マユリ様になりきれない!   作:小森朔

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原作突入、メルトリリス戦はっじまっるよー!
(※戦闘描写で力尽きました。微グロ注意。)

 四連休、書けると思ったらストックが倍の長さになり、書き直しをしてもしても終わらないことに焦り、やっと形になった気がしたので区切りをつけました。僕もうこれ以上バトル書けないよ……この後サクラ族一杯あると思ったら頭がいたいよ……。
 そもそもこの連載自体が見きり発車だからこの先の展開とかないです。ボスケテ……


フェアリードールは飛び立てない

 生きていることと死んでしまっていること、どれほど昔のことか最早判らないが、かつてそれらは両極ではなかった。いつの時代にか分かたれた生命の境界は渾然一体としていて、それほどに差はなかったがゆえに醜かった。

 さて、あとどの程度で生死の境を覆されそうになってしまうのだったか。あの馬鹿が出奔してから、ようやく百年少々経ったのだが。生死の境の曖昧なことほど忌避すべきものもないのだ。できれば何も起こらず、そうでないなら都合よくまとめてくたばらないだろうか。

 

 しかし本格的に歯車は回りだした。もう止めようもないだろう。ここから何が筋書き通りになるか、ならないかは観測してみなくては判らない。どちらであっても必要に応じて対応する予定であるし、サンプルは可能な限り採取し、今後の脅威に備える必要があろう。

 となれば、寝た子を起こさぬ四十六室の耄碌爺共もそろそろ入れ替わるだろう。あれはあれでやりにくいところもあったが、癖が判っているだけに対策しやすかったものだ。次はどうなるだろうか。

 

 そういえば、あの男はいつ朽木ルキアの体内に不始末の塊たる崩玉を仕込んだのやら。

 逃亡するまでにさほど時間は残っていなかった筈であるし、私ほど人体実験を好まない性格だったが、今の今までほとんど知れぬ事とされているのだから、アレは余程上手く、朽木ルキアを丁寧に切り刻んで隠し込んだのだろう。

 まったく、隠れてあれこれとやらかすのだけは上手いのが腹立たしい。

 

 朽木ルキアは特殊な入隊をし、そして先日の現世調査任務にて人間に死神の力の移譲をし、それが咎められて捕縛された。

 私が彼女に会う機会などほとんど無かったし、私の仕事は主に研究である以上は要らない厄介な案件には関わりたくなかったから、今日の今頃やっと気になった。生きた、手を出せない死神のことなど関わっても片っ端から忘れてしまって平生はすぐには出てこないので思い出しただけましとも言えるが。

 それでも、松本や市丸らの主要な戦力の入隊に昇格、興味深い幾つかの薬品の開発、銀城らの裏切りなどといったものについては一応記憶が新しく、取り出しやすい。

 

 ……他にも、ややこしいことになる前に道羽根アウラなどもどうにかできないだろうか。

 だが、あれがいなければこちらの用意が増える。現場の仕事でどうにかなるなら関与することはやめた方がいいだろう。あまり嘴を突っ込んではろくなことになりはしないのだ。

 正直に言うと貴族らとの折衝は骨が折れるので京楽や朽木に丸投げしたいのだがそうもいかない。ぶちぶちと文句を溢したくもなる。

 

 

 

 穏やかに研究をしていたいだけだというのに、なぜこうも事が荒立つのか。そういう筋書きだからといえ、心の奥底から納得できないのもまた事実だ。

 あの男の差し金で。そう、何はなくとも面倒を起こしていたであろう藍染惣右助やユーハバッハは兎も角も、概ねあの男が起こしている厄介事ではないか。あぁ、イライラする。

 

 だが、どうすべきだろうか。本当に彼女らを出撃させることが正しいのだろうか。真っ先に投入する越えるべき壁にしては、メルトリリスは出来すぎている。苛烈さや戦闘力は一級品だ。

「まあ、お父様。あの闖入者を見逃すおつもり?」

「メルトリリス、」

 不服そうな声が背後からしたが、振り向くことはしなかった。私も平静ではいられなかったが、彼女も同じように少し気が立っているようだったからだ。見てしまえば、お互いに暴発するように罵ることになりかねないと感じて、その姿を見ることが出来ない。

 

 だが同時に、押えきれるはずもないような、どうしようもない激情が込み上げてきた。怒りではない。だが、これだけは抗議しろとなけなしの自尊心が腹の底で騒ぐのだ。

「……この私が見逃すと? ふざけるんじゃないヨ!」

 見逃しはしない。私が十二番隊隊長であるからこそ、現段階での最良の選択を委ねられているのだ。妥協をする理由などない。してはならないし、することは許されない。

 

 先鋒はメルトリリスとパッションリップの二名。だが、この娘達を突破できるなら黒崎一護にも多少は才能があると認めよう。あの男の教育もそこまで捨てたものではないと評価してやろう。なにせ、私の傑作なのだから。

 

 ──私は、私だってこの子供達を作り上げ、進化させ続ける努力をしている。ただでやられてはやるものか。それに、彼女らも絶えず成長するのだ。

 この戦いもまた彼女らの成長のため必要な養分にする心積もりでいる。殺させはしない。それに、むざむざやられるようなことはきっと無い。

 

「ヴァイオレットとBBはいいのかしら」

「あの二人は私の側で待機させるヨ」

 

 私が出張るときにこちらが積極的に動かなければ、ほぼ確実に体格の都合上倒しやすそうな娘達を撃破対象に据えてそちらから逃げようとするだろう。

 結局擂り潰して無惨な姿にした彼の祖父の写真を見せれば、石田雨竜は容易に激昂するだろうと予想されるため、ほとんど私がやるべきことは原作通りだ。この状況になってしまっては彼らを潰してしまうとどうにもならない。

 

 そのあと、私はきちんと始末をつけられるだろうか。娘達を手のつけようがないほど壊してしまわないだろうか。

 報告書を握る手が、僅かに震える。まだ、不安は拭いきれない。だから私は凡俗なのだと、否が応にも思い知らされるようで、吐き気がする。

 

 と、思考に沈んでいた私の手を熱と肉の感触が包んだ。

 

 メルトリリスの、薬を利用していない素の手だ。力の上手く入らないことだろうに、それでもぎこちなく動かして、私の手を取っている。

「そう。ねぇ、お父様。私、お父様の”娘“よ? お父様が何を怖がっているか、手に取るようにわかるわ」

 するり、と、今度は私の首にメルトリリスの両腕が回される。細く、感度の鈍い手腕。萎えきってはいないが、完全とも言いがたい腕。

 普段の生活に支障が出ないよう、彼女の為に神経の感度をあげる薬を開発してはいるが、当のメルトリリスは肝心なときにはあまり薬を使わない。その方が上手く踊れるからと言って。

 

「そうかネ」

「ええ。お父様はあの男が全部めちゃくちゃにしていくのを恐れている……違うかしら?」

 不敵な笑みはこちらが奮い立つのを待つようで、決して嫌なものではなかった。髪を結っている青いリボンが、首をかしげるのに合わせてかすかに揺れる。

 

「……違わないヨ。やはりお前は聡い娘だネ、メルトリリス」

「そうでしょう? ええ、当然です。だって、私はお父様の加虐趣味と、恐れを一匙受け継いだんですもの」

 

 どうか、どうか無事に帰って来てくれ。もし損傷してしまっても、私が改造(なお)せる程度で。

 君たちは私の夢そのものなのだから。

 

「なら、判っているだろうネ。蹂躙して(あそんで)やり給え、メルトリリス」

 喉から出ようとするそれらの言葉はすべて飲み下し、命令を下す。

 

 

 それを聴いた鋼鉄のバレエシューズのプリマドンナは優美に微笑んで一礼し、例の旅禍を目掛けて白鳥のように飛び立っていった。

 

 

○●○●○

 

 瀞霊廷に侵入した旅禍は襲撃時に分散して応戦中。二手に分かれていると伝わって来ていた。ちょうど屋内にいたから見えなかったけれど、だからこそ都合がいい。伝令から聴いたから重装備なのだと言い訳が利くもの。

 すべてはお父様の読み通り。お父様は前もって知っているからと苦虫を噛み潰したようなお顔をしていたけれど、それだけなわけないじゃない。

 

 あの人は、お父様は判っているからあちこちに罠を仕掛けている。本当に臆病な人。何重にも予防線を張って、入念に準備を重ねて、それでもなお、私達が壊れることを恐れている。あの男がいるせいで安心できないと、居ない相手に腹を立てる。可哀想なヒト。

 私は壊れない。お父様の期待を裏切ったりはしない。それを見せつけなきゃ、きっといつまでも要らないことにばかり気を取られてしまう。

 そんなの、面白いわけがなかった。

 

 

 それに、入ってきた霊圧はそれなりに強そうだったから、少しは楽しめると思ったわ。

 彼、判るかしら。私を追い詰める程抗って、昂らせてくれるのかしら。──そう、期待していたのに。

「だぁぁぁぁぁあ! どっちに行きゃいいんだよ!」

「知るかぁぁぁぁあ!」

 音を頼りにすぐに見つけられたから行ってみたけど、全然だめじゃない!

 

 橙色の死神代行の方にも、もう一人の黒髪の旅禍の方も優雅さの欠片もないし、正直がっかり。戦いぶりも見ていたけれど、力任せの野蛮なやり方しかできていない。バレエなんてお世辞にも出来そうもない人間と死者だけだなんて。

 もしも私に対峙して、ただぶつかってくるだけだとしたら呆れて笑ってしまいそう。平隊員相手ならまだしも、てんでダメ。

 覚悟も技術も中途半端な状態じゃ、隊長格とは決して踊れないのは判っているはず。それでも全然情熱的じゃない戦いしかできないなら、きっと彼女の処刑には間に合わない。

 

 暫く上から眺めていたけれど、大男と喧嘩をしながら走り回るばかり。あれじゃまるで道化のよう。

「懲りてないようだし……反省してもまるでダメね」

 あまりにも幼稚で稚拙。こんなの、私達やお父様どころか、雑魚にだって手間取るじゃない。私やリップが出る必要も、本当は無いんじゃないかと思ってしまう。

 本当にこんな人間が脅威なのかしら。

 

 

 こんな小物に時間を取らされるのがあまりにも腹立たしくて、観察するのを止めて目の前の道を目掛けて切り込む。

 

 旅禍の前髪が少し切れて、風にさらわれていく。驚いたように距離を取るけれど、緩慢な動きで可哀想にすらなってしまう。きっとまだまだ経験が浅いのね。

 でも、微々たる量でも経験値にはなるもの。苦しんで苦しんで苦しみ抜いて溶けてしまうくらい、しっかり搾り取ってあげなくっちゃ。

 

「状況判断能力が足りていないわ。王子様には程遠いじゃない。貴方、それでもお姫様(オデット)を助けに来たの?」

「おまっ、何なんだよ?!」

「一護、逃げっ──」

「あら、この私が逃がすと思って?」

 一緒にいた黒髪の旅禍の方は一撃で吹き飛んで目を回してしまった。なら、お父様が目の敵にしていた男の教え子はこっちね。

 

 さあ、踊りましょう?

 

○●○●○

 

 前髪を薄らと切られたのに反応して、一護は後方に跳躍し、相手の姿を、出方を伺った。

 

 全く気配はしなかった。それどころか、声が降ってきてからの動きにすら一護はギリギリの対応しかできていない。

 岩鷲は蹴り飛ばされた場所が悪かったか、一護が見た限りでは目覚めそうもなかった。大男に分類できる彼を足技の一撃で落とした彼女に、冷や汗が伝う。斬魄刀を持っていないのにこの戦闘力なのだ。

 

「お前、何者だ……?」

「何者ですって? 少なくとも、そこいらの死神と違うことくらい見ればわかるでしょう」

 一護は、目の前の藤色の髪の死神に問いかけるが一笑に附された。青いリボンが揺れる様は清純な少女そのもの。しかし、死後の秩序を守る集団に属しているだけあって、人間離れしていることだけしか一護にはわからなかった。

 

 

 そのとき、突然その空気が壊された。来たのとは反対の方角から、足音がやってきていた。

「いたぞ!」

「百合様だ、百合様が応戦しているぞ!」

「涅さん、今お助けします!」

 戦闘の音を聞いてか、応援らしき死神の集団がやがやと駆けつけてくる。冷や汗をかくが次の瞬間にはそんなことは頭から吹き飛ぶ。

 

 

「退きなさい、邪魔よ!」

 少女が、死神達に向けて鋭い蹴りを繰り出したのだ。

 

 直後、霊力の爆発のような風と水が一直線に噴き上げて襲いかかり、味方のはずの隊員たちが吹き飛ぶ。無色の攻撃は、一瞬にして紅に染まって、弾けて消えた。

 

 それはあまりにも現実味の薄い光景で、痛みの欠片もなかったのだろう。彼らは一瞬何が起きたかわからないとでも言うように顔を見合せた後──自らの手足が遠くに落ちているのを見つけ、

 

 

「あ、あ"、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!」

 あらんかぎりに絶叫した。

 

 

「鳴くならもっと優雅に鳴きなさい。聞き苦しいわ」

 フン、と鼻を鳴らして少女は言い捨てる。嘲りにしては色のない言葉は本心であると判らされる響きを伴っていた。

 軽くダンスステップを踏むような仕草で足が払われたことで、具足から一滴残らず血が弾かれて飛び、元の輝きへと戻っていく。

 

 斬魄刀を持たない、否──そんなものには頼らない、独自の戦闘スタイルの少女の死神(バケモノ)がそこにいた。

 

 一護には直ぐにそれが理解できなかった。相手は真っ当にあの世を纏め上げる組織であるはずだ。

 だというのに、秩序の維持とは真逆のことを少女は行っている。まるで落ちていた小石を蹴り上げる気軽さで。花を摘みとるよりも心を割かずに。

「な、んで、味方を……」

「味方? おかしなことを言うのね、貴方」

 そう言いつつ、メルトリリスは自分の側に倒れた死神を蹴り飛ばした。

 

 鋼鉄の棘のようなそれは、見た目よりもさらに鋭く、空気と共に肉を切る。

 蹴られた死神は片腕が切り離され血飛沫が上がったが、今度はシューズには一点の曇りさえない。明らかに格上の相手だった。

 

「私はメルトリリス、フルスクラッチのプリマドンナ。プリマと死神なんかじゃ、天と地ほども違うでしょう。それに私、あの死神達の顔も名前も知らないもの」

 実際のところ、メルトリリスは一度正式な手順を踏んで入隊した死神である。だが、それ以上に涅マユリの被造物として十二番隊に所属する期間が長いこと、また一護たちが実情を知らぬために、それらの矛盾はなかったことにされた。

 

 そして、味方であったはずの相手を足蹴にしつつたおやかな笑みを向けられた一護はといえば、意外なことにひどく落ち着き払っていた。

 そして、頭はむしろ冷えていく──目の前の相手は確かに倒すべき敵であると理解したからだ。

 

「お前は、絶対ェ倒さなきゃなんねぇ」

 死ぬかもしれないという恐怖を覚えつつも、それ以上に強く覚悟を決める。目の前の彼女以上に強い相手がゴロゴロいるはずの魔境に足を踏み入れたのは、他ならぬ一護自身の意思によるところだからだ。

 

 ここで凌ぎ切って活路を開かねば、ルキアを助けにいくことは到底できない。ならば、全力で最善を尽くすのみ。

 

「あら……貴方、案外良い目をするじゃない。いいでしょう、その目に敬意を表して、夢のように終わらせてあげる!」

「──来い!」

 

 視線が火花を散らしたその刹那、巨大な刃と鋼鉄のバレエシューズが激突した。

 

 

○●○●○

 

「うおおおおお!!」

「あら、怖い怖い」

 彼の頬をシューズが掠めて一閃する。防戦一方だった彼が、私と切り結ぶ内にどうにか攻撃も出来るようになってきているのは理解していた。

 

「さぁ、見切れるかしら!」

「うぉっ!?」

 でも、さっきより少し出力を上げた程度の攻撃なのに、やっとのことで避ける始末。

 私が出る必要、あったのかしら。でも、お父様が望んでいるのだから私は演じきるわ。プリマだもの。

 

 橙頭の彼はそれを躱してもう一撃を狙うけれど、そんなのじゃ甘いわ。それに、一撃一撃があまりにも軽い。少しずつましにはなってきているけれど、私でも十分受け止められる。だから、それを軽く受け止めて、逆に霊圧をかけて吹き飛ばした。

「あ、がっ!」

「嗚呼、その顔! 堪らないわ!」

 まだまだ青すぎるけれど、苦痛に歪む顔は素敵。

 

 

 この人間は確かに驚異的な学習速度をしていた。でも、それでもまだ私の速度には足りない。着いて来れるはずがない。本当の速度なら、余計に。

 だって私には明確にリミッターがついている。霊圧で建物をまとめて吹き飛ばしてしまうことは許されないもの。私が休職中の十三隊隊員であるせい。本気で戦う許可が出れば楽に圧倒するのは当然、そうでなく平隊員の霊力ほどしか使えなくなっても、決して副隊長格にも劣らない。性能が違うのよ。私はそう造られているのだから。

 

 だから、余計に腹が立つ。こんな相手に勝てないなんてこと、万が一の可能性にしても私のプライドが許さない。

 

「お生憎様!」

 左から袈裟掛けに斬り込んで、少し強めに蹴り飛ばす。

 

 ……けれど、何故だか切り傷がさっきよりも浅い。私の斬撃が通りにくくなっている?

 

「チッ、クショー!」

 彼の回避はさっきまで私には追い付けていなかったけれど、それは遅すぎるのではなく私の斬撃が速すぎただけ。速度が違う以上、攻撃が当たるわけがないから私の方が優位に立っている。なのに、何かがおかしい。

「そこそこの斬撃に身のこなし。力任せのジークフリートなんて、あくびが出ちゃう」

 それに気付いてない振りをして、強気の発言で気合いを入れ直す。

 こんなことで負けたりしない。慢心なんて以ての他。お父様に叱られてしまう。

 これは、ちょっと良い目をしただけのただの人間なんかじゃない。私が仕留めなければならない獲物。

 

 だから今度はこっちの番。出力を僅かに変えて波長を変えることで、切れ味重視に、スピードは落とさずに。

 流体は私の支配下。跳ねて走り回ったフィールドは水浸しで、フィナーレの準備は万端。

「いい加減頃合いね、本気でブチぬいてあげる。──覚悟はいいかしら?」

 

 意識を足──宝具に集中させる。私だけのために誂えたバレエシューズ。私だけの宝物。

 

「さぁ、飲み込まれてしまいなさい!

弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)ッ!

 流水を巻き上げて彼を閉じ込める。水流の暴力で叩きつけて、全身全霊、全力で蹴り上げて、叩き落とす!

 

「ぅ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」

「あは、アッハハハハハハ! 痛いでしょう? 苦しいでしょう! 貴方、悲鳴だけは最高ね!」

 流水を開放すると、ドサ、と重たい物が落ちる音がした。きっと抵抗もできなくて沈んでしまったのね。可哀想な王子様。

 

 

 

 きっと、もう骨も肉もバラバラ。原型も留めていないことでしょう。塵のせいでよく見えていないけれど、これが落ち着いたらお父様に報告しないと──

 

「なッ、」

 

 煙が晴れたとき、彼は、此方を睨み付けて立っていた。

 満身創痍なのに。血塗れで、立っているのすら苦しいはずなのに、それを感じさせない表情で。

「こっちからも行くぞ、メルトリリスッ!」

 ゾッとする程の闘気に、爆発するように増した霊圧。

 憤怒の表情ならまだよかった。でも、彼は真剣そのものの表情としか言いようがない顔をしている。だから、雑な、適当なあしらいなんてできない。

 

「っ、望むところ!」

 連続で宝具は放てない。私が全力を出したのだから、今度は私が受け止める番になるのは自白の明だった。

 

 それに、薄らとではあるが、彼が倒れなかった理由は理解した。

 私の魂に刻み込まれた例外処理が実行されたのだ。そうである以上、もう、勝ち目はきっと。

 

「来なさい、黒崎一護!」

 人間の旅禍の名前を呼ぶ。認めたくない。でも、認めざるを得ない。

 

 私は、この男に勝てないのだと。

 

○●○●○

 

 

 

「やるじゃない……少しはしゃぎすぎたかしら」

 死覇装はボロボロ。皮膚も所々裂けて出血してしまっている。幸いなことに、神経がひどい感度の腕がより重症なだけでバイタルゾーンは無事だったけれど、それでも苦しいのは確かだった。

 

 負けた。悔しいという気持ちよりも先に、悲しみだけが胸を満たしていく。私は、彼を取り込めない。

 私は最高傑作なのに。例外処理さえなければ、きっと経験値にできていたのに。

 そうすれば──人間の彼を取り込んだなら、少しはお父様のことや姉妹達のことも理解しやすくなるというのに。阻まれてしまったことが口惜しい。

 

「お前、これからどうすんだ」

「仕方ないわよ。これじゃ、立てないもの」

 お父様がくれたバレエシューズは最早ただの金属の塊。こんなんじゃ、歩くことさえ出来やしない。

「ほら、さっさと行きなさい。私はどうせすぐにお父様が来て、暫く眠らされるだけだわ。あなたが気にすることじゃない」

 もう戦う気力は残っていない。足どころか、視線を合わせるのだって億劫だわ。

 きっとこの後お父様が回収しに来るけれど、次はいつ目覚められるかしら。例外処理の組み直しもあるのだろうし、きっとすべてが終わった後ね。

「……死ぬなよ」

「あら、お優しいこと。他人の心配なんてしてる暇があって? ……早く行きなさいな」

 

 すぅ、と瞼が下りてくる。踊るのが楽しくて思ったよりも消耗していたのに気づかなかったけれど、きっとこれが正解。彼の成長の前で、今の私の本気は足りなかった。

 

 

 

 こんな野蛮な王子様なんて私は認められないけれど、そう、朽木ルキアなら彼を王子だと認めるのかしら。

 

 

 ごめんなさい、お父様。私もまだまだ足りなかったみたい。もっとうまく踊るわ。次に目が覚めたら、今度こそ完璧に踊ってみせるわ。




 メルトリリスの宝具食らっても生き残った理由は例外処理によるものと規定しましたが、これもそのうちきちんと説明をする回書きます。

 行き当たりばったりでもうネタストックがないのでこれ以上に続きまでが長くなりそうです。一応今後は原作編書く予定です。
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