―――七耀暦1206年4月22日 夜 南サザーランド街道・演習地
私は仮面とローブを纏い、正体を隠しながら戦い、その結果が目前にある。
私の目前には倒れ伏す、トールズ士官学院第二分校の教官、ランディ・オルランド、ミハエル・アーヴィング、そして‥‥‥リィン・シュバルツァー。
デュバリィさんと戦うラウラ・S・アルゼイドも、シャーリィさんが戦うフィー・クラウゼルも、回復役を務めている、エリオット・クレイグも、皆こちらを見て、唖然としている。
何故このような事態になっているのか、話は少し時間を遡る。
―――七耀暦1206年4月15日 セントアーク
デュバリィさんとシャーリィさんがセントアークに来て一週間、二人は日々、結社の実験のための準備を進めている。人形兵器と猟兵で演習を行い、闘気を高めているそうだ。
そのことで、最近は少し騒ぎになりつつあるようだ。猟兵や見知らぬ魔獣だと思われて、街中の空気は不安げな人が多いように見受ける。
申し訳ないとは思う。罪悪感を感じるし、引け目があるし、セントアークの住人に情もある。だが、結社の一員として、結社の執行者である以上、この場は忠義が勝る。
私の忠誠は盟主様に捧げている。私を拾って頂いた恩がある。私に役目を与えてくれた。ならば全力で結社のために、盟主様のために、邁進する所存だ。
さて、私の決意はともかく、私の現在の作業状況は‥‥‥良くなかった。
私がデュバリィさんとシャーリィさんのために拠点を用意したのだが、気に入ってもらえなかった。
アパルトメント『ルナクレスト』にコロッケ製造で使用している部屋以外にもう一部屋取ってあった。そこを拠点にしてもらおうとしたが、最寄の情報を説明すると‥‥‥デュバリィさんがキレた。
「なんでそんな場所に拠点作ってんですの!!!!」
冗談で遊撃士協会の隣に借りたと言ったところ、デュバリィさんには本気だと思われて、本命に連れて行く前に、怒って行ってしまった。信用ないな、私。
結局、私が当面のミラを渡して、後は勝手にやるそうだ。用意した部屋は私が使っている。
そう言えば、同級生のフィー・クラウゼルと再会した。セントアークでばったり出くわした。一年ぶりだが、私のことを覚えてくれていた。お互いの近況報告とか、フィーが卒業した後のリィンの話とかで盛り上がった。私のコロッケ屋台の事も話したし、フィーも遊撃士として話せる範囲での、最近の事件とか、この辺りが危ないとか、色々情報を貰っている。
最近では私の店の常連で今日も買いに来てくれている。
「いらっしゃい。フィー」
「うん、コロッケ四つ」
「500ミラになります」
「ん」
「毎度どうも」
「サンクス」
ここ最近の朝はいつもこんな感じである。朝仕事前に買いに来て、食べながら仕事に向かっていく。
私は彼女の姿を見て思ったことがある。新商品開発が急務であると。
ここセントアークにおいて、朝や昼の急ぎの時に片手で食べながら移動している人は良く見る。私はここに商売のチャンスを見出した。コロッケに変わる新商品、いやコロッケをパンで挟んだ、コロッケパンを作ることを考えた。そうすれば、単価を上げることが出来、利益率を上げることが出来るはずだ。
しかし、ここで問題が起きた。パンに納得がいかなかった。コロッケと相性のいいパンを私の力では作れなかった。どこかに修行に行かないといけないな。‥‥‥そういえば、クロスベルに有名なパン屋があったな。
この任務が終わったら、そこに修行に行くのもいいかも知れないな。
「おーい、ハード」
私の屋台にパトリックがやって来た。たまに買いに来てくれるが、一体どうしたんだ?
「どうした、パトリック?」
「リィン達、トールズ士官学院第二分校が来週ここに来るそうだ。先程父上から教えてもらってね、ハードに早く伝えたくて来たんだよ」
「そうか、リィン達がここに来るのか。トワ先輩も一緒だろうか、こちらに来られたら挨拶に行かねばな。‥‥‥そういえば、何しに来るんだ?まだ学校に入学して一月も経っていないだろう?」
「ああ、そのことだが、ハードはここ最近のセントアーク、いやサザーランド州の事件について、知っているか?」
「猟兵とか、見たこともない魔獣が出たとかって言う話か?」
「ああ、そうだ」
「フィーから聞いてはいるが、それが関係しているのか?」
「ああ、どうやらそうらしい。‥‥‥それにしてもリィンがセントアークに来るのが来週とは、示し合わせたそうだが、驚きだな」
「示し合わせた?」
「ああ、同じ日にセントアークにエリオットが演奏会をしに来るそうだ。そして、ラウラも出稽古とかでパルムのヴァンダール流道場に来るそうだ」
「そうか、リィンも嬉しいだろうな。七組の仲間に出会えるんだし」
「実はまだリィンは七組の3人がいることを知らないそうだ。来週エリオットが連絡する手はずらしいぞ。フィーから聞いたから間違いないだろう」
「なんだ、知らないのか。まあ、多少のサプライズが有った方がいいだろうな。‥‥‥しかし、リィンともう会えるとは思わなかったな。卒業して二か月か、思いの外、早かったな」
「そうだな、私も同じ気分だな。どうせリィンが来るんだったら、トールズ士官学院卒業生で同窓会みたいなものがしたいが、ハードはどうだ。同窓会」
「そうだな、お互い時間が合えば、そういうのもやってみたいな」
私はパトリックからリィン来訪の連絡を受けて、少し憂鬱な気分になった。
□
―――七耀暦1206年4月15日 ハーメル
私はエレボニア帝国とリベール王国との国境近くにある廃村、ハーメルにやって来た。
何故、私がハーメルに来ているかと言うと、デュバリィさんとシャーリィさんが拠点を作ったのが、この場所だからだ。
私は定時連絡と実験状況を聞くために、拠点にやって来た。
「定時連絡です。ではまず‥‥‥今週の活動費の50万ミラです。使ってください。ああ、あと領収書があれば、ください。帳簿をつけておきます」
「はーい、いつもありがとうね。《社畜》のお兄さん。ガレス、領収書の束、お兄さんに渡して」
「はい、お嬢。ハード殿、こちらです。私の方で帳簿はつけておきました」
「ガレス殿、助かります」
私はガレスさんから領収書と帳簿を受け取り、感謝を伝えた。
さて、次は‥‥‥
「売り上げ増加計画第一段階、屋台の増産とパルムでの支店計画は順調です。屋台の素材はイストミア大森林から拝借していますので、材料費はタダです。分け身三体で随時生産中です。あと、パルムでの支店は土地は購入済みです。建物の素材もイストミア大森林から拝借してきますので、これもタダです。後、建物の方は私が建てます。架空の建築業者をでっちあげ、社員は全て私の分け身です。なので、これも人件費は無しに出来ます。建物完成は一週間後を予定しています」
「‥‥‥もう、お好きになさい‥‥‥ハァー」
説明が長すぎたか、デュバリィさんが疲れたようで、溜息をついている。
これで最後なので、頑張ってください。
「猟兵と人形兵器が理由で街中では不安に思う人達が増えてきています。その対応のため、帝国政府は来週、トールズ士官学院第二分校をこちらに来るそうです」
私の報告を聞いて、二人の反応は、対照的だ。
「‥‥‥そうですか。動きましたか、面倒なことですわ」
「アッハハ、ランディ兄が来るんだ。楽しみだなぁ!!」
テンションが下がるデュバリィさんとテンションが上がるシャーリィさん。それぞれ別々の反応だ。
「どうしました、デュバリィさん?」
「いえ、実験の邪魔をされるのは、面倒だと、思いまして‥‥‥」
「えー、シャーリィは楽しそうだけどな。いっそのこと、猟兵と人形兵器、そのお客さん達にぶつけてみたらいいんじゃない」
「まあ、多少ならいいですけど‥‥‥そう言っておいて、実は自分が戦いたいから、とか考えていませんでしょうね」
「うん、考えてる」
「貴方も執行者なんですから、もう少し弁えなさい!」
「って言われてるよ、社畜のお兄さん」
「貴方に言ってますの!!」
「まあまあデュバリィさん、落ち着いて。それより実験の状況はどうですか?」
「オホン、あまり良い成果とは言えませんわね。もう少し闘気を高めないと、アレは起動できそうにありませんわ。その為にも、紅の戦鬼の言う通り、ぶつけて見ても良いかもしれませんわね。それに、メンツはそれなりに揃っているようですし、何より灰の騎士がいます。一年半ぶりですし、どれ程成長したのか、確かめて差し上げますわ」
なるほど、デュバリィさんの考えはよく分かる。現在の方法では、マンネリ化しているから、違う方法を試したいようだ。
しかし、先程の話で一つ気になったことがあった。
「デュバリィさんが言う、灰の騎士とはリィン・シュバルツァーのことですか?」
「ええ、そうですわ」
「彼は‥‥‥私が相手をします。」
「‥‥‥確かに今の貴方は私たちの中で一番強いですわ。ですが、そのような顔をしながら言う者に任せるつもりはありませんわ」
「!!!」
そのような顔、か。おそらく私は意気地がない顔をしていることだろう。
トールズと戦うことになると聞いたのは二週間前、執行者に成った後に、デュバリィさんからの説明で聞いていた。前回の内戦のときの話も。
盟主様の大いなる計画、これを成就させるために結社は動いている。
私も執行者、盟主様に拾われた身だ。故にこの身を捧げる覚悟、と言っているのに、友と戦うことはイヤだ、とは‥‥‥我ながら情けない。
だが、そんな情けない私が彼らと戦わなければ、執行者としての一歩を踏み出せないと思う。だからこれだけは譲れない。
私はヤバいところに就職した、と改めて思った。
国家、遊撃士、様々なものを敵にまわしていく、結社にいる事の大変さをようやく理解した。
かつて友と呼んだものとも戦うことになるだろう。だから、かつての学友の前では昔の自分でいたいと思ったし、その当時の振る舞いもしてきた。少しでも、彼らとの繋がりを捨てないように、考えてもいた。
だが、私は執行者No.ⅩⅩⅠ《社畜》だ。結社に居続けるためには覚悟を決めるしかない。
「ならば、顔を隠しましょう」
私は『ハード・ワーク』を変形させ、仮面とローブにして、身に纏った。
仮面とローブの色は黒く、仮面の形はアリアンロード様をイメージした形だ。
【これからは執行者として活動するときはこの仮面とローブを纏うことにした。よろしく頼むぞ、《神速》、《紅の戦鬼》】
「ヒュー、カーッコイイ。いいじゃん、《社畜》のお兄さん」
「不敬にもマスターの兜を真似るとは、貴方らしいと言うか、何というか‥‥‥」
我ながら未練がましいものだ。このような理由をつけて仮面を被り、己を隠さないと彼らと戦う度胸がないとは‥‥‥だけど、もし、いつか、私の中で覚悟が決まったなら、この仮面を外そう。それが私と彼らの別れになろうとも。
―――七耀暦1206年4月22日 夜 南サザーランド街道・演習地
side リィン・シュバルツァー
トールズ士官学院第二分校の最初の演習、その一日目の夜に事件は起こった。
デアフリンガー号でのブリーフィングの最中に、突然起こった。
「アハハ、それはどうかなぁ?」
突然の声がデアフリンガー号内に響いた。
「この声は――――!」
ランドルフ教官が声に反応した瞬間、デアフリンガー号に爆音と共に振動が響いた。これは――――!
「パンツァーファウストだ!!」
俺達は急ぎ、列車の外に出ると、機甲兵が倒されている。先程のパンツァーファウストが直撃したようだ。近くにいる生徒をトワ教官が指示を出している。
俺はこの襲撃犯を探すと‥‥‥見つけた。高台からこちらを見下ろしながら、二人の女性だった。
「シャーリィ、テメェッ!!」
「アハハ、ランディ兄、久しぶりだね!」
「昼間の‥‥‥それにあんたは―――」
「フフッ、久しいですわね。灰の起動者」
一人は鉄機隊の筆頭《神速》のデュバリィ、そしてもう一人はセントアークで会った女性だった。
「《身喰らう蛇》の第七柱直属、鉄機隊筆頭隊士のデュバリィです。短い付き合いとは思いますが、第Ⅱとやらに挨拶に来ましたわ」
「執行者No.ⅩⅦ《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランド。宜しくね、トールズ第二のみんな」
「結社に入ったとは聞いたが、まさか執行者になってたとはな‥‥‥まさか叔父貴も来てんのか!?」
「ふふ、こんな楽しい仕事、パパに任せるわけないじゃん。ちょっとだけ戦力を借りたけどあくまで個人的な暇つぶしかなぁ?」
「全く、貴方は少しは使命感を見せなさい」
「執行者に鉄機隊の筆頭‥‥‥予想以上の死地だったみたいだな。問答無用の奇襲、一体どういうつもりだ!!」
俺の問いかけに、執行者シャーリィは楽しそうに答えた。
「ふふっ、決まってるじゃん」
彼女は持っていたパンツァーファウストを手放すと、大きな唸りを発する武器を取り出した。
「《テスタロッサ》‥‥‥!」
ランドルフ教官の声がかすかに聞こえた。
「勘違いしないでください。私たちが出るまでもありませんわ。ここに来たのは挨拶と警告、身の程を思い知らせるためですわ」
《神速》のデュバリィが剣を引き抜きながら、そう答えた。すると‥‥‥大量の人形兵器が転移してきた。
「あはは、それじゃあ歓迎パーティを始めよっか!」
「我らからのもてなし、せいぜい楽しむといいですわ!」
ランドルフ教官、トワ教官、ミハエル少佐の指揮の元、第Ⅱの生徒が戦っていく。
俺はⅦ組の生徒と共に遊撃を行い、数を減らしていく。
「ちょっとだけ、味見するくらいだからさああっ!」
すると高台からシャーリィが飛んできて、デアフリンガー号に迫っていく。
「ああもう――――、どうして私が御守を!」
続いてデュバリィが高台から駆けてくる。
「ほらほら!巻き込まれたくなかったらとっとと逃げなよね!」
彼女がデアフリンガー号に迫っていくと、銃弾が彼女の行動を阻止した。
「あははっ‥‥‥ナイスタイミングだねぇ」
「‥‥‥バッドタイミングの間違いだと思うけど」
そこには‥‥‥フィーがいた。かつての仲間が助けてくれた。
フィーはシャーリィと戦いをデアフリンガー号の上で戦い始めた。
突然の戦場に演奏が響き始めた。この音は‥‥‥
「響いて、レメディ・ファンタジア」
エリオットだった。エリオットの音楽が戦場の傷ついた生徒たちを癒していく。
「つ、次から次へと‥‥‥いいでしょう!ならば私も本気を――――」
「ならばその本気は私が受けさせてもらおうか‥‥‥奥義《洸凰剣》」
ラウラまで‥‥‥来てくれた。ラウラはデュバリィを止めてくれている。
助かった、後は人形兵器を片付ければ‥‥‥
【あまり壊してくれるな。それも安くはないんだぞ】
戦場に新たな声が響いた。
「!!!!」
「あの兜は!!」
そこには黒いマスクをした、黒いローブを纏った大きな存在がいた。
「テメェ、何者だ!」
【我は執行者No.ⅩⅩⅠ《社畜》、見知りおき願おう《赤き死神》】
また新たな執行者か。
俺は相手の出方を伺うように見ていると、こちらを向いた。
【安心しろ。この場では戦うつもりはない】
「それを信じろと」
俺は警戒を厳にして、一挙手一投足を見逃さない。
【‥‥‥仕方がない。相手をしてやる、かかってこい、《灰の騎士》】
執行者《社畜》は構えもせず、隙だらけだ。だが‥‥‥相当危険だ。
この男を相手に、生徒たちを戦わせるわけにはいかない。俺がそう思っていると、ランドルフ教官とミハエル少佐が俺に並んだ。
「俺達でやるぞ、シュバルツァー」
「これ以上、状況が混乱するのは避けたい。援護する」
「ランドルフ教官、ミハエル少佐‥‥‥助かります。Ⅶ組はトワ教官の指示に従え」
「私も行きます」
「下がれ、アルティナ」
「!!!」
男はこちらを見て何もしてこない。構えもしていないし、武器も出していない。一体何を考えている。なら、一気に決着をつける!
俺は男に向かって駆けていく。ランドルフ教官も俺に続き、ミハエル少佐は導力銃を構えて、支援の用意をしてくれている。
「弐の型『疾風』」
《社畜》に向かって、神速のスピードで移動して斬り刻もうとしていると、漸く動き‥‥‥刀を取り出し、俺と同じ動きをした。
【弐の型『疾風』】
「グハァ!」
俺だけが弾き飛ばされた。何故‥‥‥何故、八葉一刀流を使える!!今使ったのは『疾風』だった。そして使った武器は太刀だった。打ち負けた、力の差が原因とはいえ、かなりショックだ。だが、今は戦闘中だ、ショックなら後で受ける。
「『クリムゾンゲイル』」
【『クリムゾンゲイル』】
《社畜》はランドルフ教官にも同じ武器で同じ技を打ち合わせた。
「クッソー、この猿真似野郎」
【確かに真似だ。今、使った技を真似た、ただそれだけだ】
「!!!!」
「つ、使った技を瞬時に真似た、だと‥‥‥」
【どうした?終わりか。ならば、怪我をする前に帰るといい。安心しろ、追いはしない】
この男の言葉には何故か、信用が出来た。声も知っているわけではなく、顔を見えないというのに、何故か信用出来た。だが、
「生憎だが、結社がここで何をしているのか、突き止めなければならない。そのためにも、あんたにも喋ってもらうぞ」
【‥‥‥残念だ、ならば、少し寝ていてもらおう】
男が今度取り出したのは‥‥‥大きな槍だった。
「て、テメェ、それは!!」
【我が師、アリアンロード様の槍だ。《赤き死神》殿はこの槍に、見覚えがあるようだな】
「ああ、メチャクチャ覚えがあるぜ!!」
【ならば、この技にも覚えがあるだろう――――聖技『グランドクロス』】
槍を掲げ、巨大な渦を作り出して渦で俺達を飲み込み、とどめに槍で俺達を一閃し、最後に爆発をおこす。
「うわあああああああああああ!!!」
うう‥‥何だ、今の技は体中に痛みがあり、立つことが出来ない。周囲を見ると、ランドルフ教官もミハエル少佐も同じようで、動くこともままならない。
男がこちらにゆっくりと歩いてくるのが見えた。
くっ、せ、生徒たちだけでも、逃がさないと‥‥‥でも、体が動かない。
だが、俺の思ったこと通りにはならなかった。
【引くぞ、《神速》、《紅の戦鬼》これ以上は無意味だ】
「分かりましたわ。《紅の戦鬼》も小腹を満たしたならとっとと行きますわよ」
「あはは、ゴメンゴメン」
二人が、男の下に集まった。
「お遊びにしては楽しめたかな?本当の戦争だったら、五分くらいで壊滅だろうけど。あ、でも《社畜》のお兄さんなら、もっと早くに消しちゃえるだろうけどさぁ」
「まあ、この場所を叩くのは今夜限りと宣言しておきます。明日以降、せいぜい閉じこもって、演習や訓練に励むといいでしょう。この地で起きる一切のことに目と耳を塞いで」
「あはは、それじゃあね。ランディ兄も灰色の騎士さんも機会があったらやり合おうね」
そう言い残して帰っていった。一人を残して‥‥‥
【‥‥‥】
一番強い、この男だけが残っている。
「これ以上の狼藉は見過ごせん」
「ん、これ以上はやらせない」
「リィン達にはこれ以上はやらせないよ」
ラウラ、フィー、エリオットが駆けつけてくれた。だけど、この男の前では‥‥‥
【やめておけ、力の差が分からない程、愚かではないだろう】
「力の差が大きいからといって、逃げるわけにはいかぬ!」
ラウラが斬りかかって行く。
だけど‥‥‥ラウラも同じ武器で受け止められた。
「な!」
【アルゼイド流の技は見せてくれないのか?】
「なめるな!『奥義・洸凰剣』」
ラウラがアルゼイド流皆伝の奥義を繰り出した。だと言うのに‥‥‥
【なるほど、『奥義・洸凰剣』】
ラウラの奥義もコピーされ、相殺された。
【もういい。これ以上、傷つけたい訳ではない】
「グっ!」
そう言って、ラウラの背後に回り、首に手刀を振り下ろし、ラウラを気絶させた。
【さて、これで終わりにしよう】
手に炎を作り出した。オーブメントも駆動していない、なのに、炎が‥‥‥まさか、《劫炎》と同じ能力までコピーできるのか!!
【『神なる焔』】
俺とランドルフ教官、ミハエル少佐に炎が放たれ、逃げることも出来なかった。
「「リィン」」
「「リィン教官」」
「リィンさん」
あれ、熱い、けど、熱すぎない。体の芯からあったまるような、温泉のような炎だった。体から痛みが疲れが消えていく。
体の自由が利く様になり、立ち上がり、改めて男を見た。
大きな体、黒い仮面とローブの風貌。武器は持っていない、何種類もの武器を使いこなしている。だけど、相手と全く同じ武器を使っていた。ランドルフ教官のスタンハルバードは量産品だから、それを持っているのは分かる。だが、俺の刀もラウラの大剣は量産品ではない。なぜ、それと同じものを持っているんだ?
それに何より一番分からないのが、『観の目』が働かない。なぜこの男は何も見えない。
【さて、怪我も治っただろう。《神速》の忠告を受け入れるか、今すぐここを去るか、どちらかを選ぶ方が身のためだ】
「待て!!」
それだけを言い残して去って行った。
執行者《社畜》か。また、厄介な相手が出てきたな。
side out