社畜の軌跡   作:あさまえいじ

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感想返し遅くなり申し訳ありませんでした。


第十五話 前門の劫炎、後門の社畜

―――七耀暦1206年5月20日 オルキスタワー PM1:00 

 

 さて、ようやく掃除が終わったな。うんうん、キレイになったな。やっぱり部屋はキレイな方が気分がいい。

 ‥‥‥‥そういえば今日が予定の日だけど、まだ連絡がないな。ちょっと聞いてみよう。

 私は結社から支給されている端末を使い、カンパネルラさんに連絡をすることにした。

 

「はーい、カンパネルラだよ」

「お疲れ様です。カンパネルラさん、ハードです。今お時間宜しいですか?」

「はいはーい、大丈夫だよ。なに?」

「今日の計画についてですけど、何時、何処に行けばいいですか?」

「うーん、場所はオルキスタワーなんだけど、時間は‥‥‥‥予定だと午後7時くらいかな。今回はご挨拶だけだから、予定が早まるかもだけど」

「なるほど、分かりました。では私も午後6時くらいに向かいます」

「はーい、待ってるよ」

 

 今が午後1時、予定が午後6時、つまり5時間も時間があると言う事か‥‥‥‥掃除も終わったし、昼食は分け身が持ってきてくれた炒飯を食べたし、修行は今日の分を朝にしてしまったし、追加でやるか‥‥‥‥うーん、でもアリアンロード様に言われたけど、やりすぎはダメだと言われたし、しょうがない‥‥‥‥寝よう。

 そう言えば、最後に寝たのは何時だったか‥‥‥‥ああ、カンパネルラさんに騙されて逮捕されたとき以来か、つまり三日ぶりか。ジオフロントでは寝なかったし、あまり眠くはないけど、先の事を考えると、体調は万全にしておこう。では、寝よう。

 私はその場に倒れ込み、数秒で意識を失った。

 

 

―――七耀暦1206年5月20日 オルキスタワー PM6:30

 

side リィン・シュバルツァー

 

 俺はユウナの実家に危機が迫っていることをユウナに告げることが出来ずに、Ⅶ組として午後の課題を終わらせた。すると、オルキスタワーで行われる晩餐会の警備に第二分校が呼ばれたことを告げられた。

 俺達は一度演習地に戻り、第二分校一同でオルキスタワーに向かった。その後、Ⅶ組とティータでVIPに挨拶周りをした。オリヴァルト殿下、アルフィン殿下、イリーナ会長、レーグニッツ帝都知事、ルーファス総督、そしてエリゼに久しぶりに会うことが出来た。

 その後生徒達と話しているときに気配を感じた。一年半前の内戦の時に何度か感じたことがある、あの男の気配を‥‥‥‥そして、大きな爆音と衝撃が起こった。

 発生個所は屋上のようだ。現在トワ教官が端末を操作し、状況を確認している。すると其処に映ったのは、二人組だった。そして、その内一人はやはりあの男だった。

 

「No.Ⅰ《劫炎》」

 

 俺はそれを見て、急ぎ指示を出した。

 

「トワ先輩、ランディさん! 生徒達と視察団の安全確保を! ミハイル少佐は警備部隊との連絡をお願いします!」

「合点承知だ!」

「エレベーターは使用不能だよ! 非常階段を使って!」

「了解です!」

 

 俺はそう言って、走って屋上を目指した。

 途中でシャロンさんと合流して屋上に向かう道中、現れた二人組、《劫炎》のもう一人について聞いてみた。

 

「二人いたみたいですが《劫炎》の他は‥‥‥‥?」

「ええ、執行者の一人ですわ。‥‥‥‥それも極めて厄介な」

 

 やはり執行者か‥‥‥‥。これで、《社畜》以外に《劫炎》、《怪盗紳士》、それにもう一人。更に最悪な場合は詳細不明な使徒第三柱までいるのか‥‥‥‥一体どれだけの結社の人間がクロスベルにいるんだ!?

 俺はそんな思いを抱きながら、屋上の向かった。

 

 

 俺とシャロンさんは屋上に出て、感じた。《劫炎》の禍々しい気配に足がすくみそうになる。

 

「‥‥‥‥行きましょうか」

「ええ、くれぐれもご用心を」

 

 俺とシャロンさんが気配の方に向かうと、揚陸艇が燃えていた。そして、そこにいたのは、《劫炎》ともう一人の執行者の二人組だった。

 他には‥‥‥‥いない。

 

「ふああっ‥‥‥‥、遅かったじゃねえか」

「うふふ‥‥‥‥君たちが一緒に来るとはね」

 

 気怠そうな《劫炎》と‥‥‥‥聞いたことがある声の男。

 

「その声は‥‥‥‥」

「‥‥‥‥最悪の組み合わせ、ですわね」

「久しぶりだな、クルーガー。それに灰の小僧。面白い場所で再会したもんだぜ」

「ふふ、お茶会などであれば、なお良かったのですけど」

「‥‥‥‥アンタだとすぐ分かったよ。存在自体と一体化した『力』‥‥‥‥今ならその化物ぶりが一層分かる」

「へえ、そういうお前さんはなんか妙なことになってやがるな? 『鬼』の力‥‥‥‥一年半前よりイイ感じで混じってるじゃねえか」

「‥‥‥‥」

 

 俺は騎神を呼ぶことも考慮していると、シャロンさんに止められた。

 

「‥‥‥‥機神を呼ばれるのは様子を見た方が良いかと。下手をすれば彼をその気にさせてしまいます」

「ええ‥‥‥‥重々承知です。《煌魔城》の時も絡まれそうでしたから」

「おいおい、人の事を戦闘狂みたいに言うなよ。ヴァルターや戦鬼の小娘よりは弁えてるつもりだからな」

「アハハ‥‥‥‥どっちもどっちだと思うけど。まあ、最も弁えていないのは現状《社畜》なんだけどね。うふふ‥‥‥‥灰のお兄さんは改めまして。執行者No.0.《道化師》カンパネルラさ。」

「沼地で現れた少年か‥‥‥‥幻獣を出現させるだけじゃなく、この場所にも現れるとは‥‥‥‥視察団の方々を狙うつもりか?」

「ふふ、『実験』のついでにちょっと挨拶に来ただけさ。お望みならこのタワーを丸焼きにすることも出来るけど? 彼がね」

「って人任せかよ」

「まあ、彼がやらなくても、そういうお仕事をやりたがるのがいるけど‥‥‥‥ちょっと連絡の手違いでまだここに来ていないんだよね。ふふ、クルーガー。怖い顔しないでおくれよ。4年ぶりじゃないか。って、シャロンって呼ぶんだっけ?」

「どちらでもお好きなように。4年前に貴方からの要請でサラ様を足止めした時以来ですね」

「え‥‥‥‥!?」

「そうそう、リベールでの《福音計画》。あれの一環で、帝国のギルドを爆破して剣聖カシウスを誘き寄せたんだけど‥‥‥‥最年少のA級だった《紫電》には足止めを喰らってもらたんだよね。里帰りしていたノーザンブリアでさ。その結果、ギルドの建て直しで剣聖のリベールへの帰国も延期‥‥‥‥見事、教授の《福音計画》は第一段階をクリアしたってワケさ!」

「ハン‥‥‥‥レーヴェのヤツから聞いたな」

「‥‥そんな事が‥‥」

「ええ‥‥‥‥所詮、私はその程度の存在。ラインフォルト家に害がなければ古巣の悪事を手伝うような外道です。ですがこのタワーにはイリーナ会長や他の方々がいます。仇なすつもりならば《死線》として貴方がたの前に立ち塞がりましょう」

「フフ‥‥‥‥変わったねぇ、君も。《木馬團》から結社入りしたばかりの頃とは大違いだ」

「クク‥‥‥‥12年くらい前だったか?」

「ふふ、笑顔もサービスできない出来損ないの小娘でしたが‥‥‥‥あの時、軍門に下された借り、少しはお返しいたしましょう」

「何が目的かは知らないが‥‥‥‥俺も同様に、守るべき人々がいる。届かせてもらうぞ――――《劫炎》に《道化師》‥‥!」

「クク‥‥‥‥いいだろう」

「うーん、僕の出番はなさそうなんだけど‥‥‥‥」

 

 俺とシャロンさんが《劫炎》に対峙していると、

 

「いた‥‥‥‥!」

「追いつけたか!」

 

 ユウナ達の声が聞こえた。俺はユウナ達がこちらに来るのを止めた。

 

「来るな‥‥‥‥!正真正銘の化物だぞ!」

 

 ユウナ達、Ⅶ組の三人以外にアッシュとミュゼまで来ていた。

 

「ふふ、折角だから僕が相手をさせてもらおうかな?」

 

 《道化師》がそんなことを言うと、俺の背後、ユウナ達よりも更に後ろから声が聞こえた。

 

【その必要はない】

 

 く、この声は、最悪だ。そちらを見ると‥‥‥‥どこにもいない。だが間違いない、この声は《社畜》だ。でも、俺の背後のユウナ達のその後ろから声が聞こえると言うのに、そこにはタワーの落下防止用の柵があるだけ。だが、《社畜》の声と気配はその先にあるように感じる。

 

【《道化師》殿が出るまでもない。ここは我が‥‥‥‥お相手致す】

 

 そう言って《社畜》が柵の向こう側から飛び出てきた。

 

「ええ!!」

「一体どうやって!?」

 

 ユウナ達が驚きの声を上げている。俺も同じ気持ちだ。一体何処から‥‥‥‥

 

「はは、遅かったね《社畜》、待ち合わせに遅れちゃだめだよ」

【ならば次からは時間と場所以外に高さも連絡事項に組みこんでもらえますかな。こちらはオルキスタワーの一階で待っていた。だが上から音がしたんで、こちらに来ることにしたんだが、こちらが正解だったとは。急いで登ってきたが流石に世界一の高さだな。真っ直ぐ登ってきたと言うのに、少々時間が掛かり過ぎたな】

「‥‥‥‥全く君にはあきれるね。普通に転移してくればいいのに‥‥‥‥」

【生憎、その手の事は不得手でして、それなら登った方が楽だったので、それに寝起きのいい運動になった】

 

 登ってきた!? このオルキスタワーを!?

 俺は驚愕したが、それ以上に生徒たちの方が動揺が大きい。

 

「オイオイ、マジモンのバケモンかよ」

「少々想定外ですわね」

「理解不能」

 

 アッシュやミュゼ、アルティナが《社畜》の異様さに恐れ戦いている。だが、俺も気が抜けない。目の前には《劫炎》、背後には《社畜》、どちらも一筋縄ではいかない上に、《道化師》は手空きだ。

 

「じゃあ、しょうがない。僕は高みの見物をさせてもらうね」

【お任せを】

 

 そう言って、《社畜》は手ぶらで生徒達の前に立ち塞がった。

 ダメだ、生徒達では《社畜》には勝てない。

 

「くっ、やらせるか‥‥‥‥!」

「おいおい、小僧。よそ見してる余裕あんのか?」

「‥‥致し方ありません。目の前の彼相手に油断は『死』あるのみですわ」

 

 確かに‥‥‥‥仕方がない。

 俺は腹を括って、オーダーを展開した。

 

「Ⅶ組総員、ミュゼにアッシュも! 2方向での迎撃行動を開始する! 適宜オーダーも出す――――死力を尽くして生き延びろ!!」

「はい!」

「承知!」

「了解しました!」

「お任せを!」

「言われるまでもねえ!」

「アハハ、盛り上がってきたねぇ!」

「そんじゃあ、ちっとは愉しませてもらうぜ!」

【では全力で抗え、雛鳥たちよ!】

 

side out

 

 さて、とりあえずカンパネルラさんに《劫炎》の先輩と合流出来た。

 いや、私はちゃんと午後6時の1時間前には、現地で待っていたと言うのに、二人が全然来なかった。仕方ないので、ずっと待っていた。だけど来ない、予定の時間を過ぎても全然来ない。連絡してもつながらないし、分け身で探してもいなかった。

 その時は時間を間違えて、怒って帰ってしまったかと思った。だけど、上から音がしたから、そっちか! っていう気分だった。

 確かにオルキスタワーはそうだけど、出来れば高さは教えて欲しかった。ずっと地上を探していたから、屋上という考えはなかった。

 今までの待ち合わせでも、高さを聞かないと場所が分からないケースはなかった。まだまだ未熟だな。これからはこういう建造物を指定された場合は各階、隈なく調べてないといけない、と言う事ですね、カンパネルラさん。一つ勉強になった。

 おっと、感心していてはいかん。急いで行かないと、だがエレベーターは使えないだろうな。それに、出てくる人たちが多くて、中にも入れない。ならば方法はただ一つ‥‥‥‥登る、これ一択だ。

 流石に大量の人前で登ると、色々まずい。忍ばないとまたカンパネルラさんに、弁えていない執行者と言われかねない。こういう時は、盟主様より賜りし『ハード・ワーク』の出番だ。

 私は人込みから出て、人気がない場所に行き、『ハード・ワーク』でいつもの執行者《社畜》フォームに変わり、その上で周囲の背景と同じになるように色合いを変更した。これで、オルキスタワーの外壁と同じ色に変わった。後は、登りながら、色合いを順次変えていこう。よし、久しぶりのクライミングだ。寝起きにはいいトレーニングだな。

 

 

 まあ、そんな感じで登ってきたんだけど、カンパネルラさんと《劫炎》の先輩がそれぞれ相手を決めて戦おうとしている。

 あれ、私もいますが、何しましょう。‥‥‥‥まずい、仕事がない! ここで急がないと、私の仕事が無くなる。折角昼寝して体調万全にしておいて、遅れて仕事がありません、とかこれでは私は給料泥棒じゃないですか! いかん、何としても、何か仕事を、我に仕事を、うおおおおお!! 今こそ本気を出すとき!

 私は黒の闘気を纏い、全力で壁を登り、何とか間に合った。

 

【その必要はない】

 

 何とか息切れしないで言えた。後は余裕を持って出れば、私に任せてもらえるはず。

 

【《道化師》殿が出るまでもない。ここは我が‥‥‥‥お相手致す】

 

 ダメですよ、カンパネルラさん。私から仕事を取っては。もし断られたら‥‥‥‥さっき見たイリーナ・ラインフォルトを亡き者にして、帝国支配計画を遂行するくらいしか仕事がないですよ。あ、そういえば、帝国の皇族、オリヴァルト殿下とアルフィン殿下がいたな。と言う事は、このタワーを壊せば帝国の支配の半分くらいが完了するんじゃ‥‥‥‥もしそうなれば‥‥‥‥

 私がそんなことを考えていたら、カンパネルラさんの声が帰ってきた。

 

「はは、遅かったね《社畜》、待ち合わせに遅れちゃだめだよ」

【ならば次からは時間と場所以外に高さも連絡事項に組みこんでもらえますかな。こちらはオルキスタワーの一階で待っていたんですがね。上から音がしたんで、こちらに来ることにしたんだが、こちらが正解だったとは。急いで登ってきたが流石に世界一の高さだな。真っ直ぐ登ったと言うのに、少々時間が掛かり過ぎたな】

 

 本当に、連絡は正確にお願いしますよ。それか、連絡が取れるようにはしておいてください。さすがに周囲は探せますが、上下は探せません。

 

「‥‥‥‥全く君にはあきれるね。普通に転移してくればいいのに‥‥‥‥」

【生憎、その手の事は不得手でして、それなら登った方が楽だったので、それに寝起きのいい運動になった】

 

 いやあ、転移の練習してこなかったので、どうも苦手です。帰ったら練習しますからご容赦ください。

 

「じゃあ、しょうがない。僕は高みの見物をさせてもらうね」

【お任せを】

 

 よし、仕事ゲット! 頑張りますよ、結社のために。でも、仕事を任されたけど、流石に学生に刃物を向けるのは可哀想だし、ユウナちゃんに怪我させると、クロフォード家の人達に悪いし、よしここは、素手でいいかな。

 

【では全力で抗え、雛鳥たちよ!】

 

 学生が5人、うち一人は怪我させてはいけない、こちらは無手、うん、いける。

 私はこれまでの研修と鍛錬から、相手の闘気から力量を計れるようになった。でも、流石に学生だからな、これからに期待、というくらいの力だな。万に一つも負けはない。だが‥‥‥‥いくら相手が弱いからと言って、負けてやるつもりはない、全力も本気も出す気はないだけだ。

 私は構えもせず待っている。‥‥‥‥だが、攻めてこないな。どうしたんだ、若者の積極性に期待して、待っていると言うのに‥‥‥‥

 

【どうした、雛鳥たち。何故攻めてこない?】

「アナタ! いつも武器使っているのに、何で出さないのよ!」

 

 ふむ、私が武器を出さないのがお気に召さないようだな。うーん、どうやら力の差が分かっていないようだな。なら‥‥‥‥

 

【出すに値せぬ!】

「ヒッ!!」

 

 ほら、これくらいで竦むようでは、到底武器を使うなんて出来ない。それに、こう見えても素手でも結構強いですよ、私。《痩せ狼》の先輩にも10回やれば3回は勝てるくらいだぞ。武器使えばもっと勝てるし、《紅の戦鬼》は素手で負けなしなくらいに強い。

 それに武器は使ってないけど、『ハード・ワーク』で仮面とローブを作っている。彼らの攻撃ではこの防御は超えれない。『ハード・ワーク』は不壊と形状変化の特性を持っている。だから、仮面もローブも壊れない。つまり彼らの攻撃では私にダメージはない。

 

「ならその首、貰った!!」

【ほう、威勢がいいな。金茶の小僧】

 

 私に向かってきたのは、金茶頭の子だ。

 武器はハルバードみたいな武器だな。先は斧、柄の部分が長い。あの形状だと、仕込みがありそうだな。ああいう不良ぽい手合いは小細工を良くやってくるイメージがある。まあ、受けてもいいけど、次の動きが見たいな。

 私は振り下ろされた斧を横に避けて躱すと、狙撃された。

 

「行きます、バキュン!」

【おっと、狙いは良かったな。だが、そう簡単には当たらんぞ】

 

 緑髪の女の子が魔導銃を放ち、私を狙ってくるが、軽やかに躱して見せた。この程度の攻撃、エンネアさんやガレスさんよりも狙いが甘し、タイミングも悪いと言わざるを得ない。まだまだ、修行が足りんぞ。

 

「ブリューナク起動―――照射」

 

 黒兎の傀儡から光線が飛んでくる。

 

【ダメだな、連携もなくやみくもに撃っても当たりはせんぞ】

 

 それも躱して、見せると、そこには双剣の剣士がいた。おお、誘導したのか、中々やる。

 私は感心していると、双剣が迫ってきた。

 

「うおおおお、斬!!」

 

 双剣から繰り出される連続の剣を、見てから余裕を持って躱す。

 

【ほう、今の連携は良かったぞ。‥‥‥‥連携はな】

「クッ!!」

 

 自慢の剣技を目前で躱されると言うのは剣士にとって、結構な屈辱らしい。因みにソースはデュバリィさん。そんなことをされたからか、端正な顔を歪めている。相当修練に励んだことはよく分かる。その努力を否定されると言うのはツライものだ。それは私にも分かる。‥‥‥‥だが、そのツライことを乗り越えて大人になるんだ。頑張り給え、若人よ。

 そう心で思いつつ、彼の攻撃を一歩も動かず、紙一重で、躱して、世の辛さを教えてあげた。

 

「クソッ!!」 

【どうした? 動きが雑になってきたぞ。その程度の動きでは我に触れることも出来んぞ。そら、どうした、もっと見せてみろ】

「ハアアッ―――そこだ!!」

 

  陰と陽の力を双剣にまとわせてX状のエネルギーを飛ばして攻撃をしてくる。

 

【どこに撃っている?】

「なっ!?」

 

 私は彼が技を放つ前に後ろに回り込んだ。彼が放ったのは私の残像だ。

 

「ハアアアッ――――喰らえ!」

 

 私の後ろからユウナちゃんが攻撃してくる。‥‥‥‥だけど、遅い。

 

【またどこに撃っている?】

「え!?」

 

 それも残像だ。ユウナちゃんは私の残像に向かって攻撃をして、空振りしてしまう。

 とりあえず全員に攻撃させてみたけど‥‥‥‥評価はもう少し頑張りましょう、だな。

 さて、攻撃は見せてもらった。なら次は守りだな。

 

【では、全員攻撃し終えたな。ここからは我の番だ!】

「「「「「!!!」」」」」

 

 私は黒い闘気を纏い、構えた。では攻撃してきた順番に攻撃し返そう。

 

【まずはお前だ、茶金の小僧】

「!!グホッ!!」

 

 私は一足で金茶頭の子に接近し、ボディブローを叩き込んだ。

 

【すぐラクにしてやる。『寸勁!』】

「グッ!!」

 

 ドサッ、という音と共に前のめりに倒れ込んだ。

 まず、一人。次は確か‥‥‥‥緑髪の女の子か。流石に女の子を殴るのは多少気が引ける。よしここは‥‥‥‥対シャーリィさん用の技でいくか。

 

【次だ】

「はっ!」

 

 私は緑髪の女の子の背後に回り込み、背後から首を絞め、一気に意識を刈り取る。

 

【ふん!】

「うっ‥‥‥‥」

 

 抵抗が無くなったのを確認して、ゆっくりとその場に寝かせる。さて、次は‥‥‥‥

 

「クラウ=ソラス、フラガラッハ」

 

 傀儡が刃を展開し、私に振り下ろしてくる。

 

【それがどうした】

「なっ!?」

 

 私は振り下ろされる刃を指に挟んで受け止める。黒兎は驚き、指示が遅れる。

 全く、戦闘中に思考停止していては生き残れないと言うのに‥‥‥‥

 私は刃は挟んだまま上に振り上げ、地面に叩きつけた。そして、黒兎に迫り、額を掌で押した。

 

【眠れ】

「えっっ‥‥‥‥」

 

 私の掌底を額に受け、後ろに吹っ飛び、気絶させた。女の子とは言え、黒の工房の作品だ。確実に気絶させておかないとな。

 さて、倒すべきは後一人か。双剣の彼にはどうしようかな‥‥‥‥

 私が考えていると、双剣の彼とユウナちゃんが同時に仕掛けてきた。

 

【さあ何を見せてくれる、雛鳥よ】

「よくも皆を! 行くよ、クルト君!」

「ああ、ユウナ!」

 

 どうやら仲間を倒されて、闘志を剥き出しにしている。

 この状況で見せる積極性、嫌いじゃないぞ、その姿勢は。だが‥‥‥‥少し遅かったな。

 

【残念だが‥‥‥‥もう終わった】

「え?‥‥‥‥クルト君‥‥‥‥」

「すま、ない‥‥‥‥ユウ‥‥ナ‥‥」

 

 剣士君が倒れ込んでいく。ユウナちゃんには分からなかったか。

 

【君たちの教官、リィン・シュバルツァーの八葉一刀流、弐の型『疾風』。それを無手で再現した。残念だが、それで一撃だったな。‥‥‥‥さて、残るは其方一人だけだな、ユウナ・クロフォード】

「くっ!!」

 

 ユウナちゃんはたった一人になっても、私を睨む付け、武器を構えている。

 どうやら諦めてはいないみたいだな。‥‥‥‥どうするか? 私としてはユウナちゃんに関しては、無傷でお帰り頂きたいが、ケン君情報では、ムキになる性格らしい。そのため、こんな状況だと引き下がることはしないだろう。うーん、対応を間違えたか‥‥‥‥仕方がない。この際、御家族が心配するので、怪我しないうちに引き下がるようにお願いしよう。

 

 

side ユウナ・クロフォード

 

 ‥‥‥‥分かっていたつもりだった。前回の演習地でも、あの仮面とローブを着た人、執行者《社畜》がリィン教官やランディ先輩を一人で倒して見せた。そして、今日の午前中もリィン教官とシャロンさんを相手に一人で倒して見せた。この人は私たちよりもずっと強い。‥‥‥‥そのことは分かっていたつもりだった。でも、クルト君やアル、それに今はアッシュやミュゼが加わって、勝てないまでも、少しは食い下がれる、リィン教官が戦っている間だけでも、足止めが出来ると、思ってた。

 ‥‥‥‥なのに、なのになんで、なんでみんなが倒れているの!? クルト君、アル、アッシュ、ミュゼ‥‥‥‥起きてよ‥‥‥‥

 

【さて、残るは其方一人だけだな、ユウナ・クロフォード】

「くっ!!」

 

 ダメだ、弱気になっちゃだめだ。あたしの憧れの特務支援課だって、こんなことじゃへこたれない。こんな壁、いくらだって乗り越えてきたんだ。あたしだって、乗り越えて見せる。あたし一人だって、決してあきらめない。

 

【ふむ、一人にすれば闘志が萎えると思ったがな、存外タフだな】

「当ったり前でしょ!」

 

 あたしは虚勢でも、強く答えた。でも、その後の言葉に忘れていた恐怖を思い出した。

 

【御父上から聞いた情報とは違うな。その辺りは離れている間に成長した、と言う事なんだろう。ああ、御父上も喜ばれるだろう。残念がられるだろう、成長した愛娘に会えないと言うのは】

「え?」

 

 お父さんから聞いた? え、なにを、なにを言っているの? それに‥‥‥‥会えないって‥‥‥‥

 

【そういえば、本日の午前には失礼した。御母上や弟、妹に会わずにジオフロントにいると思っていたが、そんな事もなかったようだな。失礼した、生憎、所用でクロフォード家の周囲から離れていたので、状況を知らなかったな】

「!!!!」

 

 私にはもう声を出せなかった。今日の朝も同じ状況になって、何も言えなかった。思ったことは‥‥‥‥怖い、ただそれだけだった。それからも《社畜》は話し続けた。

 

【私が去った後にまた御母上の顔を見に行くとは、孝行娘だな。ケンとナナが言っていたように、優しいお姉ちゃんじゃないか。だが、あまり扉をドンドン、ガチャガチャとやるのは止めた方がいいぞ。御父上が嘆かれるぞ、がさつに育ったんじゃないかと、ね】

「あ、貴方が、お、お父さんの何を知っていると言うの!」

【マシュー・クロフォード、ミシュラム・ワンダーランドのリゾートホテルの企画営業部門の課長、優しく親切な方だったな。クロスベルに潜入した私と相棒に親切にしてくれたな】

 

 な、なんで、今日の事も、お父さんの事も、何でも、知っているの!?

 ‥‥‥‥ちょっと待って、さっき、私の家の周囲から離れていた、って言った? まさか‥‥‥‥

 

「あ、あたしの家族に手を出したら、承知しないから!!」

【‥‥‥‥手を出す? ハハハッ‥‥‥‥そんな事を心配していたのか? 安心しろ、我は手を出さん。‥‥‥‥だが、クロフォード家には我の分け身が見張っている。その意味が分かるな?】

 

 いみ? ‥‥‥‥ははっ、意味なんて‥‥‥‥分かるに決まってるでしょう‥‥‥‥

 

「‥‥‥‥私はどうすればいいの?」

【無事に終わりたければ、この戦闘はここで終わりだ。そこで大人しくしているといい】

「くっ! ‥‥‥‥分かったわよ‥‥‥‥」

 

 私はトンファーを手から放した。‥‥‥‥悔しい、こんな理不尽、許せるわけがない‥‥‥‥絶対にあきらめない。あたしの憧れる特務支援課だって、どんな逆境も跳ね除けてきたんだ。

 エリィ先輩、ランディ先輩、ティオ先輩、‥‥‥‥ロイド先輩。みんななら、絶対にあきらめない。だからあたしも絶対にあきらめない。家族も絶対助けて見せる。

 

side out

 

 




次回は11/17の日曜日を予定しています。

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