ウルの町。北に山脈地帯、西にウルディア湖を持つ資源豊富なこの町は、現在、つい昨夜までは存在しなかった〝外壁〟に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。
「…錬成ってすげぇな。」
俺の土壁は約2mくらいなのでその倍は普通にあるのだろう
てか山から近いのに今まで外壁がないってある意味おかしいよな
町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事、魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着する事は知られている。
当然、住人はパニックになっていたのだが、世間で“豊穣の女神”と呼ばれている先生が静めた
まぁ当然だけどそれを使わせてもらう
「ハジメ。原稿覚えたか?」
「……お前に物を書かせたら敵はいないってことはわかった。」
「まぁペンは剣より強しっていうし情報操作はしっかりとしているからな。この後聖書としてもしっかり先生には活躍してもらわないと。」
「お前鬼畜すぎるだろ。」
「なお、愛ちゃん親衛隊協力のもとだからな。これ。」
「センセイェ。」
先生に同情するハジメ。まさか身内に裏切られているとは誰もが思わないだろう。
「南雲君、渋谷くん準備はどうですか? 何か、必要なものはありますか?」
「いや、問題ねぇよ、先生」
「同感。それなら居残り組に飯を思う存分食べさせてやってくれ。」
やはり振り返らずに簡潔に答えるハジメ。その態度に我慢しきれなかったようでデビッドが食ってかかる。
「おい、貴様。愛子が…自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……」
「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」
「うっ……承知した……」
しかし、先生に〝黙れ〟と言われるとシュンとした様子で口を閉じる。その姿は、まるで忠犬だ。亜人族でもないのに、犬耳と犬尻尾が幻視できる。今は、飼い主に怒られてシュンと垂れ下がっているようだ。
「南雲君。黒ローブの男のことですが……」
どうやら、それが本題のようだ。
「正体を確かめたいんだろ? 見つけても、殺さないでくれってか?」
「……はい。どうしても確かめなければなりません。その……南雲君には、無茶なことばかりを……」
「取り敢えず、連れて来てやる」
「え?」
「黒ローブを先生のもとへ。先生は先生の思う通りに……俺も、そうする」
「南雲君……ありがとうございます」
「……まぁ俺も手加減ができればなんとかするよ。俺広範囲魔法が得意だからちゃんと手加減ができるかわからないけど。」
「……はい。」
先生の話が終わったのを見計らって、今度は、ティオが前に進み出てハジメに声をかけた。
「ふむ、よいかな。妾もご主……ゴホンッ! お主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」
「? …………………………………………………………ティオか」
「お、お主、まさか妾の存在を忘れておったんじゃ……はぁはぁ、こういうのもあるのじゃな……」
「きめぇ。」
いつもだったら先生が怒るのだがさすがに先生も苦笑しながら俺に注意しない限り同じことを考えているのだろう
「んっ、んっ! えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」
「ああ、そうだ」
「うむ、頼みというのはそれでな……妾も同行させてほし…」
「断る」
「……ハァハァ。よ、予想通りの即答。流石、ご主……コホンッ! もちろん、タダでとは言わん! これよりお主を〝ご主人様〟と呼び、妾の全てを捧げよう! 身も心も全てじゃ! どうzy」
「帰れ。むしろ土に還れ」
「お前それさらに喜ばせているぞ。」
俺の言葉に全員が頷く。なおハナは今日はとある事情のため今はここにはいないので安心だ
「そんな……酷いのじゃ……妾をこんな体にしたのはご主人様じゃろうに……責任とって欲しいのじゃ!」
全員の視線が「えっ!?」というようにハジメを見る。流石に、とんでもない濡れ衣を着せられそうなのに放置する訳にもいかず、きっちり向き直ると青筋を浮かべながらティオを睨むハジメ。どういうことかと視線で問う。
「あぅ、またそんな汚物を見るような目で……ハァハァ……ごくりっ……その、ほら、妾強いじゃろ?」
ハジメの視線にまた体を震わせながら、ハジメの奴隷宣言という突飛な発想にたどり着いた思考過程を説明し始めるティオ。
「里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃ」
近くにティオが竜人族と知らない護衛騎士達がいるので、その辺りを省略してポツポツと語るティオ。
「それがじゃ、ご主人様と戦って、初めてボッコボッコにされた挙句、組み伏せられ、痛みと敗北を一度に味わったのじゃ。そう、あの体の芯まで響く拳! 嫌らしいところばかり責める衝撃! 体中が痛みで満たされて……ハァハァ」
「……つまり、ハジメが新しい扉を開いちゃった?」
「その通りじゃ! 妾の体はもう、ご主人様なしではダメなのじゃ!」
「「……きめぇ」」
俺とユエの意見が一致する。なんだか本当に気が合いそうなんだよなぁ
「それにのう……」
ティオが、突然、今までの変態じみた様子とは異なり、両手をムッチリした自分のお尻に当てて恥じらうようにモジモジし始める。
「……妾の初めても奪われてしもうたし」
その言葉に、全員の顔がバッと音を立ててハジメに向けられた。ハジメは頬を引き攣らせながら「そんな事していない」と首を振る。
「妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの……敗北して、組み伏せられて……初めてじゃったのに……いきなりお尻でなんて……しかもあんなに激しく……もうお嫁に行けないのじゃ……じゃからご主人様よ。責任とって欲しいのじゃ」
お尻を抑えながら潤んだ瞳をハジメに向けるティオ。騎士達が、「こいつやっぱり唯の犯罪者だ!」という目を向けつつも、「いきなり尻を襲った」という話に戦慄の表情を浮かべる。俺達は事の真相を知っているにもかかわらず、責めるような目でハジメを睨んでいた。両隣のユエとシアですら、「あれはちょっと」という表情で視線を逸らしている。迫り来る大群を前に、ハジメは四面楚歌の状況に追い込まれた。
「……ケン。」
「諦めたら。ど変態は多分本当の姿になってもまとわりつくぞ。」
「お、お前、色々やる事あるだろ? その為に、里を出てきたって言ってたじゃねぇか」
苦し紛れに〝竜人族の調査〟とやらはどうしたと返すハジメ。
「うむ。問題ない。ご主人様の傍にいる方が絶対効率いいからの。まさに、一石二鳥じゃ……ほら、旅中では色々あるじゃろ? イラっとしたときは妾で発散していいんじゃよ? ちょっと強めでもいいんじゃよ? ご主人様にとっていい事づくしじゃろ?」
「変態が傍にいる時点でデメリットしかねぇよ。」
その通りだけど、もう逃げ場がないことにハジメは気づいているだろうか
……来たよ
精霊の声が聞こえる。どうやらこっちも間に合ったようだ
「ハジメ。」
「! ……来たか」
すると北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。眼を細めて遠くを見る素振りを見せた。
「……どれくらいだ?」
「空を含めて6万強いるんじゃないか?複数の魔物の混成だ」
「ん〜まぁ。そのくらいならなんとかなるだろ。首謀者は?」
「空にいるからな。思う存分やってもよさそうだぞ。」
それなら好都合だな
魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる愛子先生。不安そうに顔を見合わせる。
「先生。」
俺は少し笑って優しい声で話す
「大丈夫だから。」
その言葉に俺を見る
「……信じてまってろ。」
俺は少し肩を回す。さてと戦闘準備だ。
「わかりました……君たちをここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」
「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ……そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」
竜人族は、教会などから半端者と呼ばれるように、亜人族に分類されながらも、魔物と同様に魔力を直接操ることができる。その為、天才であるユエのように全属性無詠唱無魔法陣というわけにはいかないが、適性のある属性に関しては、ユエと同様に無詠唱で行使できるらしい。
自己主張の激しい胸を殊更強調しながら胸を張るティオに、ハジメは無言で魔晶石の指輪を投げてよこした。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると大きく目を見開き、ハジメに震える声と潤む瞳を向けた。
「ご主人様……戦いの前にプロポーズとは……妾、もちろん、返事は……」
「ちげぇよ。貸してやるから、せいぜい砲台の役目を果たせって意味だ。あとで絶対に返せよ。ってか今の、どっかの誰かさんとボケが被ってなかったか?」
「……なるほど、これが黒歴史」
「お前やったことがあるのかよ。ちょっと仕込んでくるからハジメはあの演説やってろ。」
「あぁ。」
俺は城壁の下に降りると精霊の里に空間を広げる
すると光の渦が俺を包み込むと紫とハナが出て来た
「パパ呼んできたよ。」
「サンキュー。ハナ。」
俺はハナを抱っこする
「また大掛りな作戦ね。でもあなたの恩人が危険な目に合うと思うけどいいの?」
「いいんだよ。その時は俺たちが助ければいいし、少しの間教会からの抑止力になってくれたら。」
俺は少し息を吐き
「それに紫もそっちの方が都合がいいだろ?」
すると紫は俺の方を見る。紫の魂胆に気づけないほど俺はバカじゃない。
「……はぁ。何もかもお見通しってわけね。」
「お前の性格は分かっているからな。でもこれでしばらくは人間サイドからは狙われないしあの村は俺もまた帰りたいからな。」
「いつでも待っているわよ。できればずっと住んでもらっても。」
「……紫。」
俺は頭を軽く叩く
「分かっているんだろ。」
「……」
「いつかは戻るし、必ず俺は精霊の里には戻る。でも、せめてこいつらとは一緒に過ごしたいんだよ。」
「……えぇ。でも忘れてはだめよ。」
紫は一言だけ呟き
「あなたはもうもう死なないってことをきちんと覚えておいて。」
「……あぁ。」
俺はそういうと息を吐く
そして発砲音が聞こえるまで俺はただ呆然と立ち尽くすのだった。