BURN   作:はち8

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アラバスタ王国
002.死


気が付くと、俺は空に浮かんでいた。

また、これか……。

俺はそう思ったが、違ったようだ。これは、俺の記憶だ。昔の小さいころの記憶。

 

父さんと母さんと、弟の海人と俺が、4人で楽しそうに笑っている。

 

その日は、海人の8歳の誕生日だった。俺の家は、結構な富豪で、俺の誕生パーティーは父さんの知人を呼んだりして盛大にやる。でも、海人はそれを嫌がった。小さいころから人見知りで、いつも俺の後ろに隠れているような子供だった。だから海人の誕生日は、家族だけでケーキを買ってお祝いする。その日も父さんがケーキを買ってきて、お祝いをした。

俺も、プレゼントをあげた。海人がずっと欲しがってた、ヒーローのぬいぐるみだ。

海人はとても嬉しそうに喜んでくれた。

 

 

「うっはぁぁ……!! 兄ちゃん!! ありがとう!!」

 

 

俺はその顔を見て、あげてよかったなと感じた。

 

でも、それから数日して、海人が下校時間になっても、帰ってこない日があった。いつもは俺より早く家にいる海人がその日だけはいなくて、俺はとても心配になった。

もうすぐご飯の時間になる、いくらなんでも遅すぎだろ……。

俺が探しに行こうかなと考えたその時、玄関の戸が開く音がした。海人が帰ってきたのだ。

 

 

「……海人っ!!」

 

 

俺は急いで海人のもとへ行った。海人は、ボロボロだった。体中泥だらけで、口からは血が垂れている。なにより、俺があげたぬいぐるみが、真っ二つに裂けていた。中からは綿が溢れ、見るに堪えないものだった。

 

 

「おまっ……」

「大丈夫だよ、僕は。でも兄ちゃんがくれた、ぬいぐるみが……」

「くっ……。母さん!! 母さん!!」

 

 

海人は泣いていた。傷だって痛いはずなのに、それよりもぬいぐるみのことで泣いていた。俺はそれが嬉しくて、悔しくて。

必ず、海人をあんな目に合わせた奴を、ぶん殴ってやる。俺はそう思っていた。

次の日、海人は学校を休んだ。しょうがないことだと思う。でも、俺とは会話もしてくれなかった。

 

 

「…海人。起きてるか? 兄ちゃんが、ぶん殴ってきてやったぞ」

「………んで」

「ん? なんだ?」

「…なんで、そんなことすんだよ!!」

「……え?」

「もう、僕のことはほっといてくれよ、兄さん!!」

「…………、」

 

 

その日以来、俺と海人の間には、深い溝ができてしまった。それでも俺は何度も海人に話しかけ続けた。でも、海人は答えてはくれるものの、それは全て必要最低限の言葉だけ。

明らかに俺をさけていた。それに、今までは「兄ちゃん!」と、明るく俺を呼んでいてくれたのに、あの日以来「兄さん」と事務的になってしまった。俺はそれが悲しかった。

 

たった1人の、弟だ。大事だった、大切にしてた。海人を傷つけるやつは、全員ぶん殴ってきた。海人の見本になるように、勉強も運動も全てトップを走ってきた。理想の兄ちゃんを目指してた。

なのに、なんで……。

 

 

「はっ、今はこんな記憶意味はねぇ。ただ、海人に復讐するだけだ…」

 

 

 

――――――

 

 

 

海の、波の音が聞こえる。

 

その音に混じって、人の声も聞こえる。

 

なんだ、なんて言ってんだ?

 

 

「……い、おう……こべ……!」

 

 

くっそ、聞こえねぇよ。

 

つーか、寒い。なんでこんな寒いんだ。

 

息もし辛いし、身体も変だ。

 

だめだ、ねみぃ…。

 

 

 

 

 

 

眼を開くと、おっさんの顔が目の前にあった。

 

 

「どぅおっったあああああああああああああああああああああああああ!!」

「…っ!! おお、いきなり大声を出すでない。ビックリするじゃないか…」

「俺の方がビックリだよ!! 顔近いんだよ、顔が!!」

 

 

び、びびび、ビックリしたぁ……。

って、誰だコイツ? あれあれ? 見たことあるぞ、このおっさん。

おっさんは、俺が横たわってるベッドの横に座り直し、口を開いた。

 

 

「私の名前は、ネフェルタリ・コブラ。このアラバスタ王国の国王だ」

 

 

このおっさんが、砂漠の国アラバスタの王。

あの、平和主義者で、変態のエロオヤジか…。なんか、デカいな。漫画で見るより威厳がある。

 

 

「どうした、言葉はわかるかい?」

「あ、はい。わかります…」

「そうか…! よかったよかった。それで、君はなぜあんなところで倒れてたんだい?」

 

 

た、倒れてた…!? どういうことだ、っきしょー、あの説明下手めぇ。

まぁ、いい。そういうシナリオなんだろうな。任せろ、うまく演じてやる。

 

 

「倒れていたとは…?」

「ん、覚えていないのかい? 君は、西の海岸で倒れていたんだ。それを娘が見つけてね、私が引き取ったというわけだ」

 

 

コブラがしゃべっている。俺の目の前で…。それだけで、本当に"ONEPIECE"の世界に来たんだって感じられる。

なんか、テンション上がってきた。娘って、コブラの娘ってアレだろ?

 

 

「覚えてないです…」

 

 

これで、よし。記憶喪失とは、便利なものだ。何か聞かれても、「覚えてません」で済むからな。まぁ、ばれないように演技しなきゃいけないのは、確かにめんどくさいが、そのめんどくささを補って余りあるほどの安全が保障される。実にいい属性だ。

 

 

「ふーむ、そうか。なら、今日は泊まっていくといい」

 

 

ほらな。コブラも、それならしょうがないという顔をしている。さらに、願ってもないことを言いだしてきた。よっしゃー。だが、一度だけ遠慮をする。それにより、常識を持ち合わせているということをアピールするのだ。

 

 

「いえ、申し訳ないです。助けていただいたのに、そこまでしてもらうなんて…!」

「助けるというのは、どこまでを助けるというのかね? 倒れていたから、家へ運び、目を覚ましたら追い出すのか? それを助けるとは言わないだろう。助けていただいたというのなら、体力が回復するまでここにいたまえ」

「は、…はい」

 

 

コブラかっこいい――!!

なんだ、コイツ。俺もこんな男になりたい。

 

 

「しかし、君は……子供とは思えないほどしっかりしているな。親御さんが、きっといい育て方をしたのだろう」

「は、はぁ……」

 

 

子供だと…? 俺はもう、16だ。高1だぞ! そりゃ、あんたから見たらまだ子供に見えるかもしれない。でも、もう大人の仲間入りしてると言ってもいいだろう。

 

コブラは、自分の脇から何かを取り出した。

そして言った。

 

 

「ほら、これは君の近くに落ちていたものだ。これを見れば、記憶が戻るかもしれない。では、私はもう行くよ。しっかり休んでくれよ。ビビ、行くよ」

 

 

ちょ、待って。ビビっつった?

ビビ…、お、いた。かーわえー、いや、ちっちゃいなー。

え? いや違うよ違う。ロリコンちゃうね。違うからね?

 

っと、行っちゃったな。さて、次はこれだ。コブラに渡されたこれ、近くに落ちていたらしい。

だが、俺はこの世界に何も持ってきてはいない。なら、これは?

開けてみればわかるのか? だが、こちらは一旦置いておく。もう一つあるんだ、渡されたのは。

もう一つは、日本刀。ちょっと、ドキドキしてます。そりゃ、俺だって日本男児だ。日本刀に憧れはある。

鞘から刀を抜いてみる。綺麗だ…。日本刀には、詳しくない。けど、見とれてしまう。

いやまぁ、ただ単に刀に見慣れてないだけかもしれんが………。

これは、たぶん斬魄刀だ。ありがとう、神よ。これで死なずに済みそうだ…ありがとう、神よ!!

 

さて、残るは、この袋か。中には、何がはいってんのーかなー。

おっ、最初に出てきたのは、死神の衣装である、衣装ちゃうか…、死神の着物、死覇装。

真っ黒いなー。てか、これ小さくね? 入るかなー……。

まあ、後で試すとして…次に出てきたのは、メモ帳サイズの紙。

内容は、

 

『よお、無事転送できたようだな。言い忘れたことがあったから教えておく。今のお前は、5歳の姿だ――』

 

て、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ?????

ちょまっ、え? ちょ、……え?

 

『――中に手鏡を同梱しておいたから、確認してくれ。あと――』

 

手鏡? なかなか気が利くね神のくせに…いや、神だからこそかな。そんなことより…あった。

さっそく確認する。

ほ、ほんとに子供やん。俺の小さいころの顔だ…。どうせならイケメンにしてくれよ。神のくせに気が利かねぇ…。いや、神だからこそか…。

 

手鏡に映っていた俺の顔は、日本ならよく見る子供の顔だ。黒い短髪の髪に、パーツが中央寄りの子供顔。

…あれ、でもよく見ると顔のパーツが整ってる。コンプレックスだった、低い鼻が高くなってる気がする。

き、気のせいかもしれないが……、いや、子供の時だけって可能性があるな。ま、どっちでもいいか。

 

手紙には、続きがあった。

 

『――今のお前は、我――スルトと同化している。しばらく目覚めることが無いと思う。だが、目覚めたときはよろしく頼む。では、しばらく…』

 

い、意味わかんね―――――!! なんだよそれ、何? 俺神になっちゃったの? それなら、もう、目的達成じゃね?

なんなんだ、この神。ちゃんと説明しろやボケ!!

…もう、いい。諦めよ、目覚めたとき、覚えてろや…!!

 

 

「さてと、どうすっかな…? とりあえず、死覇装に着替えるか」

 

 

俺は、その日死覇装に着替えたあと、睡眠にふけった。身体を酷使したつもりはないが、疲れていたようだ。

当然っちゃ当然である。俺は、今日殺されたんだ。傷が無くなったとして、トラウマになってもおかしくないレベルだった。

 

殺された。

 

弟に。

 

海人に――――

 

俺はそのことを考えると、胸の内が黒く染まっていくのを感じる。俺ではない何かが住み着いているような、そいつが俺を支配しようとしているような…。しかし、そんなわけはないのだが。

 

 

 

――――――

 

 

 

次の日。

鳥の鳴き声によって目覚める。そんな、夢を俺はひそかに持っていた。だって、気持ちい目覚めを得られそうじゃん?

けど――

 

 

「起きて――――――!!」

 

 

女の子が俺の上に飛び乗ってくる。

 

 

「げふぅっ……」

 

 

俺はそんな声を出しながら、身体をくの字に折り曲げながら、まぶたを開いた。

くそっ…、誰だ!? こんな物理任せの起こし方する奴はぁ…!! 俺は優しさを求めてるんだよ!!

 

起こし主は、ビビだった。

端整な美しい顔が、目の前にある。はからずも俺は、頬を染めていることだろう。綺麗だった。決して俺はロりコンではない。なんつうか、うん、美々だね、うん。

すごい! 理屈抜きに可愛い!

それでいこう。あんま、好きじゃなかった。ごめん、謝る。実物超カワええ…。

 

――美少女に起こされるのも良いかなって思った…。

 

 

「な、ななな何かな?」

「キミ、お名前なんて言うの?」

「…俺は、山本陸人」

「ヤマモト・リクト…。あたしはネフェルタリ・ビビ。よろしくね!!」

「お、おう」

 

 

ビビは、なんだろう…?

なんつーか、積極的な奴だな…。俺がテレで縮こまってても、手を引いて振り回してくるようなそんな奴だ。

現に、今俺はビビに、腕を捕縛されている。

 

 

「おい、ネフェルタリ…」

「ビビでいいよ!!」

「…ビビ、これはっ…あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

「ついてきて―――――――――!!」

 

 

ついてきてっつーか、連れていかれてるんですけど…。

俺は、ベッドの横に置いていた斬魄刀を取るのが、精一杯だった。ふがいない。

 

連れて行かれたのは、城を出て、農家が多く住んでいる町はずれ。

ここは、見たことあるな…。まさか、

 

 

「コーザ!! 皆、レイーン!!」

 

 

前方に、多くの子供たちが溜まっているのが見えた。ビビは、そこに向かって手を大きく振る。

コーザってのは、聞いたことがある。でも、レインって誰?

 

 

「おう!! ビビじゃねぇか、遅いぞ。今日は早く集まろうって、言ったのに…」

「えへへ、ごめんね」

「んで、誰コイツ」

 

 

コーザだ。今、ビビと話しているのは、コーザ。後々の、重要人物。

なら、やっぱりこいつらは、砂砂団か…。周りには、少なく見積もって20人ぐらいの子供がいた。あれ、多くない?

 

 

「えっとね、リクトって言うの。確か…キオクソーシツで、覚えてないんだって。仲間にしようよ!!」

「記憶喪失ねぇ…。リーダー、ビビが変なの連れてきましたよ」

 

 

コーザは、ビビぼ横で倒れている俺を一瞥し、後ろを振り返ってそう言った。

…え? リーダー?

 

 

「へぇ、リクトか。知らない名だ…。おれは、レイン。この砂砂団のリーダーだ」

「レ、レイン……?」

「ああ、よろしくな」

 

 

レインと名乗った男の子を見つめる。短髪で逆立っている、明るい青色の髪の毛で、ケンカの強そうなジャイアン的雰囲気を醸し出している。

そいつが、いきなり立ち上がり言った。

 

 

「んじゃ、全員集まったし始めるか!! 皆、聞いてくれ」

 

 

その一言で、場が静まる。……なんだ、このカリスマは!?

レインは周りを見渡しながら告げる。

 

 

「本日の業務は、かくれんぼ―――――――!!! 鬼は、ビビ。始めェえええええええええええええ!」

 

 

子供たちが一斉に散った。

やばい、出遅れた! そう思った時、すでに遅し。

もう周りには誰もいない……ん?

 

 

「こっちに来い」

 

 

突然、身体が浮いた。

 

は? は?

 

 

「動くな。俺だレインだ。隠れるぞ!」

 

 

俺は今、レインの肩に担がれた状態。

なにコレ――――? レインマジやば、筋力ハンパねっ!!

 

俺はレインに担がれたまま、砂山の後ろに隠れた。

 

 

「よし、これでしばらくは大丈夫だな」

 

 

レインはビビの居場所を確認してから、俺の方に向き直った。

俺はその視線を正面から受け止めた。

 

 

「何で俺がお前を連れて隠れたか、わかるよな?」

 

 

単刀直入に、枕詞など全くのなしに。直接的にそう言い放った。

 

 

「……ああ」

 

 

わかってる、わかってるよ。

俺は、こいつを(,)(,)(,)(,)

モブキャラか? とも思ったが、砂砂団のリーダーをするくらいだ、モブな訳がない。

なら、コイツは誰なのか?

 

 

「リクトだっけか? 俺は、お前のことを(,)(,)(,)(,)

 

 

レインはここで一旦言葉を切り、続けてこう聞いてきた。

 

 

「お前も転生者か?」

 

 

これを聞いてくるということは、やはりレインもそうなんだよな。いやでもしかし、転生者が2人もいるなんて聞いてねぇぞ……?

あのクソ神やろー、どんだけ説明端折ってんだよ……。

俺はため息をつきながら答えた。

 

 

 

「やっぱ、お前もそうなのか……」

「その答えはイエスととらえていいよな?」

「ああ……、でも転生者が俺の他にもいるとは思わなかったぜ……」

 

 

俺は自分のこの発言に、レインの同意を得られると思っていた。

けれど、現実はそう思い通りにはならなかった。

 

 

「んー、ま、そうだけどさ。けど割といるぜ? 転生者」

「は?」

「お前と俺を入れて、えーと……12だな。12人の転生者がいる…………って、これ俺を転生させた神が言ってたけど聞いてねぇの?」

 

 

聞いてない。まったく、何もかも……。

 

 

「ヴ……ヴヴ………」

 

 

くそっ……。完全にはずれくじじゃん。

なんだよアイツ。ゴミだゴミ、凄そうなのは見た目だけかよっ!

 

 

「んで、神はこれも言ってた」

 

 

俺の心中とは裏腹に、明るい顔でそう言った。

 

 

「……あん?」

「他の10人と協力して、ヤマダ・リクトを始末すれ(殺せ)ば、なんでも願いをかなえてくれるってよぉ!!」

「…グフっ……!!?」

 

 

思考が一瞬止まった。

視界もぐるぐると回って気分が悪い。地面を転げまわり、血を吐きだしながらなんとか身体が止まる。

 

腹を抉られながら思いっきり殴り飛ばされた。

回復した思考でなんとかそのことを認識する。

 

 

「ぐ…ガハッ! ……ゲホっゲホっ……!!」

 

 

くっそ! 腹が痛い、呼吸が辛い、口の中が血の味。最悪だ。

 

 

「ちぃ……! 生きてやがるか。まぁ転生者だし! ここ"ONEPIECE"ん中だし、しゃーねぇか……」

 

 

レインの方を見ると、右腕が何か別のものに代わっていた。俺にはそれが、人より上位の化け物の腕に見えた。

そのことが、以上に怖い。恐ろしくて足が震える。

 

 

「あ? ああこれ? いいだろぉ……チャドの力だぜ! 俺ァよ、チャドが一番最強だと思ってんだよね!!」

 

 

チャド……。聞いたことがある。

確か、"BLEACH"の茶渡(さど)泰虎(やすとら)の愛称だったはずだ。

その力は、"巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)"と"悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)"

ならあの右腕は、"巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)"か。

 

レインは、いまだに動けずにいる俺に向かって、拳を振り絞る。

 

 

「死ね!」

 

 

伸びた拳の先から、拳撃が飛ぶ。

迫ってくる拳撃に対し、腰が抜け、直撃した。

 

身体から煙が吹き出し、焦げ臭いにおいがする。

 

放たれた拳撃によって、俺の身体はこんがり焼かれた。

 

 

「いつまで、そうしてるつもりだ。さっさと立ち上がってかかってこいよ!! 俺は! 殺し合いがしたいんだよ!! お前ももらってんだろ!? 転生者の特典(ちから)をよォォ!! 俺がもらったこの転生者の特典(ちから)とぶつけ合おうぜェェ!!」

 

 

そうだ。

俺ももらったんだ。

たいした感動ももらえず、事務的に手早く終わらせられた割には、説明不足が多かった転生イベントだけど、俺ももらったんだよ。

夢みたいな転生者の特典(ちから)を。

 

……待てよ。

でもこれ、ホントに使えるのか? 俺が元から使える力みたいなこと、言ってなかったか?

ぶっつけ本番か? 失敗したらどうなる。死ぬのか? その前に殺せるのか? 人を。やらなきゃ、やられる。死にたくない。殺したくない。殺されたくない。

 

『お前が支配者になれ。"ONEPIECE"世界の』

 

(あいつ)はそう言っていた。

 

『そんでもって、その世界の神を殺すんだ。そうすれば、神になれる』

 

(あいつ)はさらにそう言っていた。

 

……ちょっと待て。

レイン(あいつ)は、転生者の特典(ちから)とか言ってたよな。俺もつられてそう思っちゃったけど、俺の場合ちがくね?

(あいつ)は、願いをかなえてやると言っていた。"ONEPIECE"世界に転生させる代わりに、願いを。と。

それが転生者の特典(ちから)でいいのかな?

俺は元の世界に転生させてくれと言った。なら、俺の転生者の特典(ちから)はそれなのか?

 

いや、わからねェ。なら俺のもらった戦う力の方はなんなのだ。

 

だーもう! わかんねェェ!

 

 

俺は、何しに来たんだ? こんなとこまで――――

 

――――復讐だ。弟を殺すため、この世界の神を殺す。

 

 

「なら、人一人簡単に殺せるだろ」

 

 

目的を再確認した俺は、腰の斬魄刀を抜きながら、レインを鋭く睨む。

 

 

「……へぇ、良い目だ。その目だよ! その俺をぶち殺すって目ェ! ムカつくその目を恐怖で埋め尽くした時の快感!! それを今から味あわせてくれよな!!」

 

 

さぁ、落ち着けよ俺。敵を見据えろ。

 

 

「おいおい、お前のそれまさか斬魄刀かぁ? なんだよ、かぶってんじゃん"BLEACH"かぶりだよ。………でもいいや、俺の方が強ェ。チャドの力で、死神(テメェ)の首ねじり切ってやるよ」

 

 

俺の斬魄刀が、何の力を持っているかはわからない。わかっているのは、『俺の考える最強斬魄刀』の中の力。

でもそれは却下。考えるまでもない、恥ずかしすぎる。

 

ならどうするか、神の言ってたことを思い出せ。

 

『なら、お前を少し強くしとく。お前の記憶の中から一番扱いやすく、一番成長するものを』

 

そうだ。

斬魄刀の中で、一番扱いやすく、一番成長するもの。

扱いやすいかはともかく、成長するのは――――

 

 

「"斬月"!!」

「っ!?」

 

 

俺の掴んでいる斬魄刀が光りだし、その形状を変え、呼び出したものが姿を現す。

 

 

(つか)(つば)もハバキも無い、出刃包丁のような形の巨大な刀身のみ。それが"斬月"だ。

 

 

「登場したばっかで悪いけど、速攻で終わらせる」

 

 

俺はレインにそう伝える。俺は喧嘩もろくにしてなかったし、戦闘なんかもってのほかだ。だからこの状況もどうしたらいいかわからない。

 

 

「"月牙天衝(げつがてんしょう)"!!」

 

 

必殺技を撃つことしかできない。なので、とりま撃つ!!

斬月を振りおろすと、刃先から巨大な斬撃が放出された。

 

 

「くっそ、"巨人の一撃(エル・ディレクト)"ォォ!!」

 

 

レインは俺の攻撃に反応し、向こうも必殺技のパンチを繰り出す。その攻撃によって俺の飛ばした斬撃が霧散した。

 

ちっ、やばいな。俺の"月牙天衝"が効かないとなると、もう手がない。

 

 

「あれ? なんか、こっちから大きな音がしたぞ~!」

 

 

この声は、ビビだ。……まずい、こんなところを見られたら――――

 

 

「ちぇっ、メンドくせぇな。殺すか……」

 

 

は?

おい、あの野郎なんて言った? 殺す? 殺すだと? ビビを?

 

 

「おい、腐れ外道。誰を殺すつった?」

「あ? なんだよ、ビビだよ。ビビィ! だって面倒だろ? こんな場面を見られたら」

「確かにそうだけどよ、殺さなくてもいいだろ」

「いや別に、ビビ一人死んでも何の支障もねぇだろ」

「あるだろーが、ビビはこの世界の重要人物だろーがっ!!」

 

 

その時、レインの顔からバカにした笑みが消え、変なものを見る顔になった。

 

 

「俺がいつ、この世界の話をした? 俺が言ってんのは、俺の計画だ」

 

 

そ、そうだった。転生者(こいつ)は……いや、転生者たち(こいつら)は自分の欲望のため、夢のために、この世界を犠牲にして俺を殺そうとしているんだ。

 

……俺しかいないか。

 

 

「させねぇよ」

「あ? 何のつもりだ……?」

「何のつもりもクソもねぇよ。俺はこの世界の"神"になる」

「…………頭腐ってんのか? それとも恐怖でイカレたか?」

「腐ってんのはテメェだろ。仕事だ、仕事。なんで、世界を守ってやるよ」

「ほざけよ! てめぇにゃ、何にも守れやしねェ!!」

 

 

行くぞ、俺! 覚悟を決めろ!!

一瞬、力を足に溜め、レインに向かって走り出す。

レインは笑いながら後ろに下がった。その先にいたのは、ビビだった。

 

 

「あ! レイン見っ……け? 何!? その腕!! リクト!? 君も怪我が……!」

 

 

ビビが俺らを見て、驚き、口に手をあてている。

俺はビビに叫ぶ。

 

 

「ビビ! 今すぐここから逃げろ!!」

「……え?」

「いいから、早く!!」

 

 

俺の心臓が、活発に動き出した。

なにか、なにか嫌な予感がする。それもこれも、全てあの汚らしい笑みを浮かべるあの野郎(レイン)のせいだ。

レインがビビの横に立った。

やばい、やばい! まだ、レインのところまでは距離がある。

 

 

「ははは! 何頑張ってんの? 所詮、物語の中の人だろ? ウザいからテメェのその顔、歪ませちゃうか!」

 

 

レインが左手でビビの顔を掴んで少し浮かせる。

ビビの顔が恐怖に移り変わる。

 

 

「う……ゔゔ……」

「くそがっ!! なんで逃げなかった!」

「だ、だって……リクトの顔が、に、逃げないでって……言ってたから…」

「……っ!」

 

 

お、俺のせいか……?

俺が弱いせいで、俺の心が弱いせいで、ビビがおれを一人にしないように…。

 

俺の中で感情が爆発した。

 

 

「ううぅぅぅわああああぁぁぁぁぁぁ!! "月牙"……"天衝"ぉぉぉぉ!!」

 

 

俺の身体より大きい"斬月"を、左から右へ一閃する。刃先より発せられる斬撃は、レインに向かって直進していった。

 

 

「うぜぇ」

 

 

レインは一度だけこちらへ向き直り一言。それだけ言うと、右腕の盾で斬撃をはじきもうこちらを見なかった。

 

 

嘘だ。嫌だ。死なせたくない。ずっと一緒にいたい。俺の隣に。やめてくれ。殺さないで。一人にしないで。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

 

「ィヤメロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

【目覚めの時か……】

 

 

身体の中で、別の何かの心臓が躍動し始めるのを感じる。何だこれは? 良くわからない、けど安心する。徐々に俺の心臓と呼応していって、遂には一つになった。

 

 

【よう、人間。久方ぶりだな、俺だ】

 

 

あんたは、あん時のクソ神……。なんで声が聞こえる?

 

 

【ひどい覚え方だな。あの時言っただろ、これからは、お前がオレで、オレがお前だからなって】

 

 

そのまんまの意味ではとらないだろ!! ふつう!!

 

 

【まあいいよ今さら、とりあえずそういうことだから、よろしくな】

 

 

なんだよそれ…。意味わかんない、理解したくない。

 

 

【それより、神になる話の方はどうだ? 進んでるか?】

 

 

うるせぇよ。今そんな場合じゃねぇよ。黙ってろ。

 

 

 

何でかはわからないけど、さっきよりすこぶる調子がいい。今ならいける気がする。

 

 

「レイィィィィィン。調子に乗ってんじゃねぇぇぇぇぇぇえぞぉぉぉぉぉぉぉぉおらっ!!」

 

 

レインまでの残りの距離を一足で詰め、斬月をレインの脳天目掛けて振り下ろす。

 

 

「げぇっ!?」

 

 

すんでのところで避けやがった。けど、まぁいい。ビビを掴んでいた手は離れたから。

 

 

「ったく、しつこい奴だなお前。いい加減諦めろよ」

「しつけぇのはお前だろ。言っただろーが、誰も殺させやしない。俺が守るって」

 

 

ビビを寝かせ、レインに向き直る。

俺はレインに注意を向けたまま、クソ神に聞く。

 

なあ、斬月の"卍解"はできるか?

 

 

【できるぞ。ってか、説明しなかったっけ?】

 

 

死ね。永眠しろ。言われてねぇよ、クソ神が!

 

聴きたいことは聞けたので、右手に掴んでいる"斬月"を前に突き出し、左手で右腕を掴む。

集中しろ、一瞬だ。一瞬で殺せ。防御する暇を与えるな、視認する暇を与えるな。

 

 

「なんだぁ? もしかして、ソレ"卍解"?」

「……っ!?」

 

 

ばれた。まずい、反応されるかも。

 

 

「それはやべぇな。俺も少し本気を出すか! "悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)"」

 

 

左腕が変化していく。白い悪魔の鎧に。

開いた左手を閉じたところで、レインの姿は消えた。

 

 

「"魔人の一撃(ラ・ムエルテ)"」

 

 

気づいた時には、俺の身体は宙に吹き飛ばされていた。

また、これか……。

 

 

【情けないな。"テュール"の手先ごときにやられてんなよ】

 

 

頭に直接声が響くが、俺は呼吸ができない苦しみを耐えるのに必死で、聞こえなかった。

右胸に穴が開いている。見るのは怖くてできないが、ひゅー、ひゅー、と音がするので恐らくあっている。

 

やばい。やばい。死ぬのか? 俺は死ぬのか?

 

 

【落ち着けよ。俺が力を貸してやる。ここで死ぬのは俺も御免だからな】

 

 

倒れた体勢から立ち上がり、レインを見据え、再度斬月を突きだし、左手で右腕を支える。

身体が勝手に動いているが、そんなこと気にかからないほど、脳が機能していなかった。

 

血が回らねェ。頭も回らねェ。

 

 

「"卍解"……"天鎖斬月"」

 

 

俺よりデカかった斬月が、俺の身の丈ほどの漆黒の日本刀に。死覇装はロングコートのような独特の死覇装に変化した。

 

 

「おいおい、マジかよ。死んだと思ったのによ……。さすがにそこまで行くと怖いよリクトぉ! でもでもぉ! 無理してる感ハンパないんで、宣言通り首をねじり切って差し上げましょう!」

 

 

数歩で距離を詰めてくるレインの動きが、今度は見えた。なので、レインのやってくるであろうところを予測し、天鎖斬月を置く。

 

 

「……ぐふっ! って、くそがっ!! やっぱスピードじゃ……っちぃ。いてぇ、いてぇよ。いてぇ!!」

 

 

腹に天鎖斬月が刺さったことに気づいたレインはすぐに下がり、腹を押さえて叫び始める。

まだだ。まだ、死んでいない。

薄れゆく意識の中でそれを感じとり、足を踏み出す。

 

 

「……っがぁ! なんで、なんで、意識もうないんだろ? なのになんで!! キモいんだよお前ェェ!」

 

 

レインの駄々っ子のような咆哮に、計り知れない何かを感じ取った俺は、数歩後ずさった。

 

 

「ぶち殺してやる! お前が死ぬまで何度だって、何度だって殴って殴って殴って殴って細切れになるまで殴り続けてやる!!」

 

 

狂ったような殺意に、一抹の恐怖を覚え動きを止めてしまった。

 

 

【バカがっ! 当てられてんじゃねぇよ!!】

 

 

レインは俺の懐にすでに入り込んでいた。

 

 

「"巨人の一撃(エル・ディレクト)"」

 

 

鳩尾に鋭い衝撃。声を上げることすらままならない。後ろによろけたところでさらにもう一撃。

 

 

「"魔人の一撃(ラ・ムエルテ)"」

 

 

腹にもう一つの穴が開いた。ここまでされてもまだ俺は死なない。何故なのか、自分でもわからない。

 

 

【俺が何とか生かしてんだよ!】

 

 

もう終わりかと倒れようとしたが、終わりではなかった。レインは両腕を振り絞り、同時に突きだしてきた。

 

 

【やばいやばい! "月牙"撃て、"月牙"ぁ!】

 

 

言われた通り、"月牙天衝"を撃とうと腕を上げる。それだけで腹から血が溢れ出て、口からも垂れ流れる。

苦しい。もう意識を失いたい。でも、死にたくはない。

 

だから、撃つ。

 

 

「"魔巨人の一撃(グローペ・デ・アン・イノルメ・ディアブロ)"」

「"月牙天衝"…………」

 

 

黒い"月牙天衝"と"悪魔と巨人の拳"がぶつかり、"巨人の右腕"と引き換えに、俺の身体が爆散した。




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