よろしくお願いいたします。
―――七耀暦1206年6月19日 ラングドック峡谷
side マクバーン
「さあっ、楽しませてくれやぁ! シャァ!」
オレの相手をしている《黒旋風》は俺の焔を槍の風圧で弾き飛ばす。
いいねぇ、久しぶりの―――《光の剣匠》以来の強えぇ奴だ。久しぶりに歯ごたえをある奴だ。‥‥‥‥まあ、《結社》の外に限って、だがな。
《鋼》とやり合っても、決着はつかねえし、ヴァルターとやり合っても結果は目に見えてる。最近じゃハードくらいしか楽しめる奴がいねえが、アイツは今はまともに戦えやしねぇ。‥‥‥‥だがまあ、近いうちにやり合えるだろう。その時は愉しませてくれんだろう。何せ、《鋼》に勝ったらしいからな。
《鋼》の奴がやけに機嫌良さそうに、脇腹撫でてやがったから、聞いてみたら、ハードに負けたことを自慢げに言ってやがった。その上、更に強くなろうとしてやがるとか、嬉しい情報付きだった。
クククッ‥‥‥‥アイツが何処まで強くなれんのか、楽しみだぜ。出来るなら、俺に本気を出させるくらいの力を身につけてくれると嬉しいがな。
だが、まあ今は目の前の相手で我慢しとくか。
「さあて、コイツはどうだ!‥‥‥‥ん!?」
焔を放とうとしたら、とんでもない気配を感じた。
方向は‥‥‥‥《鋼》達のいる方か。とするとこれは《鋼》か‥‥‥‥いや、違うな。‥‥‥‥アイツか。
「ハハハ‥‥‥‥いいねえ、やっぱアイツは最高だぜ!」
遠く離れてもビンビン感じてくる、アイツの気配、闘気、そして禍々しい狂気。
まだ、完全な状態でないにしてもこれだけの力を感じさせるアイツは近いうちに俺の本気を受け止めてくれるかもな。楽しくなってきやがったぜ!
side out
―――七耀暦1206年6月19日 ジュノー海上要塞
【‥‥‥‥ああ、この力だ‥‥‥‥漸くか】
『鬼気解放』を発動し、自身の身に起こった変化は想像を超えていた。そして、その感想は率直に言って‥‥‥‥凄い、その一言に尽きた。
力が溢れてくる、無限に湧いてくる、どれほど使っても減る気がしない、そんな表現ができる程の力だ。それに私の中でソフトさんが『鬼の力』の浸食を抑え込んでいるような感じもしない。正真正銘、『鬼の力』を完全に制御しきれている感覚だ。ハハハ‥‥思わず笑いが込み上げてくる。
だが、何時までもこの力に浸っているわけにはいかない。私には時間制限があるんだ。
【‥‥‥‥行くぞ、リィン・シュバルツァー。簡単に倒れてくれるなよ!】
地を駆け、リィンに迫る。軽く踏み込んだ程度の感覚だというのに、あっという間にリィンの背後を通り過ぎてしまいそうになってしまった。‥‥‥‥我ながら恐ろしい速度だ。今までとはまるで世界が違う。これは慣れるのに時間が掛かりそうだ。だが‥‥‥‥良い、実に良い。これこそが私が望んでいた力だ。
私は全力で地を踏みしめ、急ブレーキを掛け、振り向き様に槍を叩き込む。
【シャァァァァ!!】
「ッ!?」
私の一撃を寸でのところで察知し、リィンは太刀で槍の軌道を変え、防いでみせた。
いいねえ、そう来なくちゃ! リィンの対応に否が応でもテンションが上がっていく。
【ウオオオオオオオオオ!!】
最初の攻撃を防がれたが、そんな事は気にしてなどいられない。一度防いだならば二度目を放て、それも防ぐならば更に放て、攻撃の手を緩めるな、敵を滅ぼし尽くすまで。確固たる意思を持って、連続で突きを放ち、リィンに攻撃し続けた。今のリィンは先程までの様に私の攻撃を見切り躱すことは出来ず、太刀で捌いて有効打を避けている。だが、それで精一杯の様で攻勢には出れていない。防戦一方の状況だ。だがこちらからしたら時間制限までに倒しきる必要がある。この戦況を崩すには‥‥‥‥更に手数を増やすまでだ。
私は更に攻撃速度を上げ、突きを放ち続けリィンにひたすら攻撃する。そして、戦況が動いた。
「クッ‥‥ガアッ!?‥‥グゥッ!?」
リィンが苦悶の表情を浮かべ始めた。
捌いて威力を殺しているとは言え、それで威力がゼロになるわけではない。掠るだけでも、今の私の力ならそれなりの威力だ。そんな攻撃が10を超える程に打ち込めばリィンの体が悲鳴を上げるのも自明の理だ。だが、それでも目は死んでいない。私の攻撃を必死で見極めようと、目を見開いている。今だ折れないか‥‥‥‥いいぞ、それでこそだ。もっと私にお前の力を見せてくれ。
私は更に力を引き上げ、突きの速度を更に加速させ、リィンにダメージを与え続け、足が止まった瞬間に薙ぎ払いでリィンに強烈な一撃を与えた。
【ウラアアアアアアアア!!】
「ぐっ!? ぐあああああああ!!」
薙ぎ払いの一撃をリィンは太刀を盾にして防ごうとした、多少の拮抗は出来たが力及ばず、地を転がり吹っ飛んで行く。
先程までの突きの様に速度を重視した攻撃ならいざ知らず、全身の膂力を持って放った薙ぎ払いを防御できるわけがない。その一撃だけは受け止めずに避けるべきだったな。まあ、私としてもリィンが躱せない様に、突きでタイミングを伺ったんだ、そんな簡単に躱されては槍の師であるリアンヌ様に申し訳が立たない。
しかしここであることに気付いた。全力の薙ぎ払いの威力でリィンと距離が離れていく、このままだとトドメを刺す前に時間が切れる。自分の力を把握出来ていなかったので、こんな結果になるとは思っていなかった。私は自身の失態に気付き、全力で地を蹴り、吹っ飛んで行くリィンを追いかける。
【‥‥‥‥何処に行く?】
「ぐっ!?」
飛んで行くリィンにあっという間に追いついた。驚いたな、ここまで速くなっているとは、予想外だ。
【もっと我を楽しませてくれ】
私はリィンを捕まえ、地に叩きつけて勢いを止めた。
「グハァッ!?」
【悪いな。まだ力のコントロールが不十分でな】
軽くのつもりだったが、石畳にヒビが入るほどの衝撃だったようだ。力も相当に上がっているようだ。これだと簡単にリィンを壊してしまうな。まあ致し方ないがな。
リィンは目の前に倒れ伏し、私はそれを見下ろしている。少し早いがトドメを刺すべきか、考えながらしゃがみ込みリィンの顔を覗きこもうとする。すると、目の前に白刃が迫ってきた。
リィンは倒れ伏した状態でもあきらめず、立ち上がり様に太刀で斬りかかってくるが、私はその攻撃を左手で掴む。そして、立ち上がると太刀を掴まれたリィンも一緒に引き上げる。
「なっ!?」
【この程度で、攻撃のつもりか?】
「っ‥‥!」
私の問いかけにリィンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるだけで、返答はない。不意を突いた一撃だが、この程度の攻撃など、今の私に届く訳が無い。その事は理解できているようだが、それでも何かをせずにはいられない、と言う事か。もう少し遊んでやってもいいが、そろそろ時間だ。
私は左手に掴んだ太刀を離すと同時に、左足でリィンを蹴り飛ばす。
「ガハァッ!?」
ここまでの経過時間は約7秒、残りは3秒残っている。トドメを刺すのに十分な時間が残っている、これで終わりにしよう。
【アアアアアアアアアアッ‥‥‥‥】
『鬼の力』を更に引き出し、全身に纏う。今の私はかつてのリアンヌ様との戦いの時よりも更に上に至っている。ならば、この状態で放つ『グランドクロス』はあの時よりも更に強力なはずだ。
ああ‥‥‥‥全身に力が満ちていく、『ハード・ワーク』も、私と同じ様に『鬼の力』を纏った様に、どす黒く染まっていく。《劫炎》の先輩の『アングバール』の様に、使い手の力が反映されていくかのようだ。素晴らしい、流石盟主様が私にお与えくださった、私だけの武器。私の結社への忠誠の証だ。では行こう、『ハード・ワーク』、私と共に更なる高みに至ろう。
私が槍を構え、狙いを絞る。狙うは‥‥‥‥リィン・シュバルツァー。今は太刀を支えに、立ち上がったばかりだ。だが、そんな状態でもこちらを睨みつけている。フフ‥‥‥‥いいぞ、リィン、もっと私を楽しませてくれ。私の全身全霊を込めた一撃、受けてみよ。
【アアアアアアアアアア‥‥‥‥聖技『グランドクロス』!!】
全身の力を足へ伝え、地を全力で蹴り飛ばし、己を射出する。狙いを違わず一直線にリィンに迫り、全力の突きが突き刺さった、リィンの‥‥‥‥‥‥‥‥目の前に。
「くっ!?」
【なっ!?】
結論から言えば、私の足は持たなかった。地を駆ける最中、右足が動かなくなった。その結果、バランスを崩し、勢いよくすっころんだ。その結果『グランドクロス』のパワーが要塞に叩き込まれ、全体を揺るがすほどの地響きが起こった。リィンは直撃はしなかったが至近距離で衝撃で受けたことで吹っ飛んで行く。そして、終わりの時間がやって来た。
『時間です。強制的にシャットダウンさせます』
『ちょ、ちょっと待ってください! あ、後数秒あれば‥‥‥‥』
『もう限界です。私の裁量ではなく、宿主の体のね』
『そ、それはいっ‥‥‥‥グガァ‥‥アアッ‥‥アアアアアアアアアア!?』
意識の中ですら、言葉が紡げなかった。全身に途轍もない痛みが襲われたためだった。
【グアアアアアアアアッッッ!?】
痛い、痛い、痛い‥‥‥‥痛い。ただひたすらに痛かった。一体何故これほどまでに全身が痛いんだ!?
『‥‥‥‥不完全な状態で『鬼の力』を全身に行き渡らせた結果、体に強烈な負荷がかかりました。本来、体の作り変えは意識への浸食を抑えることと共に体への負荷が無いようにすることが目的でした。ですが、それによって力の伝わりが悪くなっては意味がないので、その辺りを考慮して作り変えていました。現在の時点では力の伝わりを優先していたため、力自体は以前に比べれば随分と向上させることが出来ました。ですが、負荷に関しては今だ、手付かずでした。予定では来週頃にそちらに取り掛かり、二週間後を持って全行程が完了予定でした。ですので現在は使用するたびに痛みが出る状況です。‥‥‥‥10秒と最初に設定したのは、それを越えると解除後のフィードバックに耐えれない、と判断したからです。ですが、想定外のこともありました。まさか、『鬼の力』が発動している最中であれば、痛みに対して鈍感になる、と言うのは想定していませんでした。それで戦闘中には痛みにより、行動を阻害する要因がなかったようですね。ただ、それにより、なお一層フィードバックの際の揺り戻しが酷い状況の様ですね。今後はその点も見直さないといけませんね。追加仕様ですね、これは残業で対応ですかね‥‥‥‥』
ソフトさんの説明が頭に届くが、そんな事に意識を割くことが出来ない。全身に走る痛みが思考を邪魔する。痛いくらいなんだと、思っていたが、これは想像以上だ。‥‥‥‥もう、ダメだ。
意識を失い、目の前が真っ白になる。体の自由は効かない、これ以上は体を支えることは出来ない。このまま倒れ込めば、更に痛いだろうな‥‥‥‥そんな事を考えながら、ゆっくりと倒れ込んでいく。
‥‥‥‥だが、途中で倒れ込むのが止まった。ただ、今の私には何が起こったのか、理解することは出来なかった。考えるよりも先に意識が落ちた。
side デュバリィ
何ですの!? 何ですの!? 何なんですの、アレは!? 私の目に映ったのは、ハードの変貌した姿でした。先程までの戦いでハードとリィン・シュバルツァーの戦いは序盤はハードが圧倒していましたわ。二人の力量を知る私からすれば、それは当然の事だと思いましたわ。結社の執行者にして、マスターより槍の手ほどきを受けたハードを相手に私と同等‥‥‥‥いえ、私に少し劣る程度の剣士が叶う敵うわけがありませんわ。当初はそう思っていました。ですがリィン・シュバルツァーが盛り返しだした時から、イヤな予感がしていましたわ。
ハードが負けるとは思っていませんでしたが、体調は今だ万全には程遠い、ということが懸念でしたわ。私の懸念はイヤな形で当たってしまいました。あのハードがリィン・シュバルツァー如きに手こずりだしてしまった。ハードが万全でさえあれば‥‥‥‥そう思わなくもないですが、それ以上にこのままの状況が続けば‥‥‥‥確実に『鬼の力』を使うと確信していました。マスターに釘を刺された以上、使うはずがない‥‥‥‥何てハードに限っては何の気休めにもなりませんわ。そして、いややっぱり、使いやがりましたわ、あのバカは!
ですが、これまで見た『鬼の力』とは違いの規模と安定感が段違いの様に思いましたわ。そしてその力を持って、10秒も経たないうちにリィン・シュバルツァーを完膚なきまでに叩きのめした。何が起こったのか、目で追うことが出来ない程に速く、力強かった。漸く止まったと思ったら、槍が黒く染まり、禍々しさがどんどん増していった。まるでマクバーンの『アングバール』のような変化でしたわ。その直後、また私の視界から消え、次の瞬間、足場が大きく揺れた。
「な、なんですの!?」
足場が大きく揺れたため、ジッとその場で堪えて収まるのを待った。
【グアアアアアアアアッッッ!?】
今度はうめき声が聞こえて、其方を見るとハードがいて、その場で震え出して、何かをこらえているようでしたわ。今度は何ですの!? 思わずそんな声を上げようとしましたが、そんな事を考えている余裕がなくなった。ハードが倒れようとしていたからですわ。
私は思わずハードの下に駆けつけて、倒れ込む前に抱えることは出来ました。ですが、大柄な男性と言う事で非常に重いですわ。さっさと立ち上がれですわ、そう思い、押し返して気づいた、気を失っている、と。戦闘中に気を失うとはまた厄介事を起こしやがりましたわね。えーい、仕方ないですわ。
「アイネス! エンネア!」
私の声に従い、二人がやってきましたわ。とりあえず、ハードがこんな状況では、戦力としては到底計算できませんわ。それに、ここから先ハードを守りながら戦わないとなると、最悪一人は戦力を割かないといけませんわ。
「《社畜》を連れて下がりなさい」
「! マスター!」
私が思考を巡らせていると、マスターが私たちの前に立ち、そう告げられた。
「もう十分に場に闘気が満ちています。後は神機を起動させればいいだけです。その子を連れてこの場を離れなさい」
「‥‥で、ですが‥‥」
私がマスターのご指示に悩んでいると、急にハードが軽くなった、アイネスがハードを引き上げ、手を貸してくれていた。
「行くぞ、デュバリィ」
「マスターのご指示よ、こんな状態の彼をこのままにしておけないわ」
「アイネス、エンネア‥‥‥‥マスター、我ら鉄機隊、前線を離れます」
二人の顔を見て、そして意識を失っているハードを見て、この場を引き上げることを決め、マスターの許可を改めていただくことにした。
「許可します。‥‥‥‥その子の事、お願いしますね」
あくまで、形式上の返答ではあった。だが、最後の言葉には心配気な雰囲気があった。
「はい、お任せください。‥‥‥‥本部まで戻りますわよ!」
私は心配気なマスターを少しでも、ご安心頂けるよう、精一杯の返答をさせていただいた。
私たちはハードを連れ、転移陣を起動し、本部まで戻ることにした。
全く、当初の予定とは大きく食い違うことになりましたわね。後で覚えておけ、ですわ。
side out
ありがとうございました。