社畜の軌跡   作:あさまえいじ

53 / 54
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
今年初投稿です。


第五十二話 温度差

―――七耀暦1206年7月15日 帝都ヘイムダル

 

『即断即決ですか‥‥まあ、宿主らしいと言えばらしいですが‥‥少しくらいは躊躇いを持ってもいいのでは?』

(必要な事ですので、致し方ありません。それに時間が空き過ぎては、証拠に成り得ません。それに、この程度の傷、直ぐに治りますよ。痛覚も遮断すれば、さして行動に支障も出ませんので、躊躇う必要などありません)

 

 私は私の中にいるソフトさんと対話している。

 久しぶりに聞こえた声に、さっきは思わず戸惑ったし、思わず口に出していたほどだ。

 だが、今は久しぶりの対話に興じている暇はない。今は迅速に行動が求められている。

 

 ソフトさんとの対話で、自身のミスに気づかされた。

 私のミス、それは‥‥‥‥共和国のスパイとの戦闘で誰一人、実害が出なかった事だ。

 共和国のスパイが帝国人を傷つける前に無力化してしまった。酷な事だが、誰かが傷を負うべきだった。いや、理想を言えば、誰かは死ぬべきだった。

 

 実害が無ければ、誰も脅威には思わない。

 謎のテロリストが帝国国内で武器を振るったとしても実害がなければ、国籍不明者が不法入国してダンスを踊っていたようなものだ。

 だが、国籍不明者が持っていた武器で、帝国人が傷つけられたとしたら、どうだろうか。

 少なくとも、危険だと認識される。そして、その国籍不明者は誰か、何処の出身者か、犯人探しに躍起になるだろう。

 故に、誰かが傷つく必要があり、そして、この場においてただ一人の民間人である私が傷つく必要があった。

 確かに私は士官学校を卒業しているが、現在は軍事関係者ではなく、民間企業に勤めている身だ。

 それに比べ、他の者達は現在は学生ではあるが士官学生であり、軍事関係者だ。元と現、民と官、この要素から現在被害を被った場合、誰が一番インパクトが強いかで考えると、私になる。

 ‥‥‥‥いや、ここまではただの建前だ。ただ単に理由を探して、構築した屁理屈だ。本音は‥‥‥‥ただ単に嫌っただけだ。

 学生の彼らが、年下の、後輩である彼らが、政治的な理由で傷つく必要はない。そういう役目は、年長者の役目だ。未来ある若者に、苦渋を強いるために生きる大人にはなりたくはない、ただの自己満足だ。‥‥‥‥こんな身であるが、後輩たちの役に立てるなら、先輩として本望だ。

 

 それに、この状況は‥‥‥‥おそらく、ギリアスさんが用意したモノだろう。

 態々レクターさんが俺をリィン達と同行させた以上、何かをやらせたいのだろうと思ってはいたが、『大地の龍(ヨルムンガンド)作戦』をかぎつけたスパイを捕まえさせることだったか。

 情報を漏らしたのか、それとも漏れたのか、そこはどうでもいいが、共和国のスパイをつり出し、それを口実に『大地の龍(ヨルムンガンド)作戦』を行うことが目的だろう。

 ‥‥‥‥いや、もしかしたら、ギリアスさんの中ではそれ以上の目的が有るのかも知れない。私の浅知恵で計画を潰してしまうかもしれない以上、関与は避けるべきか‥‥‥‥いや、ギリアスさんの事だ。私がこの様に考え、行動することも計算の上かも知れない。そもそもギリアスさんから聞かされていない上、禁止もされていない。昔から関わりを禁ずられる事項であれば、前もって教えられてきた。

 かつてのリベールの事件の際は、例え何が有ろうと帝都から出ることを禁じられた。‥‥となると、この案件には関わっても問題ない、ということになる。

 では、彼のテロリスト達は‥‥‥‥私が使わせてもらっても構わないだろう。

 あのテロリストと、この『RAMDA』、うまく使えば、共和国に相応のダメージを与えることが出来るだろう。

 私の思い描くシナリオ通りに進めば、帝国の技術力向上にもつながるし、共和国の技術を引き出すことにもつながるが、周辺国家の技術力を底上げしてしまうことになる。

 だが、その程度のデメリットなど、さしてデメリットとも言えない。共和国以外の周辺国など、面倒になれば帝国の国力で真っ向から叩き潰せばいい。まあ、そうならない様に周辺国は大人しくしていることだろう。それに、大義は帝国にあるんだ。その上で歯向かうならば、それ相応の末路は用意できるだろう。

 

 さて、これで大方針は決められた。

 後は演出が必要だが、それはこの左腕の傷で十分だろう。‥‥少しずつ再生が始まっているが、腕に銃弾が入っている。この場で取り出すことが出来るが、それでは証拠に成り得ない。とりあえず、病院で銃弾の摘出を行い、その上でこの銃の弾丸と照合すれば、この銃から放たれたことには成り得るだろう。‥‥誰が撃った、ではなく、何が撃った、が重要だからな。

 やれやれ、謀略というのも面倒だな。だが、人は体面を気にする。そのためにも傷の一つや二つは必要だ。

 

 士官学生と民間人の前に共和国のスパイが負けた。これでは『RAMDA』を脅威とは思われない。

 共和国のスパイの練度不足、共和国弱し、そう見込まれる。弱兵が如何な新技術を持とうと、帝国の前では無力‥‥‥‥何て思う輩が現れかねない。

 違う、そうではない。この技術は凄まじいものだ。屋内でだけでしか使えないのか、それとも屋外でも使えるのか、その有効範囲は定かではない。

 だが、それでも『姿を隠せる』という事実一点においてだけで、その影響は、脅威は絶大だ。

 そして、この技術を作って尚、共和国はまだ良心的だったと言わざるを得ない。

 もし、この技術を持ちながら人の身に外れた行いをすることに躊躇いすら無ければ、早晩帝国は‥‥‥‥滅んでいても可笑しくはなかった。

 少なくとも私なら、この技術―――『RAMDA』を持って、共和国の首都イーディスで無差別テロを行いつつ、大統領府を襲撃し政治機構を破壊し、技術の集約されたバーゼルを破壊と情報流出を行い、煌都ラングポートを火の海にして、経済活動を停止させる。‥‥‥‥とりあえず、少し考えただけでもこれだけのことは行える。

 『RAMDA』によって姿を隠すことで、自身の背後に誰かがいるかもしれない。いや、前にいるかもしれない。いや、右だ、左だ‥‥常に誰かがいるかもしれないという心的圧迫を強いられる。

 気づけるのは、一部の達人クラスくらいだ。帝国全土で考えても‥‥多くて両手で数えられるか、少し超える程度だろうか。それくらいしか対応できない新技術を作り出した、共和国には正直脱帽だ。 

 

 今の帝国にこれと同じ技術が出来るだろうか、と問われると‥‥‥‥出来ない、とは思わないが、時間が掛かるだろうな。《黒の工房》なら技術的に確立されているが、帝国の既存技術には存在しない。

 今の帝国の技術は重工業に特化し過ぎている。ラインフォルトが帝国の発展を担ったと同時に、他国に対する軍事力を示してきた。戦車を始め、機甲兵、列車砲‥‥制圧力に特化した兵器を優先して製造開発してきた。

 だが、それらの指揮を下す人間、施設にこの技術で侵入され、破壊もしくは利用されれば、一点窮地に陥る。‥‥‥‥ハッキリと言うが、このままでは帝国の敗北だ。

 これから、時間が掛かればかかるほど、帝国は追い詰められる。『RAMDA』の量産体制が整えば、大型兵器による戦闘よりも、工作員同士の暗闘が勝敗を決定づける。情報を制する者は戦いを勝利する、昔ギリアスさんに教わった通りになるだろう。

 今の私にとって、帝国の行く末は最早どうでもいい。今の私にとって、居場所は結社だけだ。そう遠くないうちにこの地を離れることは確定している。だが‥‥‥‥この国が故郷であることに変わりはない。ましてや父母の眠るこの地を騒がす行いなど、見逃すわけにはいかない。

 帝都近郊が無事であれば、何処で血が流れようとどうとも思わない。だが、この技術では帝都で騒乱が起こる。いや、既に起きている、か。

 ならば、これが最後のご奉公として、私の持ちうる全てを使い、この驚異の技術『RAMDA』を‥‥‥‥封印させるしかあるまい。

 

「ハ、ハード!? お前、一体何を考えているんだ!?」

 

 リィンの声が耳に入ってきた。

 少し深く考え過ぎていた様で、周囲の状況を疎かにしていた。

 

「‥‥‥‥帝国の未来について考えていた」

 

 この技術、いや水面下で行われている暗闘を含め、帝国に迫りくる脅威の把握と対抗策、その他諸々考えることは多い。ほんの少しの時間でもあれば、其方に思考を割かなければ、計算が追いつかない。つくづく、国家運営と言うモノは面倒極まりないな。一つの学園でヒイヒイ言っていたのに、ギリアスさんは平然と国家運営を行っているとは、やはりギリアスさんは怪物だな。

 

「ああ、もう‥‥お前は本当に‥‥」

 

 リィンの問いかけに、私は自身の考えを集約した答えを返したが、リィンにはお気に召さなかったようだ。

 不満、というよりも、「コイツ何言ってんだ?」みたいな顔をして、苦悶の表情を浮かべていた。

 ‥‥どうやら信じてもらえなかったようだ。信用ないな‥‥

 

「それよりも、早く傷の手当てをした方が‥‥」

 

 リィンが私の左腕に手を伸ばしてくる。

 

「不要だ」

 

 私は伸びてくるリィンの手を振り払った。

 腕の傷は既に再生が始まっている。今はシャツの袖で隠れて見えていないが、手当をしようとすれば丸わかりだ。バレる訳にはいかない。少なくとも、今はまだ‥‥‥‥

 

「ハード‥‥」

 

 リィンの表情は驚きに満ちている。それは私が手を振り払ったからか、それとも‥‥気づかれたか‥‥

 

「治療くらい必要であれば自分でする。私に構う必要はない、其方は其方でやりたいようにすればいい」

 

 私はテロリストの方に指を差して言った。

 リィン達の希望に沿うように態々、スパイどもを活かしておく算段を付けたんだ。精々有効に活用してくれ。

 それに、その行動は私の、いやギリアスさんの希望にも沿う。

 『心優しき帝国の英雄《灰の騎士》が突如襲ってきたテロリストから民間人を守りながら打倒し、傷の手当まで行った』

 人道的な英雄譚として、またリィンの価値が上がる。後の世に必要なのは、優秀な政治家よりも分かりやすい英雄だ。旗印となる者が必要になる。‥‥いずれその時が来る。

 

「いや、だがお前の方も‥‥」

「何度も言わせるな、不要だ。それよりも少し考えることができた。其方の治療が終わるまで話し掛けるな」

「ぁ‥‥」

 

 尚もこちらを気に掛けるリィンの察しの悪さに、煩わしさを覚え、私は一人、少し離れたところで腰を下ろし、目を瞑った。

 整理すること、思案すること、少しでも時間が欲しい。時間が無いんだから‥‥

 

『宿主、作戦の再確認ですが‥‥』

 

 自身の中にいるソフトさんの声が聞こえ、其方に意識を集中させるために、目を閉じた。

 私はソフトさんと相談して、共和国に如何にしてダメージを与えるべきか、協議を始めた。

 

 

side リィン・シュバルツァー

 

 ハードが一人壁に寄りかかり、肩の治療も行わず、目を閉じた。

 痛みに堪えているのか、それともまた別の何かなのか、分からない。だが、本来ならハードの治療を強引にでもするべきなのに‥‥‥‥踏み込むことが出来なかった。

 俺は自身の手を見て、先程ハードに手を振り払われたことを思い出していた。

 明確な拒絶だった。アイツがここまで明確な拒絶を示したことは‥‥‥‥記憶になかった。

 

「あの‥‥リィン教官‥‥」 

「ぁ‥‥」

 

 ユウナが俺に声を掛けた。

 ユウナの後ろにいる生徒達も俺を見て、どうすればいいのか、判断に困っていた。

 

「‥‥今は、彼らの応急処置をしよう」

「でも‥‥」

 

 ユウナはハードの様子を伺うように視線を向けながら、俺の指示に従うべきか決めかねていた。

 

「いいから、今は出来ることを迅速に行おう。ハードが一度口にした以上、覆すとは思えないしな‥‥」

 

 ユウナは少し悩み、応急処置のために彼らの下に向かう。ユウナの後に続き、生徒達は負傷者の下で応急処置に取り掛かろうとしていた。ただ、一人を除いて‥‥‥‥

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 それはミュゼだった。

 ミュゼは何かを考え込んでいるようで、目を閉じて、小さな声を口から漏れ出していた。

 

「何故腕を撃ったのかしら‥‥そこの意図は‥‥謎のテロリスト‥‥共和国のスパイから言い直したのは‥‥国家間への影響‥‥共和国との戦争を避ける‥‥違う‥‥となると狙いは‥‥」

 

 俺がミュゼに声を掛けようと近づくと、ミュゼの言葉が微かに聞こえてきた。その言葉からミュゼはハードの行動について考えているようだった。だが‥‥

 

「‥‥ぁ‥‥」

「ミュゼ!?」

 

 ミュゼの体が急にふらついた。俺は咄嗟に倒れそうになったミュゼを受け止めた。

 

「はぁはぁ‥‥リィン、教官‥‥」

 

 ミュゼの息は荒く、体調が悪い様に見えた。

 先程までは問題なかった。ではどうして、先程のハードの光景が衝撃的だったからか?

 

「ミュゼ! 大丈夫か?」

「はぁはぁ‥‥ええ、少し立ち眩みがしまして‥‥少し休ませていただいても宜しいでしょうか?」

「ああ、それは構わないが‥‥」

 

 ミュゼはその場で座り込んだ。

 出来れば寝かせてやれればいいんだが、この場ではそうもいかない。とりあえずミュゼを支えるように俺も腰を下ろした。

 

「ハードさんと‥‥何を話していたんですか?」

「ん?」

 

 ミュゼは座りながら俺に話しかけてきた。

 ミュゼに問われ、俺は先程のやりとりを思い出して答えた。

 

「『何考えているんだ!』って聞いたら、『帝国の未来について考えていた』と答えられた。全くアイツの事は相変わらず良く分からないな‥‥」

「‥‥帝国の、未来‥‥‥‥‥‥そうですか。‥‥少し、困ったことになりそうですわね‥‥‥‥」

 

 ミュゼの呟きが聞こえた。

 

「困ったこと? アイツの言動に困ることなんて今更だが‥‥」

「フフッ、いえ、言葉通りの意味ではありませんわ。それにあの方の選択は何時だって常に正解を導き出してきた、ならこの行動にも正解に至る道があるはずです。でも、それが見えない。只人には見えない、見ることが出来ない、更なる高みから物事を見ている。故にあの人にとって腕一本を失うよりも価値のある結果を得ようとしているのかもしれません」

「腕一本よりも価値のあるモノ‥‥アイツは本当にそんな事を考えて‥‥だが、一体それは‥‥」

「それはハードさんが口に出したのではないですか?」

「え?」

「『帝国の未来』、そのために己の腕を撃ったんでしょう。私では決して思いつかない、思いついても実行できない、そんな方法で帝国の未来を守る。‥‥‥‥怖い人です」

 

 ミュゼの体が震えていた。

 

「ミュゼ、君は一体何を言って‥‥」

「リィン教官、終わりました」

 

 俺がミュゼに問いかけるよりも前に、ユウナ達の応急処置が終わり、俺の下に戻ってきた。

 

「あらあら、折角のリィン教官との逢引きも終わりですか。寂しいですわ」

「ミュゼ! アンタねぇー!!」

 

 ミュゼは立ち上がると、いつもの調子で振舞っていた。だが、先程の様子が頭に残った。

 

「教官、一応の応急処置は完了しました」

「ああ、随分と早かったな」

「まあ、一か所しか傷がなかったからな。‥‥ちょっとあり得ねえけど‥‥」

 

 俺の言葉にアッシュが歯切れの悪い答え方をした。

 

「‥‥マシンガンを連射していたのに、傷が一か所だけ‥‥寸分のブレなく同じ場所を意図的に狙って見せた。もう今更驚きませんけどね」

「防弾装備の上から連続で同じ個所に撃ち込んだことで、一時的なショック状態を起こして、今も意識を失っているみたいです。今更ですけど、ちょっと理解不能です」

「そうか‥‥‥‥今更だな」

 

 生徒達から上がってくる報告に、今更、という言葉しか浮かんでこない。

 でも、これで応急処置は終わった。ミュゼの事は気になるが、今はハードの方が先だ。

 俺がハードに声を掛けようとしたとき、

 

『pipipi‥‥』

 

 ARCUSが鳴りだした。

 

『よう、シュバルツァー。そっちはどうよ、ハードがいるから、大分進展が有ったんじゃないのか?』

 

 通信に出ると、相手はレクターさんだった。

 

「レクターさん、こっちは‥‥‥‥」

 

 俺が答えようとすると、背後から気配を感じて振り返るとそこにはハードが立っていた。そして、俺の手からARCUSと取り上げた。

 

「あっ!? オイ!」

「ちょっと借りる。どうも、レクターさん。早速ですか、これは何処までが仕込みだったんですか?」

『おー、坊ちゃん、お疲れ様です。で、何が仕込みと思われているんですかね?』

「態々情報を漏らしたのか、それとも漏れたのか、そこにはさして興味はありません。ですが、敢えてどこかしらからネズミが入り込む様にしたのは‥‥‥‥後の仕込みのためですかね?」

『‥‥‥‥まあ、オッサンの仕込みではあるな。だけど、まあ、今回は別に俺に仕込みの意志はねえんだけどな‥‥』

「そうですか、ならそれを見越して仕込んできたかな‥‥それとも後の事を考えて動け、と言う意思か‥‥‥‥まあいいでしょう。とりあえず、あの人の思惑に沿うか分かりませんが、私なりの考えて動く、を示しましょう」

『ほう、坊ちゃんが一体何をお考えなんですかね‥‥』

「フフ、ちょっと共和国には貧乏くじを引いてもらおうと思っただけですよ。とりあえず急ぎお会いしたいのですが宜しいでしょうか?」

『おう、いいぜ! じゃあ、何処で会うよ?』

「‥‥ここからなら、ヒンメル霊園で落ち合いましょう。」

『おう、いいぜ。じゃあ、待ってるぜ』

「‥‥返すぞ」

 

 通信が切れたのでハードが俺にARCUSを返してきた。

 

「‥‥ああ。だが、一体何を話して‥‥」

 

 俺の中には疑問しか湧いてこなかった。

 何を聞けば、いや、何から聞けばいいのか、頭が追いつかない。

 だが、俺の問いに答えられることはなかった。

 

「気にする必要はない。こちらの事情だ、そちらには関係がない」

「っ! 関係ないだと!?」

「ああ、お前達はそのままでいればいい」

「‥‥そのまま‥‥」

「そんな事よりも、次に行く場所が決まった、急ぐぞ。それを持って、な」

 

 ハードはスパイたちを指差した。

 スパイたちを連れて、先程話していたヒンメル霊園まで向かうようだ。

 

「だが、ヒンメル霊園に向かうにしても、一度地上に上がる必要が‥‥」

「不要だ」

 

 俺の言葉を即座にハードは切り捨てた。

 

「この地下は帝国の至る所に繋がっている。当然、ヒンメル霊園への道もある。急ぐぞ、状況は刻一刻と変化している」

「あ、ああ‥‥みんなもいいか?」

 

 生徒達は多少困惑気だが、これ以上ハードが奇妙な行動に移る前に、事を進めた方が得策だと思ったのか、応急処置を手早く終えると、クルト、アッシュ、アルティナのクラウソラスで、運ぶことにした。

 

「では行くぞ。ああ、その()()()()()()()には最大限注意しておいた方がいいぞ。気絶した振りをして、気を伺っているかもしれないからな」

「! オイオイ、勘弁しろや‥‥」

 

 アッシュは即座に振り返って様子を見て、未だ気絶していることを確認し、ハードに悪態を付いた。

 

「ハハハ‥‥そんな風に心配するくらいなら‥‥()()にして運んだ方が余程安心できるぞ」

「‥‥ははは、笑えねえこと言うなよ‥‥」

「‥‥本音さ」

 

 

「‥‥今度はここか。はああ!!」

 

 ドガァァンッ!! という音が響き渡る。

 騒動を起こしたのはまたも‥‥ハードだ。

 音の原因は壁が砕かれたこと、それもハードの右足によるものだ。ここに至る道中で既に3度目の光景に誰も驚きはしなかった。

 ハード曰く、この地下は帝都の外にも繋がっていて、最短距離を進めばそれほど時間を掛けることなくヒンメル霊園に到着することが出来るそうだ。

 だが、その最短距離という概念に、邪魔な壁を破壊することが含まれているのは、本当に最短が過ぎるのではないかと思ってしまう。

 

「‥‥なんだか、慣れてきたな‥‥」

「‥‥僕もだ‥‥」

 

 ハードの突拍子もない行動に感覚がマヒしてきた様で、生徒達は驚かなくなっていった。

 ユウナとクルトのつぶやきに、誰もが心の中で頷いた、気がした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。