マユリ様になりきれない!   作:小森朔

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 狂人が一人でぼんやりサクラに思いを馳せる話。

 マユリさん(仮)がやっとキャラとして独り歩きし始めましたが暴走し始めてます。なぜお前はそんなところで吹っ切れたのだ……


狂人と桜

 何に限らず、物事は研究すればだんだんわかって来るものであると思う。しかし、そこに思考が必要であることはいうまでもない。幸いなことに此処には少なくとも飽きるほど思考時間が存在した。考え事は快楽なのでありがたい限りだ。暇を潰す本もあったのだから。そうでなくばとっくに狂ってしまっていただろう。昔から人は人を嘲り、罵り、羨み、妬み、嫉む。文学からはそうしたものが色々な形で伝えられるのだから面白い。そういうものを読んで、それでやっと気が落ち着く。狂わなくて済んだ。そういえば、小説によって初めて他人に情緒や思考があると知った人間もあるという。当然のことも、極めてみねば判らないことなどは多い。

 

 そういえば、私はどうして此処に居るのだったか。人体実験が仁道義徳に反するとはいえ、さほど驚くべきものでもない。いつの時代も、このように考える人間や死神はどこにでもいるものだ。迂闊にそれを表に出してしまったために此処に居るのはわかるのだが、具体的にどれが不味いのかということまでは、どうやったって思い出せない。

 

 

 不思議と眠れない日もあるもので、そうしたときにはそっと思考の蓋を閉じる。考えるのは、遥か遠い朋友のことだ。ここにはさほどの自由はない。話をするには人がいない。月の出ている夜であれば読書を楽しめたものを、今夜は残念なことに新月だったのだから参った。本が読めないと、気が紛れない。月はちょうど見えないから、今は丑三つ時に近いのか。

 

 彼が来たということは、やはりもうそろそろ問題は起き始めているということだろうか。もう覚えているのすら億劫な記憶のなかにあるのは、崩玉、であったか。あれさえなければ、と恨みがましく思うが、ファクターの一つが欠けてしまうと何が起こるか分からず、恐ろしい。

 やはり、私はかつての私であった頃の記憶を強く引き継いでしまっているらしい。私の元来の性格も「涅マユリ」と似てはいるが、混ぜ物が多いせいで別物と言える程度に乖離していたのだ。気付かなかったから違和感など存在しなかっただけのこと。思い出すことが増えて、以前よりも乖離が酷くなったようにすら感じられる。思考が鈍ってしまわないかだけが今の悩みだ。好んでいたとはいえ、娘として造り出すネムのことを粗雑に扱う気にはならない。それどころかサクラファイブまで造ろうとしている。が、同時に彼女らに愛着を持てるかも不明だ。造ることに執心しても、そのあとのことにまできちんと関われる気がしない。第一、人格のあるものと関わるのは苦手だ。

 

 

 

 

 例え彼が優秀であり、信頼厚くあれど、ただの隊員であることに変わりはない。そして、私が思想犯であることも然りだ。それでも彼は、私が全うに仕事を行えると説得できるというのだろうか。それができてしまうなら、やはりこの組織には決定的な穴がある。出られるに越したことはないが、研究をぶち壊しに来るだけの邪魔も入るということであり、理想には程遠い環境だろう。本当に大丈夫なのか瀞霊廷……しかし、クインシーは未だ来たらず、ここの看守が変わったということから浦原や四鳳院は二番隊にいることも判る。この状況なら、まだましだということも事実だ。出たら面倒になるのは確実でも、研究が出来ない期間が長すぎて退屈しているんだ、私は。「涅マユリ」を演じる手間と天秤にかけても、やはり研究をとってしまうのは詮なきこと。

 

 

 子供を救わなければ。私は、最終的には子供を救わねばならない。黒崎一護と、朽木ルキアと、その友人達を。「涅マユリ」であるならば、どれだけ気に入らなくとも、死にかけようとも、私という個体の精神を塗りつぶして行わなければ。そのためにも研究を、少しでも早く行わなければ。

「……帰りたい」

 なぜ私なんだ。端から見ていられれば愉悦に浸れるのに。いっそ狂っていることに気付かねばよかった。これからより狂い落ちねばならないことなど、知りたくもなかったのに。本当は、他者が泣き叫ぶ姿などあまり見たくもない。痛いのは嫌いだ。見ていて痛くなることも嫌いだ。でも、切り開いて、割り裂いて、擂り潰さないとわからないことだらけだ。もっと知りたいと思うなら苦手でもやらなければと思っていた結果がこれだ。苦痛に歪む顔はさほど気にはならなくとも、痛々しいのはどうしても私の心によくないらしい。

 それでも、予定調和にしなくては。変人で奇怪な十二番隊隊長になる必要がある。浦原喜助は止められまい。ならば、せめて私の存在意義は果たさねば。

 嫌だ、怖い、苦しい。一人は嫌だ。私が私でなくなるのは嫌だ。こんなものを一人で背負いたくない。私は「涅マユリ」ではない。彼ほど心は強くない。彼のようになりたかった。ほんの少し記憶が甦っただけで、才能では誰にも負けないと自負していたのが嘘みたいに砕ける。「涅マユリ」になれるかわからない。でも彼に負けたくない。浦原に負けるのは仕方ないのかもしれないが嫌だ。もう全部ぶち壊してしまいたい。

 

 

 

 ……待て。いや、よく考えたら今の時点でかなり差異があるし、別方向に吹っ切ってしまえば原作とはどう足掻いても違うものになるから何の問題もないのではないか。正確には、問題だらけだが対策の幅が広がる。あと浦原のあの見下したような態度も変化させられるかもしれない。というかあの目は何なんだ。私の方が大先輩だぞ。才能だって目に見えて成果をあげ、認められる程度にはあるのだ。

 悩んでいた義骸については、今の私の髪色が青系統なのだし、改造して赤毛の因子を足せば紫くらいは作れるはず。あと常に義骸に近いものを着用出来ないか試せば死体の偽造が出来るし、ここぞというときに自爆すれば相手に隙も生まれないだろうか。

 

 

 そうだ、私がサクラになるんだよ。

 

 だがしかし男だ。私は今は男だぞ。ぶっちゃけどちらであってもさほど変わりはないが、絵面的にはほんの僅かばかりまずいかもしれない。中から男が出てきて、とか普通は悪夢だ。いや、でもそれはそれでホラーとしてはありなのだが。でも研究としては中々じゃないか。義骸技術で中の人になる? いや、それはVtuberだ。そもそも死神が常着可能なら、それは義骸ではなく霊骸ではないか? それにコンテンツ力は期待できない。中身がこんな狂人のBBちゃんとか居てたまるか。ただでさえ愛憎反転でイビルなんだぞ彼女は。……見た目さえ誤魔化せれば、内部の敵も欺けるか? 開発期間的に無理だな。ただ某万能の人並みのであるという印象は植え付けられる。声は……義骸に変声機を埋め込めばなんとかなるか。

 

 とりあえず、浦原を強請って外に出なければ。話はそれからだ。




 お前がサクラになるんだよ(圧)



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