精霊術師の異世界旅 更新休止   作:孤独なバカ

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忠告

「街の不信感を煽らないってことで清水とティオの件は伏せておくのがいいと思うんだけど。」

 

俺はそういうと全員が頷く

車の中では深刻な話をしながら進んでいくんだが魔力駆動四輪が、行きよりもなお速い速度で帰り道を爆走しているのもあってハナが時々驚いて泣き出してしまうのをあやしながらであるが

その時、ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見した

 

「ん?」

「あっデビッドさんだ。」

「お、おい。先生!!」

 

すると先生はサンルーフから顔を出して必死に両手を振り、大声を出してデビッドに自分の存在を主張する。そうするとなると自然と隣にいる人を跨ぐことになるのは仕方がないことだけど

ガタン

と整備されていない道を走っているためガタンと何かを踏み外したような衝撃がする

 

「きゃ。」

「おっと。」

 

俺はしっかり受け止める。

 

「先生危険だから座っといてよ。ハジメ曰くこれ魔法を撃たれても効かないらしいし。先生非戦闘職だから本気で怪我するぞ。だいたい先生は」

 

俺は呆れたように説教を始める。いつもドジやらかすと説教をするのは俺なのでもうハジメは、あぁいつものかと俺を苦笑して見ている

結局説教はウルの町に着くまで続き、先生は「どっちが先生なんでしょう」といいながらウルの町で少し涙を流していた

 

 

俺は世界樹の果実を食べながらギルドに報告に向かう。

そして現状を伝えるとアワアワしながらギルドの支部長は街の役場へ直行する。

俺がようやく町の役場に到着した頃には既に場は騒然としていた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

そんな喧騒の中に、ウィルを迎えに来たハジメがやって来る。周囲の混乱などどこ吹く風だ。

 

「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。自分が保護対象だって自覚してくれ。報告が済んだなら、さっさとフューレンに向かうぞ」

 

そのハジメの言葉に、ウィル他、先生達も驚いたようにハジメを見た。他の、重鎮達は「誰だ、こいつ?」と、危急の話し合いに横槍を入れたハジメに不愉快そうな眼差しを向けた。

 

「な、何を言っているのですか? ハジメ殿。今は、危急の時なのですよ? まさか、この町を見捨てて行くつもりでは……」

「見捨てるもなにも、どの道、町は放棄して救援が来るまで避難するしかないだろ? 観光の町の防備なんてたかが知れているんだから……どうせ避難するなら、目的地がフューレンでも別にいいだろうが。ちょっと、人より早く避難するだけの話だ」

「そ、それは……そうかもしれませんが……でも、こんな大変な時に、自分だけ先に逃げるなんて出来ません! 私にも、手伝えることが何かあるはず。ハジメ殿も……」

 

〝ハジメ殿も協力して下さい〟そう続けようとしたウィルの言葉は、ハジメの冷めきった眼差しと凍てついた言葉に遮られた。

 

「……はっきり言わないと分からないのか? 俺の仕事はお前をフューレンに連れ帰ること。この町の事なんて知ったことじゃない。いいか? お前の意見なんぞ聞いてないんだ。どうしても付いて来ないというなら……手足を砕いて引き摺ってでも連れて行く」

「なっ、そ、そんな……」

「……はぁ。」

 

俺はため息を吐く。まぁハジメが言っていることは本当だ。

正直なところここの住人も町もどうでもいいことなんだよなぁ。

でも生きかたのところで俺は譲れないことがあるからこの防衛戦に参加するだけだし

俺の方を先生見ると心配なさそうだった。先生は決然とした表情でハジメを真っ直ぐな眼差しで見上げて一歩前に出る

 

「南雲君。君なら……君なら魔物の大群をどうにかできますか? いえ……できますよね?」

 

愛子先生は、どこか確信しているような声音で、ハジメなら魔物の大群をどうにかできる、すなわち、町を救うことができると断じた。その言葉に、周囲で様子を伺っている町の重鎮達が一斉に騒めく。

ハジメは、先生の強い眼差しを鬱陶しげに手で払う素振りを見せると、誤魔化すように否定する。

 

「いやいや、先生。無理に決まっているだろ? 見た感じ四万は超えているんだぞ? とてもとても……」

「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とかできるのではという質問に〝できない〟とは答えませんでした。それに〝こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない〟とも言ってましたよね? それは平原なら殲滅戦が可能という事ですよね? 違いますか?」

「……よく覚えてんな」

 

下手なこと言っちまったと顔を歪めるハジメ。先生は顔を逸らしたハジメに更に真剣な表情のまま頼みを伝える。

 

「南雲君。どうか力を貸してもらえませんか? このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

「……意外だな。あんたは生徒の事が最優先なのだと思っていた。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃなかったのか? なのに、見ず知らずの人々のために、その生徒に死地へ赴けと? その意志もないのに? まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」

 

ハジメの揶揄するような言葉に、しかし、先生は動じない。その表情は、ついさっきまでの悩みに沈んだ表情ではなく、決然とした〝先生〟の表情だった。だからハジメに一歩も引かない姿勢で向き直る。

 

「……元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから……なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが……」

 

先生が一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

「南雲君、あんなに穏やかだった君が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…南雲君には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」

 

ハジメは黙ったまま、先を促すように先生を見つめ返す。誰もが先生のお説教を聞いている。先生が純粋に心配しているのが分かっているからハジメもユエもシアも聞いているのであろう

 

「南雲君。君は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね? では、南雲君、君は、日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか? 君の邪魔をする者は皆排除しますか? そんな生き方が日本で出来ますか? 日本に帰った途端、生き方を変えられますか? 先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」

「……」

「南雲君、君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は……とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを……捨てないで下さい」

「……俺からも一ついいか?」

 

俺は手を挙げるとすると全員が俺の方を見る

 

「多分。お前にとってこの世界は監獄みたいなところなんだろうな。帰りたいのに縛ってくる鎖のように。人も世界も何もかもが嫌いで警戒して心を砕くようなことは極めて困難だろう。正直俺はお前が奈落の落ちた後のことは知らないし、誰に殺されかけたかは知りもしない。ただな。クラスメイトのことはどうでもいいと思っているとしてお前は白崎のことまで切り捨てるのか?」

「……なんでそこで白崎が。」

「今もお前のことを生きているって信じて未だに探しているんだってさ。」

 

するとハジメが目を見開く。俺があの夜の後先生から聞いた話だった

 

「お前のことを何か気にしていたし、何かと理由をつけてはお前に話そうとしていた。お前が落とされた原因はほとんど白崎で間違いはないだろう。実際嫉妬や妬みをお前は受けていたことは俺だって誰だって知っていることだ。でもお前も薄々気づいていたはずだろ?白崎がお前のことを構っていた理由も。」

「……」

 

すると黙り込むハジメ

 

「無言は肯定とみなすぞ。ぶっちゃけお前がユエさんやシアさんを大切にしていることはよく分かる。特別ってことも知っている。俺だって特別って言えるハナがいるし、もしハナに危険が及ぶようならたとえ神でも潰すしな。ただな。大切な存在がいるからこそ他人のことを考えなければならない。一人でなんかこの世界でも地球でも生きてはいられないからな。」

 

俺は一区切りをつけ

 

「だから自分が誇れる生きかたをしろ。ユエやシアだけではなくて地球にはお前の親父さんや母親だっているだろ?余裕はないかもしれないしたまには逃げてもいいと思う。でもなせめて両親が誇れるくらいに、自分が誇れる生きかたをしろ。それが最高の思い出話にもなるし、大切な誰かを見つけたのは、この世界で違いないのだから。」

 

俺はそういうと少し苦笑してしまう。

なんかオヤジくさいな。

そう苦笑してしまうとハジメは先生に向き合う

 

「……先生は、この先何があっても、俺の先生か?」

 

それは、言外に味方であり続けるのかと問うハジメ。

 

「当然です」

 

それに、一瞬の躊躇いもなく答える愛子。

 

「……俺がどんな決断をしても? それが、先生の望まない結果でも?」

「言ったはずです。先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。南雲君が先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」

「……それはケンもか。」

「今更だろ?お前の厨二時代からずっと親友だったんだ。それに俺はもう先生の望む結果にはできそうにないしな。」

「……」

 

すると驚いたように俺をみる。清水を殺すと俺は宣言しているようだった。

 

「流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいからな。話し合いはそっちでやってくれ」

「南雲君!」

 

ハジメの返答に顔をパァーと輝かせる愛子。そんな愛子にハジメは苦笑いする。

 

「俺の知る限り一番の〝先生〟と〝親友〟とからの忠告だ。まして、それがこいつ等や父さんや母さんの幸せにつながるかもってんなら……少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておくことにする」

「俺も手伝う。一応ついていく予定だし暴走しないようにしっかりと手綱を取らないとな。」

「俺は馬かよ。」

「似たようなものだろうが。」

 

軽口を言い合う俺とハジメに久しぶりに笑顔になっていた

それにシアとユエが俺になぜか嫉妬の目線を浮かべていたが俺は何もないように準備に明け暮れていた

紙とペンを持って。


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