社畜の軌跡   作:あさまえいじ

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第十四話 クロフォード家

―――七耀暦1206年5月20日 アパルトメント《ベルハイム》 AM11:00 

 

 つい先程、ジオフロント内部でリィン達に遭遇した。

 最初はリィンとアリサ・ラインフォルトが良い仲だったのを察して、素知らぬ顔で出ようとしたのに、呼び止められた。折角空気を呼んで退席しようとしたのに、なぜ呼び止める? 私は弁えている執行者として空気を呼んだと言うのに呼び止めるなよ、リィン。全く、そんなんだから周りを振り回すんだぞ。

 私は友人の相変わらずな言動にホッとしながらも、もう少し変わっていろよ、と複雑な気持ちだった。

 

 しかし‥‥‥‥ラインフォルトには申し訳ないとは思っている。剣を向けてしまった、かつての学友に殺意をぶつけた。もはや言い逃れは出来ない。私は‥‥‥‥我々の大願のために、かつての学友を手に掛けようとした。

 このようなことが私に出来たとは‥‥‥‥随分と冷酷になれたものだ。アリサ・ラインフォルトの事をリィンが大切に思っていることは知っている。だから久しぶりの再会の場面は空気を呼んで、退席しようとした。リィンが呼び止めなければ‥‥‥‥手を出すことは少しは考えた。二、三分ほどは考えて、その場にまだ居れば、手を掛けたと思う。

 かつての学友に対する行動ではないな、これは。‥‥‥‥だがそれも仕方がない。彼女は『ラインフォルト』だ。帝国の根幹企業ラインフォルトグループの創設一族にして、おそらくは次期会長になるであろう人物だ。親とは仲が悪いらしいが、そんな存在があんな場所に護衛一人で来るなんて、何を考えているのか‥‥‥‥いや、リィンの事しか考えていないんだろうな。恋は盲目とはよく言ったものだ。

 だが私もミラを貰う一般的な社会人であり、組織人だ。我が結社のために自分を殺し、お仕えするのは当然のことだ。だからこそ、剣を向けた。

 彼女の首は帝国の経済支配に必要なのだ。ならば私の意志など不要。結社に全てを捧げる覚悟を示すためならば、かつての学友でも斬る‥‥‥‥可能な限りは避けたいがな。

 

 そんな事を考えていると、クロスベルの拠点、我が家があるアパルトメント《ベルハイム》に到着していた。凄いな、考え事ばかりしていて、無意識に近い感覚で歩いていたと言うのに、ちゃんと我が家に到着した。随分と馴染んだんだな、そんな事を思っていた。

 私は我が家の扉の前に立ち扉を開け、中に入ろうとすると、我が部屋の隣の扉が開き、そこから女性が出てきた。私はその女性に元気にご挨拶をした。

 

「おはようございます!」

「あら、ハード君。三日ぶりね、お仕事お疲れ様でした」

「ありがとうございます‥‥‥‥リナさん」

 

 先程ジオフロント内部で会った、ユウナちゃんのお母さん、リナ・クロフォードさんと住居前でばったりと出くわした。

 

 クロフォード家と私とギルバート先輩の関係は引っ越しの挨拶から始まった。

 私とギルバート先輩はまずお隣のクロフォードさんの御宅にご挨拶に伺った。もちろん手土産として特製コロッケ持参で参ったところ、美味しいと大変喜ばれ、交流を深めることになった。

 それ以来、クロフォード家とのお付き合いが始まった。リナさんには男二人のルームシェアと言うことで、栄養が偏ると思われ、夕飯の御裾分けを頂いた。私とギルバート先輩が飲食関係の仕事をしているので、味には自信があったが栄養バランスというモノには無頓着だったので非常に有難かった。それからは夕飯に御呼ばれすることもあり、私もお手製コロッケを振舞うなどしてきた。だがこれまでの人生で家族で食卓を囲むと言うのがなかったので、味も良いがそれ以上に温かかった。

 

 旦那さんのマシューさんは人当たりのいい人で、私とギルバート先輩ともお酒を共に飲む仲になっている。ここ最近は仕事で遅くなることが多いので、私がマシューさんに代わり、クロフォード家の護衛を行っている。危険が無いように分け身をアパルトメントの周囲に展開して安全を確保している。マシューさんは仕事で夜遅くに帰ってこられるので、大変お疲れのようだった。そのため、私がマッサージをして疲れを取っている‥‥‥‥ように見せかけって、『神なる焔』で体を健康にしている。そのため毎日非常に元気に出社しているそうで、リナさんも一安心している。ただ、帝国の士官学院に入った娘さんのことが心配の様で、お酒が入ると、「ユウナァ~、ユウナァ~」と泣いていることが多い。残念ながら『神なる焔』でも精神的には元気に出来なかった。申し訳ない。

 

 ケン君、ナナちゃんとは『ポムっと』というゲームを教えてもらい、頻繫に相手をしてもらっている。当初は二人の方が強かったので負けていたが、最近は勝敗はイーブンというところまで向上してきた。この調子で頑張りたい。

 

 私とギルバート先輩はクロスベルに来て以来、クロフォード家には足を向けて眠ることが出来ない程にお世話になっている。

 そんなクロフォード家の奥様、リナさんはこれからお買い物のようだが、リナさんの様子がいつもより明るかった。どうかしたんだろうか?

 

「いつもより表情が明るいですね。なにか良いことでもありましたか?」

「ええ、娘のユウナが久しぶりに帰ってきたんです。学院の演習と言うことで、少ししか会えませんでしたが、娘の元気な姿が見れてホッとしました」

 

 そうだった、さっきジオフロントに居たんだった。なんだ、先に実家に顔を出してからだったのか。それは良かった。

 彼女にも事情があるとは思うが、折角の里帰りだ。キチンと実家に顔を出したか、気になって聞いてしまった。まあ、最近はマシューさんが仕事で家に帰るのが遅いため会えないだろうが、リナさんやケン君、ナナちゃんは会いたがっていたので、是非とも会って欲しいと思っていた。私も隣に引っ越してきた者としてキチンとご挨拶するのが筋なんだが、生憎仕事中だったので不作法してしまい申し訳ない。今度お会いするときには是非ともご挨拶しなくては‥‥‥‥

 

「そうですか、それは良かったですね。娘さん、今日は泊っていけるんですか?折角帰ってこれたんでマシューさんもお会いしたいでしょうね」

「残念だけど、無理みたいなのよ」

「‥‥‥‥そうですか、マシューさんも残念でしょうね」

 

 マシューさんには御気の毒だと思うが、娘さんにも事情があるんだ。我慢してもらおう。‥‥‥‥今日はやけ酒になるかもしれないな、マシューさん。仕方がない、付き合おう。『神なる焔』があるから明日も仕事に行ける。一家の大黒柱に休日なんかない。だけど安心してください、私が居る限り、二日酔いなんかしない。安心して深酒してください。

 

 

 その後、リナさんが買い物に向かったのを見届け、部屋に入った。

 クロスベル拠点、いやマイホームに帰ってきた。実に三日ぶりだ。久しぶりの我が家の感想は‥‥‥‥汚い。実に汚い。ホコリが溜まっているし、洗濯物のたたみ方も雑だ。やっぱりリィン達との戦闘を早めに切り上げてよかった。戦闘中に思い出し、気になりだしたので、戦闘を強制終了して帰ることにした。さて3日ぶりの掃除だ。気合入れてやるぞ。それにもうすぐ、ここともさよならだ。ならば少しでも綺麗にして去ろう。

 私は掃除道具を手に持ち、作業に取り掛かった。

 

「あ、そういえば、そろそろ来るかな」

 

 私はもうすぐ来るであろう来訪者を待ちながら掃除をし続けた。

 

 

 

side リィン・シュバルツァー

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥‥お母さん」

「ユウナ、もう少しだ!」

 

 俺達は今、ユウナの家に向かって走っている。

 ジオフロント内部での《社畜》との戦闘時、アイツが意味深な言葉は放った。

 

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 その言葉の意味を察したとき、背筋が凍った。ユウナの家族に危機が迫っている、そう思ってしまった。ユウナもそれを感じて、恐怖した。家族を失う、そう思って、体が硬直した。最早今のユウナに戦い意志も覚悟もない。今のユウナを動かしているものは家族に会いたい、ただそれだけだった。

 俺でもそうする。もし、父さんが、母さんが、エリゼが、危険が迫っていると知ったら、俺も同じ状態になるだろう‥‥‥‥

 そうこうしていると、ユウナの家族が住むアパートに到着した。ユウナは急いで実家の前に立ち、扉を開けようとすると‥‥‥‥開かなかった。

 

「え、な、何で!」

 

 ユウナがドアノブをガチャガチャと回しているが、扉は開かない。それでも諦められず、扉をドンドン、と叩いている。

 

「お母さん! ケン! ナナ!」

「ユウナ! 落ち着け!」 

 

 ユウナは錯乱している。無理もない、先程の《社畜》の言葉の裏の意味が俺達の想像通りだとしたら‥‥‥‥だが、その想像はすぐに覆った。

 

「あら、どうしたのユウナ? そんなに慌てて」

「お母さん!」

 

 ユウナのお母さんが現れた。どうやら買い物をしてきたようだ。

 

「よかった~」

「あら、どうしたの?」

 

 ユウナは緊張の糸が切れて、その場にへたり込んだ。そんなユウナに疑問の顔をしている、ユウナのお母さん。

 その後、ユウナが落ち着くのを待って、最近不審なことがないか聞いてみることにした。

 

 

「お母さんに聞きたいことがあって、来たんだけど‥‥」

「聞きたいこと?」

「ええ、最近変わったことはありませんか?」

「変わったこと、ですか?」

「ええ、何でもいいんです?」

「そうね‥‥‥‥ああ、お隣に二人組の男性が引っ越してこられたわね」

「二人組の男性‥‥ですか」

 

 二人組の男か、気になるな。もしかしたら結社の人間かも知れない。

 俺がそう考えていると扉が開き、子供が二人、入ってきた。

 

「ただいま~」

「ただいま~」

「あら、お帰りなさい。ケン、ナナ」

「あ、姉ちゃんだ。姉ちゃん~」

「お姉ちゃんなの~」

「ケン、ナナ、良かった~」

 

 ユウナの姉弟たちがユウナに抱き着いている。ユウナも心配が解消できたようだ。

 

「まあ、まあ御二人ともいらっしゃい」

 

 ユウナのお母さんが玄関に向かってそういった。一体誰だろうと見てみると‥‥‥‥二人の男がそこにいた。

 

「どうも、クロフォードさん。では、またおいで、ケン君、ナナちゃん」

「うん、アルバさん。またね」

「アルバさん、またね」

 

 一人は、ニコニコ笑っている中年くらいの眼鏡をかけた男性だ。どこかで会ったような‥‥‥‥あ!

 

「貴方はセントアークのコロッケ屋台で働いていたアルバさんですか?」

「ええ、かつてはそうでしたね。貴方は確か、社長を訪ねてこられた方でしたね。お久しぶりです」

「あ、失礼しました。お久しぶりです」

 

 セントアークのコロッケ屋台で働いていたアルバさんだったことを思い出した。思わぬ人物との遭遇に驚いてしまった。でもどうしてクロスベルにいるんだ?

 

「麗しいマダム、愛の狩人アレイスターが参りました。今日のお昼は私、アレイスター作の怪盗炒飯です。貴方の心を盗んでしまう、そんな味を追求しました。どうぞご賞味あれ。ボーイアンドガールも是非とも食べてくれたまえ」

「まあ、ありがとうございますアレイスターさん。ほら二人ともお礼を言いなさい」

「うん、アレイスターさん、ありがとう」

「アレイスターさん、いただきます」

「ハハハハハ、お客の笑顔が私の財宝だ。既にお代は頂いている」

 

 もう一人はキザな男の人だった。白い割烹着を着て、岡持ちを片手に持っている。その岡持ちの中から炒飯を出して、テーブルに並べていく。

 

「では我々はこれで失礼します。お客様にも失礼しました」

「ではマダム、再会を楽しみにしています。御客人、お食事は是非とも《龍老飯店》をご贔屓に」

 

 そう言ってちぐはぐな二人が出て行った。近くの扉の開く音がした。この部屋の隣に越してきたのはあの二人のようだ。

 

「リィン様」

 

 とても小さい声で、シャロンさんに話しかけられた。

 

「ここを出ましょう。すぐに」

「どうしてですか?」

「‥‥‥‥訳は後で話します。ですから今は‥‥‥‥」

「‥‥‥‥分かりました」

 

 シャロンさんと話をして、ここから出ることにした。

 

「すいません、気になることが解消しましたので、これで失礼します。ユウナもいいか?」

「あ、はい。すいません教官、無理言っちゃって‥‥」

「いや、構わない。では、これで失礼します」

「あら、折角だから、一緒に食べていって欲しかったけど‥‥‥‥」

「うん、ごめん。元々私が、お母さん達に会いたかったから、来ちゃったんだ」

「もう、行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」

 

 

 クロスベルから出て、演習所に向かう道中、シャロンさんが話しかけてきた。先程の件のことだろう。

 

「リィン様‥‥‥‥落ち着いて聞いてください。他の方には決して知られてはいけません」

「‥‥‥‥それほどの事ですか?」

「‥‥‥‥ええ、私も驚きました。ですが、それでも決して表情に出してはいけません」

「‥‥‥‥分かりました」

 

 俺とシャロンさんは少し、周りと距離を離し、周囲を窺った。ユウナ、クルト、アルティナは三人で話している。それにアリサとティオ主任も二人で話している。どうやらこちらには気が付いていないようだ。

 シャロンさんも周囲の状況から大丈夫だと判断したようで、話し始めた。

 

「まず、二人組の男がユウナ様のご実家のお隣に入って行かれました」

 

 確かに、俺も気配で近くの部屋に入ったことは分かった。まず間違いなく、ユウナの実家の隣の部屋だと思う。

 

「‥‥‥‥ですが、その二人組が問題なのです」

「問題?」

「一人は執行者、執行者No.X《怪盗紳士》ブルブラン、だと思います。彼の素顔は見たことがあります。だからおそらくはそうだと思います」

「!」

「そしてもう一人は‥‥‥‥」

「‥‥‥‥シャロンさん?」

「いえ、久しぶりに見たので驚きました。‥‥‥‥もう一人は使徒第三柱《白面》のゲオルグ・ワイスマン。かつてリベールで行われた『福音計画』、その際に亡くなったはずの使徒です」

「‥‥‥‥使徒第三柱‥‥‥‥ニセモノですよね?」

「分かりません。彼が死んだのを確認したのはカンパネルラだけです。もし彼が何らかの目的で《白面》を生かしていたのだとすると、本物かも知れません。ですが、誰かの変装と考えるのが妥当ですわね。カンパネルラは見届け役という仕事は真っ当しています。そのカンパネルラが報告をしている以上、《白面》が死んだと考えていいと思います。ですが、変装が出来る執行者は私が知る限りではブルブランくらいです。だから‥‥‥‥」

「《怪盗紳士》は確実にいる、と言うことですか?」

「‥‥‥‥私はそう考えます。ですが《社畜》の事は、私は知りません。どんな能力を持っているかは分かりません」

「俺が知る限りですけど、《社畜》は相手の行動、いや技を真似することが出来ると思います。武器も、と考えますけど、それは分かりません」

「真似‥‥‥‥ですか?」

「前回の演習で、戦った時に技を真似されました。俺だけじゃなく、ランディ教官もラウラもA級遊撃士のアガットさんも真似されました。‥‥‥‥ランディ教官曰く、《鋼の聖女》の技も真似したそうです」

「《鋼の聖女》!‥‥‥‥そんなまさか、あり得ませんわ」

「『聖技グランドクロス』、その技を受けたランディ教官が同じだった、と言っていました。ただ、そんな技を真似できるものなんでしょうか?」

「‥‥‥‥結社最強、それが彼女、《鋼の聖女》です。その力は《劫炎》と並ぶ結社の双璧です。もし本当に彼女の技を使う者が、見ただけで技を使うようになるのだとすると‥‥‥‥これほど厄介なことはありません」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥ですがそれもあり得ない事ではないのかも知れませんわね」

「え?」

「執行者No.Ⅱ《剣帝》レオンハルト、こちらも《白面》と同じく、リベールで亡くなっております。その亡骸を埋葬したのが元執行者No.ⅩⅢ《漆黒の牙》ヨシュア・アストレイ。いえ、今はヨシュア・ブライトでしたわね」

「ヨシュア・ブライト‥‥‥‥《剣聖》カシウス・ブライトの養子ですか」

「ええ、彼と《剣聖》の娘、エステル・ブライトが《剣帝》の亡骸を弔っています。ですので、彼は死んでいます。だと言うのに‥‥‥‥」

「《剣帝》の剣、《社畜》はそう言いましたよね。シャロンさんから見てどう思いましたか」

「‥‥‥‥『鬼炎斬』、かつて《剣帝》が使っていた技です。そしてその技は他の誰にも使えません。なのに《社畜》は使って見せた。その技はかつての《剣帝》程ではないですが、それに近いものを感じました。もし《鋼の聖女》の技を使い、《剣帝》の技を使う。そうなると結社最強に近いと言わざるを得ません。私では歯が立ちそうにありませんわ」

「それほどですか」

「先程の戦いでも、おそらくは剣だけで戦う、と己に課して戦ったと思います。だから、己の力を制限している状態でも私たちを圧倒できる程の強さです」

「‥‥‥‥一旦《社畜》の事は置いておきましょう。現状では対処が難しそうですので」

「懸命ですわね」

 

 話していて、気が滅入ってきた。一度仕切り直そう。

 そう思い、もう一度現状について状況整理から始めた。

 

「まず、ユウナ様の実家のお隣は結社の関係者がいらっしゃいます。おそらくは執行者《怪盗紳士》、最悪は《白面》付きですわね。つまりクロスベルには《社畜》、《怪盗紳士》、《白面》という二人の執行者と、一人の使徒が最悪の場合はいる、と言うことですわね。‥‥‥‥一体どんな計画が成されようとしているのか、想像もつきませんわね」

「‥‥‥‥こんなこと、ユウナには話せませんね」

 

 俺は前を歩く、ユウナを見て、そう思った。

 

side out

 

 部屋の扉が開き、外から二人の男が入ってきた。ゲオルグ・ワイスマンとブルブランの二人、即ち私の分け身だった。

 

「お帰り、じゃあバックアップを作って」

「「はい、本体」」

 

 そう言って、分け身二体がバックアップを作成している。

 このバックアップというのは記憶を書き残すことだ。つまり、報告書の作成だ。

 私はその報告書を見て、自分の技術に落とし込む。私の分け身が体験し、習得した技術を書類に纏めることで、私もその内容を理解し、自身の技術にする。でもできない場合もあるが、記憶に留めることでいずれは出来るようになる。

 この報告書を作成することで、私がそれを見ながら、次回作成時に記憶した技能を付与することで、社会に溶け込み分け身だとバレない様に努力している。

 それに分け身が仕入れてきた情報も確認しておかないと、折角情報収集用に作ったのに意味がない。

 

「「出来たぞ、本体」」

「分かった、確認する」

 

 分け身が作った報告書を読む、ふむふむ、よし覚えた。

 私はパン作り、炒飯作りの技法を学んだ。これでいつでも、同等の味が出せる。だが‥‥‥‥

 

「まさか、使徒第二柱が接触して来ていたとは‥‥‥‥」

 

 どうやら私をブルブラン本人だと、間違えて接触してきたようだ。その後すぐに消えられてしまい、分け身では追えなかった。一応後でカンパネルラさんに報告しておこう。

 それに先程、隣のクロフォードさんの御宅の扉からドンドンとかガチャガチャとか音がしていたので、泥棒かと思い、飛び出して『鬼炎斬』を叩き込んでやろうかと思ったが、リナさんが帰ってきて、どうやらリィン達だと言うことが分かったので、飛び出すのを止めた。それから、分け身『ゲオルグ』はパン屋に遊びに来ていたケン君とナナちゃんを家まで送ってきて、分け身『ブルブラン』はお昼ご飯の出前に来たようだ。そのついでに報告書を書きに来たと言うことか。

 しかし、リィン達、いやシャロンさんに分け身『ゲオルグ』と分け身『ブルブラン』を見られたか。まあいいか、私と分け身の基の人物二人に接点はないし、会ったこともない。その線から私が情報収集の任務をしているとは思うまい。

 さて、掃除の続きをしよう。おそらく今夜にでも『劫炎』の先輩とカンパネルラさんが動きだすだろうし、私もそれに参加する。そうなると忙しくなるから掃除もまともに出来ないかもしれない。引っ越しの準備もしないといけないし、ご挨拶の準備もしないといけない。

 忙しい、忙しい、時間がいくらあっても足りない、こういう感じが懐かしい。帰ってきたと感じるな。

 


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