社畜の軌跡   作:あさまえいじ

3 / 54
続きました。


第二話 研修

―――七耀暦1206年3月31日 執行者候補養成所

 

 トールズ士官学院を卒業してから、約一月が経った。

 この一月程、この養成所で訓練を行っている。

 訓練内容は戦闘、戦闘&戦闘の戦闘一択である。いや、他の者は戦闘以外の事もしているかも知れないが、私はひたすらに戦闘ばかりだ。

 朝起きて、戦闘。食事をとって、戦闘。戦闘してから戦闘。風呂に入ってから戦闘。寝る前に戦闘。寝ているのに戦闘。これが私の一日の過ごし方だ。企業で働くと言うのはツライものだ。

 相手も様々で、時間帯や曜日によって違う。

 

 今日の朝は女性の剣士だった。『神速』と呼ばれて、とんでもなく速かった。当初は動きについて行けず、滅多打ちにあっていた。だけどこの一月でだいぶ動きに付いていけるようになった。ただ、純粋なスピードではかなわないので、動きの先読みや誘導することを覚え、相手より動きだしを早くして、対応して見せた。今日は打たれることもなく、無事に無傷で終われた。すると、彼女は『これで勝ったと思うなですわ!!』というセリフを吐いて去っていった。

 

 食事をとった後にはハルバードを使う女性だった。朝に戦った女性剣士と同じ隊に所属しているらしい。『剛毅』と呼ばれ、その膂力、そしてハルバードという重武装を軽々と振り回す力に、当初は圧倒された。だが、最近は彼女以上の力を持つ相手と戦うこともあり、彼女との戦いは大分余裕が出てきた。最近は力負けすることもなくなり、無傷で終わった。

 

 その後には弓を使う女性だった。彼女も先の二人と同じ隊に所属しているらしい。『魔弓』と呼ばれ、遠距離からの攻撃を主体としているので、彼女にはずっと負け続けていた。私の出来ることで、彼女の遠距離攻撃に対応できそうなのが、攻撃を回避しながら接近する、しか方法がなかった。だけど最近あることが出来るようになった。そう、アーツだ。

 最近会った、執行者の先輩にしごかれたとき、焔がヤバ過ぎて近づけないので、やぶれかぶれでアーツを使った。そのアーツの発動の仕方がその先輩に似ていたらしい。私はアーツは得意ではなかったのに、なぜかその先輩の仕方は使えた。『お前、混じってるな』と言われたけど、どういう意味なんだ?

 まあ、とにかく、それからはアーツが使えだしたから、遠距離でも大丈夫になった。なので、遠距離でも無傷で勝てるようになった。

 

 さて、これで終わりだと思っていると、朝に勝った『神速』さん、昼に勝った『剛毅』さん、さっき勝った『魔弓』さんの3人掛かりで戦わされた。

 これはイジメでは、いやきっと、これは新人イビリだ。初めはいい人だと思ったのに‥‥‥くそ!私は暴力には屈しない、屈しないぞ!!

 

side 『神速』のデュバリィ

 私達、鉄機隊の三人がただの一人に振り回されている。相手は結社に今月入ってきたばかりの新参者。

 

「なんですの!なんですの!!なんですの!!!」

 

 私たち一人一人でも執行者に劣りませんわ。だと言うのに‥‥‥この男に一太刀も与えられずに私は負けましたわ。エンネアもアイネスも同じでしたわ。

 そして、今も3人掛かりで戦っていると言うのに、凌がれていますわ。私も本気ですし、エンネア、アイネスも同じく本気ですわ。確かに『星洸陣』は使っていないとはいえ、それでも三対一ですのに、何故倒せませんの!

 

「『プリズムキャリバー』」

 

 私は2体の残像を生み出して、残像と共にあの男の周囲を縦横無尽に 駆け巡りながら斬撃を繰り出し、最後は本体がエネルギーをまとわせた剣で すれ違いざまに払って攻撃をしましたわ。ですが‥‥‥

 

「ふん!」

 

 男は苦も無く、残像の攻撃を躱し、最後の本体である私の一撃は持っている剣で受け止められましたわ。

 この男の剣は帝国で一般的に広まっている、ただの剣ですわ。名剣などではないただの市販品。そしてこの男が使う剣術は、帝国の士官学院で学んだ『百式軍刀術』を扱う。いわば帝国の一般兵士と変わりない武器、技術を持っているはず。なのに‥‥‥

 

「デュバリィ、下がって!」

「ッ!」

 

 私はエンネアの声で後ろに飛んで、距離を取る。するとそこにエンネアの矢があの男を襲いましたわ。

 

「『ピアスアロー』」

「『ファイアボルト』」

 

 な、なんですの!あの男、エンネアの放った矢を一瞬で作った炎で撃ち落としましたわ!

 あの一瞬でアーツを完成させたと言うの!あの速度は『劫炎』並みですわ!

 

「『剛裂斬』」

「遅い、ハアッ!」

「グハッ!!」

「アイネス!」

 

 アイネスの攻撃をひらりと躱して、背後から攻撃を打ち込み、アイネスを倒されましたわ。

 そして、次は‥‥‥

 

「『ファイアボルト』×6」

「キャアアアアアッ!!」

「エンネア!」

 

 遠くにいたエンネアに連続でアーツを放ち、戦闘不能にさせましたわ。

 残ったのは私一人、でも‥‥

 

「最後は貴方だ。『神速』殿」

「なめるな、ですわ!!」

 

 私は『神速』の名に恥じないスピードで、斬りかかりましたわ。

 

「うわあああああああ!!」

 

 やりましたわ!私の一撃がこの男に命中‥‥‥

 

「!!!!」

 

 男が消えましたわ!しまった、残像でしたの!

 私は男を探そうして、振り返ったら‥‥‥

 

「終わり、ですね」

「クッ!!」

 

 切っ先を突き付けられていましたわ。ここまでですか‥‥‥

 

「‥‥‥ええ、終わりですわ」

 

 そう私が告げると、男は剣を仕舞ましたわ。男は息も切らしていない、なのに私たち『鉄機隊』は実戦ならば全員戦闘不能、何という差ですの!一月前には私たちの前に無様に倒れていたのに‥‥‥

 私はこの男の成長の速さに恐ろしさを覚えましたわ。そして、最後に使ったのは‥‥‥

 

「貴方、最後のアレは‥‥‥」

「先程、貴方が使った残像を真似させてもらいました」

「ま、真似!!」

「ええ、貴方が見せてくれましたので、試しに使ってみました。ですが、駄目でしたね。貴方が使ったときの八割くらいの精度でした」

「!!!!」

 

 この男、初見で私の分け身を真似してみせたと‥‥‥どこまでもふざけた男ですわ!!

 

「これで勝ったと思うな、ですわ!!!!」

 

 私は男の前から走り去りましたわ。

 ハード・ワーク、覚えていなさい!!

 

side out

 

 『神速』殿が走り去った後、私は『剛毅』殿と『魔弓』殿を助け起こしていた。

 

「すまんな。指導する側だと言うのに、これでは情けない」

「ほんとね。もう私達、三人では貴方に教えれることはないわね」

「いえ、ご指導いただきありがとうございます」

 

 私は三対一の状況でも、何とか戦えるまでに成長出来たようだ。まあ、あの二人に比べたら、流石にねぇ。

 

 

 風呂に入って、疲れが取れた。だけどここからだ。本当の地獄は‥‥‥

 

「用意はいいですね。ハード・ワーク」

 

 目の前いるのは、第七使徒『鋼の聖女』アリアンロード様。結社の最高幹部の一人、そして結社最強の御方だ。鉄機隊の三人に勝てるようになり出してから、教導として来られるようになった。

 本当に何で来るかな~、最初に会ったときからそうだったけど、この人、とんでもなくヤバい。強すぎる、人間やめてるレベルで強すぎる。こんなのに勝てる存在いるとは思えないな。こんなのと戦わされるとか、社会は厳しいな。

 私は心中でひたすら愚痴り続けた。研修の厳しさ、いや、社会の厳しさ、恐ろしさ、それを感じながら、向き合わざるを得なかった。この人の機嫌を損なえば、私など簡単に首にされかねない。それほどの高み(権力)にいる御方だ。

 

「はい、よろしくお願いします」

「では、行きます!!」

 

 鎧で全身を覆い、顔は仮面を着けて、そして手には大きな槍。まさに完全武装だ。気を抜けば、即やられる。恐ろしい程の闘気、相対するだけでも、跪きそうになる。盟主様とはまた違う、圧倒される威圧感。

 

「ウオオオオオオオオオ!!!」

 

 やぶれかぶれだ!!

 このまま何もしないでも、迫力に圧されて気が変になりそうになる。だったら、考えるのは止めだ。持てる全てで挑むだけだ!!

 私は剣で斬りかかる。

 

「良き闘気です」

「ありが、とう、ございます!!」

 

 簡単に止められた。まあ、分かり切っていたことだ。

 両手で剣を押していると言うのに、片手で持った槍を押し切る、いや動かすこともできないか。

 だが!!

 

「『ファイアボルト』」

 

 劫炎の先輩と同じ、とは言わないが、私も念じるとアーツを発動できる。接近戦のとき、こういう使い方が出来るのは非常に便利だ。だけど‥‥‥

 

「中々良い手です。ですが、その程度で私に勝てると思っていますか?」

「‥‥‥無理でしょうね」

 

 この方に、この程度の奇襲では意味がない。だけど、やれることは全てやらなくてはいけない。最善を尽くす、ただそれだけだ。

 

「ハアッ!!」

「いい気合です。ですが」

「グゥッ!!」

 

 もう一度斬りかかっていった、だが簡単にはじき飛ばされた。

 女性だと言うのに、とんでもない力だ。私が力負けさせられるとは、最初にされたときは驚いた。だが今は慣れた。この方の言動に一々驚いていては身が持たん。

 

「戦闘中に考え事ですか!!」

「そんなこと出来る訳ないですよ!!」

 

 すこし手が止まっただけで強烈な一撃が飛んでくる。本当に容赦がない方だ。

 槍の一撃を剣で逸らし、もう一度突っ込んでいく。

 この方の大きな槍なら、接近戦に持ち込んだ方が勝ち目がある。

 私は一気に距離を詰めると、アリアンロード様が笑った、ように見えた。

 

「良き判断です。昨日よりも強くなりました。ですが、」

 

 アリアンロード様が槍を横薙ぎに払われた。

 そう来るだろうと思っていた。

 

「フン!!」

「なんと!!」

 

 私は槍を抱きかかえ、横薙ぎに合わせて振り回された。剣を手から放し、槍を抱え、足を宙に浮かせることで、アリアンロード様が槍を払っても衝撃を受けなかった。

 この方法は剣が使えなくなるけど、どっちみちこの方に剣で勝てない。だったら、もう一つの武器を使うまでだ。

 私は横薙ぎから勢いよく飛び、アリアンロード様に最接近して、両掌を叩き込んだ。

 

「秦斗流奥義『寸勁』」

 

 この技は最近やってきた、執行者の先輩に体に叩き込まれた技だ。あの時は打ち込まれて内臓に衝撃を与えられて、倒された。あれから、試しにいくつか打ち込んでみて、今日の昼食後の休憩時間中にやっと出来るようになった。力加減が難しいが、慣れると割と簡単だった。

 実戦で使うのは初めてだが、これならアリアンロード様の鎧越しにダメージを与えられるはずだ。

 するとアリアンロード様は仮面を取り、素顔を晒した。

 

「なるほど、ヴァルターの技ですか。流石にヴァルター程の氣の使い手ではないですが、私にダメージを与えられる程とは、素晴らしい成長スピードです。前回はマクバーンの焔を真似たアーツ、今回はヴァルターを真似た体術、この一月で出来る事の多さ、そして何より、強さを増しています。貴方の成長は見ていて、とても面白い。貴方の長所は手段の多さ、でしょうか。ですが、その結果、一つの力を極めることは出来ないでしょう。究極の一には劣るでしょう。ですが、例え一つを極めなくても、多くを出来る貴方ならば相手の弱点を突きやすい。そんな貴方は非常に強い。ならば私の技もまた、貴方の糧になりましょう」

 

 アリアンロード様は槍を構え、闘気を高めていく。さっきまででも恐ろしい程、強力な闘気が、更に恐ろしい程高まっていく。

 こんなの、やっぱり人間辞めてるよ。私は心の中で批難をしているが、目の前のアリアンロード様はそんな私の心中を察することなどせずに、闘気を高め、必殺の一撃を放ってきた。

 

「受けてみなさい、聖技『グランドクロス』」

 

 アリアンロード様の渾身の一撃が飛んできた。

 

「うわあああああああ!!」

 

 私は吹き飛ばされながら、その技を見ようとした。かろうじて見えたのは駆け抜けていく、アリアンロード様の横顔だけだった。間近で見て思った。やっぱりめっちゃくちゃ美人だった。

 

 

 アリアンロード様にぶっ倒された後に待っているのは、『劫炎』の先輩だ。

 

「よう、ワーク。聞いたぜ、『鋼』とやり合ったんだって」

「やり合ってません。グランドクロスされただけです」

「ハハハハハハ、十分やり合ってんじゃねぇか。『鋼』にあの技出させただけで十分、十分。‥‥‥にしても、ついこの間、憂さ晴らしでボコったときよりも、また強くなってんじゃねえか!!」

 

 『劫炎』の先輩が焔を作り、周囲の温度を上げていく。

 これだ、この人、興奮すると体温が上がるかのように、周囲の温度を上げるんだよ。テンションと一緒に温度上げるとか、やっぱりこの人も人間やめてるよ。

 できれば、アリアンロード様の後にこの人と戦うとか、ご勘弁願いたいけど、たぶん聞いてくれないだろうな。テンション上がる前なら、弁える人なんだけど‥‥‥仕方ない、腹を括ろう。

 私の雰囲気が変わったことを察して、更にテンションを上げる『劫炎』の先輩。

 

「いいじゃねえか。分かってるな、ワーク!!」

 

 両手に焔を作り出し、顔に笑みが浮かぶ、『劫炎』の先輩。

 

「‥‥‥」

 

 剣を抜き、冷静に距離を測る私。

 この人は、焔を使うから、近づけば熱でやられる。だからと言って、距離を取って攻撃できる手段は私にはあまりない。アーツも炎しか、まだ使えないので、この人には効かない。アリアンロード様以上に戦い方に困る方だ。

 まあ、仕方がない。この人を満足させないと、寝れないだろうし‥‥‥よし、いつも通りのやぶれかぶれだ。

 

「行きます!!」

「へへ、こい。ワーク!!」

 

 私は勢いよく駆けていき、『劫炎』の先輩に斬りかかっていく。

 

「馬鹿正直に突っ込んでくんじゃねぇ。焼き尽くせ!『ヘルハウンド』」

 

 獣を象った劫炎が私に向かって飛んでくる。私はその焔を全力で回避する。そうしなければこの焔で終わりだからだ。

 

「ハッ!」

「いいぜ!その調子で避けろや!!」

 

 楽しそうに連続で焔を打ち込んでくる、『劫炎』の先輩。

 私は回避しながら、少しづつでも距離を詰める。

 

「そりゃ、そりゃ、そりゃ‥‥‥もいっちょ、おまけだ!!」

「すこし、は、加減して、ください!」

 

 数が増えたけど、狙いが荒いから何とか躱せる。だけど、近づけば近づく程、より早い判断が求められる。

 だけどここまで来た以上、何とか一撃でもかましてやりたい。

 私は全力で一撃を叩き込んだが、『劫炎』の先輩はあっさり躱された。

 

「ハァッ!!」

「オイオイ、本当にやるようになったじゃねえか。俺とここまで剣士で戦えたのなんて、レーヴェの阿呆と光の剣匠くらいだったのに、手近なところにいいもんいたぜ、こりゃ」

 

 『劫炎』の先輩の笑顔が更にヤバくなっていく。

 なんかとんでもない人にロックオンされたけど、いつもの事だ。それに、ここで止めたら、キレそうだ。理不尽だ。

 もうこの際、何でもいい。私が決意を固めた。

 

「一撃だけでも届けさせてもらいます」

「言うじゃねえか。いいぜ、来な」

 

 その後も焔を躱し、攻撃を仕掛ける私と焔を放ち、私の攻撃を避ける『劫炎』の先輩ということが続き、最後には、

 

「大分粘ったじゃねえか、十分楽しめたぜ。御褒美だ!良いもん見せてやるよ!オラ、オラ、オラ、オラ、オラァ!さぁて、コイツで仕上げだ!ジリオンハザードォォォ!」

 

 もう叫び声を上げる気すら起きない程の圧倒的な火力に視界が埋め尽くされ、私は倒れた。かろうじて生きているが、これで勘弁して欲しい。

 ゆっくりとこちらに歩いてくる『劫炎』の先輩。私の近くに腰を下ろし、

 

「おーい、生きてるか」

「‥‥‥なん、と、か」

「お前、随分強くなったな。初めて戦った時より、5分も長続きしたぜ」

「そ、そう、です、か」

「まあ、及第点だな。受け取れ、ワーク」

 

 『劫炎』の先輩が焔を私に浴びせると、傷と疲れが取れていく。

 私は体を起こした。

 

「ありがとうございます」

「おう」

 

 そう言って、『劫炎』の先輩は去っていった。

 私は安堵のため息を吐いた。

 

 

 さて、これで漸く寝れる。朝が『神速』さん、昼が『剛毅』さん、その後『魔弓』さん、おまけで『鉄機隊』、風呂上りに『鋼の聖女』様、寝る前に『劫炎』の先輩、ハードだ。

 これが研修か、社会人というのはこんな荒波と毎日戦っていくのか。そりゃ、父さんと母さんが過労死するのも無理はない。私は定年まで、働けるだろうか、不安だ。

 それに寝ていると奇襲も掛けられるし、本当に社会人というのはハードだ。

 私がベッドに横になり、明かりを消すと、

 

「起っきろーーーー!!」

 

 襲撃者が寝ている私に奇襲をかけてきた。

 ここ最近の研修で追加になった、就寝中の敵の襲撃訓練が始まった。だが、今日は『劫炎』の先輩のおかげで、体力に余裕がある。

 私は襲撃者のチェーンソーを躱し、背後に回り込みクビを絞めて、瞬時に落とした。

 襲撃者は執行者No.XVII《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランドだった。彼女は二大猟兵団の一つである、『赤い星座』の現団長の娘らしい。歳は私よりも下だし、女の子だが、私は決して彼女を侮りはしない。スキを見せれば食い殺しに来る、野生の動物みたいな狂暴性を持っているのは、会ったときに分かった。

 

「お兄さ~ん、人、何人殺したことある~」

 

 最初の会話がこれだったからだ。こんな会話をナチュラルに出す奴が普通なわけがない。その時から私の彼女を見る目は人間の皮をかぶった野生動物だと思って接するようにした。

 私は落とした彼女を部屋の外に出すと、外に待ち受けているいつもの人に手渡す。

 

「お嬢さん、お渡しします」

「受け取ります。ではおやすみなさい」

「おやすみなさい」

 

 私はこれで漸く眠れることになり、ベッドに入ってすぐに眠りに落ちた。

 

 

side カンパネルラ

「さて、ハード・ワークの成績はどうかな?――――――!すごいね、これ。鉄機隊相手に完勝。聖女様には流石に勝てないけど、相当気に入ってるみたいだね。マクバーンにまで、気に入られてるし。それにシャーリィが素手で秒殺とか―――盟主様が見つけてきたけど、本当にすごい逸材だね。噂のⅦ組にいなかったとはいえ、士官学院からうちに来たんだから、相当な変わり者だよね。まあ、他の就職先を認識阻害で全部落としただけだけど。それにこの結果を見ると、あれくらいの手間でこんな有望株が来たんだから、差し引きプラスだね」

 

 カンパネルラの手にはハード・ワークの成績表がある。そこにはほぼすべての項目に最高評価となっている。

 ただ、二か所は『測定不能』と記載されている。

 

「身体能力測定不能、アーツ適性測定不能、か。この項目、聖女様とマクバーンにどれぐらいが計ってもらったけど、余計に意味が分からなくなったなぁ。聖女様は『良き力です』、マクバーンは『おもしれぇ』しか書いてない。あと彼、見ただけで真似するとか、ほんと、異能染みた能力だな。デュバリィの分け身とヴァルターの技はともかく、マクバーンの焔はアーツじゃないんだから、真似できる訳ないのに、何でできるのかな?もしかしたら、そのうち聖女様の技まで使えるようになるんじゃ―――本当に面白いな、彼。まあ、この結果だったら、他の使徒達も納得でしょう。盟主様にご報告しておこう、これで彼も執行者だな」

 

 僕は星辰の間に飛んで、盟主様にご報告した結果、ハード・ワークの執行者就任ということになった。

 

side out

 




ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。