

 そうアリサに話しかけると‥‥‥‥抱き着かれた。

 

「あはは‥‥‥‥気の利いた挨拶をちゃんと考えてたんだけど‥‥‥‥いざ会ってみたら全部、吹き飛んじゃったっていうか‥‥‥‥」

「そうか‥‥‥‥」

 

 俺も抱きしめ返した。

 

「久しぶりだ。直接会うのは一年以上ぶりか。綺麗になったな‥‥‥‥正直、見違えたくらいだ。」

「ふふっ、貴方の方こそ‥‥‥‥でも一目で声を聞いただけで分かった。貴方が私の―――私たちの大切な人だって。久しぶり――――リィン! それから卒業おめでとう!」

「ああ‥‥‥‥ありがとう、アリサ」

 

 俺とアリサが再会に浸っていると、シャロンさんからの発言に照れたアリサが、

 

「しないからっ!!」

 

 その発言で俺とアリサの再会の挨拶は終わりを告げた。

 すると、突如区画の扉が開き、アイツが現れた。

 

【‥‥‥‥ふむ、どうやら邪魔をしてしまったようだな。失礼、では存分に久闊を叙するがいい】

 

 そう言って、執行者No.ⅩⅩⅠ《社畜》が出て行こうとしていた。

 何故ここに結社の執行者がいるんだ!? 俺は驚き問いただした。

 

「!!お前は執行者《社畜》! どうしてここに!?」

【いや、気にするな。我もそれくらいは弁えている。ではな】

 

 そう言って出て行こうとする執行者《社畜》。

 すると、シャロンさんが言葉を発した。

 

「執行者《社畜》ですか、初めましてですわね」

【ん? おお、これは失礼した。執行者No.ⅠⅩ《死線》のクルーガー殿とお見受けする】

「いかにも、ですが今の私はラインフォルトに仕えしメイド、シャロン・クルーガーですわ。以後お見知り置きを」

【ご挨拶が遅れた。我は執行者No.ⅩⅩⅠ《社畜》。こちらこそ見知りおき願おう。そうか、先輩殿であったか‥‥‥‥では、全力でご挨拶させていただこう!!】

 

 《社畜》が黒い闘気を身に纏い、左手に剣を出して構えた。あの剣は以前見た‥‥‥‥

 

「その剣は『ケルンバイター』! 何故貴方がそれを!」

【我も盟主様より『外の理』の武器を与えられている。それにこれは我の覚悟だ。今は亡き《剣帝》の剣技、これを蘇らせるという覚悟の形。行くぞ、先輩殿。準備は宜しいか?】

「いきなりですわね‥‥‥‥お断りをした場合は?」

【執行者とはこういう挨拶が普通であろう。それに執行者にはあらゆる自由が与えられている、それは盟主様が定めたこと。故に我もそれは尊重しよう】

 

 《社畜》は剣をシャロンさんから、アリサに向けた。

 

【‥‥‥‥だが、ラインフォルトに打撃を与えられるならば、我が思惑に沿う。心苦しいがそちらのアリサ・ラインフォルトの命を頂戴しておこう。それが済めば、残るはイリーナ・ラインフォルトのみ。いずれはその命も頂戴する。これで我が思惑は加速する】

 

 な! アリサとイリーナさんの命を狙っている! そんな事させる訳にはいかない!

 俺は剣を構え、何時でも攻撃できる体勢を取ってた。だが、俺よりも先に仕掛けたのはシャロンさんだった。

 

「!!させません! 私が居る限り、ラインフォルトに手を出させません!」

【‥‥‥‥どうやらやる気になったようだな。では‥‥‥‥参る!!】

 

 シャロンさんと《社畜》という執行者同士の戦いは、高速機動の中で行われた。

 シャロンさんの鋼糸が《社畜》を襲う、だが左手の剣一本でその鋼糸は捌いていく。

 

「やりますわね!」

【この程度、造作もない。《神速》の方がよほど速いくらいだ】

 

 二人の戦いは鋼糸で遠距離から攻撃するシャロンさんと、剣で鋼糸を捌きつつ気を狙う《社畜》の攻防だ。今の状況で割って入るのは難しい。むしろ今割って入るとシャロンさんの邪魔になる。逆の状況だったら、攻撃を仕掛けられたのに、今は無理だ。俺も気を狙うしかない。

 それに《社畜》の戦い方が以前とは違う。以前は相手の攻撃に合わせて同じ攻撃を仕掛けていた。今回はシャロンさんと同じ鋼糸で戦うと思っていたが、それをしていない。鋼糸は使えない、いや持っていないのか? それに剣一本で戦うには距離がある。シャロンさんも剣士との戦い方を心得ているのか、射程外からの攻撃で足を止めている。これならシャロンさんが勝つ、そう思った。

 

【さすがは先輩殿だ。一人では難しいか】

「もう降参ですか?」

【いや、この程度ではアリアンロード様にも《劫炎》殿にも勝てはせん。二人を乗り越えると決めた以上、無様は晒せぬ。それに《剣帝》殿もこの程度では倒せぬであろう。ならば我もここからは少し‥‥‥‥本気でお相手させていただこう『分け身!』】

 

 《社畜》が二人に分かれた。あれは『分け身』、以前《神速》が使っていた技。やはり《社畜》も使えたのか。

 シャロンさん一人では不利だ。俺がもう一方を押さえる。そう決めて、俺もその戦いに参戦する。だが、生徒たちは戦わせるわけにはいかない。

 

「シャロンさん、俺も参戦します。みんなはここにいろ、手を出すな」

「教官!」

 

 アルティナが俺を呼んだが、それを振り切って戦いに参戦した。

 

「弐の型『疾風』」

【リィン・シュバルツァー‥‥‥‥弐の型『疾風』】

 

 俺の『疾風』は前回の時にも使われた。あれから一月、力の差は‥‥‥‥以前より広がっている。

 ただの『分け身』に押し負けた。でも引き下がれない。同じ剣士だから、いや何故だか引き下がってはいけない気がする。

 

「明鏡止水、我が太刀は静!‥‥‥見えた!」

【ほう、その技は見たことがなかったな。では、見せてもらおう】

 

 俺は《社畜》の周囲を縦横無尽に移動しながら斬撃を繰り出した。

 

「七ノ太刀・落葉」

 

 俺の斬撃を全て受け流し、まるで堪えた様子はなかった。

 

【ふむ、良く分かった、だが今は使わん。その技は後々ご披露させてもらおう。だが、今は‥‥‥‥受けてみよ‥‥‥‥蘇りし《剣帝》の一撃を‥‥‥‥『鬼炎斬!!』】

「グハァ!!」

 

 俺は《社畜》の一撃を受けて、吹き飛ばされた。

 《社畜》の放った一撃を俺には見切ることが出来なかった。《剣帝》、その名にふさわしい剣技だった。どれほど振り込んだのか見当がつかない程の剣、見事な太刀筋だ。凄まじい闘気を剣に込めて放たれた一撃は俺の攻撃の比ではなかった。敵ながら見事、と思わざるを得ない程だった。

 

「リィン!!」

「「「教官!!」」」

「リィンさん!!」

 

 俺に駆け寄ってくる、アリサ、生徒たち、ティオ主任。

 

「今のは《剣帝》の『鬼炎斬』! どうして貴方がその技を!」

【なに、日頃の鍛錬の成果、とだけ言っておこう。行くぞ先輩殿、『分け身』ではない実体である我が剣、受けてみよ―――『鬼炎斬!!』】

「キャアッ!!」

「シャロン!!」

 

 シャロンさんも《社畜》の剣技の前に倒れた。

 ダメだ、このままじゃあ、全滅だ。

 もうこの手を使わざるを得ない。使うしかない、『鬼の力』を‥‥‥‥

 

「うおおおおお!!『神気‥‥‥‥』」

【その必要はない】

 

 《社畜》はそう言い放つと、剣を収め、『分け身』が消滅した。

 

【先輩殿、自己紹介も終えたので、これにて失礼する】

「っ!、お待ちなさい!!」

【此度は偶発的な状況から、戦いに発展しただけ。故にこれで手を引け。それに我にはやることがある。あまり時間を掛けたくはない】

「お嬢様やイリーナ様に剣を向けたことに弁明はございませんの?!」

【《道化師》殿には不要だと言われたが、我は機会があれば行動しておこうと思ったまでの事。後顧の憂いを断っておくべきだと、我が大願成就のためにも】

「‥‥‥‥一体、それは‥‥‥‥」

【いずれ分かる。我と我が相棒がそれを成す。例え、誰に否定されたとしても、我と我が相棒の二人でなら、それを成せる。我はそう確信している】

 

 一体その大願とは、相棒とは、聞きたいことが多くある。だけど、それを問いただす前に‥‥‥‥

 

「私の故郷で好き勝手な事させないんだから!!」

 

 ユウナが飛び出し、《社畜》に向かっていく。

 

「ユウナ!! だめだ、ヤメロ!!」

 

 俺は声を張り上げ、ユウナを止めようとした。だが、ユウナは止まらず、《社畜》に迫る。

 

「ハアアアアッ!! ヤアッ!!」

【ふっ、この程度で我に挑むとは‥‥‥‥片腹痛い!】

「キャアッ!」

 

 ユウナは弾き飛ばされた。だが、その後の言葉に一同息を呑んだ。

 

【ユウナ、ユウナ‥‥‥‥おお、思い出した。‥‥‥‥()()()()()()()()()()

「えっ?」

【御父上は毎晩遅くにお帰りのようだな。‥‥‥‥()()()()()()()()()()()()()()

「え!」

【御母上も娘の事を案じていたぞ。君も案じてやるといい、‥‥‥‥()()()()()()()()()()()

「!」

【弟のケンと妹のナナはいつも元気だな。‥‥‥‥()()()()()()()()()()()()

 

 カラン、と音が響く。ユウナの手からトンファーが零れ落ちた。

 後ろからでも分かる、ユウナの体が震えている。

 《社畜》は知っている。ユウナの家族の事を‥‥‥‥知っている。

 ここに来る前にユウナの家族には会っている。その時には変わった様子はなかった。だけど、お父さんとは会えていない。まさか、既に人質に‥‥‥‥

 

()()()()()()()()()()()()()()

「あ、あ、あ、あ‥‥‥‥」

 

 ユウナは怯えて、その場にへたり込んだ。

 

【さて、これで我は失礼する。ではな】

 

 もう誰にも《社畜》を追うことなど出来ない。悠々と歩いて出て行った。

 

side out

 




次の更新は日曜日を予定しています。
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