社畜の軌跡   作:あさまえいじ

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仕事が忙しく、二週連続日曜出勤のため、書く時間がありませんでした。
時間が空いてしまい、申し訳ございません。
25話から27話まで日付が間違っていましたので、修正致しました。
内容の変更は行っておりません。


第二十八話 敗北

―――七耀暦1206年6月8日 隠れ里エリン サングラール迷宮

 

「うおおおおおおおっ!!」

「はあああああああっ!!」

 

 私の槍とリアンヌ様の槍がぶつかり、力比べに入った。今までの私なら押し負けていた。だが、今の私は一味違う。

 

「ウオオオオオオオオ!!!」

 

 『鬼の力』で力を底上げしている状態の私なら、リアンヌ様相手でも力比べなら負けはしない。

 私とリアンヌ様が組み合うと、少しの均衡の後、ジリジリとリアンヌ様が後退りしていく。‥‥‥‥やはり力比べは私に分があった。

 

「クッ‥‥‥‥押し負ける、ならば!」

 

 力比べで分が悪いと見たリアンヌ様は、槍を滑らせ、するりと、力比べから抜け出し、距離を取ろうと後ろに飛んだ。

 

「逃がさない!」

 

 私は思いっ切り、地を蹴り、一足で追いかけた。

 

「ふっ、やりますね」

 

 『鬼の力』で強化された私の速力ならリアンヌ様に追いつくことが出来る。

 リアンヌ様は私が追いつくことは想定していたのか、余裕の笑みを浮かべている。

 まあ、ここまでは変わらない。これまでも追いつくこと自体は出来た。問題はここからだ。これまでは追いついても効果的な攻撃が出来なかった。リソース不足に端を発するクラフトの使用不可。だが、それは過去の話だ。驚いて頂くのはここからだ!

 

「『シュトルムランツァー!!』」

 

 リアンヌ様は知っている、私が『鬼の力』を発動しているときにクラフトが使えないことを知っている。

 だけど今の私にはソフトさんが『鬼の力』を制御してくれている。そのことをリアンヌ様は知らない。だからこそ意表を突けた初撃、この一撃を届かせる。

 

「なっ!?」

 

 後ろに飛んだ状態のリアンヌ様に私は追いつき、更にもう一歩踏み出し、リアンヌ様から学んだクラフトで一撃を放つ。リアンヌ様は後ろに飛んだ状態のため、受け止めることも、躱すことも、カウンターを放つことも出来ない、当たると確信を持った一撃だった。だが、

 

「ふっ!」

 

 逸らされた。私の槍の穂先をリアンヌ様は、右に逸らした。突進していった私の体勢は右に逸れてしまう。‥‥‥‥まだだ、これくらいはやってくると思っていた。

 私は逸れていく体を強引に足で踏ん張り、その状態で再び攻撃に移ろうとした。体はリアンヌ様に対して背を向けている。だが、関係ない、このクラフトには体の向きなんか関係ない。私はその場で体を回転させる。

 

「『アルティウムセイバー!!』」

 

 体を回転させた反動を槍に伝える。その槍で全力で振りぬき、リアンヌ様に叩き込んだ。

 

「くっ!」

 

 リアンヌ様は咄嗟に槍を盾代わりにしたが、地に足が着いた直後だったため、踏ん張りがきかず、衝撃を殺すことは出来なかった。私の一撃は今度こそリアンヌ様を捉え、吹っ飛ばすことが出来た。

 ‥‥‥‥やった、達成感があった。『鬼の力』を発動する中でクラフトが使えた。だがそれだけじゃない、それ以上にやったと感じたのは‥‥‥‥『シュトルムランツァー』、『アルティウムセイバー』という、リアンヌ様から学んだ技で一撃を届かせることが出来たからだ。

 何度も槍で手合わせをしてきた。その中で攻撃を当てたことは何度もあった。‥‥‥‥だが、一度として私の槍技がリアンヌ様を捉えることはなかった。

 槍はリアンヌ様に教わった。当然技も全て見せていただき、指導を仰ぎ、技術を磨いてきた。だからこそ、私の放つ槍技は全て捌かれた、躱された、カウンターを喰らった。これまでずっと、届かないと思っていた。でも、遂に届いた。

 

「ふふふふふ‥‥‥‥‥‥」

 

 吹っ飛ばしたリアンヌ様がゆっくりと立ち上がり、こちらに歩いてくる。

 その表情はとても晴れやかで、機嫌が良さそうに感じる。

 

「まさか、ここまで見事に薙ぎ払われるとは、いつ以来でしょう。やっぱり、ハードはそうでなくては‥‥‥‥先程までの暴走していた時は酷く雑だったため、拍子抜けしましたが、今の貴方は実に良い。研鑽を重ねた技術と力の合一、見せてもらいました」

「今だ、未熟の極み、リアンヌ様に教わりし槍、と名乗るのも憚られる程だと感じ入っています」

「ふふ、自身をあまり低く見てはいけません。貴方は私が見てきた中でも才に秀でています。それこそかつてのレーヴェ、《剣帝》に匹敵するほどの才だと思っています。ですが、才ある者が必ず強くなれるとは限りません。不断の努力によって強くなれるのです。私がハードの域に達するまでにどれ程の時を費やしたか‥‥‥‥貴方はまだ、4か月足らず、信じられない程の成長の速度、嬉しさと共に‥‥‥‥怖さすらあります。‥‥‥‥例え貴方がどのように生まれ、どのような過程を経て、ここに至ろうと私は貴方を‥‥‥‥いえ、これ以上は何も言いません」

 

 そう言って、リアンヌ様は槍を構え、闘気を発する。

 

「さぁ、貴方の全力を見せてみなさい、ハード!!」

「ッ‥‥‥‥ハイッ!!」

 

 私は再び気合を入れ直し、リアンヌ様に向かっていく。

 どこまでも貪欲に食らいついていくんだ、リアンヌ様は遥か高み、今日こそ其処に届くんだ。

 

side ローゼリア

 

 妾の目の前で行われた一瞬の出来事は、あまりに衝撃的だった。弟子とリアンヌの戦いは妾の目には微かに見えたが、何が行われておったのかは‥‥‥‥詳しくは分からんかった。だが、リアンヌが弟子の一撃で吹き飛んだのは分かった。

 驚いたわ、リアンヌが吹っ飛ばされるのなんぞ、何百年ぶりに見たことか。そして、弟子の強さにも‥‥‥‥驚いた。

 弟子は今もリアンヌの動きの速さ、力強さに対等、いやそれ以上で戦っておる。リアンヌは弟子のそれを技量の差で覆しておる。じゃが、その槍捌きもドンドン弟子が吸収するように差を埋めていっておる。戦いの中でドンドン成長していっておる。それを見てリアンヌは更に楽しそうに笑みを浮かべ、闘気を増していく。

 これはリアンヌが惚れこむのも分かるかの‥‥‥‥リアンヌが戦いの中で笑っておる。楽しい‥‥‥‥いや嬉しいのか。

 250年の月日はリアンヌを孤独にした。同じ時を生きた者はおらず、伝説として語られるだけの存在になってしまった。

 それだけではない‥‥‥‥競い合える者がおらんくなった。

 リアンヌが生きた時代は内戦が始まった影響で、治安の悪化や飢餓に貧困、生きるのに必死だった時代じゃった。だからこそ皆が必死に生きておった。だからかのう、生きるためには力が必要じゃった。‥‥‥‥皮肉な話じゃが、その様な悲惨な時代じゃったからこそ強い者が多くおった。じゃからこそリアンヌはどこまでも強くなっていった。強きものが次の強きものを育てたんじゃ。‥‥‥‥じゃが気づけば、リアンヌを強くしてくれる者はおらんくなってしまった。『武の至高』、『槍の聖女』そう呼ばれ、リアンヌより強い者がいなくなった。

 それからは強きものを求め、大陸中を渡り歩き、強きものを求めておった。武人としてリアンヌに挑む者は過去に何人もおったが、一時は満足いく戦いが出来ても、時と共にいなくなっていった。

 見込みのある者に、武芸を指南してきた。妾が知らん20年の間にリアンヌの眼鏡にかなう者がおったのか、妾には分からぬが、それでも満足いくことはなかったのかも知れぬ。

 そのような年月を200年以上も続けてきた。‥‥‥‥もはや、今のリアンヌを支えておるのは惚れた男への義理‥‥‥‥いや、執念だけそんなもんじゃろう。だが、

 

「はああああっ!!」

「うおおおおっ!!」

 

 今、妾の目の前で楽しそうに槍を振るい、戦っておるリアンヌは指南ではなく、純粋に戦いを楽しんでおるんだろう。弟子もリアンヌに引っ張られるようにドンドン技術を吸収していっておる。じゃからこそ、リアンヌは更に笑みを深め、リアンヌ自身も弟子に引っ張られるようにドンドン力強さが増していく。

 今、目の前におるリアンヌは『武の至高』、『槍の聖女』と呼ばれた『伝説』ではなく、妾が出会った当時の、強くなりたいと心から願った『リアンヌ・サンドロット』なんじゃな。随分と懐かしい顔をしておるの。

 しみじみと過去の事を思い出しつつ、戦いを見ておったが、その戦いも、もうすぐ終わるようじゃ。

 

「これで最後です」

「はい、全力で届かせてもらいます!」

「ふふ、いいでしょう‥‥‥‥では、こちらも全力でお相手しましょう!!」

 

 リアンヌが更に力を高めてきた。周囲を圧倒するほどの闘気が場に満ちておる。これでは流石に弟子がかわいそうかのう‥‥‥‥

 

「もっとだ、もっと、力をください!!」

 

 弟子の方もこの期に及んで、更に力を高めてきておる。『鬼の力』の総量は最早暴走しておった時とさして変わらん。だというのに、意識が奪われる様子がない。以前の魔術で己を保護するやり方は力の上限までその段階で抑えておった、だが今の術式は‥‥‥‥体内に焔を宿し、その焔で己を侵食する『鬼の力』のみを的確に焼き尽くしておる。その結果、更に『鬼の力』を上乗せしても、意識は奪われん、理論上は。‥‥‥‥じゃが、そんな事、弟子に可能だとは思えん。自身の体内で精密なコントロールを行い、『鬼の力』の悪意のみを的確に焼き尽くす、その状態で『鬼の力』を更に上乗せすれば、その分、侵食するスピードは上がるはずじゃ。だというのに、それを完璧にこなしておる。そんな事、妾でも出来るかどうか分からん。そんな高難度の術式制御を戦闘中に出来るとは‥‥‥‥アレが弟子の中におる者か、とんでもないやつじゃのう。

 

「さあ、耐えてみなさい。我は鋼、全てを断ち切る者」

 

 リアンヌは必殺の一撃を放つ構えをみせる、対して弟子の方は‥‥‥‥

 

「‥‥‥‥」

 

 リアンヌと同じ構えを取っておる。じゃが‥‥‥‥目をつぶっている、だというのに寸分違わぬ動きから構えに至っておる。

 

「ふふ‥‥‥‥」

 

 リアンヌはそれを見て、笑った。

 弟子の方は、構えを取ったまま、まだ目をつぶっておる。意識を集中させているのか、ピクリとも動きはせん。‥‥‥‥なるほど、準備万端と言う事じゃな。

 両者とも動きが止まり、沈黙が訪れた。先程の剣劇から打って変わって、しんと静まり返った。そして、先に動いたのは、

 

「聖技『グランドクロス』!!」

 

 リアンヌの方からじゃった。

 

「聖技『グランドクロス』!!」

 

 弟子も間髪入れずに必殺の一撃を放った。

 二人の必殺の一撃がぶつかり合い、周囲に衝撃が走った。

 

「わわ!! あやつら、なんちゅうことしおるんじゃ!」

 

 唯一のギャラリーである妾がその衝撃の犠牲者にならんかったらよかったんじゃが‥‥‥‥そのせいで、決定的瞬間を見逃してしまったぞ。妾は結界を張り、衝撃が収まるのを待った。

 ‥‥‥‥衝撃が収まると、其処には両者共におらんかった。

 

「ど、どこに行ったんじゃ!?」

 

 探して見ると、両者ともに離れたところにおった。どうやら衝撃で双方が共に吹き飛んでしまったんじゃろう。見逃したのが、残念じゃ。

 先に立ち上がったのは‥‥‥‥弟子の方じゃった。

 

「‥‥‥‥」

 

 顔は下を向き、表情が見えんが、ゆっくりと立ち上がった。じゃが弟子は『鬼の力』を発動しておらんようじゃ。全て出し尽くした、というところじゃな。

 リアンヌの方も後を追う様に立ち上がった。こちらは顔を上げ、真っ直ぐに弟子を見据えておる。そして再び槍を構え、弟子に向かっていく。

 

「ハードォォォ!!」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 弟子の方は、今だ顔を上げておらん。そしてそのまま、頭を下げ‥‥‥‥倒れ込んだ。

 

「ハード!?」

「弟子!?」

 

 妾は急ぎ駆け寄った。リアンヌも槍を捨て、弟子の下に駆け寄った。

 妾が弟子の様子を確認すると、意識を失って寝ておった。じゃが‥‥‥‥左腕が奇妙な状態じゃった。弟子が戦いの最中着ておるローブの一部が完全に左腕に巻き付いておる。それが腕の形を保たたせておる様に思える。‥‥‥‥もし、このままこの巻き付いておる何かがほどけたら‥‥‥‥左腕から大量出血は免れんじゃろう、いやそれ以前に腕の形状を成せんじゃろう。

 幸い、体全体の様子を魔法で確認してみても多少の傷はあるが、最も酷いのは左腕じゃ。

 妾は急ぎ左腕の治療を行い始めた。

 

「ロゼ、ハードの様子は!?」

 

 リアンヌは心配げな表情を浮かべ、妾に詰め寄った。

 

「落ち着け、どうやら気絶しただけじゃ。直に目を覚ますじゃろう。じゃが、左腕はボロボロじゃ。それに左腕に巻かれておる、この異様なものは何じゃ?」

「‥‥‥‥それはハードが盟主から賜りし武器『ハード・ワーク』です」

「‥‥‥‥名前はともかく、先程まで弟子は槍を使っておったぞ、あれが弟子の武器ではないのか?」

「ハードの武器、『ハード・ワーク』は形状を変化させることが出来るみたいです。そして不壊の特性を持っているそうです」

「なるほどのう。つまり、弟子は左腕を痛めたから、形を変え、腕を保護したんじゃな」

 

 先程の戦いで最後を見逃した妾は、リアンヌの話と状況から、そう推察した。じゃが、リアンヌは首を横に振る。

 

「いえ、ハードがその武器を変形させたのは私とぶつかる直前でした。そしてその目的は‥‥‥‥‥‥‥‥私の槍を掴むためでした」

「‥‥‥‥はぁ?」

 

 ‥‥‥‥理解できんかった。リアンヌの『グランドクロス』を掴む? 意味が分からん、それにそんな事が出来るとは、思えん。

 リアンヌは妾が困惑している様を見つつ、自分の左脇腹に手を当てた。

 

「ハードが目をつぶっていたのは、おそらく一瞬だけ自身の動体視力を高め、私の動きを見切るためだったんでしょう。その上で、私の一撃を見切り、自身の左腕を犠牲に、一瞬のスキを作ることに成功しました。その一瞬のスキで私に必殺の一撃を放ったのです。ただ、左腕が限界を迎え、一撃が外れ、脇腹への一撃で済みました」

「待て待て待て待て‥‥‥‥今までリアンヌの槍を掴もうとしてきた者などおらんかったぞ。そんな奇策、そもそも思いついたところでやろうとするような阿呆は‥‥‥‥おったな、大昔に」

「ドライケルスなら‥‥‥‥」

「ああ、あの朴念仁ならやりかねんのう‥‥‥‥」

 

 妾は弟子を治す最中、昔の事を思い出しておった。いかんな、今日は昔の事ばかり思い出してしまう。歳は取りたくないもんじゃ。

 

「‥‥‥‥ふふふ、今回は私の負けですね。まさかこんなやり方でハードに負けるとは、まだまだ未熟ですね」

「随分と嬉しそうじゃのう。それに負けたのは弟子の方ではないのか? 現に今も気絶しておるが、リアンヌの方はまだ‥‥‥‥」

「本来なら、ハードは左腕に、私は左脇腹に重篤なダメージを負いました、ですが私は不死です。だからもし、生前の私であったなら‥‥‥‥致命傷でしたでしょう。故に私の敗北です」

 

 リアンヌは自身の敗北を‥‥‥‥嬉しそうに認めた。随分と晴れやかな顔で、弟子を見つめておる。

 

「なんじゃ、負けたのに嬉しそうじゃのう。悔しくはないのか?」

「‥‥‥‥ああ、そうですね。‥‥‥‥悔しい、ですか。‥‥‥‥そんな気持ち、随分と久しく感じたことはありませんでした。ですが、そうですね、これが悔しい、という気持ちですか。‥‥‥‥ええ、思い出しました。‥‥‥‥ですが‥‥‥‥」

 

 リアンヌは弟子の頭を撫でながら、満面の笑みを浮かべ、

 

「よくできました。‥‥‥‥これ以上の言葉は出てきません。‥‥‥‥ですが、一つだけ、言っておきたいことがあります」

「なんじゃ?」

「‥‥‥‥あんな危険な戦い方、もう止めさせないといけません。いくら強くなれても、この子の戦い方は非常に危うい。自身を顧みない戦い方では、何時か命を落とす。この子は不死者ではないのです」

「そうじゃのう。戦うたびに腕を犠牲にしておっては何本あっても足りんぞ」

「なので、一度キチンと叱っておかないといけません。はぁ~、本当に手が掛かる子です」

「‥‥‥‥そうか」

 

 口では困った様に言っておるが、表情は困っているようには到底思えない。まあ、一々突っ込むのも野暮というもんじゃ。

 妾は弟子の左腕を治すことに意識を傾けた。

 

side out

 

 私はまたも自身の内なる世界に入ってきた。外で意識を失うと、こちらの世界に来るようだ。

 現在、私はその世界でソフトさんと反省会を行っている。

 

『‥‥‥‥負けましたね』

「‥‥‥‥ええ、残念ながら。すいません、折角、魔法で動体視力を強化支援して頂いたのに‥‥‥‥」

『いえ、片手間の魔法だったので大したことではありません』

「『鬼の力』を発動していたので、肉体強度的には問題ないと思ったんですが、ダメでしたね」

『左腕一本の犠牲で、勝利できるかと思ったんですが、更なる力の向上が必要ですね。まあ、左腕なら『神なる焔』で回復出来ますし、今後に生かしましょう。しかし‥‥』

「どうしました?」

『いやまさか、槍が当たらないなら捕まえればいい、とかテキトーなアドバイスを真に受けて、本気で槍を手掴みするとは思ってなかったので』

「え、テキトーだったんですか!?」

『テキトーはテキトーですが、成功する確率も高かったですよ。それにその内、宿主が思いついて実行する確率も高いので、それなら私が提案して、足りないものを先に補ってから行った方が成功する確率も上がると思いましたので。それに宿主との付き合いも長いので、貴方が好みそうな作戦位はすぐに思いつきます。その上で一番成功率が高い作戦を選んだつもりですよ』

「そうですか。まあ、私としてもソフトさんの作戦なら出来そうだと思ってましたし、後悔はありませんよ」

 

 この戦いに関して後悔は全くない。ただ力では勝っていても技術では圧倒的に及ばなかった。

 もっと修行を積んでいれば、という後悔ならばあった。

 

『さて、とりあえず戦いの方はともかく‥‥‥‥どうでしたか、『鬼の力』は』

「‥‥‥‥凄いですね、力がどこまでも溢れてくるような感覚、実にいいです」

『そうですか。‥‥‥‥私から一言、言わせていただければ、‥‥‥‥‥‥‥‥今後二度と使わないことをお勧めします』

「え、何故ですか?」

『残念ながら『鬼の力』は宿主の体にとって相性が‥‥‥‥‥‥‥‥非常に良すぎるんです』

「え、相性がいいなら特に問題ないのでは?」

『‥‥‥‥『鬼の力』に侵食されると自我を失う、そのため私は侵食した部分を焔で焼き尽くしました。最初は特に問題有りませんでした、ですが時間の経過と共に侵食スピードが上がっていき、処理に遅れが生じ出しました。おそらく、『鬼の力』が体に馴染みだしたため、侵食スピードが上がったと思われます。今回は無事に終わりましたが、今後も使用を続ければ、『鬼の力』が馴染み切った体の場合、処理は追いつかず、自我が喰われることになるでしょう』

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 ソフトさんの説明を聞き、私は頭を抱え込んだ。

 折角、『鬼の力』を制御が出来たというのに、今度は使用すれば自我を喰われるとは‥‥‥‥どこまで行ってもうまくいかない。

 

『ですが‥‥‥‥どうしても使いたいなら、方法はあります』

「え、あるんですか?」

『どうしても使いたいなら、ですよ。そもそも、そこまでこの力にこだわる必要はないと思います。『黒い闘気』、自己強化できる手段はありますので、其方を選べば比較的安全だと思いますが‥‥‥‥』

「『黒い闘気』ではリアンヌ様に届くまで‥‥‥‥どれ程かかると思いますか」

『並大抵の時間では届かないでしょうね。‥‥‥‥おそらく、その前に宿主の命数が尽きるでしょう。‥‥‥‥ああ、そう言う事ですか。だからこそ、ですか』

「ええ、リアンヌ様に勝たなきゃいけないんです。リアンヌ様もそれを望んでおられる、何故だかそう思うんです。それに私は《結社》の執行者、これからも多くの戦いがあると思います。でも、私は戦い抜く、私が居るべき場所である《結社》のため、居場所を与えてくださった盟主様のため、戦い方を教えてくださったリアンヌ様のために戦うんです。だからこそ生半可な力では戦えない。この体は‥‥‥‥今の力を得るために多くを犠牲に強いてきた。今更私の自我が失われるなど些末な事。例え、己を失っても、盟主様に拾われ、与えられた使命だけは死ぬ時まで果たして見せる。‥‥‥‥今度こそ果たして見せる。意味ある生を、全うするために」

 

 生きる事、それをあきらめる事は決してない。自身の命を投げ出すことは決してしない。だけど、自分が生きた意味くらいは示したい。例え、自我を失っても、それでも『私』は『私』だ。『鬼の力』を使った結果、自我を失っても、それでも生きているならば、それで構わない。

 私の意志が変わらないことを確認したソフトさんは、溜息をついた。

 

『‥‥‥‥ふぅ、仕方ありません。体が生き残れば、私も、ここにいる迷える魂たちの皆も、残るでしょう。ですが今までよりもずっと環境は悪くなるでしょう。仕方がありません‥‥‥‥『鬼の力』、使うことを止めないのならば、使っても問題が無いように体を作り変えましょう』

「! そんな方法があるんですか!?」

『時間は掛かります。それまでは体調不良の状態が続きます。おそらく身体能力全般の低下は免れません。体を作り変えるんです、それに伴う肉体的な苦痛や疲労は想像を絶するかと思います。‥‥‥‥それでも、やりますか?』

「はい!」

『はぁ~、仕方ありません。とりあえず、最善を尽くします。期間は約一月、完全回復できるのは7月頃だと思います。その間は私の指示に従ってください。それでいいですね?』

「はい、構いません」

『その言葉に二言はありませんね?』

「はい、ありません」

 

 『鬼の力』が使えると言うなら、一月の間くらい、何でも耐えて見せる。私は力強くソフトさんに答えると、ソフトさんは私の意志に答えてくれた。

 

『分かりました。では必ず私の言いつけは守ってください』

「はい、必ず!」

 

 私が承諾したことで、ソフトさんはこれから行うことを説明してくれた。

 体を作り変える、とは『鬼の力』による侵食に対して『抵抗力を付ける』というものだった。概要は説明されたがよく分からなかった。だがそれはソフトさんが全て行ってくれるそうで、私はすることはないらしい。ただ一つを除いて‥‥‥‥

 

『では、これから毎日、宿主に行って頂くことは‥‥‥‥‥‥‥‥九時間睡眠を取って頂きます』

「お断りします!」

 

 速攻で言いつけを破った。

 

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