―――七耀暦1206年7月15日 帝都ヘイムダル
side リィン・シュバルツァー
魔煌兵を無事に撃破できたことを確認して、剣を納めた。
‥‥‥‥不思議な気分だ。かつては共に学び、剣を競い、そして笑い合った友と今再び肩を並べて戦った。あの時はもっと近く感じていた。だけど今は‥‥‥‥ずっと遠くに感じた。
ここにたどり着くまで、ハードが索敵を担ってくれた。
学生時代にも、類まれな身体能力を持っていたのは知っていた。目が良く、耳が良く、鼻が良く、舌が良く、全身の感覚が優れているのは知っていた。そのハードが索敵役を担ってくれたことには感謝している。おかげで、誰一人欠けることなく、万全の状態で地下から出ることが出来るだろう。
だが、しかし、腑に落ちないことが一つだけあった。ハードは‥‥‥‥これ程まで強かっただろうか‥‥‥‥
確かに学生時代から強かった。かつて凌ぎを削った好敵手、卒業して数か月の日々で、更なる成長を遂げていても、何ら不思議はない。だが、ここまで‥‥‥‥差が付いているとは、思っていなかった。
俺も数多の戦いで力を付けてきた。数か月前に比べ、更に強くなったと自負している。
だが‥‥‥‥ハードは以前より、圧倒的に強くなっていた。
かつて、剣技だけは俺の方が上だった。これだけは自信を持って言えた。
だが、ハードは持ち前の膂力と反応速度で俺の技術を上回って見せた。技術は俺で、身体能力はハードに軍配が上がり、戦績としては‥‥互角、いや、やや分が悪い、という結果だった。
そのハードに更なる技巧が加わっていた。
レイピアと呼ばれる細身の剣であれほどの剛撃を生み出すなんて、ただの力任せでは出来ない事だ。普段からレイピアを使っていたのか、と思ったが、ハードは『借り物の剣ではこの程度か』と呟いたのが聞こえた。つまり、あの剣を普段は使う事がないということ。それであの強さとは‥‥俺に同じことが出来るかと、言われると、たぶん‥‥できない。
今のハードは圧倒的な身体能力と確かな戦闘技術を持っている。
凄いと素直に感心するし、俺も負けてられないと思っている。
だが、どうしてだ‥‥ハードの戦いを思い出して見ると、その度に、頭にちらついた。
圧倒的な身体能力、多才にして卓越した技術‥‥‥‥そんな戦い方をする奴なんて、まるで‥‥‥‥
「っ!」
一瞬脳裏をよぎったのは‥‥‥‥仮面とローブを纏った存在。
サザーラントで、クロスベルで、オルディスで、幾度も刃を交えた、あの男‥‥‥‥
いや、そんな訳がない、そんな訳があるはずがない‥‥‥‥
思わず頭を振って浮かんだものを振り払うかのように、頭を振っていた。
すると、視界の端にハードの姿を捉えた。自身の手を見つめて、浮かない表情をしていた。
「ハード‥‥どうした?」
「いや‥‥問題ない。‥‥少し、周囲の様子を伺っていただけだ」
「そうか‥‥」
ハードの言葉に何処か違和感があった。
だが、何処に違和感があるのか、漠然としていて言葉に出来なかった。
□
「ハードさん、こちらを」
「ああ、ありがとう」
ハードはユウナからウクレレを受け取っていた。
「良く守ってくれた、ユウナ・クロフォード。貴公の働きに感謝する」
「はい!」
ハードの言葉にユウナはビシッとした敬礼で応えていた。
ハードの笑みを浮かべ、彼女に応えるように敬礼で返した。
「いい顔をするようになった。もう大丈夫だな」
「はい。‥‥ハードさんのおかげです」
「そうか。なら‥‥‥‥良かった」
ユウナはさっきまでとは違い、ハードと打ち解けていた。
先の戦いで、ユウナの独断専行があったそうだが、ハードが丸く収めてくれた。これじゃあ、俺が口を出すわけにはいかないな。
「でも、ハードさんって凄い強いんですね!」
「まあ、君たちよりは先輩だからな。それなりに強くないと、後輩に示しがつかない」
「いやいや、強すぎんだろ!」
アッシュの言葉に全員が何度も頷いていた。
「ってか、シュバルツァーよりもハードパイセンの方が強えぇんじゃねえのか?」
アッシュは俺を挑発するように、意地悪い笑みを浮かべて言ってきた。
「ああ、ハードの方が強いだろうな。今も、昔も、勝てないと思っているさ」
俺はその問いに苦笑いを浮かべて答えた。
「なんでぇ、詰まんねえな」
アッシュは期待した反応ではない事で、興味を失ったみたいだ。
「さて、語らいはそれまでにして、ここからどうするか決めたいが、いいだろうか?」
「ああ、すまないハード。さて‥‥‥‥とりあえず、目に映る分だけでも手分けして駆除してしまおう」
この場にプレロマ草を残しておけば、いずれまた同じ様に魔煌兵が現れる事だろう。根本的な解決策ではないが、この場に生えているプレロマ草を抜いて駆除しておけば、多少の気休めにはなるだろう。
全員に指示を出し、生徒達が動きだす中、ハードが俺に声を掛けた。
「リィン、少しいいか?」
「なんだ?」
「さっきの件、話がしたい、だったか‥‥」
「ああ、そうだ」
「なら、この辺りを駆除しながらしよう。手は動かすが、口も動かすで構わんだろう?」
「‥‥相変わらず、仕事熱心な奴だな‥‥いや、それで構わない。大した話じゃないからな」
相変わらずの仕事第一の行動に懐かしく思いつつ、俺の話を覚えていてくれたことに感謝した。
俺とハードはその場にしゃがみ込み、目に付いたプレロマ草をむしりながら、俺は口を開いた。
「さて、何から話をするべきか、まだ決まっていないんだ。‥‥ハードと久しぶりに会って、聞きたいことは色々あった。卒業してからどうしていたのか、今何処で何をしているのか、他にも色々と聞きたいことはある。なあ、その辺りから話をしてくれないか?」
「‥‥卒業してから、か‥‥」
ハードは手近なプレロマ草をむしりながら、口を開いた。
「そうだな、卒業してからすぐに研修所に送られた。そこから一月、研修を受けて、正式に配属されることになった。社内プロジェクトに参加して、3か月が経った。それくらいだな。すまないがプロジェクトの内容は話せない。企業秘密、守秘義務と言うモノがあるのでな」
「ああ‥‥分かった。なあ、ハードがコロッケ屋を始めたと聞いたんだが‥‥」
「そうだな、セントアークで始めたな」
「どうしてだ?」
「どうしてって‥‥コロッケ屋を始めたきっかけは、ただの偶然だ」
「偶然?」
「ああ。セントアークに降りた時、ミラが少々心許なかった。だから、ミラを稼ぐ方法を探していた。街道で魔獣討伐でもしてセピスを集めて換金でもしようと考えていて、街道に出たところ、一人の男性が魔獣に襲われていた。その人を助けたところ、もう一人がまだ街道沿いで魔獣に襲われているというので、その人も助けに向かった。幸い、もう一人の男性も無事に助けることが出来、邸宅に送り届けた。そこがアルトハイム伯爵家、メアリー教官のご実家だった。その日は日も暮れたので一晩泊めていただき、朝食をご馳走になった。その時に食べたポテトサラダが美味しかったから、これは売れると思った。後は販売しやすいように工夫することにした。それがコロッケを作るきっかけだ。それですぐにセントアークで販売をしようと考え、アルトハイム伯爵のご支援を受け、セントアークを納める貴族ハイアームズ侯爵家に販売の許可を得たんだ。全て、偶然が重なったに過ぎない。あの日、セントアークを訪れなければ、あの日、アルトハイム伯爵が襲われなければ、コロッケ屋をやることはなかっただろうな‥‥」
ハードは当時を振り返り、偶然だと言った。
「そうか、まあ、ちょっとした出会いで、運命なんて変わるんだろうな」
「‥‥そうだな。今日、リィンと出会ったのも単なる偶然。今の私達の立ち位置も、ただの偶然。偶然が重なり、必然となる、それを運命と呼ぶんだろう。私はそう考えている」
「そうか‥‥そうかもな‥‥」
ハードの言葉が胸に響いた。
俺がハードの言葉を考えていると、ハードは立ち上がった。
「さて、粗方片付いたな」
見るとハードの側にはプレロマ草は全て引き抜かれていた。
それに対して、俺の側には未だプレロマ草が地に根付いていた。
「口を動かすのはいいが、やるべきことはやってからだな」
「っ‥‥ああ、そうだな」
周囲を見ると生徒達はまだ、引き抜き終わっていないが、俺よりも余程多く引き抜いていた。
そして、ハードの側を見れば、俺よりもずっと多くのプレロマ草が積み上げられていた。
「やれやれ‥‥」
ハードが移動して、また再び腰を下ろす。そして、またプレロマ草を引き抜き始める。引き抜いたプレロマ草を俺が積み上げた草の山に乗せていく。
「生徒の手前、教官が一番少ないのは体分が悪いだろう。また、アッシュに突っかかられるぞ」
「申し訳ない‥‥」
「気にするな‥‥久しぶりに話せて楽しかった」
「っ! ああ、俺もだ」
ハードの何気ない優しさに、やっぱり変わっていないな、と改めて思った。
俺は何を疑っていたんだ、恥ずかしい思いだ。
ハードが強くなった事、俺よりも先を行った事、それを訝しんでいた。だが、ただの僻みだったな。
強くなったのはハードの不断の努力が有ったから、俺とは違う道を行ったから、俺はハードに置いて行かれたのかも知れない。そして、そのことを認めたくなかったのかも知れない。
俺はハードを友である前に‥‥競い合うライバルだと思っていた。
ハードは昨年、Ⅶ組として唯一残った俺に手を伸ばしてくれた恩人だった。俺に居場所を作ってくれた、そのことに感謝した。
学園でのハードは多忙を極めていた。学園の全てに関わっていた。連日連夜寝る間がないと思える程に、誰かのために尽くしてきた。だから、卒業した時、誰よりも感謝されていた。
だが、忙しいからと言って成績には決して影響は出なかった。常に学年トップの成績だった。勉強でも、実技でも他の追随を許さなかった。‥‥‥‥唯一、俺だけが実技で張り合えた。
勉強では流石にどれ程頑張っても勝てなかった。常に満点だったハードに勝つことは出来ない、唯一引き分けることが精いっぱい。たった一か所のミスで俺は負ける、そのプレッシャーに負けて何度も負けた。最後の最後で漸く引き分けることが出来たが、それがどれ程嬉しかったか、今でも良く覚えている。
そして、実技では俺の『八葉一刀流』とハードの『百式軍刀術』の武技で幾度も競った。ハードの力も反応速度も俺の上を行った。だから、極限まで集中して、ハードの力を受け流すことを覚えた。
初めて自覚したとき、奇妙な感覚に襲われた。速いのに遅い、そんな奇妙な感覚だった。
ハードの激流の様な攻撃に流れの様なものが視えた。その流れに抗うのではなく制する、そうしたらハードの攻撃を掻い潜り、俺の攻撃が届いた。
力を高めても、それこそ『神気合一』を使っても、ハードを超えることは出来ないと思った。
ハードの力を当時の俺では推し量ることは出来なかった。だが、その力は『神気合一』を使用した俺でも、決して超えられる領域ではない様に思えた。
まともにぶつかれば勝てない、だから受け流す。その結果、俺とハードの距離は近づき、そして対等に至った。
あの時は無我夢中だった。他に考えることが出来ない程、ただ只管に強くなろうとした。近づこうと試行錯誤をしていた。あの時が、一番自分が成長していると感じていた。
そして卒業後、俺はあの時ほど只管に強くなろうとしただろうか‥‥いや、ないな。
生徒達の指導が忙しい、という名目を掲げ、自身の修練を疎かにした、とは言わないが、それでも、あの時ほどの質と熱意を持てなかった。
わずか数か月、俺とハードの差が開くには十分な時間だった。その時間で、ハードは自身を更に高め、今に至った。
それが俺とハードの今の差だと思えば、当然だと納得してしまった。僻むなんて烏滸がましいことだ。
俺はハードを超えたいと思っているし、負けたくないと思っている。だから、そのためには強くならないといけない。
俺には超えなければならない者がいる、問わなければならない者がいる。その中にハードもいる。だから、俺はもっと強くならないといけない。改めてそう思った。
「これで‥‥いいだろう」
「ああ、すまない。助かったよ」
引き抜いたプレロマ草がハードが先に抜いた分とほぼ同等の量になっている。
これで、教官の面目を保て、とハードの目が言っているように思えた。
「さっきも言った。気にするな‥‥」
「ああ、ありがとう」
「さて、これからどうする?」
周囲を見れば、生徒達の周りにはプレロマ草が生えているが大分数を減らして、引き抜くのに時間はそれほどかからない様に見える。
「そうだな、後は任せてもいいだろう」
「そうか。では、少し私からも聞いておきたいことがあるが、いいだろうか?」
「ん? ああ、構わないが‥‥」
「ご両親はお元気か?」
「え? 俺の両親? ああ、卒業後に帰った際も元気だったし、最近も手紙が来たが‥‥」
思わぬハードの発言に驚きの声を上げつつ、返答するとハードは安堵の表情を浮かべた。
「そうか、それは重畳だ」
「ハードは俺の両親と会ったことがあるのか?」
「ああ、一年半前の内戦の折、ユミルを訪れた際お世話になった。当時は怪我をされていたというのにトールズの生徒と言う事で歓待も受けた。その後すぐにアイゼンガルド連峰に向かったが、その際にいくつもの物資を頂いた。落ち着いたら一度お礼に伺いたいと思ってはいたが、機会を作れず申し訳ない限りだ。だが、御壮健でなにより‥‥‥‥羨ましい限りだ」
ハードは言葉には何処か悲しさが含まれていた。
「‥‥‥‥ハードのご両親は?」
「‥‥随分と前に死別した」
「っ‥‥そうか、すまない」
「いや、構わない。二人が私に色々な物を残してくれた、誇るべき父と母だ。私にとって本当に過ぎたる親だった」
「そうか、俺も会って見たかったな。ハードの両親に‥‥」
「‥‥そうか。‥‥さて、そろそろ話は終わりにしよう。彼らも終わりのようだ」
ハードが立ち上がると、生徒達の方に歩いて行く。
「なあ、ハード。これが最後の質問なんだが‥‥」
「ん? なんだ?」
「‥‥ご両親が亡くなった後、お前はどうしてたんだ?」
「‥‥両親の友人の方が後見を務めてくれた。以後はその人が私の親代わりだった」
□
プレロマ草を処分した後、道中を引き返し始めた。
ここから地上に戻るにあたり、生徒達が先頭に立ち、後ろに俺とハードという隊列になった。
この隊列は生徒達からの提案だった。ここまでのハードのおかげで無事に奥までたどり着いたが、ここからもハードに頼るのでは自分達の成長につながらない、と言い、自分達が索敵や戦闘を行うということになった。
生徒達が自身で気づき、提案してくれたことは、素直に感心し、成長したと感じた。
「さあ、行くわよ!」
ユウナの元気な声が全員を引っ張っていく。
その声に従い、アルティナ、クルトと続き、その後ろにミュゼとアッシュが、最後尾に俺達が続いて行く。
「ハードパイセンに任せときゃ、ラクが出来るのに、アイツも馬鹿真面目だな」
「私は本来なら部外者だ。本来のあるべき形に戻った、という事だ」
「‥‥まあ、そうだな。だが、ちょうどいい」
アッシュが歩くペースを落とし、俺達の間に割り込む位置に収まった。そして、ハードに近寄り肩を組む様に腕をハードの背中に回して口を開いた。
「アンタ‥‥一体何者だ?」
アッシュがハードの目を見て、問いかける。
「何者、とは?」
「‥‥最初から、どうも胡散臭えと思っちゃいた。派手な服に、バカみてえなおもちゃ持ってるんだ。疑ってくれって言ってるようなもんだ。そのクセ、バカ強ぇ、シュバルツァーのおともだちのⅦ組のパイセンどもと比べても、その上を行ってやがる。おまけにアランドールが態々アンタを俺達に同行させて、何をやらせようとしてたのかイマイチ掴めねえ。だから、教えろや‥‥アンタが何者かよ!」
「おい、アッシュ‥‥」
俺がアッシュを止めに入ろうとすると、ハードが口を開いた。
「ふむ、答えてもいいが、ソレには‥‥‥‥毒か何か塗ってあるかね?」
ハードの言葉にイマイチ理解が出来なかった。
毒? と疑問に思った。現状、アッシュはハードの背中に腕を回している。ならその手には何かが握られている、と推察出来た。
「おい、アッシュ何を‥‥」
「別に毒とか塗ってねえさ。態々、そんな物塗らなくても、コイツで刺されたらイテェだろうが。なら、イテェ目に会う前に素直に話せば‥‥‥‥」
「そうか、なら‥‥‥‥安心して刺されてもいいな」
「は? あ、オイッ!?」
俺はアッシュを問い質そうとした。アッシュの手にはダーツが握られていて、それをハードの背に当てて、脅していた。
ハードがアッシュに問うたのは、そのダーツに毒が塗られているか、と言う事だった。アッシュはその問いに、『塗られていない』という回答をした。
そして、それを聞いたハードの行動は‥‥‥‥わざとダーツに刺されるように、急に足を止めた。
アッシュは驚いていた。当然だ、誰がどう考えても、態々刺されるような行動を取るはずがない。そんな固定概念が有った。だから、急に足を止めたハードに驚き、ダーツがハードに突き刺さった。
だが‥‥‥‥ハードは何事もなく、また歩き始めた。
「ふむ、別に聞きたいことがあるなら答えても構わないぞ。態々、こんな回りくどいことをしなくても‥‥‥‥」
「イヤイヤ‥‥オイ、アンタ今ダーツ、刺さってんだぞ!」
「ああ、刺さっているな」
「いや、普通痛がるとか、なんかリアクションあるだろう!?」
「脅していた側の言葉ではないな。なんだ、心配してくれているのか? 斜に構えて、不良気取りだが、随分と優しいな。アッシュ風に言えば、『あまちゃん』と言うのかな?」
「んだと!?」
アッシュが逆に煽られている。
今だ背中に刺さっているダーツがチラチラと視線に入ってくる。
「ってか、アンタ、痛くねえのかよ!?」
「うん?‥‥‥‥ああ、刺さってるな。まあ、注射と大差無かろう。医療行為でそれほど泣きわめく歳でもない。それに‥‥痛みにはそれ相応の経験がある。この程度では今更、何も感じないな」
ハードは背中のダーツを引き抜き、血を自身のアロハシャツの裾で拭いてから、アッシュの目の前に差し出す。
「脅すなら、もう少し工夫を凝らした方がいいな。この程度の小さい穂先では刺しても、痛みは小さい。訓練を受けた者なら恐れさえ抱かない。どうせ刺すなら頸動脈や腕、特に血管が集中している手首か、もしくは神経や腱を狙うか、後は足の大腿部をだな‥‥‥‥」
「なんで、アンタが脅しのレクチャーしてんだよ!?」
「なんでって、私が先輩で、アッシュが後輩だ。先輩が後輩に指導するのはおかしいことではないだろう?」
「‥‥いや、アンタの言動がおかしいんだよ」
アッシュは呆れながら、ハードからダーツを受け取っていた。
「さて、脅しのレクチャーはお気に召さないのなら、先程の質問にお答えした方がいいかね?」
「はあぁ~、結局話すのかよ‥‥」
アッシュは大きなため息を吐いた。
「聞いてきたのはアッシュの方だろう? まあ、お気に召す答えかどうか分からないが、私なりに真面目に答えよう。私の名前はハード・ワーク‥‥と名乗っている。年齢は20‥‥ということにしている。出身地は帝国‥‥でいいだろうか。両親とは既に死別、現在は独り身。職業は社員。最終学歴はトールズ士官学院卒。‥‥あとは何を言えばいいかね?」
「‥‥なんで、名前と歳と出身地の言い方が変なんだよ‥‥」
「ん? 仕方がなかろう。私は‥‥‥‥自身の本当の生まれというモノを知らないからな」
ハードは何でもない様な表情で、とんでもない発言をした。おまけに‥‥
「君と同じく、な。そうだろ‥‥‥‥アッシュ・カーバイド?」
ありがとうございました。