―――七耀暦1206年7月15日 帝都ヘイムダル
帝都の地下、そこには真っ赤なプレロマ草が咲いていた。
この現状を見ると、どうやら時期は近いようだ。
周囲の魔力も高まっている。‥‥‥‥ということは、出てくるか。
「‥‥気を付けろ。来るぞ」
周囲の魔力の高まりを感じて、全員に警戒を促した。
すると、姿を現したのは、大きな存在―――魔煌兵だ。
重量タイプ、魔煌兵の中でもパワー重視のようだ。武器は手に持つ鉄球のようだ。鉄球には鎖が付いていてその根元は右手に有った。
なるほど、鉄球を右手の持ち手で操作して振り回したり、攻撃してくるのだろう。攻撃範囲は近距離から中距離と見るべきか。‥‥‥‥となると、距離を取っての攻撃か、掻い潜っての攻撃を行うのがいいだろう。
だが、タイミングや動きが未だ分からない。ここは情報収集を行うのがいいか‥‥‥‥
「全員、距離を取れ! 相手の出方を伺う」
私の指示に従い、全員が一端後方に下がって距離を取った。
すると、魔煌兵は右手を勢いよく振り回すと、その動きに追随して鉄球が飛んでくる。
「下がれ!」
思いの外、遠くまで鉄球が届く様で、当初下がらせた距離以上に鉄球が飛んできた。
指示を即座に出した結果、ただ一人を除いて回避が間に合った。
「ッ! クラウソラス! ぐっ!?」
アルティナが回避が間に合わなかった。小さい体躯、子供の身体能力では距離を取ろうとしても、取れる距離が不十分だった。
「アルティナ、無事か!?」
「っ‥‥はい、大丈夫です」
幸いクラウソラスの召喚が間に合い、大事には至っていない。だが、想定以上の距離が必要なようだ。
「ユウナ、アルティナ、ミュゼは後方からの射撃、リィン、クルト、アッシュは攻撃を掻い潜って攻撃を行え」
「ああ。任せろ」
「「「「「はい!」」」」」
リィンが勢いよく斬りかかる。一撃、二撃と攻撃を加えていく。それにクルト、アッシュと攻撃を加えていく。
後方からの射撃を行うユウナ、アルティナ、ミュゼの三人。大きなダメージを与えられないが、着実にダメージを蓄積していく。
時間は掛かるだろうが、確実に倒すことは出来るだろう。だが、事はそううまくいかなかった。
「‥‥自己修復か」
魔煌兵の傷が自然と直っていく。
この地に満ちるマナを吸い上げ、自己修復に回しているということか。となると、この地のマナを全て消し去るか、抑え込まなければ、魔煌兵が直り続ける。
そうなると、こちらの方が不利になってくる。疲労や物資の消耗がある以上、長期戦では倒しきれない。
あの魔煌兵の自己修復を封じることが出来ないとなれば‥‥‥‥一気に攻撃で潰すしかない。
‥‥‥‥だが、それは難しい。
リィン、クルト、アッシュの攻撃だけでは自己修復の速度に上回れない。ユウナ、アルティナ、ミュゼの後方からの射撃では然したる成果は上げれない。‥‥‥‥手が、足りない。どうするべきだ‥‥‥‥
「ハードさん、アタシ行きます!!」
「っ!? 待て、ユウナ」
ユウナは私の指示を無視して、自己判断で近距離からの攻撃を行うべく、魔煌兵に向かっていく。
ユウナの行動、それは焦りだ。現状を打破しようと考え、後方からの射撃から近距離への攻撃を行い、早期決着を狙ったものだ。
理解は出来る。だが、それを私が指示しなかったのは‥‥‥‥
『WOOOO!!!』
魔煌兵の行動を抑制したかったからだ。
ユウナの散弾での攻撃はダメージというよりも、目くらましの要因が有った。魔煌兵にさしてダメージがあるわけではないが、遅延(ディレイ)の役割を担っていた。
そのユウナが離れた以上、魔煌兵の攻撃は苛烈さを増す。
「チィッ!?」
「クッ!!」
魔煌兵が振り回す鉄球が前衛の3人に襲い掛かる。攻撃自体は単調で躱すのは問題ない。だが、鉄球が地を叩き、石畳を砕いた際に発生する石礫が襲い掛かる。
リィンは石礫も見越して距離を取ってダメージを最小限に留めている。だが、アッシュとクルトは少なくないダメージを受けている。
即座に離脱を必要とするダメージではない。だが、このまま続けば離脱は必至になるのは明白だ。
「‥‥ミュゼ、アルティナ、二人の回復を行え!」
今ここで脱落者が増えれば、戦況の打破は出来ない。
最早、後方からの攻撃が意味を成さないのであれば、回復役に回した方がいい。
だが、そうなると前線を立て直さないと‥‥‥‥
「リィン! 攻撃よりも回避に専念しろ。可能な限り、二人が回復するまで時間を稼げ!」
リィンに指示が伝わり、攻撃を回避するように変わった。
攻撃の手数が減ったことで、なお一層倒せる見込みが減ったことになる。
「アタシの‥‥せいで‥‥」
「いや、これは私の失態だ」
この現状を引き起こしたのはユウナの焦りによるものだ。
だが、これがユウナを責められるべきことではない。この現状は‥‥‥‥指揮をした私にある。
確かにユウナの独断専行があった。だが、ユウナに独断専行を走らせた、不安を与えた、現状に希望が持てなかった、それらは指揮官が原因だ。
「でも‥‥」
「いいか、ユウナ。お前達の上官はリィンであり、この場においての指揮官は私だ。ならば責任を負うべきは私とリィンだ」
「‥‥」
「上官や指揮官というのは責任を取るためにある。そして、責任を果たす者が社会人―――大人だ。君はまだ大人ではない。学生―――子供だ。子供の本分は学ぶこと、大人の本分は責任を果たすことだ。だから‥‥‥‥果たそう」
「ハードさん‥‥」
後輩に要らぬ責任を感じさせた。
私がまだ彼女くらいの頃、私はずっとあの方に―――トワ会長に、支えられていた。後輩の私を教え、導き、育ててくださった。
先輩とは、トワ会長の様に後輩を教え、導き、育てる者でなければならない。
「大丈夫だ、ユウナ」
「ハード、さん‥‥」
「安心しろ‥‥私には力がある。だから、大丈夫だ」
ユウナに声を掛けてから、魔煌兵に向かって進んでいく。‥‥‥‥ああ、そうだ。一つ忘れていた。
「ユウナ・クロフォード」
「! はい!」
「君に一つ、任務を与える」
「に、んむ?」
「コレを‥‥守ってくれ」
ウクレレをユウナの前に突き出した。
「これは‥‥私の姉代わりの人の大切な物だ。兄代わりの人が勝手に持ってきて、私に押し付けた。ここまでの道中、役に立ったが、ここでの戦いでは手に余る。故に、君に頼む。私の大切な物を‥‥‥‥守ってくれないか?」
「え‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
ユウナの目を見る。真っ直ぐ、逸らさずに。
ユウナは失敗した。独断専行、責任は私とリィンにあると言っても、ユウナは納得しない。彼女は熱い魂を持っている。かつて私に一撃を与えた彼女がこの程度の失敗でめげるわけがない。
私はユウナを認めている。敵としても、後輩としても‥‥‥‥
ならば、私の期待に応えて見せろ!
「ユウナ・クロフォード! 我がウクレレをこの戦闘が終わるまで守り抜け! ‥‥‥‥いいな?」
「! イエス・コマンダー!!」
ビシッと直立不動からの見事な敬礼、彼女は覚悟を示した。
「そうだ、それでいい‥‥」
私はウクレレをユウナに手渡した。
そして、レクターさんから預かった剣を引き抜いた。
「スゥー‥‥ハァァァァァ‥‥」
空気を体に取り込み、大きく吐いた。自身の体に熱を循環させる。そして、自身の熱と共に闘気を高め、戦闘力を高めていく。
‥‥‥‥別段、目の前の魔煌兵程度であれば、別にそれほど力を発揮しなくても問題ない。だが、
「私は君達の先輩だからな。見せてやろう‥‥‥‥先輩の力を!」
後輩の前で多少はいいところを見せなければな。
私は魔煌兵に向かって歩いて行く。戦況はリィン一人で戦っていて、援護はない。
急ぐ必要があるのは分かっているが、今のリィンがやられる訳がない、と確信している。
そして、魔煌兵に向かう傍ら、ここまでの道中を振り返り、思わず自嘲していた。
私は‥‥‥‥何をしているんだろうな?
彼らの敵だと言いながら、行動は全て彼らを助けるために行動していた。
最初にユウナを助けたのは、クロスベルのとある家族を思い出したからだ。
クロフォード家の人々、マシューさん、リナさん、ケンとナナの双子の顔が頭をよぎった。
僅かな邂逅、一月くらいしかない関係だったが、隣に部屋を借りた私たちに良くしてくれた。ユウナの事をよく聞かされた。大切に思っていることが非常に伝わってきた。
だから、ユウナが怪我をすれば悲しむだろう、命を落とせば嘆くだろう、それが良く分かるからこそ、思わず助けていた。
父の思い、母の思い、その思いを知った。だからこそ、子を大切に思う親の気持ちが分かってしまった。だから、見捨てる事は出来なかった。
我ながら、意気地のない事だ。切り捨てる過去に未だ、縋っている。
どうしたいのか、未だ決まっていない。あのファイルについても自身の中で整理が付いていない。
今ここにいるのは誰だ? 私は誰だ? お前は一体誰なんだ?
答えは未だ出ていない。
だが、一つだけ確かなことがある。今の私には‥‥‥‥力がある。
自身のために力が必要な時は何度もあった。だが、一度として、力が足りたことはなかった。
誘拐されたときも、D∴G教団で実験されたときも、力がなかった。何も変えられなかった。
今こうして、助けることが出来るのが‥‥‥‥嬉しいのかもしれない。
今度こそ守れる、確かな絆、彼らは私―――ハード・ワークにとって、かけがえのない後輩たちだ。
私は結社《身喰らう蛇》執行者No.ⅩⅩⅠ《社畜》だ。そのことに誇りを持っている。だが、今だけは‥‥‥‥
「トールズ士官学院卒業生《元生徒会長》ハード・ワーク。いざ、参る!!」
今一度、過去の自身を取り戻そう。
side ユウナ・クロフォード
失敗した。明らかなアタシの失敗だった。
独断専行で隊列を乱した。その結果、クルト君とアッシュに必要のない負担を強いた。アルとミュゼの支援も打ち切らざるを得なくなった。今では、リィン教官一人で戦っている。
ここまでの道中、ずっとハードさんが指揮してくれていた。あの人を信じて従えば、問題なかった。この場でも、従っておけばハードさんがきっと打開策を考えてくれたはずだ。なのに‥‥‥‥アタシが失敗したせいで、台無しにした。
なのに、ハードさんはアタシを責めなかった。それどころか、ハードさんの責任だと、庇ってくれた。責任を果たすと言って剣を抜いて、戦おうとしてくれている。
ハードさんが剣を抜いたところは今まで見たことはない。リィン教官が道中で教えてくれたけど、リィン教官が学生時代唯一勝てなかった人らしい。
学業でも、武芸でも、人望でも、何一つ勝てる要素がない、と笑って言っていた。面白がっている訳ではなく、純然たる事実として受け入れていて、自身の楽しかった過去として話してくれた。
何をやるか分からないし、突拍子もないことをするし、人の想像の斜め上に突き抜けていくけど、誰よりも頼りになる奴だ、俺もいつかアイツに追いつきたいと思っている、とリィン教官は教えてくれた。
その様子が何処かいつもと違ったように見えた。Ⅶ組の人達の事を仲間だと、友だと、横並びの関係で語っていたリィン教官がハードさんに関してだけは、先に行く背を懸命に追いかけているように見えた。
「‥‥遠いな‥‥」
ハードさんが魔煌兵に向かっていく背を見て、思ってしまった。
Ⅶ組の先輩達よりも、リィン教官よりも、アタシの憧れである特務支援課よりも、ずっとハードさんが遠くに思えた。
side out
side リィン・シュバルツァー
「ハァッ! セィッ!! ハァァァァァ‥‥『螺旋撃!!!』」
クルトとアッシュが戦線を離れ、遠距離支援が途絶えた。戦況は不利と言うしかない。だが、ここで倒れる訳にはいかない。
攻撃のスキを突き、剣を振るう。だが、ダメージを与えても魔煌兵の傷は直っていく。
‥‥ここは一度引くしかないかもしれない。俺が引き付けている間に生徒達を撤退させる、俺が指示を出せればいいが、今は難しい。だが、ハードが居る。アイツなら、この現状を冷静に見極め、生徒達を撤退させることが出来る。なら‥‥‥‥
「ハァァァァァ‥‥」
神気合一を使い、一気に攻勢をかける。倒せるとは言い切れないが、足止めは出来る。後はハードを信じればいい。
「『神気‥‥』」
「その必要はない」
耳に届く声に思わず振り向いた。そこには赤いアロハシャツを着たハードが剣を引き抜き、俺を一瞬で追い抜き、魔煌兵に斬りかかった。
「ハアッ!!」
ハードの剛の斬撃が魔煌兵に叩き込まれた。
魔煌兵がたたらを踏み、のけぞった。
「ふぅ‥‥借り物の剣ではこの程度か」
剣を見つめ、困り気な表情を浮かべているハードに俺は思わず駆け寄った。
「ハード、どういうことだ!? この現状、お前だったら分かっているだろう!」
「ああ、分かっている」
「なら‥‥」
「そうだ‥‥‥‥我々でアイツを倒さなくてはならない。責任を果たさなければならないな」
「どういう意味だ?」
「此度の戦闘において、劣勢に陥ったのはユウナの独断専行が発端だ」
「それは‥‥‥‥」
「だが、ユウナがそういう行動に走ったのは、私達大人が彼女達を追い詰めたからだ」
「追い詰めた‥‥」
ハードの言葉を考えている最中、魔煌兵が体勢を立て直し、傷が直っていく。
その現状でも、ハードは言葉を止めない。
「あの魔煌兵を相手に私達はどういう対応を取るか決めかねた。私は指揮官として、リィンは上官、いや教官として、対応を明確に示すべきだった。だが、それが遅れた。判断が遅かった。故にユウナは自分なりに出来る方法で打開しようとした。私はユウナの行動は間違いではなかったと思っている。結果としては間違いとなったが、行動としては間違いではなかった。だから現状に責があるとすれば、我々だ」
「‥‥その通りだ」
ハードの言葉に頷くしかなかった。自身の不甲斐なさを突き付けられた。
教官でありながら、ハードに頼っていた。アイツなら確かな指揮をしてくれると、心のどこかで甘えていた。その甘えが、俺がしなければならなかった、生徒達を支えることを疎かにした。
‥‥‥‥指導者失格だ。
「落ち込んでいる暇はないぞ、リィン」
魔煌兵は立ちあがり、こちらを見据えて、今にも襲い掛かってきそうな様子だ。
だが、それを見ているハードは何も揺らいでいない。
「此度の失態、我々は自身の未熟を痛感した。指揮官としての役目を担えなかった私と、教官としての責務を果たせなかったリィン、我々は今回の失態を反省し、次に活かさなければならない。だからこそ‥‥‥‥ここで、終わる訳にはいかんのだ」
「‥‥‥‥ああ、その通りだ!」
「フッ、それでいい。‥‥戦況を整理する。敵は魔煌兵一体、大型のパワータイプであり、自己修復を有している。この場にいる限り再生し続ける、と見ていい。さて、どうする?」
「‥‥決まっている。‥‥‥‥再生するよりも早く、圧倒的なダメージを与え、粉砕する!!」
「フッ‥‥‥‥正解だ!!」
ハードの言葉と共に、俺達は一気に魔煌兵に迫る。
俺の現状出せる最高速度で魔煌兵に迫る中、視界にハードの背が映る。そして、ハードの方が一瞬先に魔煌兵の右足に斬りかかった。
遅れて俺が斬撃を放ち、魔煌兵の左足に斬りかかる。
「ハッ、遅いぞリィン!」
「くっ、なら次は俺が先だ!」
「させるか!」
次の攻撃は俺が先に届いた。
「ハハハ‥‥いいぞ、それでこそだ!」
ハードと共にどちらが早く攻撃できるか、競い合った。
懐かしい気がした。学生時代に共に街道の魔獣駆除を行った時も、こうやって互いに競い合っていた。
あれから、それほど長い時が経ったわけではない。だが、今とあの時ではお互いに違う道を歩んでいた。
今のハードが何処で、何をしているのか、俺は何も知らない。
結社と関係があるのか、帝国政府と関係があるのか、それとも全くの無関係なのか、何一つ俺は知らない。
俺は知りたいと、思っている。だが‥‥‥‥知りたくないとも、思っている。知れば、この関係が終わってしまうのではないかと、危惧している。
Ⅶ組ではないハードと俺を繋ぐものは、トールズ士官学院だけだ。卒業後に再会したパトリックやムンク達と同じく再び縁を繋げられるならいいが、もし切れてしまえば‥‥‥‥そう思ってしまうと、どうしても二の足を踏んでしまう。
俺はハードの事を何も知らない。ハードの出身地も、家族の事も、どうやって暮らしてきたのか、何も知らない。聞いてみたいと思ったが、聞けなかった。
俺も自分の事を誰かに話せるような生い立ちじゃなかった。特にハードと知り合ったのは、ギリアス・オズボーンの実子であることが分かった時期だった。だから、尚の事、自身の事を話せなかった。
結局、俺はハードという男を何一つ知らずに、卒業した。
そのことを今更後悔するなんて、思いもしなかった。だから、この戦いが終わったら、一度話をしてみよう。
何を話してみようか‥‥家族の事は定番だろう。後は、子供の頃は何をしていたのか聞いてみよう。そして、今何をしているのか、聞いてみよう。
‥‥ハードには疑念があるのは確かだ。サザーラント州でのコロッケ屋のバイトが《社畜》の分け身で生み出した、かつての結社第三柱であり、それが発覚して以降、ハードと連絡が取れなかった事。そして今再び現れ、レクターさんと親しげだった事。結社と帝国政府が敵対しているはず、だというのに、ハードの立ち位置がまるで分からない。結社に関わりがあるのか、帝国政府と関わりがあるのか、見えてこない。
だが‥‥‥‥
「ハアッ!! 何をやっている、リィン!! 戦え!!」
魔煌兵への攻撃の手が止まった俺をハードは一喝した。
今こうして共に戦うハードは紛れもなく、俺が知るハード・ワークだ。
かつての学友であり、競い合うライバルであり、俺達の先頭を行き引っ張ってくれた俺たちの代の生徒会長だ。
「! ああ、すまない!」
一度、ハッキリさせる必要がある。ミリアムやガイウスはハードが《社畜》ではないかと、疑いを持っている。二人が危惧することも分かる。だが、きっと二人の勘違いだ。それを確かめるために‥‥
「一気に決めるぞ、リィン!」
「ああ、分かっている、ハード!」
ハードと共に魔煌兵から距離を取る。
互いに並び、体勢を低くし、足に力を込める。
「下は任せる‥‥私は上をやる」
「ああ、任せろ。‥‥ハード」
「なんだ?」
「これが終わったら、話をしたいが‥‥」
「‥‥終わったら、か。‥‥いいだろう、その時は‥‥‥‥話をしよう」
その後、俺達の間に言葉はなかった。
「明鏡止水、我が太刀は静!‥‥‥見えた! ハァァァァァ『七ノ太刀・刻葉!』」
俺が魔煌兵に勢いよく斬りかかったが、未だ倒しきるには至らない。だが、問題はない。
俺が太刀を納めたと同時にハードの剣が魔煌兵の脳天に突き立てられた。
「『業滅刃!!』」
俺が斬りかかろうとしているときに、ハードは勢いよく飛び上がっていた。
魔煌兵よりも更に高い位置に達したハードは、その剣を突き立てた。
俺が魔煌兵の足に、ハードが魔煌兵の頭に、それぞれが強烈なダメージを与えた。
『WOOOO‥‥‥』
魔煌兵がゆっくりと仰向けに倒れ込む。そして‥‥霧散し、消えていった。
「‥‥‥‥」
ハードはゆっくりと剣を納めた。そして、振り向くと俺の下に歩いてくる。
俺の前に立ち、拳を突き出してくる。
俺も引き寄せられるように突き出された拳に、拳を合わせていた。
「‥‥お疲れ」
「ああ‥‥」
久しく忘れていた懐かしい衝撃が右手に走った。
ありがとうございました。