マユリ様になりきれない!   作:小森朔

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 楽しい改造と上司がポカをやらかす話。

 マユリ様って、実際のところどうやって斬魄刀を改造したんですかね……詳しく判らないけど実体化させてキチキチやるしかないんでしょうか?


失態と不屈

 卍解をきちんとできるように、というよりは斬魄刀を改造して意図的に行えるように出来てしまった。あと、普通の死神等にするように人為的な改造も。いよいよ人間、いや死神の止め時かもしれない。元から斬魄刀自体は始解できたのだが、意識世界に潜れば改造できるとは思わなかった。機材や薬物を使わねばそこまではできないが、本体が一応生物型であって良かったのだろう。改造される恐怖からか絶叫していたが、きちんと麻酔をかけて意識が断絶するまでやってやれば随分と大人しくなった。起きているうちに判らないことをされるのは嫌だものな。暴れるのも仕方がないことだろう。ちゃんと説明をして、機能を加えて、終わったら誉めてやればいい。それだけで、最初の頃よりはかなり緩和された。存外良い子じゃあないかと、最近では何もなくても意識世界に潜ることがある。ただ、じゃれつくついでに攻撃してくるので対応も忘れないようにしなくてはいけない。それさえ除けば可愛らしいものだ。

 折れたくない、外のものが怖い、私も怖いというのが私の斬魄刀の見解らしく、最後のそれが緩和された今では、折れないように、折れても私が改造できるように協力的な態度を取るのだから、原作からはかなり離れているなぁとぼんやりと思った。あれ、確か具現化したら随分暴れまわっていなかったか? 最終的にマユリ様に爆破されていたけれども。

 

 そんなことにかまけていたからだろうか。猿柿副隊長が任務に出たと聞いたのは、溜めていた休暇を改造に費やして帰ってきた直後のことだった。それも、そのうち終わって元気に帰ってくると信じていた。それからいつものように平子隊長と軽口を叩きながらどつき合って、いつも通りに平和だろうと、思って流してしまった。

 

 

 

 押し入られたのは、午前二時を過ぎた頃だった。その日は丁度研究が長引いて居残っていたために助かったとも言える。……いや、起こっていたことから察してはいた。ただ、ここまで来ては見逃す他ないと思ったのだ。既に種は蒔かれており、私達には逃げ場がない。崩玉の理論自体は私が娑婆に出たときには権限は必要だか席官以上にはオープンソース化されてしまっていたから、どうしようもなかったのだ。

 

「全員大人しくしろ!」

 叫び声と、硝子の割れる音が至るところから聞こえる。日本建築の悪いところはどこの音もよく聞こえるところだ。シャーレや試験管、ピペット、培養皿、他にも幾らか機材が叩き壊されたろう。破壊のかすかな残響、絶叫、すすり泣きの痛々しく弱い声。

 

 地獄だ。忘れていた。ここが、地獄だったのだ。私達の安寧なんて、どこにもなかった。少しでも夢を見た私が馬鹿だったのだ。これも全部、予想なんて出来ていた筈だったのに肝心の私が甘く見ていたのが悪い。きっと、こちらは、この場所は大丈夫だと。あの男ならうまく手を回していくだろう、私達の夢は壊れないだろうと。局員の一時拘束で、全てが終わることを待てばいいと、柄にもなく楽観していた。それがこのザマだ。まったく、呆れてものも言えないとはこういうことなのだろう。

 私の前にいたのは、機動隊の分隊長だろう。罪人の一味を捕縛なら妥当なところだ。

「副局長の涅だ。私の名を以て、所属するすべての局員は投降する」

 

「く、涅さん……」

 可哀想に、小さな体が震えている。怒りによるものなのか、あるいは監獄に引き戻されるかもしれない恐怖からだろうか。死神を見た目を判断するなんて

 だから私は、自分にのみできることをしなければならない。詰られようが、手を緩めてはならない。引き際も見誤ってはならない。切り捨てるのは一人も二人も変わらないことを肝に命じねば。

 

 彼は、本当の涅マユリはこれをなんでもないことのように乗り越えられたのだろうか。こんなに恐ろしかったのだろうか。恐ろしくても、悟られないようにまっすぐ前を見通せていたのだろう。やはり、私では及ばない。

 しかし、及ばないなりにやれることはある。私はここにいる。彼が私なら、やらなくては。いや、違う。私が彼でなかろうと、やらないといけない。

 そう思ったとたん、気持ちは急激に冷め始めた。視界がより明瞭になった気さえする。と、同時に危機感が押し寄せてきた。

 ……このまま機動隊の好き勝手にさせると非常に拙い! 技術開発局なんて、安住の地どころか暴漢がやたらめったら触れ回ったら簡単に吹き飛ぶとんでもない地雷源なんだぞここは!

「阿近、鵯洲! 一番隊へ向かい、承認を得て誓約書を持って来い! そこの機動隊員、お前でもいい、早くするんだヨ!」

 突然叫んで隣で拘束される阿近と鵯洲に指示を出した私に、分隊長がぎょっと目を剥く。

「何をするつもりだ!」

「煩い! ここは技術開発局で、薬品には爆発物や毒物もあるんだヨ。刺激を与えてはならないものも当然ながら保管している! 連鎖的に爆発すればそれもここが吹き飛びかねない量をだ!」

 これは私が最前線に立たねばならない戦いだ。今、責任から逃れようとしたところで日の下に引き戻されるときに与えられた立場が、逃げることを許しはしまい。第一、判って全部引き受けてやっていたのだ。今更だろう。

「我々は身の潔白を証明するため、誓約書によって言動を縛り、貴殿等を案内し、嫌疑の掛かる機材・消耗品・備品・保管物を総て提出する! 局長が出奔した以上、最高責任者はこの私、涅マユリだ。血印を押し、誓約を行えるのは私だろう」

 自由のためなら、名誉のためと同じように、生命を賭けることもできる。いや、義務として賭けねばならない。ほとんど全員が元囚人の技術開発局の自由は、どの機関のそれより脆い。

 潰させてなるものか。仮に私が処刑されようが、部下には何の問題もない。なにもしていない彼等を暗い牢獄に戻すくらいなら、もう千年生きて完全に気が狂う方がまだマシだ。

 

 

 集められた先の広間で、研究員達の信じられないものを見る視線が一様に私に刺さる。

 覚悟は決まっていた。だが、先ほどより強く固まった。個を捨てても、汚名を被ろうと、この場所だけは死守する。今も、この先何があってもだ。

 備えあれば憂いなし。出遅れはしたものの、まだ遅くはないはずだ。藍染は動いているが、こちらに手をかけるまでに猶予はある。これまで副局長の私は監視が続けられていて局長一強だったからだ。嫌疑が晴れてもしばらくは監視が付く筈だろう。その間に早々と備える。この時点で重要なのは人手を奪われないことだ。機材や薬品は購入すればいいし、研究内容もある程度は職員の頭にある。ならば、資金は手痛いが、それ以外に失うものは何もない。それに、今回の検挙以外にも何が起こるかわかったものではないのだから、千の用意をして一に備えるべきだ。不慮の事故で誰かが脱落するとも知れないし、ここが十二番隊預かりでいられるかもこれからは不確定だ。私が、しっかりしなくては。

 

 

 そのために恩人も、記憶も、求められるなら私はなんだって捨てよう。ここが私の庭で、私の墓場だ。

 もう、なにも手放したくない。失いたくない。喪うことは、怖くて仕方ないのだ。だからこそ、切り捨てて前に進む。なりふり構っていられるか。




 ここを書いていて、マユリ様って化け物だなと改めて思いました。あの状況でまともに組織引っ張っていける辺り組織論も体感として理解していそう……あときっと腹芸もかなり上手い。

 というか、このまま書いていて良いのかわからなくなってきました。これ破面編までマユリさんは地獄なのでは?
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