水と空   作:スプリットS

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第0話

 「今日も飛ぶか。」と思わず呟いた。見上げた空は雲一つない群青色に染まっていて、とても美しく、儚く、そして、僕の背中を押してくれたような気がした。

 

 

 

 鉄で出来た梯子を登り操縦席に乗り込む。この機械に囲まれた独特の乗り物の匂いが好きだ。ショルダーホイストを繋ぎ、ヘルメットを被る。酸素マスクを着け、整備員にOKの合図を送った。

スターターが起動し、スロットルレバーを入れながらエンジンを掛ける。重い金属音がしながらもやがて甲高い音に変わった。

 

管制官からクリアランスを貰いタクシーアウトしランウェイへ。

ランウェイでエンジンをふかし、最後のチェックをする。

「OK!Let's Go!」

僕はその言葉を発し、スロットルレバーを入れ、ブレーキを解除した。

機体はグングン加速し、そしてテイクオフ。

ギアを格納し、フラップを上げ、グレーの色の機体は轟音と共に空へと消えた。

 

 

 

 

ここは静岡県沼津市。

ここに新しく航空自衛隊の基地、富士基地が出来た。それも実戦部隊のだ。

それ故に基地も大きく、近くに富士山の演習場があるため実弾を使った訓練も出来る実用性のある基地だ。

何故ここに新しく基地が出来たって?

それはここの所、伊豆半島沖から不審な飛行物体がやってくるんだ。

当初は百里から出動していたが、それでは燃料と自覚の関係から新たに沼津に作ったという訳。

住民も騒音や事故の懸念から余り良い顔はしなかったが、地道な努力の結果、良好な関係にまで築けた。

まあ基地が出来たお陰で補助金やら、自衛官達が呑みに行くなどしてお金を落とすから経済的に良くなったのが大きい笑

 

 おっと、話が逸れてしまった。俺の名前は湯浅 達也。

F-15戦闘機パイロットで富士基地に配属された航空自衛官であり、この春から高校2年生だ。

 え?何で高校生がパイロットだって?

それは簡単に言うと特待生みたいなものだ。俺は小学校を出て、地元の中学には行かず、自衛官養成学校に進んだ。

 この学校は中学と同様の勉強が出来る上、中卒の資格も取れる。同時に自衛官として訓練もする。いわば陸上自衛隊の少年工科学校の中学校版だ。俺はその中でパイロットコースを選び、勉強と訓練に苦労しながら戦闘機パイロットになれた。

 高校1年の時は俺は茨城県にある百里基地の部隊にいたが2月に辞令が下り、ここ静岡の富士基地に配属になり、沼津に引っ越した。とても良い街だと思う。

 

 

 フラップを下げ、ギアダウン。管制の許可を貰い、俺が操縦する鉛色のイーグルは富士基地の滑走路に着陸した。

 整備の誘導でエプロンにタクシーをし、整備士と連携しながらエンジンカット。キャノピーを上げると整備士がすかさずラダーを掛けて登ってくる。

 「お疲れ様です。」

 「お疲れ様です。」

 「もう慣れましたか?」

 「うん。夜の富士山は怖いけどだいぶ慣れたよ。」

同じ部隊に1か月もいると整備士の顔も大分覚えてくる。

彼もその1人だ。こうやって気を遣ってくれるのは嬉しい。

「それは良かったです。でも確かに夜の富士山は見えないですよね。」

雑談を交わしながら俺はハーネスを外し、コックピットから降りた。

 

 その後、飛行隊に戻った俺はデブリーフィングという反省会を行い、ようやく訓練が終わった。

「湯浅。ちょっと来てくれ。」

ホッとしたの束の間、隊長から呼び出しを受けた。

「はい!」

 

「失礼します!」

一礼をし、隊長室に入る。

「デブリが終わってすぐ呼び出して申し訳ないね。君に話があるんだ。」

隊長は一言謝ってくれた。このちょっとした気遣いが部下から信頼されるのだろう。

「大丈夫です。それで話とは?」

「ああ、そうそう。君は優秀だからアメリカでフライト訓練と同時に高校卒業の資格も持ってる。だから日本の高校にわざわざ入る必要もない。そうだったよね?」

「はい。アメリカでですが高校の勉強は終えてます。…大変でしたけど。」

ほんとに大変だった。なんせパイロットの為の勉強はあるわ、訓練はあるわ、その上高校の勉強って。

「そうか。実はお前にある高校に入って貰おうかと話が来てるんだ。」

「ある高校ですか?」

「そう。これがそのパンフレット。」

隊長が話ながらパンフレットを渡してきた。

そこに書いてあるのは「浦の星女学院高等学校」

「いや、冗談ですか?女子校じゃないですか。」

俺は笑いながら話す。

「実はその高校、廃校の危機にあるらしい。」

「廃校ですか?それが何か関係あるんです?」と俺が聞くと隊長が説明してくれた。

 理由はこうだ。何でも生徒減少の為、学校が廃校の危機に陥っている。そこで女子校から共学化の話が出た。

ただすぐに共学化しても歴史のある女子校だった為、急に男子を入れるとパニックになるのではないかとなったのだ。

そこで共学化に向けてテスト生を入れようとなった。当初は市内の中学校に話をしたものの、誰も希望者はいなかったらしい。

なので俺の所に話が来たわけだ。

ちなみに入学試験は無し。定期試験も学費も免除。訓練がある時は訓練を優先しても大丈夫と目から鱗のような条件だった。

「これ、自分行く意味あるんですかね?」

「まあ学校側としても男子を受け入れての学校生活をしたいのが本心らしいし、俺は折角だし行けばいいと思う。」

「なるほど。」

「訓練の事とかアラートとかは気にするな。それはこっちで調整するし、なにより団司令を通じて依頼が来たんだ。嫌でも調整するよ。」

「団司令からですか。」

「そう。明日その件で団司令から直接詳しく話したいそうだ。午後に団司令はフライトだからデブリの後に俺と3人で話すからまたその時連絡する。」

「分かりました。」

「よし。今日はもう上がれ。お疲れさん。」

「お疲れ様でした。失礼します。」

俺は一礼してから隊長室を後にした。

 

 

荷物をまとめ、駐輪場へ向かいバイクを出す。

バイクにまたがり、エンジンを掛け、走り出す。

免許は取って正解だった。飛行場のある基地は騒音問題もある為不便な田舎にあることが多い。

俺は門で警衛に身分証を見せ、基地の外に出て沼津市内へとバイクを走らせた。

 


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