社畜の軌跡   作:あさまえいじ

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遅くなりました。


第三十二話 聖女降臨

―――七耀暦1206年6月18日 ブリオニア島

 

「はあああああっ!!」

「やあああああっ!!」

 

 リィンとデュバリィさんの獲物がぶつかり合う。

 それと合図にアイネスさんとエンネアさんもトールズ第二の生徒達と交戦を始めた。

 

「みんなーー! 頑張れ!!」

 

 ミリアムはリィン達に声援を送っている。だが、残念ながらその声援を送っても無駄だろうな。

 

【騒ぐな、どうせ結末は分かっている】

「ムッ、それもさっきみたいに分かっているの!」

 

 先程、私はリィン達が後何秒で扉を開けるか言い当てた。その事にミリアムは驚いていた、だが、その事には何の不思議もない。なぜなら、私には見えていたからだ。

 昨日、ミリアムを見つけたのと同じく、遠見の魔法を使い、外の様子を監視していた。だからリィン達がこの島に上陸してから、いくつかの場所を探索したことも、この遺跡の外に《灰の騎神》がいることも全て見えていた。でも、その事を知らないミリアムからすれば、私は預言者の様に見えるんだろう。真実は‥‥‥‥カンニングしているに過ぎないがな。ミリアムは私の今回の発言も先程と同じく予言に聞こえたんだろう。予言なんて、そんな高尚なものではない。ただ単純な話だ。

 

【いいや、先程のように見えているわけではない。だが先程よりも簡単な事だ。戦いとは強い方が勝つ、それが真理だ】

「なにおう!!」

 

 私の言葉に反発するミリアムは、うーうー、と唸りながら、こちらを睨んでくる。

 

【ならば、しっかりと見ておくといい。現実というモノをな!】

 

 私の言葉で、ミリアムは戦況に視線を向ける。

 

「ハアッ!!」

「甘いですわ!!」

 

 リィンとデュバリィさんが斬り合いをしている。デュバリィさんの動きの速さはリィンを上回っている。だがリィンも負けてはいない、巧みに立ち回り、デュバリィさんに引けを取らない。確かに、ここだけ見れば互角、と言える。ここだけ見れば‥‥‥‥

 

「セイッ!!」

「チィッ、マジかよ!」

「ぐぅ、クラウソラス!」

 

 アイネスさんの大きな戦斧で豪快な一振りは金茶頭とアルティナの戦術殻を吹っ飛ばし、

 

「フフッ、そこよ!」

「キャッ!!」

「くっ!」

「く、これは厳しいですわね」

 

 エンネアさんの正確無比な弓での狙撃でユウナちゃんと双剣の男の子、緑髪の女の子の三人が圧倒されていく。

 

「くっ、皆!」

「よそ見とは、随分と余裕ですわね!」

 

 生徒達が気になりだした様で、リィンにスキが出来たようだな。デュバリィさんの攻めに防戦を強いられている。

 力の差、経験の差、それらも確かにある。だが、一番の差は連携の差だ。天と地の差と言える程だ。生徒達の連携では唯一勝っている数的優位も生かせていない。

 本来、鉄機隊は遠距離攻撃担当のエンネアさん、前衛担当のアイネスさん、そして遊撃担当のデュバリィさんが揃って真価を発揮する。現在は遊撃担当のデュバリィさんをリィンが足止めしているので、アイネスさんとエンネアさんの二人に対し、生徒五人でどちらか一方を落とし、その後にもう一方を落とすべきだろう。‥‥‥‥だが、それを出来ない、いや、させない、が正しいな。アイネスさんとエンネアさんはうまく立ち回り、数的優位を消している。

 エンネアさんが緑髪の女の子を集中攻撃しているので、相手からの遠距離攻撃を妨害している。ユウナちゃんと双剣の男の子が緑髪の女の子を防衛に入ったことで3人の足止めを果たしている。そうなると、金茶頭とアルティナの戦術殻が残るが、それをアイネスさんが受け持つ形に成った。だが、二対一でもアイネスさんと、金茶頭とアルティナの二人では力の差で圧倒されている。例え、金茶頭とアルティナの二人が連携したとしても、たかが知れている。それどころか、互いにつぶし合いかねない。残念ながら、あの二人では勝機はないな。

 

【‥‥‥‥どうやら、また当たったな】

「アーちゃん、リィン、皆‥‥‥‥」

 

 第二の生徒達はその場に膝を付いている。リィンも第二の生徒達の下に合流したが、戦況は圧倒的に不利だ。ミリアムも先程の様な気概はないようだ。

 

【第二の生徒達は一人一人のポテンシャルは高い、将来性を考えると確かに脅威に成るかも知れない。だが、それは今ではない。今はまだ‥‥‥‥雛鳥に過ぎん】

 

 練度、経験、連携、これらは時間と共に培われるものだ。時間と共に成長していく。だが、力が必要な時に力があるとは限らない。だからこそ、今出来ることを必死でやるんだ。泣きたくなければ、今を必死で生きるしかないんだ。

 私の言葉がミリアムに届いたのか、分からないが、漸く静かになった。

 

「フン、所詮はこの程度、ハーメルで戦った時から、あまり成長していないですわね」

「ふむ、確かに光るモノはあるが、現状ではこの程度か」

「ふふ、ハーメルの一件から二月経ったにしては、大人しい成長ね。まあ、彼の成長速度と比べれば、だけどね」

 

 エンネアさんがこっちを見た。ん、何だろうか?

 

「くっ、流石の腕前だが‥‥‥‥」

「でも、何とか届かない程じゃないわ!」

 

 ユウナちゃんは威勢のいい事を言うが‥‥‥‥届く訳がない。なぜなら、

 

「フン、調子に乗るんじゃありませんわ。ここまではあくまで‥‥‥‥小手調べです」

 

 そう、本気の彼女達はもっと速く、強く、鋭い。そして‥‥‥‥奥の手がある。力の差は歴然であるが、彼女達は私の様に油断はしない。どうやら、奥の手を使い、一気に決めるつもりのようだ。

 鉄機隊三人の間にリンクが繋がる。

 

「ふふ、《星洸陣》を披露するのも久しぶりかしら」

「我ら鉄機隊が結社最強と謂われる所以―――」

「その身で存分に味わうといいですわ!」

 

 鉄機隊の三人は《星洸陣》を発動させた。私としては初めて見るな。手合わせで三人同時に戦ったのは、研修中に一度だけだ。だがその時には《星洸陣》を使われなかった。せっかくの機会だし、ゆっくり見せてもらいたいのは山々だが‥‥‥‥残念ながら今回はここまでのようだ。

 

「その必要はありません」

 

 場に声が響く。転移陣が構成され、その場に現れたのはリアンヌ様だった。

 

 

 

side リィン・シュバルツァー

 

「その必要はありません」

 

 声が響き、その場に転移してきた存在は甲冑と兜を纏った女性だった。その存在が現れた時、その圧倒的な威圧感に思わず息を呑んだ。だが、圧倒されようとも敵の姿を見なければ、戦うことも、逃げることも出来ない。俺は歯を食いしばって、全身をよくよく見てみる。すると、兜の装飾が《社畜》の仮面に似ている事に気付いた。どうやら、かつて言っていた、師、と言う事か。あの男の師、生半可な存在だとは思っていなかったが、ここまでとは‥‥‥‥

 

「《身喰らう蛇》が第七柱、《鋼》のアリアンロードといいます。トールズ第Ⅱ分校‥‥獅子心皇帝の意志を受け継いだ生徒達に、教官でしたか」

 

 声を聞き、確信を得た。目の前の存在には‥‥‥‥勝てない。

 

「来い、ヴァリマール!」

 

 躊躇する時間は無い。目の前の存在に出し惜しみしている暇はない。最短で、最速で、この場を脱出する。

 俺の中にはヴァリマールを呼び、ミリアムを救出して、逃走することしか、この場を切り抜ける方法は思いつかなかった。だが、

 

「Ⅶ組総員、ミリアムを救出してここから撤退してくれ!」

「良い判断です。ですが間が悪すぎましたね」

 

 呼び出したヴァリマールがこの場に現れてすぐ、神機が転移し、ヴァリマールの動きを抑え込まれた。

 

「ヴァリマール!?」

「これも良き機会です。さあ、見せてもらいましょうか?」

 

 《鋼》のアリアンロードは自身の槍を取り出した。

 

「八葉の一端の担い手にして《灰の起動者》の力の程を」

 

 恐ろしさを感じる、威圧感を感じる、だが‥‥‥‥

 

「ユウナ、預かっておいてくれ」

 

 俺はペンダントを外し、ユウナに渡した。

 

「教官、これって!」

 

 ユウナからは困惑の声が上がった。確かに、これが無いと、鬼の力を制御出来ない。だけど、そんな事考えて戦える相手じゃない。

 

「以前から一度手合わせ願いたいと思っていた」

 

 俺は《鬼の力》を発動させ、《鋼》のアリアンロードに相対した。

 

「八葉一刀流中伝、リィン・シュバルツァー。全身全霊を持って、武の至境に挑ませてもらう!」

 

 俺の力が何処まで届くのか、試させてもらう。

 

「意気やよし。それでは行きますよ」

 

 あちらも槍を構える。すると更に圧が増したように感じる。

 

「ッ、ハアアアッ!!」

 

 俺は自身に喝を入れ、一気に斬りかかる。だが、簡単に受け止められた。

 

「‥‥‥‥ふむ、この程度ですか。若干物足りませんね」

 

 兜で顔は見えない。だが、その声には落胆の色が隠せない。

 

「なっ、‥‥ハッ!」

 

 相手は武の至境、ランディさん達特務支援課ですら、圧倒した相手だ。そして‥‥‥‥あの《社畜》の師でもある。このくらいで、倒せるなんて甘い考えが過ぎた。それに、こちらには時間制限もある。手をこまねいているわけにはいかない。 

 俺は太刀を鞘に納め、精神を集中させ、一刀を放つ。

 

「『滅・緋空斬』!!」

 

 炎を纏った飛翔する斬撃は《鋼》のアリアンロードに直撃した。だが、

 

「良き闘気、重ねられた修練を感じる、良い一撃でした。ですが‥‥‥‥まだまだです」

 

 まるで堪えた様子がない。それどころか俺の攻撃を褒めるまでの余裕すらある。‥‥‥‥いや実際、それだけの余裕があるんだろう。《鬼の力》の底上げがありながら、まるで届かない、足元すら見えない程の遥かな高み、そんな高みからこちらを見下ろしているとすら感じる。

 ‥‥‥‥いや、そんな事は最初から分かっていたことじゃないか。俺も武人の端くれ、相手との力量が測れないほど、未熟ではないと自負している。‥‥‥‥いや、そんな自負など不要な程の力の差だ。生物としての本能に訴えかける程の、力の差だ。眼前の相手に尻尾を巻いて逃げ出すことは、決して恥じゃない。むしろ、逃げ出さない奴は、愚かだとすら思う。‥‥‥‥俺も愚かだ。だが、仲間を見捨てて逃げるような、愚かにはなりたくない。

 『俺』の命で『皆』を守る。いや、俺の命一つでは、決して守れない、それも分かる。だけど、何として手でも成し遂げる。皆を守るためなら、命だって、何だって、かけてやる。

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

 俺は《鬼の力》を限界まで使い、《鋼》のアリアンロードに挑む。後の事は考えない。いや、そんなこと考える余裕はない。

 

「『裏疾風』!!」

 

 俺自身が持つ技で最速の一撃を放った。

 

「ふふ、良き速さです」

 

 いとも容易く、いなされた。兜越しで表情を見ることは出来ないが、声の感じから、余裕を崩すことすら出来なかった。それに《鋼》のアリアンロードが立っている場所から一歩として動かすことも出来なかった。

 はは、ここまで差があるのか‥‥‥‥

 

「おや、どうしました、もう終わりですか?」

「!!」

 

 いや、落ち込んでいる暇などないし、そんな事を思う事すら烏滸がましい。俺は折れそうな心強く持ち、攻撃を続けた。

 

 

 どれほどの時間、攻撃を仕掛けたのか、一分、十分、一時間‥‥‥‥いや、もしかしたら、数秒だったのかも知れない。圧倒的な強さ、威圧感に晒され続け、自身の感覚が狂ってきている。だけど、

 

「ハアアッ!!」

「ふふ、良いですよ。先程より、切り返しが上手くなりましたね」

「セイッ!!」

「ふふ、良き一太刀です」

「『滅・弧月一、』グゥッ!」

「ほら、技への連携に無駄がありますよ。技を使う際には、相手のスキをしっかり作らないと、このように簡単に抑えられますよ」

 

 何度打ち込んでも、簡単に捌かれ、躱され、潰されている。だが、何度打ち込んでも、スキが生まれても、決して追撃してこない。技を止めるために、攻撃はしてくるが、俺を倒そうとはしてこない。

 俺の攻撃に対処しながら、良ければ褒める、悪ければ欠点を教えてくれる。これは戦っているんではない、指導を受けているんだ。だが、何故こんなことをしているんだ。そんな事に気付きつつも、少しでも、気を逸らすと、

 

「‥‥また考え事ですか」

「?! クッ!!」

 

 集中しろ、とでも言いたげな声と共に、強烈な一撃が飛んできて、思考に使っていた、意識を引き戻された。

 彼女ほどの力であれば、俺が気づくことなく葬れるというのに、敢えて抑えている。

 

「‥‥‥‥何故、貴方は態々こんなことをするんですか!?」

「おや、こんなこととは?」

「‥‥‥‥この手合わせの事です。貴方なら、俺を容易く倒せるというのに、態々こんなことをしてくるなんて‥‥‥‥」

「ふふふ、それくらいは気づきますか」

「‥‥‥‥っ!」

「ふふ、別に手を抜いているというわけではありません。言ったでしょう、力を見る、と。これは貴方の力を見る事が目的なのです。安心なさい、今は貴方を倒そうとは思ってませんので」

「一体何のために!?」

「これからの先、貴方が我々の計画の障害に成るか、否か、それの見極めが一つ。二つ目は‥‥‥‥」

 

 《鋼》のアリアンロードは視線を俺から逸らした。俺も思わずその先を見てしまった。そこにいたのは、《社畜》だ。

 

「我が弟子の良き競い合い手に成れるか、否か。それが二つ目」

 

 やはり《社畜》は《鋼》のアリアンロードの弟子か。半ば推測だったのが確定情報に変わった程度、この事にはもう驚きはない。

 だが何故、そんな事を気にするのか、其処には疑問が残った。

 

「そして、最後に‥‥‥‥」

 

 俺を見た。ジッと、見ている。見透かされるような感じではなく、何処か、慈しみがあるような感じがする。

 

「いえ、これ以上は不要でしょう。それに私には‥‥‥‥それを言う資格はありません。‥‥‥‥さて、これ以上の問答は不要。貴方もその力を維持できるのも、自我を保つのも、そろそろ限界の様ですし、これで最後にしましょう。全力で来なさい!」

 

 また圧倒的な威圧感が俺を襲う。だが、

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

 ここで退けない、俺は闘志を奮い立たせ、最後の一撃を放つために、構える。

 

「明鏡止水、我が太刀は静、‥‥‥‥見えた!」

 

 俺の持てる力を込めた最高の一撃を眼前の敵に放った。

 だが、俺の一太刀は《鋼》の槍でいともたやすく止められ、俺の太刀はピクリとも、動かせない。

 

「良き一撃です、この調子で精進なさい。ハアッ!」

「グゥッ!!」

 

 俺は槍で薙ぎ払われ、地に這いつくばる。

 それほど身体にダメージは無いので、俺は再び立ち上がり、再度挑みかかろうとした。だが、

 

「‥‥‥‥どうやらここまでの様ですね」

 

 《鋼》は槍を収めた。俺はその意味が、直ぐに分かった。

 

「ウオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 俺の『鬼の力』が制御出来なくなり、力を常に放出し続けていく。俺は何とか抑えようとしても止まらない。自分の意志で止められない。自分の力が溢れだし、自我を保つことが難しい。このままでは、自分の生徒達に襲い掛かってしまう。それだけは避けなければ。

 だが、段々と抗うのが難しくなっていく。ドンドンと自分が自分で無くなっていく気がする。誰か、俺を止めてくれ‥‥‥‥

 薄れいく自我、最後に感じたのは‥‥‥‥焔だった。

 

side out

 

「ウオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 リィンが『鬼の力』に呑み込まれた。まあ対策もせずに力を使い続ければ、呑み込まれるだろうな。

 分かる、スッゴイ分かる。この間まで私も呑み込まれていたから、リィンがやらかした状態に経験もあるし、理解もある。

 だが、

 

「リィン教官!!!」

「リィン!!!」

 

 生徒達にミリアムは悲鳴の声を上げている。なるほど、あの力で暴走していると周囲にはこういう風に映るんだな。いやー、リアンヌ様にはいつもご迷惑をおかけしていたんだな、と改めて思う。リィンが暴走しているのを見ながら、己の失態を思い返し、恥じ入るばかりだ。これが、人の振り見て我が振り直せ、と言う事なんだな。うむ、勉強になる。

 さて、そろそろ助けてやるか。あの状態の経験者はこの場では私だけだし、対処方を知っているのも私だけだ。リアンヌ様も私を抑え込んだりしては下さったが、根本的な解決が出来るのは師匠と《劫炎》の先輩と私だけだ。本来なら敵対している相手にすべきではないが、同じやらかした者同士、今回は貸しにしておくぞ。

 私は手に焔を作り出し、リィンに向かって放った。

 

「ウアアアアアアアア!!」

「リィン教官!?」

「リィン!? リィンに何するんだ!!」

 

 隣にいるミリアムは私の行ったことに非難の声を上げている。拘束していなければ、飛び掛かってきたことだろう。今も、拘束から抜け出そうともがいている。無駄だというのに‥‥‥‥

 

【何を、か。まあ見ていろ】

 

 私はミリアムに言い聞かせる。今だにうー、と唸り声を上げて、暴れながら、こちらを睨みつけてくる。やれやれ、そこで暴れても体を痛めかねないというのに、アレを見れば多少は落ち着くと思うんだが、あちらを見てはくれない。

 仕方がない。多少手荒いが、やるか。どうせこの状況では言葉で言っても伝わらない。

 私は抑え込んでいる拘束術式の上から強引にミリアムの抑えつけ、リィンの方に向かせた。

 

「ぐっ!」

【見ろ!】

「うぅ‥‥‥‥えっ?」

 

 ミリアムの視線の先には‥‥‥‥『鬼の力』から解放されたリィンの姿が映った。

 ミリアムはそれで暴れるのを止めたので、私は手を離した。

 

「や、やったぁ! え、でも、何で?」

【あいつが呑み込まれた『鬼の力』、その表面を焼き尽くした。だから正気に戻った。ただそれだけだ】

「違う! そんな事を聞きたいんじゃない。どうして‥‥‥‥」

【生憎、そんなに悠長に話をしている暇はない。どうやら、また()がここに来たようだ】

 

 入口の方を見ると、宙を駆けるモノが、飛来する。そしてそれに続く様に現れたのが、

 

「そこまでにしてもらおう」

 

 かつてのⅦ組、ガイウス・ウォーゼルだった。彼が現れ、新Ⅶ組、そしてリィンの前に立ち、リアンヌ様の前に立ち塞がる。

 先程から、遠見の魔法で見ていたので、やって来たのは分かっていた。だが、この島には船はリィン達が乗ってきた分しか無かった。一体どうやって来たんだ?

 いや、それも気になるが、実はそれ以外にも気になることがある。なんだ、()()? 何か、違う。

 私が魔法を覚えたことで、《劫炎》の先輩の焔を感じ取れるようになった。だからなのか、ガイウスの違和感に気付いた。初めて会った時からだったのか、それとも、ここ最近なのか、分からない。だが、ガイウスには()()がある。あの背中に、力を感じる。

 

「久しぶりだな、リィン。ミリアムも先日の通信以来か」

「ガ、ガイウス‥‥‥‥ガイウスなのか!?」

「あははは、間に合ったんだ。よーし、ボクだって! ううううううう‥‥‥‥おりゃーあ!!‥‥‥‥出れない‥‥‥‥」

【ふう、仕方がない】

 

 パチン、と指を鳴らすとミリアムを捕らえていた拘束術式が解除される。 

 

「うわわわっ、え、もういいの?」

【役目は終わった】

 

 私はミリアムの拘束を解き、その場を転移で離れ、リアンヌ様の隣に現れた。

 

「おや、そのまま帰って寝ていていいのですよ?」

【それには及びません、我が師よ。我が手を出すことなどありませんが、久しぶりに表舞台に顔を出したんです。今しばらくご容赦ください】

「‥‥‥‥ふぅ、まあいいでしょう。もう少し共に居ることを許可します」

【ありがとうございます、我が師よ】

 

 リアンヌ様にもう少しだけ、外を出歩くことを許してもらえたので、仕事は出来ないが見学は出来ることになった。

 

「さて、その若さにしてその佇まい、その風格、灰の起動者とは別の意味で只人ではなさそうですね?」

「貴方の足元にも及ぶまい。だが、俺の全力をもって彼らを逃すことは出来るつもりだ」

 

 ガイウスはリアンヌ様にそう言ってのけた。随分とデカイ口を叩く‥‥‥‥とは言えないな。確かに、今の―――何か底知れないモノを秘めている―――ガイウスなら、それもあり得る。信じがたいことだが‥‥‥‥

 全快の私ならいざ知らず、今の私では‥‥‥‥分が悪いか。

 

「フフ、いいでしょう」

 

 リアンヌ様は神機を引かせ、ヴァリマールの拘束を解いた。

 

「霊力の充填も完了。『舞台』も一通り整いました。有角の若獅子たち、―――そこな地精の代理者も。せめて今宵くらいは安らかに眠るといいでしょう。では行きますよ」

 

 そう言ってリアンヌ様達は転移して、この場を後にした。鉄機隊の三人も後に続く様に転移した。

 すこし、ガイウスに色々聞いておきたかったんだが、またの機会にしよう。あそこにいる、留年先輩と鉢合わせしたくはないし、さっさと行こう。あ、そうだ。ベッドを忘れていくところだった。折角いいベッドを買ってもらったんだから、大切にしないと。

 私は一度転移して、ベッドの側に移動した後、もう一度転移して、この場を後にした。

 

 




ありがとうございました。
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