社畜の軌跡   作:あさまえいじ

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第三十話 思い出の言葉

―――七耀暦1206年6月17日 ブリオニア島

 

 ブリオニア島に移動してきて3日目、

 

「zzz‥‥zzz‥‥zzz‥‥zzz」

 

 今日も又、9時間の睡眠を取っていた。体の方も大分馴染んできたのか、最早痛みは無い。だが、今だ体のだるさと疲れは抜けない。最近は鍛錬も出来ていないので、私の戦闘力は大分落ちていることだろう。いっそこのままでいいから鍛錬を始めるべきか、と考え実行しようとしたところ、お目付け役に見つかり、直ぐに捕縛される。

 デュバリィさんの場合は逃げても簡単に捕まり、アイネスさんの場合は力負け、エンネアさんの場合は遠くから狙撃される。以前、交代目前の気が抜ける瞬間を狙い、警備のスキを突いて逃走を図ったところ、リアンヌ様に首根っこを掴まれて、ベッドに戻された。その日は、リアンヌ様が見張ることとなり、逃走のスキは完全に無くなった。

 脱出を試みる事5回、成功回数0回、最早諦める事しか出来ない。

 

 しかし、寝ているだけだと暇になってくるものだ。最近では大分起きていられる時間が増えてきた。一時は本当に一日中寝てないといけなかった。それが今だと、大体九時間まで減ってきた。もうすぐ、8時間、7時間と徐々に減らしていけるだろう。ただ現在は9時間の睡眠時間を取っているため、15時間は起きているのだ。その起きている時間の間で行っているのが‥‥‥‥魔法の練習だ。

 体が動かせない状況でも、唯一出来る自己鍛錬だった。魔力を練る事、魔力を飛ばすこと、そういった基礎的な事から、魔力の形状を変化させて、剣などの形を作ることや鳥などの生物を魔力で作り、その生物特有の動きを再現するなどして、時間を潰していた。

そして現在練習中なのが、認識阻害だ。この魔法はそこにあるのに、相手に気付かせないと言うものだ。この魔法は色々なことに使えるだろう。例えば私の存在を認識させないようにして注意を逸らし、その間に外に脱出することも出来るだろう。

 まあ、今度そういうことしたら四六時中リアンヌ様が監視すると言われた。もしそんな事になれば、実験に遅れが出てしまう。流石にそんな事は出来ない、私の欲望のために《結社》に不利益をもたらすわけにはいかない。

 ‥‥‥‥そういえば今日はまだここに来ていないな、リアンヌ様。今なら脱出できるかも‥‥‥‥いやいや、それはまずい。さっき不利益になることは慎む、と決めたばかりなのに。‥‥‥‥でも、外の様子を確認するくらいはいいだろう。

 私は寝がえりを打ち、監視役のデュバリィさんに背中を向けた。私は自身の背で手元を隠し、魔力で鳥を作り、追加で術式を刻み、外に放った。すると魔力で作られた鳥は外に向かって飛んで行った。

 先程飛ばした鳥に追加で刻んだ術式は『遠見』の術式、この術式は遠くの景色を見ることが出来るものだ。これで外の情報を仕入れ、リアンヌ様がいないならば、ちょっとくらい外に出ても大丈夫だろう。

 そうこうしていると、外の映像が私の頭に映った。‥‥‥‥ふむ、外は真っ暗だ、星がたくさん見える。今の時間は夜か、最近殆ど寝ているので時間感覚が狂っているな。早急に色々な感覚を取り戻さないといけない、折角『鬼の力』を使える様になり、それに馴染ませているというのに、このままでは‥‥‥‥このままでは使い物にならない、戦力外通告を受けてしまう。

 決意を新たに、脱出ルートを模索していると‥‥‥‥この島に飛んでくるものを見かけた。

 

「っ‥‥!」

 

 私はその映像を見て、勢いよく飛び起きた。

 

「! 何事ですの!」

「外に‥‥この島に高速で接近する物体あり。‥‥‥‥あれはミリアム・オライオンです」

「白兎‥‥‥‥何で気づいたかは後で問い詰めますが、とりあえず撃退してきますわ。貴方はそこで寝ていなさい」

 

 デュバリィさんは、そう言って出て行こうとしていた。だが、

 

「待ってください」

 

 呼び止めていた。

 

「何ですの、今更昔の仲間と戦うのに抵抗がありますの?」

「本当に今更ですね。もしそんな事を考えていたら、今この場にいませんよ。そんな事より、今この場で即座に撃退した場合、次は大勢でここに乗り込んでくるでしょう。領邦軍か、帝国正規軍か‥‥‥‥おそらくは体面を気にして領邦軍が攻めてきて、その後、美味しいところは正規軍がかすめ取ろうとするでしょう」

「ならばどうすると言うんですの?ここには神機があります。そのマナの完全充填までもう少し時間が掛かりますわよ」

「足止め、いえ、この場合は捕獲ですね。この場で捕らえてしまいましょう。おそらく連絡が途絶えた場合、最後に連絡があった場所に調査の手が伸びる事でしょう。そうなればどちらにしろここに調査の手が伸びます。ここから移動させるのは明日の予定でしたね。ならば多少の時間でも稼いでおきましょう」

「ですが、どうやって捕獲するんですの?」

「そこは私にお任せを」

 

 私は魔力で網を作りだした。

 

「この網で地面に抑えつけます。これで逃げられません」

「‥‥‥‥今の貴方を動かすのは得策ではありませんが、致し方ありませんわね。では、それで行きますわよ。‥‥‥‥それまでは寝ておきなさい、いいですわね。後、この事はマスターにもご報告いたしますので」

「‥‥‥‥はい」

「‥‥‥‥まあ、今回は致し方ないことですので私も擁護致しますわ」

「よろしくお願い致します」

 

 私は引き続き、ベッドに横になることにした。それでも、ミリアムの動向は常にチェックしておくことにした。

 

 

 ミリアムがこの遺跡を見つけたようだ。階段を下りてきている。

 

「そろそろです」

「ええ、分かりましたわ」

 

 デュバリィさんは剣と盾を用意し、待ち構える。

 私は『ハード・ワーク』を変形させ、いつもの仮面とローブにして身に纏う。ベッドは一時的に結界を張り、壊されないようにし、更に認識阻害で見えなくしておいた。これで、大丈夫だ。私は久しぶりに立ったことで、ふらついてしまった。

 いかんな、足に力が入らない。‥‥‥‥いや、足どころではないな。3日程、ベッドの住人になっていたことで、全身に力が上手く入らない。‥‥‥‥本当に役立たずだな、今の私は。

 

「いいですか、貴方は魔力で拘束させること。それ以外は何もするな、ですわ」

【‥‥‥‥ああ、了承した】

「‥‥‥‥心配しなくても、貴方の力はこれから必要になるんです。今は‥‥‥‥任せておきなさい」

【はい、お願いします。デュバリィさん】

「その仮面被ってるときの口調、崩れてますわよ。気を付けておきなさい」

【!‥‥ああ、分かった】

「よろしい。では‥‥‥‥参りますわよ」

 

 それから少しすると、足音が聞こえてきた。どうやらすぐそこまで来たようだ。

 デュバリィさんは階段を下りてきたばかりのミリアムに奇襲をかけた。

 

「わわ、一体何!?」

「久しぶりですわね、白兎!」

「鉄機隊の人!? ガーちゃん!」

「□×○△」

 

 ミリアムの戦術殻、ガーちゃんがデュバリィさんの攻撃を受け止めた。いきなり攻撃されたにも関わらず、防御していた。だが、それでは‥‥‥‥

 

「甘いですわ、はぁ!」

「うわぁ!」

「×○△□」

 

 デュバリィさんは自身の二つ名でもある《神速》に恥じない、高速移動からの連続攻撃であっという間にミリアムを圧倒していく。だがミリアムもあきらめてはいないようだ。

 

「この~、ガーちゃん!」

「○△□×」

「ガーちゃんビーム!!」

 

 ガーちゃんから、ビームが発射された。

 

「遅いですわ!‥‥はっ!」

 

 デュバリィさんはガーちゃんから発射されたビームを簡単に躱した。だがその射線上に私が居たことに気付いたのは、自身が躱した直後だった。

 万全の状態の私であれば、躱すのは簡単だ。だが今の立っているのも精一杯の状況では、瞬時に横に躱すのは無理だ。それほどの脚力は今の私に無い。ならばどうするか‥‥‥‥受け止めるか、今の私ではこの程度の攻撃でも、相当な深手になりかねない。故に却下だ。さて本格的にどうするか、躱せない、受け止められない‥‥‥‥ならば出来ることはこれしかないか。

 私は左手を前にかざし、魔力を循環させ、魔法陣を展開した。するとガーちゃんから発射されたビームはその魔法陣に吸い込まれていった。

 

「なっ!」

「ええええええ!!!」

 

 驚く周囲の状況を他所に、私は空いている右手をかざし、狙いを定めた。

 

【早めに返してやる】

 

 魔法陣をガーちゃんの直上に展開し、吸い込んだビームを吐き出した。

 

「XXXXXXXXX」

「ガーちゃん!」

 

 ミリアムは相棒に降り注ぐ光の柱を見て、悲鳴の叫びを上げた。

 

「申し訳ないですが、スキだらけですわ」

「うわぁ!」

 

 ミリアムは相棒に気を取られ、デュバリィさんから目を離した。そのスキを見逃さず、デュバリィさんはミリアムに一撃を与え、ミリアムは地に伏した。よし、後は‥‥‥‥

 私は再び魔力を循環させた。

 

【彼のものを捕らえよ】

「うわわわ、何だよこれ」

 

 私が発動させた魔法により、動くことが出来なくなったミリアムとガーちゃん。すまないな、だがこれで傷つけることはもうない。そこで大人しくしていてくれ。‥‥‥‥あの人たちのためにも。

 私は目線をミリアムから外した。

 

【さて、これで片付いたな】

「ええ、そうですわね。‥‥‥‥其方は私が監視しておきますから、貴方はお休みなさい。これ以上は擁護できかねますわよ」

【ふむ‥‥‥‥致し方ない。お言葉に甘えさせていただこう】

 

 私は認識阻害を施したベッドに向かうと、背後から声を掛けられた。

 

「ねえ、君はなんて言うの?」

 

 ミリアムの声だった。囚われの身でありながら、何処か暢気さを感じさせる、学生時代と変わらない声だった。

 私は一瞬、どうするか考え、直ぐに答えが出た。

 

【我は執行者No.ⅩⅩⅠ《社畜》‥‥‥‥其方も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え?」

 

 ミリアムはキョトンとした顔をしている。‥‥‥‥少し話過ぎたか、これ以上は止めておこう。

 私は今度こそ、ベッドに向かい、変装を解いて横になった。外のミリアムからすれば、私が急に消えた様に見えたが、騒ぎだしてはいない。昔に比べれば、落ち着きを持った、と言う事なんだろう。先程の言葉は撤回しておくべきだったか。

 そんな事を考えながら、意識を手放した。

 

 

side ミリアム

 

【我は執行者No.ⅩⅩⅠ《社畜》‥‥‥‥其方も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え?」

 

 確認のため名前を聞いてみたら、やっぱり《結社》の執行者《社畜》だった。サザーランドとクロスベルで確認された新しい執行者。ボクも情報局のデータベースで確認はしていたけど‥‥‥‥なんだかイメージと違うな。

 ボクがデータベースで確認した情報では、戦闘力が極めて高く、冷酷な性格らしいと言う事だった。

 戦闘力が極めて高いという評価が下されたのは、リィンをはじめとした実力者を悉く倒してきたからだ。リィンにラウラ、それに執行者のシャロンさん、遊撃士のアガット・クロスナー、元赤い星座の団長、闘神の息子であるランディ・オルランドに鉄道憲兵隊のミハエル少佐、報告に上がっているだけでこれだけの相手を下してきた。とっても強い奴だ。

 冷酷な性格と判断された要因は、ボクの後輩の実家に手を差し向けて脅したり、かつての旧友であるアリサの命を狙ってきたり、目的のためには手段を選ばないような印象があったからだ。

 その二つを総合して考えて、出くわすのは危険だと思っていた。実際、戦闘中に一歩も動かずにガーちゃんが倒されちゃったし、ボクも捕らえられちゃった。でもそれ以上は何もしてこなかった。

 ‥‥‥‥何だろう、声に温かさがあったし、心配する気持ちもあった。それに‥‥‥‥なんだか知っているような感じもするし‥‥‥‥うーん、なんだか昔もこんな感じの事があったような気がする。確か‥‥‥‥トールズに入ったばっかりの頃に、レクター経由で紹介された‥‥‥‥

 

「坊ちゃん、すまないがコイツの面倒見てやってくれないか?」

「レクターさん、坊ちゃんは止めてください、と何度も言ってますが?」

「何を言います、おやっさんと姉御のご子息であれば、俺達にとっちゃ坊ちゃんでしょう。で、コイツの面倒頼んでいいか?」

「はぁ~別に構いません。ギリアスさんからも連絡を受けていますので」

「そうか、じゃあ後は頼んだぞ。ミリアム、学院にいる間は困ったことがあったら何でもコイツを頼れよ」

「うん! はっじめまして! ボクはミリアム、ミリアム・オライオンだよ。で、こっちはガーちゃん」

「○△□×」

「ああ、私の名はハード・ワークだ。こちらこそよろしく」

 

 初めてハードに会った時、デッカイなぁ~と思ったな。あ、違う、ここじゃない。

 確か‥‥‥‥部活を始めた時に‥‥‥‥

 

「えい、やぁ、とやぁー!」

 

 ボクは調理部に入って食材を切っていた。その日は部長もマルガリータもいなかったんだっけ。

 

「あ、あれぇ、あれれ!」

 

 かぼちゃに包丁が刺さって抜けなかった。ボクはうーん、と力一杯引き抜こうとして、

 

「うーん‥‥‥‥抜けた! あっ!」

 

 ボクは勢い余って後ろに転げ落ちそうになった。けど‥‥‥‥落ちなかった。何かに支えられて、ボクは宙に浮いていた感覚があった。そして、元の場所に戻された。それをしたのが誰なのか気になって振り向くと、ハードがいたんだ。

 

「‥‥‥‥今日は調理部の活動は無いはずだが?」

「うん、無いよ。でも、少し練習したくて調理室のカギを部長から借りたんだ」

「そうか‥‥‥‥一人で、か」

「うん!」

 

 ハードは調理台の様子を見て、考え込み始めた。

 

「初心者が一人で料理をしても怪我をするだけだぞ。包丁を貸してくれ」

「あ、うん」

 

 ハードはボクから包丁を受け取ると、カボチャを切り始めた。

 

「いいか、こういう固いものはこうやって包丁で押して切るんだ」

 

 そう言って、アッサリとカボチャを半分にした。

 

「やってみろ」

「うん!」

 

 ボクはハードから包丁を受け取って、再度カボチャに切りかかった。だけど、ハードみたいに簡単には出来なかった。

 

「うーん!」

「‥‥‥‥そのまま持ってろ」

 

 ハードがボクの背後から手を回し、包丁を持っている右手とカボチャに刃を押し込んでいる左手に手を添えて、力を貸してくれた。すると、

 

「わぁ! 切れた~!」

 

 アッサリと切ることが出来た。ボクは驚きと感動で一杯だった。

 

「よくできたな」

「うん、ありがとう!」

「‥‥‥‥ところで、この後どうするんだ?」

「この後? アレ、何するんだっけ?」

 

 カボチャを切るのに必死で、作る料理を忘れちゃった。

 それを見てハードはカボチャを使った料理を作ってくれた。とても美味しかったことはよく覚えている。

 そして、

 

「一人で料理をするのはもう少し包丁と火の扱いに慣れてからだな。後‥‥‥‥()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうだ、あの時言われたのと同じ言葉だったんだ。

 ‥‥‥‥でも、何で今になって思い出したんだろう。それほど珍しいことを言われた訳じゃないのに、それに声も仮面越しだから、くぐもっている声だったから似ているとは思えなかったな。‥‥‥‥だけど、声のリズムはなんだか似ている気がした。

 うーん、そういえばハードって、今どこで何してるんだっけ? おじさんとレクターと仲良いのは知ってるし、クレアもハードの事を知ってるみたいだったし、てっきり卒業後は情報局に来るもんだと思ってたのに、だけどおじさんとレクターは、ハードが情報局に来ることはない、ってハッキリ言ってたけど‥‥‥‥

 僕は囚われの状況でありながら、ずっとそんなことを考えていた。

 

side out

 




ありがとうございました。

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