精霊術師の異世界旅 更新休止   作:孤独なバカ

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恩人

「……これどうするんだよ。」

 

俺はポツリと呟く

車内はベンチシートになっており、運転席には当然ハジメが乗り、隣の席には愛子が、その隣に俺が乗りユエ、シア、ハナは後ろの席で遊んでいるのだが

しばらくハジメと話していた愛子先生だったがうんうんと頭を唸って悩むうちに、走行による揺れと柔らかいシートが眠りを誘い、いつの間にか夢の世界に旅立った。ズルズルと背もたれを滑りコテンと倒れ込んだ先は俺の膝の上である

 

「……そういえばお前愛子先生に甘いよな。」

 

運転しているハジメが聞いてくる

 

「ん?そうか?」

「そういえば救われたって言ってましたよね?先生のことを恩人だと。」

「……う〜ん。一言でいうならば生き方を教えてくれたんだよなぁ。俺って正直中学時代ってなんの為に生きていたのか分からなくてさ。」

「……生き方?」

「俺、元いた世界では小説家やっているんだよ。」

「それも超売れっ子なんだ。最年少小説家としてもかなり有名だし売れない作品はないって言われているほどの。俺も読んだけど恋愛小説が特に上手くて先生と生徒の報われない恋心を書いたやつなんかめちゃくちゃ切ないんだよなぁ。今頃のドラマ化されているんじゃないのか?」

「だろうな。月9でドラマ化するって話だったし。」

「……凄い。」

「読んでみたいです。」

「……だから挫折も大きかったんだけどな。」

 

俺は少しため息を吐く

 

「何というか、スランプっていうか自分が読んでも面白くないって思う時期があって、一時期学校すら行かずにずっと悩んでいた時期があるんだよ。実際そのころに出した作品は全く反響がなぁ。中学三年のころは受験も重なって踏んだり蹴ったりでさらに親父たちの世話だってあったしな。」

 

実際あの時眠れなくて隈ができたり結構精神的にも来たんだよなぁ。

 

「……まぁ、結局高校入ってもしばらくはそんな感じでさ。元々楽しんでやっていたから売れていたわけであって、売れる作品を書こうとして、面白いものが書けるわけないんだよなぁ。」

「……だろうな。俺も経験あるわ。」

 

物作りが好きな俺とハジメはどこか似ているところがあったな

 

「んで、思いっきり悩んで、眠たくてもストレスからか眠れなくて、思いっきり黒い隈ができてなぁ。そのせいか入学式からずっと怖がられていてなぁ。ハジメは中学時代から仲よかったけどそのほかは全く。ゾンビとかグールって呼ばれていたしなぁ。それに会社から小説のことは対外に漏らしたらアウトだし。だから相談ができなくて。かなり苦しかったな。」

 

事実本当に苦しくて夜中に吐いたりもしたよなぁ

 

「まぁ、その時に助けてくれたっていうか救いの糸を出してくれたのは先生ってわけ。あの人は先生だからな。何度も何度も俺のことを気にしてくれて。結構きつい口調や突き放すことを言っていたんだけど。見捨てずずっと俺の先生であり続けた。だから結構嬉しかったんだよ。んで先生見てるとから周りも多くて愛されキャラだろ?だから書いていた原稿を全部捨てて愛子先生をモデルに小説を書いてみたかったんだよ。そしたら久しぶりに面白い作品が書けて。」

「それが『愛される先生』ってわけか。」

「……まぁだから結構配役とかも監督に頼んで先生みたいにちっこくて愛されキャラの無名の人を使って欲しいって頼んだんだよ。結構まじで大変だったんだぞ。だから先生は俺にとっては恩人ってわけ。まぁもうちょいドジなところは直して欲しいけど。」

「先生の尻拭い全部お前だもんな。」

「八重樫は天之河、先生の面倒ごとは俺ってクラスの中で暗黙の了解があったよなぁ。」

 

少し笑ってしまう

 

「……まぁ、少し寝させるか。最近清水が行方不明になって寝れてないんだってさ。それに俺とハジメが見つかったんだから。」

「……そういえば、先生って俺に何が言いたかったんだ?」

「……自分で考えろ。最近父親やっているせいで俺オヤジ臭くなっているんだから。」

「自分で言うのかよ。」

 

といいながら自動車は山へと歩いていった

 

 

 

 北の山脈地帯

標高千メートルから八千メートル級の山々が連なるそこは、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。

 

「やっぱり弱い魔物の反応ねぇな。」

 

そらを飛びながら俺も目で捜索しているのだが

 

「あの、渋谷くん本当にこれ大丈夫なんですか?」

「先生。ちょっと静かにしてください。一応これ依頼なんで。」

 

俺はすぐそばで震えている愛子先生

まぁさすがに上空50m近くで魔法で浮いているとはいえ怖いことには違いないか

 

「ハジメ。そっちは?」

「こっちもまだ反応ねぇよ。」

「こっちも魔物の反応さえない。少しやっぱり様子がおかしいな。」

 

俺は魔法を使い降下していく

 

「どういうことですか?」

「……魔物がいなさすぎる。最近じゃそこそこ強い個体は残っていたんだけど。」

「……うん。ダメ。鳥さんたちも生きている人はいないって。」

「生命反応は?」

「まだあるよ。」

「……つまり空では見つけられないってことだから。」

「洞穴中心に探していった方がいいだろうな。」

 

俺は地図に印を書き込むとハジメの表情も次の瞬間には一気に険しくなった。

 

「……これは」

「ん……何か見つけた?」

 

ハジメがどこか遠くを見るように茫洋とした目をして呟くのを聞き、ユエが確認する。

 

「川の上流に……これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。ユエ、シア、行くぞ」

「ん……」

「はいです!」

「俺も行くぞ。ハナ。先生飛ぶから。」

「うん。」

「またですか!!」

「ついでに急いでいるからお前らも運ぶぞ。」

 

俺はそうやって精霊術をかけるとひっと全員の叫びごえが聞こえる

ハジメに案内されたその先には上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ

……ここで戦闘があったらしいな。

そのような印象を持ったのは、抉れた部分が直線的であったとのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて、何十メートルも遠くに横倒しになっていた。三十センチ以上ある大きな足跡も残されている。

 

「ブルタールで間違いないな。」

 

俺は断言する

 

「本当か?」

「あぁ何度か戦闘になったことがある。普段は二つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ないはずの魔物だ。それに、川に支流を作るような攻撃手段は持っていないはずでなんだけど問題は。」

 

このブレスの後だろうこの辺りで見られるとしたならば

 

「……龍で間違いないだろうな。」

「龍?」

「一応北に5つ行った先に龍の巣があるんだよ。もしかしたら赤龍かもな。規模がでかすぎる」

 

するとハナも反応があった

 

「……引っかかった。下流5kmの滝壺の奥の洞穴に生きている人がいるよ。」

「……サンキューハナ。」

「生きてる人がいるってことですか!」

「何とか間に合ったぽいな。とりあえず慰留物だけ拾ってそこに向おうぜ。」

 

俺はテキパキと慰留物を拾い空間魔法で作った異空間ボックスに入れる

 

「ユエ、頼む」

「……ん」

 

 ハジメは滝壺を見ながら、ユエに声をかける。ユエは、それだけでハジメの意図を察し、魔法のトリガーと共に右手を振り払った。

 

「〝波城〟 〝風壁〟」

 

すると滝壺も水が真っ二つに割れる。

 

「……へぇ。ユエさん。魔力の使い方上手いな。」

「……まだまだ渋谷には及ばない。」

「俺はケンでいいぞ。ハジメにはそう言われているし。ユエさんもそっちの方が呼びやすいだろ?」

「ん。それじゃあこっちもユエでいい。」

「分かった。」

「おい。ユエ。ケン。魔法使い同士話は合うのはいいけど魔力勿体無いから早くいくぞ。」

 

ハジメの言葉に滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所へ踏み込んだ。洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ている。一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。

 

「……軽く衰弱しているな。ハナ。回復魔法。」

「うん。精霊の元に全ての命を救い給え。白癒。」

 

すると白い光がフワフワと男性の体に浸透している

 

「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

「えっ、君達は一体、どうしてここに……」

「ウルの街の冒険者ギルドから派遣された渋谷健太だ。それと。」

「俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。生きていてよかった」

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたたちも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

「それで悪いけど何があったのか聞かせてもらっていいか?一応ギルドに報告書を提出しないとまずいから。」

 

すると頷く

要約するとこうだ。

ウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認することもせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つことしか出来なかった情けない自分、救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

「……はぁ、それがどこが悪いんだよ。」

 

俺は少しため息を吐く。

 

「俺だって正直一度死にかけているし。そこのハジメだってそうだ。ハジメもそう思うだろ。」

「あぁ、生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

「だ、だが……私は……」

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

「……生き続ける」

「……まぁいっちゃ悪いけど俺は死にかけたことは正直よかったって思っている。もし落ちなければ出会えなかった人もいるしな。人生悪いこともあるけどいいことだってある。これからの人生をどうするかっていうのが一番大事なことだぞ。」

 

すると俺とハジメはこれ以上は何も言わずに立つ

 

「ハジメ。」

 

俺は空間魔法から一つの瓶を取り出し投げる

 

「おい。これなんだよ。」

「精霊族特製エリクサー。世界樹の葉と世界樹の果実、聖水でできたものだ。ポ◯モンでいうかいふくの薬だ。今日のお礼に渡しとく」

 

するとポカンと口を開ける

 

「……お前なんていうもんもっているんだよ。」

「一応薬師がいるんだよ。特製エリクサーを作る。お前のところヒーラーいないだろ?10個ほどあげればいいか?」

「……はぁ。お前随分いいところに転移されたんだな。」

「でもここから10つ以上も奥に行った山脈にある村だぞ。オルクスの大迷宮や【グリューエン大火山】より魔物は強いぞ。」

 

実際普通なら死んでます。するとハジメもそれが分かったらしく俺に肩に手を置くだけだった

 

「とりあえず、これから俺はもう一つの依頼の調査するからここでお別れだろうな。」

「……魔物の調査か?」

「あぁ。さすがに俺はそっちがメインだからな。まぁだいたい目星はついているから首謀者を殺して終了かな。……さすがに先生たちも戻ってほしいな。さすがに龍相手に守りながら勝てる自信はねえぞ。」

「……そうか。」

「ハジメ」

 

するとユエが少し怒ったようにしてハジメを見る

 

「……あ〜。……お前俺たちと一緒に来ないか?」

「……へ?」

 

ハジメの言葉に俺はキョトンとしてしまう

 

「いや、お前も教会を信用してないって言っていたし一人で迷宮クリアできる腕はあるんだろ?魔力を使わないで魔法を使えるってかなり有効だし。」

「……あ〜。」

 

俺は少し考え

 

「まぁいいけどさ。ハナもシアさんに懐いているし。元々俺は迷宮攻略者を探すことだったしな。」

「えっ?シアお姉ちゃんと一緒に居られるの?」

「あぁ。」

「わ〜い。」

 

するとキャキャとはしゃぐハナにもう何度も和やかな雰囲気が流れる

しかしそれもつかの間だった

再度、ユエの魔法で滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎するものがいたからだ。

 

「グゥルルルル」

 

低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する……それはまさしく〝竜〟だった。

 

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